特許第6673048号(P6673048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673048
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】フッ化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 7/19 20060101AFI20200316BHJP
【FI】
   C01B7/19 B
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-123763(P2016-123763)
(22)【出願日】2016年6月22日
(62)【分割の表示】特願2015-133223(P2015-133223)の分割
【原出願日】2015年7月2日
(65)【公開番号】特開2016-183104(P2016-183104A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-143222(P2014-143222)
(32)【優先日】2014年7月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 新
(72)【発明者】
【氏名】木下 聡之
(72)【発明者】
【氏名】吉村 俊和
(72)【発明者】
【氏名】田渕 昭一
(72)【発明者】
【氏名】井本 匡美
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−519335(JP,A)
【文献】 特開2002−029706(JP,A)
【文献】 特開2011−011964(JP,A)
【文献】 特開昭48−060098(JP,A)
【文献】 特開2007−112683(JP,A)
【文献】 特公昭46−005571(JP,B1)
【文献】 特公昭42−000652(JP,B1)
【文献】 実開昭60−115531(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 7/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化カルシウムと硫酸とを反応させてフッ化水素を製造する方法であって、
(a)フッ化カルシウム粒子に、硫酸を、フッ化カルシウム1molに対して流量0.002〜0.07mol/minで、硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9〜1.1となる量まで供給しながら、フッ化カルシウムと硫酸とを、フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応させて、フッ化水素を得る工程
を含む方法。
【請求項2】
工程(a)において、混合開始から1分後における混合到達度が0.1以上である装置を用いて混合を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)が、0〜500℃の温度で行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
フッ化カルシウム粒子の比表面積が0.5〜30m/gである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(a)において、硫酸の供給が終了した後、フッ化カルシウムと硫酸との反応が完結するまで混合を継続する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
フッ化カルシウムと硫酸とを反応させてフッ化水素を製造する方法であって、
(b)フッ化カルシウム粒子に、硫酸を、フッ化カルシウム1molに対して流量0.002〜0.07mol/minで、硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9〜1.1となる量まで供給しながら、フッ化カルシウムと硫酸とを、フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応させて、中間生成混合物と、フッ化水素とを得る工程と、
(c)該中間生成混合物を工程(b)より高温条件下で混合および反応させて、フッ化水素を得る工程と
を含む方法。
【請求項7】
工程(b)において、混合開始から1分後における混合到達度が0.1以上である装置を用いて混合を行う、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)が、0〜170℃の温度で行われる、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
工程(c)が、80〜500℃の温度で行われる、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
フッ化カルシウム粒子の比表面積が0.5〜30m/gである、請求項6〜9のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ化水素の製造方法に関し、より詳細には、フッ化カルシウム粒子と硫酸とを反応させてフッ化水素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化水素(HF)の工業的製造方法は、一般に、蛍石(CaF)および硫酸(HSO)からフッ化水素(HF)を生成する反応を利用している(例えば特許文献1〜3を参照のこと)。このようなフッ化水素の製造方法のうち、ジャケット付き予備反応器と外熱式ロータリーキルンとを組み合せて用いて二段階の反応工程を実施するタイプの方法が知られている。このタイプの製造方法においては、予備反応器およびロータリーキルンにおける各反応工程を通じて3つの反応が起こることが知られている(例えば特許文献4および5を参照のこと)。以下、このような従来のフッ化水素の製造方法について図1を参照して説明する。
【0003】
まず、蛍石(CaF)と、硫酸(HSO)(発煙硫酸と混合して100℃に予熱したもの)とをジャケット付き予備反応器1(例えば2軸ニーダ)に実質的に等モル量で別個に供給し、これらの固液混合物を約100℃の加熱下にて混練する。このような比較的低温条件下では以下の式(1)に示す反応が支配的に起こる。
【化1】
【0004】
予備反応器1の出口でのCaF転化率は40〜60%であり得る。式(1)の反応により生成したフッ化水素(HF)は主に気相中に含まれ、誘導管3を通じて取り出される。中間生成物である硫酸水素カルシウム(Ca(HSO)を含む残りの粘土状から粉粒状の反応混合物は外熱式ロータリーキルン5に移される。
【0005】
ロータリーキルン5にて反応混合物を転動および回転軸方向に前進させながら昇温加熱する。ロータリーキルン5は約500℃の熱風をジャケットに流通させることにより加熱され、反応混合物の温度は、予備反応器1に連絡しているロータリーキルン5の入口で約100℃であり、その反対側に位置するロータリーキルン5の出口に向かって上昇し、最終的に出口では約300℃となる。このような高温条件下では、反応混合物中のCa(HSOは以下の式(2)の反応により分解する。この結果、式(1)の反応で一旦消費されたHSOが液状物の形態で再び現れると共に、副生成物として固形状の石膏(CaSO)を生じる。
【化2】
【0006】
式(2)の反応により生じたHSOは反応混合物中に存在する未反応のCaFと反応するが、ロータリーキルン5におけるような高温条件下では、上記の式(1)に示す反応ではなく、以下の式(3)に示す反応が支配的に起こる。
【化3】
【0007】
式(3)の反応により生成したフッ化水素(HF)は気相中に含まれ、誘導管3を通じて取り出される。残余の反応混合物は、副生成物である石膏(CaSO)を主に含み、これはロータリーキルン5の出口から取り出される。
【0008】
以上のようにして、予備反応器およびロータリーキルンにおける二段階の反応工程により、目的のフッ化水素を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第2932557号明細書
【特許文献2】米国特許第3825655号明細書
【特許文献3】特公平4−40282号公報
【特許文献4】特開2002−316805号公報
【特許文献5】特開2004−352517号公報
【特許文献6】特開2005−132652号公報
【特許文献7】特開2007−112683号公報
【特許文献8】特開2011−11964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のフッ化水素製造方法では、原料の蛍石と硫酸を予備反応器へ別個に供給しながら、混合と反応を同時に行っている。そのため、予備反応器の内部では、原料として供給されてきた液体の硫酸および固体の蛍石、これら原料が混ざったスラリー状の原料混合物、および式(1)の反応の進行度によりペースト状から粉粒状の反応混合物が、比較的低温とはいえ約100℃もの温度で混在している(以下、これを「第一ペースティ」と言う)。このような温度条件下で硫酸が存在するため、予備反応器を著しく腐食させるという問題がある。更に、このような反応条件の下では、反応物の固化が進行して装置の閉塞を引き起こし得るという問題も存在する。
【0011】
この予備反応器から取り出された反応混合物は一般的に固体状であるが、ロータリーキルンに移されると式(2)の反応が進行して再びペースト状となり、式(2)に加えて式(3)の反応が進行し、最終的には粉体状となる。この再びペースト状となる現象(以下、「第二ペースティ」と言う)は、低温条件から高温条件に移行した際に式(2)の反応が迅速に進行して大量の硫酸を生じることにより発生するものである。
【0012】
ペースティ(第一および第二ペースティ)の発生は種々の観点から好ましくない。ペースティは硫酸を多く含有するために腐食性が高く、この結果、予備反応器およびロータリーキルンを腐食させるという問題がある。特に、第二ペースティは、高温条件下にて硫酸を多く含有するために腐食性が極めて高く、ロータリーキルンの著しい腐食をもたらす。また、ペースティが生じると、ペースト状の反応混合物が反応器の内壁面に貼り付くという問題もある。このため、装置に高耐食性材料を使用する必要があり、装置の整備周期を短く設定する必要がある。更に、ペースティの貼り付き(またはスケール形成)は、反応器の伝熱効率の低下や、キルンが安定して回転できなくなる(駆動部に対して過負荷がかかる)といった問題を招く。そのため、伝熱効率の低下を補償するのにより多くの熱エネルギーを必要とし、エネルギーロスが大きくなってしまう。
【0013】
第二ペースティの発生を防止または低減すべく、いくつかの試みがなされている(特許文献4、5および8を参照のこと)。中でも、特許文献8は、第二ペースティの発生を効果的に防止し得るフッ化水素製造方法を開示している。特許文献8には、(a)平均粒径1〜40μmのフッ化カルシウム粒子および硫酸を、硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9〜1.1となる量で、0〜70℃の温度にて混合および反応させて、固体状反応混合物を得る工程、および(b)該固体状反応混合物を100〜200℃の温度に加熱して反応させ、フッ化水素を生成させて気相中に得る工程を含む方法が記載されている。フッ化カルシウム粒子の平均粒径を1〜40μmとし、0〜70℃の温度下での工程(a)と、100〜200℃の温度下での工程(b)とを実施することにより、工程(b)における第二ペースティの発生を防止することができる。
【0014】
本発明の目的は、フッ化水素の製造プロセス全体にわたってペースティの発生を抑制し、硫酸による腐食の問題を緩和し且つエネルギー効率を向上し得る、新規なフッ化水素製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、フッ化水素製造プロセスを根本的に見直して検討し、従来の方法はいずれも、等モル量のフッ化カルシウムと硫酸とを混合することから出発していることに着目した。このようなフッ化カルシウムおよび硫酸の混合物は一般に、スラリー状またはペースト状である。このスラリー状またはペースト状の混合物は硫酸を多く含有するため、このような混合物の状態から出発してフッ化水素の製造を実施する場合、腐食の問題および詰まり(閉塞)の問題を本質的に回避することはできない。また、スラリー状またはペースト状の混合物が反応器の内壁面に付着する(即ち、第一ペースティが発生する)ことにより、反応器の伝熱効率が低下し、エネルギーロスが生じ得る。本発明者らは、このような第一ペースティの発生を伴う原料の混合方法自体を根本的に変更することを試みた。その結果、本発明者らは、反応器に供給された硫酸が直ちに反応して消費され、その結果、反応器内の混合物が実質的に粉粒体を維持し得るような混合手法を用いることにより、ペースティの発生を効果的に防止し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
本発明の第一の要旨によれば、フッ化カルシウムと硫酸とを反応させてフッ化水素を製造する方法であって、
(a)フッ化カルシウム粒子に、硫酸を、フッ化カルシウム1molに対して流量0.002〜1mol/minで、硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9〜1.1となる量まで供給しながら、フッ化カルシウムと硫酸とを、フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応させて、フッ化水素を得る工程
を含む方法が提供される。
【0017】
尚、本発明において数値範囲を言うとき、その下限値および上限値を含むものとする(以下も同様である)。
【0018】
フッ化カルシウムと硫酸からフッ化水素を生成する反応は、全体としては、以下の式(A)にて表わされる。
【化4】
本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、実際には以下の素反応が起こっているものと仮定される。
【化5】
【0019】
式(1)〜(3)の反応はいずれも吸熱反応である。上記工程(a)においては、温度条件に応じて式(1)〜(3)のいずれか1つ以上が進行すると考えられる。このとき、フッ化カルシウム粒子に供給される硫酸の流量を、フッ化カルシウム1molに対して0.002〜1mol/minに設定して混合を行うことにより、供給された硫酸をフッ化カルシウム粒子と直ちに反応させて消費することが可能となる。そのため、混合物が実質的に粉粒体を維持することが容易になり、結果として、第一ペースティおよび第二ペースティの発生を効果的に抑制することができる。反応条件によっては、硫酸の供給が終了した後、混合を更に継続して反応を完結させてよい。このように工程(a)を実施することにより、フッ化水素と、副生成物としての石膏とが得られる。
【0020】
本発明の第二の要旨によれば、フッ化カルシウムと硫酸とを反応させてフッ化水素を製造する方法であって、
(b)フッ化カルシウム粒子に、硫酸を、フッ化カルシウム1molに対して流量0.002〜1mol/minで、硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9〜1.1となる量まで供給しながら、フッ化カルシウムと硫酸とを、フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応させて、中間生成混合物と、フッ化水素とを得る工程と、
(c)該中間生成混合物を工程(b)より高温条件下で混合および反応させて、フッ化水素を得る工程と
を含む方法が提供される。
【0021】
上記の式(1)の反応は比較的低温で進行する傾向にあり、一方、上記の式(2)および(3)の反応は比較的高温で進行する傾向にある競争反応である、上記工程(b)は、工程(c)よりも低温条件下で実施されるので、上述の式(1)の反応が支配的に起こると考えられる。工程(b)において、フッ化カルシウム粒子に供給される硫酸の流量を、フッ化カルシウム1molに対して0.002〜1mol/minに設定して混合を行うことにより、供給された硫酸をフッ化カルシウム粒子と直ちに反応させて消費することが可能となる。その結果、温度条件にもよるが、フッ化水素、および生成したCa(HSOと未反応のCaFとをほぼ等モル量で含んで成る中間生成混合物を得ることができる。このようにして、混合物が実質的に粉粒体を維持しつつ工程(b)における反応を進行させることができるので、第一ペースティの発生を効果的に抑制することができる。
【0022】
上記工程(c)は、工程(b)よりも高温度条件下で実施されるので、上述の式(2)および(3)が支配的に起こると考えられる。式(2)の反応により生じる硫酸は、式(3)に従って未反応のフッ化カルシウムと直ちに反応して消費され、その結果、混合物が実質的に粉粒体を維持できる。工程(c)により、フッ化水素と、副生成物としての石膏とを得る。このようにして、混合物が実質的に粉粒体を維持しつつ反応を進行させることができるので、第二ペースティの発生を効果的に抑制することができる。
【0023】
また、本発明において「蛍石」とは、フッ化カルシウム(CaF)を主成分とする鉱石または鉱物を意味するものとし、いずれの産地のものであってもよい。
【0024】
本発明のフッ化水素製造方法では、上記第一および第二の要旨のいずれにおいても、供給される硫酸および上記式(2)の反応により生じる硫酸が、直ちにフッ化カルシウム粒子と反応して消費されるので、硫酸による腐食の問題を緩和することができる。
【0025】
更に、本発明のフッ化水素製造方法によれば、上述した通り、ペースティ(第一および第二ペースティ)の発生を効果的に防止することでき、その結果、ペースティの付着を低減することができる。よって、第一および第二ペースティの発生に付随する様々な問題を実質的に解消することができる。例えば、ペースティの付着を低減することにより、反応装置の伝熱性を向上させることができ、従来の方法よりも低い温度で反応を実施することができる。結果として、従来の方法より高いエネルギー効率を達成することができる。
【0026】
本発明のフッ化水素製造方法を実施するために必要な熱エネルギーは、工程(a)の温度条件、または工程(b)および(c)の温度条件からも理解され得るように、従来のフッ化水素製造方法に要する熱エネルギーよりも小さく、省エネルギーである。また、本発明のフッ化水素製造方法は、従来の方法と比較してエネルギーロスを低減することができるので、従来の方法よりも短時間で反応を完結させることができる。
【0027】
本発明のフッ化水素製造方法は、連続式およびバッチ式のいずれで実施してもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、プロセス全体にわたって実質的に粉粒体を維持しながら反応を実施し得、ペースティ(第一ペースティおよび第二ペースティ)の発生を効果的に防止し得る、新規なフッ化水素製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、従来のフッ化水素製造方法を説明する模式図である。
図2図2は、本発明の方法において使用可能な連続式反応器の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の方法は、連続式およびバッチ式のいずれで実施してもよく、特段の断りのない限り、以下の説明は連続式およびバッチ式の両方に当て嵌まる。
【0031】
(実施形態1)
本実施形態は、本発明の第一の要旨によるフッ化水素製造方法に関する。
【0032】
本発明の方法において、フッ化カルシウム粒子として、任意のフッ化カルシウム源が利用可能である。なお、本発明において、「フッ化カルシウム粒子」は、フッ化カルシウムを主成分とする粒子を意味する。フッ化カルシウム粒子は、例えば蛍石や、化学プロセスなどで回収または合成されたフッ化カルシウム粒子(回収フッ化カルシウム粒子)であってよく、精製および/または粉砕などの処理に付されたものであってよい。フッ化カルシウム粒子として蛍石を用いる場合、いずれの産地のものであってもよく、例えば中国産、メキシコ産、南アフリカ産などであってよい。フッ化カルシウム粒子は、フッ化カルシウムを主成分とするものであればよく、例えば二酸化ケイ素(SiO)、炭酸カルシウム(CaCO)、リン(P)、ヒ素(As)、塩化カルシウム(CaCl)などの不純物を含んでいてよい。フッ化カルシウム粒子の純度は、特に限定されないが、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。フッ化カルシウム粒子は、使用前に乾燥処理に付してもよい。
【0033】
上記の式(1)および(3)の反応は、フッ化カルシウム粒子の比表面積が大きいほど、かつ/または粒径が小さいほど反応速度が大きくなる傾向にある。本実施形態において、フッ化カルシウム粒子の比表面積は、好ましくは0.5〜30m/gである。比表面積が上記範囲内であると、混合物が実質的に粉粒体を維持することがより容易になり、第一ペースティおよび第二ペースティの発生を効果的に防止することができる。フッ化カルシウム粒子の比表面積は、好ましくは1〜10m/g、より好ましくは2〜5m/gである。なお、本明細書において、「比表面積」は、BET法で求めた比表面積を意味する。2種以上のフッ化カルシウム粒子を混合して用いる場合、それぞれの比表面積が0.5〜30m/gの範囲に含まれていればよい。
【0034】
硫酸としては、一般的には濃硫酸、例えば約98%以上の濃硫酸を用いることができる。しかし、これに限定されず、例えば、発煙硫酸(SOおよびHSO)と水、三酸化硫黄(SO)と水、発煙硫酸および三酸化硫黄(SO)と水の組合せを用いて硫酸を調製してもよい。
【0035】
フッ化カルシウム粒子および硫酸は、工程(a)に付す前に予熱しておいてよい。予熱温度は、所望の反応条件に基づいて適宜調節することができ、例えば、工程(a)で使用する反応器の設定温度と同じであってよい。フッ化カルシウム粒子の予熱温度と硫酸の予熱温度とは同じであってよく、異なっていてもよい。フッ化カルシウム粒子および硫酸を予熱することにより、反応速度を大きくして硫酸の消費を促進することができる。
【0036】
工程(a)
フッ化カルシウム粒子に、硫酸を供給しながら、フッ化カルシウム粒子と硫酸とを、混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応させる。
【0037】
混合および反応は、0〜500℃の温度の下で行うことが好ましい。0℃以上とすることによって、硫酸が凍結せずに液体状態で維持できる。混合および反応は、好ましくは80℃以上で行う。80℃以上とすることによって、上述の式(3)に示す反応が支配的に起こり、中間生成物であるCa(HSOを経由することなく、フッ化水素と、副生成物として石膏とを得ることができる。但し、工程(a)において、式(3)の反応に加えて式(1)の反応が起こってもよく、硫酸の一部は式(1)に従って反応して、フッ化水素と、中間生成物としてCa(HSOとを生成してよい。生成したCa(HSOは式(2)の反応により分解して石膏と硫酸とを生じ、式(2)の反応により生じた硫酸は、式(3)に従って直ちに反応して、フッ化水素と石膏とが得られる。混合は、好ましくは100℃以上で行う。100℃以上であると、式(3)の反応を促進することができる。更に好ましくは、混合は170℃以上で行う。170℃以上にすることにより、式(3)の反応をより一層促進することができる。また、500℃以下とすることによって、硫酸の熱分解や蒸発を防止することができる。混合および反応は、より好ましくは250℃以下で行われる。250℃以下であると、硫酸の分解および装置の腐食をより効果的に抑制することができる。硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9〜1.1となる量まで硫酸を供給することが好ましい。これにより、実質的に等モル量のフッ化カルシウムと硫酸とを反応させて、フッ化水素と、副生成物として石膏とを得ることができる。フッ化カルシウム粒子の不純物の種類によっては、不純物による硫酸の消費を補償する目的で、硫酸および/またはSOを、消費相当量分を過剰に仕込んでよい。
【0038】
本実施形態に係る方法を連続式で実施する場合、上述のモル比は反応器の出口において達成されるものとする。
【0039】
フッ化カルシウム粒子と硫酸とは、混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応される。本明細書において、混合物が「実質的に粉粒体」であるとは、供給される硫酸および/または式(2)の反応により生じる硫酸がフッ化カルシウム粒子と直ちに反応して消費され、その結果、混合物がスラリー状またはペースト状にならない、即ちペースティ(第一ペースティおよび第二ペースティ)が発生しないことを意味するものとする。なお、本明細書において、「粉粒体」は、粒径が数μm〜数十μm程度の粉体と、粒径が数mm程度の粒体との混合物を意味する。
【0040】
混合物が実質的に粉粒体を維持しているか否かを判定する方法は特に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜選択することができるが、例えば、(i)目視、(ii)混合に用いる撹拌機のトルクおよび/または電流値の急激な上昇および/またはハンチング、ならびに(iii)工程(a)の一の時点において供給される硫酸の量に基づいて求められるフッ化水素の発生量の理論値と、該一の時点において発生するフッ化水素の量との比較のいずれか1つ又は2つ以上の組み合わせによって判定することができる。
【0041】
目視による粉粒体の判定は、例えば、反応器に設けたのぞき窓から反応器内の様子を観察することによって行うことができる。反応器内の混合物が粉粒体であり、その固体が流動状態を維持しており、かつ反応器の内壁面や撹拌羽根等に付着物が生じていない場合、混合物が実質的に粉粒体を維持していると判定できる。
【0042】
混合に用いる撹拌機のトルクおよび/または電流値の急激な上昇および/またはハンチングによる粉粒体の判定は、例えば、撹拌機のトルクおよび/または電流値をモニタリングすることにより行うことができる。撹拌機の詳細については後述する。撹拌羽根等の撹拌機を用いて混合を実施する場合、撹拌機のトルクおよび電流値は、反応の進行と共に、反応器内の固形物の増加に従って徐々に上昇する。しかし、混合物が実質的に粉粒体を維持できなくなってスラリー状またはペースト状になる(即ちペースティが発生する)と、撹拌機のトルクおよび電流値は急激に上昇し、ハンチングする。これは、発生したペースティや、ペースティが更に固化した固化物を撹拌および/または解砕することに起因する。ペースティ発生によるトルクおよび/または電流値の急激な上昇は、固形物増加による上昇から大きく逸脱するものである。トルクおよび/または電流値のかかる急激な上昇および/またはハンチングが観察される場合、混合物が実質的に粉粒体を維持し得なくなったと見なすことができる。
【0043】
工程(a)の一の時点において供給される硫酸の量に基づいて求められるフッ化水素の発生量の理論値と、その一の時点において発生するフッ化水素の量との比較による粉粒体の判定は、例えば以下に示す手順で行うことができる。上述したように、工程(a)においては、温度条件にもよるが、式(3)に示す反応が支配的に起こり得ると考えてよい。供給される硫酸の全量が式(3)に従って直ちにフッ化カルシウムと反応して消費されると仮定すると、理論上は、供給される硫酸の2倍のモル量のフッ化水素が得られる。この仮定に基づいて、工程(a)の一の時点におけるフッ化水素の発生量の理論値を計算することができる。工程(a)の間、フッ化水素の発生量をモニタリングし、上述の理論値と比較する。未反応の硫酸が蓄積して混合物が実質的に粉粒体を維持し得なくなる(ペースティが発生する)と、フッ化水素の発生量は理論値よりも小さい値になる。このことより、ペースティが発生しているか否かを判定することができる。但し、実際の反応においては、硫酸の一部は式(1)に従って反応していると考えられるので、混合物が実質的に粉粒体を維持している場合であっても、実際に発生するフッ化水素の量は、理論値よりも小さい値になり得る。また、フッ化水素の発生量をモニタリングする際のタイムラグも理論値からのずれに影響を及ぼし得る。更に、反応が進行するに従って、未反応のフッ化カルシウムと硫酸との接触が律速となるので、このことも理論値から外れる要因となり得る。これらの要因を考慮して、ペースティが発生しているか否かを判定する必要がある。
【0044】
上述の(i)〜(iii)の判定方法は、単独で用いてよく、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。2つ以上の判定方法を組み合わせて総合的に判断することにより、反応器内の混合物が実質的に粉粒体であるか否かの判定をより確実に行うことができる。
【0045】
フッ化カルシウム粒子と硫酸との混合は、混合物が実質的に粉粒体を維持し得るような条件の下で行われる。混合条件は、反応器内の固体が流動状態にあるような条件であれば特に限定されるものではなく、温度条件や硫酸の供給速度等によって適宜設定することができる。温度が低いほど、また、硫酸の供給速度が速いほど、混合性の高い条件(例えば、撹拌羽根等の撹拌機の回転速度を高くする等)に設定することが望ましい。混合性が高いほど、硫酸とフッ化カルシウム粒子との反応を促進することができ、混合物を実質的に粉粒体に維持することが容易になる。
【0046】
本実施形態において使用可能な反応器は、硫酸をフィードすることができ、かつ内容物の混合および撹拌が可能であるものであれば特に限定されないが、例えば、単軸式または複軸式の、任意の適切な数の撹拌羽根を備える外部加熱式の反応器を用いることができる。より具体的には、高粘度物を混練し得るような1以上の撹拌羽根を備える外部加熱式混練機、リボンミキサー、プラネタリーミキサー、ディスクドライヤー、スーパーミキサー等を用いることができる。反応器は、中間生成物のCa(HSOおよび副生成物の石膏を解砕する機能を必要に応じて有することが好ましい。
【0047】
反応器の混合性は、混合到達度によって評価することができる。本明細書において、「混合到達度」は、日本粉体工業技術協会(APPIE)の規格SAP16−13に準じて測定されるものを意味する。混合到達度は、炭酸カルシウム(白色)と酸化鉄(赤色)とを重量比95:5の割合で混合し、時間経過に伴ってサンプリングした試料の明度をフォトメータで測定することにより求めることができる。混合時間tにおける試料jに対する混合到達度ηは下記式で求められる。

η=(ymax−y)/(ymax−yst

式中、ymaxは炭酸カルシウムの出力値、yは時間tにおける試料jの出力値、ystは参照混合粉体の明度である。参照混合粉体は、所定の配合比率で各粉体成分を完全分散状態に混合した混合粉体であり、規格SAP16−13に準じて調製される。混合物全体の混合到達度の平均値ηは下記式で表される。
【数1】
η=1は酸化鉄が完全分散状態であることを示す。
【0048】
本実施形態において、工程(a)における混合は、混合開始から1分後における混合到達度が0.1以上である装置を用いて行われることが好ましい。混合到達度が0.1以上の装置を用いることにより、混合物が実質的に粉粒体を維持し得、ペースティの発生を効果的に抑制することができる。工程(a)における混合は、より好ましくは、混合開始から1分後における混合到達度が0.2以上の装置を用いて行われる。混合到達度が0.2以上の装置を用いることにより、ペースティの発生をより一層効果的に抑制することができる。また、工程(a)における混合は、混合開始から1分後における混合到達度が好ましくは0.8以下の装置、より好ましくは0.6以下の装置を用いて行われる。混合到達度が0.8以下の装置であると、反応器内で不要な粉塵が舞ってフッ化水素に同伴されることが防止され、原料のロスおよび後工程における粉塵の混入を防止することができる。混合到達度が0.6以下の装置であると、上述の同伴をより一層効果的に防止することができる。
【0049】
硫酸は、混合物が実質的に粉粒体を維持し得るような速度で供給される。硫酸の供給速度(および場合により式(2)の反応による硫酸の生成速度)が硫酸の消費速度を下回ると、混合物は実質的に粉粒体を維持できるが、硫酸の供給速度(および場合により式(2)の反応による硫酸の生成速度)が硫酸の消費速度を上回ると、混合物は実質的に粉粒体を維持できず、ペースティが発生してしまう。
【0050】
また、工程(a)をバッチ式で行う場合、硫酸は、使用する装置の混合性やフッ化カルシウムの仕込み量にもよるが、フッ化カルシウム粒子1molに対して流量0.002〜1mol/minで供給することが好ましい。硫酸の流量を、フッ化カルシウム粒子1molに対して0.002mol/min以上とすることにより、実用上十分短い時間で反応を完結させることができ、1mol/min以下とすることにより、混合物を実質的に粉粒体に維持することができる。硫酸の流量は、反応温度や使用する装置の混合性等に応じて適宜調節することができ、例えば、硫酸はフッ化カルシウム粒子1molに対して流量0.003〜0.07mol/min、より好ましくは0.006〜0.03mol/minで供給することができる。フッ化カルシウム粒子1molに対して0.003mol/min以上、より好ましくは0.006mol/min以上とすることにより、より短時間で反応を完結させることができ、0.07mol/min以下、より好ましくは0.03mol/min以下とすることにより、混合物を実質的に粉粒体に維持することがより容易になる。なお、本明細書において、硫酸の「流量」は、硫酸を供給している間の平均流量を意味する。従って、硫酸の供給の開始から終了までの間の平均流量が上述の範囲内であれば、硫酸の流量が一時的に上述の範囲外となってもよい。
【0051】
硫酸の適切な流量の範囲は特に、使用する装置の混合到達度に応じて変化する。例えば、混合開始から1分後における混合到達度が約0.1である装置を用いる場合、硫酸はフッ化カルシウム粒子1molに対して流量0.002mol/min〜0.007mol/minで供給することが好ましく、混合到達度が約0.5である装置を用いる場合、硫酸はフッ化カルシウム粒子1molに対して流量0.005mol/min〜0.05mol/minで供給することが好ましく、混合到達度が約0.7である装置を用いる場合、硫酸はフッ化カルシウム粒子1molに対して流量0.017mol/min〜0.2mol/minで供給することが好ましい。硫酸の流量が上記範囲内であると、混合物が実質的に粉粒体を維持し得、ペースティの発生を効果的に防止することができる。
【0052】
工程(a)は、連続式の反応器において行うことができる。図2に、連続式反応器の構成の一例を示す。この場合、供給される硫酸の流量は、使用する装置、反応のスケール等、様々な条件に応じて適宜決定することができ、例えば、硫酸の流量を0.002〜1mol/minに設定することができる。このように流量を設定することにより、実用上十分短い時間で反応を完結させることができ、かつ混合物を実質的に粉粒体に維持することができる。本実施形態に係るフッ化水素の製造方法を連続式の反応器において行う場合、工程(a)において、硫酸およびフッ化カルシウム粒子をそれぞれ、反応器出口における硫酸/フッ化カルシウムのモル比が好ましくは0.9〜1.1となるように連続的に反応器に供給する。工程(a)における滞留時間は、使用する装置の種類や反応条件に応じて適宜調節することができる。工程(a)における滞留時間は1〜600分であることが好ましい。滞留時間を上記範囲内とすることにより、混合物を実質的に粉粒体に維持しつつ反応を進行させることができる。滞留時間は、より好ましくは15〜300分、更に好ましくは30〜180分である。滞留時間全体にわたって、硫酸が連続的に供給される。例えば、図2に示すような連続式反応器7を用いて工程(a)を行う場合、硫酸は、反応器内の混合物の進行方向に沿って複数の地点で供給することができる。このように硫酸を複数の地点で供給する場合、供給される硫酸の総流量が、上述の数値範囲内であることが好ましい。尤も、硫酸は、フッ化カルシウム粒子と同様に、1カ所から供給してもよい。
【0053】
工程(a)において、硫酸の供給が終了した後、更に混合を継続してもよい。このように混合を継続することにより、式(1)〜(3)の反応を完結させることができる。式(1)〜(3)の反応が完結したことは、フッ化水素が実質的に発生しなくなったことで確認することができる。上述したように、工程(a)では、反応条件に応じて式(1)〜(3)の反応のいずれか1つ以上が起こっていると考えられる。従って、一部の硫酸は式(1)に従って反応してフッ化水素およびCa(HSOを生じ得る。その結果、工程(a)における硫酸の供給が完了した時点において、反応条件によっては、反応器内において、副生成物の石膏に加えて中間生成物であるCa(HSOおよび未反応のCaFが少量存在し得る。硫酸の供給が完了した後、更に混合を継続することにより、このCa(HSOが、式(2)に従って反応し、それにより生じた硫酸が式(3)に従って未反応のCaFと反応してフッ化水素を生成することができる。このとき、フッ化カルシウム粒子の比表面積が十分大きいと、例えば比表面積が0.5〜30m/gであると、式(2)の反応よりも式(3)の反応の方が、反応速度が速くなるので、(2)の反応で生じる硫酸が、未反応のフッ化カルシウム粒子と直ちに反応して消費され、混合物が実質的に粉粒体を維持することがより容易になる。この更なる混合を行う場合、混合時間は、好ましくは1〜300分、更に好ましくは1〜120分、より一層好ましくは1〜60分である。このように混合時間を設定することにより、式(1)〜(3)の反応を実質的に完結させることができる。この更なる混合を行う場合、反応の進行をより一層促進するために、同時に加熱を行ってもよい。
【0054】
工程(a)を図2に示す連続式反応器7において行う場合、例えば、混合物の進行方向に沿って特定の位置まで硫酸の供給を行い、その後、反応器7の出口まで更に混合を行ってよい。
【0055】
工程(a)を連続式の反応器で行う場合に使用可能な反応器は、硫酸を所定の流量で供給することができるものであれば、特に限定されるものではない。連続式の反応器は、外部から加熱することができ、ショートパスによる未反応物の排出が起こりにくいものであることが好ましい。このような反応器を用いることにより、設備コストを低減することができ、フッ化水素を高収率で連続的に生成することができる。連続式の反応器として、所定の混合到達度を達成できる撹拌機能および反応器内の混合物を前方に押し出す機能を有する反応器、このような反応器を複数連結したもの、押出機と所定の混合到達度を達成できる撹拌装置とを連結したもの、または押出機に所定の混合到達度を達成できる撹拌装置を複数連結したもの等を用いることができる。
【0056】
硫酸の供給速度は、工程(a)にわたって一定であってよく、間欠的であってもよく、あるいは時間と共に変化してもよい。
【0057】
工程(a)を連続式の反応器において行う場合、バッチ式と比較して、生成するフッ化水素の量が脈動せず、後続の生成工程を安定して行うことができるという利点を有する。また、バッチ式と比較して装置を小型化することができる。更に、原料投入バルブや、生成する石膏の排出バルブ等の詰まりがおこる懸念がなくなるので、装置を安定運転することができ、フッ化水素の連続生産を効率よく行うことができる。
【0058】
以上より、ペースティの発生を効果的に防止して実質的に粉粒体に維持したまま反応を進行させ、フッ化水素を気相中に得ることができる。残余の反応混合物は粉粒状であり、副生成物である石膏を主として含む。このときのCaF転化率は、具体的な反応条件にもよるが、90%以上に達し得、好ましくは95%以上に達し得る。フッ化水素は、回収して目的生成物として精製分離することが好ましい。
【0059】
本実施形態において、硫酸の供給速度を調節することにより、工程(a)において混合物が実質的に粉粒体を維持することができ、ペースティの発生を防止することができる。そのため、反応器の内部に付着したペースティを取り除くための機械的な掻き取り等が不要になる。また、ペースティが反応器の内壁面に付着することによる伝熱効率の低下を防止することができ、反応に要する時間が大幅に短縮され。全体として、エネルギーコストを大幅に低減することができる。また、供給される硫酸が直ちにフッ化カルシウム粒子と反応して消費されるので、硫酸による腐食リスクを抑制することができる。また、上述のようにペースティの付着による伝熱効率の低下を防止できるので、伝熱性の良好な装置を選定することにより、従来の方法と比較して反応温度を低く設定することができる。反応温度を低く設定することにより、腐食を更に抑制することができる。従って、腐食防止のための装置コストを低減できる。
【0060】
(実施形態2)
本実施形態は、本発明の第二の要旨によるフッ化水素製造方法に関する。以下、実施形態1と異なる点を中心に説明するものとし、特段説明のない限り、実施形態1と同様の説明が当て嵌まる。
【0061】
本実施形態において、フッ化カルシウム粒子および硫酸は、実施形態1と同様のものを用いることができる。フッ化カルシウム粒子および硫酸は、工程(b)に付す前に、所定の反応温度に予熱または予冷しておいてよい。予熱または予冷温度は、所望の反応条件に基づいて適宜調節することができ、例えば、工程(b)で使用する反応器の設定温度と同じであってよい。フッ化カルシウム粒子の予熱または予冷温度と硫酸の予熱または予冷温度とは同じであってよく、異なっていてもよい。
【0062】
工程(b)
フッ化カルシウム粒子に、硫酸を供給しながら、フッ化カルシウム粒子と硫酸とを、混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応させる。
【0063】
工程(b)における混合および反応は、0〜170℃の温度の下で行うことが好ましい。0℃以上とすることによって、硫酸が凍結せずに液体状態で維持できる。混合および反応は、より好ましくは50℃以上で行う。50℃以上であると、混合物が実質的に粉粒体を維持し得る程度に硫酸の反応速度を速くすることができる。混合および反応を80℃以下で行うことより、上述の式(1)に示す反応が支配的に起こる。硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9〜1.1となる量まで供給することが好ましい。これにより、式(1)の化学量論量に比べて約2倍モル量のフッ化カルシウムが存在することになる。そのため、供給した硫酸の全量が反応すると、中間生成混合物とフッ化水素とが得られ、中間生成混合物は約1倍モル量の未反応のフッ化カルシウムが含まれることになる。フッ化カルシウム粒子の不純物の種類によっては、不純物による硫酸の消費を補償する目的で、硫酸および/またはSOを、消費相当量分を過剰に仕込んでよい。
【0064】
本実施形態に係る方法を連続式で実施する場合、上述のモル比は反応器の出口において達成されるものとする。
【0065】
フッ化カルシウム粒子と硫酸とは、混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応される。混合物が実質的に粉粒体を維持しているか否かを判定する方法としては、実施形態1と同様の方法を用いることができ、例えば、(i)目視、(ii)混合に用いる撹拌機のトルクおよび/または電流値の急激な上昇および/またはハンチング、および(iii)工程(b)の一の時点において供給される硫酸の量に基づいて求められるフッ化水素の発生量の理論値と、該一の時点において発生するフッ化水素の量との比較のいずれか1つ又は2つ以上の組み合わせによって判定することができる。上述の(i)目視および(ii)混合に用いる撹拌機のトルクの変化率による粉粒体の判定は、実施例1と同様の手順で行うことができる。
【0066】
工程(b)の一の時点において供給される硫酸の量に基づいて求められるフッ化水素の発生量の理論値と、その一の時点において発生するフッ化水素の量との比較による粉粒体の判定は、例えば以下に示す手順で行うことができる。上述したように、工程(b)においては式(1)に示す反応が支配的に起こる。供給される硫酸の全量が式(1)に従って直ちにフッ化カルシウムと反応して消費されると仮定すると、理論上は、供給される硫酸と等モル量のフッ化水素が得られる。この仮定に基づいて、工程(b)の一の時点におけるフッ化水素の発生量の理論値を計算することができる。工程(b)の間、フッ化水素の発生量をモニタリングし、上述の理論値と比較する。未反応の硫酸が蓄積して混合物が実質的に粉粒体を維持し得なくなる(第一ペースティが発生する)と、フッ化水素の発生量は理論値よりも小さい値になる。このことより、第一ペースティが発生しているか否かを判定することができる。但し、実際の反応条件によっては、硫酸の一部は式(3)に従って反応していると考えられるので、混合物が実質的に粉粒体を維持している場合であっても、実際に発生するフッ化水素の量は、理論値よりも大きい値になり得る。また、フッ化水素の発生量をモニタリングする際のタイムラグも理論値からのずれに影響を及ぼし得る。更に、反応が進行するに従って、未反応のフッ化カルシウムと硫酸との接触が律速となるので、このことも理論値から外れる要因となり得る。これらの要因を考慮して、第一ペースティが発生しているか否かを判定する必要がある。
【0067】
上述の(i)〜(iii)の判定方法は、単独で用いてよく、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。2つ以上の判定方法を組み合わせて用いることにより、反応器内の混合物が実質的に粉粒体であるか否かの判定をより確実に行うことができる。
【0068】
フッ化カルシウム粒子と硫酸との混合は、混合物が実質的に粉粒体を維持し得るような条件の下で行われる。混合条件の詳細は、実施形態1において説明したものと同様である。また、本実施形態においては、実施形態1と同様の反応器を使用可能である。
【0069】
本実施形態において、工程(b)における混合は、混合開始から1分後における混合到達度が0.1以上である装置を用いて行われることが好ましい。混合到達度が0.1以上の装置を用いることにより、混合物が実質的に粉粒体を維持し得、ペースティの発生を効果的に抑制することができる。工程(b)における混合は、より好ましくは、混合開始から1分後における混合到達度が0.2以上の装置で行われる。混合到達度が0.2以上の装置を用いることにより、ペースティの発生をより一層効果的に抑制することができる。また、工程(b)における混合は、混合開始から1分後における混合到達度が好ましくは0.8以下の装置、より好ましくは0.6以下の装置を用いて行われる。混合到達度が0.8以下の装置であると、反応器内で不要な粉塵が舞ってフッ化水素に同伴されることが防止され、原料のロスおよび後工程における粉塵の混入を防止することができる。混合到達度が0.6以下の装置であると、上述の同伴をより一層効果的に防止することができる。
【0070】
硫酸は、混合物が実質的に粉粒体を維持し得るような速度で供給される。硫酸の供給速度が硫酸の消費速度を下回ると、混合物は実質的に粉粒体を維持できるが、硫酸の供給速度が硫酸の消費速度を上回ると、混合物は実質的に粉粒体を維持できず、第一ペースティが発生してしまう。
【0071】
また、工程(b)をバッチ式で行う場合、硫酸は、使用する装置の混合性やフッ化カルシウムの仕込み量にもよるが、フッ化カルシウム粒子1molに対して流量0.002〜1mol/minで供給することが好ましい。硫酸の流量を、フッ化カルシウム粒子1molに対して0.002mol/min以上とすることにより、実用上十分短い時間で反応を完結させることができ、1mol/min以下とすることにより、混合物を実質的に粉粒体に維持することができる。硫酸の流量は、反応温度や使用する装置の混合性等に応じて適宜調節することができ、例えば、硫酸はフッ化カルシウム粒子1molに対して流量0.003〜0.07mol/min、より好ましくは0.006〜0.03mol/minで供給することができる。フッ化カルシウム粒子1molに対して0.003mol/min以上、より好ましくは0.006mol/min以上とすることにより、より短時間で反応を完結させることができ、0.07mol/min以下、より好ましくは0.03mol/min以下とすることにより、混合物を実質的に粉粒体に維持することがより容易になる。なお、本明細書において、硫酸の「流量」は、硫酸を供給している間の平均流量を意味する。従って、硫酸の供給の開始から終了までの間の平均流量が上述の範囲内であれば、硫酸の流量が一時的に上述の範囲外となってもよい。
【0072】
硫酸の適切な流量の範囲は特に、使用する装置の混合到達度に応じて変化する。例えば、混合開始から1分後における混合到達度が約0.1の装置である場合、硫酸はフッ化カルシウム粒子1molに対して流量0.002mol/min〜0.007mol/minで供給することが好ましく、混合到達度が約0.5の装置である場合、硫酸はフッ化カルシウム粒子1molに対して流量0.005mol/min〜0.05mol/minで供給することが好ましく、混合到達度が約0.7の装置である場合、硫酸はフッ化カルシウム粒子1molに対して流量0.017mol/min〜0.2mol/minで供給することが好ましい。硫酸の流量が上記範囲内であると、混合物が実質的に粉粒体を維持し得、ペースティの発生を効果的に防止することができる。
【0073】
工程(b)は、連続式の反応器において行うことができる。この場合、供給される硫酸の流量は、使用する装置、反応のスケール等、様々な条件に応じて適宜決定することができ、例えば、硫酸の流量を0.002〜1mol/minに設定することができる。このように流量を設定することにより、実用上十分短い時間で反応を完結させることができ、かつ混合物を実質的に粉粒体に維持することができる。本実施形態に係るフッ化水素の製造方法を連続式の反応器において行う場合、工程(b)において、硫酸およびフッ化カルシウム粒子をそれぞれ、反応器出口における硫酸/フッ化カルシウムのモル比が好ましくは0.9〜1.1となるように連続的に反応器に供給する。工程(b)における滞留時間は、使用する装置の種類や反応条件に応じて適宜調節することができる。工程(b)における滞留時間は1〜600分であることが好ましい。滞留時間を上記範囲内とすることにより、混合物を実質的に粉粒体に維持しつつ反応を進行させることができる。滞留時間は、より好ましくは15〜300分、更に好ましくは30〜180分である。滞留時間全体にわたって、硫酸が連続的に供給される。例えば、図2に示すような連続式反応器7を用いて工程(b)を行う場合、硫酸は、反応器内の混合物の進行方向に沿って複数の地点で供給することができる。このように硫酸を複数の地点で供給する場合、供給される硫酸の総流量が、上述の数値範囲内であることが好ましい。尤も、硫酸は、フッ化カルシウム粒子と同様に、1カ所から供給してもよい。
【0074】
工程(b)においては、第1の実施形態の工程(a)において使用可能な連続式反応器を同様に用いることができる。
【0075】
工程(b)を連続式の反応器において行う場合、バッチ式と比較して、生成するフッ化水素の量が脈動せず、後続の生成工程を安定して行うことができるという利点を有する。また、バッチ式と比較して装置を小型化することができる。更に、原料投入バルブや、生成する石膏の排出バルブ等の詰まりがおこる懸念がなくなるので、装置を安定運転することができ、フッ化水素の連続生産を効率よく行うことができる。
【0076】
硫酸の供給速度は、工程(b)にわたって一定であってよく、間欠的であってもよく、あるいは時間と共に変化してもよい。
【0077】
以上より、第一ペースティの発生を効果的に防止して実質的に粉粒体に維持したまま反応を進行させ、粉粒状の中間生成混合物と、フッ化水素とを得ることができる。中間生成混合物は、中間生成物であるCa(HSOと、未反応のCaFとを、ほぼ等モル量で含んで成る。このときのCaF転化率は、具体的な反応条件にもよるが、50%±10%程度であり得る。中間生成混合物は、式(3)に示す反応に由来する石膏(CaSO)を少量含んでもよい。生成するフッ化水素は、気相中に存在しても、固体混合物中に存在していてもよい。気相中に存在するフッ化水素は、回収して目的生成物として精製分離することが好ましい。
【0078】
工程(c)
上記の工程(b)により得られる粉粒状の中間生成混合物を、工程(c)において、工程(b)より高温条件下で混合および反応させる。工程(c)における混合および反応は、80〜500℃の温度で行うことが好ましい。80℃以上とすることによって、フッ化水素を十分な蒸発速度で気相中に得ることができる。加熱温度は、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上である。90℃以上であると、式(3)の反応を促進することができ、100℃以上であると、反応はより促進される。更に好ましくは、加熱温度を170℃以上とする。170℃以上にすることにより、式(3)の反応を更に一層促進することができる。加熱温度を500℃以下とすることにより、硫酸の熱分解や蒸発を防止することができる。この温度条件の下では、式(2)および(3)の反応が支配的に起こる。式(2)の反応により生じる硫酸は、混合物中に存在する未反応のフッ化カルシウム粒子と直ちに反応して消費され、その結果、混合物は、ペースト状の付着物を発生させることなく(即ち、第二ペースティを発生させることなく)、全体として粉粒体を維持し得る。混合および反応は、より好ましくは250℃以下で行われる。250℃以下であると、硫酸の分解および装置の腐食をより効果的に抑制することができる。このとき、フッ化カルシウム粒子の比表面積が0.5〜30m/gであると、式(3)のほうが式(2)よりも反応速度が速くなるので、第二ペースティの発生をより効果的に抑制することができる。工程(c)の間、反応混合物を積極的に混合(または攪拌)すると気相中に不要な粉塵が舞ってフッ化水素に同伴され得るので好ましくないが、副生する石膏を、流動性を有する(粉体)状態で得たい場合には混合(または攪拌)してもよい。
【0079】
別法として、副生成物として生成される石膏を反応器中にリサイクルすることによっても、第二ペースティの発生を防止することができる。
【0080】
工程(c)における混合時間は、例えば10〜60分であってよい。10分以上とすることによって、十分にフッ化水素を反応および蒸発させることができ、60分以下とすることによって、装置規模が過大になるのを回避できる。これにより生成したフッ化水素は気相中に得られ、回収して目的生成物として精製分離することが好ましい。
【0081】
工程(c)は、連続式の反応器において行うことができる。この場合、工程(c)における滞留時間は、例えば好ましくは1〜300分、より好ましくは1〜120分とすることができる。このように滞留時間を設定することにより、工程(c)における反応を実質的に完結させることができる。工程(c)を連続式の反応器で行う場合に使用可能な反応器は、特に限定されるものではないが、外部から加熱することができ、ショートパスによる未反応物の排出が起こりにくいものであることが好ましい。このような反応器を用いることにより、設備コストを低減することができ、フッ化水素を高収率で連続的に生成することができる。工程(b)および(c)を連続式の反応器において行う場合、工程(b)および(c)は単一の反応器において実施してよい。例えば、図2に示すような反応器7を用いる場合、フッ化カルシウムの投入位置から、混合物の流れの方向に沿って特定の位置までは、工程(b)の温度条件に設定し、当該特定の位置から反応器出口までは、工程(c)の温度条件に設定する。このような温度設定により、単一の反応器において、工程(b)および(c)の反応を連続的に実施することができる。別法として、工程(b)および(c)は別々の反応器で実施してもよい。この場合、工程(b)および(c)はそれぞれ、単一の反応器において実施されてよく、連結された複数の反応器において実施されてもよい。
【0082】
以上により、第二ペースティの発生を効果的に防止しつつ、フッ化水素を気相中に得ることができる。残余の反応混合物は粉粒状であり、副生成物である石膏を主に含み得る。このときのCaF転化率は、具体的な反応条件にもよるが、90%以上に達し得、好ましくは95%以上に達し得る。
【0083】
本実施形態において、硫酸の供給速度を調節することにより、工程(b)および(c)の両方において混合物が実質的に粉粒体を維持することができ、第一および第二ペースティの発生を防止することができる。そのため、反応器の内部に付着したペースティを取り除くための機械的な掻き取り等が不要になる。また、ペースティが反応器の内壁面に付着することによる伝熱効率の低下を防止することができ、反応に要する時間が大幅に短縮され。全体として、エネルギーコストを大幅に低減することができる。また、供給される硫酸が直ちにフッ化カルシウム粒子と反応して消費されるので、硫酸による腐食リスクを抑制することができる。また、上述のようにペースティの付着による伝熱効率の低下を防止できるので、伝熱性の良好な装置を選定することにより、従来の方法と比較して反応温度を低く設定することができる。反応温度を低く設定することにより、腐食を更に抑制することができる。従って、腐食防止のための装置コストを低減できる。
【実施例】
【0084】
(実施例1)
本実施例は、本発明の第一の要旨によるフッ化水素の製造方法に関する。
【0085】
本実施例において、撹拌羽根を有する容量2Lの槽型反応器(以下、「反応器A」ともよぶ)を反応器として用いた。反応器にはのぞき窓が設けられており、反応器の内部の様子をのぞき窓から観察することができた。
【0086】
まず、日本粉体工業技術協会(APPIE)の規格SAP16−13に基づいて反応器Aの混合到達度の評価を行った。平均粒径3μmの炭酸カルシウム(白色)および平均粒径0.7μmの酸化鉄(赤色)を重量比95:5で周速2.5m/sにて混合した。混合開始から1分後における混合物の明度をフォトメータで測定した。測定した明度に基づいて混合到達度の評価を行ったところ、混合開始から1分後における反応器Aの混合到達度は約0.7であった。
【0087】
工程(a)
フッ化カルシウム(CaF)粒子として、平均粒径10μm、比表面積1m/gの蛍石を用いた。このフッ化カルシウム粒子500g(6.40mol)を反応器に入れ、反応器温度を120℃に設定し、蛍石を反応器の設定温度に予熱した。
別途120℃に予熱しておいた硫酸625g(6.37mol)を、流量31.25g/min(フッ化カルシウム粒子1molに対して0.05mol/min)で反応器に供給しながらフッ化カルシウムと硫酸とを撹拌混合した。混合温度は反応器の設定温度(即ち120℃)と考えて差し支えない。
反応器に設けられたのぞき窓から反応器内の様子を目視で観察した。同時に、発生するフッ化水素の量、ならびに撹拌羽根のトルクおよび電流値のモニタリングも行った。目視により、工程(a)の間、混合物が固体(即ち粒状)の状態を維持し、反応器内にペースティが発生しなかったことが確認された。また、工程(a)の間、撹拌羽根のトルクおよび電流値の急激な上昇およびハンチングは観察されなかった。更に、フッ化水素の発生量のモニタリングの結果、工程(a)の間、フッ化水素の発生量は、理論値の99%であった。以上の結果より、工程(a)の間、混合物が実質的に粉粒体を維持したと判定した。
【0088】
硫酸の供給は、供給開始から20分後に完了した。硫酸の供給が完了した時点において、フッ化カルシウムの転化率は75%であると計算され、混合物は粉粒体であった。硫酸の供給が完了した後も引き続いて120℃にて撹拌を続けたところ、フッ化水素が発生し、混合物は実質的に粉粒体が維持された。硫酸の供給完了から45分後にフッ化水素が発生しなくなった。この時点において、フッ化カルシウムの転化率は98%であると計算された。
【0089】
(実施例2)
本実施例は、実施例1の改変例であって、各原料の使用量を実施例1の2倍にしたものである。
【0090】
本実施例は、実施例1において用いた反応器と同様のもの(反応器A)を用いて実施した。
工程(a)
フッ化カルシウム(CaF)粒子として、実施例1において用いたものと同じ蛍石を用いた。このフッ化カルシウム粒子1000g(12.8mol)を反応器に入れ、反応器温度を120℃に設定し、蛍石を反応器の設定温度に予熱した。
別途120℃に予熱しておいた硫酸1250g(12.7mol)を、流量25g/min(フッ化カルシウム粒子1molに対して0.02mol/min)で反応器に供給しながらフッ化カルシウムと硫酸とを撹拌混合した。混合温度は反応器の設定温度(即ち120℃)と考えて差し支えない。
反応器に設けられたのぞき窓から反応器内の様子を目視で観察した。同時に、発生するフッ化水素の量、ならびに撹拌羽根のトルクおよび電流値のモニタリングも行った。目視により、工程(a)の間、混合物が固体(即ち粒状)の状態を維持し、反応器内にペースティが発生しなかったことが確認された。また、工程(a)の間、撹拌羽根のトルクおよび電流値の急激な上昇およびハンチングは観察されなかった。更に、フッ化水素の発生量のモニタリングの結果、工程(a)の間、フッ化水素の発生量は、理論値の99%であった。以上の結果より、工程(a)の間、混合物が実質的に粉粒体を維持したと判定した。
【0091】
硫酸の供給は、供給開始から50分後に完了した。硫酸の供給が完了した時点において、フッ化カルシウムの転化率は75%であると計算され、混合物は粉粒体であった。硫酸の供給が完了した後も引き続いて120℃にて撹拌を続けたところ、フッ化水素が発生し、混合物は実質的に粉粒体が維持された。硫酸の供給完了から50分後にフッ化水素が発生しなくなった。この時点において、フッ化カルシウムの転化率は98%であると計算された。
【0092】
(実施例3)
本実施例は、本発明の第二の要旨によるフッ化水素の製造方法に関する。
【0093】
本実施例は、実施例1において用いた反応器と同様のもの(反応器A)を用いて実施した。
工程(b)
フッ化カルシウム(CaF)粒子として、実施例1において用いたものと同じ蛍石を用いた。このフッ化カルシウム粒子1000g(12.8mol)を反応器に入れ、反応器温度を80℃に設定し、蛍石を反応器の設定温度に予熱した。
別途80℃に予熱しておいた硫酸1250g(12.7mol)を、流量25g/min(フッ化カルシウム粒子1molに対して0.02mol/min)にて反応器に供給しながらフッ化カルシウムと硫酸とを撹拌混合した。混合温度は反応器の設定温度(即ち80℃)と考えて差し支えない。
反応器に設けられたのぞき窓から反応器内の様子を目視で観察した。同時に、発生するフッ化水素の量、ならびに撹拌羽根のトルクおよび電流値のモニタリングも行った。目視により、工程(b)の間、混合物が固体(即ち粒状)の状態を維持し、反応器内にペースティが発生しなかったことが確認された。また、工程(b)の間、撹拌羽根のトルクおよび電流値の急激な上昇およびハンチングは観察されなかった。更に、フッ化水素の発生量のモニタリングの結果、工程(b)の間、フッ化水素の発生量は、理論値の99%であった。以上の結果より、工程(b)の間、混合物が実質的に粉粒体を維持したと判定した。
硫酸の供給は、供給開始から50分後に完了した。この時点において、フッ化カルシウムの転化率は50%であると計算された。
【0094】
工程(c)
次いで、反応器の設定温度を130℃に上昇させ、中間生成混合物の混合および反応を行った。目視により、工程(c)の間、混合物が固体(即ち粒状)の状態を維持し、反応器内に付着物が発生しなかったことが確認された。
工程(c)の開始から40分後にフッ化水素が発生しなくなった。この時点で加熱および撹拌を終了した。フッ化水素の発生量より、フッ化カルシウムの転化率は98%であると計算された。
【0095】
(実施例4)
本実施例は、実施例3の改変例であって、硫酸の流量を増加したものである。
【0096】
本実施例は、実施例1において用いた反応器と同様のもの(反応器A)を用いて実施した。
工程(b)
硫酸の流量を62.5g/min(フッ化カルシウム粒子1molに対して0.05mol/min)とした以外は実施例3と同様の手順で工程(b)を行った。目視により、工程(b)の間、混合物が固体(即ち粒状)の状態を維持し、反応器内にペースティが発生しなかったことが確認された。また、工程(b)の間、撹拌羽根のトルクおよび電流値の急激な上昇およびハンチングは観察されなかった。更に、フッ化水素の発生量のモニタリングの結果、工程(b)の間、フッ化水素の発生量は、理論値の99%であった。以上の結果より、工程(b)の間、混合物が実質的に粉粒体を維持したと判定した。
硫酸の供給は、供給開始から20分後に完了した。この時点において、フッ化カルシウムの転化率は40%であると計算された。
【0097】
工程(c)
次いで、実施例3と同様の手順で工程(c)を行った。目視により、工程(c)の間、混合物が固体(即ち粒状)の状態を維持し、反応器内に付着物が発生しなかったことが確認された。
工程(c)の開始から100分後にフッ化水素が発生しなくなった。この時点で加熱および撹拌を終了した。フッ化水素の発生量より、フッ化カルシウムの転化率は98%であると計算された。
【0098】
(実施例5)
本実施例は、実施例3の改変例であり、実施例3において用いた撹拌羽根よりも羽根のサイズが小さく混合性の低い撹拌羽根を有する容量2Lの槽型反応器(以下、「反応器B」ともよぶ)を反応器として用いたものである。
【0099】
まず、日本粉体工業技術協会(APPIE)の規格SAP16−13に基づいて反応器Bの混合到達度の評価を行った。平均粒径3μmの炭酸カルシウム(白色)および平均粒径0.7μmの酸化鉄(赤色)を重量比95:5で周速0.6m/sにて混合した。混合開始から1分後における混合物の明度をフォトメータで測定した。測定した明度に基づいて混合到達度の評価を行ったところ、混合開始から1分後における反応器Bの混合到達度は約0.1であった。
【0100】
工程(b)
硫酸の流量を8.3g/min(フッ化カルシウム粒子1molに対して0.007mol/min)とした以外は実施例3と同様の手順で工程(b)を行った。目視により、工程(b)の間、混合物が固体(即ち粒状)の状態を維持し、反応器内にペースティが発生しなかったことが確認された。また、工程(b)の間、撹拌羽根のトルクおよび電流値の急激な上昇およびハンチングは観察されなかった。更に、フッ化水素の発生量のモニタリングの結果、工程(b)の間、フッ化水素の発生量は、理論値の99%であった。以上の結果より、工程(b)の間、混合物が実質的に粉粒体を維持したと判定した。
硫酸の供給は、供給開始から150分後に完了した。この時点において、フッ化カルシウムの転化率は50%であると計算された。
【0101】
工程(c)
次いで、実施例3と同様の手順で工程(c)を行った。目視により、工程(c)の間、混合物が固体(即ち粒状)の状態を維持し、反応器内に付着物が発生しなかったことが確認された。
工程(c)の開始から100分後にフッ化水素が発生しなくなった。この時点で加熱および撹拌を終了した。フッ化水素の発生量より、フッ化カルシウムの転化率は98%であると計算された。
【0102】
(実施例6)
本実施例は、実施例5の改変例であり、硫酸の流量を増加したものである。
【0103】
本実施例は、実施例5において用いた反応器と同様のもの(反応器B)を用いて実施した。
工程(b)
硫酸の流量を16.7g/min(フッ化カルシウム粒子1molに対して0.013mol/min)とした以外は実施例5と同様の手順で工程(b)を行った。目視により、工程(b)の間、混合物が固体(即ち粒状)の状態を維持し、反応器内にペースティが発生しなかったことが確認された。また、工程(b)の間、撹拌羽根のトルクおよび電流値の急激な上昇およびハンチングは観察されなかった。更に、フッ化水素の発生量のモニタリングの結果、工程(b)の間、フッ化水素の発生量は、理論値の99%であった。以上の結果より、工程(b)の間、混合物が実質的に粉粒体を維持したと判定した。
硫酸の供給は、供給開始から75分後に完了した。この時点において、フッ化カルシウムの転化率は40%であると計算された。
【0104】
工程(c)
次いで、実施例5と同様の手順で工程(c)を行った。目視により、工程(c)の間、混合物が固体(即ち粒状)の状態を維持し、反応器内に付着物が発生しなかったことが確認された。
工程(c)の開始から225分後にフッ化水素が発生しなくなった。この時点で加熱および撹拌を終了した。フッ化水素の発生量より、フッ化カルシウムの転化率は98%であると計算された。
【0105】
実施例1〜6の実施条件および結果を表1および2に示す。表1および表2において、CaF粒子および硫酸の重量は、いずれもCaFおよびHSOの純量であり、「モル比」は、使用した硫酸/フッ化カルシウムのモル比を意味する。各工程の間中、反応器内の混合物が実質的に粉粒体を維持した場合には「○」、粉粒体が維持されなかった場合には「×」として示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
実施例1〜6の結果より、フッ化カルシウムと硫酸との反応を一段階で行った場合(実施例1および2)および二段階で行った場合(実施例3〜6)の両方において、プロセス全体にわたって実質的に粉粒体を維持したまま反応が進行したことがわかる。
【0109】
二段階で反応を行った実施例3の工程(b)において硫酸を供給するのに要した時間は、一段階で反応を行った実施例2の工程(a)において硫酸を供給するのに要した時間よりも長かった。しかし、硫酸の供給開始からフッ化水素が発生しなくなるまでにかかった時間は、実施例2よりも実施例3において短くなった。
【0110】
工程(b)の硫酸供給終了時におけるフッ化カルシウムの転化率は、実施例3において50%であったのに対し、実施例6においては40%であった。また、工程(c)においてフッ化水素が発生しなくなるのに要した時間は、実施例3において40分であったのに対し、実施例4において100分であった。これは、実施例4における硫酸の流量が実施例3における流量よりも大きく、そのため、実施例4の工程(b)において反応器内の混合物中に未反応の硫酸が蓄積する傾向を示したことに起因すると考えられる。
【0111】
同様に、工程(b)の硫酸供給終了時におけるフッ化カルシウムの転化率は、実施例5において50%であったのに対し、実施例6においては40%であった。また、工程(c)においてフッ化水素が発生しなくなるのに要した時間は、実施例5において100分であったのに対し、実施例4において225分であった。これは、実施例6における硫酸の流量が実施例5における流量よりも大きく、そのため、実施例6の工程(b)において反応器内の混合物中に未反応の硫酸が蓄積する傾向を示したことに起因すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のフッ化水素製造方法は、フッ化カルシウム源に関する実用上の制約を大幅に緩和することができ、原料の安定供給および原料コストの削減を達成できる。
また、装置の機械的負荷変動および耐久性に悪影響を与え得るペースティの発生、ならびにペースティ中の硫酸による腐食を防止することができ、その結果、装置コストを低減し得る。本発明の方法は、従来の方法と比較して低温かつ短時間で実施可能であり、エネルギーコストを大幅に低減し得る。
【符号の説明】
【0113】
1 予備反応器
3 誘導管
5 ロータリーキルン
7 連続式反応器
図1
図2