(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0003】
しかしながら、上述した伝達ベルトでは、結束リングに大きな曲げ応力が作用し、結束リングの耐久性が低下するという問題がある。結束リングは、内周面がエレメントのサドル面と接触した状態で張力が付与されているから、プーリに巻き掛けられる前後2つのエレメントの各サドル面の傾きに応じて曲げられる。ここで、
図13Aに示すように、サドル面30Bに対して径方向内側(下側)にロッキングエッジ部25Bが形成されたエレメント20Bを用いて伝達ベルトを構成した場合、プーリに巻き掛けられる前後2つのエレメント20Bは、サドル面30Bの位置において、ベルト周方向に隙間が生じる。このため、結束リング11は、サドル面30Bに接触する接触区間と、ベルト周方向の隙間によりサドル面30Bに接触しない非接触区間とを有し、2つの区間は、サドル面30Bのベルト周方向における角部31B,32Bが境界となる。この場合、結束リング11は、非接触区間において拘束されないため、比較的大きな曲率半径をもって前後の接触区間に繋がるように曲げられ、大きな曲げ応力は作用しない。ところが、
図13Bに示すように、サドル面30Cに対して径方向(上下方向)において略同じ位置にロッキングエッジ部25Cが形成されたエレメント20Cを用いて伝達ベルトを構成した場合、プーリに巻き掛けられる前後2つのエレメント20Cは、サドル面30Cの位置において、ベルト周方向に隙間が生じない。この場合、結束リング11は、非接触区間がなく、プーリの巻き掛け部のほぼ全周に亘ってサドル面30Cによる拘束を受けるため、前後2つのエレメント20Cの各サドル面30Cによりなす角度で比較的小さな曲率半径をもって曲げられ、大きな曲げ応力が作用してしまう。このように、従来の伝達ベルトは、ロッキングエッジ部の形成位置がサドル面の位置に近いほど、伝達効率が向上する一方で、結束リングに大きな曲げ応力が作用し、結束リングの耐久性を低下させてしまう。
【0004】
本開示の伝達ベルトは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0005】
本開示の伝達ベルトは、無段変速機のプライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられる伝達ベルトであって、無端環状の無端リングと、前記無端リングの内周面と接触するサドル面と前記サドル面における幅方向両側から前記伝達ベルトの径方向外側に延出された一対の柱部とを含む本体部と、前記本体部の前記伝達ベルトの周方向一方側に形成される第1面および周方向他方側に形成される第2面と、前記第1面に前記幅方向両端に分割して設けられ隣り合うエレメント同士が接触して相対回転するときの支点となるロッキングエッジ部と、を有し、互いに重ねられて前記無端リングに支持されることにより環状に配列される複数のエレメントと、を備え、前記ロッキングエッジ部は、前記サドル面に対して前記伝達ベルトの径方向外側から径方向内側に亘って幅を有するように曲面で形成され、前記第1面と前記サドル面との間を繋ぐ部分は、前記伝達ベルトの周方向において前記ロッキングエッジ部よりも前記第2面側に位置するように形成されていることを要旨とする。
【0006】
この本開示の伝達ベルトは、無端リングの内周面と接触するサドル面と当該サドル面における幅方向両側から伝達ベルトの径方向外側に延出された一対の柱部とを含む本体部と、本体部の伝達ベルトの周方向一方側に形成される第1面および周方向他方側に形成される第2面と、第1面に幅方向両端に分割して設けられ隣り合うエレメント同士が接触して相対回転するときの支点となるロッキングエッジ部とを有する複数のエレメントにより構成される。また、ロッキングエッジ部を、サドル面に対して伝達ベルトの径方向外側から径方向内側に亘って幅を有するように曲面で形成する。そして、第1面とサドル面との間を繋ぐ部分を、伝達ベルトの周方向において、第1面におけるロッキングエッジ部よりも径方向外側の平坦面よりも第2面側に位置するように形成する。これにより、サドル面が径方向においてロッキングエッジ部の幅の範囲内に位置する伝達ベルトにおいて、プーリに巻き掛けられる前後2つのエレメントのサドル面間に、無端リングの内周面が接触しない隙間(非接触区間)を設けることができる。エレメント同士がロッキングエッジ部のどの位置で回動(接触)していたとしても、無端リングは、当該非接触区間において、サドル面からの拘束を受けないため、サドル面による曲げの曲率半径をより大きくすることができる。この結果、無端リングに作用する曲げ応力を小さくして、無端リングの耐久性をより向上させることができる。
【0007】
本開示の他の伝達ベルトは、無段変速機のプライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられる伝達ベルトであって、無端環状の無端リングと、前記無端リングの内周面と接触するサドル面と前記サドル面における幅方向両側から前記伝達ベルトの径方向外側に延出された一対の柱部とを含む本体部と、前記本体部の前記伝達ベルトの周方向一方側に形成される第1面および周方向他方側に形成される第2面と、前記第1面に前記幅方向に両端に分割して設けられ隣り合うエレメント同士が接触して相対回転するときの支点となるロッキングエッジ部と、を有し、互いに重ねられて前記無端リングに支持されることにより環状に配列される複数のエレメントと、を備え、前記ロッキングエッジ部は、前記サドル面に対して前記伝達ベルトの径方向外側から径方向内側に亘って幅を有するように曲面で形成され、前記第2面と前記サドル面との間を繋ぐ部分は、前記周方向において前記第2面よりも前記第1面側に位置するように形成されていることを要旨とする。
【0008】
この本開示の他の伝達ベルトは、上記本開示の伝達ベルトと同様に、プーリに巻き掛けられる前後2つのエレメントのサドル面間に、無端リングの内周面が接触しない隙間(非接触区間)を設けることができるため、無端リングに作用する曲げ応力を小さくして、無端リングの耐久性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る伝達ベルト10を含む無段変速機1の構成の概略を示す構成図である。
【
図4A】エレメントをプレス加工により成形する様子を示す説明図である。
【
図4B】エレメントをプレス加工により成形する様子を示す説明図である。
【
図4C】プレス加工後のエレメントの様子を示す説明図である。
【
図4D】研磨加工後のエレメントの様子を示す説明図である。
【
図5】本実施形態のエレメント20を用いて伝達ベルトを構成した場合に、プーリに巻き掛けられる前後2つのエレメント20のサドル面30により結束リング11が曲げられる様子を示す説明図である。
【
図6】他の実施形態に係るエレメント120を示す説明図である。
【
図7】他の実施形態に係るエレメント220を示す説明図である。
【
図8】他の実施形態に係るエレメント320を示す説明図である。
【
図9】他の実施形態に係るエレメント420を示す説明図である。
【
図10】他の実施形態に係るエレメント420を用いて伝達ベルトを構成した場合に、プーリに巻き掛けられる前後2つのエレメント420のサドル面430により結束リング11が曲げられる様子を示す説明図である。
【
図11】他の実施形態に係るエレメント520を示す説明図である。
【
図12】他の実施形態に係るエレメント620を示す説明図である。
【
図13A】従来例のエレメント20Bを用いて伝達ベルトを構成した場合に、それぞれプーリに巻き掛けられる前後2つのエレメント20Bのサドル面30Bにより結束リング11が曲げられる様子を示す説明図である。
【
図13B】従来例のエレメント20Cを用いて伝達ベルトを構成した場合に、それぞれプーリに巻き掛けられる前後2つのエレメント20Cのサドル面30Cにより結束リング11が曲げられる様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【0011】
図1は、本開示の伝動ベルト10を含む無段変速機1を示す構成の概略を示す構成図である。無段変速機1は、エンジン等の動力源を備える車両に搭載され、図示するように、駆動側回転軸としてのプライマリシャフト2と、当該プライマリシャフト2に設けられたプライマリプーリ3と、プライマリシャフト2と平行に配置される従動側回転軸としてのセカンダリシャフト4と、当該セカンダリシャフト4に設けられたセカンダリプーリ5と、プライマリプーリ3のプーリ溝(V字溝)とセカンダリプーリ5のプーリ溝(V字溝)とに巻き掛けられる伝達ベルト10とを備える。
【0012】
プライマリシャフト2は、図示しない前後進切換機構を介して、エンジン等の動力源に連結されたインプットシャフト(図示省略)に連結されている。プライマリプーリ3は、プライマリシャフト2と一体に形成された固定シーブ3aと、プライマリシャフト2にボールスプライン等を介して軸方向に摺動自在に支持される可動シーブ3bとを有する。また、セカンダリプーリ5は、セカンダリシャフト4と一体に形成された固定シーブ5aと、セカンダリシャフト4にボールスプライン等を介して軸方向に摺動自在に支持されると共にリターンスプリング8により軸方向に付勢される可動シーブ5bとを有する。
【0013】
更に、無段変速機1は、プライマリプーリ3の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるプライマリシリンダ6と、セカンダリプーリ5の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるセカンダリシリンダ7とを有する。プライマリシリンダ6は、プライマリプーリ3の可動シーブ3bの背後に形成され、セカンダリシリンダ7は、セカンダリプーリ5の可動シーブ5bの背後に形成される。プライマリシリンダ6とセカンダリシリンダ7とには、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ5との溝幅を変化させるべく図示しない油圧制御装置から作動油が供給され、それにより、エンジン等からインプットシャフトや前後進切換機構を介してプライマリシャフト2に伝達されたトルクを無段階に変速してセカンダリシャフト4に出力することができる。セカンダリシャフト4に出力されたトルクは、ギヤ機構(減速ギヤ)、デファレンシャルギヤおよびドライブシャフトを介して車両の駆動輪(何れも図示省略)に伝達される。
【0014】
図2は、伝達ベルト10の正面図であり、
図3Aは、エレメント20の正面図であり、
図3Bは、エレメント20の断面図である。伝達ベルト10は、
図2に示すように、無端リングとしての結束リング11と、多数(例えば数百個)のエレメント20とを備え、多数のエレメント20を結束リング11で環状に結束することにより構成される。また、伝達ベルト10は、結束リング11がエレメント20から脱離しないよう保持するリテーナリング12も備える。
【0015】
結束リング11は、
図2に示すように、鋼板製のドラムから切り出された複数(例えば9枚)の帯状かつ無端状のリング(単リング)が径方向の内から外へ層状に重ね合わされたものとして構成されている。なお、結束リング11は、幅方向における中央部を頂部とし、幅方向外側(図中、左右)に向かうにつれて図中下方に緩やかに傾斜した所謂クラウニング形状により形成されている。リテーナリング12は、
図2に示すように、鋼板製のドラムから切り出されて結束リング11よりも幅が広く周長が長い帯状リングとして形成され、結束リング11よりも径方向外周側(図中、上側)に配置される。
【0016】
エレメント20は、例えば打ち抜き加工により鋼板から打ち抜かれて形成されたものであり、
図2に示すように、結束リング11の内周面(最内周に配置された最内層リングの内周面)が接触するサドル面30と当該サドル面30の幅方向両端部分(図中、左右方向両端部分)からそれぞれ径方向外周側(図中、上側)に向かって延出された左右一対の柱部22とを含む本体部21と、左右一対の柱部22の延出端部分から幅方向内側(図中、中央)に向かって延出された左右一対のフック部23とを有する。エレメント20の左右の側面28は、径方向外側(図中、上側)から径方向内側(図中、下側)に向かうほど幅が徐々に狭くなるよう形成されており、プライマリプーリ3のV字溝やセカンダリプーリ5のV字溝と接してトルクを伝達するトルク伝達面(フランク面)を形成する。
【0017】
また、エレメント20は、
図2および
図3A,Bに示すように、本体部21における径方向外側(図中、上側)の端面(サドル面30)と一対の柱部22の幅方向内側の端面とにより径方向外側(図中、上側)が凹状に開口したスロット24が形成される。各エレメント20は、スロット24に結束リング11が嵌め込まれることにより、環状に結束される。なお、エレメント20は、
図3Bに示すように、配列の状態が保持されるよう、車両の前進走行時におけるベルト進行方向前方側の面(前面、第1面S1)には前方側へ突出する突出部26が形成され、ベルト進行方向後方側の面(背面、第2面S2)には隣り合うエレメント20の突出部に遊嵌(嵌合)される遊嵌部27が形成されている。
【0018】
スロット24は、その両端部をなす一対の柱部22の延出端部分から幅方向内側へ延出される一対のフック部23によって開口幅が狭められている。スロット24の開口幅(一対のフック部23の延出方向における先端部23a間の距離)は、結束リング11の幅よりも広く、リテーナリング12の幅よりも狭くなっている。これにより、リテーナリング12は、結束リング11がスロット24から抜け出るのを防止するための抜け止めとして機能する。なお、リテーナリング12は、結束リング11がスロット24内へ嵌め込まれた後、幅方向に撓ませた状態でスロット24内へ嵌め込まれる。リテーナリング12は、円周方向に長孔(図示せず)が形成され、幅方向に容易に撓ませることができるようになっている。
【0019】
サドル面30は、
図2および
図3Aに示すように、幅方向における中央部を頂部とし、幅方向外側に向かうにつれて図中下方に緩やかに傾斜したクラウニング形状により形成されている。上述した結束リング11のクラウニングは、このサドル面30のクラウニングよりも大きな曲率半径により形成されている。なお、図中のサドル面30は、理解を容易にするために、クラウニングの曲率半径を実際よりも誇張して示した。
【0020】
また、エレメント20は、
図3Bに示すように、径方向外側(図中、上側)においては略均一の板厚で形成され、径方向内側(図中、下側)に向かうにつれて板厚が徐々に薄肉になるよう形成される。エレメント20の前面(第1面)において板厚が変化する境界部分は、ベルト進行方向において前方のエレメント20の後面(第2面)と接触するロッキングエッジ部25となる。伝達ベルト10を構成する各エレメント20は、プライマリプーリ3やセカンダリプーリ5の巻き掛け部から両プーリ間の弦部へ出るときや弦部から巻き掛け部に入るときにロッキングエッジ部25を支点としてベルト周方向に揺動(回動)する。ロッキングエッジ部25は、例えばテーパ状の加圧面を有するパンチを用いてプレス加工によりエレメントの径方向内側(下側)を板厚方向に押し潰すことにより形成することができる。
【0021】
ロッキングエッジ部25は、本実施形態では、エレメント20の径方向(上下方向)において、サドル面30の頂部の位置と略同じ位置に形成される。具体的には、ロッキングエッジ部25は、
図3Bに示すように、側面視で円弧状に形成されており、円弧の範囲で隣り合うエレメントの後面(第2面)と接触する。即ち、ロッキングエッジ部25は、エレメント20の径方向(上下方向)において幅を有しており、サドル面30がロッキングエッジ部25の幅の範囲内に位置するように形成されている。別の表現を用いると、ロッキングエッジ部25は、サドル面30に対して伝達ベルト10の径方向外側(上方向)から径方向内側(下方向)に亘って形成されている。より詳細には、サドル面30を仮想的にエレメント20の幅方向に延ばした仮想的な直線上に対して、伝達ベルト10の径方向外側(上方向)から径方向内側(下方向)に亘って形成されている。上述したように、結束リング11のクラウニングの曲率半径はサドル面30のクラウニングの曲率半径よりも大きいことから、プライマリプーリ3やセカンダリプーリ5の巻き掛け部において伝達ベルト10に作用する張力が比較的小さい低負荷時では、結束リング11(最内周リング)の内周面は、幅方向において、サドル面30の頂部のみと接触した状態となっている。一方、プライマリプーリ3やセカンダリプーリ5の巻き掛け部において伝達ベルト10に作用する張力が比較的大きくなる高負荷時では、結束リング11は、張力によってサドル面30に押し付けられ、幅方向において、サドル面30の曲面に沿って密着した状態となる。結束リング11がサドル面30から受ける押付力(垂直抗力)は、サドル面30の頂部と接触する位置で最大となり、サドル面30の頂部から幅方向外側に向かうにつれて小さくなる。また、結束リング11の内周面に周方向に作用する摩擦力は、結束リング11が受ける垂直抗力に比例するから、同様に、サドル面30の頂部と接触する位置で最大となり、サドル面30の頂部から幅方向外側に向かうにつれて小さくなる。したがって、エレメント20の径方向(図中、上下方向)において、サドル面30の頂部の位置がロッキングエッジ部25の幅の範囲内となるようにサドル面30とロッキングエッジ部25とを形成することで、サドル面30の頂部と結束リング11との間に生じる相対速度差(滑り)を低減することができる。この結果、結束リング11の内周面とサドル面30との間の摩擦損失を低減して伝達ベルト10の伝達効率を向上させることができる。
【0022】
また、ロッキングエッジ部25は、
図2および
図3A,Bに示すように、サドル面30の位置から幅方向両端部(左右)に2つに分割されて形成される。エレメント20の前面においては、幅方向中央部にロッキングエッジ部25よりも板厚方向に凹んだ凹部33が形成されており、凹部33によって、エレメント20の前面における幅方向中央部が隣り合うエレメント20の後面と接触しないようになっている。凹部33は、例えば凸状の加圧面を有するパンチを用いてエレメント20の前面における幅方向中央部をプレスすることにより形成することができる。凹部33は幅方向中央部に形成されるため、サドル面30は、凹部33によってベルト周方向において挟幅化されている。なお、凹部33は、
図3Aに示すように、本実施形態では、エレメント20における突出部26が形成された前面(ロッキングエッジ部25が形成された面)と同じ面に形成するものとした。また、凹部33の幅方向両端部は、凹部33とロッキングエッジ部25との境界部分での当たりを防止するために、ロッキングエッジ部25とテーパ状に繋がるように形成されてもよい。
【0023】
ここで、エレメント20は、一対の側面28でプーリから挟圧されながらプーリとの間の接線方向の摩擦力(接線力)によりロッキングエッジ部25で前方のエレメントを押し出すことによって動力を伝達する。このため、ロッキングエッジ部25は、接線力に応じた荷重を前方のエレメントから受ける。本実施形態のエレメント20では、凹部33によってロッキングエッジ部25が幅方向両端部に分割されているため、幅方向両端部で隣接するエレメントと接触し、幅方向中央部で前方のエレメントからの荷重を受けないようになっている。こうするのは、各エレメント20は、一対の側面28がプーリ(プライマリプーリ3,セカンダリプーリ5)によって挟圧されているから、前方のエレメントから受ける荷重の位置が一対の側面28から遠くなるほど、即ち幅方向における中央部に近くなるほど、大きなモーメントが作用し、変形量が多くなるためである。したがって、本実施形態では、エレメントにかかるモーメント力を小さくすることができ、エレメントの変形を抑制することができる。
【0024】
また、
図3Bに示すように、サドル面30に対してベルト周方向の端部に形成される角部31,32、即ち、エレメント20の前面(第1面S1)とサドル面30との間を繋ぐ部分である角部31と、エレメント20の後面(第2面S2)とサドル面30との間を繋ぐ部分である角部32は、曲面形状(R面)により形成されている。したがって、サドル面30は、角部31,32のR面を除いた面が結束リング11の内周面と接触する接触面となっている。
【0025】
図4A〜4Dは、エレメントをプレス加工により成形するに際してサドル面の角部にR面を形成する様子を示す説明図である。エレメントは、図示するように、打ち抜き加工として、被加工材Wのブランク部分をダイDと板押さえAとにより固定し、パンチPとエジェクタEとを用いて被加工材Wを上下両方向から加圧することにより成形品を打ち抜く所謂ファインブランキング加工によって成形される(
図4A,B参照)。なお、ファインブランキング加工に際して、上述したテーパ状の加圧面および凸状の加圧面とを有するパンチを用いるものとすれば、エレメントを打ち抜くと同時に、ロッキングエッジ部および凹部も形成することができる。打ち抜き加工(ファインブランキング加工)によって成形されるサドル面30のベルト周方向の一方の角部31は、打ち抜き加工に伴って発生するダレを曲面形状(R面)として用いることができる。但し、この場合、他方の角部にはバリが発生するため、他方の角部は、例えば研磨加工(バレル研磨など)によって研磨することでバリを取り除いて曲面形状(R面)を形成する(
図4C,D参照)。なお、角部31,32のR面は、打ち抜き加工によりエレメントを成形した後に、別途プレス加工や切削加工、研磨加工を行なうことで形成してもよい。
【0026】
図5は、本実施形態のエレメント20を用いて伝達ベルトを構成した場合に、プーリに巻き掛けられる前後2つのエレメント20のサドル面30により結束リング11が曲げられる様子を示す説明図である。また、
図13A,13Bに、従来例のエレメント20B,20Cを用いて伝達ベルトを構成した場合に、それぞれプーリに巻き掛けられる前後2つのエレメント20B,20Cのサドル面30B,30Cにより結束リング11が曲げられる様子を示す。なお、従来例のエレメント20B,20Cでは、サドル面30B,30Cのベルト周方向両側の角部31B,32B,31C,32Cは、何れも曲面形状ではなく、シャープな形状により形成されている。いま、
図13Aに示すように、サドル面30Bに対して径方向内側(下側)にロッキングエッジ部25Bが形成されたエレメント20Bにより伝達ベルトを構成する場合を考える。この場合、ロッキングエッジ部25Bを支点として回動する前後2つのエレメント20Cは、サドル面30Bの位置において、隙間が生じる。このとき、結束リング11は、サドル面30Bに接触する接触区間と、当該隙間によってサドル面30Bに接触しない非接触区間とを有し、2つの区間は、サドル面30Bのベルト周方向の角部31B,32Bが境界となる。結束リング11は、非接触区間において、サドル面30Bから垂直抗力を受けないため、比較的大きな曲率半径をもって前後の接触区間に繋がるように曲げられる。このため、結束リング11に大きな曲げ応力は作用しない。次に、
図13Bに示すように、サドル面30Cに対して径方向(上下方向)に略同じ位置にロッキングエッジ部25Cが形成されたエレメント20Cにより伝達ベルトを構成する場合を考える。この場合、ロッキングエッジ部25Cを支点として回動する前後2つのエレメント20Cは、サドル面30Cの位置において、隙間が生じない。このため、サドル面30Cの角部31C,32Cがシャープな形状に形成されていると、非接触区間も生じない。この結果、結束リング11は、前後2つのサドル面30Cによりなす角度に沿った小さな曲率半径をもって曲げられ、大きな曲げ応力が作用してしまう。これに対して、本実施形態のエレメント20Bでは、サドル面30のベルト周方向両側の角部31,32(エレメント20の前面とサドル面30との間を繋ぐ部分と、エレメント20の後面とサドル面30との間を繋ぐ部分)が、曲面形状(R面)により形成され、サドル面30のベルト周方向端部が前面または後面に対して、他方の面側に位置しているため、結束リング11は、角部31,32(R面)と接触しない。これにより、サドル面30の位置と略同じ位置にロッキングエッジ部25を形成しても、結束リング11の非接触区間が十分に確保され、結束リング11の曲げの曲率半径を大きくすることができる。この結果、結束リング11に作用する曲げ応力を小さくすることができ、結束リング11の耐久性をより向上させることができる。加えて、本実施形態のエレメント20Bでは、その前面(第1面S1)とサドル面30との間を繋ぐ部分に、ロッキングエッジ部25よりも板厚方向(第2面S2側)に凹んだ凹部33が形成されているから、結束リング11の非接触区間をさらに延長することができる。即ち、サドル面30から受ける垂直抗力(張力)による結束リング11の曲げの曲率半径をさらに大きくすることができ、結束リング11に作用する曲げ応力をさらに低減させることができる。
【0027】
以上説明した本実施形態の伝達ベルト10は、結束リング11の内周面が接触するエレメント20のサドル面30を、ベルト周方向において、角部31,32が曲面形状(R面)となるように形成する。これにより、角部31,32のR面によって結束リング11がサドル面30と接触しない非接触区間を十分に確保することができ、サドル面30から受ける垂直抗力(張力)による曲げの曲率半径を大きくすることができる。この結果、結束リング11に作用する曲げ応力を低減させることができ、結束リング11の耐久性をより向上させることができる。もとより、エレメント20の径方向(上下方向)において、サドル面30の位置がロッキングエッジ部25の幅(円弧)の範囲内となるようにサドル面30とロッキングエッジ部25とを形成するから、サドル面30と結束リング11との間の相対速度差(滑り)を低減させて、伝達ベルト10の伝達効率を向上させることができる。
【0028】
また、本実施形態の伝達ベルト10は、その前面(第1面S1)からサドル面30に・がるエレメント20の幅方向中央部が、幅方向両端部(ロッキングエッジ部25よりも径方向外側)に比して、板厚が薄くなるように凹んだ凹部33が形成される。これにより、サドル面30をベルト周方向に挟幅化することができ、結束リング11の非接触区間をさらに延長することができる。この結果、サドル面30から受ける垂直抗力(張力)による結束リング11の曲げの曲率半径をさらに大きくすることができるため、結束リング11に作用する曲げ応力をさらに低減させることができる。
【0029】
本実施形態では、サドル面30のベルト周方向両側の角部31,32を曲面形状に形成するものとしたが、
図6のエレメント120に示すように、サドル面130を、ロッキングエッジ部25の形成面(ベルト進行方向にける前方側の面)と同側の角部131が曲面形状となり、反対側の角部132がシャープな形状となるように形成してもよく、
図7のエレメント220に示すように、サドル面230を、ロッキングエッジ部25の形成面と同側の角部231がシャープな形状となり、反対側の角部232が曲面形状となるように形成してもよい。即ち、サドル面のベルト周方向両側の角部のうち何れか一方の角部のみを曲面形状に形成してもよい。
【0030】
本実施形態では、結束リング11を、幅方向に凸状に湾曲する凸曲面(クラウニング形状)により形成するものとしたが、幅方向に水平な平坦面により形成するものとしてもよい。
【0031】
本実施形態では、エレメント30の前面(第1面S1)からサドル面30に・がる幅方向中央部が幅方向両端部(ロッキングエッジ部25よりも径方向外側)よりも薄肉となるように当該幅方向中央部に凹部33を形成したが、
図8のエレメント320に示すように、凹部を形成しないものとしてもよい。この場合でも、サドル面330の角部331,332は、曲面形状(R面)により形成されるため、結束リングに対してサドル面330と接触しない非接触区間を確保することができる。また、本実施形態では、エレメント30のベルト進行方向前方側の面(前面)に凹部33を形成するものとしたが、ベルト進行方向後方側の面(後面)に凹部を形成するものとしてもよく、ベルト進行方向前方側の面と後方側の面の両面に凹部を形成してもよい。
【0032】
本実施形態では、エレメント20の径方向(上下方向)において、サドル面30の頂部がロッキングエッジ部25が有する幅の範囲内となる位置にサドル面30とロッキングエッジ部25とを形成したが、例えば、
図9のエレメント420に示すように、サドル面430の頂部の位置がロッキングエッジ部25が有する幅の範囲よりも径方向内側(下側)となる位置にサドル面430とロッキングエッジ部425とを形成する等、サドル面の頂部の位置とは異なる位置にロッキングエッジ部を形成してもよい。この場合、伝達ベルトの伝達効率は低下するものの、
図10に示すように、サドル面430の位置付近において、プーリに巻き掛けられる前後2つのエレメントの間の隙間が拡大するため、結束リングの非接触区間をさらに延長することができ、結束リングの曲げの曲率半径を一層大きくすることができる。この結果、結束リングに作用する曲げ応力を一層低減させて、結束リングの耐久性をさらに向上させることができる。
【0033】
本実施形態では、エレメント20の前面(ロッキングエッジ部25が形成されている側の面、第1面S1)とサドル面30とを繋ぐ部分にのみ板厚方向(第2面側)に凹んだ凹部33を形成したが、
図11のエレメント520に示すように、エレメント520の前面(第1面S1)とサドル面530とを繋ぐ部分に板厚方向(第1面S1とは反対の第2面S2側)に凹んだ凹部533を形成すると共にエレメント520の後面(第2面S2)とサドル面530とを繋ぐ部分に板厚方向(第1面S1側)に凹んだ凹部534を形成するものとしてもよい。また、エレメントの後面(第2面S2)とサドル面とを繋ぐ部分にのみ板厚方向(第1面S1側)に凹んだ凹部を形成するものとしてもよい。
【0034】
本実施形態では、サドル面30のベルト周方向両側の角部31,32をそれぞれベルト周方向に湾曲した凸曲面により形成したが、
図12のエレメント620に示すように、サドル面630のロッキングエッジ部25が形成されている側(第1面S1側)の角部631の曲率半径R1を、反対側(第2面S2側)の角部632の曲率半径R2よりも大きくしてもよい。また、例えば、曲率半径R1と曲率半径R2のノミナル値を同様の値として、そのうえで曲率半径R1の公差幅に対して、曲率半径R2の公差幅を小さくするようにして、曲率半径R1が曲率半径R2よりも大きくなるように設定してもよい。
【0035】
以上説明したように、本開示の伝達ベルトは、無段変速機(1)のプライマリプーリ(3)とセカンダリプーリ(5)とに巻き掛けられる伝達ベルト(10)であって、無端環状の無端リング(11)と、前記無端リング(11)の内周面と接触するサドル面(30,130,230,330,430)と前記サドル面(30,130,230,330,430)における幅方向両側から前記伝達ベルト(10)の径方向外側に延出された一対の柱部(22)とを含む本体部(21)と、前記本体部(21)の前記伝達ベルト(10)の周方向一方側に形成される第1面(S1)および周方向他方側に形成される第2面(S2)と、前記第1面(S1)に前記幅方向両端に分割して設けられ隣り合うエレメント(20,120,220,320,420,520,620)同士が接触して相対回転するときの支点となるロッキングエッジ部(25)と、を有し、互いに重ねられて前記無端リング(11)に支持されることにより環状に配列される複数のエレメント(20,120,220,320,420,520,620)と、を備え、前記ロッキングエッジ部(25)は、前記サドル面(30,130,230,330,430,530,630)に対して前記伝達ベルト(10)の径方向外側から径方向内側に亘って幅を有するように曲面で形成され、前記第1面(S1)と前記サドル面(30,130,230,330,430,530,630)との間を繋ぐ部分は、前記伝達ベルト(10)の周方向において前記平坦面よりも前記第2面(S2)側に位置するように形成されていることを要旨とするものである。
【0036】
即ち、伝達ベルトは、無端リングの内周面と接触するサドル面と当該サドル面における幅方向両側から伝達ベルトの径方向外側に延出された一対の柱部とを含む本体部と、本体部の伝達ベルトの周方向一方側に形成される第1面および周方向他方側に形成される第2面と、第1面に幅方向両端に分割して設けられ隣り合うエレメント同士が接触して相対回転するときの支点となるロッキングエッジ部とを有する複数のエレメントにより構成される。また、ロッキングエッジ部を、サドル面に対して伝達ベルトの径方向外側から径方向内側に亘って幅を有するように曲面で形成する。そして、第1面とサドル面との間を繋ぐ部分を、伝達ベルトの周方向において、第1面におけるロッキングエッジ部よりも径方向外側の平坦面よりも第2面側に位置するように形成する。これにより、サドル面が径方向においてロッキングエッジ部の幅の範囲内に位置する伝達ベルトにおいて、プーリに巻き掛けられる前後2つのエレメントのサドル面間に、無端リングの内周面が接触しない隙間(非接触区間)を設けることができる。エレメント同士がロッキングエッジ部のどの位置で回動(接触)していたとしても、無端リングは、当該非接触区間において、サドル面からの拘束を受けないため、サドル面による曲げの曲率半径をより大きくすることができる。この結果、無端リングに作用する曲げ応力を小さくして、無端リングの耐久性をより向上させることができる。
【0037】
こうした本開示の伝達ベルトにおいて、前記第2面(S2)と前記サドル面(530)との間を繋ぐ部分は、前記周方向において前記第2面(S2)より前記第1面(S1)側に位置するように形成されているものとしてもよい。こうすれば、無端リングの内周面が接触しない非接触区間をさらに延長させることができる。このため、サドル面による曲げの曲率半径を更に大きくすることができ、無端リングに作用する曲げ応力を一層小さくすることができる。
【0038】
また、本開示の伝達ベルトにおいて、前記第1面(S1)と前記サドル面(30,130,430,630)との間を繋ぐ部分は、前記周方向において凸状に湾曲する凸曲面(31,131,431,631)であるものとしてもよい。こうすれば、無段リングの内周面が接触しない非接触区間を凸曲面によって確保することができる。この場合、前記第2面(S2)と前記サドル面(30,430,630)との間を繋ぐ部分は、前記周方向において凸状に湾曲する凸曲面(32,432,632)であるものとしてもよい。更にこの場合、前記第1面(S1)と前記サドル面(630)との間を繋ぐ部分の凸曲面(631)は、前記第2面(S2)と前記サドル面(630)との間を繋ぐ部分の凸曲面(632)よりも曲率半径が大きいものとしてもよい。
【0039】
さらに、本開示の伝達ベルトにおいて、前記ロッキングエッジ部(25)は、前記伝達ベルト(10)の車両の前進走行時における進行方向前方側の面に形成されているものとしてもよい。
【0040】
また、本開示の伝達ベルトにおいて、前記第1面(S1)は、前記幅方向の中央に前記ロッキングエッジ部(25)よりも前記第2面側に凹まされた凹部(33)が形成され、前記ロッキングエッジ部(25)は、前記凹部(33)の前記幅方向の両端に分割されているものとしてもよい。こうすれば、無端リング(11)の非接触区間が凹部(33)の深さ分延長されるため、無端リング(11)の曲げの曲率半径をより大きくすることができる。これにより、無端リング(11)に作用する曲げ応力をさらに低減させて、その耐久性を一層向上させることができる。
【0041】
また、本開示の伝達ベルトにおいて、前記サドル面(30)は、前記エレメント(20)の幅方向外側へ向かって凸状に湾曲する凸曲面により形成され、前記サドル面(30)の前記凸曲面の頂部は、前記径方向において前記ロッキングエッジ部(25)の幅の範囲内に位置するように形成されているものとしてもよい。サドル面(30)が凸曲面により形成される場合、プーリ(3,5)に巻き掛けられるエレメント(20)のサドル面(30)から無端リング(11)が受ける垂直抗力は、凸曲面の頂部で最大となるから、サドル面(30)と無端リング(11)の内周面との摩擦力も、凸曲面の頂部で最大となる。このため、サドル面(30)の頂部で無端リング(11)に滑りが生じると、摩擦損失が大きくなり、伝達ベルトの伝達効率の悪化を招く。これに対して、径方向においてロッキングエッジ部(25)の幅の範囲内にサドル面(30)の凸曲面の頂部が位置することにより、サドル面(30)の頂部と無端リング(11)との間の滑りを低減することができる。この結果、伝達ベルトの伝達効率をより向上させることができる。
【0042】
以上、本開示の発明の実施の形態について説明したが、本開示の発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本開示の発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。