(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
地表面の下方に硬質基盤を有する地盤の卓越振動数を推定する地盤推定方法であって、水平x方向の常時微動と、前記水平x方向と直交する水平y方向の常時微動と、鉛直方向の常時微動とを、前記水平x方向及び前記水平y方向を水平面内で回転させた複数の角度位置で測定する常時微動測定工程と、前記複数の角度位置毎に、前記水平x方向の常時微動、前記水平y方向の常時微動、前記鉛直方向の常時微動からそれぞれスペクトルHx、スペクトルHy、スペクトルVを算出するスペクトル算出工程と、各々の角度位置における前記スペクトルHxと前記スペクトルHy、又は、Hx/Vスペクトル比とHy/Vスペクトル比から形状が最も似ている角度位置を求め、当該角度位置の前記スペクトルHx、前記スペクトルHy、前記スペクトルVに基づいて前記地盤の卓越振動数を推定する卓越振動数推定工程と、を有することを特徴とする地盤推定方法が明らかとなる。
このような地盤推定方法によれば、基盤の傾きに関わらず、地盤の特性(卓越振動数)の検出精度を高めることができる。
【0010】
かかる地盤推定方法であって、前記水平x方向及び前記水平y方向の回転角度は90度未満であることが望ましい。
このような地盤推定方法によれば、無駄な測定をせずに済む。
【0011】
かかる地盤推定方法であって、前記卓越振動数推定工程では、前記スペクトルHxと前記スペクトルHyの相乗平均を前記スペクトルVで除算して前記H/Vスペクトル比を算出し、当該H/Vスペクトル比が最も大きくなる振動数を前記卓越振動数としてもよい。
【0012】
かかる地盤推定方法であって、前記卓越振動数推定工程では、前記スペクトルHxと前記スペクトルHyの2乗和平方根を前記スペクトルVで除算して前記H/Vスペクトル比を算出し、当該H/Vスペクトル比が最も大きくなる振動数を前記卓越振動数としてもよい。
【0013】
また、地表面の下方に硬質基盤を有する地盤の前記硬質基盤の傾斜方向を推定する地盤推定方法であって、水平x方向の常時微動と、前記水平x方向と直交する水平y方向の常時微動と、鉛直方向の常時微動とを、前記水平x方向及び前記水平y方向を水平面内で回転させた複数の角度位置で測定する常時微動測定工程と、前記複数の角度位置毎に、前記水平x方向の常時微動、前記水平y方向の常時微動、前記鉛直方向の常時微動からそれぞれスペクトルHx、スペクトルHy、スペクトルVを算出するスペクトル算出工程と、各々の角度位置における前記スペクトルHxと前記スペクトルHy、又は、Hx/Vスペクトル比とHy/Vスペクトル比の形状が最も似ている角度位置の45度回転方向、あるいは、各々の角度位置における前記スペクトルHxと前記スペクトルHy、又は、前記Hx/Vスペクトル比と前記Hy/Vスペクトル比の形状が最も異なる角度方向を求めることに基づいて前記硬質基盤の傾斜方向を推定する傾斜方向推定工程と、を有することを特徴とする地盤推定方法が明らかとなる。
【0014】
このような地盤推定方法によれば、地盤の特性(基盤の傾斜の方向又は傾斜に垂直な方向)の検出精度を高めることができる。
【0015】
かかる地盤推定方法であって、複数の地点において前記傾斜方向推定工程を実行して前記硬質基盤の傾斜方向を推定することが望ましい。
【0016】
このような地盤推定方法によれば、硬質基盤の傾斜方向をより確実に求めることができる。
【0017】
===第1実施形態===
<<卓越振動数について>>
<常時微動について>
大地(地盤)は地震時でなくとも常に小さく揺れている。一般に、周期1秒よりも短周期の揺れは人間活動による人工的な振動源が原因であり、それよりも長周期の揺れは波浪や気圧変化などの自然現象が原因であると考えられている。これらの小さな振動は常時微動と呼ばれる。
【0018】
この常時微動を測定することにより、地震時の地盤の揺れ易さなどの特性を検出することができる。また、測定したデータを解析することにより、地盤構造(どのような固さの層構成になっているかなど)の推定を行うこともできる。
【0019】
図1は、常時微動の測定方法の概略説明図である。また、
図2は、各方向の揺れ(常時微動)の測定結果の一例を示す図である。
図2の横軸は時間、縦軸は揺れの大きさを示している。
【0020】
微動を測る際は、
図1のように微動計10を地盤1の地面1a(地表面に相当)に設置する。なお、地盤1の地面1aの下方には、硬い層の基盤3(硬質基盤に相当)が存在している。
【0021】
微動計10は、高感度の地震計である。微動計10には、水平2成分(x方向、y方向)と鉛直成分(z方向)との3成分のセンサーとロガー(記録装置)とが一体に設けられている。
図1において、微動計10は、x方向の正が東(負が西)、y方向の正が北(負が南)、z方向の正が上(負が下)となるように地面1a上に配置されている。そして微動計10は、x方向、y方向、z方向の各成分の揺れの大きさ(変位、速度、加速度など)を同時に計測し記録する。これにより、
図2のように各方向の微動(常時微動)が測定される。例えば、地盤1の東西の揺れ(微動)は、微動計10のx方向(
図2の3つの図のうちの一番上の図)の成分として測定される。
【0022】
<H/Vスペクトル比について>
1地点において観測した微動の3成分観測記録のうち、水平動のスペクトル(H)を上下(鉛直)動のスペクトル(V)で除算したスペクトル比をとることにより、振動源の影響を受けない安定した結果が得られるといわれている。このスペクトル比はH/Vスペクトル比と呼ばれており、地盤1が揺れやすい振動数(卓越振動数)を推定するのに利用されている。
【0023】
図1のように微動計10を地面1aに設置し、x、y、zの3成分の常時微動を記録する場合、H/Vスペクトル比の計算の手順は以下のようになる。
【0024】
図3A〜
図3Cは、H/Vスペクトル比の算出の手順を示す概略説明図である。
【0025】
まず、観測された各成分(x、y、z)の微動データ(
図3A)を周波数分析する。これにより、
図3Bに示すようにx方向、y方向、z方向の各スペクトルが得られる。なお、
図3Bの各図の横軸は振動数(Hz)、縦軸は振幅の大きさを示している。次に、水平動(xおよびy)のスペクトルを上下動(z)のスペクトルで除算する。この時、H/Vスペクトル比の計算式は以下の式などの方法がある。
【0026】
ここで、Hx、Hy、Vは、それぞれ、水平直交2成分(x、y)及び鉛直成分(z)の微動のフーリエスペクトルである。また、式1は、水平動のスペクトルHをスペクトルHxとスペクトルHyの相乗平均とする場合の式であり、式2は、水平動のスペクトルHをスペクトルHxとスペクトルHyの2乗和平方根とする場合の式である。
これにより、
図3Cに示すようにH/Vスペクトル比が得られる。
【0027】
また、
図4Aは、
図1の状態で測定されたHx/Vスペクトル比、及び、Hy/Vスペクトル比の一例を示す図であり、
図4Bは、そのときのH/Vスペクトル比を示す図である。なお、Hx/Vスペクトル比とは水平x成分のスペクトルHxと鉛直z成分のスペクトルVとの比であり、Hy/Vスペクトル比とは水平y成分のスペクトルHyと鉛直z成分のスペクトルVとの比である。
【0028】
図4AではHx/Vスペクトル比の形状とHy/Vスペクトル比の形状が似ている(卓越振動数が同じ値である)。そして、これらの各成分のスペクトルから得られるH/Vスペクトル比(
図4B)の卓越振動数も、
図4Aの卓越振動数と同じ値になっている。
【0029】
このようにH/Vスペクトル比を求める際に、水平動のスペクトルHは水平x成分(スペクトルHx)および水平y成分(スペクトルHy)を合わせて考えており、この求め方は、地層が成層(x方向の微動≒y方向の微動)であることを前提としている。しかしながら、実際には
図5のように基盤3(固い層)が傾斜している場合がある。なお、
図5は、基盤3が傾斜している場合の状態を示す図である。
図5では、基盤3が南北方向に傾いており、北側は浅く、南側は深くなっている。また、
図5において微動計10は
図1と同じ向きに置かれている。
【0030】
図6Aは
図5の状態で測定されたHx/Vスペクトル比、及び、Hy/Vスペクトル比の一例を示す図であり、
図6Bは、そのときのH/Vスペクトル比を示す図である。
【0031】
図5のように基盤3が傾斜している場合、
図6Aに示すようにx方向のスペクトルHxとy方向のスペクトルHyとが大きく異なる(卓越振動数が一致しない)ことがある。この場合、スペクトルHxとスペクトルHyをそのまま用いてH/Vスペクトル比を算出するとH/Vスペクトル比のピークが不明確になり、安定した卓越振動数を求めることができなくなるおそれがある(地盤1の特性の検出精度が低下するおそれがある)。
【0032】
そこで、本実施形態では、地盤1の特性(具体的には卓越振動数)の検出精度を高めるようにしている。
【0033】
<<本実施形態の卓越振動数の測定方法>>
図7は、本実施形態における卓越振動数の測定方法の概略説明図である。なお、本実施形態において微動計10は、各種のデータやプログラムを記憶する記憶部及び各種の演算を行う演算処理部を備えたコンピュータ(不図示)と通信可能に接続されており、常時微動の測定以外の処理は、当該コンピュータにて行う。
【0034】
本実施形態では、
図7に示すように微動計10を数度おきに回転させて測定する。つまり、x方向、y方向、及び、z方向の各常時微動を、x方向とy方向を水平面で回転させた複数の角度位置で測定する(常時微動測定工程に相当)。
【0035】
例えば、図に示すようにx方向が東、y方向が北を向いた状態(x
0、y
0)から、微動計10を上から見て時計回りに(x
1、y
1)→(x
2、y
2)→(x
3、y
3)と回転させる。そして、各角度位置の水平2成分と鉛直成分の常時微動を測定する。
【0036】
コンピュータは、各角度位置で測定した常時微動のデータを受信し、これらを周波数分析してx方向、y方向、z方向の各スペクトル(スペクトルHx、スペクトルHy、スペクトルV)を算出する(スペクトル算出工程に相当)。なお、本実施形態では、微動計10自体を回転させているが、x方向とy方向の水平2成分のデータを数度おきに回転させて解析してもよい。
【0037】
次に、角度位置ごとにHx/Vスペクトル比と、Hy/Vスペクトル比を求め、各々の角度位置におけるHx/Vスペクトル比とHy/Vスペクトル比の形状が最も一致する方向(角度位置)を見つける。なお、xとyは正負記録しているため、90度回すと0度の場合のスペクトルと同じ結果となる。つまり、回転の角度は90度未満でよい。これにより無駄な測定をせずに済む。
【0038】
図8A〜
図8Dは、微動計10を水平面で(x方向、y方向について)回転させた場合の、Hx/Vスペクトル比と、Hy/Vスペクトル比の形状の変化を示す図である。
図8Aは(x
0、y
0)、
図8Bは(x
1、y
1)、
図8Cは(x
2、y
2)、
図8Dは(x
3、y
3)における形状をそれぞれ示している。
【0039】
これらの図からわかるように、回転に応じてx方向とy方向の形状が変化している。例えば図の場合、
図8Cの角度位置(x
2、y
2)になったときにHx/Vスペクトル比とHy/Vスペクトル比の形状が概ね一致している。
【0040】
このように、Hx/Vスペクトル比とHy/Vスペクトル比の形状が最も似ている角度位置を求め、その角度位置のデータ(スペクトルHx、スペクトルHy、スペクトルV)を用いて、前述した式1又は式2によりH/Vスペクトル比を求める。そして、H/Vスペクトル比が最も大きくなる振動数を卓越振動数と推定する(卓越振動数推定工程に相当)。これにより、基盤3が傾斜していても安定した卓越振動数を求めることができる。
【0041】
なお、本実施形態では、Hx/Vスペクトル比とHy/Vスペクトル比の形状を比較することで角度位置を決定しているが、各々の角度位置におけるスペクトルHxとスペクトルHyの形状から最も似ている角度位置を求めてもよい。また、本実施形態では、コンピュータが角度位置を求めているが、例えば作業員が形状を目視することによって角度位置を決めてもよい。
【0042】
以上説明したように、本実施形態では、地面1aの下方に基盤3を有する地盤1の卓越振動数を推定する際に、水平2成分(x方向及びy方向)を水平面内で回転させた複数の角度位置で、x方向、y方向、z方向の常時微動を測定している。そして、各常時微動からそれぞれ、水平x方向のスペクトルHxと、水平y方向のスペクトルHyと、鉛直方向のスペクトルVとを算出している。そして、各々の角度位置におけるHx/Vスペクトル比とHy/Vスペクトル比から形状が最も似ている角度位置を求め、当該角度位置のスペクトルHx、スペクトルHy、スペクトルVを用いて地盤1の卓越振動数を推定している。
【0043】
これにより、基盤3の傾斜の有無にかかわらず、安定した卓越振動数を求めることができ、地盤1の特性(卓越振動数)の検出精度を高めることができる。
【0044】
===第2実施形態===
前述の実施形態では、地盤1の特性として卓越振動数を算出していたが、第2実施形態では、地盤1の基盤3の傾き(傾斜)の方向を求める。
【0045】
すなわち、x方向のスペクトルHxとy方向のスペクトルHy(又は、Hx/Vスペクトル比とHy/Vスペクトル比)の異なる原因が基盤3の傾斜による影響であると考えると、基盤3の傾斜方向およびその直角方向で計測した場合が最もスペクトルの違いが大きくなると推察される。逆に、基盤3の傾斜の影響を対称に受ける方向(つまり傾斜方向から45度回転した角度位置)で測定するとスペクトルHxとスペクトルHy(または、Hx/Vスペクトル比とHy/Vスペクトル比)が最も近くなると推察される。
【0046】
図9A〜
図9D、及び、
図10A〜
図10D図は、基盤3の傾斜の方向と微動計10の角度位置(x方向、y方向)との関係の説明図である。ここでは第1実施形態(
図5、
図7)と同様に、傾斜の方向は南北方向であり、北側では基盤3が浅く、南側では基盤3が深くなっている。
【0047】
図9A〜
図9Dは、x方向又はy方向の何れか一方が傾斜方向に対して垂直になっている場合の図である。すなわち、x方向とy方向の一方が傾斜の方向(南北方向)に垂直であり、他方が傾斜の方向に平行になっている。この場合、x方向とy方向とにおいて、基盤3の傾斜の影響の受け方が最も異なり、スペクトルの違いが大きくなる。
【0048】
図10A〜
図10Dは、x方向とy方向が、傾斜方向に対して共に45度になっている場合の図である。この場合、xとyとにおいて基盤3の傾斜の影響を同様に受けることになる。すなわち、xとyのスペクトルが概ね一致するようになる。
【0050】
以上のことより、x方向のスペクトルHxとy方向のスペクトルHy(または、Hx/Vスペクトル比、及び、Hy/Vスペクトル比)が概ね一致した方向(
図8Cの状態)から45度回転した方向が基盤3の傾斜方向、又は、傾斜に垂直な方向であるとわかる。
【0051】
よって、スペクトルHxとスペクトルHy(または、Hx/Vスペクトル比とHy/Vスペクトル比)の形状が最も似ている角度位置の45度回転方向、あるいは、各々の角度位置におけるスペクトルHxとスペクトルHy(または、Hx/Vスペクトル比とHy/Vスペクトル比)の形状が最も異なる角度方向から、基盤3の傾斜方向、及び、その直角方向(傾斜方向に垂直な方向)を推定することができる。ただし、一点の測定だけでは、傾斜方向と傾斜に直角な方向の何れかであることがわかるのみであり、基盤3の傾斜方向を確実に判断できない。
【0052】
これに対し、複数(2つ以上)の地点で卓越振動数の測定をすれば、基盤3の傾斜方向をより確実に推測することができる。また、卓越振動数は、基盤3が浅いほど大きくなり、基盤3が深いほど小さくなる。よって、前述の方法で複数の地点の卓越振動数を求め、その大小を比較することで、その各地点のどこの基盤3が深いかがわかる。つまり、基盤3の傾斜方向(深さの向き)、及び、その直角方向(傾斜方向に垂直な方向)を判断することができる。
【0053】
図11A〜
図11Cは、地盤1の特性(基盤3の傾斜方向)の推定方法についての説明図である。
【0054】
図11Aに示すように、この例では、基盤3の傾斜方向に対して、x方向とy方向がそれぞれ45度となっている(スペクトルHxとスペクトルHyが概ね一致する)。ただし、仮に地点P1だけで測定した場合、傾斜の方向が図に示す方向か、図に示す方向の直交方向かが判断できない。そこで、本実施形態では、地点P1と地点P2の2点で測定している。
【0055】
図11Bは、地点P1におけるH/Vスペクトル比と地点P2におけるH/Vスペクトル比を示す図である。P1の方がH/Vスペクトル比の卓越振動数が小さく、P2はH/Vスペクトル比の卓越振動数が大きい。
【0056】
この結果から、傾斜の方向が
図11Aに示す方向であり、
図11Cに示すように、地点P1では基盤3が深く、地点P2では基盤3が浅くなっていることがわかる。仮に、卓越振動数が同じであると、傾斜の方向が地点P1と地点P2を結ぶ方向(
図11Aに示す傾斜方向)と直交する方向であることになる。
【0057】
このように、本実施形態のように複数の地点で測定することにより、基盤3の傾斜方向を推定することができる。また、この場合においても、微動計10を回転してx方向とy方向のスペクトルが概ね一致する方向を求めることで、地盤1の特性(ここでは基盤3の傾斜方向)の検出精度を高めることができる。
【0058】
なお、本実施形態ではスペクトルHxとスペクトルHyの形状が最も似ている方向の45度回転方向を傾斜方向として推定していたが、スペクトルHxとスペクトルHyが最も異なる方向から傾斜方向を推定してもよい。
【0059】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0060】
前述の実施形態等では、常時微動の測定以外は記憶部や演算処理部を有するコンピュータで行うこことしたが、このコンピュータの機能を微動計10に設けて、微動計10のみで各処理を行うようにしてもよい。