特許第6673511号(P6673511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6673511固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6673511
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20200316BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20200316BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20200316BHJP
   C01G 45/12 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   H01M4/86 T
   H01M8/12 101
   H01M4/88 T
   C01G45/12
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-51329(P2019-51329)
(22)【出願日】2019年3月19日
【審査請求日】2019年10月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 宜寛
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和人
(72)【発明者】
【氏名】米田 稔
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−037158(JP,A)
【文献】 特開2018−116936(JP,A)
【文献】 特開2015−041597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/98
C01G 25/00 − 47/00
C01G 49/10 − 99/00
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式:
A11−xA2BO3−δ
(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMn、Fe、CoおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種であり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)
で表されるペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であって、
前記粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察し、エネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線の強度を測定したとき、前記特性X線の最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であり、
前記成型体は、前記粉体2gおよび濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液0.4gを混合および乾燥して得られる造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる、固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。
【請求項2】
前記元素A1はLaを含み、
前記元素A2はSrを含み、
前記元素BはMnを含む、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。
【請求項3】
前記粉体のBET法に基づく比表面積は、0.05m/g以上、0.3m/g以下である、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。
【請求項4】
前記粉体の平均粒子径は、10μm以上、35μm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンなエネルギー源として燃料電池が注目されている。なかでも、電解質としてイオン伝導性を有する固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、発電効率に優れる。SOFCは、作動温度が700℃〜1000℃程度と高く、排熱を利用することもできる。さらに、SOFCは、炭化水素および一酸化炭素ガス等、様々な燃料を利用することができるため、家庭用から大規模発電まで幅広い活用が期待されている。
【0003】
SOFCは、通常、多孔性の空気極(カソ−ド)および燃料極(アノード)と、これらの間に介在する電解質層と、を有するセルを複数備える。空気極に空気が供給されると、その空気に含まれる酸素の還元反応が起こり、酸素イオンが生成する。酸素イオンは電解質層を通過して燃料極へと到達して、燃料極に供給される水素と反応し、水を生成する。このとき、燃料極では電子が生成され、空気極では電子が消費される。
【0004】
SOFCの商用化には、セルの性能を高め、用いられるセルの数を減らしてコストダウンすることが望まれる。セルの性能を高めるため、例えば、空気極には、高い電気伝導度および高い開気孔率が求められる。特許文献1〜4では、空気極材料として用いられ、ABOで表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する金属複合酸化物について、様々な検討がなされている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−035447号公報
【特許文献2】特開2015−201440号公報
【特許文献3】特開2016−139523号公報
【特許文献4】特許第5140787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜4に記載された金属複合酸化物を用いても、高い電気伝導度と高い開気孔率とを両立する空気極を得ることは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑み、本発明の一側面は、
下記一般式:
A11−xA2BO3−δ
(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMn、Fe、CoおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種であり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)
で表されるペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であって、
前記粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察し、エネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線の強度を測定したとき、前記特性X線の最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下である、固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体に関する。
【0008】
本発明の他の側面は、
下記一般式:
A11−xA2BO3−δ
(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMn、Fe、CoおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種であり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)
で表されるペロブスカイト型単相の結晶構造を有する固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体を製造する方法であって、
前記元素A1、前記元素A2および前記元素Bをそれぞれ含む粉体状の複数種の金属化合物と、分散媒と、を混合して、前記金属化合物の平均粒子径が0.5μm以上、2μm以下であるスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリーに造粒剤を添加する添加工程と、
前記添加工程の後、前記スラリー中の前記分散媒を除去して、乾燥粉体を得る乾燥工程と、
前記乾燥粉体を焼成する焼成工程と、を備え、
前記乾燥工程に供される前記スラリーにおける複数種の前記金属化合物の合計の濃度は、10質量%以上、25質量%未満である、固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い電気伝導度と高い開気孔率とを両立する空気極が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】成型体の断面の二値化処理後のマッピング画像の一例である。
図1B図1Aにおけるマークされた領域の拡大図である。
図2】本発明の一実施形態に係る製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3】実施例1で作製された焼成粉体のX線回折チャートである。
図4】実施例1で作製された成型体の断面のSEM画像である。
図5】比較例3で作製された成型体の断面のSEM画像である。
図6】実施例1で作製された成型体の断面のマッピング画像である。
図7】比較例3で作製された成型体の断面のマッピング画像である。
図8】実施例1で作製された成型体の断面の二値化処理後のマッピング画像である。
図9】比較例3で作製された成型体の断面の二値化処理後のマッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ABOで表されるペロブスカイト型の結晶構造のBサイトは、複数の価数を持ちうる遷移金属が占有する。そのため、ペロブスカイト型の結晶構造を有する金属複合酸化物の導電率は、Bサイトに入る金属元素に影響を受けやすい。
【0012】
ところで、結晶構造の解析には、通常、X線回折法が用いられる。X線回折法によって、ペロブスカイト型の結晶構造を有する相(以下、ペロブスカイト相と称する場合がある。)のみで構成される金属複合酸化物であると評価される場合であっても、電子顕微鏡を用いて微細に分析すると、金属複合酸化物には、遷移金属を含み、ペロブスカイト相以外の結晶構造を有する領域(以下、非ペロブスカイト領域と称する場合がある。)が確認できる場合がある。例えば、遷移金属元素としてマンガン(Mn)を含む原料が用いられる場合、金属複合酸化物には、ペロブスカイト相とともに、酸化マンガンによるスピネル型の結晶からなる領域が存在し得る。これは、複数の原料(金属化合物)を混合し焼成して金属複合酸化物を作製する工程で、遷移金属を含む原料の一部がペロブスカイト相の生成に寄与せずに、非ペロブスカイト領域を生成するためである。金属複合酸化物の導電率の低下は、このようなBサイトに入り得る遷移金属(元素B)を含む非ペロブスカイト領域が、金属複合酸化物粉体中にある程度の領域を占めて偏在していることに起因することが判明した。
【0013】
本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体(以下、空気極用粉体と称す場合がある。)は、電子顕微鏡を用いた分析によっても、偏在が確認できない程度に、非ペロブスカイト領域が均一に分散されている。
【0014】
すなわち、本実施形態に係る空気極用粉体は、下記一般式:
A11−xA2BO3−δ
(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMn、Fe、CoおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種であり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)
で表されるペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であって、粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察し、エネルギー分散型X線分析法により元素Bの特性X線の強度を測定したとき、特性X線の最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下である。
【0015】
空気極用粉体がペロブスカイト型単相の結晶構造を有するとは、X線回折チャートにおいて、ペロブスカイトの結晶相に由来するピーク以外のピークが観測されないことを意味する。ピークが観測されないとは、典型的には、ペロブスカイトの結晶相に由来するピーク以外のピークの強度が、X線回折の検出限界以下であることをいう。
【0016】
元素Bを含む非ペロブスカイト領域の分布は、空気極用粉体を加圧成形して得られる成型体の断面に対して、電子顕微鏡を用いた元素分析を行うことにより確認できる。具体的には、以下の通りである。
【0017】
空気極用粉体2gおよびポリビニルアルコール水溶液(濃度:10質量%)0.4gを秤量して、乳鉢で混合する。続いて、箱型乾燥機にて110℃で1時間静置して水分を蒸発させ、目開き150μmの篩に通して造粒粉体を得る。得られた造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して、成型体を得る。このとき、成型体の密度は、3.5g/cm以上、4.5g/cm以下であることが望ましい。成型体の密度がこの範囲であると、走査型電子顕微鏡を用いた観察視野内に十分な数の空気極用粉体を含むことができるとともに、過度な圧縮が抑制されて、粉体の形状が維持される。
【0018】
得られた成型体をクロスセクションポリッシャ(例えば、日本電子(株)製、SM−09010)にて、電圧5.0kVで20時間、Arイオンエッチング加工して、試料の断面を露出させる。露出した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率500倍で観察して、観察視野(180μm×240μmの領域)を決定する。この観察視野において、エネルギー分散型X線検出器(例えば、オックスフォード社製、INCA X−sight)を用いて、以下に示す条件で、元素Bの特性X線Kαの強度に基づいて明暗が強調されたマッピング画像を取得する。
【0019】
加速電圧:15kV
プロセスタイム:4
デッドタイム:30〜40%
解像度:128×96画素
スキャン回数:10回
【0020】
取得したマッピング画像において、最大強度の50%以上の強度を有する画素Paと、50%未満の強度を有する画素Pbとを区分けして、二値化されたマッピング画像を取得する。二値化されたマッピング画像において、画素Paが辺を共有しながら5個以上連なっている領域Rを決定する。観察視野の0.04%の面積割合は、128×96画素のマッピング画像における5画素分に相当する。観察視野内において、上記の領域Rが5個以上ある場合、元素Bが偏在していると定義する。
【0021】
ペロブスカイト相の生成に寄与しない元素Bが偏在せずに微分散していることにより、導電率が向上する。よって、単位セル当たりの発電性能が向上する。さらに、高温下におけるペロブスカイト相の安定性が高まる。そのため、燃料電池セルの耐久性向上が期待できる。
【0022】
図1Aは、上記のようにして得られた二値化処理後のマッピング画像の一例である。図1Bは、図1Aにおいてマークされた領域の拡大図である。図1Bにおいて、最大強度の50%以上の強度を有し、観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域Rは、8画素が連なった領域R1、および、7画素が連なった領域R2の2つ存在している。
【0023】
元素A1は、La(ランタン)、Sm(サマリウム)よりなる群から選択される少なくとも一種である。元素A2は、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)よりなる群から選択される少なくとも一種である。元素Bは、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)よりなる群から選択される少なくとも一種である。0<x<1を満たし、δは酸素欠損量である。
【0024】
元素A1はLaを含むことが好ましい。元素A1に占めるLaの割合は、90原子%以上であってもよい。元素A2はSrを含むことが好ましい。元素A2は、SrおよびCaを含んでいてもよい。元素A2に占めるSrの割合、あるいはSrおよびCaを含む場合はこれらの合計の割合は、90原子%以上であってよい。Srに対するCaの原子比:Ca/Srは、0.2以上、4.0以下であってよく、0.6以上、1.5以下であってよい。xは特に限定されず、例えば、0.2≦x≦0.6であってよく、0.3≦x≦0.5であってよい。元素BはMnを含むことが好ましい。元素Bに占めるMnの割合は、90原子%以上であってよい。
【0025】
具体的には、金属複合酸化物として、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF、La1−x1Srx1Co1−y1Fey13−δ、0<x1<1、0<y1<1)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM、La1−x2Srx2MnO3-δ、0<x2<1)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC、La1−x3Srx3CoO3-δ、0<x3<1)、サマリウムストロンチウムコバルタイト(SSC、Sm1−x4Srx4CoO3-δ、0<x4<1)、ランタンストロンチウムカルシウムマンガナイト(LSCM、La1−x5−y2Srx5Cay2MnO3−δ、0<x5<1、0<y2<1)、等が挙げられる。特に、導電性および熱膨張率の観点から、元素A1がLaであり、元素A2がSr(およびCa)であり、元素BがMnである、LSMおよびLSCMが好ましい。
【0026】
空気極用粉体の比表面積は特に限定されないが、空気極用粉体のBET法に基づく比表面積(BET比表面積)は、0.05m/g以上、0.3m/g以下であることが好ましい。空気極用粉体の比表面積が0.05m/g未満の場合、空気極を形成するために熱処理される際、焼結が進行し難くなって、電極としての強度が不足する場合がある。空気極用粉体のBET比表面積は、より好ましくは0.07m/g以上であり、さらに好ましくは0.09m/g以上である。また、空気極用粉体の比表面積が0.3m/gを超える場合、空気極を形成するために熱処理される際、焼結が過剰に進行する場合がある。そのため、得られる空気極の開気孔率が低くなり易く、空気の拡散性が不十分となる場合がある。空気極用粉体のBET比表面積は、より好ましくは0.25m/g以下であり、さらに好ましくは0.20m/g以下である。BET比表面積は、JIS Z 8830:2013に準じて、BET流動法により測定される。
【0027】
空気極用粉体の平均粒子径(以下、焼成物D50と称す。)は特に限定されないが、10μm以上、35μm以下であることが好ましい。焼成物D50が10μm未満の場合、空気極を形成するために熱処理される際、焼結が過剰に進行する場合がある。そのため、得られる空気極の開気孔率が低くなり易く、空気の拡散性が不十分となる場合がある。焼成物D50は、より好ましくは13μm以上であり、さらに好ましくは16μm以上である。また、焼成物D50が35μmを超える場合、焼結が進行し難くなって、電極としての強度が不足する場合がある。焼成物D50は、より好ましくは31μm以下であり、さらに好ましくは27μm以下である。
【0028】
平均粒子径は、レーザー回折法によって測定される体積基準の粒度分布において、累積体積が50%になるときの粒径である(以下、同じ)。つまり、レーザー回折法による粒度分布測定により得られた体積基準の積算粒子量曲線において、積算量が50%を占めるときの粒子径が平均粒子径である。
【0029】
空気極用粉体のD10およびD90粒子径は特に限定されない。D10は、上記のようにして得られた積算粒子量曲線において、積算量が10%を占めるときの粒子径である。D90は、上記のようにして得られた積算粒子量曲線において、積算量が90%を占めるときの粒子径である。D90をD10で除した値(D90/D10)が1に近くなるほど、粒度分布はシャープである。
【0030】
D90/D10は特に限定されないが、5以下であることが好ましい。D90/D10が5を超える場合、空気極を形成するために熱処理される際、焼結が均一に進行し難くなって、クラックが発生する場合がある。そのため、歩留まりが低下しやすい。D90/D10は、より好ましくは4以下であり、さらに好ましくは3.5以下である。
【0031】
(空気極用粉体の製造方法)
空気極用粉体は、例えば、元素A1、元素A2および元素Bをそれぞれ含む粉体状の複数種の金属化合物と、分散媒とを均一に混合する工程(スラリーの調製工程)と、造粒剤を添加する工程(添加工程)と、分散媒を除去し、複数種の金属化合物の分散状態が均一で粒度が整った乾燥粉体を得る工程(乾燥工程)と、焼成により複数種の金属化合物を反応させ、ペロブスカイトの結晶構造を有した焼成粉体を得る工程(焼成工程)と、により製造される。ただし、乾燥工程に供されるスラリー(後述する第2スラリーの濃度)における複数種の金属化合物の合計の濃度は、10質量%以上、25質量%未満である。
図2は、本実施形態に係る製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0032】
以下、本実施形態に係る製造方法を、工程ごとに説明する。
(1)スラリーの調製工程
スラリーは、元素A1、元素A2および元素Bをそれぞれ含む粉体状の複数種の金属化合物と、分散媒と、を混合することにより調製される。
【0033】
元素A1を含む金属化合物(第1化合物)としては、例えば、炭酸ランタン(La(CO)、水酸化ランタン(La(OH))、酸化ランタン(La)、炭酸サマリウム(Sm(CO)、水酸化サマリウム(Sm(OH))、酸化サマリウム(Sm)等が挙げられる。
【0034】
元素A2を含む金属化合物(第2化合物)としては、例えば、炭酸ストロンチウム(SrCO)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、炭酸バリウム(BaCO)、水酸化バリウム(Ba(OH))等が挙げられる。
【0035】
元素Bを含む金属化合物(第3化合物)としては、例えば、酸化マンガン(MnO、Mn等)、炭酸マンガン(MnCO)、酸化鉄(Fe)、酸化コバルト(Co)、炭酸コバルト(CoCO)、酸化ニッケル(NiO)、炭酸ニッケル(NiCO)等が挙げられる。
【0036】
分散媒は特に限定されない。取り扱い性および不純物量を低減する観点から、分散媒の主成分(全質量の50%以上を占める成分)は、水(イオン交換水)であってよく、水(イオン交換水)のみが好ましい。
【0037】
本工程において調製されるスラリー(以下、第1スラリーと称す。)に含まれる金属化合物の平均粒子径(以下、分散物D50と称す。)は、0.5μm以上、2.0μm以下である。
【0038】
分散物D50が0.5μm未満であると、複数種の金属化合物は偏って凝集し易くなる。そのため、得られる空気極用粉体の組成が不均一になって、元素Bの偏在が起こる。分散物D50は、より好ましくは0.7μm以上であり、さらに好ましくは0.9μm以上である。また、分散物D50が2.0μmを越える場合、焼成工程を経ても複数種の金属化合物同士の反応が均一に進行し難くなり、得られる空気極用粉体に元素Bの偏在が起こる。分散物D50は、より好ましくは1.7μm以下であり、さらに好ましくは1.5μm以下である。
【0039】
分散物D50は、第1スラリー中のすべての粒子(すなわち、複数種の金属化合物およびこれらの反応物や複合体等を区別せずに)を対象に測定した粒度分布から算出される。
【0040】
第1スラリーの粘度は特に限定されない。B型粘度計を用いて、温度23℃〜27℃、回転数60rpmの条件で測定される第1スラリーの粘度は、1mPa・s以上であってよく、3mPa・s以上であってよい。上記の方法で測定される第1スラリーの粘度は、500mP・s以下であってよく、100mPa・s以下であってよい。上記粘度は、JIS Z 8803に準じて測定される。
【0041】
スラリー調製工程において、分散物D50が上記範囲になるように、金属化合物は粉砕されてもよい。混合および粉砕は、例えば、遊星ミル等のメディア撹拌型の微粉砕機により行われる。
【0042】
本工程では、さらに分散剤が混合されてよい。これにより、分散物D50が、所望の範囲になり易くなる。
分散剤は特に限定されず、従来公知の分散剤であってよい。
分散媒が水を主成分とする場合、分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、アルキルスルホン酸塩、ポリリン酸塩等のアニオン性の分散剤;ポリアルキレンオキサイド、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等の非イオン性の分散剤;四級アンモニウム塩等のカチオン性分散剤が挙げられる。
【0043】
なかでも、アニオン性の分散剤が望ましい。例えば、ポリアクリル酸塩を用いればよい。塩を形成するカチオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン、カルシウムイオン等が挙げられる。
【0044】
分散剤の添加量は、特に限定されない。分散効果を考慮すると、分散剤の添加量は、金属化合物の合計100質量部に対して0.001質量部以上、0.075質量部以下が好ましく、0.0015質量部以上、0.01質量部以下がさらに好ましい。
【0045】
(2)添加工程
第1スラリーに造粒剤を添加して、第2スラリーを調製する。
造粒剤により、各金属化合物の粉体が、互いに密着し易くなる。スラリー調製工程において、金属化合物は、分散物D50が上記の範囲になるまで微細化されている。つまり、十分に微細化された複数種の金属化合物同士が互いに凝集し易くなるため、得られる乾燥粉体の平均粒子径(以下、乾燥物D50と称す。)が所望の範囲に制御されるとともに、得られる乾燥粉体に含まれる各金属化合物の比が均一になる。さらに、造粒剤によって乾燥粉体は球状になり易い。よって、その後の焼成工程で得られる空気極用粉体の元素Bの偏在が抑制される。
【0046】
造粒剤は、乾燥工程で第2スラリー中の分散媒が除去される前に添加されればよく、スラリー調製工程において添加されてもよい。なお、上記の分散物D50は、造粒剤が添加される前の第1スラリーに含まれる金属化合物の平均粒子径である。
【0047】
造粒剤は特に限定されず、従来公知の造粒剤であってよい。
造粒剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0048】
造粒剤の添加量は特に限定されない。造粒効果を考慮すると、造粒剤の添加量は、金属化合物の合計100質量部に対して0.2質量部以上、4質量部以下が好ましく、0.5質量部以上、3質量部以下がさらに好ましい。
【0049】
(3)乾燥工程
第2スラリーを乾燥して分散媒を除去する。
乾燥工程に供されるスラリー(すなわち、第2スラリー)における複数種の金属化合物の合計の濃度は、分散媒と各金属化合物との合計に対して、10質量%以上、25質量%未満である。
【0050】
金属化合物の合計濃度が10質量%未満であると、金属化合物に対する溶媒の量が多いため、乾燥物の粒度分布がブロードになる。よって、得られる乾燥粉体を焼成した後、空気極を形成するために熱処理される際、焼結が均一に進行し難くなって、クラックが発生する。金属化合物の合計濃度は、より好ましくは15質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上である。また、金属化合物の合計濃度が25質量%以上であると、得られる空気極用粉体の組成が不均一になって、元素Bの偏在が起こる。金属化合物の合計濃度は、より好ましくは24質量%以下であり、さらに好ましくは23質量%以下である。
【0051】
第2スラリーを乾燥する方法は特に限定されず、噴霧乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、蒸発乾燥等であってよい。なかでも、得られる乾燥粉体が球状になり易い点で、噴霧乾燥が好ましい。さらに、噴霧乾燥によれば、乾燥粉体に含まれる各金属化合物粉体同士がより近接し易くなる。一般に、複数の金属化合物粉体の混合物から固相法にて複合酸化物を合成する場合、各金属化合物に含有される原子が熱エネルギーによって拡散することにより、新規な組成および結晶構造を有する複合酸化物が得られる。このとき、各金属化合物粉体が互いにより近接していると、原子が拡散し易くなって、均一な組成の複合酸化物が得られやすい。
【0052】
噴霧乾燥に供される第2スラリーにおいて、B型粘度計を用いて、温度23℃〜27℃、回転数60rpmの条件で測定される粘度は、例えば、1mPa・s以上であってよく、3mPa・s以上であってよい。第2スラリーの上記粘度は、100mPa・s以下であってよく、50mPa・s以下であってよい。
【0053】
乾燥物D50は特に限定されないが、10μm以上、50μm以下であることが好ましい。乾燥物D50が10μm未満の場合、焼成工程において乾燥粉体の焼結が過剰に進行し易くなる。そのため、空気極用粉体として適切な平均粒子径または粒度分布が得られ難い。乾燥物D50は、より好ましくは15μm以上であり、さらに好ましくは25μm以上である。また、乾燥物D50が50μmを超える場合、乾燥粉体中の各金属化合物の組成が不均一であり得る。そのため、得られる空気極用粉体の組成も不均一になり易く、元素Bの偏在が起こり易い。乾燥物D50は、より好ましくは48μm以下であり、さらに好ましくは45μm以下である。
【0054】
分散物D50と乾燥物D50との比は特に限定されない。所望の乾燥物D50が得られ易い点で、乾燥物D50に対する分散物D50の比:分散物D50/乾燥物D50は、0.015以上、0.05以下が好ましい。分散物D50/乾燥物D50がこの範囲であると、後の焼成工程において、各金属化合物間の固相反応と乾燥粉体同士の焼結とが適切に進行し易くなる。よって、元素Bの偏在化が抑制され易くなるとともに、この粉体を用いて得られる空気極の開気孔率が過剰に小さくなることが抑制され易くなる。分散物D50/乾燥物D50は、より好ましくは0.019以上、0.043以下であり、さらに好ましくは0.023以上、0.035以下である。
【0055】
焼成物D50と乾燥物D50との比は特に限定されない。乾燥物D50に対する焼成物D50の比:焼成物D50/乾燥物D50は、1以下が好ましい。焼成物D50/乾燥物D50が1以下であると、後の焼成工程において、乾燥粉体同士の焼結よりも、乾燥粉体に含まれる各金属化合物の間での焼結が進行したといえる。そのため、得られる焼成粉体の組成は、より均一であると期待できる。
【0056】
(4)焼成工程
乾燥粉体を焼成する。これにより、各金属化合物に含まれていた金属元素を含む金属複合酸化物(空気極用粉体)が得られる。
【0057】
焼成温度は特に限定されない。各金属元素の拡散を促進する観点から、焼成温度は1200℃以上であってよく、1350℃以上であってよい。急速で過度な焼結が抑制され易くなる点で、焼成温度は1500℃以下であってよく、1450℃以下であってよく、1400℃以下であってよい。焼成温度は、例えば、1350℃以上、1450℃以下である。焼成温度がこの範囲であると、乾燥粉体同士の焼結よりも、乾燥粉体に含まれる各金属化合物の間での焼結が進行し易くなる。
【0058】
[実施例]
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。ただし、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【0059】
まず、空気極用粉体等に係る各物性の測定方法あるいは算出方法について説明する。
(a)比表面積
比表面積測定装置(Micromeritics社製、Flowsorb II)を用いて、BET流動法により測定した。熱処理は、230℃で30分間、純窒素ガス気流下にて行い、キャリアガスには窒素30%とヘリウム70%との混合気体を使用した。
【0060】
(b)粒度分布および粒子径D50、D90、D10
試料を0.025重量%濃度のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に加えて、レーザー透過率80〜90%となる濃度に調整し、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製、MT−3300EXII)を用いて粒度分布を測定した。
また、分散物D50および焼成物D50の粒度分布の測定においては、試料を上記ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に加えて濃度を上記のように調整した後、測定の前に、超音波ホモジナイザー((株)日本精機製作所製、US−600T)を用いて、出力300μA、3分間の分散処理を行った。
【0061】
測定条件は以下の通りである。
計測モード:MT−3300
粒子屈折率:2.40
溶媒屈折率:1.333
粒子形状:非球形
分散媒:0.025重量%濃度のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液
【0062】
(c)X線回折
X線回折装置((株)リガク製、RINT TTRIII、X線源CuKα、管電圧50kV、電流300mA、長尺スリット:PSA200(全長200mm、分解能:0.057度)を用いて、下記条件で回折パターンを取得した。
光学系:平行光学系
測定方法:連続測定
スキャンスピード:5度/分
サンプリング幅:0.04度
スキャン範囲(2θ):20〜60度
【0063】
[実施例1]
(1)スラリー調製工程
酸化ランタン(La、富士フイルム和光純薬(株)製、純度98%)49.97g、炭酸ストロンチウム(SrCO、富士フイルム和光純薬(株)製、純度95%)31.14gおよび炭酸マンガン(MnCO、富士フイルム和光純薬(株)製、純度88%)68.89gを、500ml容量の樹脂製ポットに秤量した。
【0064】
上記樹脂製ポットに、イオン交換水300ml、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬(株)製、和光一級)0.75gおよび直径1mmのジルコニアビーズ150mLを加え、遊星ボールミル(フリッチュ社、P−5)を用いて、180rpmで75分間、混合および粉砕した。次いで、ビーズを除去して、第1スラリーを得た。
【0065】
第1スラリーにおいて、分散物D50は1.0μmであった。第1スラリーのB型粘度計を用いて、温度23℃〜27℃、回転数60rpmの条件で測定される粘度は、44mPa・sであった。
【0066】
(2)添加工程
第1スラリーにイオン交換水を加えて、金属化合物の濃度を23質量%に調製した後、造粒剤としてポリビニルアルコール(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)1.50gを添加して溶解させた。調整された第2スラリーの上記測定条件における粘度は、7mPa・sであった。
【0067】
(3)乾燥工程
第2スラリーを、スプレードライヤー(大川原化工機製 BDP−10型スプレーバッグドライヤー)を用いて、入口温度:210℃、出口温度:100℃、アトマイザー回転数:15000rpmの条件で乾燥して、乾燥粉体を得た。
上記乾燥物D50は31μmであった。
【0068】
(4)焼成工程
上記乾燥粉体をアルミナ製の坩堝に充填し、この坩堝を電気炉((株)モトヤマ製、SB−2025)内に置き、昇降温速度100℃/hとし、1400℃で2時間焼成した。その後、アルミナ製乳鉢で解砕し、目開き500μmの篩に通して、焼成粉体を得た。
X線回折パターンから、上記焼成粉体は、組成式:La0.6Sr0.4MnOで表されるペロブスカイト型の結晶構造のみを有することが確認された。図3は、実施例1で作製された焼成粉体のX線回折チャートである。得られた焼成粉体のピークパターンは、ペロブスカイト相のピークパターンと一致し、他の結晶相に由来するピークパターンは観測されていない。
【0069】
上記焼成粉体の比表面積は、0.18m/gであり、焼成物D50は17μm、D90/D10は3.4であった。
【0070】
[実施例2]
(1)スラリー調製工程
酸化ランタン(La、富士フイルム和光純薬(株)製、純度98%)43.60g、炭酸ストロンチウム(SrCO、富士フイルム和光純薬(株)製、純度95%)20.38g、炭酸カルシウム(CaCO、富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.5%)13.89gおよび炭酸マンガン(MnCO、富士フイルム和光純薬(株)製、純度88%)72.13gを、500ml容量の樹脂製ポットに秤量した。
【0071】
上記樹脂製ポットに、イオン交換水300ml、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬工業(株)製、和光一級)0.75gおよび直径1mmのジルコニアビーズ150mLを加え、遊星ボールミル(フリッチュ社、P−5)を用いて、180rpmで60分間、混合および粉砕した。次いで、ビーズを除去して、第1スラリーを得た。
【0072】
第1スラリーにおいて、分散物D50は1.0μmであった。第1スラリーの上記測定条件における粘度は、41mPa・sであった。
【0073】
(2)添加工程
第1スラリーにイオン交換水を加えて、金属化合物の濃度を23質量%に調製した後、造粒剤としてポリビニルアルコール(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)1.50gを添加して溶解させた。調整された第2スラリーの上記測定条件における粘度は、5mPa・sであった。
【0074】
(3)乾燥工程
第2スラリーを、スプレードライヤー(大川原化工機製 BDP−10型スプレーバッグドライヤー)を用いて、入口温度:210℃、出口温度:100℃、アトマイザー回転数:15000rpmの条件で乾燥して、乾燥粉体を得た。
乾燥物D50は41μmであった。
【0075】
(4)焼成工程
上記乾燥粉体をアルミナ製の坩堝に充填し、この坩堝を電気炉((株)モトヤマ製、SB−2025)内に置き、昇降温速度100℃/hとし、1400℃で2時間焼成した。その後、アルミナ製乳鉢で解砕し、目開き500μmの篩に通して、焼成粉体を得た。
X線回折パターンから、上記焼成粉体は、組成式:La0.5Sr0.25Ca0.25MnOで表されるペロブスカイト型の結晶構造のみを有することが確認された。
【0076】
上記焼成粉体の比表面積は、0.10m/gであり、焼成物D50は26μm、焼成物のD90/D10は2.7であった。
【0077】
[比較例1]
(1)スラリー調製工程
イオン交換水の量を64mlにしたこと、および、遊星ボールミルによる処理時間を185分間としたこと以外、実施例2と同様にして、第1スラリーを得た。
第1スラリーにおいて、分散物D50は1μmであった。第1スラリーの上記測定条件における粘度は、23mPa・sであった。
【0078】
(2)乾燥工程
第1スラリーにイオン交換水を加えて、金属化合物の濃度を63質量%に調整した。第1スラリーに造粒剤(ポリビニルアルコール)は添加しなかった。調整されたスラリーの上記測定条件における粘度は、13mPa・sであった。
スラリーを、スプレードライヤーの出口温度を75℃、アトマイザー回転数を20000rpmとしたこと以外、実施例2と同様にして乾燥させて、乾燥粉体を得た。
乾燥物D50は36μmであった。
【0079】
(3)焼成工程
上記乾燥粉体を、実施例2と同様に焼成、解砕および篩掛けして、焼成粉体を得た。
X線回折パターンから、上記焼成粉体は、組成式:La0.5Sr0.25Ca0.25MnOで表されるペロブスカイト型の結晶構造のみを有することが確認された。
【0080】
上記粉体の比表面積は、0.15m/gであり、焼成物D50は20μm、焼成物のD90/D10は5.6であった。
【0081】
[比較例2]
(1)スラリー調製工程
イオン交換水の添加量を150mlにしたこと、および、直径3mmのジルコニアビーズを用いたこと以外、実施例2と同様にして、第1スラリーを得た。
第1スラリーにおいて、分散物D50は2.2μmであった。第1スラリーの上記測定条件における粘度は、31mPa・sであった。
【0082】
(2)添加工程
第1スラリーにイオン交換水を加えて、固形分濃度を23質量%に調製した後、造粒剤としてポリビニルアルコール(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)1.50gを添加して溶解させた。調整された第2スラリーの上記測定条件における粘度は、5mPa・sであった。
【0083】
(3)乾燥工程
スプレードライヤーの出口温度を75℃にしたこと以外、実施例2と同様にして、乾燥粉体を得た。
乾燥物D50は41μmであった。
【0084】
(4)焼成工程
上記乾燥粉体を、実施例2と同様に焼成、解砕および篩掛けして、焼成粉体を得た。
X線回折パターンから、上記焼成粉体は、組成式:La0.5Sr0.25Ca0.25MnOで表されるペロブスカイト型の結晶構造のみを有することが確認された。
【0085】
上記粉体の比表面積は、0.19m/gであり、焼成物D50は27μm、焼成粉体のD90/D10は3.0であった。
【0086】
[比較例3]
炭酸ランタン(La(CO、富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.5%)54.28g、炭酸ストロンチウム(SrCO、富士フイルム和光純薬(株)製、純度95%)18.33g、炭酸カルシウム(CaCO、富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.5%)12.49gおよび炭酸マンガン(MnCO、富士フイルム和光純薬(株)製、純度88%)64.89gを、サンプルミル(協立化工(株)製、SK−M10)の反応容器に秤量し、モーター回転数14000rpmで60秒間混合および粉砕して、原料混合粉体を得た。
上記原料混合粉体の平均粒子径(乾燥物D50)は13μmであった。
【0087】
上記原料混合粉体を、焼成温度を1450℃としたこと以外、実施例2と同様に焼成、解砕および篩掛けして、焼成粉体を得た。
X線回折パターンから、上記焼成粉体は、組成式:La0.5Sr0.25Ca0.25MnOで表されるペロブスカイト型の結晶構造のみを有することが確認された。
【0088】
上記粉体の比表面積は、0.20m/gであり、焼成物D50は32μm、焼成粉体のD90/D10は6.1であった。
【0089】
[比較例4]
(1)スラリー調製工程
実施例2と同様にして、第1スラリーを得た。
第1スラリーにおいて、分散物D50は1.0μmであった。第1スラリーの上記測定条件における粘度は、41mPa・sであった。
【0090】
(2)乾燥工程
第1スラリーにイオン交換水を加えて、金属化合物の濃度を23質量%に調整した。スラリーに造粒剤(ポリビニルアルコール)は添加しなかった。調整されたスラリーの上記測定条件における粘度は、4mPa・sであった。
調整されたスラリーを実施例2と同様にして乾燥させて、乾燥粉体を得た。
乾燥物D50は4.1μmであった。
【0091】
(3)焼成工程
上記乾燥粉体を、実施例2と同様に焼成、解砕および篩掛けして、焼成粉体を得た。
X線回折パターンから、上記焼成粉体は、組成式:La0.5Sr0.25Ca0.25MnOで表されるペロブスカイト型の結晶構造のみを有することが確認された。
【0092】
上記粉体の比表面積は、0.34m/gであり、焼成物D50は13μm、焼成粉体のD90/D10は10.4であった。
【0093】
実施例1、2および比較例1〜4で得られた焼成粉体について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(A)Mnの偏析状態
焼成粉体2gおよびポリビニルアルコール水溶液(濃度:10質量%)0.4gを秤量して、乳鉢で混合した。続いて、箱型乾燥機にて110℃で1時間静置して水分を蒸発させ、目開き150μmの篩に通して造粒粉体を得た。得られた造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して、成型体を得た。成型体の密度は、3.6〜4.1g/cmであった。
【0095】
成型体をクロスセクションポリッシャ(日本電子(株)製、SM−09010)にて、電圧5.0kVで20時間、Arイオンエッチング加工して、試料の断面を露出させた。
露出した断面をSEMを用いて倍率500倍で観察して、観察視野(180μm×240μmの領域)を決定した。実施例1のSEM画像を図4に、比較例3のSEM画像を図5に示す。この観察視野において、エネルギー分散型X線検出器(オックスフォード社製、INCA X−sight)を用いて、以下に示す条件で、Mn−Kαの特性X線の強度に基づいて明暗が強調されたマッピング画像を取得した。実施例1のマッピング画像を図6に、比較例3のマッピング画像を図7に示す。
【0096】
加速電圧:15kV
プロセスタイム:4
デッドタイム:30〜40%
解像度:128×96画素
スキャン回数:10回
【0097】
取得したマッピング画像において、最大強度の50%以上の強度を有する画素Paと、50%未満の強度を有する画素Pbとを区分けして、二値化されたマッピング画像を取得した。実施例1の二値化後のマッピング画像を図8に、比較例3の二値化後のマッピング画像を図9に示す。二値化されたマッピング画像において、画素Paが辺を共有しながら5個以上連なっている領域RをMn偏在箇所と認定し、その数を数えた。
【0098】
(B)開気孔率
焼成粉体10gおよびポリビニルアルコール水溶液(濃度:10質量%)0.2gを秤量して、乳鉢で混合した。続いて、箱型乾燥機にて110℃で1時間静置して水分を蒸発させ、目開き150μmの篩に通して造粒粉体を得た。得られた造粒粉体を、46mm×6mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型し、長さ46mm×幅6mm×高さ6mmの成型体を得た。得られた成型体をアルミナ板の上に置き、電気炉にて、大気中、1200℃で2時間焼成することで、焼結試料を得た。
【0099】
焼結試料の開気孔率(P)を、JIS R 1634に準じて測定した。
具体的には、焼結試料の乾燥重量、水中重量、飽水重量をJIS R 1634に記された方法により測定し、下記式を用いて開気孔率を算出した。
【0100】
P=(W3−W1)/(W3−W2)×100
ただし、P:開気孔率(%)
W1:乾燥重量(g)
W2:水中重量(g)
W3:飽水重量(g)
【0101】
(C)導電率
上記と同様にして得られた焼結試料の800℃における導電率(S1)を、JIS R 1661に準じて、四端子法により測定した。
【0102】
具体的には、白金ペースト(田中貴金属(株)製、TR−7907)を、焼結試料の幅方向に沿って、長さ方向を2分する中心線に対して対称に塗布し、2つの電圧端子を作製した。塗布幅は2mmであり、電圧端子同士の離間距離は20mmとした。次に、上記と同じ白金ペーストを、電圧端子から5mm離れた位置から、長さ方向の端部にかけてそれぞれ塗布して、2つの電流端子を作製した。さらに、各端子に直径0.3mmの白金線を巻き付けて、取り出し電極を作製した。各端子が形成された焼結試料を加熱試料ホルダ(ノーレックス社製、プロボスタット)にセットし、電気炉内で800℃で2時間加熱した。これにより、白金ペーストを焼結試料に焼き付けて、四端子セルを得た。得られた四端子セルを用いて、電気化学測定システム(ソーラートロン社製、ModuLab XM)により、800℃における導電率(S1)を測定した。
【0103】
開気孔率(P)と800℃おいて測定された上記導電率(S1)を用いて、下記の式により、焼結試料の導電率(S)を算出した。
【0104】
S=S1/{(100−P)×100}
ただし、S:導電率
S1:800℃おいて測定された導電率
P:開気孔率(%)
【0105】
【表1】
【0106】
表中、比較例1および比較例4の第2スラリーの粘度として記載されている数値は、乾燥工程で調製された造粒剤を含まないスラリーの粘度である。
【0107】
表1から分かるように、実施例1および2で得られた焼成粉体(空気極用粉体)から得られる成型体のMn偏在領域Rは5個以下である。さらに、上記焼成粉体から得られる焼結試料の開気孔率Pは29〜30%、導電率Sは183〜193S/cmであり、良好な開気孔率と高い導電率とを両立している。加えて、上記焼成粉体の比表面積は0.05m/g以上、0.3m/g以下を満たし、焼成物D50は10μm以上、35μm以下である。また、焼成物D50/乾燥物D50が1より小さいことから、焼成工程において、主に乾燥粉体内部での反応が進行したと考えられる。
【0108】
比較例1で得られた焼成粉体の比表面積および平均粒子径は、実施例1および2で得られた焼成粉体と同等である。しかし、比較例1で得られた焼成粉体から得られる成型体のMn偏在領域Rは5個より多く、非ペロブスカイト領域が偏在していることがわかる。さらに、上記焼成粉体から得られる焼結試料の導電率Sは実施例1および2より低い。
【0109】
比較例1では、スラリー調製工程で金属化合物は1μmになるまで十分に混合される一方で、造粒剤を添加せず、さらに、金属化合物の濃度が25質量%以上であるスラリーを乾燥工程に供した。そのため、乾燥粉体に含まれる各金属化合物の比が不均一になっていたと考えられる。さらに、乾燥粉体における金属化合物粉体同士の密着力も弱い。よって、その後の焼成工程において、組成が均一になるような十分な固相反応が進行しなかったと考えられる。
【0110】
比較例2および比較例3で得られた焼成粉体から得られる成型体もまた、Mn偏在領域Rが5個より多く、非ペロブスカイト領域が偏在している。さらに、これらの焼成粉体から得られる焼結試料の導電率Sは、いずれも実施例1および2より低い。
【0111】
比較例2に関しては、スラリー調製工程における分散物の平均粒子径が、2μmより大きかったためと考えられる。つまり、スラリー調製工程において金属化合物の微細化が不十分であったため、得られる焼成粉体の組成が不均一になったものと考えられる。
【0112】
比較例3に関しては、スラリーを調製せずに各金属化合物を乾式法により混合したため、金属化合物の微細化および混合が不十分であり、その結果、得られる焼成粉体の組成が不均一になったものと考えられる。さらに、比較例3では、焼成温度を実施例1および2と比較して高くすることにより、ペロブスカイト型の結晶構造を得ている。つまり、比較例3で得られた乾燥粉体は固相反応性が低いことも示唆される。
【0113】
比較例4で得られた焼成粉体から得られる成型体もまた、Mn偏在領域Rが5個より多く、非ペロブスカイト領域が偏在している。さらに、この焼成粉体から得られる焼結試料の導電率Sおよび開気孔率は、実施例1および2より低い。
【0114】
比較例4では、スラリー調製工程で金属化合物が1μmになるまで微細に混合する一方で、造粒剤を添加しなかった。そのため、乾燥粉体において、金属化合物同士の密着力が弱く、その後の焼成工程において、組成が均一になるような十分な固相反応が進行しなかったと考えられる。また、焼成物D50/乾燥物D50が1より大きいことから、焼成工程において、乾燥粉体同士の焼結が生じたものと考えられる。つまり、焼成工程において乾燥粉体に与えられた熱エネルギーは、金属化合物間の固相反応だけではなく、乾燥粉体同士の焼結にも使用されたものと考えられる。その結果、得られる焼成粉体の組成が不均一になるとともに、D90/D10が大きく、焼成粉体の粒度分布が広くなった。粒度分布の広い焼成粉体を用いて空気極を作製すると、焼成粉体は、大粒子の間隙に小粒子が充填された緻密な状態で焼結されるため、開気孔率は低くなり易い。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の金属複合酸化物は導電率に優れるため、固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体として好適に用いられる。
【要約】
【課題】高い電気伝導度と高い開気孔率とを両立する空気極用の粉体を提供する。
【解決手段】下記一般式:
A11−xA2BO3−δ
(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMn、Fe、CoおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種であり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)
で表されるペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であって、
前記粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察し、エネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線の強度を測定したとき、前記特性X線の最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下である、固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。
【選択図】図4
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9