(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにチルカット方式を用いてガラス管を切断する場合、ガラス管に対して切断刃を接触させた際にガラスの微粉が発生する。このようにガラス管の切断工程で発生するガラスの微粉は、切断後に得られるガラス物品に付着することでガラス物品の清浄性を低下させるおそれがある。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガラスの微粉の発生を抑えることで、清浄性の高いガラス物品を得ることを可能にしたガラス物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するガラス物品の製造方法は、両端部を有するガラス管の少なくとも一端部を切断する切断工程を備え、管状のガラス物品を製造するガラス物品の製造方法であって、前記切断工程は、前記ガラス管の両端のうち、少なくとも一端を自由端として前記ガラス管を支持する第1工程と、前記ガラス管の管軸方向において、前記ガラス管を支持している支持部分と前記自由端との間における前記ガラス管の外周面にレーザー光を照射する第2工程と、を備え、前記第2工程では、前記レーザー光を前記ガラス管の全周にわたって走査することで、前記支持部分と前記レーザー光を走査した走査位置との間のガラスを内部応力により非接触の状態で割断する。
【0007】
この方法によれば、ガラスに対する切断刃の接触を回避してガラスを割断するため、ガラスの微粉の発生を抑えることができる。
上記ガラス物品の製造方法において、前記ガラス管における管壁の厚さが0.3mm以上、0.6mm以下の範囲であり、前記レーザー光の出力が100W以上、500W以下の範囲であり、前記レーザー光の走査速度が50mm/sec以上、400mm/sec以下の範囲であることが好ましい。
【0008】
例えば、上記のような製造条件に設定することで、切断不良を抑えることが可能となる。
上記ガラス物品の製造方法において、前記レーザー光の走査速度が50mm/sec以上、100mm/sec以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0009】
この方法によれば、レーザー光の走査位置においてガラス管の溶断を抑制し、かつ、ガラス管の支持部分とレーザー光を走査した走査位置との間のガラスで発生する内部応力を高めることが容易となる。
【0010】
上記ガラス物品の製造方法において、前記第1工程では、管軸を中心に回転可能であり、かつ管軸方向が垂直方向に対して傾斜するように前記ガラス管を支持し、前記第2工程では、管軸を中心に回転されている前記ガラス管の外周面にレーザー光を照射することが好ましい。
【0011】
この方法によれば、レーザー光を照射する位置を一定にすることができるため、例えば、レーザー光照射装置の複雑な位置制御を回避することが可能となる。
上記ガラス物品の製造方法において、前記第1工程では、前記ガラス管の両端を自由端として前記ガラス管を支持し、前記第2工程では、前記支持部分と、前記ガラス管の一方の前記自由端との間、及び前記支持部分と、前記ガラス管の他方の前記自由端との間において、前記レーザー光を照射することで、前記ガラス管の両端部を割断することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガラスの微粉の発生を抑えることで、清浄性の高いガラス物品を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、ガラス物品の製造方法の実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0015】
ガラス物品の製造方法は、両端部を有するガラス管の少なくとも一端部を切断する切断工程を備えている。本実施形態では、ガラス管の一端部を切断する切断工程を一例として説明する。
【0016】
図1に示すように、ガラス物品の製造方法における切断工程は、ガラス管11の一端を自由端12としてガラス管11を支持する第1工程と、ガラス管11の外周面にレーザー光LBを照射する第2工程とを備えている。第2工程でレーザー光LBを照射するガラス管11の外周面は、ガラス管11の管軸方向においてガラス管11を支持している支持部分13とガラス管11の自由端12との間に位置する外周面である。
【0017】
本実施形態のガラス物品の製造方法における第1工程では、回転可能に軸支された一対の支持ローラーR1,R2を用いてガラス管11を支持している。ガラス管11は、
図1に矢印で示す方向に支持ローラーR1,R2が回転駆動されることで、
図1に矢印で示すように管軸を中心に回転される。このように本実施形態の第1工程では、ガラス管11を管軸方向において一対の支持ローラーR1,R2と接する範囲が支持部分13となっている。
【0018】
ガラス物品の製造方法における第1工程では、ガラス管11の支持部分13と自由端12との間の直管部分に曲げ応力が加わるように、ガラス管11を管軸方向が垂直方向に対して傾斜するように支持することが好ましい。本実施形態では、第1工程で用いる一対の支持ローラーR1,R2の回転軸は水平方向に延在し、ガラス管11は、管軸方向が一対の支持ローラーR1,R2の回転軸と平行になるように配置されている。すなわち、ガラス管11は、管軸方向は水平方向と平行となるように支持されている。
【0019】
図1及び
図2に示すように、ガラス物品の製造方法における第2工程では、レーザー光LBをガラス管11の全周にわたって走査することで、
図2及び
図3に示すように、上述した支持部分13と、レーザー光LBを走査した走査位置P1(二点鎖線で示す。)との間のガラスを内部応力により非接触の状態で割断する。これにより、
図3に示すように、一端部が切断された管状のガラス物品14が得られる。
【0020】
詳述すると、ガラス物品の製造方法における第2工程では、レーザー光LBをガラス管11の管軸と直交する面内でガラス管11の外周面を周回するように走査する。本実施形態の第2工程では、支持ローラーR1,R2の回転駆動により管軸を中心に回転されているガラス管11の外周面にレーザー光LBを照射することで、上記のようにレーザー光LBを走査している。なお、
図1〜
図3に示すように、レーザー光LBを照射するレーザー光照射装置15は、例えば、ガラス管11の上方に配置することができる。
【0021】
ここで、ガラス物品の製造方法の第2工程において、ガラス管11の内部応力に基づく割断について説明する。上記のようにガラス管11にレーザー光LBを走査すると、レーザー光LBが走査されたガラス管11の走査位置P1では、引張応力が局所的に発生する。このとき、ガラス管11においてレーザー光LBの走査位置P1と支持部分13との間のガラスには、上記走査位置P1で発生した引張応力と支持部分13による拘束力とが働くことで、管軸方向に沿って対向する応力(圧縮応力)が発生する。すなわち、ガラス管11においてレーザー光LBの走査位置P1と支持部分13との間のガラスには、ガラス管11の管軸方向と直交する面に沿うように圧縮応力が集中した応力集中部分P2(二点鎖線で示す。)が形成される。このように応力集中部分P2が形成されることで、その応力集中部分P2を界面としてガラスを割断(分断)することができる。なお、ガラス管11においてレーザー光LBの走査位置P1と自由端12との間のガラスでは、ガラス管11の自由端12により内部応力が開放されるため、割断(分断)されない。
【0022】
ガラス物品の製造方法の第2工程で用いるレーザー光LBとしては、例えば、固体レーザー(例えば、YAGレーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー等)、及び気体レーザー(例えば、CO
2レーザー、エキシマレーザー)が挙げられる。
【0023】
次に、ガラス物品の製造方法の第2工程で用いるレーザー光LBの条件について説明する。レーザー光LBの条件は、切断工程を行う予定のガラス管についてレーザー光LBの条件を変更しながら、切断の可否や切断面を確認する予備試験の結果に応じて設定することができる。レーザー光LBの条件は、例えば、レーザー光LBの出力、及びレーザー光LBの走査速度を変更する予備試験により設定することができる。
【0024】
レーザー光LBの条件のうち、レーザー光LBの出力を高めるほど、ガラス管11の内部応力を高めることが可能となる。レーザー光LBの出力を低めるほど、レーザー光LBの走査位置P1におけるガラス管11の溶断を抑えることが可能となる。
【0025】
レーザー光LBの条件のうち、レーザー光LBの走査速度を速くするほど、ガラス管11の内部応力を高めることが可能となる。レーザー光LBの走査速度を遅くするほど、レーザー光LBの走査位置P1におけるガラス管11の溶断を抑えることが可能となる。
【0026】
次に、ガラス物品の製造方法の第2工程で用いるレーザー光LBの一例について説明する。レーザー光LBの出力は、100W以上、500W以下の範囲であることが好ましい。レーザー光LBの走査速度、すなわちレーザー光LBの照射スポットと、ガラス管11の外面との相対移動速度は、50mm/sec以上、400mm/sec以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは100mm/sec以下の範囲である。
【0027】
レーザー光LBの照射スポットの直径は、例えば、0.2mm以上、0.5mm以下の範囲であることが好ましい。なお、レーザー光LBのフォーカス位置は、ガラス管11の外周面とすることが好ましい。レーザー光の波長は、例えば、193nm以上、10.6μm以下の範囲であることが好ましい。レーザー光は、パルス(発振)レーザーであってもよいし、連続波レーザーであってもよいが、連続波(発振)レーザーであることが好ましい。
【0028】
ガラス物品の製造方法において、切断工程に供されるガラス管11の全長は、例えば、500mm以上、2200mm以下の範囲である。ガラス管11の外径は、例えば、8mm以上、30mm以下の範囲である。ガラス管11における管壁の厚さは、例えば、0.3以上、0.6mm以下の範囲である。ガラス管11において、自由端12からレーザー光LBを照射する位置までの長さは、例えば、10mm以上、50mm以下の範囲である。ガラス管11は、例えば、周知のダンナー法により連続的に成形されたガラス管を所定の長さに粗切断したものである。本実施形態のガラス管11の断面形状は円環状であるが、これに限定されず、例えば、多角環状であってもよい。
【0029】
ガラス物品の製造方法は、上記の切断工程で切断されたガラス管11の切断部分を加熱して丸める口焼き工程等をさらに備えていてもよい。管状のガラス物品14の用途としては、例えば、電子用途、医療用途、及び照明器具用途が挙げられる。
【0030】
次に、試験例を挙げてガラス物品14の製造方法を説明する。
(試験例1)
全長2100mm、外径22.00mm、管壁の厚さ0.55mmのガラス管11を準備し、このガラス管11の一端部を切断する切断工程として、第1工程及び第2工程を行った。レーザー光LBは、波長10.6μmとなるCO
2レーザーの連続波であり、レーザー光LBの出力は200W、レーザー光LBのスポット径は0.2mm、レーザー光LBの走査速度は、75mm/secである。
【0031】
試験例1では、ガラス管11においてレーザー光LBの走査位置P1から約2mmの部分(応力集中部分P2)で割断することができた。試験例1で得られたガラス物品14の切断面は、円滑な面であり、ガラス物品14におけるガラスの微粉の付着は確認されなかった。なお、試験例1で切断したガラス管11の端部において、レーザー光LBを照射した部分(走査位置)を観察した結果、ガラスの溶断は発生していなかった。
【0032】
なお、レーザー光LBの出力を100W,500Wに変更しても、同様にガラス管11を割断することができた。
(試験例2)
試験例2では、レーザー光LBの走査速度を400mm/secに変更した以外は試験例1と同様に第1工程及び第2工程を行った。
【0033】
試験例2では、レーザー光LBの照射によるガラスの溶断が発生したが、ガラス管11においてレーザー光の走査位置P1から約2mmの部分(応力集中部分P2)で割断することができた。試験例2で得られたガラス物品14の切断面は、円滑な面であり、ガラス物品14におけるガラスの微粉の付着は確認されなかった。なお、試験例2で切断したガラス管11の端部において、レーザー光を照射した部分(走査位置P1)は溶断されていた。
【0034】
(試験例3)
試験例3では、レーザー光の走査速度を50mm/secに変更した以外は試験例1と同様に第1工程及び第2工程を行った。試験例3においても、試験例1と同様にガラス管11を割断することができた。
【0035】
以上詳述した実施形態によれば、次のような作用効果が発揮される。
(1)ガラス物品の製造方法は、両端部を有するガラス管11の少なくとも一端部を切断する切断工程を備えている。ガラス物品の製造方法における切断工程は、ガラス管11の両端のうち、少なくとも一端を自由端12としてガラス管11を支持する第1工程と、ガラス管11の管軸方向において、ガラス管11を支持している支持部分13と自由端12との間におけるガラス管11の外周面にレーザー光LBを照射する第2工程とを備えている。ガラス物品の製造方法における第2工程は、レーザー光LBをガラス管11の全周にわたって走査することで、ガラス管11の支持部分13とレーザー光LBを走査した走査位置P1との間のガラスを内部応力により非接触の状態で割断している。
【0036】
この方法によれば、ガラスに対する切断刃の接触を回避してガラスを割断するため、ガラスの微粉の発生を抑えることができる。このようにガラスの微粉の発生を抑えることで、清浄性の高いガラス物品14を得ることが可能となる。
【0037】
また、上記方法によれば、例えば、レーザー光を用いて溶断した切断面よりも平滑な切断面(鏡面状の切断面)を有するガラス物品14を得ることができる。
(2)ガラス物品の製造方法において、ガラス管11における管壁の厚さが0.3mm以上、0.6mm以下の範囲であり、レーザー光LBの出力が100W以上、500W以下の範囲であり、レーザー光LBの走査速度が50mm/sec以上、400mm/sec以下の範囲であることが好ましい。例えば、このような製造条件に設定することで、切断不良を抑えることが可能となる。これにより、例えば、ガラス物品14の歩留まりを高めることが可能となる。
【0038】
(3)ガラス物品の製造方法において、レーザー光LBの走査速度が50mm/sec以上、100mm/sec以下の範囲であることがさらに好ましい。この場合、レーザー光LBの走査位置P1においてガラス管11の溶断を抑制し、かつ、ガラス管11の支持部分13とレーザー光LBを走査した走査位置P1との間のガラスで発生する内部応力を高めることが容易となる。従って、溶断時のフュームの発生を要因としたガラス物品14の清浄性の低下を抑制しながら、ガラスの内部応力を利用した割断を行うことが容易となるため、より清浄性の高いガラス物品14を容易に得ることが可能となる。
【0039】
(4)ガラス物品の製造方法における第1工程では、管軸を中心に回転可能であり、かつ管軸方向が垂直方向に対して傾斜するようにガラス管11を支持し、第2工程では、管軸を中心に回転されているガラス管11の外周面にレーザー光LBを照射している。この場合、レーザー光LBの照射する位置を一定にすることができるため、例えば、レーザー光照射装置15の複雑な位置制御を回避することが可能となる。従って、ガラス物品の製造装置を簡素化することが可能となる。
【0040】
(変更例)
上記実施形態を次のように変更して構成してもよい。
・ガラス物品の製造方法における切断工程は、ガラス管11の両端部を切断する切断工程に変更することもできる。具体的には、ガラス物品の製造方法における第1工程において、ガラス管11の両端を自由端12としてガラス管11を支持する。続いて、ガラス管11の支持部分13とガラス管11の一方の自由端12との間、及びガラス管11の支持部分13とガラス管11の他方の自由端との間の外周面にレーザー光LBを照射する第2工程を行えばよい。
【0041】
・ガラス物品の製造方法における切断工程は、ガラス管11の一端を自由端12として他端を含む支持部分13で支持してもよい。上記のようにガラス管11の両端部を切断する切断工程の場合、ガラス管11の切断工程は、ガラス管11の一端部と他端部とを段階的に行ってもよい。すなわち、ガラス管11の一端のみを自由端12としてガラス管11を支持する第1工程と、その一端(自由端)側の端部を割断する第2工程を行った後、ガラス管11の他端のみを自由端としてガラス管11を支持する第1工程と、その他端(自由端)側の端部を割断する第2工程を行ってもよい。
【0042】
・ガラス物品の製造方法の第1工程では、ガラス管11を回転不能に支持してもよい。この場合、ガラス物品の製造方法の第2工程では、ガラス管11の全周にわたってレーザー光LBを走査するように移動する可動式のレーザー光照射装置に変更すればよい。
【0043】
・ガラス物品の製造方法の第2工程は、複数のガラス管11を搬送する搬送経路内で行ってもよい。例えば、上記支持ローラーR1,R2を所定の方向に移動させるコンベアラインを設けることで、複数のガラス管11を所定の方向に搬送することができる。この場合、例えば、ガラス管11を追従するようにレーザー光LBを照射し、ガラス管11の切断後に元の位置に復帰可能とするレーザー光照射装置を用いればよい。
【0044】
・ガラス物品の製造方法の切断工程では、複数の支持ローラーでガラス管11の支持部分13の両端部のみを支持してよい。このような構成によればガラス管11と支持ローラーとの接触面積を低減し、ガラス管11の表面品位の低下を抑制できる。