(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、系統負荷(電力負荷)のピークカットを目的として、デマンドレスポンスシステム(DR:Demand Response、以下DR制御と称する。)の普及が進んでいる。DR制御では、電力需給の逼迫が予想される場合にDR信号(需要家用DR発動信号)を需要家に送信し、DR信号を受信した需要家側において電力消費を抑制することにより系統負荷の抑制を図っている(例えば特許文献1)。
【0003】
電気の実量制契約においては、当月を含む過去1年間の最大デマンド(30分毎の計量値)が契約電力となり、この値に基づいて電気の基本料金が算定される。このため、需要家側では、デマンド管理目標値を可能な限り低く設定し、この値を超過しないよう監視・制御することが重要であり、事前にピークカットやピークシフトの対策を計画できるよう、数日先のデマンドをデマンド時限単位で予測することが望まれる。
【0004】
しかし、将来(未来)のデマンドの予測情報は不確実性を伴う。このため、予測情報に基づいてデマンド制御をするためには、その予測情報の確実性(または不確実性)がどの程度であるかを知ることが有益である。例えば特許文献2では、気象予測と需要予測モデル自体の不確かさによる誤差範囲を含めて電力需要を予測する方法(ニューラルネット)が開示されている。また特許文献3では、気象予報の不確実性を考慮した確率分布を算出している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここでデマンド制御を行う際には、単なるデマンド予測値だけではなく、デマンド予測値がデマンドの管理目標値を超過する確率も重要な指針となる。しかしながら、特許文献2では、過去の予測結果に基づく最大の誤差幅を示しているに過ぎず、デマンド予測値が管理目標値を超過する確率を定量的に示すものではない。また特許文献3では、気象以外の要因によるデマンド変動に関わる不確実性が考慮されていなため、不確実性における信頼性が不足している。
【0007】
さらに近年、高解像度の気象予報メッシュデータ(狭い地域ごとの気象予報データ)が提供されるようになったが、ほとんどのメッシュ(地域)では実績値が存在していない。このような場合において、過去の気象予報の予測精度の評価を行うことはできない。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、デマンド予測値の信頼性を高めることができ、更にデマンド予測値が管理目標値を超過する確率を提示することにより、予測情報に基づくデマンド制御の意思決定に貢献することが可能なデマンド管理システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかるデマンド管理システムの代表的な構成は、過去の気象予報値を蓄積した気象予報値データベースと、デマンド実績値を蓄積したデマンド実績値データベースと、未来の気象予報値を取得する気象予報値取得部と、デマンド予測値と管理値超過確率を算出する確率予測部とを備え、確率予測部は、予測する時点の気象予報値を参照し、当該時刻に対応する過去の気象予報値とデマンド実績値からデマンド予測モデルを構築して、デマンド予測値と管理値超過確率を算出することを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、点予測に基づくデマンド予測値と併せて、区間予測に基づく管理値超過確率、すなわちデマンド管理目標値を実際のデマンドが超過する確率が算出される。これにより、予測情報に基づくデマンド制御の意思決定に貢献することが可能となる。また気象予報データのみを用いて気象の実績値を用いないことにより、気象予報の不確実性も包含させることができると共に、実測データが存在しない地域であってもデマンド予測モデルを構築することができる。
【0011】
上記デマンド実績値データベースは、ピーク抑制対策をとった場合を除外したデマンド実績値を蓄積されるとよい。例えば、気温が高いとデマンドが冷房負荷で高くなる関係にあるとき(夏季)、ピーク抑制対策を取った場合には、気温が高いのにさほど高くないデマンド実績値が残される。このようなデータを以後の予測時に使用すると、予報の気温が高くてもデマンド予測値が低く出てしまうおそれがある。
【0012】
そこで上記構成のようにデマンド制御としてピーク抑制対策をとった場合のデマンド実績値を除外することにより、気温とデマンドの関係の不整合を回避することができる。したがって、より正確なデマンド予測値と管理値超過確率を算出することが可能となる。
【0013】
一般に、気象予報の精度は、対象となる時点が将来になるほど低下する。すなわち、将来になるほど不確実性が増大する。そこで、上記確率予測部は、デマンドを予測する各時点について、時点毎に対応した気象予報値を用いたデマンド予測モデルを構築する。このように複数の時点について個別のデマンド予測モデルを構築することで、その時点での気象予報の不確実性を包含させたデマンド予測値と管理値超過確率を算出することが可能となる。
【0014】
また、複数の時点について個別の予測モデルを構築することで、時点毎の予報精度に応じて異なる気象要素の予報値を用いることも可能となる。例えば、確率予測部は、予測する時点が所定時間以内である場合は、気温と湿度の両方を気象予報値として用い、予測する時点が所定時間より後である場合は、気温のみを気象予報値として用いるとよい。デマンドは気温(温度)以外の気象値、特に湿度にも大きな影響を受ける。
【0015】
しかし一般に、気象予報は要素ごとに精度が異なり、湿度は気温に比べて、将来になるほど精度が低下する度合いが大きい。そこで、上記のように所定時間以内は気温と湿度の両方を用いることにより、デマンド予測値の精度を高めることができる。また、所定時間より後は気温のみを用いることによりデマンド予測値の精度の低下を防ぐことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、デマンド予測値の信頼性を高めることができ、更にデマンド予測値が管理目標値を超過する確率を提示することにより、予測情報に基づくデマンド制御の意思決定に貢献するが可能なデマンド管理システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
図1は、本実施形態にかかるデマンド管理システムを実行するデマンド管理装置を説明する図である。なお、本実施形態では、
図1に示すデマンド管理装置(以下、管理装置100と称する)を用いてデマンド管理システムを実行する構成を例示するが、これに限定するものではなく、他の構成の装置を用いて実行することも当然にして可能である。
【0020】
図1に示すように、管理装置100は、制御部110、気象予報値取得部112、気象予報値データベース114、デマンド実績取得部116、デマンド実績値データベース118を含んで構成される。制御部110は、中央処理装置(CPU)を含む半導体集積回路(不図示)により構成され、当該管理装置100の全体の動作を管理および制御する。また本実施形態では、制御部110は、後述するようにデマンド予測値と管理値超過確率を算出する確率予測部110aとして機能する。
【0021】
気象予報値取得部112は、サーバ(不図示)から未来の気象予報値を取得する。取得した気象予報値は、気象予報値データベース114に随時蓄積される。気象予報値データベース114は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、上述した気象予報値を蓄積する。このように、取得された気象予報値が記憶されることにより、気象予報値データベース114には、過去の気象予報値が蓄積されることとなる。
【0022】
デマンド実績値取得部は、当該デマンド管理システムによってデマンド制御される電気機器(不図示)のデマンド実績値を取得する。デマンド実績値を取得するタイミングは、気象予報値が存在する時刻に対応させることが好ましい。デマンド実績値データベース118は、上述したデマンド実績値が随時蓄積される。すなわちデマンド実績値データベース118には、「過去のデマンド実績値」が記憶されている。デマンド実績値データベース118は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成されている。
【0023】
図2は、
図1に示す管理装置100の動作を説明する図である。以下、管理装置100の動作について詳述しながら、本実施形態のデマンド管理システムについても併せて説明する。
図2に示すように、本実施形態のデマンド管理システムでは、管理装置100の制御部110はまず、気象予報値取得部112によって未来の気象予報値、すなわちデマンドを予測したい地域・時刻の「未来の気象予報値」をサーバから取得する(ステップS202)。
【0024】
次に制御部110は、気象予報値データベース114を参照し、当該時刻に対応する過去の気象予報値を抽出する(ステップS204)。続いて制御部110は、デマンド実績値データベース118を参照し、その過去の気象予報値に対応する過去のデマンド実績値を抽出する(ステップS206)。
【0025】
具体的には、例えば予測する時点(予測を行う時点)が7月20日の12時であり、予測したい時点が7月21日の12時であった場合(24時間後)を例示すると、ステップS202では、制御部110は、7月20日12時の時点における「7月21日12時の気象予報値」をサーバから取得する。そして、制御部110は、1年間分の当該時刻(12時)の過去の気象予報値(それぞれの当該時刻の24時間前に出されたもの)と、1年間分の当該時刻のデマンド実績値を抽出する。
【0026】
図3は、デマンド予測モデルを例示する図である。本実施形態のデマンド管理システムの特徴として、管理装置の制御部110は確率予測部110aとして機能し、ステップS204〜ステップS206において抽出した過去の気象予報値、および過去のデマンド実績を参照し、デマンド予測モデルを構築する(ステップS208)。
【0027】
デマンド予測モデルを構築する際には、確率予測部110aはまず、予測したい時点の時刻である12時の過去の気象予報値(
図3では気温を例示)と、それに対応する過去のデマンド実績値をプロットする。そして、
図3に示すように、過去の気象予報値および過去のデマンド実績値をプロットすることにより、それらの近似関数がデマンド予測モデルとして構築される。
【0028】
デマンド予測モデルについて説明する。例えば1日を30分毎のデマンド時限に分け、デマンド時限毎に過去1年分のデマンド実績値と当該地点に近い気象予報値から重回帰モデルを作成し、
図3の下部に示す回帰式において、残差εの平方和が最小となる定数項E0、回帰係数Cs、Cw、気温分岐点T*s、T*wの組み合わせを求める。
【0029】
なお、上記の気象予報値としては、予測する時点が所定時間以内(例えば24時間以内)である場合は、気温と湿度を用い、予測する時点が所定時間より後である場合は気温のみを用いるとよい。デマンドは気温以外の気象値、特に湿度にも大きな影響を受ける。したがって気温と湿度の両方を用いることにより、気温のみを用いる場合よりも正確なデマンド予測をすることができる。ただし、湿度は気温に比べて、将来になるほど予報精度が低下する度合いが大きい。このため、所定時間より後、すなわち湿度の予報精度が低下する可能性が大きい場合には気温のみを用いることにより、デマンド予測値の精度を高めることが可能となる。
【0030】
またデマンド予測モデルを構築する際の過去の気象予報値および過去のデマンド実績値のプロット数(サンプル数)としては、所定期間、例えば1年間分の12時の過去の気象予報値およびそのときのデマンド実績値を例示することができる。ただし、これに限定するものではなく、プロット数は適宜変更することが可能である。例えば2年間分以上のデータを用いたり、季節で区切って3ヶ月程度にしたり、数年間の同じ季節のデータを用いたりすることができる。
【0031】
次に確率予測部110aは、デマンド予測値と管理値超過確率を算出する(ステップS210)。
図4は、デマンド予測値を例示する図であり、
図5は、管理値超過確率を例示する図である。なお、
図4および
図5では、7月21日の10時〜7月24日の0時までのデマンド予測値および管理超過確率を算出した場合を例示している。
【0032】
上述したように1日を30分毎のデマンド時限に分けるのであるが、時限毎に気象予測の精度が異なることを踏まえ、すべてのデマンド時限について個別にデマンド予測モデルを構築し、デマンド予測値と管理値超過確率を算出する。
【0033】
具体例として、現在から48時間分のデマンド予想値と管理値超過確率を算出する。気温Tとして、30分後から48時間後までの30分毎の過去の気象予報値を用いて、96種類のデマンド予測モデルを作成する。「30分後の気象予報値」とは、デマンド実績値の30分前に出された気象予報値である。同様に、「48時間後の気象予報値」とは、デマンド実績値の48時間前に出された気象予報値である。
図3に示したグラフの横軸がそれぞれのデマンド時限に対応する気象予報値になる。1日は30分単位で48デマンド時限に分けられるから、重回帰モデルの数は96(48デマンド時限×2日)になる。
【0034】
そして、確率予測部110aは、3種類のデマンド予測モデルにより、現在から48時間後までの間のデマンド予測値および管理超過確率を算出する。
【0035】
デマンドが管理値を超過する確率、すなわち管理値超過確率は、回帰による予測の信頼区間の計算に基づいて求めることができる。式1は、t分布に基づく目的変数のp%信頼区間の計算式である。信頼区間の上限値が管理値と一致するようなpを求めれば、管理値超過確率は(1−0.01p)/2となる。
【数1】
【0036】
図4では、デマンド予測値を、管理値である契約電力に近づく値を高レベルとして、レベル3〜レベル0までに段階分けし、レベルごとに異なるハッチングで表示している。そして
図5では、デマンド予測値が管理値(契約電力)を超過する確率である管理値超過確率を時系列で示している。これにより、需要家は、
図5に示すグラフを見るだけで、どの時間帯にデマンドが管理値を超えてしまう可能性が高いかを一目で判別することが可能となる。したがって、予測情報に基づく意思決定の最適化を図ることが可能となる。
【0037】
また本実施形態のようにレベル分けをした場合、管理装置100の制御部110は、各レベルに応じて警報を発令してもよい。その際、デマンドや管理値超過確率を所定の目標値やレベルまで低下させるためのデマンド抑制量を提示してもよいし、デマンド抑制を達成するための施策(メニュー)を提示することも可能である。
【0038】
なお、デマンド実績値データベース118は、ピーク抑制対策をとった場合を除外したデマンド実績値を蓄積するとよい。これにより、ピーク抑制対策すなわちデマンド制御を行った場合と行わない場合のデマンド実績値の混在を防ぐことができ、より正確なデマンド予測値と管理値超過確率を算出することが可能となる。
【0039】
ただし、ピーク抑制対策をとった場合ととらなかった場合、すなわちデマンド制御を行った場合と行わなかった場合のデマンド実績値を区別して保存可能な場合には、この限りではない。それらのデータを区別して保存可能な場合には、ピーク抑制対策をとらなかった場合のデマンド実績値をデマンド予測モデルのパラメータの更新に利用し、ピーク抑制対策をとった場合のデマンド実績値を、当該デマンド管理システムの導入効果の評価に利用することが可能となる。
【0040】
また当該デマンド管理システムの運用開始時には、対象地点の過去のメッシュ気象予報データ(気象予報値)が利用できないことがある。このような場合、利用可能な最寄の地点の予報データを用いてデマンド予測モデルを作成しておくとよい。そして、運用開始後には、過去1年間のデマンド実績値と気象予報値を気象予報値データベース114およびデマンド実績値データベース118にそれぞれ蓄積し、デマンド予測モデルのパラメータを更新する。
【0041】
更に、気象予報値データベース114には、最寄地点の気象予報値と対象メッシュの気象予報値の両方を蓄積していき、各セットを用いて2つのデマンド予測モデル(回帰モデル)を作成してもよい。具体的には、1つめのデマンド予測モデルでは、引き続き最寄地点の気象予報値を置換してパラメータを更新し、デマンド予測モデルでは、対象メッシュの気象予報値を蓄積して新たな回帰モデルを作成する。これにより、運用開始時は1つめのデマンド予測モデルの計算値を予測値とし、両モデルの精度を比較しながら予測値を採用するモデルを選択し、1年後までにモデル2に乗り換えるという運用が可能となる。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。