【実施例】
【0023】
以下において、本発明について、具体的な実施例を参照しながら更に詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0024】
[用いた悪性腫瘍由来樹立細胞株]
(1)ヒト腎癌由来細胞株:HRC23
HRC23はヒト腎細胞癌をヌードマウスに継代移植したものより株細胞として樹立したものである。継代には、フェノールレッド、抗生剤を含まないEagle's MEM(日水製薬)に10%FBSを添加したものを用い、細胞剥離には0.1%トリプシン、0.01%EDTAを添加したものを用いた。また、必要に応じクローニングを行なった。培養は37℃、5%CO
2下で行なった。
【0025】
(2)マウス・ルイス肺癌由来細胞株
理化学研究所より分与されたものを使用した(RCB0558:LLC)。継代には、Eagle's MEMに10%FBSを添加したものを用い、細胞剥離には0.1%トリプシン、0.01%EDTAを添加したものを用い、37℃、5%CO
2下で培養した。当細胞は転移性が高く、各種の制癌剤に抵抗性があり、in vivoで継代していたものを培養化したものである(Bertram JS, Janik P., Cancer Lett. 1980 November, 11(1), p.63-73)。
【0026】
(3)その他のヒト悪性腫瘍由来細胞株
ヒト悪性腫瘍由来の株細胞4種類を使用した。これらの細胞はすべて医薬基盤研究所JCRB細胞バンクより入手し、継代及びアッセイには指示された培地及び細胞剥離用酵素を使用し、37℃、5%CO
2下で培養した。
使用した細胞の種類を表1に示す。
【表1】
なお、悪性腫瘍は病理学的に大きくは上皮性と非上皮性に分類され、多くは上皮性である。表1中、SKNは非上皮性であり、それ以外は上皮性であるが、LLCは種を異にするマウス由来上皮性悪性腫瘍細胞であって、各種の抗癌剤に対して抵抗性を持つとされる。また、組織型も代表的な細胞を選択した。
【0027】
[実施例1:試料原液の作製]
(1)血清含有培地を用いて作製した試料原液
材料となるHRC23は、継代と同様に10%FBS含有のEagle's MEMで培養した。使用したEagle's MEMは抗生剤及びフェノールレッドを含まない培地である。HRC23を、フラスコ内で、細胞の増殖がコンフルエントな状態に達するまで培養し、更にオーバーグロース(過密度)になるまで培養した後、上記と同じ10%FBS含有のEagle's MEMで最終的に培地交換し、37℃、5%CO
2下でインキュベートした。9日後、HRC23の形態学的に細胞の死滅が観察された。その後、培地を回収し、3×10
3×gで10分間遠心分離して得られた上清を取り、この上清を0.1μmメンブレンフィルター(Millex(登録商標) VV、メルク株式会社(ミリポア))でろ過したものを試料原液として無菌的に4℃で保存した。
【0028】
(2)無血清培地を用いて作製した試料原液
材料となるHRC23は、継代と同様に10%FBS含有のEagle's MEMで培養した。使用したEagle's MEMは抗生剤及びフェノールレッドを含まない培地である。HRC23を、フラスコ内で、細胞の増殖がコンフルエントな状態に達するまで培養し、更にオーバーグロース(過密度)になるまで培養した後、抗生剤及びフェノールレッドを含まない無血清のEagle's MEMで培地交換し、37℃、5%CO
2下で5〜7時間インキュベートした。その間、上記と同じ無血清Eagle's MEMで細胞を数回リンスした。上記と同じ無血清Eagle's MEMで最終的に培地交換し、37℃、5%CO
2下でインキュベートした。9日後、HRC23の形態学的に細胞の死滅が観察された。その後、培地を回収し、3×10
3×gで10分間遠心分離して得られた上清を取り、この上清を0.1μmメンブレンフィルター(Millex(登録商標) VV、メルク株式会社(ミリポア))でろ過したものを試料原液として無菌的に4℃で保存した。
また、この試料原液を限外ろ過し分子量1kDa以下の画分を採取し(Ultracel(登録商標) Amicon(登録商標) YM1やUltracel(登録商標)限外ろ過膜 PLAC04310を備えたStirred Cell Model 8050、メルク株式会社(ミリポア))、無菌的に4℃で保存した。
【0029】
(3)生理的緩衝塩類溶液を用いて作製した試料原液
材料となるHRC23は、継代と同様に10%FBS含有のEagle's MEMで培養した。使用したEagle's MEMは抗生剤及びフェノールレッドを含まない培地である。HRC23を、フラスコ内で、細胞の増殖がコンフルエントな状態に達するまで培養し、更にオーバーグロース(過密度)になるまで培養した後、培地を、抗生剤及びグルコースを含まないハンクス平衡塩類溶液(pH7.3、HBSS-とも称される)で交換し、37℃、5%CO
2下で5〜7時間インキュベートした。その間、上記と同じハンクス平衡塩類溶液で細胞を数回リンスした。その後、細胞を、最終的な上記と同じハンクス平衡塩類溶液中で、37℃、5%CO
2下でインキュベートした。4日後、HRC23の形態学的に細胞の死滅が観察された。その後、ハンクス平衡塩類溶液を回収し、2×10
3×gで10分間遠心分離して得られた上清を取り、この上清を0.1μmメンブレンフィルター(Millex(登録商標) VV、メルク株式会社(ミリポア))でろ過したものを試料原液として無菌的に4℃で保存した。
また、この試料原液を限外ろ過し分子量1kDa以下の画分を採取し(Ultracel(登録商標) Amicon(登録商標) YM1やUltracel(登録商標)限外ろ過膜 PLAC04310を備えたStirred Cell Model 8050、メルク株式会社(ミリポア))、無菌的に4℃で保存した。
更に、グルコースを含まないハンクス平衡塩類溶液(HBSS-)に代えて、グルコースを含まないアール平衡塩類溶液(Earle)及びグルコースを含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS(+))を用いて、それぞれ試料原液を作製した。グルコースを含まないハンクス平衡塩類溶液、アール平衡塩類溶液及びリン酸緩衝生理食塩水の組成は表2に示されるとおりである。
【0030】
【表2】
【0031】
[実施例2:殺細胞活性についての試験]
(1)試験試料の段階希釈系列の作製
上記実施例1(1)で作製した試料原液(血清含有培地)に新たに10%FBSとEagle's MEM用のアミノ酸配合液及びビタミン配合液(コージンバイオ;アミノ酸配合液は50倍濃縮液、ビタミン配合液は100倍濃縮液)、並びにグルコースをEagle's MEMの規定量加え、7.5%NaHCO
3でpHを7.1〜7.4に調整後、規定量のグルタミンと10%容量のFBSを加えて試験試料とした。これは、血清含有培地で最終的に培地交換した後に消費された栄養を補う目的である。この試験試料を、コントロール用の培地(10%FBS添加したEagle's MEM)で2倍の段階希釈を行ない、試験試料の段階希釈系列を作製した。
上記実施例1(2)で作製した試料原液(無血清培地)に上記血清含有培地の試料原液の場合と同じように、アミノ酸及びビタミンを添加し、pHを調整後、グルタミンと10%FBSとグルコースを添加し、試験試料とした。この試験試料を、コントロール用の培地(10%FBS添加したEagle's MEM)で2倍の段階希釈を行ない、試験試料の段階希釈系列を作製した。また、試料原液から限外ろ過により分子量1kDa以下の画分を採取したものについても、同様に段階希釈系列を作製した。
上記実施例1(3)で作製した試料原液(ハンクス平衡塩類溶液)に、上記血清含有培地の試料原液の場合と同じように、アミノ酸及びビタミンを添加し、pHを調整後、グルタミンと10%FBSとグルコースを添加し、試験試料とした。この試験試料を、コントロール用の溶液(10%FBS添加したEagle's MEM)で2倍の段階希釈を行ない、試験試料の段階希釈系列を作製した。また、試料原液から限外ろ過により分子量1kDa以下の画分を採取したものについても、同様に段階希釈系列を作製した。
【0032】
(2)MTTアッセイによる細胞生存率の測定
HRC23を、通常継代する希釈率で希釈を行ない96ウェルマイクロプレートへ分注し、37℃、5%CO
2下で10%FBS含有のEagle's MEM中で培養し、24時間後(Day 1)に培地を各段階希釈した試験試料170μLと交換した。更に、1日おきに新鮮な試験試料で2回交換しつつ(Day 3、Day 5)、インキュベートした。Day 6において、MTTアッセイにより細胞生存率を測定した(n=3)。
なお、MTTアッセイは以下のとおり行なった。MTT(同仁化学研究所)を、カルシウム及びマグネシウムを含有しないダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS-)中に溶解し、使用時の10倍濃度の5mg/mLとし、無菌的に、0.1μmメンブレンフィルターでろ過・分注し、4℃で保存した。細胞を200μLの培地(10%FBS含有のEagle's MEM)で洗浄した後、各培地中に上記5mg/mLのMTT溶液を培地の1/10量添加して得た0.5mMのMTTを含む溶液150μLを、96ウェルマイクロプレートの各ウェルに加えた。37℃で30〜40分間インキュベートした後、各ウェル中の溶液を吸引除去し、200μLの培地で洗浄した。次いで、200μLのジメチルスルホキシドを各ウェルに加えた。マイクロプレートリーダー(Model 550、Bio-Rad Laboratories)で、570nmの波長における吸光度を測定した。細胞生存率は以下の式より算出した。
【0033】
【数1】
A sampleは、各段階希釈した試験試料を用いて上記のとおり測定した吸光度を表す。
A controlは、各段階希釈した試験試料を用いずに行う以外は上記のとおり測定した吸光度を表す。
A blankは、HRC23を用いずに行う以外は上記のとおり測定した吸光度を表す。
【0034】
結果を
図1〜3に示す。血清含有培地を用いて作製した試料、無血清培地を用いて作製した試料、及び生理的緩衝塩類溶液を用いて作製した試料のいずれにおいても、濃度依存的な殺細胞活性が認められた。また、無血清培地を用いて作製した試料の分子量1kDa以下の画分、及び生理的緩衝塩類溶液を用いて作製した試料の分子量1kDa以下の画分においても、同様に濃度依存的な殺細胞活性が認められた。
生理的緩衝塩類溶液を用いて作製した試料は、グルコースを含まないハンクス平衡塩類溶液、即ち、栄養とエネルギー源を有しない媒体を用いて作製されたものである。つまり、これは、外部からの栄養やエネルギー源の供給を遮断した状態であっても、栄養及びエネルギー源存在下と同じように、細胞が殺細胞活性を有する物質を産生したことを示すものであり、非常に驚くべきことである。この結果から、細胞が、細胞内にある物質のみを材料として、殺細胞活性を有する物質を産生し、自らを死に至らしめることが示された。
【0035】
[実施例3:殺細胞活性を有する細胞抽出成分の調製]
(1)濃縮
上記実施例1(3)で試料原液を作製したのと同様の方法で、大量処理用に181cm
2の表面積を有するフラスコを用いて試料原液を作製した。生理的緩衝塩類溶液としてはグルコースを含まないハンクス平衡塩類溶液(HBSS-)を用い、最終的な生理的緩衝塩類溶液の交換では、40mLのHBSS-を用いた。こうして得た試料原液を減圧乾固し、当該原液の1/10量のエタノールを加えて乾燥物を溶解した。3×10
3×gで10分間遠心分離して得られた上清を取り、再び減圧乾固した。このエタノール抽出を繰り返し、試料原液の約1000倍にまで濃縮した乾燥物を得た。この乾燥物を-80℃で保存した。
【0036】
(2)ゲルろ過クロマトグラフィー
上記実施例3(1)で得た乾燥物を純水に溶解し、クロロホルム・酢酸エチル混液で洗い、水層を回収したものを試料とし、この洗浄後の試料を、300μLの50mM Na
2SO
4に溶解し、以下の装置及び条件でゲルろ過クロマトグラフィーを行なった。
送液ポンプ:880PU(日本分光(株))
検出器:825UV(日本分光(株))
ミキサー:HG-980-31(日本分光(株))
インジェクター:Rheodyne8125(レオダイン社)
カラム:Superformance(26mm×600mm)(メルク株式会社)
担体:HPセルロファインsf(チッソ(株))
移動相:50mM Na
2SO
4
流速:0.6ml/分
分画サイズ:1.8ml(3分)
検出:230nm; 感度:0.16aufs
【0037】
ゲルろ過クロマトグラフィーの結果を
図4に示す。
図4に示されるA〜Hの8つの画分を回収し、各画分についてMTTアッセイにより殺細胞活性を測定した。その結果、Aの画分(105分〜141分)にのみ殺細胞活性が検出された。
なお、ここでのMTTアッセイは、HRC23を、通常継代する希釈率で希釈を行ない96ウェルマイクロプレートへ分注し、37℃、5%CO
2下で10%FBS含有のEagle's MEM中で培養し、24時間後に、当該培地を各画分から調製した試料170μLと交換し、2日間インキュベートした後、200μLのジメチルスルホキシドを各ウェルに加え、マイクロプレートリーダー(Model 550、Bio-Rad Laboratories)で570nmの波長における吸光度を測定して行なった。試料は、各画分のアリコートに同量のメタノールを加え、0.22μmメンブレンフィルター(Millex(登録商標) GV、メルク株式会社(ミリポア))でろ過してNa
2SO
4を除去した後、乾燥させて得たものを10%FBS含有のEagle's MEMに溶解し、2倍の段階希釈を行なって調製した。
このMTTアッセイにより観察されたマイクロプレート上での発色の様子を、細胞生存率の濃度依存性を示すグラフとともに
図5に示す。なお、
図5において、試料濃度は原液換算したものである。
回収したAの画分に同量のメタノールを加え、0.22μmメンブレンフィルター(Millex(登録商標) GV、メルク株式会社(ミリポア))でろ過してNa
2SO
4を除去した後、減圧乾固し、得られた乾燥物を-80℃で保存した。
【0038】
(3)イオン交換クロマトグラフィー
上記実施例3(2)で得た乾燥物を0.15M Na
2SO
4 200μL中に溶解したものを試料として、以下の装置及び条件でイオン交換クロマトグラフィーを行ない、強陽イオン交換樹脂にNa
2SO
4の直線的濃度勾配法を用いて活性画分を分離した。
送液ポンプ:880PU(日本分光(株))
検出器:825UV(日本分光(株))
ミキサー:HG-980-31(日本分光(株))
インジェクター:Rheodyne8125(レオダイン社)
カラム:Resource
TMS; 1ml(GEヘルスケア社)2本直結して使用。
溶出は表3に示す直線的濃度勾配法により行なった。
流速:0.25ml/分
分画サイズ:0.75ml(3分)
移動相:A;H
2O B;0.3M Na
2SO
4
検出:230nm; 感度:0.16aufs
【表3】
【0039】
予め0.15M Na
2SO
4で平衡化したカラムに試料を注入し、その後当該溶液で30分間洗浄した後、0.15Mから0.24MのNa
2SO
4の直線的濃度勾配法により溶出を行なった。
イオン交換クロマトグラフィーの結果を
図6に示す。各画分についてMTTアッセイにより殺細胞活性を測定したところ、Na
2SO
4濃度が165〜170mMの画分18〜21にのみ殺細胞活性が検出された。なお、ここでのMTTアッセイは、上記実施例3(2)と同じように行なった。
回収したNa
2SO
4濃度が165〜170mMの画分に同量のメタノールを加え、0.22μmメンブレンフィルター(Millex(登録商標) GV、メルク株式会社(ミリポア))でろ過してNa
2SO
4を除去した後、減圧乾固し、得られた乾燥物を-80℃で保存した。
【0040】
(4)再ゲルろ過クロマトグラフィー
上記実施例3(3)で得た乾燥物を300μLの50mM Na
2SO
4に溶解したものを試料として、以下の装置及び条件で、再度、ゲルろ過クロマトグラフィーを行なった。
送液ポンプ:880PU(日本分光(株))
検出器:825UV(日本分光(株))
ミキサー:HG-980-31(日本分光(株))
インジェクター:Rheodyne8125(レオダイン社)
カラム:Superformance(26mm×600mm)(メルク株式会社)
担体:HPセルロファインsf(チッソ(株))
移動相:50mM Na
2SO
4
流速:0.6ml/分
分画サイズ:1.2ml(2分)
検出:205nm; 感度:0.16aufs
【0041】
ゲルろ過クロマトグラフィーの結果を
図7に示す。各画分についてMTTアッセイにより殺細胞活性を測定したところ、前方の吸収ピーク中の画分57(溶出時間112〜114分)、画分58(溶出時間114〜116)及び画分59(溶出時間116〜118分)の3つの画分において殺細胞活性が検出され、特に画分58において強く認められた。なお、ここでのMTTアッセイは、上記実施例3(2)と同じように行なった。
回収した上記3つの画分に同量のメタノールを加え、0.22μmメンブレンフィルター(Millex(登録商標) GV、メルク株式会社(ミリポア))でろ過してNa
2SO
4を除去した後、減圧乾固し、乾燥物を得た。
【0042】
(5)質量分析法(TOF-MS)
上記実施例3(3)で得た乾燥物を、アセトニトリル:水:TFA(50:50:1)中5mg/mLのα‐シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(α-CHCA)で構成された緩衝液10μL中に再懸濁させたものを試料として、以下の装置及び条件で質量分析法により分析した。
分析機器:Voyager System 6366 (Applied Biosystem)
印加電圧:+20000V
サンプル導入:手動;MALDI plate
マトリクス:a-Cyano-4-hydroxycinnamic acid (a-CHCA)(東京化成(株))
を用いペプチド分析プログラムに従い分析を行なった。
【0043】
3つの画分(57、58及び59)より得られた結果を、
図8〜10において、それぞれm/z値100〜1500で示す。また、マトリックスのみより得られた結果を
図11において、m/z値100〜1000で示す。
3つの画分(57、58及び59)についての質量スペクトルでは、それぞれm/z値600と714においてシグナルが観察された。特に、画分58のスペクトルでは、m/z値600.16と714.04において強いシグナルが観察されたが、画分59のスペクトルでは、画分57や画分58ほど明確なシグナルは示されなかった。また、画分58のスペクトルでは、m/z値114.09においてシグナルが明確に観察された(拡大図を
図12として示す)。
一方で、m/z値1000よりもm/z値が大きいシグナルは観察されなかった。従って、殺細胞活性を有する細胞抽出成分は、分子量1kD以下であることが示唆される。これは、分子量1kDa以下の画分において殺細胞活性が認められたことを示す
図2及び3の結果と一致する。
しかしながら、上記のとおり得られた質量スペクトルにおいてもm/z値が300以下のシグナルが多いことを踏まえ、殺細胞活性を有する細胞抽出成分の特定には、当該成分の安定性に関する検討を含め更なる詳細な検討が必要と考えられる。
【0044】
[実施例4:種々のがん細胞に対する殺細胞活性の測定]
上記実施例3(2)で得た乾燥物を、HRC23、MKN74、LK2、VMRC-JCP、SKN及びLLCの培養に用いた各培養培地を用いて、2倍の段階希釈を行ない、試験試料の段階希釈系列を作製した。HRC23、MKN74、LK2、VMRC-JCP、SKN及びLLCを、それぞれ別々に、96ウェルマイクロプレート中に、3日間の培養でおよそ80%コンフルエントになるような量で播種し、各所定の培養培地中で、37℃、5%CO
2下で24時間培養した。当該培地を170μLの試験試料と交換し、2日間インキュベートした後、200μLのジメチルスルホキシドを各ウェルに加え、マイクロプレートリーダー(Model 550、Bio-Rad Laboratories)で570nmの波長における吸光度を測定してMTTアッセイを行なった(n=3)。
MTTアッセイにより測定された各がん細胞の細胞生存率のグラフを
図13に示す。HRC23に対して生存率0%を示す試験試料の最小濃度を任意単位(arbitrary unit)1として横軸を常用対数目盛で表した。この結果より、HRC23から得られた殺細胞活性を有する試験試料は、HRC23以外のがんに対しても有効であり、がん種、組織型にかかわらず、共通して濃度依存性に殺細胞作用を示すことがわかった。
【0045】
[実施例5:LLC又はSKNに由来する試料における殺細胞活性の測定]
(1)試料原液の作製
材料となるLLCとSKNは、10%FBS含有のEagle's MEMでHRC23と同じように培養した。使用したEagle's MEMは抗生剤及びフェノールレッドを含まない培地である。LLC及びSKNを、フラスコ内で、それぞれ細胞の増殖がコンフルエントな状態に達するまで培養し、更に1日培養した。抗生剤及びグルコースを含まないハンクス平衡塩類溶液で洗浄後、当該ハンクス平衡塩類溶液5mL/フラスコにて、37℃、5%CO
2下でインキュベートした。LLC及びSKNの形態学的に細胞の死滅が観察された後、ハンクス平衡塩類溶液を回収し、1,500×gで 10分間遠心分離して得られた上清を取り、この上清を0.1μmメンブレンフィルター(Millex(登録商標) VV、メルク株式会社(ミリポア))でろ過したものをそれぞれ試料原液とした。
また、この試料原液を限外ろ過し分子量1kDa以下の画分を採取した(Ultracel(登録商標) Amicon(登録商標) YM1やUltracel(登録商標)限外ろ過膜 PLAC04310を備えたStirred Cell Model 8050、メルク株式会社(ミリポア))ものを準備した。
【0046】
(2)MTTアッセイによる細胞生存率の測定
上記実施例5(1)で作製した試料原液に10%FBSとEagle's MEM用のアミノ酸、ビタミンの配合液及びグルコースをEagle's MEMの規定量加え、7.5%NaHCO
3でpHを調整後、試験試料とした。この試験試料を、コントロール用の溶液(ハンクス平衡塩類溶液にEagle's MEM用の50倍濃度アミノ酸、100倍濃度ビタミンの配合液を添加したもの)で2倍の段階希釈を行ない、試験試料の段階希釈系列を作製した。また、試料原液から限外ろ過により分子量1kDa以下の画分を採取したものについても、同様に段階希釈系列を作製した。
上記実施例2(2)に記載の方法に準じてMTTアッセイを行ない、HRC23の細胞生存率を測定した(n=3)。結果を
図14及び15に示す。
LLCに由来する試料においても、SKNに由来する試料においても、HRC23に由来する試料と同じように、HRC23に対する殺細胞活性を示した。LLCに由来する試料において、HRC23に対する殺細胞活性を示したことと、実施例4における結果(HRC23に由来する試料において、LLCに対する殺細胞活性を示したこと)を踏まえると、種を超えてのクロス反応が確認されたこととなる。また、SKNは稀な非上皮性悪性腫瘍細胞であり、SKNのような非上皮性悪性腫瘍細胞でも殺細胞活性を有する物質を産生していることが確認された。なお、SKNに由来する試料については、LLCに由来する試料やHRC23に由来する試料と比べて弱い殺細胞活性が観察されたが、これは、培養後のSKN細胞数がLLCやHRC23よりはるかに少なかったためと思われる。
【0047】
[実施例6:種々の生理的緩衝塩類溶液を用いた場合の殺細胞活性の測定]
上記実施例1(3)で作製した試料原液(HBSS-、Earle、PBS(+))に10%FBSとEagle's MEM用の50倍濃度アミノ酸、100倍濃度ビタミンの配合液及びグルコースをEagle's MEMの規定量加え、7.5%NaHCO
3でpHを調整後、試験試料とした。この試験試料を、コントロール用の溶液(HBSS-、Earle又はPBS(+)にEagle's MEM用の50倍濃度アミノ酸、100倍濃度ビタミンの配合液を添加したもの)で2倍の段階希釈を行ない、試験試料の段階希釈系列を作製した。
上記実施例2(2)に記載の方法に準じてMTTアッセイを行ない、HRC23の細胞生存率を測定した(n=3)。結果を
図16に示す。
HBSS-を用いた場合、Earleを用いた場合、PBS(+)を用いた場合のいずれにおいても、強度は異なるものの殺細胞活性が観察された。
【0048】
[実施例7:細胞の培養状況が殺細胞活性に及ぼす影響の評価]
通常の培養培地を用いた場合には、増殖期の細胞は増殖を継続するために、培養培地では細胞密度の異なる試験は困難であるが、栄養源を含まないハンクス平衡塩類溶液(グルコースフリー)を用いることにより、増殖期の段階での殺細胞活性を有する成分の産生を調べることが可能となった。
25cm
2の継代培養用フラスコにて、HRC23を異なった細胞数で藩種したものを準備し、10%FBS含有のEagle's MEMで培養した。使用したEagle's MEMは抗生剤及びフェノールレッドを含まない培地である。細胞数を多く藩種したフラスコにて、細胞の増殖がコンフルエントな状態に達するまで培養し、更に1日培養した。この時点で、細胞数を少なく藩種したフラスコでは、細胞の密度が継代に支障のない密度となっていたものの、まだ増殖期の状態であり、細胞密度はコンフルエントな状態に比べておよそ72%であった。細胞数を多く藩種した場合、細胞数を少なく藩種した場合のいずれにおいても、この時点で、抗生剤及びグルコースを含まないハンクス平衡塩類溶液で洗浄後、当該ハンクス平衡塩類溶液5mL/フラスコにて、37℃、5%CO
2下でインキュベートした。HRC23の形態学的に細胞の死滅が観察された後、ハンクス平衡塩類溶液を回収し、1,500×gで10分間遠心分離して得られた上清を取り、この上清を0.1μmメンブレンフィルター(Millex(登録商標) VV、メルク株式会社(ミリポア))でろ過したものを試料原液とした。
【0049】
上記実施例2(2)に記載の方法に準じてMTTアッセイを行ない(25cm
2の継代培養用フラスコにて)、HRC23の細胞生存率を測定した(n=3)。結果を
図17に示す。
細胞数を多く藩種した場合、細胞数を少なく藩種した場合のいずれにおいても、強度は異なるものの殺細胞活性が観察された。従って、増殖期の細胞であっても殺細胞活性を有する成分を産生することが示された。これにより、細胞の時期にかかわらず、細胞は意図的に殺細胞効果を有する成分の産生を行えることが示された。
【0050】
[実施例8:LK-2に由来する試料におけるLK-2及びHRC23に対する殺細胞活性の測定]
(1)試料原液の作製
材料となるLK-2は、継代と同様に10%FBS含有のRPMI1640(メルク株式会社(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社),R883)で培養した。LK-2を、フラスコ内で、細胞の増殖がフリーコンフルエント(fully confluent)な状態に達するまで培養した後、5mLの10%FBS含有RPMI1640で最終的に培地交換した。また、10%FBS含有RPMI1640で培地交換した前記の例とは別に、LK-2を、フラスコ内で、細胞の増殖がフリーコンフルエント(fully confluent)な状態に達するまで培養したものについて、抗生剤及びグルコースを含まないハンクス平衡塩類溶液30mLで4回洗浄後、当該ハンクス平衡塩類溶液5mLをフラスコに入れ、細胞を浸した。
上記2種の培養液を37℃、5%CO
2下でインキュベートし、LK-2の形態学的に細胞の死滅が観察されるまで培養した。その後、培地及びハンクス平衡塩類溶液をそれぞれ回収し、1,500×gで10分間遠心分離して得られた上清をそれぞれ取り、これらの上清を0.1μmメンブレンフィルター(Millex(登録商標) VV、メルク株式会社(ミリポア))でろ過したものをそれぞれ試料原液とした。また、ハンクス平衡塩類溶液を用いて得た試料原液を限外ろ過し分子量1kDa以下の画分を採取した(Ultracel(登録商標) Amicon(登録商標) YM1やUltracel(登録商標)限外ろ過膜 PLAC04310を備えたStirred Cell Model 8050、メルク株式会社(ミリポア))ものを準備した。
【0051】
(2)試験試料の段階希釈系列の作製
上記実施例8(1)で作製したそれぞれの試料原液に、RPMI1640用のアミノ酸(50倍濃縮)(メルク株式会社(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社),M5550)、ビタミン(100倍濃縮)(メルク株式会社(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社),R7256)の配合液を添加し、酢酸でpHを7.2〜7.3に調整後、10%FBSと10%グルコースおよび200mMグルタミン0.1容を添加して、試験試料とした。この試験試料について、コントロール用の培地(10%FBS含有RPMI1640)で2倍の段階希釈を行ない、試験試料の段階希釈系列Aを作製した。また、試料原液から限外ろ過により分子量1kDa以下の画分を採取したものについても、同様に段階希釈系列A(<1kDa)を作製した。
また、上記実施例8(1)で作製したそれぞれの試料原液に、Eagle's MEM用のアミノ酸(50倍濃縮)(上記と同じ)、ビタミン(100倍濃縮)(上記と同じ)の配合液を添加し、酢酸でpHを7.2〜7.3に調整後、10%FBSと10%グルコースおよび200mMグルタミン0.1容を添加して、試験試料とした。この試験試料について、コントロール用の培地(10%FBS含有Eagle's MEM)で2倍の段階希釈を行ない、試験試料の段階希釈系列Bを作製した。また、試料原液から限外ろ過により分子量1kDa以下の画分を採取したものについても、同様に段階希釈系列B(<1kDa)を作製した。
【0052】
(3)MTTアッセイによる細胞生存率の測定
LK-2を、通常継代する希釈率で希釈を行ない96ウェルマイクロプレートへ分注し、37℃、5%CO
2下で10%FBS含有のRPMI1640中で24時間培養した後、それぞれの培地を段階希釈系列Aの各希釈液170μLと交換した。段階希釈系列Aの各希釈液中で24時間培養後、各希釈液をそれと同じ希釈倍率の段階希釈系列Aの新鮮な各希釈液と交換し、更に24時間培養した。段階希釈系列A(<1kDa)を用いた場合についても、段階希釈系列Aを用いた場合と同様にLK-2の培養を行なった。
上記実施例2(2)に記載の方法に準じてMTTアッセイを行ない、LK-2の細胞生存率を測定した(n=3)。結果を
図18に示す。
また、HRC23を、通常継代する希釈率で希釈を行ない96ウェルマイクロプレートへ分注し、37℃、5%CO
2下で10%FBS含有のEagle's MEM中で24時間培養した後、それぞれの培地を段階希釈系列Bの各希釈液170μLと交換した。段階希釈系列Bの各希釈液中で24時間培養後、各希釈液をそれと同じ希釈倍率の段階希釈系列Bの新鮮な各希釈液と交換し、更に24時間培養した。段階希釈系列B(<1kDa)を用いた場合についても、段階希釈系列Bを用いた場合と同様にHRC23の培養を行なった。
上記実施例2(2)に記載の方法に準じてMTTアッセイを行ない、HRC23の細胞生存率を測定した(n=3)。結果を
図19に示す。
LK-2に由来する試料は、LK-2及びHRC23に対する殺細胞活性を示した。また、RPMI1640で最終的に培地交換して得た試料原液に基づく試料と比べて、ハンクス平衡塩類溶液を用いて得た試料原液に基づく試料の方が、強い殺細胞活性を示した。これは、ハンクス平衡塩類溶液等の生理的緩衝塩類溶液を用いて、悪性腫瘍由来細胞から抽出される殺細胞活性を有する成分を取得することで、培養培地を用いて当該成分を取得するよりも、高い収率を達成可能であり得ること、又は目的とする殺細胞活性を有する成分の殺細胞活性を低減させずに当該成分の取得が可能であり得ることを示唆する。
【0053】
[実施例9:マウスに対するin vivo殺細胞活性]
4匹のマウス(C57BL/6NCrSIc、オス、5週齢)にLLCの懸濁液300μL(2×10
6細胞)を腹腔内接種し、LLCを移植した。1週間後、処置群として2匹のマウスに、原液換算1L分の、上記[4](2)で得た乾燥物を300μLのFBS無添加Eagle’s MEM中に溶解したものを1日1回、6日間腹腔内投与した。このような処置を行わなかった対照群の2匹は、LLCの移植後25日目に死亡したが、処置群については、LLCの移植後、1匹は35日目、もう1匹は48日目に死亡した。対照群と比較して、処置群には明らかな延命効果が認められた。なお、処置群において、副作用と思われる症状は認められなかった。