特許第6673395号(P6673395)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許66733951,2−ジフルオロエチレン及び/又は1,1,2−トリフルオロエタンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673395
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】1,2−ジフルオロエチレン及び/又は1,1,2−トリフルオロエタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/20 20060101AFI20200316BHJP
   C07C 19/08 20060101ALI20200316BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20200316BHJP
   C07C 17/25 20060101ALI20200316BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200316BHJP
【FI】
   C07C17/20
   C07C19/08
   C07C21/18
   C07C17/25
   !C07B61/00 300
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-89063(P2018-89063)
(22)【出願日】2018年5月7日
(65)【公開番号】特開2019-196312(P2019-196312A)
(43)【公開日】2019年11月14日
【審査請求日】2019年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 雄三
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/104828(WO,A1)
【文献】 特表平03−504684(JP,A)
【文献】 INDUSTRIAL AND ENGNEERING CHEMISTRY,1947年,39(3),pp.409-412
【文献】 石川延男,小林義郎,フッ素の化合物 −その化学と応用,株式会社講談社,1979年,pp.80-85
【文献】 サンドラー・カロ著,稲本直樹ら訳,官能基別 有機化合物合成法〔I〕,株式会社廣川書店,1976年,pp.44-45
【文献】 永井芳男 監修,ユニット・プロセスシリーズ(3) ハロゲン化 脱ハロゲン クロルメチル化,株式会社化学工業社,1964年,pp.38-39
【文献】 DOLBIER, William R. Jr. et al.,Tetrahedron Letters,2002年,43,pp.8075-8077
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2−ジフルオロエチレン及び/又は1,1,2−トリフルオロエタンの製造方法であって、
1−クロロ−2,2−ジフルオロエタンとフッ化水素とを接触させてフッ素化反応を行い、1,1,2−トリフルオロエタンを得る工程Aを有する、製造方法。
【請求項2】
1,1,2−トリクロロエタン及び/又は1,2−ジクロロエチレン、並びにフッ化水素を接触させてフッ素化反応を行う工程1、及び前記工程Aをこの順に有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程1、前記工程A、及び
前記1,1,2−トリフルオロエタンを、脱フッ化水素反応させて1,2−ジフルオロエチレンを得る工程2をこの順に有する、
請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程1は、触媒存在下、気相で実施される、請求項又はに記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程1は、触媒存在下、液相で実施される、請求項又はに記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程Aは、気相で実施される、請求項の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程Aは、クロム系触媒存在下で実施される、請求項の何れか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1,2−ジフルオロエチレン及び/又は1,1,2−トリフルオロエタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来より用いられているHFC冷媒より地球温暖化係数(Global Warming Potential; 以下、単にGWPという。)の低いハイドロフルオロオレフィン(HFO冷媒)が注目されており、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)もGWPの低い冷媒として特許文献1で検討されている。
【0003】
HFO-1132を製造する方法としては、特許文献2及び3に開示されているような、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン(CFO-1112)を水素化触媒存在下に水素化脱塩素反応によりHFO-1132を得る方法が知られている。
【0004】
それ以外にも、特許文献4及び5に開示されているような、CH2F2やCH2ClFのホモカップリング反応により、HFO-1132を得る方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2015/125874号明細書
【特許文献2】特開昭62−30730号公報
【特許文献3】特開2016−56132号公報
【特許文献4】特開2013−237624号公報
【特許文献5】特開2013−241348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的とするところは、転化率及び選択率が高いHFO-1132及び/又はHFC-143の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、転化率及び選択率の高いHFO-1132及び/又はHFC-143の製造方法を提供できることを見出した。本発明者は、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本開示は、以下のHFO-1132及び/又はHFC-143の製造方法を提供する。
項1.
1,2−ジフルオロエチレン及び/又は1,1,2−トリフルオロエタンの製造方法であって、
一般式(1)CHXCH(式中、X、X、及びXは、同一又は異なって、Cl、Br又はFである。)で表わされるハロエタン、
及び、一般式(2)CHX=CHX(式中、X及びXは、同一又は異なって、Cl、Br又はFである。但し、X及びXが共にFであることを除く。)で表わされるハロエチレンからなる群より選択される一つ以上のハロゲン化物をフッ化水素と接触させて1以上のフッ素化反応を行う工程を含む、製造方法。
項2.
前記ハロゲン化物が、
一般式(1−1)CHXCH(式中、X、X、及びXは、同一又は異なって、Cl又はFである。)で表されるハロエタン、及び
一般式(2−1)CHX=CHX(式中、X及びXが同一又は異なって、Cl又はFである。但し、X及びXが共にFであることを除く。)で表されるハロエチレンからなる群より選択される一つ以上である、項1に記載の製造方法。
項3.
前記ハロゲン化物が1,1,2−トリクロロエタン、1−クロロ−2,2−ジフルオロエタン及び1,2−ジクロロエチレンからなる群より選択される1つ以上である、項1又は2に記載の製造方法。
項4.
1−クロロ−2,2−ジフルオロエタンとフッ化水素とを接触させてフッ素化反応を行い、1,1,2−トリフルオロエタンを得る工程Aを有する、
項1又は2に記載の製造方法。
項5.
前記工程Aにおける前記1−クロロ−2,2−ジフルオロエタンは、
1,1,2−トリクロロエタン及び/又は1,2−ジクロロエチレン、並びにフッ化水素を接触させてフッ素化反応を行う工程1により得られる、
項4に記載の製造方法。
項6.
前記工程1、前記工程A、及び
前記1,1,2−トリフルオロエタンを、脱フッ化水素反応させて1,2−ジフルオロエチレンを得る工程2をこの順に有する、
項5に記載の製造方法。
項7.
前記工程1は、触媒存在下、気相で実施される、項5又は6に記載の製造方法。
項8.
前記工程1は、触媒存在下、液相で実施される、項5又は6に記載の製造方法。
項9.
前記工程Aは、気相で実施される、項4〜6の何れかに記載の製造方法。
項10.
前記工程Aは、クロム系触媒存在下で実施される、項4〜6及び9の何れかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示のHFO-1132及び/又はHFC-143の製造方法によれば、転化率及び選択率の高いHFO-1132の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示のHFO-1132又はHFC-143の製造方法は、
一般式(1)CHXCH(式中、X、X、及びXは、同一又は異なって、Cl、Br又はFである。)で表わされるハロエタン及び/又は一般式(2)CHX=CHX(式中、X及びXは、同一又は異なって、Cl、Br又はFである。但し、X及びXが共にFであることを除く。)で表わされるハロエチレンからなる群より選択される一つ以上のハロゲン化物をフッ化水素と接触させて1以上のフッ素化反応を行う工程を含むことを特徴とする。但し、上記製造方法においてHFC-143を製造する方法である場合には、上記一般式(1)においてX、X及びXが共にFであることを除くことが好ましい。
【0011】
本開示のHFO-1132及び/又はHFC-143の製造方法によれば、転化率が高く、且つ、反応性生物中のHFO-1132の選択率が高いHFO-1132の製造方法を提供することができる。特に、本開示の製造方法によれば、HFO-1132の前駆体である1,1,2−トリフルオロエタン(HFC-143)を効率的に得ることができる。
【0012】
ハロエタン及びハロエチレン
本明細書におけるオレフィンに関しては、特に断らない限り、E体及びZ体の双方を含むものとする。
【0013】
本開示において使用されるハロエタンについては、上記一般式(1)で表わされるものであれば特に限定はなく、公知のものを広く採用することが可能である。具体的には、1,1,2-トリクロロエタン(CHCl2CH2Cl、以下、単にHCC-140ともいう。)、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン(CHFClCH2Cl、以下、単にHCFC-141ともいう。)、2-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(CHF2CH2Cl、以下、単にHCFC-142ともいう。)、2-ブロモ-1,1-ジクロロエタン(CHCl2CH2Br、以下、単にHCC-140B1ともいう。)、1-ブロモ-1,2-ジクロロエタン(CHClBrCH2Cl、以下、単にHCC-140aB1ともいう。)、1,1,2-トリブロモエタン(CHBr2CH2Br、以下、単にHBC-140B3ともいう。)、1,2-ジブロモ-1-フルオロエタン(CHFBrCH2Br、以下、単にHBFC-141B2ともいう。)、2-ブロモ-1,1-ジフルオロエタン(CHF2CH2Br、以下、単にHBFC-142B1ともいう。)等を例示することができる。これらは1種を単独で、或いは2種以上を併用して使用することができる。
【0014】
一般式(1)で表わされるハロエタンにおいて、X、X、及びXは、同一又は異なって、Cl又はFであることが好ましい。X、X、及びXがBrではなくCl又はFであることにより、入手が容易なため、経済的に有利であり、工業的規模での製造が容易である。
【0015】
本開示において使用されるハロエチレンについても、上記一般式(2)で表わされるものであれば特に限定はなく、公知のものを広く採用することが可能である。具体的には、1,2-ジクロロエチレン(CHCl=CHCl、以下、単にHCO-1130ともいう。)、1-クロロ-2-フルオロエチレン(CHF=CHCl、以下、単にHCFO-1131ともいう。)、1-ブロモ-2-クロロエチレン(CHBr=CHCl、以下、単にHBCO-1130B1ともいう。)、1,2-ジブロモエチレン(CHBr=CHBr、以下、単にHBO-1130ともいう。)、1-ブロモ-2-フルオロエチレン(CHF=CHBr、以下、単にHBFO-1131ともいう。)等を例示することができる。これらは1種を単独で、或いは2種以上を併用して使用することができる。
【0016】
一般式(2)で表わされるハロエチレンにおいても、X及びXは、同一又は異なって、Cl又はFである(但し、X及びXの双方がFであることを除く。)ことが好ましい。X及びXがBrではなくCl又はFであることにより、入手が容易なため、経済的に有利であり、工業規模での製造が容易になる。
【0017】
つまり、上記ハロゲン化物は、一般式(1−1)CHXCH(式中、X、X、及びXは、同一又は異なって、Cl又はFである。)で表されるハロエタン、及び一般式(2−1)CHX=CHX(式中、X及びXが同一又は異なって、Cl又はFである。但し、X及びXが共にFであることを除く。)で表されるハロエチレンからなる群より選択される一つ以上であることが、好ましい。
【0018】
上述した一般式(1)で表わされるハロエタン及び一般式(2)で表わされるハロエチレンの中でも、特に、HCC-140、HCFC-141、HCFC-142、HBFC-140B2、HBFC-142B1、HCO-1130、HCFO-1131、HBCO-1130B1、HBO-1130、及びHBFO-1131からなる群より選択される1種以上を使用することが、高選択率で1,2−ジフルオロエチレンを製造できるという理由から好ましい。また、原料入手の容易さや原料の経済性を考慮するとHCC-140、HCFC-142、HCO-1130、HCFO-1131がさらに好ましい。
【0019】
フッ素化反応工程
フッ化水素によるフッ素化反応は、気相反応であってもよいし、液相反応であってもよい。また、HFO-1132を得るまでに要するフッ素化反応は、使用するハロエタン及びハロエチレンに応じて、1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0020】
気相反応の場合、後述する反応温度領域において、原料化合物とフッ化水素が気体状態で接触できればよく、原料化合物の供給時には、原料化合物が液体状態であってもよい。
【0021】
例えば、原料化合物が常温、常圧で液状である場合には、原料化合物であるハロエタン及び/又はハロエチレンを、気化器を用いて気化させてから予熱領域を通過させ、フッ化水素と接触させる混合領域に供給することによって、気相状態で反応を行うことができる。また、原料化合物を液体状態で反応装置に供給し、フッ化水素との反応領域に達した時に気化させて反応させても良い。
【0022】
また、フッ化水素としては、反応器の腐食や触媒の劣化を抑制できるという理由から、無水フッ化水素を使用することが好ましい。
【0023】
原料化合物を反応領域で気化させる方法については特に限定はなく、公知の方法を広く採用することが可能である。例えば、ニッケルビーズ、ハステロイ片などの熱伝導性が良好で、フッ素化反応における触媒活性が無く、且つ、フッ化水素に対して安定な材料を反応管内に充填して、反応管内の温度分布を均一にし、原料化合物の気化温度以上に加熱し、ここに液体状態の原料化合物を供給して気化させ、気相状態としてもよい。
【0024】
フッ化水素を反応器に供給する方法としては特に限定はなく、例えば、原料化合物と共に、気相状態で反応器に供給する方法を挙げることができる。フッ化水素の供給量については、通常、上記した原料化合物1モルに対して、3モル以上とすることが好ましく、5〜100モルとすることがより好ましく、5〜30モルとすることがさらに好ましい。かかる組成を採用することにより、原料化合物の転化率、並びに、HCFC-142及びHFC-143などの生成物の選択率の双方を、良好な範囲内に維持することができる。特に、原料化合物1モルに対してフッ化水素を10モル以上供給する場合に、HCFC-142やHFC-143などの生成物の選択率を、極めて高くすることができる。
【0025】
尚、本明細書において、「転化率」とは、反応器に供給される原料化合物のモル量に対する、反応器出口からの流出ガスに含まれる原料化合物以外の化合物の合計モル量の割合(mol%)を、意味するものとする。
【0026】
また、本明細書において、「選択率」とは、反応器出口からの流出ガスにおける原料化合物以外の化合物の合計モル量に対する当該流出ガスに含まれる目的化合物の合計モル量の割合(mol%)を、意味するものとする。
【0027】
尚、上記した原料は、反応器にそのまま供給してもよく、あるいは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈して供給しても良い。
【0028】
気相で実施されるフッ素化反応の触媒の種類は特に限定されず、ハロゲン化炭化水素のフッ素化反応で使用されている公知の触媒を広く採用することができ、特に限定はない。例えば、クロム、アルミニウム、コバルト、マンガン、ニッケル、および鉄の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、ハロゲン酸化物、無機塩及びこれらの混合物が挙げることができる。中でも、原料の転化率を向上させるために、CrO2、Cr2O3、FeCl3/C、Cr2O3/Al2O3、Cr2O3/AlF3、Cr2O3/C、CoCl2/Cr2O3などのクロム系触媒を使用することが好ましい。酸化クロム/酸化アルミニウム触媒は、米国特許第5155082号に記載されているもの、つまり、酸化クロム/酸化アルミニウム触媒や、これにコバルト、ニッケル、マンガン、ロジウム、およびルテニウムのハロゲン化物を複合したもの等を好適に使用できる。非晶質酸化クロムなどの三酸化クロムは好ましく、中でも非晶質酸化クロムは最も好ましい。酸化クロムは、様々な粒子径のものを、商業的に入手可能である。また、粒子径や結晶性を制御するため、硝酸クロムとアンモニアから水酸化クロムの沈降させた後、焼成させることで調整しても良い。少なくとも98%の純度を有するフッ素化触媒が好ましい。
【0029】
使用する反応器の形態は特に限定されるものではなく、公知の反応器を広く使用することが可能である。例えば、触媒を充填した管型の流通型反応器を用いることができる。また、触媒の不存在下に反応を行う場合には、例えば、空塔の断熱反応器やフッ化水素と出発物質との気相混合状態を向上させるための多孔質又は非多孔質の金属や媒体を充填した断熱反応器を用いてもよい。それ以外にも、熱媒体を用いて除熱・反応器内の温度分布を均一化した多管型反応器等を用いることも好ましい。
【0030】
空塔の反応器を使用する場合、内径の小さい反応管を用いて伝熱効率を良くする方法では、例えば、原料の流量と、反応管の内径の関係は、線速度が大きくかつ伝熱面積が大きくなるようにすることが好ましい。
【0031】
気相フッ素化の際の反応温度は、反応器の中の温度として、200〜600℃が好ましく、230〜430℃がより好ましい。反応温度を200℃以上に設定することにより、目的物の選択率を向上させることができる。また、反応温度を600℃以下とすることにより、反応により炭化物が生成し、該炭化物が反応管壁や充填剤に付着・堆積することにより反応器を徐々に閉塞してしまうリスクを低減することができる。但し、かかるリスクが想定される場合には、反応系中に酸素を同伴するか、あるいは一旦、反応を停止して酸素あるいは空気を流通させることにより、反応管内に残存する炭化物を燃焼除去することができる。
【0032】
反応時の圧力については、上記した原料化合物とフッ化水素が気相状態で存在できる圧力であれば特に限定されるものではなく、常圧下、加圧下、減圧下のいずれでもよい。例えば、減圧下又は大気圧(0.1MPa)下で実施することができ、原料が液体状態にならない程度の加圧下で実施することもできる。
【0033】
反応時間については、特に限定的ではないが、通常、反応系に流す原料ガスの全流量Fo(0℃、0.1MPaでの流量:cc/sec)に対する触媒充填量W(g)の比率:W/Foで表される接触時間を0.1〜100g・sec/cc程度、好ましくは5〜50g・sec/cc程度とすればよい。尚、この場合の原料ガスの全流量とは、原料とする含塩素化合物とフッ素化剤の合計流量に、更に、不活性ガス、酸素などを用いる場合には、これらの流量を加えた量である。
【0034】
一方、フッ素化反応を液相で行う場合には、公知の液相フッ素化触媒を、広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、ルイス酸、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属酸化物、IVb属の金属ハロゲン化物、及びVb属の金属ハロゲン化物からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0035】
より具体的には、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化錫、ハロゲン化タンタル、ハロゲン化チタン、ハロゲン化ニオブ、ハロゲン化モリブデン、ハロゲン化鉄、フッ化クロムハロゲン化物、及びフッ化クロム酸化物からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0036】
さらに具体的には、SbCl5、SbCl3、SbF5、SnCl4、TaCl5、TiCl4、NbCl5、MoCl6、FeCl3、および塩化物塩とフッ化水素から調整されたSbCl(5-y)Fy、SbCl(3-y)Fy、SnCl(4-y)Fy、TaCl(5-y)Fy、TiCl(4-y)Fy、NbCl(5-y)Fy、MoCl(6-y)Fy、FeCl(3-y)Fy(ここで、yは、下限として0.1以上、上限としては、それぞれの元素の価数以下である。)などの触媒が好ましい。これらの触媒は、1種を単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。上述した中でも、五塩化アンチモンが特に好ましい。
【0037】
これらの触媒は、不活性になった場合には、公知の手法によって容易に再生可能である。触媒を再生する方法として、塩素を触媒と接触させる方法が採用できる。例えば、液相フッ素化触媒100gあたり、約0.15〜約25g/hrの塩素を液相反応に加えることが出来る。反応中に連続的に約50℃〜約100℃で行ってもよい。
【0038】
気相でのフッ素化反応及び液相でのフッ素化反応ともに、反応器としては、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、ハステロイ(HASTALLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)、インコロイ(INCOLLOY)等のフッ化水素の腐食作用に抵抗性がある材料によって構成されるものを用いることが好ましい。
【0039】
本開示の製造方法においては、1−クロロ−2,2−ジフルオロエタン(HCFC-142)とフッ化水素とを接触させてフッ素化反応を行い、1,1,2−トリフルオロエタン(HFC-143)を得る工程Aを包含する製造方法とすることが、特に好ましい。かかる工程Aの存在により、従来技術に比べて工業的に容易な反応条件下で、転化率を高め、且つ、反応生成物中のHFO-1132の選択率も高めることが、可能となる。
【0040】
また、前記工程Aにおける前記HCFC-142は、1,1,2−トリクロロエタン(HCC-140)及び/又は1,2−ジクロロエチレン(HCO-1130)、並びにフッ化水素を接触させてフッ素化反応を行う工程1により得られるHCFC-142であることが好ましい。かかる製造方法を採用することにより、入手容易な原料から、工業的に容易で、連続的に生産可能な反応条件下で、高選択率でHFC-142を得ることができるという利点がある。
【0041】
脱フッ化水素反応工程
必要に応じて、フッ素化反応を実施した後に、脱フッ化水素反応を実施してもよい。例えば、フッ素化反応により、HFC-143が生成された場合には、これらの化合物に対して脱フッ化水素反応を実施することにより、HFO-1132を得てもよい。
【0042】
脱フッ素化反応の方法は、公知の方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。脱フッ素化反応は液相で実施しても、気相で実施してもよい。
【0043】
反応温度に関して、また、触媒を使用する場合には当該触媒に関しても、特に限定はなく、適宜設定すればよい。
【0044】
特に、前記工程1、前記工程Aを有するHFO-1132の製造方法とする場合、前記工程1、前記工程A、及び、該工程Aにより得られる1,1,2−トリフルオロエタン(HFC-143)を、脱フッ化水素反応させて1,2−ジフルオロエチレン(HFO-1132)を得る工程2をこの順に有する製造方法とすることが、好ましい。かかる製造方法とすることにより、工業的に容易で、連続的に生産可能な反応条件下で、高選択率でHFC-1132を得ることができるという利点がある。
【0045】
具体的な実施態様1
上述の通り、本開示のHFO-1132の製造方法は、1のみのフッ素化工程を含む態様であってもよい。具体的には、下記の通り、一般式(1)で表わされるハロエタン及び/又は一般式(2)で表わされるハロエチレンに対し、フッ素化反応を行う方法を挙げることができる。下記化学反応式中には、ハロエタン及びハロエチレンとして、それぞれHCC-140及びCHO-1130を例示したが、勿論これに限定されない。また、ハロエタン及びハロエチレンの混合物に対して、フッ素化反応を実施してもよい。
【0046】
【化1】
【0047】
具体的な実施態様2
本開示のHFO-1132の製造方法において、一般式(1)で表わされるハロエタン及び/又は一般式(2)で表わされるハロエチレンのフッ素化を実施してHFO-143を得て、HFO-143に脱フッ化水素反応を実施し、HFO-1132を得ることも好ましい。
【0048】
【化2】
【0049】
具体的な実施態様3
本開示のHFO-1132の製造方法においては、一般式(1)で表わされるハロエタン及び/又は一般式(2)で表わされるハロエチレンに、フッ素化反応を2回以上実施する態様も包含される。具体的には、下記の反応を例示することができる。
【0050】
【化3】
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0053】
(HCC-140からHCFC-142の製造)
フッ素化触媒として、CrO2で表される酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒10g(フッ素含有量約15.0質量%)を、内径15mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧(0.1MPaG)下で250℃に維持し、無水フッ化水素(HF)ガスを114mL/min(0℃、0.1 MPaでの流量)の流速で反応器に供給して1時間維持した。その後、CHCl2CH2Cl(HCC-140)を5.6 mL/min(0℃、0.1 MPaでのガス流量)の流速で供給した。この時のHF:HCC-140のモル比は20:1、接触時間W/Foは5.0 g・sec/ccであった。反応開始から4時間後、HCC-140の転化率は20%、CHF2CH2Cl(HCFC-142)の選択率は92%であった。
【0054】
(HCO-1130(E)からHCFC-142の製造)
フッ素化触媒として、CrO2で表される酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒10g(フッ素含有量約15.0質量%)を、内径15mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧(0.1MPaG)下で250℃に維持し、無水フッ化水素(HF)ガスを114mL/min(0℃、0.1MPaでの流量)の流速で反応器に供給して1時間維持した。その後、E-CHCl=CHCl(HCO-1130(E))を5.6mL/min(0℃、0.1 MPaでのガス流量)の流速で供給した。この時のHF:HCO-1130(E)のモル比は20:1、接触時間W/Foは5.0g・sec/ccであった。反応開始から4時間後、HCO-1130の転化率は18%、CHF2CH2Cl(HCFC-142)の選択率は89%であった。
【0055】
(HCFO-1131からHCFC-142の製造)
フッ素化触媒として、CrO2で表される酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒10g(フッ素含有量約15.0質量%)を、内径15mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧(0.1MPaG)下で250℃に維持し、無水フッ化水素(HF)ガスを110mL/min(0℃、0.1MPaでの流量)の流速で反応器に供給して1時間維持した。その後、CHF=CHCl(HCFO-1131)を10.8 mL/min(0℃、0.1 MPaでのガス流量)の流速で供給した。この時のHF:HCFO-1131のモル比は10:1、接触時間W/Foは5.0g・sec/ccであった。反応開始から4時間後、HCFO-1131の転化率は21%、CHF2CH2Cl(HCFC-142)の選択率は86%であった。
【0056】
(HCC-140からHCFC-142の製造)
500mLハステロイ製オートクレーブに、フッ素化触媒として、SbCl5 30g(0.1mol)、液化フッ化水素200mL(10mol)を予め導入した。反応器内の温度を80℃にし、系内の圧力を1.1MPaGに保ちながら、CHCl2CH2Cl(HCC-140)を30g/hrで供給して、反応器上方の出口部からガスを抜き出しながらフッ素化反応を進行させた。反応器上方の出口部から反応生成物を含むフラクション(未反応のHFおよび副生成物であるHClを含む)を得た。得られた有機物中、CHF2CH2Cl(HCFC-142)が93%で含まれていた。
【0057】
(HCO-1130(Z)からHCFC-142の製造)
500mLハステロイ製オートクレーブに、フッ素化触媒として、SbCl5 30g(0.1mol)、液化フッ化水素200mL(10mol)を予め導入した。反応器内の温度を80℃にし、系内の圧力を1.1MPaGに保ちながら、Z-CHCl=CHCl(HCO-1130(Z))を30g/hrで供給して反応器上方の出口部からガスを抜き出しながらフッ素化反応を進行させた。反応器上方の出口部から反応生成物を含むフラクション(未反応のHFおよび副生成物であるHClを含む)を得た。得られた有機物中、CHF2CH2Cl(HCFC-142)が96%で含まれていた。
【0058】
(HCFO-1131からHCFC-142の製造)
500mLハステロイ製オートクレーブに、フッ素化触媒として、SbCl5 30g(0.1mol)、液化フッ化水素200mL(10mol)を予め導入した。反応器内の温度を80℃にし、系内の圧力を1.1MPaGに保ちながら、CHF=CHCl(HCFO-1131)を30g/hrで供給して反応器上方の出口部からガスを抜き出しながらフッ素化反応を進行させた。反応器上方の出口部から反応生成物を含むフラクション(未反応のHFおよび副生成物であるHClを含む)を得た。得られた有機物中、CHF2CH2Cl(HCFC-142)が96%で含まれていた。
【0059】
(HCFC-142からHFC-143の製造)
フッ素化触媒として、組成式:CrO2で表される酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒40g(フッ素含有量約15.0質量%)を、内径25mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧(0.1MPa)下で380℃に維持し、無水フッ化水素(HF)ガスを114mL/min(0℃、0.1MPaでの流量)の流速で反応器に供給して1時間維持した。その後、CHF2CH2Cl(HCFC-142)を5.6mL/min(0℃、0.1MPaでのガス流量)の流速で供給した。この時のHF:HCFC-142のモル比は20:1、接触時間W/F0は20.0 g・sec/ccであった。反応開始4時間後、HCFC-142の転化率は70%、CHF2CH2F(HFC-143)の選択率は11%、CHF=CHCl (HCFO-1131)の選択率は86%であった(HCFO-1131は原料として再利用可能)。
【0060】
(HBFC-142B1からHFC-143の製造)
フッ素化触媒として、組成式:CrO2で表される酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒40g(フッ素含有量約15.0質量%)を、内径25mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧(0.1MPa)下で380℃に維持し、無水フッ化水素(HF)ガスを114mL/min(0℃、0.1MPaでの流量)の流速で反応器に供給して1時間維持した。その後、CHF2CH2Br(HBFC-142B1)を5.6mL/min(0℃、0.1MPaでのガス流量)の流速で供給した。この時のHF:HBFC-142B1のモル比は20:1、接触時間W/F0は20.0g・sec/ccであった。反応開始4時間後、HBFC-142B1の転化率は78%、CHF2CH2F (HFC-143)の選択率は31%、CHF=CHBr(HBFO-1131B1)の選択率は64%であった(HBFO-1131B1は原料として再利用可能)。
【0061】
(HFC-143からHFO-1132の製造)
フッ素化触媒として、組成式:CrO2で表される酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒10g(フッ素含有量約15.0質量%)を、内径15mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧(0.1MPa)下で400℃に維持し、CHF2CH2F (HFC-143)を15.0mL/min(0℃、0.1MPaでのガス流量)の流速で供給した。接触時間W/Foは40.0 g・sec/ccであった。反応開始4時間後、HCFC-143の転化率は98%、CHF=CHF (HFO-1132)の選択率は89%(E/Z =19/81)であった。