【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成27年10月25日に参加者に配布・公開された East Asia Forum on Radwaste Manegement Oct.25−28,2015,Taichung City の要旨集 (2)平成27年10月25日から開催された East Asia Forum on Radwaste Manegement Oct.25−28,2015,Taichung City の事務局に提出した論文。当該論文を含んだ論文集は未だ公開・発刊されておらず、事務局内のみの資料となっている。 (3)平成27年10月27日に East Asia Forum on Radwaste Manegement Oct.25−28,2015,Taichung City で発表した資料。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
X型ゼオライト及びA型ゼオライトから選ばれる少なくとも1種を含むゼオライトを含有する放射性ネプツニウム除染剤を、被処理対象液に接触させて、該被処理対象液中のネプツニウム種を吸着する工程1を有する、放射性ネプツニウム除染方法であって、
前記ゼオライトの総量中におけるX型ゼオライト及びA型ゼオライトの合計量が、60〜100質量%であり、
前記ゼオライトの含有量が、前記放射性ネプツニウム除染剤中、10〜100質量%である、放射性ネプツニウム除染方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[放射性ネプツニウム除染剤]
本発明の放射性ネプツニウム除染剤(以下、単に「ネプツニウム除染剤」又は「除染剤」ともいう)は、X型ゼオライト及びA型ゼオライトから選ばれる少なくとも1種を含むゼオライトを含有する。本発明の除染剤は、ネプツニウムの吸着能に優れる。
【0008】
〔ゼオライト〕
本発明の除染剤に用いられるゼオライトは、ネプツニウムの吸着能を得る観点から、X型ゼオライト及びA型ゼオライトから選ばれる少なくとも1種を含むゼオライトである。ただし、ネプツニウムの吸着能の向上を図る観点から、ゼオライトの総量中におけるX型ゼオライト及びA型ゼオライトの合計量は、好ましくは60〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%、より更に好ましくは100質量%である。また、ネプツニウムの吸着能を顕著に得る観点から、ゼオライトは、X型ゼオライトであることがより好ましい。
ゼオライトの形状には特に限定は無く、例えば、粒子状のパウダーばかりでなく、ビーズ、ペレット等の成形体等であってもよい。ゼオライトは、使用後の吸着剤の取扱いを容易にする観点からは、ゼオライト成形体であることが好ましい。また、ゼオライトの比表面積を増加させる観点から、ゼオライト粒子であってもよい。
【0009】
ゼオライトのアルミニウム元素の含有量(以下、「Al含有量」ともいう)は、ネプツニウムの吸着能を向上させる観点から、ゼオライトの質量に対して、好ましくは11〜30質量%、より好ましくは12〜25質量%、更に好ましくは12〜20質量%、より更に好ましくは12〜15質量%、より更に好ましくは12〜13質量%である。
【0010】
ゼオライトの細孔径は、特に限定されないが、ネプツニウムの吸着能を向上させる観点から、好ましくは3.0〜20Å、より好ましくは3.5〜18Å、更に好ましくは4.0〜15Å、更に好ましくは6.5〜12Å、更に好ましくは7.0〜10Åである。
【0011】
ゼオライトの含有量は、除染剤中、例えば、10〜100質量%、好ましくは30〜100質量%、好ましくは50〜100質量%、好ましくは70〜100質量%、好ましくは90〜100質量%である。
【0012】
本発明の除染剤は、ゼオライトの他に各種添加剤を含有していてもよい。
添加剤としては、例えば、pH調整剤等が挙げられる。
【0013】
[使用法]
本発明の除染剤は、被処理対象液中のネプツニウム種を吸着するために使用される。
本発明の放射性ネプツニウム除染方法は、
工程1:X型ゼオライト及びA型ゼオライトから選ばれる少なくとも1種を含むゼオライトを含有する放射性ネプツニウム除染剤を、被処理対象液に接触させて、該被処理対象液中のネプツニウム種を吸着する工程
を有し、好ましくは、
工程2:工程1により得られた除染剤(工程1でネプツニウム種を吸着した除染剤)を焼成してセラミックス状固化体とする工程
を、更に有する。
【0014】
〔工程1〕
被処理対象液は、少なくともネプツニウム種を含有する。
ネプツニウムは、例えば、
236Np,
237Np,
238Np,
239Npの4つの同位体のいずれであってもよい。
236Np,
238Np,
239Npの半減期は、それぞれ22時間,2.1日,2.35日と短半減期であり、また、
236Np,
238Npは、それぞれ
237Npの(n,2n)反応と中性子捕獲反応で発生し、
239Npはβ−崩壊して
239Puになる。そのため、
237Npがネプツニウムにおける支配的な同位体である。
237Npは、その半減期が2.14×10
6年と長く、核分裂生成物や他のアクチノイド元素の大部分が崩壊した後も、長期間廃棄物中の放射能として残る。
237Npはその半減期が長く、また娘核種もその放射線的毒性が高いため、高レベル放射性廃棄物の長期にわたる有毒性の源となる。
【0015】
被処理対象(例えば水溶液)中で、ネプツニウム種は、Np(III),Np(IV),Np(V),Np(VI),Np(VII)の5種類の酸化状態のいずれであってもよい。
これらの中でも、Np(III),Np(IV),Np(V),Np(VI)の4種類の酸化状態はそれぞれNp
3+,Np
4+,NpO
2+,NpO
22+として通常は水和物の形で存在し、これらの中でもネプツニルイオン(NpO
2+)が好ましい。
工程1において、被処理対象液の25℃における平衡pHは、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜8、更に好ましくは2〜7である。ここで、平衡pHとは、被処理対象液に除染剤を接触させて放射性ネプツニウムの除去を行った後における被処理対象液のpHを意味し、具体的には実施例に記載の方法によって測定されるものである。平衡pHが上記範囲内であると、ネプツニウムの吸着能に優れる。
【0016】
工程1において、被処理対象液は、海水を含んでいてもよい。海水中には、カリウムなどのミネラル分が含まれるため、一般的な吸着剤において、ネプツニウム種よりも優先してこれらのミネラル分に吸着してしまうという問題を有していた。本発明の除染剤は、海水が含まれている被処理対象液であっても、ネプツニウムの吸着能に優れる。
被処理対象液の液体の総量中における海水の含有量は、特に限定されないが、被処理対象液中、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは5〜60質量%、更に好ましくは10〜50質量%、より更に好ましくは15〜40質量%である。
被処理対象液の液体の総量中における、海水を含む水の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。
なお、被処理対象液は、油等の液体を含んでいる場合もあり得る。
【0017】
工程1において、被処理対象液は、ホウ酸(H
3BO
3)を含んでいてもよい。本発明の除染剤は、ホウ酸が含まれている被処理対象液であっても、ネプツニウムの吸着能に優れる。
ホウ酸の含有量としては、特に限定されないが、被処理対象液中、好ましくは100〜10,000質量ppm、より好ましくは500〜7,000質量ppm、更に好ましくは1,000〜5,000質量ppmである。
【0018】
工程1において、除染剤の添加量は、被処理対象液100質量部に対して、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは2〜30質量部、更に好ましくは3〜25質量部である。
工程1において、処理温度は、好ましくは0〜50℃、より好ましくは10〜40℃、更に好ましくは20〜30℃である。
工程1において、処理液を振とうすることが好ましい。振とう時間は、好ましくは1〜24時間、より好ましくは2〜12時間、更に好ましくは2〜6時間である。
【0019】
本工程において、本発明の除染剤を被処理対象液に接触させることで、該被処理対象液中のネプツニウム種を除染剤により吸着することができる。
ネプツニウム種を吸着した除染剤は、被処理対象液から分離されて、次の工程2の処理に付されることが好ましい。
【0020】
〔工程2〕
工程2では、工程1でネプツニウム種を吸着した除染剤を焼成してセラミックス状固化体とする。
工程2の焼成温度は、好ましくは600℃以上、より好ましくは1000〜2000℃、更に好ましくは1000〜1500℃、より更に好ましくは1000〜1200℃である。
焼成時間は、セラミックス状固化体とするための作業の効率の観点から、好ましくは5〜100分間であり、より好ましくは20〜40分間である。
【0021】
工程2によりセラミックス状固化体が得られる。セラミックス状固化体としては、アモルファスであっても、結晶性であってもよく、焼成によるゼオライトの分解物が含まれる。
【0022】
本発明の除染方法においては、工程2の焼成の前に、工程1でネプツニウム種を吸着した除染剤をプレス成型してもよい。プレス成型することで、除染剤が押し固められて、ネプツニウムの離脱を抑制することができ、焼成において、るつぼ等の容器に粉末が付着することを防止することができる。なお、プレス成型の方法については、特に限定されず、公知の方法を用いて行うことが可能である。特に、除染剤をペレット状に成型することで、焼成後のセラミックス固体の取り扱いが容易となる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
[除染剤]
〔A型ゼオライト〕
A−51JHP:ユニオン昭和(株)製A型ゼオライトの成形体
〔X型ゼオライト〕
13X:ユニオン昭和(株)製13Xゼオライトパウダー
X−61JHP:上記13Xの成形体
〔その他の除染剤〕
USY:ユニオン昭和(株)製、Y型ゼオライト
UOP−L:UOP社製、L型ゼオライト
IE−96:チャバサイト
900Na:Norton社製、合成モルデナイト
天然モルデナイト:新東北化学(株)製、愛子産2460#
クリノプチロライト:サンゼオライト工業(株)製、二ツ井産
【0025】
[測定・算出方法]
〔NaIシンチレーションカウンタ〕
NaIシンチレーションカウンタは、Alola社(商品名・品番PS−201型.ウエル型NaI(Tl) シンチレータサイズ:3inchΦ×3inch)を使用した。
シングルをマルチチャンネルアナライザーMCA600(ラボラトリ・イクイップメント・コーポレーション社製)に接続してエネルギースペクトルを測定した。
エネルギー範囲は75keV〜430keVとした。
【0026】
〔吸着率及び分配係数の算出方法〕
239Npはα線及びγ線を放出するが、今回は放出されるγ線をNaI(Tl)シンチレーションカウンタにより測定した。測定した放射線量から吸着率R及び分配係数K
dの算出を、次式(1)及び(2)に基づいて行った。
【0027】
【数1】
【0028】
ここで、A
iは振とう前の液相の放射線カウント数[cpm/mL]、A
fは振とう後の液相の放射線カウント数[cpm/mL]、Vは溶液体積[mL]、mは除染剤の質量[g]である。
【0029】
[
239Npの製造]
239Npは、
243Amから
239NpをミルキングするSillらの手法を参考に製造した[Sill、C.W.: Preparation of neptunium−239 tracer. Anal. Chem., 38、802(1966)]。
抽出剤(5質量%トリ−n−オクチルアミン キシレン溶液)をHClで予備平衡させ、抽出剤に
243Am溶液(in HCl)を加え
239Npを有機相に抽出した。水相を除去した後HClで有機相を洗浄し、H
2Oを加え
239Npを水相に逆抽出した。水相に残った有機物を除去し、
239Npストック溶液(in H
2O)を作成した。作成したストック溶液を予め準備しておいた溶液に投入し、試験溶液を確保した。
試験溶液を1mL採取しNaIシンチレーションカウンタを用いて測定した。
239Npのγ線放出エネルギーは、主に106.1keV(24%)、209.7keV(3.5%)、228.1keV(11%)、277.6keV(15%)であり、それぞれのピークが確認された。また、当該試験溶液から放出されるγ線を前述のNaI(Tl)シンチレーションカウンタにより測定したところ、カウント数は300,000[cpm/mL]であった。
【0030】
[実施例1:
239Np吸着]
0.1MのNaClを含む上記被処理対象液として、(1)Na系溶液(以下、「Na系」ともいう)を得た。
(1)Na系(NaCl:0.1M)
得られた被処理対象液について、バッチ法による分配実験により、
239Npに対する各除染剤の吸着特性評価試験を実施した。分配実験後の液相のpHは、東亜DKK(株)pHメータでガラス電極により測定した。当該pHを平衡pHとして表中に記載した。
試験条件を以下に示す。
【0031】
(試験条件)
被処理対象液の体積:5mL
除染剤:A−51JHP 50mg
処理温度:25±1℃
振とう時間:24時間
遠心分離(固液分離): 2500rpm,5分
初期pH:3
初期放射能濃度:1,300 cps/mL
【0032】
[実施例2〜3、比較例1〜6:
239Np吸着]
表中に示す除染剤を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果を表に示す。
【0033】
[実施例4:
239Np吸着]
被処理対象液として、ホウ酸を3,000ppm及び海水を30質量%含有する海水希釈系(以下、「海水希釈系」ともいう)を得た。
(2)海水希釈系(ホウ酸:3,000ppm、海水:30質量%)
その後、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表に示す。
【0034】
[実施例5〜6、比較例7〜12:
239Np吸着]
表中に示す除染剤を用いたこと以外は実施例4と同様の操作を行った。その結果を表に示す。
【0035】
上記のとおり、上記実験では、溶液条件として、(1)0.1M NaCl系(以下、「Na系」ともいう)、及び(2)ホウ酸を3,000ppm含有する海水30質量%希釈系(以下、「海水希釈系」ともいう)の2条件で分配実験を実施した。(2)において、ホウ酸を添加した理由は、福島第一原子力発電所の事故直後に投入されたため、デブリ取り出し時に使用されるため、加圧水系原子炉では冷却水に添加されているため、等の理由による。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
全般的に、海水希釈系の方がNa系よりも分配係数が小さいことが分かる。これは海水30%質量希釈系では、競合イオン種が多数存在するためと考えられる。
ゼオライトの中では、A型(A−51JHP)及びX型ゼオライト(13X,X−61JHP)が比較的高い分配係数を示す。
各ゼオライトのK
d値の序列は以下のとおりである。
K
d値の序列:13X>X−61JHP>A51−JHP>モルデナイト(mordenite) (2460#)>UOP−L
海水希釈条件においても13Xの分配係数値は67ml/gを示した。いずれの溶液条件下でも、K
d値の序列傾向は同一であった。
【0039】
[実施例7,比較例13:分配係数の変化]
吸着速度を測定するため、振とう時間を1−24時間で変化させて分配係数の変化を調べた。
吸着速度は効率的なカラム処理時の重要なパラメータとなる。分配実験でNpに高吸着性を示したX型ゼオライト(13X)と、無機系吸着剤であるアンチモン酸スズ(ST)の分配係数の時間変化を調べた。その結果を表に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
X型ゼオライトは、分配係数が数時間で急激に増加し、ほぼ24時間で平衡に達する。一方、アンチモン酸スズは吸着速度が小さく、24時間後も平衡に達していない。これはアンチモン酸スズの粒径が1.0〜4.0mmと非常に大きいことが影響している。