特許第6673329号(P6673329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673329
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】熱融着性ポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20200316BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20200316BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   B32B27/34
   B32B15/08 J
   H05K1/03 630D
   H05K1/03 630H
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-502478(P2017-502478)
(86)(22)【出願日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2016055673
(87)【国際公開番号】WO2016136897
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2019年2月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-36370(P2015-36370)
(32)【優先日】2015年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯泉 暢
(72)【発明者】
【氏名】佐貫 武雄
(72)【発明者】
【氏名】柳田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】升井 英治
【審査官】 高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/081478(WO,A1)
【文献】 特開平08−224843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08G73/10
H05K1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性ポリイミド層と熱融着性ポリイミド層とが積層された熱融着性ポリイミドフィルムであって、
熱融着性ポリイミド層を構成するポリイミドは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られ、
前記テトラカルボン酸成分が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を10〜30モル%含み、且つピロメリット酸二無水物を70〜90モル%含み、
前記ジアミン成分が、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを50モル%超含み、
耐熱性ポリイミド層を構成するポリイミドは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られ、
前記テトラカルボン酸成分が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であり、
前記ジアミン成分が、p−フェニレンジアミンであり、
前記熱融着性ポリイミドフィルムの引き裂き強度が1.7N/mm以上であり、半田耐熱温度が280℃以上であって、
前記熱融着性ポリイミドフィルムの熱融着性ポリイミド層側表面に、温度370℃、プレス圧力3MPaで熱圧着することにより銅箔が積層された銅張積層板のJIS C6471の方法で測定した剥離強度が0.5N/mm以上である、熱融着性ポリイミドフィルム。
【請求項2】
剥離個所が熱融着性ポリイミド層と銅箔の界面である、請求項1に記載の熱融着性ポリイミドフィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱融着性ポリイミドフィルムの熱融着性ポリイミド層側表面に銅箔が積層された銅張積層板。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の熱融着性ポリイミドフィルムの熱融着性ポリイミド層側表面に銅箔を重ね合わせて、350℃以上、420℃以下の温度範囲で熱圧着することを特徴とする、銅張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱融着性ポリイミドフィルムを用いた銅張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、フレキシブルプリント配線板(以下「FPC」とも言う。)やテープ・オートメイティッド・ボンディング(以下「TAB」とも言う。)などの基板材料として幅広く使用されている。
【0003】
FPCやTABの製造において、ポリイミドフィルムと銅箔とを張り合わせる方法としては、エポキシ樹脂やアクリル樹脂などの接着剤を用いる方法が挙げられる。
【0004】
接着剤を用いることなく銅箔と張り合わせることができるポリイミドフィルムも提案されている。例えば特許文献1および2には、耐熱性ポリイミド層に熱融着性ポリイミド層が積層されてなる、熱融着性を有するポリイミドフィルム、およびそれを用いた銅張積層板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2011/087044号
【特許文献2】WO2013/157565号
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、FPCやTABの高機能化に伴い、熱融着性ポリイミドフィルムの耐熱性や、熱融着性ポリイミドフィルムと被着体である銅箔などの金属層との接着性の更なる改善が望まれていた。
【0007】
したがって本発明は、耐熱性に優れ、かつ金属層との接着性に優れた熱融着性ポリイミドフィルムを用いた、銅張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、以下の項に関する。
1. 熱融着性ポリイミドフィルムに銅箔を重ね合わせて熱圧着する工程を有する銅張積層板の製造方法であって、
前記熱融着性ポリイミドフィルムは、熱融着性ポリイミド層と、前記熱融着性ポリイミド層に接して積層された耐熱性ポリイミド層とを含み、
前記熱融着性ポリイミド層を構成するポリイミドは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られ、
前記テトラカルボン酸成分が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を10〜30モル%含み、且つピロメリット酸二無水物を70〜90モル%含み、
前記ジアミン成分が、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを50モル%超含み、
前記耐熱性ポリイミド層を構成するポリイミドは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られ、
前記テトラカルボン酸成分が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を50モル%超含み、
前記ジアミン成分が、p−フェニレンジアミンを50モル%超含み、
前記熱融着性ポリイミド層上に銅箔を重ね合わせて、350℃以上、420℃以下の温度範囲で熱圧着する、銅張積層板の製造方法。
2. JIS C6471の方法で測定した剥離強度が0.5N/mm以上である前記項1に記載の銅張積層板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱融着性ポリイミドフィルム]
本発明で用いる熱融着性ポリイミドフィルムは、熱融着性ポリイミド層(以下、単に「熱融着層」とも言う。)と、前記熱融着性ポリイミド層に接して積層された耐熱性ポリイミド層(以下「コア層」とも言う。)とを含む多層のポリイミドフィルムである。熱融着性ポリイミドフィルムは、少なくとも一層の熱融着層および少なくとも一層のコア層を有している、少なくとも二層構造のものである。熱融着性ポリイミドフィルムは、コア層の各面に、同一のまたは異なる熱融着層が配置された三層構造であってもよい。
ここで、「熱融着性」とは、ポリイミドフィルム表面の軟化点が350℃未満であることを言う。軟化点は、対象物が加熱時に急激に軟化する温度であり、非結晶性ポリイミドではガラス転移温度(Tg)が軟化点であり、結晶性ポリイミドでは融点が軟化点である。
【0010】
<熱融着性ポリイミド層>
熱融着性ポリイミド層(熱融着層)は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られる熱融着性ポリイミドからなる。
前記熱融着性ポリイミドは、テトラカルボン酸成分が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物とをそれらの合計で80モル%以上含むことが好ましく、特に、テトラカルボン酸成分がこれらの化合物からなることがさらに好ましい。これらの成分の含有割合は、全テトラカルボン酸成分中、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が10〜30モル%、特に15〜25モル%であることが好ましく、ピロメリット酸二無水物が70〜90モル%、特に75〜85モル%であることが好ましい。
【0011】
また、前記熱融着性ポリイミドは、ジアミン成分が、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを、全ジアミン成分中50モル%超含むことが好ましい。全ジアミン成分中の2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンの含量は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上100%以下とされる。
【0012】
テトラカルボン酸成分としては、前記2つのテトラカルボン酸成分と、他のテトラカルボン酸成分とを併用することができる。併用する他のテトラカルボン酸成分としては、例えば3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、および1,4−ヒドロキノンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。併用するテトラカルボン酸成分は、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0013】
ジアミン成分としては、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンと、他のジアミン成分とを併用することができる。併用する他のジアミン成分としては、例えば1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、および2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンなどが挙げられる。併用するジアミン成分は、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
熱融着層を構成する熱融着性ポリイミドは非結晶性であることが、該熱融着層と耐熱性ポリイミド層との剥離強度の向上、および該熱融着層と銅箔との剥離強度の向上の観点から好ましい。熱融着性ポリイミドが非結晶性であるとは、ガラス転移温度を有するが、融点は観測されないことを言う。非結晶性の熱融着性ポリイミドから構成される熱融着層を製造するには、例えば、テトラカルボン酸成分またはジアミン成分として、エーテル結合を有する化合物を用いるなどの方法を採用すればよい。
また、得られる熱融着性ポリイミドフィルムの耐熱性を向上させる観点から、熱融着層を構成する熱融着性ポリイミドのガラス転移温度は250℃〜320℃であることが好ましく、270℃〜300℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度の測定方法は、後述する実施例において詳述する。
【0015】
<耐熱性ポリイミド層>
耐熱性ポリイミド層(コア層)は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られる耐熱性ポリイミドからなる。
前記耐熱性ポリイミドは、テトラカルボン酸成分として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を、全テトラカルボン酸成分中50モル%超含むことが好ましい。また、前記耐熱性ポリイミドは、テトラカルボン酸成分として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に加えて、それ以外の他のテトラカルボン酸成分を含んでも良い。例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を50モル%超含み、さらに、ピロメリット酸二無水物および1,4−ヒドロキノンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物より選ばれる少なくとも1種の酸成分を含むことが好ましい。当該他のテトラカルボン酸成分の合計量は、全テトラカルボン酸成分中70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
【0016】
前記耐熱性ポリイミドは、ジアミン成分として、p−フェニレンジアミンを、全ジアミン成分中50モル%超含むことが好ましい。また、前記耐熱性ポリイミドは、ジアミン成分として、p−フェニレンジアミンに加えて、それ以外の他のジアミン成分を含んでも良い。例えば、p−フェニレンジアミンを、全ジアミン成分中50モル%超含み、さらに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、m−トリジンおよび4,4’−ジアミノベンズアニリドより選ばれる少なくとも1種のジアミン成分を含むことが好ましい。当該他のジアミン成分の合計量は、全ジアミン成分中70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
【0017】
耐熱性ポリイミドを得ることができるテトラカルボン酸成分とジアミン成分との組み合わせとしては、例えば、次のものが挙げられる。
(1)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下「s−BPDA」とも言う。)と、p−フェニレンジアミン(以下「PPD」とも言う。)と、必要により4,4−ジアミノジフェニルエーテル(以下「DADE」とも言う。)を含む組み合わせ。この場合、PPD/DADE(モル比)は100/0〜85/15であることが好ましい。
(2)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)およびピロメリット酸二無水物(以下「PMDA」とも言う。)と、p−フェニレンジアミン(PPD)と、必要により4,4−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)を含む組み合わせ。この場合、s−BPDA/PMDAは55/45〜90/10であることが好ましい。PPDとDADEを併用する場合、PPD/DADEは、例えば55/45〜90/10であることが好ましい。
(3)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)と、p−フェニレンジアミン(PPD)からなる組み合わせ。
【0018】
耐熱性ポリイミド層には、必要に応じて、微細な無機または有機フィラー(以下「添加剤」とも言う。)を配合することができる。無機の添加剤としては、粒子状あるいは偏平状などの無機フィラーを挙げることができる。具体的には、例えば微粒子状の二酸化チタン粉末、二酸化ケイ素(シリカ)粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化アルミニウム(アルミナ)粉末、酸化亜鉛粉末などの無機酸化物粉末、微粒子状の窒化ケイ素粉末、窒化チタン粉末などの無機窒化物粉末、炭化ケイ素粉末などの無機炭化物粉末、微粒子状の炭酸カルシウム粉末、硫酸カルシウム粉末、硫酸バリウム粉末などの無機塩粉末を挙げることができる。有機の添加剤としては、例えばポリイミド粒子、熱硬化性樹脂の粒子などを挙げることができる。これらの添加剤は2種以上を組み合わせて使用してもよい。添加剤の使用量および形状(大きさ、アスペクト比)については、使用目的に応じて選択することが好ましい。また、これらの添加剤を均一に分散させるために、それ自体公知の手段を適用することができる。
【0019】
本発明で用いる熱融着性ポリイミドフィルムの厚みは、特に限定されないが、耐熱性ポリイミド層の両面に熱融着性ポリイミド層をそれぞれ有する3層構造の熱融着性ポリイミドフィルムの場合は、耐熱性ポリイミド層の厚みは3〜70μmであることが好ましく、8〜50μmであることがより好ましい。熱融着性ポリイミド層の厚みは0.5〜15μmであることが好ましく、1〜12.5μmであることがより好ましい。熱融着性ポリイミドフィルム全体の厚みは1〜30μmであることが好ましく、2〜25μmであることがより好ましい。
【0020】
本発明で用いる熱融着性ポリイミドフィルムは、耐熱性に優れることが好ましく、例えば、半田耐熱性が280℃以上、特に300℃以上であることが好ましい。また、熱融着性ポリイミドフィルムの引き裂き強度は、1.7N/mm以上、特に1.9N/mm以上であることが好ましい。なお、半田耐熱性および引き裂き強度の測定方法については、実施例の項で説明する。
【0021】
[熱融着性ポリイミドフィルムの製造方法]
次に、本発明で用いる熱融着性ポリイミドフィルムの製造方法の一例として、耐熱性ポリイミド層(コア層)の片面または両面に熱融着性ポリイミド層(熱融着層)を有する熱融着性ポリイミドフィルムの製造方法について説明する。
【0022】
(塗工法による製造方法)
本発明で用いる熱融着性ポリイミドフィルムは、耐熱性ポリイミドを与えるポリイミド前駆体溶液(ポリアミック酸溶液)(a)から得られる自己支持性フィルムの片面または両面に、熱融着性ポリイミドを与えるポリイミド前駆体溶液(ポリアミック酸溶液)(b)を塗工し、得られた多層の自己支持性フィルムを加熱、乾燥してイミド化を行うことにより、得ることができる。
【0023】
耐熱性ポリイミドを与えるポリイミド前駆体溶液(a)から得られる自己支持性フィルムは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを、実質的に等モルで、または一方の成分を他方の成分に対して少し過剰にして、有機溶媒中で反応させて得られるポリイミド前駆体溶液(a)を支持体上に流延し、流延物を加熱乾燥して得ることができる。
【0024】
一方、熱融着性ポリイミドを与えるポリイミド前駆体溶液(b)も、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを、実質的に等モルで、または一方の成分を他方の成分に対して少し過剰にして、有機溶媒中で反応させることにより得られる。
【0025】
熱融着性ポリイミドを与えるポリイミド前駆体溶液(b)は、テトラカルボン酸成分として、全テトラカルボン酸成分中、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を10〜30モル%、ピロメリット酸二無水物を70〜90モル%含み、前記ジアミン成分として、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを、全ジアミン中50モル%超含むことが好ましい。
耐熱性ポリイミドを与えるポリイミド前駆体溶液(a)は、テトラカルボン酸成分として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を、全テトラカルボン酸成分中、50モル%超含み、前記ジアミン成分として、p−フェニレンジアミンを、全ジアミン中、50モル%超含むことが好ましい。
【0026】
ポリイミド前駆体溶液(b)および/またはポリイミド前駆体溶液(a)には、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)のゲル化を制限する目的で、リン系安定剤、例えば亜リン酸トリフェニルやリン酸トリフェニル等を、ポリアミック酸重合時に固形分(ポリマー)濃度に対して0.01〜1質量%の範囲で添加することができる。
フィルムの表面状態および生産性の点からは、ポリアミック酸溶液にリン酸エステルや、3級アミンとリン酸エステルとの塩類を添加することが好ましい。これらの添加量は、ポリイミドまたは重合体100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましい。リン酸エステルの具体例としては、ジステアリルリン酸エステルやモノステアリルリン酸エステルなどが挙げられる。また、3級アミンとリン酸エステルとの塩類としては、例えばモノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩などが挙げられる。本発明におけるイミド化については、熱によるイミド化(熱イミド化)または化学的なイミド化(化学イミド化)のいずれも適用できる。これらのうち、熱イミド化を好適に適用できる。
【0027】
ポリイミド前駆体溶液(b)および/またはポリイミド前駆体溶液(a)には、イミド化を促進する目的で、塩基性有機化合物を添加することができる。例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンズイミダゾール、イソキノリン、置換ピリジン等を、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)に対して好ましくは0.05〜10質量%、さらに好ましくは0.05〜5質量%、特に好ましくは0.1〜2質量%の割合で使用することができる。これらの塩基性有機化合物を用いると、比較的低温でポリイミド前駆体のイミド化が促進されてポリイミドフィルムが形成されるので、これらの塩基性有機化合物は、イミド化が不十分となることを避ける目的で使用することができる。
【0028】
前記ポリイミド前駆体溶液を製造するための有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ヘキサメチルスルホルアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ジメチルスルホン、ジエチルスルホンなどのスルホン類を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0029】
テトラカルボン酸成分とジアミン成分との重合反応を実施するときの有機溶媒中の全モノマーの濃度は、使用する目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ポリイミド前駆体溶液(a)および(b)は、有機溶媒中の全モノマーの濃度が5〜40質量%であることが好ましく、6〜35質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることが特に好ましい。
【0030】
ポリイミド前駆体溶液(a)およびポリイミド前駆体溶液(b)の製造例の一例として、例えば、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを実質的に等モルで、または一方の成分(酸成分またはジアミン成分)を他方の成分に対して少し過剰にして混合し、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下、一層好ましくは0〜60℃の反応温度で約0.2〜60時間反応させることによりポリイミド前駆体(ポリアミック酸)溶液を得ることができる。
【0031】
ポリイミド前駆体溶液(a)およびポリイミド前駆体溶液(b)の溶液粘度は、使用する目的(塗工、流延など)などに応じて適宜選択することができる。例えば、ポリイミド前駆体溶液(a)およびポリイミド前駆体溶液(b)は、これらを流延に使用する場合、このポリイミド前駆体溶液を取り扱う作業性の面から、30℃で測定した回転粘度が約100〜5000ポイズであることが好ましく、500〜4000ポイズであることがより好ましく、1000〜3000ポイズ程度であることが特に好ましい。また、ポリイミド前駆体溶液(a)およびポリイミド前駆体溶液(b)を塗工に使用する場合、ポリイミド前駆体溶液を取り扱う作業性の面から、30℃で測定した回転粘度が1〜100センチポイズであることが好ましく、3〜50センチポイズであることがより好ましく、5〜20センチポイズであることが特に好ましい。したがって、前記の重合反応は、生成するポリアミック酸(ポリイミド前駆体)が上記のような粘度を示す程度にまで実施することが望ましい。また、製造したポリアミック酸溶液に上記の有機溶媒を加え、溶液粘度を調整することもできる。
【0032】
耐熱性ポリイミドを与えるポリイミド前駆体溶液(a)から得られる自己支持性フィルムは、例えば、ポリイミド前駆体溶液(a)を適当な支持体(例えば、金属、セラミック、プラスチック製のロール、または金属ベルト等)の表面上に流延して、均一な厚さの膜状態に形成し、次いで、熱風、赤外線等の熱源を利用して好ましくは50〜210℃、さらに好ましくは60〜200℃に加熱して、溶媒を徐々に除去し、自己支持性になるまで(例えば、支持体上より剥離することができる程度にまで)乾燥することによって得ることができる。
【0033】
耐熱性ポリイミドを与える前記自己支持性フィルムは、その加熱減量が20〜40質量%の範囲にあることが好ましく、イミド化率が8〜40%の範囲にあることが好ましい。加熱減量およびイミド化率が上記範囲内であれば、自己支持性フィルムの力学的性質が十分となり、自己支持性フィルムの上面にポリイミド前駆体溶液(b)をきれいに塗工しやすくなり、イミド化後に得られるポリイミドフィルムに発泡、亀裂、クレーズ、クラック、ひび割れなどが発生しづらく、また、耐熱性ポリイミド層と熱融着性ポリイミド層との接着強度が十分となる。
自己支持性フィルムの加熱減量とは、測定対象のフィルムを400℃で30分間乾燥し、乾燥前の重量(W)と乾燥後の重量(W)とから次式によって求めた値である。
加熱減量(質量%)={(W−W)/W}×100
自己支持性フィルムのイミド化率は、自己支持性フィルムと、そのフルキュア品(ポリイミドフィルム)のIRスペクトルをATR法でそれぞれ測定し、振動帯ピーク面積の比を利用して算出することができる。振動帯ピークとしては、イミドカルボニル基の非対称伸縮振動帯や、ベンゼン環骨格伸縮振動帯などを利用することができる。またイミド化率測定に関し、特開平9−316199号公報に記載のカールフィッシャー水分計を用いる手法もある。
【0034】
次に、前記自己支持性フィルムの片面または両面に、熱融着性ポリイミドを与えるポリイミド前駆体溶液(b)を塗工する。ポリイミド前駆体溶液(b)は、支持体より剥離した自己支持性フィルムに塗工してもよく、支持体より剥離する前に、支持体上の自己支持性フィルムに塗工してもよい。塗工は自己支持性フィルムの片面または両面に、ポリイミド前駆体溶液(b)を均一に行うことが好ましい。したがって、ポリイミド前駆体溶液(a)の自己支持性フィルムは、ポリイミド前駆体溶液(b)を均質に塗工できる表面を有することが好ましい。
【0035】
ポリイミド前駆体溶液(a)から得られる自己支持性フィルムにポリイミド前駆体溶液(b)を塗工する方法としては、特に限定されないが、例えば、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などの公知の塗工方法を挙げることができる。
【0036】
次に、前記ポリイミド前駆体溶液(b)を塗工したポリイミド前駆体溶液(a)の自己支持性フィルムを、加熱・イミド化して熱融着性ポリイミドフィルムを得る。イミド化のための熱処理の最高加熱温度は350℃〜600℃が好ましく、380〜520℃がより好ましく、390〜500℃がより好ましく、400〜480℃がより好ましい。
【0037】
イミド化のための加熱処理は段階的に行うことが好ましく、まず200℃以上300℃未満の温度で1分〜60分間第一次加熱処理した後に、300℃以上350℃未満の温度で1分〜60分間第二次加熱処理し、その後、好ましくは350℃〜600℃、さらに好ましくは450〜590℃、より好ましくは490〜580℃、さらに一層好ましくは500〜580℃の最高加熱温度で1分〜30分間第三次加熱処理することが望ましい。この加熱処理は、例えば熱風炉や赤外線加熱炉などの公知の装置を使用して行うことができる。また、この加熱処理は、ポリイミド前駆体溶液(b)を塗工したポリイミド前駆体溶液(a)の自己支持性フィルムをピンテンター、クリップなどで固定して行うことが好ましい。
【0038】
(共押出し−流延製膜法による製造方法)
本発明で用いる熱融着性ポリイミドフィルムは、共押出し−流延製膜法(以下単に「共押出法」とも言う。)によって、耐熱性ポリイミド層を与えるドープ液(ポリアミック酸溶液、ポリイミド前駆体溶液とも言う)と、熱融着性ポリイミド層を与えるドープ液とを積層、乾燥、イミド化する方法で製造することもできる。この共押出法は、例えば、特開平3−180343号公報(特公平7−102661号公報)に記載されている方法を用いることができる。
【0039】
より具体的に説明すると、この共押出法では、まず二層以上の押出成形用ダイスを有する押出成形機を使用する。前記ダイスの吐出口から耐熱性ポリイミド層を与えるドープ液と熱融着性ポリイミド層を与えるドープ液とを支持体上に流延し、それによって積層された薄膜状体を形成する。そして、前記支持体上の薄膜状体を乾燥し多層の自己支持性フィルムを形成する。次いで、支持体上から多層の自己支持性フィルムを剥離し、最後に多層の自己支持性フィルムを加熱処理する。この工程において、支持体に接するドープ液は、耐熱性ポリイミド層を与えるドープ液および熱融着性ポリイミド層を与えるドープ液のいずれでも構わない。この際、前記乾燥においては、135℃を超える温度、具体的には140℃以上、好ましくは145℃以上の温度で加熱し自己支持性フィルムを形成することが好ましい。
【0040】
二層押出成形用ダイスとしては、例えば、ドープ液の供給口を有し、ドープ液の通路が、その各供給口から各マニホールドに向かってそれぞれ形成されており、そのマニホールドの底部の流路が合流点で合流して、その合流した後のドープ液の通路(リップ部)がスリット状の吐出口に連通していて、この吐出口からドープ液が薄膜状に支持体上に吐出される構造(マルチマニホールド型二層ダイス)になっているものを挙げることができる。前記リップ部は、リップ調整ボルトによって、その間隔を調整できるようになっている。
また、各マニホールドの底部(合流点に近い箇所)は、各チョークバーによってその流路の空隙部の間隔が調節される。前記の各マニホールドは、ハンガーコートタイプの形状を有していることが好ましい。また、二層押出成形用ダイスとしては、ダイス上部の左右に各ドープ液の供給口を有し、ドープ液の通路が、仕切り板を備えた合流点で直ちに合流するようになっている。その合流点からマニホールドにドープ液の流路が連通していて、そのマニホールドの底部のドープ液の通路(リップ部)がスリット状の吐出口に連通している。この吐出口からドープ液が溝膜状に支持体上に吐出される構造(フィードブロック型二層ダイスまたはシングルマニホールド型二層ダイス)になっているものであってもよい。なお、共押出し−流延製膜法における支持体上に連続して押し出す操作以降の乾燥条件や加熱条件等の形態については、前記「塗工法による製造方法」の記載内容をそのまま適用できる。
【0041】
上記二層押出に加えて、三層以上押出成形用ダイスを使用することにより、二層押出成形と同様の成形方法で、多層押出ポリイミドフィルムを製造することもできる。すなわち、耐熱性ポリイミド層を与えるドープ液と、熱融着性ポリイミド層を与えるドープ液とを使用すれば、二層の熱融着性ポリイミドフィルムを得ることができる。また、熱融着性ポリイミド層を与える第1のドープ液−耐熱性ポリイミド層を与えるドープ液−熱融着性ポリイミド層を与える第2のドープ液の構成とした場合には、三層の熱融着性ポリイミドフィルムを得ることもできる。第1のドープ液と第2のドープ液とは同一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0042】
[銅張積層板]
次に、前記熱融着性ポリイミドフィルムを用いた銅張積層板の製造方法について説明する。
銅張積層板は、前記熱融着性ポリイミドフィルムの熱融着性ポリイミド層上に銅箔を積層してなる。熱融着性ポリイミドフィルムの両面に銅箔を積層してもよく、熱融着性ポリイミドフィルムの片面にのみ銅箔を積層してもよい。銅箔を熱融着性ポリイミドフィルムの片面に積層する場合は、片面または両面に熱融着性ポリイミド層を有する前記熱融着性ポリイミドフィルムを用いる。また、銅箔を両面に積層する場合は、両面に熱融着性ポリイミド層を有する前記熱融着性ポリイミドフィルムを用いる。
【0043】
前記銅箔の具体例としては、圧延銅箔や電解銅箔などが挙げられる。銅箔の厚さは特に制限はないが、2〜35μmが好ましく、5〜18μmが特に好ましい。厚みが5μm以下の銅箔としては、キャリア付き銅箔、例えばアルミニウム箔キャリア付き銅箔が使用できる。
【0044】
本発明においては、熱融着性ポリイミド層が両面に形成された熱融着性ポリイミドフィルムの両面に銅箔を重ねて熱融着性ポリイミドフィルムと銅箔とを熱圧着することにより、熱融着性ポリイミドフィルムの両面に銅箔が積層された銅張積層板を得ることができる。また、熱融着性ポリイミド層が少なくとも片面に形成された熱融着性ポリイミドフィルムの片面の前記熱融着性ポリイミド層上に銅箔を重ねて熱融着性ポリイミドフィルムと銅箔とを熱圧着することにより、熱融着性ポリイミドフィルムの片面に銅箔が積層された銅張積層板を得ることができる。
【0045】
熱融着性ポリイミドフィルムと銅箔は、少なくとも一対の加圧部材により、加熱下で、連続的に熱圧着することが好ましい。加圧部の温度は、熱融着性ポリイミドのガラス転移温度よりも50℃以上高いことが好ましく、60℃以上高いことが更に好ましく、70℃以上高いことが一層好ましい。このような加熱温度を採用することで、熱融着性ポリイミドフィルムと銅箔とが強固に積層されたものになるという有利な効果が奏される。また加熱温度は420℃以下であることが、熱融着性ポリイミドフィルムおよび銅箔の熱劣化を防ぐという点から好ましい。上述のように、熱融着性ポリイミドのガラス転移温度は250℃以上であることが好ましいため、具体的には300℃以上、420℃以下の温度の範囲で熱圧着することが好ましく、350℃以上、420℃以下の温度の範囲で熱圧着することがより好ましく、360℃以上、420℃以下の温度の範囲で熱圧着することがより好ましい。
【0046】
加圧部材としては、一対の圧着金属ロール(圧着部は金属製、セラミック溶射金属製のいずれでもよい)、ダブルベルトプレスおよびホットプレスが挙げられる。特に加圧下に熱圧着および冷却できる加圧部材が好ましく、その中でも特に液圧式のダブルベルトプレスを好適に挙げることができる。また、一対の圧着金属ロールによるロールラミネートでも、簡便に銅張積層板を得ることができる。
【0047】
本発明においては、前記の加圧部材、例えば金属ロールや、好適にはダブルベルトプレスを使用し、熱融着性ポリイミドフィルムと銅箔と補強材とを重ね合わせて、連続的に加熱下に圧着して、長尺状の銅張積層板を製造することができる。
このような加圧部材を用いることは、熱融着性ポリイミドフィルムおよび銅箔が、ロール巻きの状態で用いられ、加圧部材にそれぞれ連続的に供給され、銅張積層板をロール巻きの状態で得られる場合に、特に好適である。
【0048】
本発明の製造方法で得られる銅張積層板は、熱融着性ポリイミドフィルムおよび銅箔が強固に積層されたものになる。本発明によれば、例えば、JIS C6471の方法で測定した剥離強度が0.5N/mm以上、好ましくは0.7N/mm以上である銅張積層板を得ることができる。なお、耐熱性ポリイミド層の両面に熱融着性ポリイミド層が積層された三層の熱融着性ポリイミドフィルムのうち、熱融着性ポリイミド層に銅箔が積層された銅張積層板においては、剥離の状態(剥離モード)は、耐熱性ポリイミド層と熱融着性ポリイミドフィルムの界面で剥離する場合や、熱融着性ポリイミド層と銅箔の界面で剥離する場合などがある。したがって、上述の方法で測定された剥離強度は、より接着力の弱い界面の剥離強度である。剥離強度の測定方法については、実施例の項で説明する。
【0049】
本発明で得られる銅張積層板は、成形加工性が良好で、そのまま穴あけ加工、折り曲げ加工や絞り加工、金属配線形成などが可能である。したがって本発明で得られる銅張積層板は、プリント配線板、フレキシブルプリント基板、TABテープ等の電子部品や電子機器類の素材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例により制限されるものでない。
【0051】
[各評価の測定方法]
1.銅張積層板の剥離試験
銅張積層板の剥離強度は、JIS C6471の方法で測定した。
2.半田耐熱性
銅張積層板の片面の一部ともう片面の全面にレジストを印刷し、30℃で20〜30分エッチング液に浸漬し、片面の金属層が一部エッチングされ、もう片面は全面に銅箔が残った積層板を得た。得られた積層板を80℃で30分乾燥を行い、85℃−85%RHの環境下で24時間以上調湿した。このサンプルを種々の温度の半田浴へ60秒間フロートし、サンプルの発泡の有無を確認した。発泡が確認されない最高温度を半田耐熱温度とした。
3.引き裂き強度
熱融着性ポリイミドフィルムの引き裂き強度は、IPC−TM−650 2.4.17.1の方法で測定した。
4.耐薬品性試験
得られた銅張積層板の片面の一部にレジストを印刷し、30℃で20〜30分エッチング液に浸漬し、片面の銅箔が一部エッチングされた積層板を得た。得られた積層板を80℃で30分乾燥を行った。この積層板を、50℃に加熱された10質量%の水酸化ナトリウム水溶液へ30分間浸漬した後、水洗し、外観の確認を行った。外観に変化がない場合を○とし、ポリイミド層と銅箔との間で剥離が生じている場合や、ポリイミド層にクラックが発生している場合は×とした。
5.熱融着性ポリイミドのガラス転移温度
熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液をガラス板上へコーターを用いてキャストし、乾燥炉内において120℃で15分間乾燥させて自己支持性フィルムを得た。得られた自己支持性フィルムを四方テンターへ貼り付け、加熱炉内で150℃、200℃、250℃、350℃でそれぞれ2分間保持しながら昇温し、厚み20μmの熱融着性ポリイミドからなる単層のフィルムを得た。
得られたフィルムを、TA INSTRUMENTS社製 RSA G2型 動的粘弾性測定装置を用い、昇温速度10℃/min、周波数1Hzの条件で動的粘弾性測定を行い、tanδのピーク温度をガラス転移温度とした。
【0052】
[耐熱性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液Aの合成]
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、N,N−ジメチルアセトアミド(以下「DMAc」とも言う。) を加え、さらに、パラフェニレンジアミン (PPD) と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とを略等モル反応させ、モノマー濃度が18質量%、25℃における溶液粘度が1500ポイズのポリアミック酸溶液Aを得た。
【0053】
[耐熱性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液Bの合成]
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、DMAcを加え、さらに、ジアミン成分としてPPDと、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)と、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下「BAPP」とも言う。)とを加えた。続いて、テトラカルボン酸二無水物成分としてのピロメリット酸無水物(PMDA)とベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下「BTDA」とも言う。)を加えて、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させ、モノマー濃度が18質量%、25℃における溶液粘度が1800ポイズのポリアミック酸溶液Bを得た。BTDAとPMDAのモル比は10:90であり、PPDとDADEとBAPPのモル比75:10:15であった。
【0054】
[熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液Cの合成]
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、DMAcを加え、さらに、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)を加えた。続いて、s−BPDAとPMDAを加えて、モノマー濃度が18質量%、25℃における溶液粘度が850ポイズのポリアミック酸溶液Cを得た。s−BPDAとPMDAのモル比は10:90であった。
【0055】
[熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液Dの合成]
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、DMAcを加え、さらに、BAPPを加えた。続いて、s−BPDAとPMDAを加えて、モノマー濃度が18質量%、25℃における溶液粘度が850ポイズのポリアミック酸溶液Dを得た。s−BPDAとPMDAのモル比は20:80であった。
【0056】
[熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液Eの合成]
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、DMAcを加え、さらに、BAPPを加えた。続いて、s−BPDAとPMDAを加えて、モノマー濃度が18質量%、25℃における溶液粘度が850ポイズのポリアミック酸溶液Eを得た。s−BPDAとPMDAのモル比は22.5:77.5であった。
【0057】
[熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液Fの合成]
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、DMAcを加え、さらに、BAPPを加えた。続いて、s−BPDAとPMDAを加えて、モノマー濃度が18質量%、25℃における溶液粘度が850ポイズのポリアミック酸溶液Fを得た。s−BPDAとPMDAのモル比は25:75であった。
【0058】
[熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液Gの合成]
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、DMAcを加え、さらに、BAPPを加えた。続いて、s−BPDAとPMDAを加えて、モノマー濃度が18質量%、25℃における溶液粘度が850ポイズのポリアミック酸溶液Gを得た。s−BPDAとPMDAのモル比は30:70であった。
【0059】
[熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液Hの合成]
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、DMAcを加え、さらに、BAPPを加えた。続いて、PMDAを加えて、モノマー濃度が18質量%、25℃における溶液粘度が850ポイズのポリアミック酸溶液Hを得た。
【0060】
[熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液Iの合成]
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、DMAcを加え、さらに、BAPPを加えた。続いて、s−BPDAとPMDAを加えて、モノマー濃度が18質量%、25℃における溶液粘度が850ポイズのポリアミック酸溶液Iを得た。s−BPDAとPMDAのモル比は40:60であった。
【0061】
[熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液Jの合成]
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、DMAcを加え、さらに、BAPPとPPDを加えた。続いて、s−BPDAを加えて、モノマー濃度が18質量%、25℃における溶液粘度が850ポイズのポリアミック酸溶液Jを得た。BAPPとPPDのモル比は70:30であった。
【0062】
[熱融着性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液Kの合成]
攪拌機、窒素導入管を備えた反応容器に、DMAcを加え、さらに、BAPPを加えた。続いて、s−BPDAを加えて、モノマー濃度が18質量%、25℃における溶液粘度が850ポイズのポリアミック酸溶液Kを得た。
【0063】
(熱融着性ポリイミドフィルムおよび銅張積層板)
[実施例1]
三層押出しダイスから、平滑な金属製支持体の上面に、ポリアミック酸溶液C(熱融着層)−ポリアミック酸溶液A(コア層)−ポリアミック酸溶液C(熱融着層)となるように、ポリアミック酸溶液Aとポリアミック酸溶液Cを押し出して流延し、薄膜状にした。薄膜状の流延物を145℃の熱風で連続的に乾燥し、自己支持性フィルムを形成した。自己支持性フィルムを支持体から剥離した後、加熱炉で、200℃から460℃まで徐々に加熱し(最高加熱温度は460℃)、溶媒を除去とイミド化を行い、厚み12.5μm(2つの熱融着層の厚みは、それぞれ2.5μmであり、コア層の厚みは7.5μm)の三層構造の熱融着性ポリイミドフィルムを得た。この熱融着性ポリイミドフィルムの引き裂き強度を表に示す。
次に、得られた熱融着性ポリイミドフィルムの両面に銅箔(三井金属鉱業株式会社製、3EC−M3S−HTE、厚み12μm)を重ね合わせ、温度370℃、余熱5分、プレス圧力3MPa、プレス時間1分で熱圧着することにより、熱融着性ポリイミドフィルムの両面に銅箔が積層された銅張積層体を得た。この銅張積層体の剥離強度、半田耐熱および耐薬品性の各評価を行った。その結果を表に示す。
【0064】
[実施例2〜5、比較例1〜4]
ポリアミック酸の種類を表に示すものに変えた以外は、実施例1と同様にして熱融着性ポリイミドフィルムおよび銅張積層板を得た。各評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例の方法で製造された銅張積層板は、比較例の方法で製造された銅張積層板に比べて剥離強度が高く、半田耐熱性及び耐薬品性に優れていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上、詳述したとおり、本発明によれば、特定の熱融着性ポリイミドフィルムと、銅箔とを、特定の条件下で熱圧着することにより、耐熱性に優れ、ポリイミドフィルムと銅箔との剥離強度が高い銅張積層板を得ることができる。