特許第6673225号(P6673225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6673225非水電解液及びそれを用いた蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673225
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】非水電解液及びそれを用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20200316BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20200316BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20200316BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20200316BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20200316BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20200316BHJP
   H01M 6/16 20060101ALI20200316BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20200316BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20200316BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20200316BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20200316BHJP
【FI】
   H01M10/0569
   H01M10/0568
   H01M10/052
   H01M10/0567
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M6/16 A
   H01G11/60
   H01G11/62
   H01G11/64
   H01G11/06
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-566372(P2016-566372)
(86)(22)【出願日】2015年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2015085761
(87)【国際公開番号】WO2016104468
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-260837(P2014-260837)
(32)【優先日】2014年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安部 浩司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正英
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−261092(JP,A)
【文献】 特開2008−251212(JP,A)
【文献】 特開2014−067490(JP,A)
【文献】 特開2000−058112(JP,A)
【文献】 特開2001−084832(JP,A)
【文献】 特開2002−319431(JP,A)
【文献】 特開2002−334719(JP,A)
【文献】 特開平08−096848(JP,A)
【文献】 特開平09−027328(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/122318(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/017998(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05 − 10/0587
H01M 10/36 − 10/39
H01G 9/00
H01G 11/00 − 11/86
H01M 6/00 − 6/22
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータ、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイス用非水電解液であって、
前記正極の電位が満充電状態においてLi基準で4.5V以上であり、
前記非水電解液が、下記一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルの少なくとも一種を含むことを特徴とする蓄電デバイス用非水電解液。
【化7】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を示し、R、2−クロロエチル基、2−フルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3−フルオロプロピル基、3−クロロプロピル基、3,3−ジフルオロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、又は1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルが
バリン酸2−クロロエチル、ピバリン酸2−フルオロエチル、ピバリン酸2,2−ジフルオロエチル、ピバリン酸2,2,2−トリフルオロエチル、ピバリン酸3−フルオロプロピル、ピバリン酸3−クロロプロピル、ピバリン酸3,3−ジフルオロプロピル、ピバリン酸3,3,3−トリフルオロプロピル、ピバリン酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、ピバリン酸2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル、ピバリン酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル、2,2−ジメチルブタン酸2,2,2−トリフルオロエチル、2−エチル−2−メチルブタン酸2,2,2−トリフルオロエチル、及び2,2−ジエチルブタン酸2,2,2−トリフルオロエチルから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記電解質塩として、LiPFLiBFLiN(SOCFLiN(SO、及びLiN(SOF)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む請求項1または2に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項4】
前記電解質塩として、シュウ酸骨格を有するリチウム塩、リン酸骨格を有するリチウム塩、及びS=O基を有するリチウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む請求項1〜のいずれかに記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項5】
ニトリル化合物、イソシアネート化合物、三重結合含有化合物、環状又は鎖状のS(=O)基含有化合物、リン含有化合物、環状酸無水物、及び環状ホスファゼン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種をさらに含有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項6】
前記正極が、下記一般式(III)又は(IV)で表されるリチウム複合金属酸化物を含む請求項1〜のいずれかに記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【化9】
(式中、0<a<1.2、x+y+z+p=1、x>0、y>0、z≧0、p≧0であり、Mは、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。)
【化10】
(式中、0<a<1.2、0.4≦x≦0.6、y≧0、x+y<2であり、Mは、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。)
【請求項7】
正極、負極、セパレータ、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスであって、
前記正極の電位が満充電状態においてLi基準で4.5V以上であり、
前記非水電解液が、下記一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルの少なくとも一種を含むことを特徴とする蓄電デバイス。
【化11】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を示し、R、2−クロロエチル基、2−フルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3−フルオロプロピル基、3−クロロプロピル基、3,3−ジフルオロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、又は1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル基を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスを高電圧で使用した際に電気化学特性を向上できる非水電解液及びそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイス、特にリチウム二次電池は携帯電話やノート型パソコンなど電子機器の電源、あるいは電気自動車や電力貯蔵用の電源として広く使用されている。これらの電子機器や自動車に搭載された電池は、真夏の高温下や、電子機器の発熱により暖められた環境下で使用される可能性が高い。また、タブレット端末やウルトラブック等の薄型電子機器では外装部材にアルミラミネートフィルム等のラミネートフィルムを使用するラミネート型電池や角型電池が用いられることが多いが、これらの電池は、薄型であるため少しの外装部材の膨張等により変形しやすいという問題が生じやすく、その変形が電子機器に与える影響が非常に大きいことが問題である。
【0003】
リチウム二次電池は、主にリチウムを吸蔵放出可能な材料を含む正極および負極、ならびに、リチウム塩と非水溶媒からなる非水電解液から構成され、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が使用されている。
また、リチウム二次電池の負極としては、リチウム金属、リチウムを吸蔵および放出可能な金属化合物(金属単体、酸化物、リチウムとの合金など)、炭素材料が知られている。特に、炭素材料のうち、例えばコークス、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛)等のリチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料を用いた非水系電解液二次電池が広く実用化されている。上記の負極材料はリチウム金属と同等の極めて卑な電位でリチウムと電子とを貯蔵・放出するために、特に高温下において、多くの溶媒が還元分解を受ける可能性を有している。そのため、負極材料の種類に拠らず負極上で電解液中の溶媒が一部還元分解してしまい、これにより分解物の沈着、ガス発生、電極の膨れなどが起こることで、リチウムイオンの移動が妨げられ、特に高温下での高温保存特性などの電池特性を低下させる問題や電極の膨れにより電池が変形するなどの問題があった。更に、リチウム金属やその合金、スズ又はケイ素等の金属単体や酸化物を負極材料として用いたリチウム二次電池は、初期の容量は高いもののサイクル中に負極材料の微粉化が進むため、炭素材料の負極に比べて非水溶媒の還元分解が加速的に起こり、特に高温下において電池容量や高温保存特性のような電池性能が大きく低下することや電極の膨れにより電池が変形するなどの問題が起こりやすいことが知られている。
【0004】
一方、エネルギー密度を高めるため高電圧で作動する正極材料の研究が盛んに行われている。中でもLiNi0.5Mn1.5、LiNi0.5Co0.2Mn0.32や、LiMnOとLiMO(Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体等のリチウムを吸蔵及び放出可能な材料は、リチウム基準で4.5V以上の貴な電圧でリチウムと電子を貯蔵及び放出するために、特に高温下において、多くの溶媒が酸化分解を受ける可能性を有している。そのため、正極材料の種類に拠らず正極上で電解液中の溶媒が一部酸化分解してしまい、これにより分解物の沈着や、ガス発生などが起こることで、リチウムイオンの移動が妨げられ、高温保存特性などの電池特性を低下させる問題があった。
【0005】
特許文献1には、電解液中に主骨格炭素が飽和しているハロゲン置換炭酸エステルまたは鎖状カルボン酸エステルを含有する非水電解液、及び4.5V以上でLiを吸蔵放出する正極活物質を使用した非水電解液二次電池が提案されており、45℃の充放電サイクル特性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−238608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の非水電解液の性能について詳細に検討した結果、前記特許文献1の非水電解質二次電池では、蓄電デバイスを高電圧で使用した場合の高温保存特性を向上させるという課題に対する効果は十分に満足できるものではなかった。
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、非水電解液中に、特定の第3級カルボン酸エステルを添加することにより、電位が満充電状態においてLi基準で4.5V以上である正極を使用した蓄電デバイスの高温保存特性を向上させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、蓄電デバイスを高電圧で使用した場合の高温保存特性を向上させることができる非水電解液及びそれを用いた蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、下記の(1)及び(2)を提供するものである。
【0010】
(1)正極、負極、セパレータ、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイス用非水電解液であって、前記正極の電位が満充電状態においてLi基準で4.5V以上であり、前記非水電解液が、下記一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルの少なくとも一種を含むことを特徴とする蓄電デバイス用非水電解液。
【0011】
【化1】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を示し、Rは炭素数1〜5のハロゲン化アルキル基を示す。)
【0012】
(2)正極、負極、セパレータ、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスであって、前記正極の電位が満充電状態においてLi基準で4.5V以上であり、前記非水電解液が、下記一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルの少なくとも一種を含むことを特徴とする蓄電デバイス。
【0013】
【化2】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を示し、Rは炭素数1〜5のハロゲン化アルキル基を示す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蓄電デバイスを高電圧で使用した場合の高温保存特性を向上させることができる非水電解液及びそれを用いたリチウム電池等の蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、非水電解液及びそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【0016】
〔非水電解液〕
本発明の非水電解液は、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、前記一般式(I)で表される化合物を非水電解液中に含有することを特徴とする。
【0017】
本発明者らは、非水電解液中に特定の構造を有する第3級カルボン酸エステルを含有させた非水電解液を使用すると、従来の課題であった高温、高電圧下での高温保存特性を向上させることを見出した。
【0018】
本発明の非水電解液に含まれる化合物は、下記一般式(I)で表される。
【0019】
【化3】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基を示し、Rは炭素数1〜5のハロゲン化アルキル基を示す。)
【0020】
前記一般式(I)において、R〜Rはメチル基又はエチル基を示し、メチル基が好ましい。Rは炭素数1〜5のハロゲン化アルキル基を示し、炭素数2〜5のハロゲン化アルキル基であり、かつ、エステル基の酸素原子に直接結合する炭素原子にハロゲン原子が非置換であるものが好ましく(すなわち、エステル基の酸素原子に直接結合する炭素原子は、ハロゲン原子で置換されていないものであり、エステル基の酸素原子に直接結合する炭素原子以外の炭素原子のうち、少なくとも一つの炭素原子が少なくとも一つのハロゲン原子で置換されたものであることが好ましく)、少なくとも3個のフッ素原子を有する炭素数2〜5のフッ素化アルキル基がより好ましく、さらに、炭素数2〜5のフッ素化アルキル基の中でも、Rの末端の炭素原子上の水素原子が全てフッ素原子で置換されているものであることが特に好ましい。
すなわち、Rは、下記一般式(V)で表される基であることが好ましい。
【0021】
の具体例として、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、2−クロロエチル基、2−フルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3−フルオロプロピル基、3−クロロプロピル基、3,3−ジフルオロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、もしくは1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル基等のハロゲン化アルキル基が好適に挙げられ、これらの中でも、2−クロロエチル基、2−フルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3−フルオロプロピル基、3−クロロプロピル基、3,3−ジフルオロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、又は1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル基が好ましく、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、又は2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基が更に好ましく、2,2,2−トリフルオロエチル基、又は2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基が特に好ましい。
【0022】
一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルの具体例としては、ピバリン酸フルオロメチル、ピバリン酸ジフルオロメチル、ピバリン酸2−クロロエチル、ピバリン酸2−フルオロエチル、ピバリン酸2,2−ジフルオロエチル、ピバリン酸2,2,2−トリフルオロエチル、ピバリン酸3−フルオロプロピル、ピバリン酸3−クロロプロピル、ピバリン酸3,3−ジフルオロプロピル、ピバリン酸3,3,3−トリフルオロプロピル、ピバリン酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、ピバリン酸2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル、ピバリン酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル、2,2−ジメチルブタン酸2,2,2−トリフルオロエチル、2−エチル−2−メチルブタン酸2,2,2−トリフルオロエチル、又は2,2−ジエチルブタン酸2,2,2−トリフルオロエチル等が好適に挙げられ、中でも、ピバリン酸2,2,2−トリフルオロエチル、ピバリン酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、又はピバリン酸2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルが好ましく、ピバリン酸2,2,2−トリフルオロエチル、又は2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルがさらに好ましい。
【0023】
本発明の非水電解液において、一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルの含有量は、非水溶媒の総体積に対して1〜50体積%が好ましい。該含有量が50体積%以下であれば、電極上に過度に被膜が形成されてしまい、これにより電池を高温、高電圧で使用した場合の高温保存特性が低下するおそれが少なく、また1体積%以上であれば被膜の形成が十分であり、これにより蓄電デバイスを高電圧で使用した場合の高温保存特性の改善効果が高まる。該含有量は、非水溶媒の総体積に対して3体積%以上が好ましく、5体積%以上がより好ましい。また、その上限は、50体積%以下が好ましく、45体積%以下がより好ましく、40体積%以下が特に好ましい。
【0024】
〔非水溶媒〕
本発明の非水電解液に使用される非水溶媒としては、前記一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルを少なくとも含有するものであればよいが、環状カーボネート、鎖状エステル(前記一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルに該当するものは除く。以下、同様。)、スルホン、ラクトン、エーテル、及びアミドからなる群より選ばれる一種以上をさらに含有するものが好適に挙げられ、これらの群より選ばれる二種以上をさらに含有するものがさらに好適である。高温下で電気化学特性が相乗的に向上するため、鎖状エステルが含まれることが好ましく、鎖状カーボネートが含まれることがさらに好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートの両方が含まれることがもっとも好ましい。
【0025】
なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0026】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2−ブチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネート、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、トランスもしくはシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、及び4−エチニル−1,3−ジオキソラン−2−オン(EEC)から選ばれる一種又は二種以上が好適に挙げられ、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、ビニレンカーボネート、及び4−エチニル−1,3−ジオキソラン−2−オン(EEC)からなる群より選ばれる一種以上が好適であり、二種以上がより好適である。
【0027】
また、炭素−炭素二重結合もしくは炭素−炭素三重結合等の不飽和結合又はフッ素原子を有する環状カーボネートのうち少なくとも一種を使用すると高温下での電気化学特性が一段と向上するので好ましく、炭素−炭素二重結合もしくは炭素−炭素三重結合等の不飽和結合を含む環状カーボネートとフッ素原子を有する環状カーボネートを両方含むことがより好ましい。炭素−炭素二重結合もしくは炭素−炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートとしては、VC、VEC、又はEECがさらに好ましく、フッ素原子を有する環状カーボネートとしては、FEC又はDFECがさらに好ましい。
【0028】
炭素−炭素二重結合もしくは炭素−炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートの含有量は、非水溶媒の総体積に対して、好ましくは0.07体積%以上、より好ましくは0.2体積%以上、さらに好ましくは0.7体積%以上であり、また、その上限としては、好ましくは7体積%以下、より好ましくは4体積%以下、さらに好ましくは2.5体積%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段と高温下の被膜の安定性を増すことができるので好ましい。
【0029】
フッ素原子を有する環状カーボネートの含有量は、非水溶媒の総体積に対して好ましくは0.07体積%以上、より好ましくは4体積%以上、さらに好ましくは7体積%以上であり、特に好ましくは10体積%以上である。また、その上限としては、好ましくは35体積%以下、より好ましくは33体積%以下、さらに30体積%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段と高温下の被膜の安定性を増すことができるので好ましい。
特にフッ素原子を有する環状カーボネートを10〜35体積%の範囲で含有する場合、一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルを10〜40体積%の範囲で含有させると高温、高電圧下での高温保存特性を一段と向上させることができるので好ましい。
【0030】
非水溶媒が炭素−炭素二重結合もしくは炭素−炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートとフッ素原子を有する環状カーボネートの両方を含む場合、炭素−炭素二重結合もしくは炭素−炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートとフッ素原子を有する環状カーボネートとの合計の含有量に対する炭素−炭素二重結合もしくは炭素−炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートの含有量は、好ましくは0.2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、さらに好ましくは7体積%以上であり、その上限としては、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下、さらに30体積%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段と高温下の被膜の安定性を増すことができるので特に好ましい。
【0031】
また、非水溶媒がエチレンカーボネートと炭素−炭素二重結合もしくは炭素−炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートの両方を含むと電極上に形成される被膜の高温下での安定性が増すので好ましく、エチレンカーボネート及び炭素−炭素二重結合もしくは炭素−炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートの含有量は、非水溶媒の総体積に対し、好ましくは3体積%以上、より好ましくは5体積%以上、さらに好ましくは7体積%以上であり、また、その上限としては、好ましくは45体積%以下、より好ましくは35体積%以下、さらに好ましくは25体積%以下である。
【0032】
これらの溶媒は一種類で使用してもよく、また二種類以上を組み合わせて使用した場合は、高温下での電気化学特性がさらに向上するので好ましく、三種類以上を組み合わせて使用することが特に好ましい。これらの環状カーボネートの好適な組合せとしては、ECとPC、ECとVC、PCとVC、VCとFEC、ECとFEC、PCとFEC、FECとDFEC、ECとDFEC、PCとDFEC、VCとDFEC、VECとDFEC、VCとEEC、ECとEEC、ECとPCとVC、ECとPCとFEC、ECとVCとFEC、ECとVCとVEC、ECとVCとEEC、ECとEECとFEC、PCとVCとFEC、ECとVCとDFEC、PCとVCとDFEC、ECとPCとVCとFEC、又はECとPCとVCとDFEC等が好ましい。前記の組合せのうち、ECとVC、ECとFEC、PCとFEC、ECとPCとVC、ECとPCとFEC、ECとVCとFEC、ECとVCとEEC、ECとEECとFEC、PCとVCとFEC、又はECとPCとVCとFEC等の組合せがより好ましく、PCとFEC、ECとPCとVC、ECとPCとFEC、PCとVCとFEC、又はECとPCとVCとFEC等のPCを含む組み合わせが高電圧での電池特性を向上させるためさらに好ましい。
【0033】
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネート、及びエチルプロピルカーボネートから選ばれる一種又は二種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、及びジブチルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の対称鎖状カーボネート、ピバリン酸メチル(MPiv)、ピバリン酸エチル(EPiv)、ピバリン酸プロピル(PPiv)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、酢酸メチル(MA)、及び酢酸エチル(EA)からなる群より選ばれる一種以上の鎖状カルボン酸エステルが好適に挙げられ、二種以上がより好適である。
【0034】
前記鎖状エステルの中でも、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネート、プロピオン酸メチル(MP)、酢酸メチル(MA)及び酢酸エチル(EA)から選ばれるメチル基を有する鎖状エステルが好ましく、特にメチル基を有する鎖状カーボネートが好ましい。
【0035】
また、高電圧下での電気化学特性を向上させる観点から下記一般式(II)で表されるフッ素化鎖状カーボネートを少なくとも一種を含むと好ましい。
【0036】
【化4】
(式中、Rは炭素数1〜4のフッ素化アルキル基を示し、Rは、少なくとも一つの水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【0037】
一般式(II)で表されるフッ素化鎖状カーボネートの具体例としては、メチル(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート(MTFEC)、エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、フルオロメチル(メチル)カーボネート(FMMC)、メチル(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート(MDFEC)、エチル(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート(EDFEC)、メチル(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)カーボネート(MTEFPC)、エチル(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)カーボネート、メチル(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)カーボネート(MPEFPC)、エチル(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)カーボネート、2−フルオロエチル(メチル)カーボネート(2−FEMC)、ジフルオロメチル(フルオロメチル)カーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)カーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、及びビス(フルオロメチル)カーボネートが好適に挙げられる。中でも、メチル(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート(MTFEC)、2−フルオロエチル(メチル)カーボネート(2−FEMC)、メチル(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)カーボネート(MTEFPC)、及びメチル(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)カーボネート(MPEFPC)から選ばれるメチル基を有するフッ素化鎖状カーボネートがより好ましく、メチル(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート(MTFEC)が特に好ましい。
【0038】
鎖状カーボネートを用いる場合には、二種以上を用いることが好ましい。さらに対称鎖状カーボネートと非対称鎖状カーボネートの両方が含まれるとより好ましく、対称鎖状カーボネートの含有量が非対称鎖状カーボネートより多く含まれるとさらに好ましい。
【0039】
鎖状エステルの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60〜90体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60体積%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、90体積%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下して高温下での電気化学特性が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
【0040】
鎖状カーボネート中に対称鎖状カーボネートが占める体積の割合は、51体積%以上が好ましく、55体積%以上がより好ましい。その上限としては、95体積%以下がより好ましく、85体積%以下であるとさらに好ましい。対称鎖状カーボネートにジメチルカーボネートが含まれると特に好ましい。また、非対称鎖状カーボネートはメチル基を有するとより好ましく、メチルエチルカーボネートが特に好ましい。上記の場合に一段と高温下での電気化学特性が向上するので好ましい。
【0041】
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、高温下での電気化学特性向上の観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(体積比)が10:90〜45:55が好ましく、15:85〜40:60がより好ましく、20:80〜35:65が特に好ましい。
【0042】
その他の非水溶媒としては、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン等のスルホン、及びγ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン、α−アンゲリカラクトン等のラクトンからなる群より選ばれる1種以上が好適に挙げられ、二種以上がより好適である。
【0043】
前記のスルホン及びラクトンの含有量は、非水溶媒の総体積に対して、5〜40体積%の範囲で含有させると高温、高電圧下での高温保存特性を一段と向上させることができるので好ましい。
【0044】
非水溶媒は通常、適切な物性を達成するために、混合して使用される。その組合せは、例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カルボン酸エステルとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとラクトンとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとスルホンとの組合せ、鎖状カーボネートとスルホンとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとエーテルとの組合せ、又は環状カーボネートと鎖状カーボネートと鎖状カルボン酸エステルとの組み合わせ等が好適に挙げられる。
【0045】
一段と高温下の被膜の安定性を向上させる目的で、非水電解液中にさらにその他の添加剤を加えることが好ましい。
その他の添加剤の具体例としては、以下の(A)〜(G)の化合物が挙げられる。
【0046】
(A)アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、及びセバコニトリルからなる群より選ばれる一種以上のニトリル化合物。
【0047】
(B)メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2−イソシアナトエチル アクリレート、及び2−イソシアナトエチル メタクリレートからなる群より選ばれる一種以上のイソシアネート化合物。
【0048】
(C)2−プロピニル メチル カーボネート、酢酸 2−プロピニル、ギ酸 2−プロピニル、メタクリル酸 2−プロピニル、メタンスルホン酸 2−プロピニル、ビニルスルホン酸 2−プロピニル、2−(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸2−プロピニル、ジ(2−プロピニル)オギザレート、メチル 2−プロピニルオギザレート、エチル 2−プロピニルオギザレート、グルタル酸 ジ(2−プロピニル)、2−ブチン−1,4−ジイル ジメタンスルホネート、2−ブチン−1,4−ジイル ジホルメート、及び2,4−ヘキサジイン−1,6−ジイル ジメタンスルホネートからなる群より選ばれる一種以上の三重結合含有化合物。
【0049】
(D)1,3−プロパンスルトン、1,3−ブタンスルトン、2,4−ブタンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,3−プロペンスルトン、2,2−ジオキシド−1,2−オキサチオラン−4−イル アセテート、又は5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシド等のスルトン、エチレンサルファイト、ヘキサヒドロベンゾ[1,3,2]ジオキサチオラン−2−オキシド(1,2−シクロヘキサンジオールサイクリックサルファイトともいう)、又は5−ビニル−ヘキサヒドロ−1,3,2−ベンゾジオキサチオール−2−オキシド、4−(メチルスルホニルメチル)−1,3,2−ジオキサチオラン 2−オキシド等の環状サルファイト、エチレンサルフェート、[4,4’−ビ(1,3,2−ジオキサチオラン)]2,2’,2’−テトラオキシド、(2,2−ジオキシド−1,3,2−ジオキサチオラン−4−イル)メチル メタンスルホネート、又は4−((メチルスルホニル)メチル)−1,3,2−ジオキサチオラン 2,2−ジオキシド等の環状サルフェート、ブタン−2,3−ジイル ジメタンスルホネート、ブタン−1,4−ジイル ジメタンスルホネート、メチレンメタンジスルホネート等のスルホン酸エステル、ジビニルスルホン、1,2−ビス(ビニルスルホニル)エタン、又はビス(2−ビニルスルホニルエチル)エーテル等のビニルスルホン化合物からなる群より選ばれる一種以上の環状もしくは鎖状のS(=O)基含有化合物。
【0050】
(E)リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、及びリン酸トリオクチル、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2−ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2−ジフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチル及びリン酸(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)メチル、リン酸トリス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン−2−イル)、メチレンビスホスホン酸メチル、メチレンビスホスホン酸エチル、エチレンビスホスホン酸メチル、エチレンビスホスホン酸エチル、ブチレンビスホスホン酸メチル、ブチレンビスホスホン酸エチル、メチル 2−(ジメチルホスホリル)アセテート、エチル 2−(ジメチルホスホリル)アセテート、メチル 2−(ジエチルホスホリル)アセテート、エチル 2−(ジエチルホスホリル)アセテート、2−プロピニル 2−(ジメチルホスホリル)アセテート、2−プロピニル 2−(ジエチルホスホリル)アセテート、メチル 2−(ジメトキシホスホリル)アセテート、エチル 2−(ジメトキシホスホリル)アセテート、メチル 2−(ジエトキシホスホリル)アセテート、エチル 2−(ジエトキシホスホリル)アセテート、2−プロピニル 2−(ジメトキシホスホリル)アセテート、2−プロピニル 2−(ジエトキシホスホリル)アセテート、及びピロリン酸メチル、ピロリン酸エチルからなる群より選ばれる一種以上のリン含有化合物。
【0051】
(F)無水酢酸、無水プロピオン酸等の鎖状のカルボン酸無水物、無水コハク酸、無水マレイン酸、3−アリル無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、又は3−スルホ−プロピオン酸無水物等の環状酸無水物。
【0052】
(G)メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、フェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、又はエトキシヘプタフルオロシクロテトラホスファゼン等の環状ホスファゼン化合物。
【0053】
上記の中でも、(A)ニトリル化合物、及び(B)イソシアネート化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含むと一段と、高電圧下での高温保存特性が向上するので好ましい。
【0054】
前記(A)ニトリル化合物の中では、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、及びセバコニトリルからなる群より選ばれる一種以上のニトリルが好ましく、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、及びピメロニトリルから選ばれる一種以上がより好ましい。
【0055】
前記(B)イソシアネート化合物の中では、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2−イソシアナトエチル アクリレート、及び2−イソシアナトエチル メタクリレートからなる群より選ばれる一種以上がより好ましい。
【0056】
前記(A)の化合物の含有量は、非水電解液中に0.01〜20質量%が好ましい。この範囲であれば、被膜が厚くなり過ぎずに十分に形成され、これにより一段と高温下の被膜の安定性が高まる。該含有量は、非水電解液中に0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、その上限は、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0057】
前記(B)の化合物の含有量は、非水電解液中に0.01〜7質量%が好ましい。この範囲であれば、被膜が厚くなり過ぎずに十分に形成され、これにより一段と高温下の被膜の安定性が高まる。該含有量は、非水電解液中に0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましく、その上限は、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
【0058】
また、前記(C)三重結合含有化合物、(D)スルトン、環状サルファイト、スルホン酸エステル、及びビニルスルホンからなる群より選ばれる環状もしくは鎖状のS(=O)基含有化合物、(E)リン含有化合物、(F)環状酸無水物、又は(G)環状ホスファゼン化合物を含むと一段と高温下の被膜の安定性が向上するので好ましい。
【0059】
前記(C)三重結合含有化合物の中では、2−プロピニル メチル カーボネート、メタクリル酸 2−プロピニル、メタンスルホン酸 2−プロピニル、ビニルスルホン酸 2−プロピニル、2−(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸 2−プロピニル、ジ(2−プロピニル)オギザレート、メチル 2−プロピニル オギザレート、エチル 2−プロピニル オギザレート、及び2−ブチン−1,4−ジイル ジメタンスルホネートからなる群より選ばれる一種以上が好ましく、メタンスルホン酸 2−プロピニル、ビニルスルホン酸 2−プロピニル、2−(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸 2−プロピニル、ジ(2−プロピニル)オギザレート、及び2−ブチン−1,4−ジイル ジメタンスルホネートからなる群より選ばれる一種以上がさらに好ましい。
【0060】
前記(D)スルトン、環状サルファイト、スルホン酸エステル、及びビニルスルホンから選ばれる環状又は鎖状のS(=O)基含有化合物(但し、三重結合含有化合物は含まない)を用いることが好ましい。
【0061】
前記環状のS(=O)基含有化合物の中では、1,3−プロパンスルトン、1,3−ブタンスルトン、1,4−ブタンスルトン、2,4−ブタンスルトン、1,3−プロペンスルトン、2,2−ジオキシド−1,2−オキサチオラン−4−イル アセテート、5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシド、メチレン メタンジスルホネート、エチレンサルファイト、及び4−(メチルスルホニルメチル)−1,3,2−ジオキサチオラン 2−オキシドからなる群より選ばれる一種以上が好適に挙げられる。
【0062】
また、鎖状のS(=O)基含有化合物の中では、ブタン−2,3−ジイル ジメタンスルホネート、ブタン−1,4−ジイル ジメタンスルホネート、ジメチル メタンジスルホネート、ペンタフルオロフェニル メタンスルホネート、ジビニルスルホン、及びビス(2−ビニルスルホニルエチル)エーテルからなる群より選ばれる一種以上が好適に挙げられる。
【0063】
前記環状もしくは鎖状のS(=O)基含有化合物の中でも、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、2,4−ブタンスルトン、2,2−ジオキシド−1,2−オキサチオラン−4−イル アセテート、及び5,5−ジメチル−1,2−オキサチオラン−4−オン 2,2−ジオキシド、ブタン−2,3−ジイル ジメタンスルホネート、ペンタフルオロフェニル メタンスルホネート、及びジビニルスルホンからなる群より選ばれる一種以上がさらに好ましい。
【0064】
前記(E)リン含有化合物の中では、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸トリス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン−2−イル)、メチル 2−(ジメチルホスホリル)アセテート、エチル 2−(ジメチルホスホリル)アセテート、メチル 2−(ジエチルホスホリル)アセテート、エチル 2−(ジエチルホスホリル)アセテート、2−プロピニル 2−(ジメチルホスホリル)アセテート、2−プロピニル 2−(ジエチルホスホリル)アセテート、メチル 2−(ジメトキシホスホリル)アセテート、エチル 2−(ジメトキシホスホリル)アセテート、メチル 2−(ジエトキシホスホリル)アセテート、エチル 2−(ジエトキシホスホリル)アセテート、2−プロピニル 2−(ジメトキシホスホリル)アセテート、又は2−プロピニル 2−(ジエトキシホスホリル)アセテートが好ましく、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸トリス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン−2−イル)、エチル 2−(ジエチルホスホリル)アセテート、2−プロピニル 2−(ジメチルホスホリル)アセテート、2−プロピニル 2−(ジエチルホスホリル)アセテート、エチル 2−(ジエトキシホスホリル)アセテート、2−プロピニル 2−(ジメトキシホスホリル)アセテート、又は2−プロピニル 2−(ジエトキシホスホリル)アセテートがさらに好ましい。
【0065】
前記(F)環状酸無水物の中では、無水コハク酸、無水マレイン酸、又は3−アリル無水コハク酸が好ましく、無水コハク酸又は3−アリル無水コハク酸がさらに好ましい。
【0066】
前記(G)環状ホスファゼン化合物の中では、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、又はフェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン等の環状ホスファゼン化合物が好ましく、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン又はエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンがさらに好ましい。
【0067】
前記(C)〜(G)の化合物の含有量は、非水電解液中に0.001〜5質量%が好ましい。この範囲であれば、被膜が厚くなり過ぎずに十分に形成され、これにより一段と高温下の被膜の安定性が高まる。該含有量は、非水電解液中に0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましく、その上限は、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
【0068】
また、一段と高温下の被膜の安定性を向上させる目的で、非水電解液中にさらに、シュウ酸骨格を有するリチウム塩、リン酸骨格を有するリチウム塩、及びS(=O)基を有するリチウム塩の中から選ばれる一種以上のリチウム塩を含むことが好ましい。なお、シュウ酸骨格を有するリチウム塩、リン酸骨格を有するリチウム塩、及びS(=O)基を有するリチウム塩の中から選ばれる一種以上のリチウム塩は、非水電解液中において、電解質塩として作用する。
リチウム塩の具体例としては、リチウム ビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウム ジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)、リチウム テトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート(LiTFOP)、及びリチウム ジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート(LiDFOP)から選ばれる少なくとも一種のシュウ酸骨格を有するリチウム塩、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、フルオロリン酸リチウム(LiPOF)等のリン酸骨格を有するリチウム塩、リチウム トリフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ボレート(LiTFMSB)、リチウム ペンタフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ホスフェート(LiPFMSP)、リチウム メチルサルフェート(LMS)、リチウムエチルサルフェート(LES)、リチウム 2,2,2−トリフルオロエチルサルフェート(LFES)、及びフルオロスルホン酸リチウム(FSOLi)からなる群より選ばれる一種以上のS(=O)基を有するリチウム塩が好適に挙げられ、LiBOB、LiDFOB、LiTFOP、LiDFOP、LiPO、LiTFMSB、LMS、LES、LFES、及びFSOLiからなる群より選ばれるリチウム塩を一種以上含むことがより好ましい。
【0069】
LiBOB、LiDFOB、LiTFOP、LiDFOP、LiPO、LiPOF、LiTFMSB、LiPFMSP、LMS、LES、LFES及びFSOLiからから選ばれる一種以上のリチウム塩の総含有量は、非水電解液中に0.001〜10質量%が好ましい。該含有量が10質量%以下であれば、電極上に過度に被膜が形成され保存特性が低下するおそれが少なく、また0.001質量%以上であれば被膜の形成が十分であり、これにより高温、高電圧で使用した場合の特性の改善効果が高まる。該含有量は、非水電解液中に0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、その上限は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
なお、LiBOB、LiDFOB、LiTFOP、LiDFOP、LiPO、LiPOF、LiTFMSB、LiPFMSP、LMS、LES、LFES及びFSOLiからから選ばれる一種以上のリチウム塩の合計のモル濃度は、非水電解液中、0.001M以上、0.4M以下が好ましい。該含有量は、非水電解液中に0.01M以上が好ましく、0.03M以上がより好ましく、その上限は、0.35M以下が好ましく、0.3M以下がより好ましい。
【0070】
(電解質塩)
本発明に使用される電解質塩としては、リチウム塩(上述したシュウ酸骨格を有するリチウム塩、リン酸骨格を有するリチウム塩、及びS(=O)基を有するリチウム塩を除く)が挙げられ、特に、下記のリチウム塩が好適に挙げられる。
リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO等の無機リチウム塩、LiN(SOF)〔略してFSIと称する〕、LiN(SOCF〔略してTFSIと称する〕、LiN(SO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso−C7、LiPF(iso−C7)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩や、(CF(SONLi、(CF(SONLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を有するリチウム塩等が好適に挙げられ、これらの中から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩が好適に挙げられ、これらの一種又は二種以上を混合して使用することができる。
これらの中でも、LiPF、LiBF、LiN(SOCF〔TFSI〕、LiN(SO、及びLiN(SOF)〔FSI〕から選ばれる一種又は二種以上が好ましく、LiPFを用いることがもっとも好ましい。リチウム塩の濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.7M以上がより好ましく、1.1M以上がさらに好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.6M以下がさらに好ましい。
また、これらのリチウム塩の好適な組み合わせとしては、LiPFを含み、さらにLiBF、LiN(SOCF〔TFSI〕、及びLiN(SOF)〔FSI〕から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が非水電解液中に含まれている場合や、上述したシュウ酸骨格を有するリチウム塩、リン酸骨格を有するリチウム塩、及びS(=O)基を有するリチウム塩から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が非水電解液中に含まれている場合が好ましく、LiPF以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合は、0.001M以上であると、電池を高温で使用した場合の電気化学特性の向上効果が発揮されやすく、1.0M以下であると電池を高温で使用した場合の電気化学特性の向上効果が低下する懸念が少ないので好ましい。好ましくは0.01M以上、特に好ましくは0.03M以上、最も好ましくは0.04M以上である。その上限は、好ましくは0.8M以下、さらに好ましくは0.6M以下、特に好ましくは0.4M以下である。
【0071】
〔非水電解液の製造〕
本発明の非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒と前記一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルを混合し、これに前記の電解質塩を添加することにより得ることができる。
この際、用いる非水溶媒及び非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0072】
本発明の蓄電デバイスは、例えば、正極、負極、及び前記非水電解液を備えることにより得ることができる。
【0073】
本発明の非水電解液は、下記の第1〜第4の蓄電デバイスに使用することができ、非水電解質として、液体状のものだけでなくゲル化されているものも使用し得る。さらに本発明の非水電解液は固体高分子電解質用としても使用できる。中でも電解質塩にリチウム塩を使用する第1の蓄電デバイス用(即ち、リチウム電池用)又は第4の蓄電デバイス用(即ち、リチウムイオンキャパシタ用)として用いることが好ましく、リチウム電池用として用いることがより好ましく、リチウム二次電池用として用いることがさらに好ましい。
【0074】
〔第1の蓄電デバイス(リチウム電池)〕
本明細書において、第1の蓄電デバイスであるリチウム電池とは、リチウム一次電池及びリチウム二次電池の総称である。また、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。本発明のリチウム電池は、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている前記非水電解液からなる。非水電解液以外の正極、負極等の構成部材は特に制限なく使用できる。
【0075】
例えば、リチウム二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガン、及びニッケルからなる群より選ばれる一種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
このようなリチウム複合金属酸化物としては、満充電状態における正極の充電電位がLi基準で4.5V以上である化合物を用いることが好ましく、このような化合物としては、たとえば、LiNi0.5Mn1.5、LiNi0.5Co0.2Mn0.32、及び、LiMnOとLiMO(Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体からなる群から選択される少なくとも一種のリチウム複合金属酸化物などを好適に用いることができ、下記一般式(III)又は(IV)で表されるリチウム複合金属酸化物がより好適である。
なお、本明細書において、満充電状態における充電電位とは、実質的に充放電が可能と判断できる充電電位のうち、最も高い電位(リチウム基準の電位)を意味する。具体的には、リチウムを可逆的に吸蔵・放出可能な電位のうち、最も高い電位(リチウム基準の電位)を意味し、より具体的には、80%以上の充放電効率(非水電解液の分解などの副反応の影響を除外した充放電効率)にて充放電が可能な電位のうち最も高い電位(リチウム基準の電位)を意味する。
【0077】
【化5】
(式中、0<a<1.2、x+y+z+p=1、x>0、y>0、z≧0、p≧0であり、Mは、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。)
【0078】
【化6】
(式中、0<a<1.2、0.4≦x≦0.6、y≧0、x+y<2であり、Mは、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。)
【0079】
高充電電圧で動作するリチウム複合金属酸化物を使用すると、充電時における電解液との反応により特に広い温度範囲で使用した場合における電気化学特性が低下しやすいが、本発明に係るリチウム二次電池ではこれらの電気化学特性の低下を抑制することができる。特にMnを含む正極の場合に正極からのMnイオンの溶出に伴い電池の抵抗が増加しやすい傾向にあるため、広い温度範囲で使用した場合における電気化学特性が低下しやすい傾向にあるが、本発明に係るリチウム二次電池ではこれらの電気化学特性の低下を抑制することができるので好ましい。
【0080】
また、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiCo1−xNi(0.01<x<1)、及びLiCo0.98Mg0.02から選ばれる一種又は二種以上と、前記の満充電状態における正極の充電電位がLi基準で4.5V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物とを混合して併用してもよい。
【0081】
さらに、正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を混合して併用することもできる。特に鉄、コバルト、ニッケル、及びマンガンから選ばれる1種又は2種以上を含むリチウム含有オリビン型リン酸塩が好ましい。その具体例としては、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、及びLiMnPOから選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。これらのリチウム含有オリビン型リン酸塩の一部は他元素で置換してもよく、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの一部をCo、Mn、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W、及びZr等から選ばれる1種又は2種以上の元素で置換したり、又はこれらの他元素を含有する化合物や炭素材料で被覆することもできる。これらの中では、LiFePO又はLiMnPOが好ましい。
【0082】
リチウム一次電池用正極としては、CuO、CuO、AgO、AgCrO、CuS、CuSO、TiO、TiS、SiO、SnO、V、V12、VO、Nb、Bi、BiPb,Sb、CrO、Cr、MoO、WO、SeO、MnO、Mn、Fe、FeO、Fe、Ni、NiO、CoO、又はCoO等の、一種又は二種以上の金属元素の酸化物又はカルコゲン化合物、SO、SOCl等の硫黄化合物、一般式(CFnで表されるフッ化炭素(フッ化黒鉛)等が挙げられる。これらの中でも、MnO、V、フッ化黒鉛等が好ましい。
【0083】
上記の正極活物質10gを蒸留水100mlに分散させた時の上澄み液のpHとしては10.0〜12.5である場合、一段と広い温度範囲での電気化学特性の改善効果が得られやすいので好ましく、さらに10.5〜12.0である場合が好ましい。
また、正極中に元素としてNiが含まれる場合、正極活物質中のLiOH等の不純物が増える傾向があるため、一段と広い温度範囲での電気化学特性の改善効果が得られやすいので好ましく、正極活物質中のNiの原子濃度が5〜25atomic%である場合がさらに好ましく、8〜21atomic%である場合が特に好ましい。
【0084】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサーマルブラックから選ばれる一種又は二種以上のカーボンブラック等が挙げられる。また、グラファイトとカーボンブラックを適宜混合して用いてもよい。導電剤の正極合剤への添加量は、1〜10質量%が好ましく、特に2〜5質量%が好ましい。
【0085】
正極は、前記の正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、又はエチレンプロピレンジエンターポリマー等の結着剤と混合し、これに1−メチル−2−ピロリドン等の高沸点溶剤を加えて混練して正極合剤とした後、この正極合剤を集電体のアルミニウム箔やステンレス製のラス板等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
【0086】
正極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.5g/cm以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは2g/cm以上であり、より好ましくは、3g/cm以上であり、さらに好ましくは、3.6g/cm以上である。なお、その上限としては、4g/cm以下が好ましい。
【0087】
リチウム二次電池用負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、及びリチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料〔易黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛等〕、スズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、又はLiTi12等のチタン酸リチウム化合物を一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0088】
前記負極活物質の中では、リチウムイオンの吸蔵及び放出能力において、人造黒鉛や天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料を使用することがより好ましく、格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm(ナノメータ)以下、特に0.335〜0.337nmである黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用することがさらに好ましい。特に複数の扁平状の黒鉛質微粒子が互いに非平行に集合又は結合した塊状構造を有する人造黒鉛粒子や、圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し与え、鱗片状天然黒鉛を球形化処理した粒子、を用いることが好ましい。
【0089】
負極の集電体を除く部分の密度を1.5g/cm以上の密度に加圧成形したときの負極シートのX線回折測定から得られる黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I(110)と(004)面のピーク強度I(004)の比I(110)/I(004)が0.01以上となると一段と広い温度範囲での電気化学特性が向上するので好ましく、0.05以上となることがより好ましく、0.1以上となることがさらに好ましい。また、過度に処理し過ぎて結晶性が低下し電池の放電容量が低下する場合があるので、ピーク強度の比I(110)/I(004)の上限は0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。
【0090】
また、高結晶性の炭素材料(コア材)はコア材よりも低結晶性の炭素材料によって被膜されていると、広い温度範囲での電気化学特性が一段と良好となるので好ましい。被覆の炭素材料の結晶性は、TEMにより確認することができる。
高結晶性の炭素材料を使用すると、充電時において非水電解液と反応し、界面抵抗の増加によって低温もしくは高温における電気化学特性を低下させる傾向があるが、本発明に係るリチウム二次電池では広い温度範囲での電気化学特性が良好となる。
【0091】
負極活物質としてのリチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物としては、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、Al、Ga、In、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Mg、Sr、又はBa等の金属元素を少なくとも一種含有する化合物が好適に挙げられる。これらの金属化合物は単体、合金、酸化物、窒化物、硫化物、硼化物、又はリチウムとの合金等、何れの形態で用いてもよいが、単体、合金、酸化物、リチウムとの合金の何れかが高容量化できるので好ましい。中でも、Si、Ge、及びSnから選ばれる少なくとも一種の元素を含有するものが好ましく、Si及びSnから選ばれる少なくとも一種の元素を含むものが電池を高容量化できるのでより好ましい。
【0092】
負極は、上記の正極の作製と同様な導電剤、結着剤、高沸点溶剤を用いて混練して負極合剤とした後、この負極合剤を集電体の銅箔等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
【0093】
負極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.1g/cm以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは1.5g/cm以上であり、より好ましくは1.7g/cm以上である。なお、その上限としては、2g/cm以下が好ましい。
【0094】
リチウム一次電池用の負極活物質としては、リチウム金属又はリチウム合金が挙げられる。
【0095】
電池用セパレータとしては、特に制限はないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィンの単層もしくは積層の微多孔性フィルム、織布、又は不織布等を使用できる。ポリオレフィンの積層としては、ポリエチレンとポリプロピレンを積層することが好ましく、中でもポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造がより好ましい。
セパレータの厚みは、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上であり、また、その上限としては30μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。
【0096】
前記セパレータの片面または両面に、無機粒子及び/又は有機粒子と結着剤からなる耐熱層を備えると好ましい。耐熱層の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは1.5μm以上であり、また、その上限としては7μm以下、好ましくは6μm以下、より好ましくは5μm以下である。
【0097】
前記耐熱層に含まれる無機粒子としては、Al、Si、Ti、及びZrから選ばれる元素を含む酸化物又は水酸化物が好適に挙げられる。
前記無機粒子の具体例としては、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、ジルコニア(ZrO)もしくはBaTiO等の酸化物、及びベーマイト(Al・3HO)等の水酸化物から選ばれる1種以上が好適に挙げられ、2種以上がより好適である。中でも、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、BaTiO、及びベーマイト(Al・3HO)からなる群より選ばれる一種以上が好ましく、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、BaTiO、又はベーマイト(Al・3HO)がより好ましく、アルミナ(Al)、BaTiO、又はベーマイト(Al・3HO)が特に好ましい。
【0098】
前記耐熱層に含まれる有機粒子としては、ポリアミド、アラミド、ポリイミド等の高分子粒子から選ばれる一種以上が好適に挙げられ、二種以上がより好適である。中でも、ポリアミド、アラミド、及びポリイミドからなる群より選ばれる一種以上が好ましく、ポリアミド又はアラミドがより好ましい。
【0099】
前記耐熱層が有する結着剤としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリル酸共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素系ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリN−ビニルアセトアミド、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる1種以上が好適に挙げられ、2種以上がより好適である。中でも、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリN−ビニルアセトアミド、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)からなる群より選ばれる一種以上が好ましい。
【0100】
リチウム電池の構造には特に限定はなく、コイン型電池、円筒型電池、角型電池、又はラミネート電池等を適用できる。
【0101】
本発明におけるリチウム二次電池は、充電終止電圧が4.2V以上、特に4.3V以上の場合にも広い温度範囲での電気化学特性に優れ、さらに、4.4V以上においても特性は良好である。放電終止電圧は、通常2.8V以上、さらには2.5V以上とすることが出来るが、本願発明におけるリチウム二次電池は、2.0V以上とすることが出来る。電流値については特に限定されないが、通常0.1〜30Cの範囲で使用される。また、本発明におけるリチウム電池は、−40〜100℃、好ましくは−10〜80℃で充放電することができる。
【0102】
本発明においては、リチウム電池の内圧上昇の対策として、電池蓋に安全弁を設けたり、電池缶やガスケット等の部材に切り込みを入れる方法も採用することができる。また、過充電防止の安全対策として、電池の内圧を感知して電流を遮断する電流遮断機構を電池蓋に設けることができる。
【0103】
〔第2の蓄電デバイス(電気二重層キャパシタ)〕
本発明の第2の蓄電デバイスは、本願発明の非水電解液を含み、電解液と電極界面の電気二重層容量を利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。本発明の一例は、電気二重層キャパシタである。この蓄電デバイスに用いられる最も典型的な電極活物質は、活性炭である。二重層容量は概ね表面積に比例して増加する。
【0104】
〔第3の蓄電デバイス〕
本発明の第3の蓄電デバイスは、本願発明の非水電解液を含み、電極のドープ/脱ドープ反応を利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。この蓄電デバイスに用いられる電極活物質として、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化銅等の金属酸化物や、ポリアセン、ポリチオフェン誘導体等のπ共役高分子が挙げられる。これらの電極活物質を用いたキャパシタは、電極のドープ/脱ドープ反応に伴うエネルギー貯蔵が可能である。
【0105】
〔第4の蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ)〕
本発明の第4の蓄電デバイスは、本願発明の非水電解液を含み、負極であるグラファイト等の炭素材料へのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。リチウムイオンキャパシタ(LIC)と呼ばれる。正極は、例えば活性炭電極と電解液との間の電気二重層を利用したものや、π共役高分子電極のドープ/脱ドープ反応を利用したもの等が挙げられる。電解液には少なくともLiPF等のリチウム塩が含まれる。
【0106】
実施例1〜13、比較例1
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
LiNi0.5Co0.2Mn0.32;94質量%、アセチレンブラック(導電剤);3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);3質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、帯状の正極シートを作製した。正極の集電体を除く部分の密度は3.6g/cmであった。また、人造黒鉛(d002=0.335nm、負極活物質);90質量%、アセチレンブラック(導電剤);5質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、負極シートを作製した。負極の集電体を除く部分の密度は1.5g/cmであった。また、この電極シートを用いてX線回折測定した結果、黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I(110)と(004)面のピーク強度I(004)の比〔I(110)/I(004)〕は0.1であった。
ポリプロピレン(3μm)/ポリエチレン(5μm)/ポリプロピレン(3μm)の3層構造からなる積層微多孔フィルムの両面に、ベーマイト粒子とエチレン−酢酸ビニル共重合体を有する耐熱層(3μm)を形成し、総厚みが17μmのセパレータを作製した。
上記で得られた正極シート、セパレータ、負極シートを順に積層し、表1及び表2に記載の組成の非水電解液を加えて、ラミネート型電池を作製した。
【0107】
〔高温充電保存後の放電容量維持率〕
<初期の放電容量>
上記の方法で作製したラミネート型電池を用いて、25℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で、終止電圧4.6V(正極の電位が満充電状態においてLi基準で4.5Vとなる電圧)まで3時間充電し、1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電して、初期の放電容量を求めた。
<高温充電保存試験>
次に、このラミネート型電池を60℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で終止電圧4.6Vまで3時間充電し、4.6Vに保持した状態で3日間保存を行った。その後、25℃の恒温槽に入れ、一旦1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電した。
<高温充電保存後の放電容量>
更にその後、初期の放電容量の測定と同様にして、高温充電保存後の放電容量を求めた。
<高温充電保存後の容量維持率>
高温充電保存後の容量維持率を下記の式により求めた。
高温充電保存後の放電容量維持率(%)=(高温充電保存後の放電容量/初期の放電容量)×100
〔高温充電保存後のガス発生量の評価〕
高温充電保存後のガス発生量はアルキメデス法により測定した。ガス発生量は、比較例1のガス発生量を100%としたときを基準とし、相対的なガス発生量を調べた。
また、電池の作製条件及び電池特性を表1及び表2に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
実施例14及び比較例2
実施例1及び比較例1で用いた正極活物質に変えて、LiNi0.5Mn1.5(正極活物質)を用いて、正極シートを作製した。非晶質炭素で被覆されたLiNi0.5Mn1.5;94質量%、アセチレンブラック(導電剤);3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);3質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、正極シートを作製したこと、電池評価の際の充電終止電圧を4.9V(正極の電位が満充電状態においてLi基準で4.8Vとなる電圧)、放電終止電圧を2.7Vとしたこと、非水電解液の組成を所定のものに変えたことの他は、実施例1及び比較例1と同様にラミネート型電池を作製し、電池評価を行った。結果を表3に示す。
【0111】
【表3】
【0112】
実施例15、比較例3
実施例1で用いた負極活物質に変えて、チタン酸リチウムLiTi12(負極活物質)を用いて、負極シートを作製した。チタン酸リチウムLiTi12;80質量%、アセチレンブラック(導電剤);15質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、負極シートを作製したこと、電池評価の際の充電終止電圧を2.8V、放電終止電圧を1.2Vとしたこと、非水電解液の組成を所定のものに変えたことの他は、実施例1と同様にラミネート電池を作製し、電池評価を行った。結果を表4に示す。
【0113】
【表4】
【0114】
上記実施例1〜13のリチウム二次電池は何れも、本願発明の非水電解液において、一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルを添加しない場合の比較例1のリチウム二次電池に比べ、高温での高温保存特性を向上させている。また、実施例14、比較例2の対比から、正極にLiNi0.5Mn1.5を用いた場合、実施例15、比較例3の対比から、負極にチタン酸リチウムを用いた場合にも同様な効果がみられる。従って、本発明の効果は、特定の正極及び負極に依存した効果でないことは明らかである。
以上より、本願発明の蓄電デバイスを、高電圧で使用した場合の効果は、非水電解液中に、一般式(I)で表される第3級カルボン酸エステルを含有する場合に特有の効果であることが判明した。
【0115】
さらに、本発明の非水電解液は、リチウム一次電池を高電圧で使用した場合の高温保存特性を改善する効果も有する。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の非水電解液を用いた蓄電デバイスは、電池を高電圧で使用した場合の電気化学特性に優れたリチウム二次電池等の蓄電デバイスとして有用である。