特許第6673465号(P6673465)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673465
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】ポリエステル系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20200316BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20200316BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20200316BHJP
   C08G 63/183 20060101ALI20200316BHJP
   C09J 167/00 20060101ALI20200316BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C08L67/02
   C08L71/02
   C08K5/053
   C08G63/183
   C09J167/00
   C09J11/06
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-505932(P2018-505932)
(86)(22)【出願日】2017年3月14日
(86)【国際出願番号】JP2017010075
(87)【国際公開番号】WO2017159650
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2018年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-50327(P2016-50327)
(32)【優先日】2016年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】中安 達也
(72)【発明者】
【氏名】今堀 誠
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−524202(JP,A)
【文献】 特開2003−143971(JP,A)
【文献】 特開2002−275296(JP,A)
【文献】 特開2013−253189(JP,A)
【文献】 特開2014−215193(JP,A)
【文献】 特開2012−184313(JP,A)
【文献】 特開2014−207281(JP,A)
【文献】 特開2012−052053(JP,A)
【文献】 特開2012−157827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00−67/08、71/00−71/14
C08G 63/00−64/42
C09D 1/00−10/00、101/00−201/10
B32B 1/00−43/00
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)および界面活性剤(B)を含有し、
ポリエステル樹脂(A)は、繰返し数が3〜50であるポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物を構成成分として共重合したもので、当該化合物に由来するポリアルキレングリコールの含有率は、0.1〜39重量%であり、
界面活性剤(B)は、ポリアルキレングリコールの骨格を有する非イオン性の界面活性剤で、その含有量は、0.1〜20重量%であり、
水の接触角が30°以下である
ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)の構成成分である繰返し数が3〜50であるポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物におけるポリアルキレングリコールが、下記式(1)または(2)に示す構造である請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
HO−((CH2aO)b−H (1)
HO−(CH2CH((CH2cCH3)O)d−H (2)
(ここで、a:2〜4、c:0〜1、bおよびd:3〜50)
【請求項3】
ポリエステル樹脂(A)の構成成分である繰返し数が3〜50であるポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物に由来するポリアルキレングリコールの含有率が、0.1〜35重量%である請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量が、5,000〜35,000である請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
界面活性剤(B)が、下記式(3)または(4)に示す構造を有するものである請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
RO−((CH2eO)f−H (3)
RO−(CH2CH((CH2gCH3)O)h−H (4)
(ここで、Rはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、環状エーテル基またはアリール基のいずれかを示す。e:2〜4、g:0〜1、fおよびh:2以上)
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物を、有機溶剤に溶解してなる接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期接着性を損なうことなく、親水性の樹脂表面を有するポリエステル系接着剤組成物およびそれに用いるポリエステル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、機械的強度、熱安定性、耐薬品性などに優れるため、フィルムやシートなどのコーティング剤や、ホットメルト型接着剤として、各種分野で広く利用されている。
【0003】
ポリエステル樹脂においては、構成成分である多価カルボン酸およびグリコールの種類の組み合わせを適宜に選択することで、種々の構造および特性を得ることが可能であり、そのコーティング被膜は基材に対する密着性に優れ、また、他の基材に対する接着性にも優れている。このような優れた密着性および接着性を活かして、ポリエステル樹脂は、接着剤、コーティング剤、インキバインダーあるいは塗料などの用途において広く使用されている。ポリエステル樹脂がコーティングされる基材として、一般に、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂またはポリ塩化ビニル樹脂などからなるフィルムやシート、あるいはアルミニウムまたは銅などの金属箔などが挙げられる。
【0004】
一方、ポリエステル樹脂を接着とコーティングに兼用しようとの試みがある。即ち、ポリエステル樹脂を基材にコーティングし、その塗工部分の一部に別の基材を張り合わせ、残りの部分はそのままコーティング被膜として活用する方法である。この方法によれば、ポリエステル樹脂からなる接着剤の寸法と貼着させる基材の寸法を厳密に合わせる必要がなくなるなどの長所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−200041号公報
【特許文献2】特開昭59−66449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的にポリエステル樹脂の表面は疎水性を示すので、樹脂表面の親水性、帯電防止性を改善する目的で、樹脂の表面改質が求められることは多い。樹脂の表面に親水性を付与する目的で、ポリアルキレングリコールなどの親水性モノマーを共重合、グラフト重合させる方法は従来から検討されてきた(特許文献1)。しかし、表面のみの改良という面からはその調節が困難である場合が多く、樹脂全体が改質されるため樹脂の物性や接着性、耐加水分解性の低下などがあるため改質には限界がある。他の方法として界面活性剤などの添加により樹脂表面の改質が数多く試みられている(特許文献2)。しかし、界面活性剤は樹脂の表面に偏在化することがあり、ポリエステル樹脂系接着剤として用いる場合は、接着性を低下させるので、十分な樹脂表面の改質は困難である。
【0007】
本発明の課題は、コーティング膜の表面は親水性を有し、かつ接着剤として用いる場合には被着体に対する剥離強度の大きいポリエステル系樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物を構成成分として共重合した特定のポリエステル樹脂とポリアルキレングリコールの骨格を有する非イオン性の界面活性剤からなるポリエステル系樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
<1>ポリエステル樹脂(A)および界面活性剤(B)を含有し、ポリエステル樹脂(A)は、繰返し数が3〜50であるポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物を構成成分として共重合したものであり、界面活性剤(B)は、ポリアルキレングリコールの骨格を有する非イオン性の界面活性剤であり、水の接触角が30°以下であるポリエステル系樹脂組成物。
<2>ポリエステル樹脂(A)の構成成分である繰返し数が3〜50であるポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物におけるポリアルキレングリコールが、下記式(1)または(2)に示す構造である<1>に示すポリエステル系樹脂組成物。
HO−((CHO)−H (1)
HO−(CHCH((CHCH)O)−H (2)
(ここで、a:2〜4、c:0〜1、bおよびd:3〜50)
<3>ポリエステル樹脂(A)の構成成分である繰返し数が3〜50であるポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物に由来するポリアルキレングリコールの含有率が0.1〜35重量%である<1>または<2>のいずれかに示すポリエステル系樹脂組成物。
<4>ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量が5,000〜35,000である<1>〜<3>のいずれかに示すポリエステル系樹脂組成物。
<5>界面活性剤(B)が、下記式(3)または(4)に示す構造を有するものである<1>〜<4>のいずれかに示すポリエステル系樹脂組成物。
RO−((CHO)−H (3)
RO−(CHCH((CHCH)O)−H (4)
(ここで、Rはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、環状エーテル基またはアリール基のいずれかを示す。e:2〜4、g:0〜1、fおよびh:2以上)
<6>界面活性剤(B)の含有量が、0.1〜20重量%である<1>〜<5>のいずれかに示すポリエステル系樹脂組成物。
<7><1>〜<6>のいずれかのポリエステル系樹脂組成物を、有機溶剤に溶解してなる接着剤組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、親水性の樹脂表面を有するポリエステル系樹脂組成物が得られる。このようなポリエステル系樹脂組成物より得られる接着剤は、親水性の樹脂表面を有し、樹脂または金属を基材とするシートなどに十分な密着性と接着性を有する接着剤として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、少なくとも、ポリエステル樹脂(A)および界面活性剤(B)を含有し、ポリエステル樹脂(A)は、繰返し数が3〜50であるポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物が共重合されたものであり、界面活性剤(B)は、ポリアルキレングリコールの骨格を有する非イオン性の界面活性剤であり、水の接触角が30°以下であるポリエステル系樹脂組成物である。
【0012】
本発明で用いるポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸成分とポリオール成分とから構成されるものである。ポリエステル樹脂(A)は、結晶性であってもよいし、非晶性であってもよい。
【0013】
ポリエステル樹脂(A)を構成する成分100重量%中、繰返し数が3〜50であるポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物は、0.1〜35重量%含有することが、ポリエステル系樹脂組成物より得られるコーティング膜の表面の親水性が良く、かつ同組成物より得られる接着剤の接着力が強いので好ましい。0.5〜15重量%であることがより好ましく、0.5〜10重量%であることがさらに好ましい。当該ポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物の含有量が、0.1重量%以上では水の接触角が30°以下に調整し易く、35重量%以下であると、得られるポリエステル系樹脂組成物の物性、および基材に対する接着強さに優れる。
また、ポリアルキレングリコールの繰返し数は、3〜50の範囲でポリエステル系樹脂組成物より得られる接着剤の接着強さが良好となる。3未満では接着強さが劣り、50を超えると接着強さが劣る。
【0014】
ポリエステル樹脂(A)の構成成分である、繰返し数が3〜50であるポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物におけるポリアルキレングリコールは、下記式(1)または(2)に示す構造が好ましい。
HO−((CHO)−H (1)
HO−(CHCH((CHCH)O)−H (2)
(ここで、a:2〜4、c:0〜1、bおよびd:3〜50)
この構造により、ポリエステル系樹脂組成物より得られるコーティング膜において、表面の親水性の向上効果が大きくなる。
【0015】
本発明で用いることのできるポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリヘキシレングリコール、ポリノナンジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンタン)ジオール、ポリオキシエチレン変性ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン変性ビスフェノールA、ポリオキシブチレン変性ビスフェノールAなどが挙げられ、ポリエチレングリコールがポリエステル系樹脂組成物の親水性の向上効果が大きいとの理由から好ましい。
【0016】
ポリエステル樹脂(A)を構成するポリオール成分としては、前記ポリアルキレングリコールを含むグリコール成分が好ましく挙げられる。
ポリエステル樹脂(A)を構成するポリオール成分として、ポリアルキレングリコールを骨格として有する化合物以外に用いることのできるグリコール成分としては、特に制限はされないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール、ダイマージオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ブチルエチルプロパンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールなどが挙げられる。中でも、溶剤溶解性の観点から、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ブチルエチルプロパンジオール、1,2−プロパンジオールまたは2−メチル−1,3−プロパンジオールを含有することが好ましい。
【0017】
ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分としては、特に制限はないが、多価カルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を60モル%以上含有することが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、基材への初期接着性、耐熱性の観点からテレフタル酸が好ましく、また、溶剤溶解性の観点からイソフタル酸が好ましい。
【0018】
ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸以外に用いることのできる多価カルボン酸成分としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ジカルボキシビフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ヒドロキシ-イソフタル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、1,3,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、シュウ酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などや、またはその無水物が挙げられる。中でも、接着性の観点から、セバシン酸を含有することが好ましい。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂(A)において、主鎖であるポリエステルポリマーを構成するモノマーとして、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、多価カルボン酸成分およびグリコール成分以外のモノマー成分(他のモノマー成分)が用いられてもよい。なお、ポリエステルポリマーにおいて、他のモノマー成分の共重合割合は、ポリエステルポリマーに含まれる全モノマー成分に対して50モル%未満であることが好ましい。
【0020】
他のモノマー成分として、例えば、テトラヒドロフタル酸、乳酸、オキシラン、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、4−(β−ヒドロキシ)エトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなどが挙げられる。
【0021】
また、他のモノマー成分として、モノカルボン酸、モノアルコールなどが用いられてもよい。モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸などが挙げられる。モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノールなどが挙げられる。
【0022】
次に、本発明に用いられるポリエステル樹脂(A)の製造方法について説明する。
まず、多価カルボン酸およびグリコールなどのモノマーの組み合わせを適宜選択し、これらを公知の重合法で重合して、ポリエステル樹脂(A)を得ることができる。より具体的には、原料モノマーを反応缶に投入した後、エステル化反応を行った後、公知の方法で所望の分子量に達するまで重縮合させることにより、ポリエステル樹脂(A)を製造することができる。エステル化反応は、例えば、180℃以上の温度において4時間以上行われることが好ましい。
【0023】
重縮合反応の反応条件は、特に制限はないが、130Pa以下の減圧下、220℃〜280℃の温度下で、重合触媒を用いて行われることが好ましい。重合触媒は、テトラブチルチタネ−トなどのチタン化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛などの金属の酢酸塩、三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどの有機スズ化合物などが挙げられる。なお、重合触媒の使用量は、反応性および得られるポリエステル樹脂(A)の色調の観点から、酸成分1モルに対し、0.1〜20×10−4モルであることが好ましい。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は、5,000〜35,000であることが、ポリエステル系樹脂組成物の有機溶剤への溶解性が良く、得られる接着剤組成物の接着力が大きくなり好ましい。8,000〜30,000であることがより好ましく、10,000〜25,000であることがさらに好ましい。数平均分子量が5,000以上であると、初期接着性に優れる。数平均分子量が35,000以下であると、得られるポリエステル系樹脂組成物の溶融粘度、溶液粘度が適度であり、取扱性に優れる。
【0025】
本発明においてポリエステル樹脂(A)の分子量を制御する方法としては、重縮合時のポリエステル溶融物を所定の溶融粘度で重合を終了する方法や、一旦分子量の高いポリエステルを製造した後、解重合剤を添加する方法、さらに単官能カルボン酸や単官能アルコールを予め添加する方法などが挙げられる。本発明では、上記のいかなる方法によって分子量を制御してもよい。
【0026】
本発明で用いる界面活性剤(B)は、ポリアルキレングリコールの骨格を有する非イオン系界面活性剤である。
界面活性剤(B)は、下記式(3)または(4)に示す構造を有するものが好ましい。
RO−((CHO)−H (3)
RO−(CHCH((CHCH)O)−H (4)
(ここで、Rはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、環状エーテル基またはアリール基のいずれかを示す。e:2〜4、g:0〜1、fおよびh:2以上)
この構造により、ポリエステル系樹脂組成物から得られるコーティング膜の表面の親水性向上効果が大きくなる。
上記界面活性剤(B)のHLBは8〜20が、ポリエステル系樹脂組成物の親水性と同組成物より得られる接着剤の接着力が良好で好ましい。8以上ではポリエステル系樹脂組成物から得られるコーティング膜の表面の親水性に優れ、20以下であると得られる接着剤組成物の接着力に優れる。
【0027】
上記界面活性剤(B)としては、ポリオキシエチレンラウリルアルコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェノール、ポリオキシエチレンノニルフェノールなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレングリコールモノステアレートなどのポリオキシエチレンアシルエステル類、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルなどのリン酸エステル類、シュガーエステル類、セルロースエーテル類などが使用される。
【0028】
本発明で用いる界面活性剤(B)の含有量は、ポリエステル系樹脂組成物に対し、0.1〜20重量%であることがポリエステル系樹脂組成物から得られるコーティング膜の表面の親水性が大きく、基材への密着性が高くなることから好ましい。0.3〜15重量%であることがより好ましく、0.5〜8.0重量%であることがさらに好ましい。添加量が0.1重量%以上であると、ポリエステル系樹脂組成物の表面に親水性に優れ、20重量%以下であると樹脂表面のブリードや樹脂組成物の密着性に優れる。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、結晶性であってもよいし、非晶性であってもよい。なお、結晶性とは、DSC(示差走査熱量計)を用いて、JIS K 7121に準拠して測定した場合において、昇温時に結晶融点(以下、融点という)を有し、融解熱量が0.1J/g以上であるものであり、非晶性とは、結晶融点を有さず、融解熱量が0.1J/g未満であるものを示す。
【0030】
ポリエステル系樹脂組成物の製造方法としては、[1]前記(A)、(B)の所定量を一括して有機溶剤に溶解する方法、[2]予め(A)を溶解した有機溶剤溶液と、(B)を溶解した有機溶剤溶液とを混合する方法、[3]前記(A)、(B)を一旦溶融混練した後、得られた樹脂組成物を有機溶剤に溶解する方法などが挙げられるが、[1]が好ましい。前記有機溶剤としては、特に限定はされず、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ソルベッソなどの芳香族系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ノルマルブチルなどのエステル系溶剤;セロソルブアセテート、メトキシアセテートなどのアセテート系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0031】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、水の接触角が30°以下である。水の接触角は後述の方法で測定されるが、30°を超えると、水または水系液体に対する濡れ性が不十分となり、ポリエステル系樹脂組成物のコーティング膜上での水または水系液体の塗れ性が不十分となり好ましくない。
【0032】
上述のように、ポリエステル樹脂(A)と界面活性剤(B)とを混合して有機溶剤に溶解することによって本発明の接着剤組成物とすることができる。
すなわち、本発明の接着剤組成物は、本発明のポリエステル系樹脂組成物を、有機溶剤に溶解してなる。
前記接着剤組成物の固形分濃度は、5〜60重量%であることが、取扱いが容易でかつコーティング膜の膜厚が適当となり好ましい。10〜50重量%であることがより好ましく、20〜40重量%であることがさらに好ましい。固形分濃度が5重量%以上であると、後述のように基材に接着剤をコーティングした際に、十分な量を塗布することが容易である。一方、60重量%以下であると接着剤の溶液粘度が適度であり、基材に接着剤をコーティングした際に、厚さ精度に優れる。
【0033】
本発明のポリエステル系樹脂組成物または本発明の接着剤組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、加水分解抑制剤、顔料などを添加することができる。酸化防止剤としては、特に限定さればいが、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤が挙げられる。また加水分解抑制剤としては、イソシアネート由来のカルボジイミドが挙げられる。また顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられる。
【0034】
本発明のポリエステル系樹脂組成物または本発明の接着剤組成物を、例えば、各種の基材に対してコーティングし、必要に応じて乾燥させて有機溶媒の除去を行うことで、基材上に被膜を形成した接着剤付き基材、特に接着剤付きシートまたはフィルムを製造することができる。
【0035】
本発明のポリエステル系樹脂組成物または本発明の接着剤組成物がコーティングされる対象である基材としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンジメタノール−テレフタレート(PCT)から選ばれるポリエステル基材、ポリカーボネート系基材、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)から選ばれるフッ素系基材、あるいはアクリル系基材、環状オレフィン(COC)、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン系基材、ポリ塩化ビニル系基材、ポリスチレン系基材、ポリ塩化ビニリデン系基材、エチレン−酢酸ビニル共重合体系基材、ポリビニルアルコ−ル系基材、ポリ酢酸ビニル系基材、アセタ−ル系基材、ポリアミド系基材、ポリアリレート系基材などが挙げられる。また、基材および接着剤層は複数存在してもよく、積層体とすることができる。複数の基材を用いる場合は同一でも異なっていてもよい。
【0036】
本発明のポリエステル系樹脂組成物または本発明の接着剤組成物を基材にコーティングする方法としては、特に限定されるものではなく、リバースロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法またはスプレーコート法などの公知の方法を用いることができる。
【0037】
本発明のポリエステル系樹脂組成物または本発明の接着剤組成物を基材にコーティングする際において、形成される塗膜の厚みは、用いる用途によって異なるが、3〜1,000μmであることが好ましく、5〜500μmであることがより好ましく、5〜300μmであることがさらに好ましい。塗膜厚みが3μm以上であると、必要とする接着性が十分得られる。一方、1,000μm以下であると、経済的であり、接着性に優れる。
【0038】
本発明の接着剤組成物は、ポリエステル樹脂系接着剤の特性を有し、金属や樹脂系材料に対する接着性や、機械的性質が優れており、また、樹脂表面の水の接触角が30°以下であり、接着されずに露出した樹脂表面は水に対する濡れ性が良い状態が保たれる。このような特性は、接着層の一部に印刷する場合など、インク転写性の良いホットメルト接着剤として好適に用いられる。
【実施例】
【0039】
本発明について、実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
1.評価方法
1−1.接触角
JIS R 3257(1999制定)に規定される静滴法により、25℃、水の接触角を測定した。用いた接触角測定装置は、協和界面科学株式会社製 CA−X型 接触角計である。
【0040】
1−2.数平均分子量
装置: HLC−8220GPC(東ソー(株)製)
カラム: TSKgel GMHXL 2本(東ソー(株)製)
カラム温度: 40℃
溶離液: テトラヒドロフラン 1.00ml/分
検出器: RI(示差屈折率計)
GPCにより測定した分子量をポリスチレンの分子量を基準にして換算した。
【0041】
1−3.ポリエステル樹脂のモノマー構成
NMR測定装置を用いてH−NMRを測定し、それぞれの共重合成分のピーク強度から樹脂組成を求めた。なお、測定溶媒としては、重水素化クロロホルムを用いた。
【0042】
1−4.融点、ガラス転移点
示差走査型熱量計(DSC)により測定した。昇温速度は、10℃/minとした。
【0043】
1−5.接着剤組成物の安定性試験
100mlガラス瓶に接着剤組成物70gを入れて密栓し、5℃で7日間静置保管した後、次の判定基準で目視にて評価した。
A:液体のままであった。B:寒天状に固化したが、25℃で液状にもどった。C:寒天状に固化し、25℃で液状にもどらなかった。
【0044】
1−6.はく離接着強さ
(1)試験片の作製
表面を化成処理した厚さ40μmのアルミニウム箔(100mm×200mm)に、接着剤組成物をバーコーターで塗布し、その後、100℃で3分間乾燥させ、接着剤組成物に含有されていた有機溶剤を除去して膜厚30μmの接着剤層を形成した。次いで、接着剤層の表面に、厚さ100μmのPETフィルムを貼合し、熱傾斜試験機を用いて、アルミニウム箔の面から加圧して圧着させて試験片を得た。このときの接着条件は、温度100℃、圧力0.3MPa、圧着時間2秒とした。
(2)Tはく離接着強さの測定
試験片を10mm幅に裁断し、アルミニウム箔とPETとの間のTはく離接着強さ(N/10mm)を測定した。測定条件は、温度が25℃であり、引張速度は100mm/分である。
【0045】
2.原料
【0046】
(1)界面活性剤
(S−1):ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王(株)製「エマルゲン103」)、HLB8.1)
(S−2):ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(花王(株)製「レオドールTW−L106、HLB13.3」
(S−3):ココナットアミンアセテート(花王(株)製「アセタミン24」)
(S−4): ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王(株)製「ネオペレックスG−65」)
【0047】
(ポリエステル樹脂の合成)
合成例1
表1に示すように、テレフタル酸159重量部、イソフタル酸52.9重量部、セバシン酸65.9重量部、エチレングリコール91.1重量部、1,6−ヘキサンジオール92.5重量部、PEG200 39.1重量部および重合触媒としてテトラブチルチタネート0.3重量部を反応器に仕込み、系内を窒素で置換した。そして、これらの原料を300rpmで撹拌しながら、反応器を230℃で加熱し、溶融させた。反応器内の温度が230℃に到達してから、3時間エステル化反応を進行させた。3時間経過後、系内の温度を240℃にし、系内を減圧した。系内が高真空(圧力:0.1〜10−5Pa)に到達してから、さらに5時間重合反応を行って、ポリエステル樹脂(P−1)を得た。ポリエステル樹脂(P−1)は、数平均分子量が19,000、融点が68℃、ガラス転移点が−3℃であった。結果を表2に示した。なお、ポリアルキレングリコールの含有率は、得られたポリエステル樹脂のNMR測定により求めた。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
合成例2〜10
使用するモノマーの種類とその仕込み組成を表1のように変更した以外は、合成例1と同様にして、ポリエステル樹脂の重縮合を行った。得られたポリエステル樹脂の各物性値を表2に示した。
【0051】
なお、表1および後述の表2中における略語は、それぞれ以下のものを示す。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
SEA:セバシン酸
EG:エチレングリコール
HG:1,6−ヘキサンジオール
PEG200:ポリエチレングリコール(分子量:200、繰返し数:約4.6)
PEG1000:ポリエチレングリコール(分子量:1000、繰返し数:約23)
PEG2000:ポリエチレングリコール(分子量:2000、繰返し数:約45)
PEG3000:ポリエチレングリコール(分子量:3000、繰返し数:約68)
【0052】
得られたポリエステル樹脂(P−1)〜(P−10)の最終樹脂組成および特性値を表2に示す。
【0053】
実施例1
合成例1で合成したポリエステル樹脂(P−1)100重量部、界面活性剤(S−1)0.1重量部をトルエン125重量部、メチルエチルケトン125重量部に溶解し、固形分濃度が29重量%である接着剤を得た。得られた接着剤を用い各種評価を行った。その結果を表3に示す。
【0054】
実施例2〜12、および比較例1〜5
ポリエステル樹脂、界面活性剤の種類および添加量を表3および表4記載のようにした以外は、実施例1と同様にして接着剤を得て、各種評価を行った。その結果を表3および表4に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
表3の結果によれば、実施例1〜12の接着剤組成物は、水の接触角が30°以下であり、はく離接着強さが10N/10mm以上と高く、水に対する濡れ性とはく離接着強さを両立したポリエステル樹脂系接着剤組成物を得ることが可能であり、接着剤溶液の安定性も良好であった。
【0058】
比較例1は、はくり接着強さは24N/10mmであり良好だが、請求項1に記載する界面活性剤が含有されてないので、水の接触角が65°であった。
【0059】
比較例2は、はくり強さは24N/10mmであり良好だが、含有させた界面活性剤がポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤ではなかったため、水の接触角が70°となった。
【0060】
比較例3は、水の接触角は5°であったが、含有させた界面活性剤がポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤ではなかったため、はくり接着強さが8N/10mmであった。
【0061】
比較例4は、水の接触角は5°であったが、ポリエステル樹脂に共重合させたポリアルキレングリコールの繰返し数が請求項1に示す範囲を超えていたため、はくり接着強さが7N/10mmとなった。
【0062】
比較例5は、水の接触角は5°であったが、ポリエステル樹脂にポリアルキレングリコールを共重合させなかったので、はくり接着強さが5N/10mmとなった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の接着剤組成物は、ポリエステル樹脂系接着剤の特性を有し、金属や樹脂系材料に対する接着性や、機械的性質が優れており、また、樹脂表面の水の接触角が30°以下であり、接着されずに露出した樹脂表面は水に対する濡れ性が良い状態が保たれる。このような特性は、接着層の一部に印刷する場合など、インク転写性の良いホットメルト型接着剤として好適に用いられる。