特許第6673425号(P6673425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673425
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】ウインター用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20200316BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20200316BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20200316BHJP
   C08L 57/02 20060101ALI20200316BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C08L9/06
   C08K3/36
   C08K5/548
   C08L57/02
   B60C1/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-191489(P2018-191489)
(22)【出願日】2018年10月10日
(62)【分割の表示】特願2014-154894(P2014-154894)の分割
【原出願日】2014年7月30日
(65)【公開番号】特開2019-11480(P2019-11480A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2018年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】三原 諭
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−544935(JP,A)
【文献】 特表2014−500181(JP,A)
【文献】 特表2005−537369(JP,A)
【文献】 特開2011−021191(JP,A)
【文献】 歯科医学大辞典,歯科医学大事典 縮刷版,藤田 勝治 医歯薬出版株式会社,1989年,第1版
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/06
B60C 1/00
C08K 3/36
C08K 5/548
C08L 57/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンゴムを50重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に、窒素吸着比表面積が150〜400m2/gであるシリカを100〜200重量部および可塑剤成分を配合し、シランカップリング剤を前記シリカの重量に対し4〜20重量%配合したゴム組成物でトレッド部を構成したウインター用空気入りタイヤであって、前記可塑剤成分および前記ジエン系ゴムのガラス転移温度と重量分率から算出される加重平均値である平均ガラス転移温度が−45℃以下であると共に、前記ゴム組成物が下記(a)および(b)を満たすことを特徴とするウインター用空気入りタイヤ。
(a)前記ゴム組成物の0℃の貯蔵弾性率E0′が10〜28MPaであること
(b)前記ゴム組成物における下記式(i)で表される掘り起し摩擦力パラメーターFが0.60〜0.90MPa1/3・sであること
F=η/(E20′)2/3 (i)
(式(i)において、ηは下記式(ii)で表される粘性率(MPa・s)、E20′はゴム組成物の20℃における貯蔵弾性率(MPa)である。
η=τ×G′ (ii)
式(ii)において、τは70℃における緩和時間(s)、G′は70℃におけるピークせん断弾性率(MPa)である。)
【請求項2】
前記可塑剤成分が芳香族変性テルペン樹脂を含むことを特徴する請求項1に記載のウインター用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、メルカプト基を有することを特徴とする請求項1または2に記載のウインター用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットグリップ性能および氷雪上性能を高いレベルで両立するようにしたウインター用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ウインター用空気入りタイヤは、トレッドゴムの硬度を低温でも柔軟に維持することにより氷雪路面に対する凝着性を高め、グリップ性能を向上するようにしている。またウインター用空気入りタイヤには、上述した氷雪路面での走行性能と共に、氷雪に覆われていない湿潤路面(ウェット路面)でもグリップ性能を向上することが求められている。
【0003】
このウェットグリップ性能を高くするため、ガラス転移温度(Tg)が高いスチレンブタジエンゴムやハロゲン化ブチルゴム、再生ブチルリクレイムをトレッド用ゴム組成物に配合することが行われている(例えば特許文献1参照)。これらのゴム成分は、トレッドゴム全体のtanδを高くすることによりウェットグリップ性能を改良する役割を果たす。しかし、同時に低温でのゴム硬度が大きくなるため氷雪路面に対する凝着性が悪化するという問題があった。
【0004】
したがって、氷雪路面での制動性能(氷雪上性能)を低下させずに、湿潤路面での制動性能(ウェットグリップ性能)を向上させることは困難であった。しかもウインター用空気入りタイヤの高性能化において、これら二つの制動性能をより高いレベルで両立させることは難しい課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−1177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ウェットグリップ性能および氷雪上性能を従来レベル以上に向上するようにしたウインター用空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のウインター用空気入りタイヤは、スチレンブタジエンゴムを50重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に、窒素吸着比表面積が150〜400m2/gであるシリカを100〜200重量部および可塑剤成分を配合し、シランカップリング剤を前記シリカの重量に対し4〜20重量%配合したゴム組成物でトレッド部を構成したウインター用空気入りタイヤであって、前記可塑剤成分および前記ジエン系ゴムのガラス転移温度と重量分率から算出される加重平均値である平均ガラス転移温度が−45℃以下であると共に、前記ゴム組成物が下記(a)および(b)を満たすことを特徴とする。
(a)前記ゴム組成物の0℃の貯蔵弾性率E0′が10〜28MPaであること
(b)前記ゴム組成物における下記式(i)で表される掘り起し摩擦力パラメーターFが0.60〜0.90MPa1/3・sであること
F=η/(E20′)2/3 (i)
(式(i)において、ηは下記式(ii)で表される粘性率(MPa・s)、E20′はゴム組成物の20℃における貯蔵弾性率(MPa)である。
η=τ×G′ (ii)
式(ii)において、τは70℃における緩和時間(s)、G′は70℃におけるピークせん断弾性率(MPa)である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明のウインター用空気入りタイヤは、ジエン系ゴムにシリカ、シランカップリング剤および可塑剤成分を配合したゴム組成物でトレッド部を構成し、ジエン系ゴムおよび可塑剤成分の平均ガラス転移温度を−45℃以下にし、かつゴム組成物が、(a)その0℃の貯蔵弾性率E0′が10〜28MPa、(b)前記式(i)で表される掘り起し摩擦力パラメーターFを0.60〜0.90MPa1/3・sにしたので、ウェットグリップ性能および氷雪上性能を従来レベル以上に向上することができる。
【0009】
前記可塑剤成分としては、芳香族変性テルペン樹脂であるとよい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のウインター用空気入りタイヤは、そのトレッド部を特定のゴム組成物で構成する。このトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴムに、シリカ、シランカップリング剤および可塑剤成分を配合する。
【0011】
トレッド用ゴム組成物においてゴム成分はジエン系ゴムで構成され、スチレンブタジエンゴムを含む。またスチレンブタジエンゴム以外の他のジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム等を例示することができる。なかでも天然ゴム、ブタジエンゴムが好ましい。スチレンブタジエンゴムはジエン系ゴム100重量%中、50重量%以上含有することにより、ウェットグリップ性能をより高くすることができる。
【0012】
本発明においてトレッド用ゴム組成物は可塑剤成分を含む。可塑剤成分としては、例えばオイル、可塑剤、軟化剤、加工助剤、石油系樹脂、芳香族系樹脂を例示することができる。これら可塑剤成分は、1つであっても複数を組合わせて含有してもよい。またオイルとしてはジエン系ゴムを製造するとき添加された油展成分でも、ゴム組成物の調製時に添加するオイルでもよい。
【0013】
本明細書において、石油系樹脂は、原油を蒸留、分解、改質などの処理をして得られた成分を重合して製造される芳香族系炭化水素樹脂あるいは飽和または不飽和脂肪族系炭化水素樹脂である。石油系樹脂として、例えばC5系石油樹脂(イソプレン、1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエン、メチルブテン、ペンテンなどの留分を重合した脂肪族系石油樹脂)、C9系石油樹脂(α−メチルスチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエンなどの留分を重合した芳香族系石油樹脂)、C5C9共重合石油樹脂などが例示される。
【0014】
また芳香族系樹脂は、芳香族系炭化水素からなるセグメントを少なくとも1つ有する重合体であり、クマロン樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、ノボラック系樹脂、レゾール系樹脂などをあげることができる。なかでも芳香族変性テルペン樹脂が好ましい。これらの樹脂は、単独又は複数のブレンドとして使用することができる。なお上述したC9系石油樹脂は、芳香族系炭化水素樹脂であるが、本明細書では石油系樹脂に分類するものとする。
【0015】
本発明において、可塑剤成分として芳香族変性テルペン樹脂が好ましい。芳香族変性テルペン樹脂としては、例えばα−ピネン、βピネン、ジペンテン、リモネンなどのテルペンとスチレン、フェノール、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族化合物とを重合させて得られた芳香族変性テルペン樹脂等が例示される。なかでもスチレン変性テルペン樹脂が好ましく、ジエン系ゴムとの相溶性が良好であるため、ゴム組成物の0℃のtanδを高くし、ウェットグリップ性能を高くすることができる。
【0016】
上述した可塑剤成分およびジエン系ゴムの平均ガラス転移温度は、−45℃以下、好ましくは−48℃〜−65℃にする。可塑剤成分およびジエン系ゴムの平均ガラス転移温度を−45℃以下にすることにより、低温下でのゴムコンパウンドのしなやかさを維持し、氷面に対する凝着力を高くして氷雪上性能を確保することができる。ここで可塑剤成分およびジエン系ゴムの平均ガラス転移温度は、可塑剤成分およびジエン系ゴムのガラス転移温度に、各成分の重量分率を乗じた積の合計、すなわち加重平均に基づき算出される値である。なお計算時には可塑剤成分およびジエン系ゴムの重量分率の合計を1.0とする。またガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度とする。
【0017】
トレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部にシリカを100重量部以上200重量部以下配合する。シリカを配合することにより、ウインター用空気入りタイヤのウェットグリップ性能を向上することができる。シリカとしては、タイヤトレッド用ゴム組成物に通常使用されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。
【0018】
シリカの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し100重量部以上200重量部以下、好ましくは100〜175重量部、より好ましくは100〜165重量部にする。シリカの配合量が100重量部未満であると、ゴム組成物のウェットグリップ性能を十分に改良することができない。シリカの配合量が200重量部を超えると、氷雪上性能を確保することができない。
【0019】
またシリカの窒素吸着比表面積は、150〜400m2/g、好ましくは155〜330m2/g、より好ましくは185〜270m2/gである。シリカの窒素吸着比表面積が150m2/g未満であると、ウインター用空気入りタイヤのウェットグリップ性能を十分に改良することができない。またシリカの窒素吸着比表面積が400m2/gを超えると、氷雪上性能が悪化する。本明細書においてシリカの窒素吸着比表面積は、ISO 9277により測定された値とする。
【0020】
本発明のウインター用空気入りタイヤは、(a)ゴム組成物の0℃のE0′が10〜28MPaであることを特徴とする。ゴム組成物の0℃のE0′を28MPa以下にすることにより、氷雪路面走行時などの低温状態におけるゴムコンパウンドのしなやかさを維持し、氷面に対する凝着力を高くし、氷雪上性能を確保することができる。また接地面積を確保しやすくするので、氷雪上性能と共にウェットグリップ性能を確保することができる。なお本発明において、0℃のE0′は、粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzで測定された0℃の貯蔵弾性率とする。
【0021】
またトレッド部を構成するゴム組成物は、(b)下記式(i)で表される掘り起し摩擦力パラメーターFが0.60〜0.90MPa1/3・sである。
F=η/(E20′)2/3 (i)
(式(i)において、ηは下記式(ii)で表される粘性率(MPa・s)、E20′はゴム組成物の20℃における貯蔵弾性率(MPa)である。
η=τ×G′ (ii)
式(ii)において、τは70℃における緩和時間(s)、G′は70℃におけるピークせん断弾性率(MPa)である。)
【0022】
トレッド用ゴム組成物の掘り起し摩擦力パラメーターFを0.60MPa1/3・s以上にすることにより、ウェットグリップ性能をより高くすることができる。掘り起し摩擦力パラメーターFは、シリカの配合量および分散性に依存し、配合量が多いほど掘り起し摩擦力パラメーターFが大きくなり、またシリカの分散性が良好なほど掘り起し摩擦力パラメーターFを効率的に大きくすることができる。
【0023】
掘り起し摩擦力パラメーターFは、0.60〜0.90MPa1/3・sの範囲である。掘り起し摩擦力パラメーターFが0.60MPa1/3・s未満であると、ウェットグリップ性能が低下する。また掘り起し摩擦力パラメーターFが0.9MPa1/3・sを超えると、氷雪上性能が悪化する。
【0024】
前記式(i)の貯蔵弾性率E20′は、ゴム組成物の加硫物を、粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件で温度20℃で測定する貯蔵弾性率E20′であるものとする。貯蔵弾性率E20′は、シリカの配合量が同じゴム組成物の場合、シリカの分散性が良好なほど小さくなる。
【0025】
前式(i)のηは、下記式(ii)で表される粘性率(MPa・s)である。
η=τ×G′ (ii)
式(ii)において、τは70℃における緩和時間(s)、G′は70℃におけるピークせん断弾性率(MPa)である。ピークせん断弾性率G′は、粘弾性スペクトロメーターを使用して、温度70℃、ひずみ100%のときのピークせん断弾性率として測定することができる。また緩和時間τは70℃におけるせん断弾性率がピークせん断弾性率の1/e(eは自然対数の底)の大きさになるまでの時間(s)である。
【0026】
粘性率ηは、シリカとゴム成分との間の相互作用の強さに依存し、相互作用が強いと粘性率ηが大きくなる。すなわちシリカとゴム成分との間の相互作用が強いと粘性率ηおよび掘り起し摩擦力パラメーターFが大きくなり、ウェットグリップ性能を効率的に改良することができると考えられる。シリカとゴム成分との間の相互作用の強さは、ゴム組成物中のシリカの含有量およびその分散状態に依存する。シリカの含有量が多いと、ゴム成分との間の相互作用が強くなり粘性率ηが大きくなる。
【0027】
またゴム組成物中でシリカ粒子が良好に分散すると粘性率ηが大きくなる。また上記の通りシリカが良好に分散すると貯蔵弾性率E20′が小さくなるので、掘り起し摩擦力パラメーターFは相乗的に大きくなる。これに対しシリカの配合量が同じゴム組成物でも、その分散性が悪いと粘性率ηが小さくなると共に、貯蔵弾性率E20′が大きくなるので、掘り起し摩擦力パラメーターFが小さくなりウェットグリップ性能を改良する効率が低下する。
【0028】
以上のように、シリカの配合量および分散性を掘り起し摩擦力パラメーターFの観点からみると、シリカの含有量を多くし、かつ分散性を良好にすることにより、掘り起し摩擦力パラメーターFを大きくしウェットグリップ性能を高くすることができる。同時にシリカの分散性が良好であると、氷雪上性能を向上することができる。
【0029】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シランカップリング剤をシリカ重量の4〜20重量%配合する。シランカップリング剤を配合することにより、シリカの分散性を改良することができる。シランカップリング剤の配合量は、好ましくはシリカ重量の4〜16重量%、より好ましくは5〜15重量%であるとよい。シランカップリング剤の配合量が4重量%未満では、シリカの分散性を十分に改良することができない虞がある。シランカップリング剤の配合量が20重量%を超えると、ゴム組成物が早期加硫を起こしやすくなり成形加工性が悪化する虞がある。
【0030】
シランカップリング剤としては、タイヤ用ゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。なかでもメルカプト基を有するシランカップリング剤が好ましく、シリカとの親和性を高くしその分散性を改良することができる。これらシランカップリング剤は、単独で配合してもよいし、複数を組合わせて配合してもよい。
【0031】
また、本発明のウインター用空気入りタイヤは、アルキルシランを配合することにより、シリカの分散を促進し、ウェット性能と氷雪性能を向上させることができる。
【0032】
アルキルシランとしては、炭素数7〜20のアルキル基を有するアルキルトリエトキシシランが好ましい。炭素数7〜20のアルキル基として、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基が挙げられる。なかでもジエン系ゴムとの相溶性の観点から、炭素数8〜10のアルキル基がより好ましく、オクチル基、ノニル基がさらに好ましい。
【0033】
アルキルシランの配合量は、シリカ重量に対し、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは2〜15重量%にすると良い。
【0034】
本発明において、上記以外の他の配合剤を添加することができる。他の配合剤としては、シリカを除く他の補強性充填剤、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂など、一般的に空気入りタイヤに使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量にすることができる。また混練機としは、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用することができる。
【0035】
他の補強性充填剤としては、例えばカーボンブラック、クレー、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等を例示することができる。なかでもカーボンブラックが好ましく、ゴム組成物の硬度、強度および氷雪上性能を高くすることができる。カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し、好ましくは3〜15重量部、より好ましくは4〜10重量部にするとよい。
【0036】
本発明のウインター用空気入りタイヤは、氷雪路面およびウェット路面を走行するのに、氷雪上性能およびウェットグリップ性能に優れる。
【0037】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
表3に示す配合剤を共通配合とし、表1,2に示す配合からなる12種類のトレッド用ゴム組成物(実施例2,3,5〜7、参考例1,4、標準例、比較例1〜4)を、硫黄及び加硫促進剤を除く成分を、1.7Lの密閉式バンバリーミキサーで混練りし、所定時間の経過後、ミキサーから放出して室温冷却させた。これを1.7Lの密閉式バンバリーミキサーに投入し硫黄及び加硫促進剤を加えて混合することにより、トレッド用ゴム組成物を調製した。なお表1,2のスチレンブタジエンゴム(SBR2)の欄に、製品の配合量に加え、括弧内に油展成分を除く正味のSBRの配合量を記載した。また表1,2に記載の「ガラス転移温度」は、ジエン系ゴム(SBR1,SBR2,BRおよびNR)、芳香族変性テルペン樹脂並びにオイルの平均ガラス転移温度(加重平均値)である。なお表3に記載した配合剤の配合量は、表1,2に記載したジエン系ゴム100重量部に対する重量部で示した。
【0039】
得られた12種類のゴム組成物を所定の金型中で、160℃で30分間プレス加硫してウインター用空気入りタイヤからなる試験片を作製した。得られた試験片の0℃の貯蔵弾性率E0′、掘り起し摩擦力パラメーターF(ピークせん断弾性率G′、緩和時間τ、貯蔵弾性率E20′)、ウェットグリップ性能、および氷雪上性能を以下の方法で評価した。
【0040】
0℃の貯蔵弾性率E0
得られた試験片の動的粘弾性を、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzで測定し、雰囲気温度0℃における貯蔵弾性率E0′を測定した。得られた結果は、表1,2の「0℃のE0′」の欄に示した。
【0041】
掘り起し摩擦力パラメーターFの算出
以下の測定により得られた粘性係数η、貯蔵弾性率E20′から掘り起し摩擦力パラメーターF=η/(E20′)2/3を求めた。得られた結果を表1,2の「掘り起し摩擦力パラメーターF」の欄に記載した。
【0042】
ピークせん断弾性率G′および緩和時間τ
得られた試験片の粘弾性を、粘弾性測定装置(アルファテクノロジー社製RPA2000)を使用して、せん断ひずみ100%、温度70℃の条件で、ピークせん断弾性率G′および緩和時間τを測定し、粘性係数η=τ×G′を求めた。
【0043】
貯蔵弾性率E20
得られた試験片の動的粘弾性を、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzで測定し、温度20℃における貯蔵弾性率E20′を求めた。
【0044】
ウェットグリップ性能
各試験片を用いて、ウェットスキッド抵抗ポータブルスキッドレジスタンステスター(谷藤機械工業社製TR−300)を使用して、室温における湿潤コンクリート路面に対する有効摩擦係数μを測定した。得られた結果は、標準例の値を100とする指数で表わし表1,2の「ウェットグリップ性」の欄に示した。この値が大きいほどウェットスキッド抵抗が大きく、ウェットグリップ性能が優れることを意味する。
【0045】
氷雪上性能
得られた加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩擦試験機を用いて、測定温度−1.5℃、荷重5.5kg/cm3、ドラム回転速度25km/hの条件で氷上摩擦係数を測定した。得られた氷上摩擦係数を、標準例の値を100とする指数にして、表1,2の「氷雪上性能」の欄に示した。この指数値が大きいほど氷上摩擦力が大きく氷雪上性能が優れることを意味する。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
なお、表1,2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・SBR1:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1502、非油展品、ガラス転移温度が−52℃
・SBR2:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol NS530、スチレンブタジエンゴム100重量部にオイル成分37.5重量部を配合した油展製品、ガラス転移温度が−31℃
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220、ガラス転移温度が−100℃
・NR:天然ゴム、(RSS#3)、ガラス転移温度が−67℃
・シリカ:Solvay社製Zeosil 1165MP、窒素吸着比表面積が155m2/g
・カップリング剤1:硫黄含有シランカップリング剤、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、Evonik社製Si69
・カップリング剤2:メルカプトシラン、Evonik社製VPSi363
・テルペン樹脂:芳香族変性テルペン樹脂、ヤスハラケミカル社製YSレジンTO125、ガラス転移温度が65℃
・オイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S、ガラス転移温度が−40℃
【0049】
【表3】
【0050】
表3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸YR
・酸化亜鉛:正同化学社製酸化亜鉛3種
・老化防止剤: フレキシス社製サントフレックス 6PPD
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤1:CBS,大内新興化学社製ノクセラーCZ−G
・加硫促進剤2:DPG,住友化学社製ソクシノールD−G
【0051】
表1,2から明らかなように実施例2,3,5〜7により製造されたウインター用空気入りタイヤは、ウェットグリップ性能および氷雪上性能に優れることが確認された。
【0052】
比較例1,2のゴム組成物は、標準例に対しSBR1の一部をSBR2に置き換えシリカを増量したので、ウェットグリップ性能が良化するが、ジエン系ゴムおよび可塑剤成分の平均ガラス転移温度が−45℃より高く、かつ0℃のE0′が30MPaより大きいので、氷雪上性能が悪化する。
【0053】
比較例3のゴム組成物は、掘り起し摩擦力パラメーターFが0.50MPa1/3・s以下なのでウェットグリップ性能が悪化する。
【0054】
比較例4のゴム組成物は、シリカを増量し掘り起し摩擦力パラメーターFを大きくしたのでウェットグリップ性能が良化したが、0℃のE0′が30MPaより大きいので、氷雪上性能が悪化する。