(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6672946
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】バイオマス処理装置、および、バイオマス処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 5/00 20060101AFI20200316BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20200316BHJP
A61L 11/00 20060101ALN20200316BHJP
【FI】
B09B5/00 ZZAB
B09B3/00 303Z
!A61L11/00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-63950(P2016-63950)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-176925(P2017-176925A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プリヤント デディ
(72)【発明者】
【氏名】河西 英一
【審査官】
中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−096396(JP,A)
【文献】
特開2005−022371(JP,A)
【文献】
特開平05−269706(JP,A)
【文献】
特開2002−018815(JP,A)
【文献】
特開平09−145247(JP,A)
【文献】
特開2005−081224(JP,A)
【文献】
特開2001−329266(JP,A)
【文献】
特開2010−155913(JP,A)
【文献】
特開平10−191958(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/190235(WO,A1)
【文献】
特開2012−031360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K1/00−9/00、
B09B1/00−5/00、
B09C1/00−1/10、
C02F11/00−11/20、
C10L5/00−7/04、
C10L9/00−11/08、
A01N1/00−65/48、
A01P1/00−23/00、
A61L2/00−2/28、
A61L11/00−12/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のリグノセルロース系バイオマスを、150℃以上200℃未満の予め定められた温度に加熱する加熱炉と、
前記加熱炉によって生成された揮発ガスを第2のリグノセルロース系バイオマスに接触させる接触部と、
を備えたことを特徴とするバイオマス処理装置。
【請求項2】
前記加熱炉は、前記第1のリグノセルロース系バイオマスを、前記予め定められた温度に30分以上維持することを特徴とする請求項1に記載のバイオマス処理装置。
【請求項3】
前記加熱炉は、前記第1のリグノセルロース系バイオマスを空気中で加熱することを特徴とする請求項1または2に記載のバイオマス処理装置。
【請求項4】
第1のリグノセルロース系バイオマスを、150℃以上200℃未満の予め定められた温度に加熱して揮発ガスを生成する工程と、
前記揮発ガスを第2のリグノセルロース系バイオマスに接触させる工程と、
を含むことを特徴とするバイオマス処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス処理装置、および、バイオマス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーム椰子からパーム油を生産した結果生じる空果房(EFB:Empty Fruit Bunch)、パーム椰子殻(PKS:Palm Kernel Shell)等の草本系バイオマスや、木材、おがくず、樹皮等の木質系バイオマスといったリグノセルロース系のバイオマスを燃料として有効利用する技術が開発されている。ここで、バイオマスが発生する場所とバイオマスを利用する場所とが離れていることがあるため、バイオマスを貯蔵して運搬する必要がある。
【0003】
しかし、上記リグノセルロース系のバイオマスには、微生物が付着しているため、貯蔵している間に微生物が増殖し、例えば、バイオマス中の有機物が分解されて、バイオマスが劣化(燃料成分の低減)してしまったり、バイオマスが自然発火してしまったりするという不具合が生じる。
【0004】
そこで、バイオマスに水蒸気を供給して、バイオマスを殺菌する技術が開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−31360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1の技術では、水蒸気を生成するためのボイラが必要となり、設備コストやランニングコストが高くなってしまう。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、バイオマスを低コストで殺菌することが可能なバイオマス処理装置、および、バイオマス処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のバイオマス処理装置は、第1のリグノセルロース系バイオマスを
、150℃以上200℃未満の予め定められた温度に加熱する加熱炉と、前記加熱炉によって生成された揮発ガスを第2のリグノセルロース系バイオマスに接触させる接触部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、前記加熱炉は、前記第1の
リグノセルロース系バイオマスを、前記予め定められた温度に30分以上維持するとしてもよい。
【0011】
また、前記加熱炉は、前記第1の
リグノセルロース系バイオマスを空気中で加熱するとしてもよい。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のバイオマス処理方法は、第1のリグノセルロース系バイオマスを
、150℃以上200℃未満の予め定められた温度に加熱して揮発ガスを生成する工程と、前記揮発ガスを第2のリグノセルロース系バイオマスに接触させる工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バイオマスを低コストで殺菌することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】バイオマス処理装置の概略図を示す図である。
【
図2】バイオマス処理方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】比較例と、実施例とのガス分析の結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
(バイオマス処理装置100)
本実施形態では、バイオマスとして、リグノセルロース系のバイオマスのうち、EFB、PKS、麦わら、稲わら等の農業廃棄物由来のバイオマスを例に挙げて説明する。
【0017】
図1は、バイオマス処理装置100の概略図を示す図である。なお、
図1中、バイオマスA、Aa、B、Baを黒い丸で示し、バイオマスA、Aa、B、Baの流れを実線の矢印で、高温ガスHG、揮発ガスVG等ガスの流れを破線の矢印で示す。
【0018】
図1に示すように、バイオマス処理装置100は、加熱炉110と、接触部120とを含んで構成される。以下、加熱炉110、接触部120について詳述する。
【0019】
(加熱炉110)
加熱炉110は、加熱チャンバ112と、加熱チャンバ112内に配された搬送部114(
図1中、114a〜114cで示す)とを含んで構成される。
【0020】
加熱チャンバ112には、バイオマス投入口112aが設けられており、バイオマス投入口112aを介してバイオマスA(第1のバイオマス)が投入される。また、加熱チャンバ112には、ガス供給口112bが設けられており、ガス供給口112bを介して150℃以上200℃未満の高温ガスHGが供給される。したがって、加熱チャンバ112内は、150℃以上200℃未満に維持されることとなる。
【0021】
搬送部114a〜114cは、鉛直方向の位置を異にして加熱チャンバ112内に設けられており、搬送部114aの下方に搬送部114bが、搬送部114bの下方に搬送部114cが設けられる。バイオマス投入口112aを介して、加熱チャンバ112内に投入されたバイオマスAは、搬送部114aによって水平方向に搬送され、搬送部114aの端部に到達すると、搬送部114aから搬送部114bに落下搬送される。搬送部114bに落下搬送されたバイオマスAは、搬送部114bによって水平方向に搬送され、搬送部114bの端部に到達すると、搬送部114bから搬送部114cに落下搬送される。搬送部114cに落下搬送されたバイオマスAは、搬送部114cによって水平方向に搬送され、搬送部114cの端部に到達すると、バイオマス排出口112dを通じて外部に落下搬送される。
【0022】
したがって、バイオマスAは、搬送部114a〜114cによる搬送過程で150℃以上200℃未満の温度環境下に曝され加熱される。これにより、バイオマスAに含まれる揮発性物質(タール等)が揮発して揮発ガスVGが生成されることとなる。
【0023】
なお、バイオマスAの加熱温度を150℃未満とした場合、揮発性物質の沸点未満であるため、揮発性物質が効率よく揮発せず、揮発ガスVGの生成量が低減してしまう。また、バイオマスAの加熱温度を200℃以上とすると、バイオマスAが発火してしまう。このため、バイオマスAの加熱温度は、150℃以上200℃未満が好ましい。
【0024】
また、ガス供給口112bを介して、加熱チャンバ112内に供給される高温ガスHGは、例えば、窒素や空気、燃焼排ガスであり、好ましくは空気、または、燃焼排ガスである。高温ガスHGを空気、または、燃焼排ガスとすることで低コストに高温ガスHGを生成することができる。
【0025】
また、搬送部114は、バイオマス投入口112aからバイオマス排出口112dまでバイオマスAを搬送する搬送時間が30分以上1時間以下となるように搬送速度が設定される。すなわち、搬送部114が、バイオマスAを150℃以上200℃未満の環境下に維持する時間(加熱時間)は、30分以上1時間以下が好ましい。バイオマスAの加熱時間が長くなると、揮発ガスVGの生成量が増加するが、1時間を超えるとほとんど生成されなくなる。したがって、バイオマスAの加熱時間を30分以上とすることで、揮発ガスVGの生成量を十分に確保することができ、加熱時間を1時間以下とすることにより、揮発ガスVGの生成時間を適正に保つことが可能となる。
【0026】
こうして生成された揮発ガスVGは、ガス排出口112cを介して、後述する接触部120に送出されることとなる。また、揮発性物質が取り除かれたバイオマスAaは、バイオマス排出口112dを介して外部に排出され、ペレット化されて貯蔵されたり、高温ガスHGを生成するための燃料として利用されたりする。
【0027】
(接触部120)
接触部120は、接触チャンバ122と、搬送部124とを含んで構成される。
【0028】
接触チャンバ122には、ガス供給口122aが形成されており、揮発ガス供給管130を介して加熱チャンバ112のガス排出口112cと接続されている。したがって、加熱炉110で生成された揮発ガスVGは、ガス供給口122aを介して接触チャンバ122に供給されることとなる。
【0029】
搬送部124は、接触チャンバ122内にバイオマスB(第2のバイオマス)を搬入するとともに、接触チャンバ122からバイオマスBaを搬出する。したがって、バイオマスBは、搬送部124による搬送過程で揮発ガスVGと接触することとなる。
【0030】
そうすると、揮発ガスVGに含まれるフェノール類等によって、バイオマスBが殺菌される。なお、接触チャンバ122は、20℃〜50℃に維持されるとよい。これにより、揮発ガスVGによるバイオマスBの殺菌効率を向上させることができる。
【0031】
こうして、揮発ガスVGによって殺菌されたバイオマスBaは、搬送部124によって外部に排出され、貯蔵されることとなる。また、接触チャンバ122を通過した揮発ガスVGは、ガス排出口122bを介して外部に排出され、150℃以上200℃未満に加熱された後、加熱炉110のガス供給口112bに導かれる。これにより、揮発ガスVGを再利用することが可能となる。
【0032】
なお、搬送部124は、バイオマスBが接触チャンバ122内に搬入されてから、接触チャンバ122外に搬出されるまでの搬送時間が30分以上1時間30分以下となるように搬送速度が設定される。つまり、バイオマスBと揮発ガスVGとの接触時間が30分以上1時間30分以下となるように搬送速度が設定される。
【0033】
(バイオマス処理方法)
続いて、バイオマス処理装置100を用いたバイオマス処理方法について説明する。
図2は、バイオマス処理方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【0034】
まず、加熱炉110は、バイオマスAを150℃以上200℃未満に加熱する(加熱工程:S110)。そして、接触部120は、加熱工程S110で生成された揮発ガスVGをバイオマスBに接触させる(接触工程:S120)。
【0035】
以上説明したように、本実施形態にかかるバイオマス処理装置100、および、これを用いたバイオマス処理方法によれば、バイオマスAを加熱することで得られた揮発ガスVGをバイオマスBに接触させるだけといった簡易な処理でバイオマスBを殺菌することができる。したがって、バイオマスBの殺菌を低コストで行うことが可能となる。
【0036】
なお、加熱炉110に投入するバイオマスAは、接触部120に搬入するバイオマスBと比較して15倍以上(質量換算)が好ましい。
【0037】
(実施例)
未処理のバイオマスを用いた比較例と、揮発ガスVGに接触させたバイオマスを用いた実施例とで、微生物培養試験を行った。微生物培養試験は、バイオマスと水とを1:1で混合させて密閉容器に収容し、30℃で10日間インキュベートすることで実施した。そして、試験開始直後(0日)、3日経過後、10日経過後のヘッドペース(密閉容器の気相部分)中のガス分析を行った。なお、ここでは、バイオマスとしてEFBを用いた。
【0038】
図3は、比較例と、実施例とのガス分析の結果を説明する図であり、
図3(a)は比較例の結果を、
図3(b)は実施例の結果を示す。なお、
図3中、酸素を丸で、二酸化炭素を三角で、水素を四角で示す。
【0039】
図3(a)に示すように、比較例において、酸素の濃度は、試験開始直後(空気中の酸素濃度:21%)から減少し、3日経過後には0%になった。また、二酸化炭素の濃度は、試験開始直後から増加し、4日経過後にピークに達し、その後、徐々に減少した。水素の濃度は、試験開始直後から増加し、3日経過後には、4%、10日経過後には5%に到達することが分かった。
【0040】
これにより、未処理のバイオマスは、水と混合させて、30℃(室温)に放置すると、微生物が増加することが確認された。
【0041】
一方、
図3(b)に示すように、実施例において、酸素の濃度は、試験開始直後からわずかに減少するものの、10日経過後においても20%を維持している。また、二酸化炭素の濃度は、試験開始直後からほとんど増加せず、10日経過後においても2%程度増加したにすぎない。水素の濃度は、10日経過後において0%と発生しないことが分かった。これにより、バイオマス由来の揮発ガスVGをバイオマスに接触させることにより、殺菌できることが確認された。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0043】
例えば、上記実施形態において、加熱炉110に投入するバイオマスAと、接触部120に搬入するバイオマスBとの種類が同じである場合を例に挙げて説明した。しかし、加熱炉110に投入するバイオマスAと、接触部120に搬入するバイオマスBとの種類を異ならせてもよい。しかし、少なくとも加熱炉110に投入するバイオマスAは、農業廃棄物由来のバイオマスが好ましい。農業廃棄物由来のバイオマスを加熱することで、相対的に多量に揮発ガスVGを得ることができる。
【0044】
また、上記実施形態において、加熱炉110に投入するバイオマスAと、接触部120に搬入するバイオマスBとが別である場合を例に挙げて説明した。しかし、加熱炉110から排出されたバイオマスAa(揮発性物質が取り除かれたバイオマス)を、接触部120に搬入してもよい。
【0045】
また、上記実施形態において、加熱炉110が150℃以上200℃未満にバイオマスAを加熱する構成を例に挙げて説明した。しかし、加熱温度に限定はなく、加熱炉110は、揮発ガスVGを効率よく生成する温度にバイオマスを加熱すればよい。
【0046】
また、上記実施形態において、加熱炉110がバイオマスを加熱する加熱時間を、30分以上1時間以下とする構成を例に挙げて説明した。しかし、加熱時間に限定はなく、加熱炉110は、バイオマスAを効率よく殺菌できる時間を加熱時間としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、バイオマス処理装置、および、バイオマス処理方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
A バイオマス(第1のバイオマス)
B バイオマス(第2のバイオマス)
VG 揮発ガス
100 バイオマス処理装置
110 加熱炉
120 接触部