(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の各実施形態を説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0017】
(第1実施形態)
本実施形態の燃料噴射弁10は、図示しない多気筒ディーゼルエンジン等の内燃機関(以下、エンジンという)の各気筒毎に搭載されて、高圧の燃料をエンジンの各気筒の燃焼室内に直接噴射するものである。本実施形態の燃料噴射弁10が噴射する燃料は具体的には軽油である。
【0018】
図1に示すように、この燃料噴射弁10は、略円柱状のニードル弁体12(以下、弁体12という)と、この弁体12を内部に収容する略円筒状のノズルボデー14とを備えている。
【0019】
その弁体12は、ノズルボデー14に摺動自在に保持されている。そして、弁体12は、弁体12およびノズルボデー14の軸線CLvの軸方向DRvすなわち弁軸線方向DRvに沿って、ノズルボデー14内で往復動するようになっている。なお、
図1では紙面上下方向が弁軸線方向DRvとなっている。
【0020】
また、弁体12は、弁軸線方向DRvに延びる円柱状のニードル軸部121と、テーパ状のニードル第1テーパ面122と、テーパ状のニードル第2テーパ面123と、円錐状のニードル先端部124とを備えている。このニードル軸部121、第1テーパ面122、第2テーパ面123、およびニードル先端部124は何れも、上記軸線CLvであるノズル軸線CLvを中心軸線として形成されている。
【0021】
ニードル第1テーパ面122は、ニードル軸部121の燃料流れ下流側(具体的には、
図1の紙面下方側)に形成されている。また、ニードル第2テーパ面123は、ニードル第1テーパ面122の燃料流れ下流側に形成されている。また、ニードル先端部124は、ニードル第2テーパ面123の燃料流れ下流側に形成されている。
【0022】
ニードル第1テーパ面122とニードル第2テーパ面123とニードル先端部124の円錐面124aは、燃料流れ下流側ほど直径が小さくなるように形成されている。また、ニードル第2テーパ面123のテーパ角度はニードル第1テーパ面122のテーパ角度よりも大きく、ニードル先端部124の円錐面124aのテーパ角度はニードル第2テーパ面123のテーパ角度よりも大きい。
【0023】
そして、ニードル第1テーパ面122とニードル第2テーパ面123の境界部に、円環状の稜線であるニードルシート部125が形成されている。
【0024】
ノズルボデー14はボデーシート面16を有している。このボデーシート面16は、上記ノズル軸線CLvを中心軸線CLvとしたテーパ形状を成し、燃料流れ下流側ほど直径が小さくなるように形成されている。弁体12は、その弁体12の往復動に伴い、このボデーシート面16に対して接離する。詳細には、弁体12のうちニードルシート部125が、ノズルボデー14のボデーシート面16に対して接離する。この接離動作により、弁体12は、後述するノズルボデー14の噴孔18を開閉するようになっている。
【0025】
上記のように弁体12のうちの一部分であるニードルシート部125がボデーシート面16に対して接離するので、言い換えれば、弁体12の閉弁時に、ボデーシート面16は、そのボデーシート面16の一部である接触部161にて弁体12に接触する。
【0026】
また、ノズルボデー14には、ボデーシート面16に対し燃料流れ下流側に設けられた空間であるサック室20と、サック室20とノズルボデー14の外部とを連通する複数の噴孔18とが形成されている。
【0027】
噴孔18は、燃料噴射弁10において燃料の噴出口となる孔である。噴孔18は、弁体12およびノズルボデー14の径方向に概略沿って延びている。そして、複数の噴孔18は、例えばノズル軸線CLvを中心として放射状に配置されている。なお、本実施形態では、噴孔18は2個図示されているが、一般的には、噴孔18は6〜10個設けられる。
【0028】
ノズルボデー14は、サック室20を形成するサック内壁面201と、ノズルボデー14の外側を形成するノズルボデー表面141とを有している。噴孔18は、そのサック内壁面201とノズルボデー表面141との間に形成されている。
【0029】
上述したように弁体12はボデーシート面16に対して接離するが、例えば、弁体12は、ボデーシート面16に対して接触することによりサック室20への燃料流入を遮断する。この弁体12がボデーシート面16に接触した状態が弁体12の閉弁状態である。逆に、弁体12は、ボデーシート面16から離れることによりサック室20への燃料流入を許容する。この弁体12がボデーシート面16から離れた状態が弁体12の開弁状態である。
【0030】
図1および
図2に示すように、ノズルボデー14は噴孔18の噴孔内壁面181を有している。その噴孔内壁面181には、噴孔18の軸方向DRhへ延びる複数の噴孔溝181aが形成されている。例えば複数の噴孔溝181aは、噴孔18の周方向へ等間隔で並んで配置され、噴孔18の全長にわたって形成されている。また、噴孔内壁面181は、
図3に示すように円形の断面形状を成している。この
図3は、
図1のIII−III断面を示した断面図であるが、詳細に言えば、噴孔18の中心軸線CLhに直交する噴孔断面を示している。なお、
図1および
図3では噴孔溝181aの図示は省略されており、後述の
図7でも噴孔溝181aの図示は省略されている。
【0031】
図2に示す複数の噴孔溝181aは、燃料噴射中にリブレット効果を奏する微細な溝である。すなわち、その噴孔溝181aはリブレットである。また、ノズルボデー14は、噴孔溝181aを形成するために、
図4に示すように、噴孔溝底形成面181bと一対の噴孔溝側壁面181cとを噴孔溝181a毎に有している。
【0032】
その噴孔溝底形成面181bは噴孔溝181aの底を形成する。また、噴孔溝側壁面181cは噴孔溝181aの側面を形成する。従って、噴孔溝底形成面181bと噴孔溝側壁面181cはそれぞれ噴孔溝181aに面している。
【0033】
この噴孔溝181aは、燃料噴射中においてリブレット効果により燃料と噴孔内壁面181との間の摩擦低減を狙ったものであり、そのリブレット効果を奏するために最適な噴孔溝181aの寸法は、具体的には、下記式F1から導出することができる。
【0035】
なお、上記式F1においてHh、Wh、Dhは、
図3および
図4の噴孔断面に表される各寸法である。すなわち、Hhは噴孔溝181aの溝深さであり、Whは噴孔18の径方向で噴孔溝181aの最も内側における溝幅であり、Dhは噴孔18の直径である。また、λhは、噴孔内壁面181と燃料との間の摩擦における摩擦係数すなわち噴孔内摩擦係数である。また、上記式F1のReは、弁体12の開弁時である燃料噴射中における噴孔18内の燃料のレイノルズ数である。そのレイノルズ数は、「レイノルズ数:Re=2×10
4〜6×10
4」の範囲であるので、その範囲内の値が上記式F1のReに代入される。
【0036】
また、燃料噴射中にリブレット効果を奏するために、噴孔溝181aは、下記式F2の条件を満たす形状であることが好ましい。例えば、噴孔溝181aの形状が下記式F2の条件を満たさないと、燃料噴射中に燃料が噴孔溝181a内へ浸入し易くなるので、リブレット効果が得られ難くなる。
【0037】
θh≦45° ・・・(F2)
上記式F2のθhは、
図3および
図4の噴孔断面において、噴孔18の中心軸線CLh(
図1、
図4参照)と噴孔溝底形成面181bの中心CBhとを結んだ噴孔溝基準線分Lhに対して噴孔溝側壁面181cが成す角度すなわち噴孔溝側壁角度である。この噴孔溝側壁角度θhは、噴孔18の径方向内側ほど噴孔溝側壁面181cが噴孔溝基準線分Lhから離れるように噴孔溝側壁面181cが噴孔溝基準線分Lhに対して傾斜する向きを正方向として定義される。従って、噴孔溝側壁面181cが噴孔溝基準線分Lhと平行である場合に噴孔溝側壁角度θhは零であり、例えば
図4では、噴孔溝側壁角度θhは零よりも大きい角度で表示されている。
【0038】
なお、
図4は、噴孔溝181aの各寸法Hh、Wh、θhを判りやすく図示するために模式的に図示されているが、本実施形態では
図2に示すように、各噴孔溝181aの噴孔溝側壁角度θhは
図4の図示とは異なり0°とされている。また、本実施形態の各噴孔溝181aの溝深さHhと溝幅Whは共に1μmであり、噴孔18の直径Dhは噴孔出口にてφ0.1mmである。また、上記式F2では噴孔溝側壁角度θhの下限値は示されておらず、噴孔溝側壁角度θhは負の値であってもよいが、敢えて噴孔溝側壁角度θhの下限値を示すとすれば、噴孔溝側壁角度θhは「θh>−90°」である。
【0039】
また、
図2および
図4に示すように、噴孔18の周方向DRiにおいて、複数の噴孔溝181aの相互間隔Shは噴孔溝181aの溝幅Whよりも大きい。
【0040】
上述したように、本実施形態によれば、
図1および
図2に示すように、噴孔18の噴孔内壁面181には、その噴孔18の軸方向DRhへ延びる複数の噴孔溝181aが形成されている。従って、燃料が噴孔18を通って噴射される際に、その噴孔溝181aによってリブレット効果を生じさせ、噴孔18内で燃料に働く摩擦の摩擦係数をそのリブレット効果により低減することが可能である。そして、その燃料に働く摩擦の低減により、ペネトレーションを大きくすることが可能である。要するに、排気ガス中のスモーク低減に繋がる高貫徹噴霧を実現することが可能である。
【0041】
ここで、
図5および
図6を用いて、本実施形態の燃料噴射弁10と本実施形態に対する比較例(以下、第1比較例という)の燃料噴射弁とのペネトレーションの差異について説明する。その第1比較例の燃料噴射弁は、本実施形態の燃料噴射弁10から噴孔溝181aを無くしたものであり、この点を除いて本実施形態の燃料噴射弁10と同じである。
【0042】
図5および
図6は、本実施形態の燃料噴射弁10と第1比較例の燃料噴射弁とのそれぞれで行った燃料噴射実験の実験結果を示した図である。その燃料噴射実験において燃料噴射弁に供給される燃料の供給圧力Pcすなわちコモンレール圧力Pcは200MPaである。
図5の横軸は燃料噴射時間を示し、縦軸はペネトレーションを示している。また、
図6は、本実施形態の燃料噴射弁10と第1比較例の燃料噴射弁とのそれぞれで、燃料噴射時間を0.3msとして、1つの噴孔18から噴射された燃料の噴霧形状を表している。
図6の上側の図が本実施形態の燃料噴射弁10のものであり、下側の図が第1比較例の燃料噴射弁のものである。また、
図6の一点鎖線は噴孔18の噴孔出口位置を表しており、その噴孔出口位置は
図1の点Poで示される。
【0043】
この
図6に示すように、本実施形態のペネトレーションP1は第1比較例のペネトレーションP2よりも大きくなっている。また、
図5に示すように、0.3ms以外の燃料噴射時間でも、本実施形態のペネトレーションは第1比較例のペネトレーションを上回る。例えば、本実施形態のペネトレーションは、第1比較例のペネトレーションに対し最大8%増になっている。このようなことから判るように、本実施形態の燃料噴射弁10において燃料噴霧のペネトレーションは、噴孔溝181aを設けることによって大きくなっている。
【0044】
また、
図1および
図2に示す噴孔溝181aは、上述したように、燃料噴射中(すなわち、弁体12の開弁時)において燃料と噴孔内壁面181との間の摩擦をリブレット効果により低減するためのものである。従って、噴孔溝181aは、燃料噴射中にそのリブレット効果を奏する形状になっている。具体的には、噴孔溝181aは、燃料噴射中に噴孔18内を流れる燃料が噴孔溝181a内へ浸入して噴孔溝181a内を満たすことを燃料の表面張力により妨げることが可能な大きさの溝深さHhおよび溝幅Whで形成されている。
【0045】
要するに、噴孔溝181aは、噴孔18の容積に実質的に影響しない程度の微細な溝になっている。そのため、弁体12の閉弁後に燃料の慣性力によって噴孔出口から吐出される未燃燃料量が噴孔溝181aに起因して増加することを回避することが可能である。例えば、特許文献1の燃料噴射弁と比較して、本実施形態の燃料噴射弁10は、弁体12の閉弁後に吐出される未燃燃料量を低減することが可能である。
【0046】
また、弁体12の閉弁時には、噴孔18内の燃料のレイノルズ数は開弁時に比して低下し最終的には零になるので、噴孔溝181aによる上記リブレット効果は発現しない。その一方で、弁体12の閉弁時には、微細な噴孔溝181aによる毛細管現象が生じることで燃料に拘束力が働く。そのため、弁体12の閉弁後に吐出される未燃燃料量を、その燃料に対する拘束力によっても低減することができ、排気ガス中の炭化水素の増加を防止することが可能である。
【0047】
また、本実施形態によれば、
図3および
図4の噴孔断面において、噴孔溝基準線分Lhに対して噴孔溝側壁面181cが成す噴孔溝側壁角度θhは45°以下である。具体的には、その噴孔溝側壁角度θhは0°になっているので、その噴孔溝側壁面181cは噴孔溝基準線分Lhに沿った面になっている。従って、噴孔溝側壁角度θhが45°を超える場合と比較して、噴孔溝181aの形状を、燃料噴射中に燃料が噴孔溝181a内へ浸入しにくい形状とすることが可能である。
【0048】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明する。また、前述の実施形態と同一または均等な部分については省略または簡略化して説明する。
【0049】
図7に示すように、本実施形態では、ノズルボデー14のボデーシート面16のうち接触部161よりも燃料流れ下流側の部位に、弁軸線方向DRvに一致するボデーシート面16の軸方向DRvへ延びる複数のシート溝16aが形成されている。このシート溝16aが追加されている点において本実施形態は第1実施形態と異なっている。なお、
図7で噴孔溝181aの図示は省略されているが、本実施形態でも第1実施形態と同様に噴孔溝181aは設けられている。
【0050】
図7〜9に示すように、複数のシート溝16aは、例えば、ボデーシート面16の周方向へ等間隔で並んで配置されている。なお、
図8は、
図7のVIII−VIII断面を示した断面図であるが、詳細に言えば、ボデーシート面16の中心軸線CLvに直交するシート断面を示している。また、
図8では、シート溝16aの図示は省略されている。
【0051】
図7および
図9に示す複数のシート溝16aは、前述した噴孔溝181aと同様に、燃料噴射中にリブレット効果を奏する微細な溝である。すなわち、そのシート溝16aはリブレットである。また、ノズルボデー14は、シート溝16aを形成するために、
図9に示すように、シート溝底形成面16bと一対のシート溝側壁面16cとをシート溝16a毎に有している。
【0052】
そのシート溝底形成面16bはシート溝16aの底を形成する。また、シート溝側壁面16cはシート溝16aの側面を形成する。従って、シート溝底形成面16bとシート溝側壁面16cはそれぞれシート溝16aに面している。
【0053】
このシート溝16aは、燃料噴射中においてリブレット効果により燃料とボデーシート面16との間の摩擦低減を狙ったものであり、そのリブレット効果を奏するために最適なシート溝16aの寸法は、具体的には、下記式F3から導出することができる。
【0055】
なお、上記式F3においてHs、Ws、Dsは、
図8および
図9のシート断面に表される各寸法である。すなわち、Hsはシート溝16aの溝深さであり、Wsはボデーシート面16の径方向でシート溝16aの最も内側における溝幅であり、Dsはボデーシート面16の直径である。また、λsは、ボデーシート面16と燃料との間の摩擦における摩擦係数すなわちボデーシート面摩擦係数である。また、上記式F3のReは、弁体12の開弁時である燃料噴射中にボデーシート面16上を流れる燃料のレイノルズ数である。そのレイノルズ数は、上述の式F1の場合と同様に、「レイノルズ数:Re=2×10
4〜6×10
4」の範囲であるので、その範囲内の値が上記式F3のReに代入される。
【0056】
また、燃料噴射中にリブレット効果を奏するために、シート溝16aは、下記式F4の条件を満たす形状であることが好ましい。例えば、シート溝16aの形状が下記式F4の条件を満たさないと、燃料噴射中に燃料がシート溝16a内へ浸入し易くなるので、リブレット効果が得られ難くなる。
【0057】
θs≦45° ・・・(F4)
上記式F4のθsは、
図8、9のシート断面において、ボデーシート面16の中心軸線CLv(
図7、
図9参照)とシート溝底形成面16bの中心CBsとを結んだシート溝基準線分Lsに対してシート溝側壁面16cが成す角度すなわちシート溝側壁角度である。このシート溝側壁角度θsは、ボデーシート面16の径方向内側ほどシート溝側壁面16cがシート溝基準線分Lsから離れるようにシート溝側壁面16cがシート溝基準線分Lsに対して傾斜する向きを正方向として定義される。従って、シート溝側壁面16cがシート溝基準線分Lsと平行である場合にシート溝側壁角度θsは零であり、例えば
図9では、シート溝側壁角度θsは零よりも大きい角度で表示されている。
【0058】
なお、
図9は、シート溝16aの各寸法Hs、Ws、θsを判りやすく図示するために模式的に図示されているが、本実施形態では例えば、各シート溝16aのシート溝側壁角度θsは
図9の図示とは異なり0°とされている。また、上記式F4ではシート溝側壁角度θsの下限値は示されておらず、シート溝側壁角度θsは負の値であってもよいが、敢えてシート溝側壁角度θsの下限値を示すとすれば、シート溝側壁角度θsは「θs>−90°」である。
【0059】
また、
図9に示すように、ボデーシート面16の周方向DRjにおいて、複数のシート溝16aの相互間隔Ssはシート溝16aの溝幅Wsよりも大きい。
【0060】
以上説明したことを除き、本実施形態は第1実施形態と同様である。そして、本実施形態では、前述の第1実施形態と共通の構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、
図7および
図9に示すように、ボデーシート面16のうち接触部161よりも燃料流れ下流側の部位には、ボデーシート面16の軸方向DRvへ延びる複数のシート溝16aが形成されている。従って、燃料噴射中に燃料がボデーシート面16と弁体12との間を通って流れる際に、そのシート溝16aによってリブレット効果を生じさせ、ボデーシート面16と燃料との間に働く摩擦の摩擦係数をそのリブレット効果により低減することが可能である。そして、ボデーシート面16上において燃料に働く摩擦の低減により、ペネトレーションを大きくすることが可能である。
【0062】
ここで、
図10を用いて、本実施形態の燃料噴射弁10と本実施形態に対する比較例(以下、第2比較例という)の燃料噴射弁とのペネトレーションの差異について説明する。その第2比較例の燃料噴射弁は、本実施形態の燃料噴射弁10からシート溝16aを無くしたものであり、この点を除いて本実施形態の燃料噴射弁10と同じである。
【0063】
図10は、本実施形態の燃料噴射弁10と第2比較例の燃料噴射弁とのそれぞれで行った燃料噴射実験の実験結果を示した図である。その燃料噴射実験において燃料噴射弁に供給される燃料の供給圧力Pcすなわちコモンレール圧力Pcは200MPaである。
図10の横軸は燃料噴射時間を示し、縦軸は、単位時間当たりの燃料噴射量Qiを示している。
【0064】
この
図10に示すように、本実施形態の単位時間当たりの燃料噴射量Qiは、第2比較例の単位時間当たりの燃料噴射量Qiを上回る。そして、その単位時間当たりの燃料噴射量Qiとペネトレーションとの関係は、ペネトレーションをLpとすれば、「Lp∝Qi
0.25」となる。従って、本実施形態の燃料噴射弁10において燃料噴霧のペネトレーションは、シート溝16aを設けることによって大きくなる。
【0065】
例えば、弁体12の開弁直後のシート絞り域ではボデーシート面16上の燃料流れは速く、且つその燃料流れはボデーシート面16に沿うことになる。そのため、シート溝16aによる摩擦低減効果は特に燃料噴射初期に得られ、上記の第2比較例に対してペネトレーションを大きくすることができる。なお、上記シート絞り域とは、燃料噴射弁10の中に形成される燃料流路のうちで最も細く燃料流れが絞られる最小流路がボデーシート面16と弁体12との間に生じる弁体12の作動域である。
【0066】
また、
図7および
図9に示すシート溝16aは、上述した噴孔溝181aと同様に、燃料噴射中にリブレット効果を奏する形状になっている。具体的には、シート溝16aは、燃料噴射中にボデーシート面16に沿って流れる燃料がシート溝16a内へ浸入してシート溝16a内を満たすことを燃料の表面張力により妨げることが可能な大きさの溝深さHsおよび溝幅Wsで形成されている。従って、シート溝16aは、サック室20の容積に実質的に影響しない程度の微細な溝になっている。そのため、弁体12の閉弁後に未燃燃料量がシート溝16aに起因して増加することを回避することが可能である。
【0067】
また、本実施形態によれば、
図8および
図9のシート断面において、シート溝基準線分Lsに対してシート溝側壁面16cが成すシート溝側壁角度θsは45°以下である。具体的には、そのシート溝側壁角度θsは0°になっているので、そのシート溝側壁面16cはシート溝基準線分Lsに沿った面になっている。従って、シート溝側壁角度θsが45°を超える場合と比較して、シート溝16aの形状を、燃料噴射中に燃料がシート溝16a内へ浸入しにくい形状とすることが可能である。
【0068】
(他の実施形態)
(1)上述の各実施形態では、ディーゼルエンジン用の燃料噴射弁10に、噴孔溝181aまたはシート溝16aのような微細溝が設けられているが、その微細溝は、ディーゼルエンジン以外の他のエンジン用の燃料噴射弁に設けられても差し支えない。また、その燃料噴射弁は、各実施形態のように燃焼室内に燃料を直接噴射するものであってもよいし、エンジンの吸気ポートで燃料を噴射するものであってもよい。
【0069】
(2)上述の各実施形態では、噴孔溝181aは、例えば噴孔18の全長にわたって形成されているが、その噴孔18の全長のうちの一部範囲に形成されているだけでも差し支えない。
【0070】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0071】
また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。