(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接着剤を乾燥させる工程は、前記接着剤を乾燥温度以上でかつ前記膨張温度未満の温度に加熱することにより、前記接着剤を乾燥させる工程である、請求項1または2に記載のロータの製造方法。
前記永久磁石と前記ロータコアとを固定する工程は、前記膨張温度以上の温度である硬化温度以上の温度に前記接着剤を加熱して、前記接着剤に含まれる主剤および硬化剤を硬化させることにより前記永久磁石と前記ロータコアとを固定する工程である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のロータの製造方法。
前記接着剤は、揮発性を有する揮発剤としての希釈溶剤と、前記膨張剤としての発泡剤と、前記膨張温度以上の温度である硬化温度以上の温度に加熱されることにより硬化する主剤および硬化剤とを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のロータの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
[第1実施形態におけるロータの構造]
図1〜
図8を参照して、第1実施形態によるロータ100の構造について説明する。
【0014】
また、本願明細書では、「回転電機」とは、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、および、必要に応じてモータおよびジェネレータの双方の機能を有するモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として記載している。たとえば、回転電機101は、ハイブリッド車または電気自動車で使用される走行用モータとして構成されている。
【0015】
また、本願明細書では、「ロータ回転軸線方向」または「軸方向」は、ロータ100の回転軸線方向(軸C1(
図2参照)に沿った方向;
図1中のZ軸に平行な方向)を意味する。また、「周方向」は、ロータ100の周方向(
図2中の矢印A1方向または矢印A2方向)を意味する。「径方向」は、ロータ100の径方向(
図1中の矢印R1方向または矢印R2方向)を意味する。また、「径方向内側」は、ロータ100の内径側(矢印R1方向側)を意味し、「径方向外側」は、ロータ100の外径側(矢印R2方向側)を意味する。
【0016】
(ロータの全体構造)
ロータ100は、
図1に示すように、たとえば、複数の永久磁石1がロータ100の内部に埋め込まれた埋込永久磁石型モータ(IPMモータ:Interior Permanent Magnet Motor)の一部(回転電機101の一部)を構成している。
【0017】
また、ロータ100は、ステータ102の径方向内側において、ステータ102と径方向に対向するように配置されている。すなわち、回転電機101は、インナーロータ型の回転電機として構成されている。そして、回転電機101では、ステータ102にはコイル(図示せず)が設けられており、コイルが発生させる磁界(磁束)とステータ102に対向するロータ100が発生させる磁界(磁束)との相互作用により、ロータ100が回転運動するように構成されている。そして、ロータ100は、
図1に示すように、永久磁石1と、ハブ部材2と、ロータコア3と、接着剤4と、エンドプレート5とを含む。ロータ100は、シャフトに接続されるハブ部材2に固定され、ハブ部材2およびシャフトを介して、回転電機101の外部に回転運動を伝達させる(または伝達される)ように構成されている。なお、ステータ102は、回転電機101の図示しないケースに固定されている。
【0018】
永久磁石1は、たとえば、ネオジム磁石により形成されている。ネオジム磁石は、磁化方向(矢印R1方向および矢印R2方向)に正の熱膨張係数を有する一方、磁化方向に垂直な方向(永久磁石1の幅方向およびZ軸に沿った方向)に負の熱膨張係数を有する。なお、「永久磁石1の幅方向」とは、Z軸に垂直な方向で、かつ、磁化方向に垂直な方向である。
【0019】
また、永久磁石1は、
図3に示すように、径方向内側から見て、軸方向の長さL1、および、長さL1より小さい幅W1を有する略矩形形状を有するように形成されている。そして、永久磁石1は、
図4に示すように、軸方向の一方側から見て(矢印Z1方向側から見て)、径方向外側の2つの角部が面取りされた略矩形形状を有する。そして、永久磁石1は、軸方向の一方側から見て、径方向内側の面11が平坦面として、径方向外側の面12が弧状を有する面として構成されている。なお、面11は、請求の範囲の「永久磁石の外周面」の一例である。
【0020】
また、永久磁石1の面取りされた2つの角部には、それぞれ、後述する磁石用孔部32に当接する当接面としての面13が設けられている。永久磁石1の2つの面13は、それぞれ、磁石用孔部32の壁面32aに当接する(面接触する)ように配置されている。すなわち、永久磁石1は、矢印Z1方向側から見て、一対のテーパー形状を有する壁面32aにより位置決めされた状態で、固定されている。
【0021】
ハブ部材2は、
図1に示すように、ハブ部材2の矢印R2方向側に配置されたロータコア3の係合部3a(
図2参照)に係合されて、ロータコア3に固定されている。また、ハブ部材2は、図示しないシャフトに固定されている。そして、ハブ部材2とロータコア3とシャフトとは、軸C1を中心軸として、一体的に回転されるように構成されている。
【0022】
ロータコア3は、
図2に示すように、円環形状を有する複数(たとえば、4つ)のコアブロック30を含む。複数のコアブロック30は、中心軸C1を一致させた状態で、軸方向に積層されている。そして、コアブロック30は、それぞれ、円環形状を有する複数の電磁鋼板31(
図1参照;たとえば、珪素鋼板)が、軸方向に積層されて形成されている。
【0023】
そして、
図2に示すように、コアブロック30には、軸方向に沿った貫通孔として構成された複数(たとえば、16個)の孔部132が設けられている。また、複数のコアブロック30は、矢印Z1方向側から見て、互いに孔部132の位置がオーバーラップする(または完全に一致する)ように、軸方向に積層されている。これにより、ロータコア3では、複数のコアブロック30の孔部132が連続して接続されることにより、永久磁石1が軸方向に沿って挿入される磁石用孔部32が形成されている。また、複数の磁石用孔部32は、
図2に示すように、矢印Z1方向側から見て、周状に、等角度間隔で配置されている。
【0024】
そして、複数の磁石用孔部32には、それぞれ、永久磁石1が配置されている。
図1に示すように、磁石用孔部32と永久磁石1とは、接着剤4により固定(接着)されており、互いに固定されている。また、
図2に示すように、磁石用孔部32の軸方向の長さL2は、永久磁石1の軸方向の長さL1より少し短い大きさに構成されている。なお、永久磁石1は、着磁前の状態であることが好ましい。
【0025】
また、
図4に示すように、磁石用孔部32には、接着剤4が配置されるとともに、ロータコア3の径方向内側に窪む、軸方向に沿って延びる2つの溝部32bが設けられている。詳細には、2つの溝部32bは、永久磁石1の面11の後述する接着剤配置位置B1およびB2に径方向に対向する位置に配置されている。そして、2つの溝部32bは、磁石用孔部32の周方向の両端部の近傍に設けられており、2つの溝部32bの間に、突出部32cが設けられている。そして、2つの溝部32bは、それぞれ、底部32dを有し、突出部32cの頂面32eから底部32dまでの溝深さd1は、後述する厚みt1(
図7参照)よりも大きく、厚みt2以下に構成されている。なお、厚みt1は、請求の範囲の「接着材の乾燥後の厚み」の一例である。
【0026】
ロータコア3の突出部32cは、磁石用孔部32の周方向の中央部において、磁石用孔部32の径方向内側から径方向外側に向かって突出するように構成されている。ここで、一般的に、磁石用孔部32の周方向の両端部では、周方向の中央部に比べて、磁気飽和が生じやすい。そこで、突出部32cは、磁石用孔部32の周方向の中央部に対応する位置に設けられている。これにより、突出部32cを設けない場合および磁石用孔部32の周方向の両端部に対応する位置に突出部32cを設ける場合に比べて、磁気抵抗を低減することが可能になる。この結果、比較的磁気飽和しにくい位置で磁気抵抗を低減することが可能となる。
【0027】
接着剤4は、
図3に示すように、永久磁石1の径方向内側の面11の一部に接触して配置されている。たとえば、接着剤4は、永久磁石1の径方向内側の面11の一部のみに配置されている。具体的には、接着剤4は、永久磁石1の面11の接着剤配置位置B1およびB2のみに配置されている。
【0028】
詳細には、接着剤4は、永久磁石1の面11において、短手方向の一方側(矢印X1方向側)の部分である接着剤配置位置B1および他方側(矢印X2方向側)の部分である接着剤配置位置B2の2つの部分に配置されている。そして、接着剤4は、永久磁石1の面11の長手方向(矢印Z1方向側の部分から矢印Z2方向側の部分に渡って、軸方向)に延びる矩形形状を有するように形成されている。ここで、接着剤4は、永久磁石1の軸方向端面14、および、永久磁石1の面11の軸方向端面14の近傍の部分B3(矢印Z1方向側の部分)および部分B4(矢印Z2方向側の部分)には、配置されていない。
【0029】
ここで、接着剤4を、永久磁石1の径方向外側の面12に配置する場合には、永久磁石1と、ロータコア3の径方向外側に配置されるステータ102との間に、接着剤4が配置される状態となり、接着剤4の厚みt2分、永久磁石1とステータ102との距離が大きくなる。この点に対して、第1実施形態では、永久磁石1とステータ102との間に、接着剤4が配置されないので、その分、永久磁石1とステータ102との距離を小さくすることができる。
【0030】
また、接着剤4は、永久磁石1とロータコア3とが接着剤4により固定(接着)された状態(
図5(b))において、発泡された状態の発泡剤41と、硬化された状態の主剤42および硬化剤43とを含む。なお、発泡剤41は、請求の範囲の「膨張剤」の一例である。
【0031】
発泡剤41は、膨張温度T1以上の温度に加熱されることにより発泡(膨張)する膨張剤として構成されている。また、主剤42および硬化剤43は、膨張温度T1より高温である硬化温度T2以上の温度に加熱されることにより、硬化する性質を有する。
【0032】
詳細には、発泡剤41は、カプセル体(
図6参照)として構成されており、膨張温度T1以上の温度に加熱されることにより、カプセル体が膨張して体積が大きくなるように構成されている。たとえば、接着剤4は、発泡剤41としてのイソペンタンを含む。また、膨張温度T1は、たとえば、カプセル体が発泡成形する発泡成形温度として設定することが可能である。
【0033】
そして、
図5に示すように、発泡剤41が発泡して膨張することにより、接着剤4の厚みは、厚みt1から、厚みt2に変化する。その結果、接着剤4は、永久磁石1の面11から溝部32bの底部32dに渡って配置された状態になる。また、発泡剤41は、加熱後も接着剤4内(磁石用孔部32内)において、膨張されたカプセル体として残存する。
【0034】
そして、好ましくは、接着剤4は、発泡剤41が発泡して膨張することにより、膨張前の接着剤4の厚みt1の3倍以上8倍以下の厚みt2に変化するように、接着剤4における発泡剤41の含有割合が設定されている。そして、
図7に示すように、接着剤4の発泡剤41が発泡する前の状態では、接着剤4と溝部32bの底部32dとは、互いに離れた位置に配置されているとともに、永久磁石1の面13と磁石用孔部32の壁面32aとは、互いに離れた位置に配置される。そして、接着剤4の発泡剤41が発泡された後の状態(
図4参照)では、接着剤4が膨張して、接着剤4が溝部32bの底部32dに接触して、永久磁石1が径方向外側に押圧され、永久磁石1の面13と磁石用孔部32の壁面32aとが、接触する位置に配置される。
【0035】
主剤42は、たとえば、エポキシ系樹脂(たとえば、ビスフェノールA型液状エポキシ、および、エポキシ樹脂ポリマー)を含む。また、硬化剤43は、たとえば、ジシアンジアミドを含む。そして、主剤42および硬化剤43は、硬化温度T2以上の温度に加熱されることにより硬化する性質を有する。すなわち、接着剤4は、熱硬化性の接着剤として構成されている。そして、永久磁石1とロータコア3とは、接着剤4の主剤42と硬化剤43とが硬化されることにより、接着され固定される。また、硬化温度T2は、後述する乾燥温度T3よりも高く、かつ、膨張温度T1よりも高い。また、硬化温度T2は、主剤42および硬化剤43の組み合わせにより設定され、製品上限温度T5よりも低い。また、製品上限温度T5は、たとえば、ロータ100としての性能に影響が生じない程度の温度として設定することが可能である。
【0036】
また、
図8に示すように、接着剤4は、永久磁石1とロータコア3とが接着剤4により接着される前で、かつ、乾燥される前の状態において、揮発性を有する揮発剤としての希釈溶剤44と、発泡される前の状態の膨張剤としての発泡剤41と、硬化されていない状態の主剤42および硬化剤43とを含む。
【0037】
そして、接着剤4は、永久磁石1とロータコア3とが接着剤4により固定される前で、かつ、乾燥された後の状態(
図8(b)参照)において、発泡剤41と、硬化されていない状態の主剤42および硬化剤43とを含む。すなわち、接着剤4が乾燥された後では、接着剤4における希釈溶剤44の量が減少しているか、または、接着剤4における希釈溶剤44が略含有されていない状態になる。
【0038】
希釈溶剤44は、たとえば、メチルエチルケトン等のケトン類や、アルコール類、エーテル類などの揮発性有機溶剤を用いることができ、第1実施形態ではメチルエチルケトンおよび酢酸エチルの両方を含む。また、希釈溶剤44は、発泡剤41および硬化剤43よりも粘度が低い。これにより、希釈溶剤44は、接着剤4に含有されることにより、接着剤4の粘度を低下させ、流動性を高める機能を有する。
【0039】
また、希釈溶剤44は、乾燥温度T3以上の温度(たとえば、
図14の温度T10)にされることにより、揮発する。ここで、乾燥温度T3として、たとえば、希釈溶剤44の沸点温度、または、沸点温度近傍の温度を設定することが可能である。
【0040】
乾燥温度T3は、膨張温度T1よりも低い。また、膨張温度T1は、硬化温度T2よりも低い。これにより、接着剤4の温度を、膨張温度T1未満で、かつ、乾燥温度T3以上の温度にすることにより、発泡剤41を膨張させない状態で、希釈溶剤44を揮発させることが可能になる。
【0041】
そして、
図8に示すように、接着剤4は、乾燥される前の状態において、永久磁石1の幅方向に垂直な方向(矢印R1方向および矢印R2方向)に厚みt3を有する。そして、接着剤4は、希釈溶剤44が揮発されることにより、体積が減少して薄膜化される。すなわち、接着剤4は、乾燥された後の状態において、厚みt3よりも小さい厚みt1を有する。好ましくは、厚みt1は、厚みt3の10分の9以下(より好ましくは、5分の4以下)の大きさである。
【0042】
[第1実施形態によるロータの製造方法]
次に、
図4、
図7、
図9〜
図14を参照して、第1実施形態によるロータ100の製造方法について説明する。
図13には、第1実施形態によるロータ100の製造方法のフローチャートを示している。また、
図14には、横軸を時間とし、縦軸を接着剤4の温度(左側の縦軸)および接着剤4の厚み(右側の縦軸)とするロータ100の製造工程中(ステップS1〜S10)の接着剤4の状態を説明するための図を示している。
【0043】
まず、ステップS1において、永久磁石1と、接着剤4とを準備する工程が行われる。詳細には、ネオジム磁石を含む複数の永久磁石1が準備される。ここで、第1実施形態では、膨張温度T1以上の温度に加熱されることにより膨張する膨張剤としての発泡剤41と、揮発性を有する希釈溶剤44と、膨張温度T1より高い温度である硬化温度T2以上の温度に加熱されることにより硬化する主剤42および硬化剤43とを含む、接着剤4(
図7参照)が準備される。また、この時、接着剤4は溶融状態(流動性を有する状態)で準備される。たとえば、接着剤4は、液体の状態でもよいし、ゲル状の状態でもよい。そして、準備された接着剤4は、
図9に示すように、塗布装置201に収納される。その後、ステップS2に進む。なお、永久磁石1は、着磁前の状態で準備されることが好ましい。
【0044】
ステップS2において、
図9に示すように、永久磁石1を磁石保持装置202に取り付ける工程が行われる。その後、ステップS3に進む。
【0045】
ステップS3において、接着剤4を永久磁石1に塗布して配置する工程が行われる。詳細には、塗布装置201のノズルの先端の開口部から接着剤4を吐出しながら、塗布装置201と磁石保持装置202とが相対移動することにより、接着剤4が永久磁石1に塗布される(配置される)。そして、厚みt3を有する接着剤4が形成される。たとえば、
図3に示すように、接着剤4は、永久磁石1の面11の矢印X2方向側の部分(接着剤配置位置B1)において、Y軸方向に沿って塗布された後、永久磁石1の面11の矢印X1方向側の部分(接着剤配置位置B2)において、Y軸方向に向かって塗布される。この時、接着剤4は、永久磁石1の軸方向端面14および軸方向端面14の近傍部分B3およびB4には塗布されない。また、接着剤4は、矢印Z1方向側から見て、矩形形状を有するように塗布されて永久磁石1に配置される。その後、ステップS4に進む。
【0046】
ステップS4において、接着剤4を乾燥させる工程が行われる。第1実施形態では、
図10に示すように、接着剤4を乾燥させることにより、接着剤4の厚みが、乾燥させる前の接着剤4の厚みt3よりも小さい厚みt1にされて、接着剤4が薄膜化される。そして、接着剤4が乾燥させることにより、接着剤4の粘度が向上して、接着剤配置位置B1およびB2に接着剤4が位置決めされて、固定される。
【0047】
詳細には、第1実施形態では、接着剤4に含まれる希釈溶剤44が揮発させることにより、接着剤4が乾燥される。また、
図14に示すように、接着剤4を乾燥温度T3以上でかつ膨張温度T1未満の温度T10に加熱することにより、接着剤4が乾燥して、接着剤4の厚みが厚みt3から厚みt1にされる。また、比較的粘度が低い希釈溶剤44が揮発されることにより、接着剤4の粘度が向上して、接着剤4が接着剤配置位置B1およびB2に位置決めされて、固定される。
【0048】
また、
図10に示すように、第1実施形態では、乾燥装置203のエアブローにより、室温T4よりも高い温度(乾燥温度T3以上でかつ膨張温度T1未満の温度T10)を有する熱風E(空気)が、接着剤4に吹き付けられることによって、接着剤4に含まれる希釈溶剤44が揮発される。また、熱風Eにより、揮発された希釈溶剤44が換気される。その後、ステップS5に進む。
【0049】
ステップS5において、
図14に示すように、永久磁石1および接着剤4を冷却する工程が行われる。これにより、永久磁石1が磁化方向(ロータ100の径方向)に沿って収縮される。たとえば、永久磁石1および接着剤4は、室温T4の近傍の温度まで冷却される。その後、ステップS6に進む。
【0050】
そして、ステップS6において、接着剤4の厚みを測定する工程が行われる。すなわち、接着剤4の厚みが、所望の厚みt1となっていることが確認(検査)される。その後、ステップS7に進む。
【0051】
ステップS7において、ロータコア3を準備する工程が行われる。ここで、第1実施形態では、
図7に示すように、永久磁石1の接着剤配置位置B1およびB2に対向する位置に設けられ、ロータコア3の径方向内側に窪む、軸方向に沿って延びる溝部32bを磁石用孔部32に形成する工程が行われる。具体的には、第1実施形態では、乾燥された状態の接着剤4の厚みt1の大きさよりも大きい溝深さd1を有する溝部32bが磁石用孔部32に形成されたロータコア3が準備される。
【0052】
詳細には、図示しない順送プレス加工装置により、複数の電磁鋼板31が打ち抜かれる。この時、溝部32bを有する孔部132(
図2参照)が形成された円環状の複数の電磁鋼板31が形成される。そして、
図11に示すように、複数の電磁鋼板31が、軸方向に沿って積層され、複数(たとえば、4つ)のコアブロック30が形成される。そして、コアブロック30が軸方向に積層される。そして、複数のコアブロック30のうちの一部が、他のコアブロック30に対して、周方向に回転されるかまたは反転(転積)される。これにより、ロータコア3が形成され、複数のコアブロック30の孔部132が互いに軸方向に連続して接続されて、磁石用孔部32が形成される。その後、ステップS8に進む。
【0053】
ここで、第1実施形態では、ステップS8において、乾燥された接着剤4が配置された永久磁石1をロータコア3の磁石用孔部32に挿入する工程が行われる。具体的には、ロータコア3と、接着剤4が配置された面11を径方向内側に向けた状態の永久磁石1とが軸方向に相対移動されることにより、磁石用孔部32の各々に、永久磁石1が挿入される。なお、
図11では、1つの永久磁石1のみを図示しているが、磁石用孔部32の各々に、永久磁石1が挿入される。
【0054】
そして、
図7に示すように、磁石用孔部32の溝部32bの底部32dと、厚みt1を有する接着剤4とは、離れた位置に配置された状態となる。
【0055】
そして、ステップS9において、
図12に示すように、接着剤4の主剤42および硬化剤43を硬化することにより、永久磁石1とロータコア3とを固定(接着)する工程が行われる。具体的には、永久磁石1が配置されたロータコア3(および永久磁石1)が、加圧装置204により、矢印Z1方向側および矢印Z2方向側の両方から押圧(符号PL)された状態で、接着剤4が膨張温度T1よりも高く、かつ、硬化温度T2以上の温度T11(
図14参照)に加熱される。たとえば、エアブローにより、接着剤4が温度T11に熱風加熱される。
【0056】
これにより、
図5に示すように、接着剤4の発泡剤41が発泡することにより膨張し、接着剤4の厚みが厚みt1から厚みt2に変化する。また、接着剤4の厚みt2は、永久磁石1の面11から、溝部32bの底部32dまでの距離に略等しくなる。すなわち、接着剤4が、永久磁石1の面11から溝部32bの底部32dに渡って膨張された状態になる。また、接着剤4が膨張して、永久磁石1の面13が径方向外側に押圧されて、磁石用孔部32の壁面32aと永久磁石1の面13とが当接する。
【0057】
そして、接着剤4の主剤42および硬化剤43が硬化することにより、硬化された接着剤4によって、永久磁石1と磁石用孔部32とが固定される。その後、ステップS10に進む。
【0058】
ステップS10において、
図14に示すように、ロータコア3を冷却する工程が行われる。たとえば、ロータコア3および接着剤4の温度が室温T4になるまで冷却される。その後、ステップS11に進む。
【0059】
ステップS11において、複数のコアブロック30同士を、レーザー溶接等により接合する工程が行われる。
【0060】
これにより、ロータ100が製造される。その後、ロータ100は、
図1に示すように、ステータ102との組み立て等が行われ、回転電機101が製造される。
【0061】
[第2実施形態によるロータの製造方法]
図1、
図4、
図13および
図15〜
図17を参照して、第2実施形態によるロータ300の製造方法について説明する。なお、第1実施形態によるロータ100の構造および製造方法と同様の内容については、同一の符号またはステップ番号を付して説明を省略する。
【0062】
第2実施形態では、
図13に示すように、第1実施形態によるロータ100の製造方法におけるステップS3とは異なり、ステップS103が実施される。すなわち、
図15に示すように、接着剤304がロータコア3の磁石用孔部32の底部32dの接着剤配置位置B21およびB22に塗布される。具体的には、塗布装置のノズル401の先端部が磁石用孔部32に挿入された状態で、磁石用孔部32の底部32dの接着剤配置位置B21およびB22に接着剤304が塗布される。なお、底部32dは、請求の範囲の「磁石用孔部の内周面」の一例である。
【0063】
たとえば、接着剤配置位置B21およびB22は、第1実施形態による接着剤配置位置B1およびB2と同様(たとえば、矩形状)に構成されている。すなわち、塗布された接着剤304は、厚みt3を有する。
【0064】
そして、第2実施形態では、
図13に示すように、第1実施形態によるロータ100の製造方法におけるステップS4とは異なり、ステップS104が実施される。すなわち、
図16に示すように、接着剤304が乾燥装置203により乾燥温度T3以上に加熱されて乾燥される。これにより、接着剤304の希釈溶剤44が揮発され、接着剤304の厚みがt3からt1に小さくなる。
【0065】
その後、第1実施形態と同様に製造工程が実施される。すなわち、
図17に示すように、磁石用孔部32に、永久磁石1が挿入される。その後、
図4に示すように、接着剤304が膨張温度T1以上でかつ硬化温度T2以上に加熱することにより発泡剤41を膨張させて、主剤42および硬化剤43を硬化させる。これにより、接着剤304の厚みがt2になり、硬化された接着剤304を介して永久磁石1とロータコア3とが固定される。その後、
図1に示すように、第2実施形態によるロータ300が完成される。なお、その他の第2実施形態によるロータ300の製造方法は、第1実施形態と同様である。
【0066】
[第1および第2実施形態の効果]
第1および第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0067】
第1および第2実施形態では、上記のように、接着剤4(304)の成形用のプレス機および型を用いることなく、接着剤4(304)を接着剤配置位置B1およびB2(B21およびB22)に位置決めし、固定することができる。その結果、接着剤4(304)を接着剤配置位置B1およびB2(B21およびB22)に固定する際に、接着剤配置位置B1およびB2(B21およびB22)以外(たとえば、軸方向端面14または部分B3およびB4)に接着剤4(304)が付いてしまうことを防止することができる。すなわち、プレス機および型を用いる場合と異なり、型と永久磁石1とが当接すべき位置(接着剤配置位置B1およびB2以外の位置)または型とロータコア3とが当接すべき位置(接着剤配置位置B21およびB22以外の位置)に染み出したり(入り込んだり)、型と永久磁石1またはロータコア3との隙間から接着剤4が型外に(たとえば、接着剤配置位置B1およびB2よりも外側の部分B3およびB4に)染み出してしまうことがない。
【0068】
特に、この接着剤の薄膜は、挿入性を向上させるために比較的薄く形成される必要があるため、薄膜が形成される部分に対応する型の部分と、型と永久磁石またはロータコアとが当接する位置に対応する型の部分とが、薄膜の厚み方向において近接する。このため、型により押圧された接着剤が、接着剤配置位置よりも外側に染み出してしまう可能性が高くなる。この場合、たとえば、ロータコアの軸方向端面から接着剤がはみ出す場合がある。この点からも、接着剤配置位置B1およびB2(B21およびB22)以外に接着剤4(304)が付いてしまうことを防止することが可能な第1および第2実施形態の構成は、効果的である。
【0069】
また、接着剤4(304)が乾燥されることにより、接着剤4(304)が厚みt3から厚みt1に薄膜化されるので、接着剤4と磁石用孔部32の底部32dとが干渉することを防止することができ、また、接着剤304と永久磁石1の外周面とが干渉することを防止することができる。その結果、永久磁石1の磁石用孔部32に対する挿入性を向上させることができる。また、接着剤成形用のプレス機および型(専用の型)を準備する必要がない分、ロータ100(300)を製造するための製造設備が複雑化するのを防止することができる。また、接着剤4(304)を永久磁石1またはロータコア3に塗布するので、接着シートを用いる場合と異なり、接着シートを形成するための工程が不要となり、ロータ100(300)の製造方法の工程数が増大することを防止することができるとともに、永久磁石1またはロータコア3に接着剤4(304)を配置することが困難になるのを防止することができる。
【0070】
また、第1および第2実施形態では、接着剤4(304)を乾燥させる工程を、接着剤4(304)に含まれる希釈溶剤44を揮発させることにより、接着剤4(304)を乾燥させる工程とする。これにより、希釈溶剤44を揮発させることによって、容易に、接着剤4(304)を乾燥させることができる。また、好ましくは、希釈溶剤44の粘度を低くすることにより、希釈溶剤44が含まれる乾燥前の接着剤4(304)の粘度を低下させる(流動性を高める)ことができるとともに、希釈溶剤44が揮発された乾燥後の接着剤4(304)の粘度を向上させる(流動性を低下させる)ことができる。この結果、比較的流動性が高い乾燥前の接着剤4(304)を永久磁石1に塗布しやすくすることができるとともに、乾燥後の接着剤4(304)は比較的流動性が低くなるので、接着剤4(304)を接着剤配置位置B1およびB2(B21およびB22)に固定することができる。これにより、乾燥後の接着剤4(304)の形状がくずれたり、接着剤4(304)がロータコア3または永久磁石1に接触した場合でも、接着剤配置位置B1およびB2(B21およびB22)から接着剤4が剥離するのを防止することができる。
【0071】
また、第1および第2実施形態では、接着剤4(304)を乾燥させる工程を、接着剤4(304)を乾燥温度T3以上でかつ膨張温度T1未満の温度T10に加熱することにより、接着剤4(304)を乾燥させる工程とする。これにより、発泡剤41を膨張させない状態で、加熱により接着剤4を乾燥させることができる。
【0072】
また、第1実施形態では、接着剤4を塗布する工程を、永久磁石1の面11の接着剤配置位置B1およびB2に塗布する工程とする。これにより、ロータコア3に接着剤4を塗布する場合と異なり、接着剤4を乾燥させている時に加えられた熱が、ロータコア3に吸熱されることなく、ロータコア3よりも体積が小さい永久磁石1のみに吸熱されるので、接着剤4全体の温度が比較的速く上昇し、接着剤4を速く乾燥させることができる。また、接着剤4を永久磁石1の面11(外周面)に塗布するので、ロータコア3の磁石用孔部32の内周面に塗布する場合に比べて、塗布装置201の構成を簡略化することができる。
【0073】
また、第1および第2実施形態では、接着剤4(304)により永久磁石1とロータコア3とを固定する工程を、膨張温度T1より高い温度である硬化温度T2以上の温度に接着剤4(304)を加熱して、接着剤4(304)に含まれる主剤42および硬化剤43を硬化させることにより永久磁石1とロータコア3とを固定する工程とする。これにより、乾燥により薄膜化された接着剤4(304)を膨張温度T1より高い温度である硬化温度T2以上の温度T11に加熱することにより、容易に、発泡剤41を膨張させるとともに、主剤42および硬化剤43が硬化して、永久磁石1とロータコア3とを互いに固定させることができる。
【0074】
また、第1および第2実施形態では、接着剤4(304)を乾燥させる工程を、室温T4よりも高い温度T10を有する熱風Eにより接着剤4(304)を乾燥させる工程とする。ここで、熱風Eを用いずにヒータにより接着剤4(304)を加熱して乾燥させた場合には、揮発した接着剤4(304)の一部が可燃性の溶剤であれば、溶剤を換気する必要がある。すなわち、換気するために、ヒータとは別個に換気するための構成が必要になる。この点に着目して、第1および第2実施形態では、接着剤4(304)を乾燥させる工程を、室温T4よりも高い温度T10を有する熱風Eにより接着剤4(304)を乾燥させる工程にしているので、接着剤4(304)を加熱して乾燥させながら、熱風Eにより揮発した接着剤4(304)の一部(希釈溶剤44)を換気することができる。その結果、接着剤4(304)を乾燥させるための構成と、換気するための構成とを別個に準備する必要がなくなる分、ロータ100(300)の製造設備が複雑化するのをさらに防止することができる。
【0075】
また、第1および第2実施形態では、接着剤4(304)を、揮発性を有する揮発剤としての希釈溶剤44と、膨張剤としての発泡剤41と、膨張温度T1以上の温度である硬化温度T2以上の温度に加熱されることにより硬化する主剤42および硬化剤43とを含むように構成する。これにより、接着剤4(304)に含まれる希釈溶剤44を揮発させて容易に接着剤4(304)を乾燥させて薄膜化することができ、接着剤4(304)に含まれる発泡剤41を発泡させることにより接着剤4(304)を膨張させることができ、接着剤4(304)に含まれる主剤42および硬化剤43を硬化させることにより、永久磁石1とロータコア3とを固定することができる。
【0076】
また、第1および第2実施形態では、ロータコア3の磁石用孔部32に、永久磁石1の接着剤配置位置B1およびB2に対向する位置(または接着剤配置位置B21およびB22)に設けられ、ロータコア3の径方向内側に窪む(軸方向に沿って延びる)溝部32bを設ける。また、溝部32bを厚みt1の大きさよりも大きい溝深さd1を有するように構成する。これにより、溝部32bに、乾燥された厚みt1を有する接着剤4(304)を配置するように永久磁石1をロータコア3に挿入する際に、溝部32bの溝深さd1が接着剤4(304)の厚みt1よりも大きい分、磁石用孔部32の壁面(溝部32bの底部32d)と、接着剤4(304)とが干渉するのを防止することができる。
【0077】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0078】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、ロータ100(300)をステータ102の径方向内側に配置するいわゆるインナーロータとして構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、ロータ100(300)をアウターロータとして構成してもよい。
【0079】
また、上記第1および第2実施形態では、膨張剤として発泡剤41を用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、発泡剤41以外の加熱により膨張する材料を膨張剤として用いてもよい。
【0080】
また、上記第1および第2実施形態では、硬化温度T2を膨張温度T1より高い温度とする例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、硬化温度T2を、膨張温度T1と等しい温度としてもよく、硬化温度T2が膨張温度T1以上であればよい。
【0081】
また、上記第1および第2実施形態では、接着剤4を塗布装置201のノズルを用いて永久磁石1またはロータコア3に塗布する例(
図9または
図15参照)を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、スタンピング等の他の方法により、接着剤4を永久磁石1またはロータコア3に塗布してもよい。
【0082】
また、上記第1および第2実施形態では、接着剤4を熱風Eにより乾燥させる例(
図10参照)を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、換気装置をロータ100(300)の製造装置にさらに設ければ、接着剤4をヒータによる加熱により乾燥させてもよい。
【0083】
また、上記第1実施形態では、接着剤4を、永久磁石1の面11の接着剤配置位置B1およびB2のみに塗布する(配置する)例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、接着剤4を、永久磁石1の面11の接着剤配置位置B1およびB2以外の接着剤配置位置に塗布(配置)してもよい。すなわち、永久磁石1の軸方向端面14以外の磁石用孔部32に対向する側面(たとえば、面11、面12、または、面11および面12の両方)のいずれの所望の位置に接着剤配置位置を設けて、接着剤4を塗布(配置)してもよい。
【0084】
また、上記第1および第2実施形態では、
図13および
図17のフローチャートに示す製造方法について説明したが、本発明はこれに限られない。たとえば、
図18のフローチャートに示す変形例によるロータ100(300)の製造方法により、ロータ100(300)を製造してもよい。すなわち、変形例によるロータ100(300)の製造方法では、上記第1および第2実施形態とは異なり、ステップS2、S5、S6、S10、および、S11が設けられていない。
【0085】
変形例によるロータ100(300)の製造方法では、
図18および
図19に示すように、永久磁石1および接着剤4が準備された(ステップS1)後、接着剤4が永久磁石1またはロータコア3の磁石用孔部32に塗布される(ステップS3またはステップS103)。
【0086】
また、変形例によるロータ100(300)の製造方法では、接着剤4(304)を乾燥させた(ステップS4またはステップS104)後、永久磁石1がロータコア3の磁石用孔部32に挿入される(ステップS8)。すなわち、接着剤4(304)が積極的に冷却されない状態(接着剤4(304)の温度が室温T4まで低下する前の状態)で、ステップS8が行われる。
【0087】
ここで、接着剤4が永久磁石1に塗布される場合で、かつ、永久磁石1がネオジム磁石を含む場合には、磁化方向に垂直な方向に負の熱膨張係数を有する。この場合、冷却されていない分、永久磁石1の磁化方向に垂直な方向(永久磁石1の幅方向および軸方向)には、永久磁石1は収縮する。したがって、永久磁石1の幅方向および軸方向において、磁石用孔部32と永久磁石1との隙間が比較的小さい場合には、冷却しない状態で、永久磁石1を磁石用孔部32に挿入することにより、挿入性を向上させることが可能になる。