【文献】
The non-volatile organic acids of green tabacco leaves,Journal of Biological Chemistry,1931年,vol.90,637-653
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エタノールを用いてたばこ葉の抽出液を得る抽出工程と、該抽出工程で得られた抽出液に触媒を加えてエステル化反応させるエステル化反応工程を含む、リンゴ酸ジエチルと、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル、クエン酸トリエチルのいずれか一種以上とを含む組成物の製造方法であって、
前記触媒が、アンモニアTPD法において、500℃未満の脱離ピークにおける脱離量が、10μmol/g以上である固体酸である、前記製造方法。
たばこ葉、エタノール及び触媒を混合して得られる材料をエステル化反応させるエステル化反応の工程を含む、リンゴ酸ジエチルと、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル、クエン酸トリエチルのいずれか一種以上とを含むたばこ原料の製造方法であって、
前記触媒が、アンモニアTPD法において、500℃未満の脱離ピークにおける脱離量が、10μmol/g以上である固体酸である、前記製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0011】
本発明の組成物には、リンゴ酸ジエチルと、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルから選ばれるいずれか一種以上とが含まれる。
つまり本発明の組成物は、リンゴ酸ジエチルだけではなく、これとレブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルから選ばれるいずれか一種以上とを組合せて含有するものである。
リンゴ酸ジエチルだけではなく、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルから選ばれるいずれか一種以上とを組合せて組成物とすることで、この組成物をたばこ葉に添加した場合、また当該組成物とたばこ葉を含むたばこ原料を用いた場合には、たばこ臭気を低減させる効果が増加する。
【0012】
リンゴ酸ジエチルや、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルから選ばれるいずれか一種以上を含む本発明の組成物は、予め単離されたこれらの化合物を混合することで調製してもよいし、後述する本発明の組成物の製造方法のように、予めたばこ葉に含まれているリンゴ酸、レブリン酸、パルミチン酸、クエン酸と、エタノールとを反応させてエステル化する工程を経て得られた処理液から、リンゴ酸、レブリン酸、パルミチン酸、クエン酸を分離・精製して組成物を調製してもよい。
なお、その際の分離・精製の方法としては、公知のクロマトグラフィーを用いることができ、例えばイオン交換クロマトグラフィーや、逆相の高速液体クロマトグラフィーを用いることができる。これらのクロマトグラフィーの条件は公知のものを用いることができる。
【0013】
本発明の組成物は、たばこ製品用であることが好ましい。
「たばこ製品用」とは、たばこ製品の作製に用いるたばこ葉に添加して用いられるか、たばこ製品の製造のために用いるたばこ原料として用いることができることを意味する。
【0014】
本発明の組成物におけるリンゴ酸ジエチルの含有量は、組成物に含まれる、リンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルの総含有量に対して5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、20重量%以上であることがさらに好ましい。一方、リンゴ酸ジエチルの含有量は、リンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルの総含有量に対して95重量%以下であることが好ましく、80重量%以下であることがより好ましく、60重量%以下であることがさらに好ましい。
本発明の組成物全量に対する、リンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルの総含有量は、5〜95重量%の態様を挙げることができ、10〜80重量%である態様が好ましく、20〜60重量%である態様であることがより好ましい。
【0015】
本発明の組成物におけるレブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルのそれぞれの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、その一例として、その重量割合は、レブリン酸エチル>パルミチン酸エチル>クエン酸トリエチルの関係を満たす態様を挙げることができる。
これらのエチルエステルは、単独でリンゴ酸ジエチルと組みわされてもよく、これらの複数がリンゴ酸ジエチルと組み合わされてもよい。
リンゴ酸ジエチルと好ましく組み合わせて用いられるのは、パルミチン酸エチルである。この組み合わせに、レブリン酸エチルとクエン酸トリエチルの一方または両方が組み合わされてもよい。
【0016】
組成物をたばこ葉に添加する場合については、たばこ葉の原料湿重量に対して組成物におけるリンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルの総量が0.01重量%以上である態様をあげることができ、0.05重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましい。一方、この重量は、たばこ葉の原料湿重量に対して組成物におけるリンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルの総量が10重量%以下である態様を挙げることができる。
【0017】
組成物とたばこ葉を含むたばこ原料とする場合(たばこ葉やその刻みを含む場合)についても、たばこ原料において、たばこ葉の原料湿重量に対して例えばリンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルの総量が0.01重量%以上である態様を挙げることができ、0.05重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましい。
一方、この重量は、リンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルの総量が10重量%以下である態様を挙げることができる。
【0018】
本発明の組成物をたばこ葉に添加して用いる場合には、単離された上記のエチルエステルのそれぞれの化合物を混合して組成物としてもよい。単離されたリンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル、クエン酸トリエチルは、市販されているものを用いることもできるし、合成して得た各エチルエステルを分画してその濃度を調整して得てもよい。
また、後述するように、たばこ葉に含まれていた、リンゴ酸、レブリン酸、パルミチン酸、クエン酸および炭水化物類(レブリン酸の前駆体)を含む溶液を予めたばこ葉から抽出処理して得て、得られた抽出液をエタノールを含む溶液と混合して反応させてエステル化して得られたエチルエステルを含む処理液を分離・精製して組成物を調製してもよい。
なお、その際の分離・精製の方法としては、公知の減圧蒸留法やクロマトグラフィーを用いることができ、例えば、ロータリーエバポレータやシリカゲルを用いた吸着クロマトグラフィーを用いることができる。これらの分離精製方法の条件は公知のものを用いることができる。
その際に用いることができるたばこ葉としては、後述するものの他、裁断が行われていないものや、所定形状に裁断済みのたばこ葉、所定粒径のたばこ粉末、あるいは未裁刻のラミナであってもよい。
抽出処理に供するたばこ葉は水分を含んでいてもよい。
【0019】
上記のエチルエステル化合物を反応により得る場合の具体的な組成物の調製法として、以下のような手順を挙げることができる。
【0020】
たばこ葉に水、エタノールまたはこれらの混合物を加え常温〜70℃程度の温度で抽出処理を行い、抽出液と抽出残渣を分離する。
抽出に用いる溶媒としては、水やエタノールを単独で用いる他に、これらを混合して用いることができる。
溶媒として水または水とエタノールの混合液を用いて抽出を行う場合には、エステル化反応に供される化合物(有機酸、糖および炭水化物を含む)をより多く抽出することができる。しかし、エステル化反応の際には水は阻害物質となるため、抽出液を濃縮して濃縮物を得てから、その濃縮物にエタノールを添加したり、十分に水が低濃度となるように抽出液にエタノールを添加するなどして反応液中の水の量を調節することが望ましい。濃縮の方法としては公知の方法を用いることができる。
抽出の際の温度や時間の条件としては、エタノールを主成分として含む抽出溶媒を用いる場合と同様の条件を挙げることができる。
抽出溶媒として、エタノールまたはエタノールと水の混合溶液を用いる場合には、抽出溶媒がエタノールであれば抽出液をそのまま、抽出溶媒に水が含まれる場合には少なくとも反応が進行する程度まで系内の水の量を減らしてから、以下の反応に供することができる。
水の量を減らす方法として、抽出液を濃縮する方法を挙げることができる。
その際の水の量としては、エステル化反応を行う溶液において、90重量%未満である態様を挙げることができ、50重量%未満である態様が好ましく、10重量%未満である態様がより好ましい。
抽出溶媒がエタノールである場合、抽出液から水を除去する工程を含ませなくてもよい。
【0021】
得られた抽出液は濃縮し、圧力が所定値以下となるような条件下で触媒とともにエステル化反応を起こさせる。そのため、耐圧容器等を用いて反応を行わせることが好ましい。用いることができる触媒については後述する。
反応の際の圧力としては、常圧〜1MPaを挙げることができる。
反応時間としては、5〜500分を挙げることができ、10〜300分であることが好ましく、10〜180分であることがより好ましい。
反応の際の温度としては、60〜150℃を挙げることができ、80〜120℃であることが好ましく、100〜120℃であることがより好ましい。このような温度を確保するために、加熱下で反応を行わせることが好ましい。
また、触媒の使用量は、例えば、固体酸を用いる際にはたばこ葉の湿重量に対し、5〜400重量%を挙げることができ、10〜300重量%であることが好ましく、20〜200重量%であることがより好ましい。
液体の酸を用いる際にはたばこ葉の湿重量に対し、0.001〜10重量%を挙げることができ、0.01〜8重量%であることが好ましく、0.1〜5重量%であることがより好ましい。
【0022】
エステル化反応は、反応させる溶液に触媒が含まれたままで行わせてもよいし、触媒が固体酸である場合には、エステル化反応を行わせる前に、反応を行わせる溶液から除去してもよい。上記で例示した固体酸を用いる場合、反応を行わせる溶液に触媒を接触させてプロトン交換を行わせれば、エステル化反応が進行する。具体的には加熱を行う際には、その固体酸は溶液に存在しなくてもエステル化反応が進行するからである。
【0023】
抽出液についてエステル化反応を行って得た溶液には、リンゴ酸ジエチルと、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルから選択される1種以上とが含まれ、この溶液をそのまま、あるいは触媒等の不要物を除去したものを本発明の組成物を含む処理液とすることができる。
この操作を経て得られた本発明の組成物を含む処理液は、たばこ葉の抽出残渣にかけ戻してもよい。なお、その他のたばこ刻み等のたばこ製品に用いる材料に添加する場合には、処理液を分離・精製して組成物を調整してたばこ製品に用いる材料に添加するものとする。
その際の分離・精製の条件としては、公知の減圧蒸留法やクロマトグラフィーを用いることができる。
【0024】
抽出処理を行わず、たばこ葉に含まれるリンゴ酸と、レブリン酸、パルミチン酸及びクエン酸から選ばれる1種以上をエタノールと反応させて得られる上記のエチルエステル化合物を含む組成物とたばこ葉を含むたばこ原料を製造する方法としては、たばこ葉に触媒およびエタノールを添加することにより、エチルエステル化反応を行わせる方法が挙げられる。
この製造方法によれば、リンゴ酸ジエチルと、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルから選ばれるいずれか一種以上の組成物と、たばこ葉を含むたばこ原料を作製することができる。この場合、得られた組成物とたばこ葉を含むたばこ原料としてそのまま用いることができる。この方法により調製された組成物とたばこ葉を含むたばこ原料は、他のたばこ葉のようなたばこ製品に用いられる材料と混合して用いることもできる。
その際のエステル化の条件としては、上記の抽出液をエステル化する際の条件と同様の条件を用いることができる。
【0025】
エチルエステル化合物を合成する際に用いる触媒としては、液体の酸や固体酸を挙げることができる。
液体の酸としては、酸解離定数が6以下のものであることが好ましく、酸解離定数が3よりも小さいものがより好ましい。
液体の酸の具体例としては、硫酸、亜硫酸、塩酸、次亜塩素酸、安息香酸、ギ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、吉草酸、イソ吉草酸、酪酸、マロン酸、グルタミン酸、コハク酸、乳酸、酢酸、サリチル酸、シュウ酸、リン酸などを挙げることができる。
【0026】
固体酸としては、天然鉱物、陽イオン交換樹脂、担持酸、金属酸化物・複合金属酸化物、焼成金属硫酸塩などを挙げることができる。
固体酸の具体例としては、後述するアンモニアTPD法により測定される、500℃未満の温度範囲における脱離ピークでのアンモニアの脱離量が、10μmol/g以上であるものを用いることが好ましい。
また、本発明の製造方法で用いることができる固体酸の、アンモニアTPD法により測定される、400℃未満の温度範囲における脱離ピークでのアンモニアの脱離量は、500μmol/g以上であることがより好ましい。
このような触媒を用いると、エチルエステル化合物が効率よく生成する。
上記の性質を有する固体酸としては、酸性の交換基をもつ樹脂(例えばスチレン系樹脂)のような有機物、またはシリカゲルのような無機物の担体に酸性官能基が担持されたものを挙げることができ、酸性交換基または酸性官能基としては、スルホン酸基を挙げることができる。
具体的な固体酸としては、以下の表に記載されたものを挙げることができる。
【0028】
アンモニアTPD法は、前処理により固体酸に吸着していた水を除去したのち、アンモニアを吸着させ、これを昇温してアンモニアを脱離させるものである。昇温脱離時の温度に対する脱離量を描いたとき、脱離量の大小から酸量、脱離温度からその酸の強さを推察できる。
測定条件を下記に示す;
測定装置:全自動昇温脱離スペクトル装置TPD−1−ATw 日本ベル(株)製
試料量:約0.05g
昇温脱離測定:四重極質量分析計にて目的ガス成分を検出する。
測定範囲:80〜800℃
測定雰囲気:He 50mL/min
検出フラグメント:m/z=16
また、昇温条件等の詳細については、
図2に示す。
【0029】
上記をまとめると、本発明の組成物、および組成物とたばこ葉を含むたばこ原料の製造方法として、以下の(A)〜(C)の態様を挙げることができる。以下の態様において、抽出やエステル化反応の条件は上記で説明したとおりである。
(A)エタノールを用いてたばこ葉の抽出液を得る抽出工程と、該抽出工程で得られた抽出液に触媒を加えてエステル化反応させるエステル化反応工程を含む製造方法。
(B)水または水およびエタノールからなる溶媒を用いてたばこ葉の抽出液を得る工程と、以下の(1)または(2)の工程を含み、
(1)抽出工程で得られた抽出液を濃縮して濃縮物を得て、該濃縮物にエタノールを添加する工程
(2)抽出工程で得られた抽出液にエタノールを添加する工程
以下の(i)〜(iv)のいずれかに触媒を添加した後、エステル化反応させるエステル化反応工程を含む、製造方法。
(i)抽出工程で得られた抽出液
(ii)(1)の工程で得られた濃縮物
(iii)(1)の工程を経て得られた溶液
(iv)(2)の工程を経て得られた溶液
(C)たばこ葉、エタノール及び触媒を混合して得られる材料をエステル化反応させるエステル化反応の工程を含む、製造方法。
上記(A)の態様は、エタノールを抽出溶媒として用いてたばこ葉から抽出液を得て、この抽出液に上記触媒を加え、エステル化反応を行う方法である。
上記(B)の態様は、水または水とエタノールを抽出溶媒として用いてたばこ葉から抽出液を得て、この抽出液を一旦濃縮して濃縮物を得た後にこれにエタノールを添加するか((1)の工程)、あるいは濃縮を行わずに抽出液にエタノールを添加し((2)の工程)、これらのいずれかの工程において得られる溶液あるいは濃縮物に上記触媒を添加して、エステル化反応を行う方法である。
上記(C)の態様は、(A)や(B)とは異なり、たばこ葉について抽出操作を行わず、エタノールと上記触媒を添加して、エステル化反応を行う方法である。
上記(A)〜(C)のいずれの態様においても、触媒として上記の固体酸を用いる場合には、エステル化反応を行う前に、ろ過等の操作により、触媒を溶液から除去してもよい。その理由は上述したように、一度固体酸と接触させてプロトン交換を行えば、その触媒が反応溶液中に存在しなくても、反応が進行するからである。また、固体酸を除去した場合、その触媒を再利用できる。
【0030】
本発明の組成物や、組成物を含有するたばこ原料の作製に用いることができるたばこ葉として、シガレットに用いられるたばこ刻み(以下、葉たばこ刻ともいう)を挙げることができる。
たばこ葉としてたばこ刻みを用いる場合には任意の品種のものを使用することができ、たとえば黄色種、バーレー種、オリエント種の除骨葉と中骨、及びこれら原料から構成される再生シートなどを使用することができる。たばこ刻みとしては、総じてたばこ製品の製造のための準備が整ったものを意味する。たばこ刻みの刻み片の大きさについては、公知のものを限定なく使用できる。
なお、本発明において、リンゴ酸、レブリン酸、パルミチン酸およびクエン酸を抽出するために用いるたばこ葉についても、上記のものと同じものを用いることができる。
【0031】
たばこ製品がシガレットの場合、シガレットを構成するたばこ刻みの葉の大きさについては、公知のものを採用することができる。たばこ製品としてのシガレットの構成については特に制限はなく、公知の態様を挙げることができる。
【0032】
本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の添加剤を添加してもよい。そのような添加剤としては、例えば香料や保湿剤を挙げることができる。
【0033】
本発明の組成物は、たばこ製品の作製に用いるたばこ葉に添加して用いられるか、その組成物とたばこ葉を含有するたばこ原料をそのまま用いる態様を好ましく挙げることができる。
たばこ製品としては、喫煙物品を特に好ましく挙げることができる。すなわち、本発明の組成物および当該組成物とたばこ葉を含むたばこ原料の用途としてはたばこ製品の中でも喫煙物品用であることが特に好ましい。
また、口腔用たばこ製品、電子たばこにも本発明の組成物および当該組成物とたばこ葉を含むたばこ原料を使用してもよい。
喫煙物品としては、例えばシガレット、葉巻、シガリロを挙げることができる。
【0034】
本発明の組成物をたばこ製品の作製に用いるたばこ葉に添加する場合、たばこ製品を調製するために用いるたばこ葉に、本発明の組成物を添加する。
本発明の組成物とたばこ葉を含むたばこ原料をそのまま用いる場合には、たばこ原料の組成物の調製の段階で、上記のたばこ製品に用いられるたばこ葉が用いられる。この場合、本発明の組成物とたばこ葉を含むたばこ原料をそのままたばこ製品のたばこ材料として用いることができる。
組成物そのものをたばこ原料として用いる場合、組成物に含まれるたばこ刻み等のたばこ葉に由来する材料は乾燥重量で、組成物全量に対して80〜99.99重量%である態様を挙げることができる。
【0035】
本発明の組成物をたばこ葉に添加する場合、その添加量に特に制限はないが、添加後のたばこ葉から構成されるたばこ製品用の材料に含まれる、リンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルの総重量に対して、リンゴ酸ジエチルが5〜95重量%になるように添加する態様を挙げることができる。
この態様において、リンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルの総重量に対する、リンゴ酸ジエチルの含有量は、20〜60重量%であることがより好ましい。
上記のような添加量で本発明の組成物をたばこ葉に添加すると、副流煙臭気低減の効果を良好に得ることができる。
また、添加後のたばこ葉から構成されるたばこ製品用の材料の湿重量に対する、リンゴ酸ジエチルの含有量は、0.0005〜1重量%になるように、本発明の組成物を添加することが好ましい。
【0036】
一方、本発明の組成物とたばこ葉を含むたばこ原料そのものを用いる場合でも、たばこ原料におけるリンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルの総重量に対して、リンゴ酸ジエチルが5〜95重量%である態様を挙げることができる。
この態様において、リンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルの総重量に対する、リンゴ酸ジエチルの含有量は、20〜60重量%であることがより好ましい。
また、この態様におけるたばこ葉の湿重量に対する、リンゴ酸ジエチルの含有量は、0.0005〜1重量%であることが好ましい。
上記のような含有量で本発明の組成物やたばこ原料にリンゴ酸ジエチルが含まれていると、副流煙臭気低減の効果を良好に得ることができる。
【0037】
上記のいずれの態様においても、本発明の組成物やたばこ原料におけるリンゴ酸ジエチル、レブリン酸エチル、パルミチン酸エチル及びクエン酸トリエチルの総量に対する、リンゴ酸ジエチルの量が5〜95重量%である態様が好ましく、20〜60重量%である態様がさらに好ましい。
【実施例】
【0038】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>固体酸を触媒としたたばこ抽出液を用いたエチルエステル化反応
エステル化反応の触媒として、硫酸等の液体の酸や、樹脂などに酸性官能基が担持された固体酸などが使用されることは一般的である。特に反応物/生成物が液状の場合、分離の容易な固体酸は有用であるため、これを用いてたばこ葉のエタノール抽出液のエチルエステル化合物の合成を行った。
【0040】
・触媒種が反応に与える影響
国内産黄色種の刻に固液比1g-wet tobacco: 10ml量のエタノールを加え、60℃の水浴中で1時間振とう抽出し、不織布を用い抽出液と抽出残渣を分離した。抽出液を所定濃度まで濃縮した後、触媒とともに耐圧容器内で120℃で1時間加熱した。使用した触媒は表2の5種を用いた。触媒購入時の状態から特に前処理を行わずそのまま使用し、添加量はたばこ湿重量に対して50重量%とした。
【0041】
・処理液の分析
予備試験として、カラムにAgilent製DB-WAX(J&W 122-7032)を用いてGC-MSにより定性分析した結果、実施例1の処理液で生成量の多い成分はレブリン酸エチル、リンゴ酸ジエチル、パルミチン酸エチル、クエン酸トリエチルであった。本試験系では上記4種のエチルエステル化合物について、同カラムを使用したGC−FID分析を実施し、ピーク面積より内部標準法にて定量を行った。その結果を
図1に示す。
【0042】
【表2】
*表中の比表面積及び平均細孔径はカタログ値を示す。市販品固体酸bについては、比表面積と平均細孔径のカタログ値なし。
【0043】
図1より、市販の固体酸による反応の進行を確認できた。本結果はあくまで一例であり、所望のエチルエステル量や組成、使用設備によって好適な反応および前処理条件を選定可能である。
【0044】
・使用した触媒のキャラクタリゼーション
実施例1で使用した触媒について、アンモニアTPD法にて酸強度と酸量を推定した。この方法は酸点の量や強度を調べる1手法であり、前処理にて吸着水を除去した後アンモニアを吸着させ、昇温し脱離させる。昇温脱離時の温度に対する脱離量を描いたとき、脱離量の大小から酸量、脱離温度からその酸の強さを推察することができる。
測定条件を下記に示す(
図2にも昇温条件等を示す);
測定装置:全自動昇温脱離スペクトル装置TPD−1−ATw 日本ベル(株)製
試料量:約0.05g
昇温脱離測定:四重極質量分析計にて目的ガス成分を検出した。
測定範囲:80〜800℃
測定雰囲気:He 50mL/min
検出フラグメント:m/z=16
【0045】
測定結果を表3に示す。表3の結果から、実施例1の方法でエステル化反応の進行が確認できた触媒は、アンモニアTPD法において500℃以下の温度範囲における脱離ピークでの脱離量が10μmol/g以上であった。
【表3】
【0046】
<実施例2>エタノール抽出液の反応
葉たばこ刻に固液比1g-wet tobacco: 10ml量のエタノールを加え、60℃の水浴中で1時間振とう抽出し、不織布を用い抽出液と抽出残渣を分離した。抽出液を所定濃度まで濃縮した後、耐圧容器へ入れ、たばこ湿重量に対して50%重量の市販品固体酸cを添加し、120℃で3時間加熱した。
【0047】
比較例1:特許文献1との比較 メタノール抽出液中の疎水性画分の反応
葉たばこ刻に固液比1g-wet tobacco: 5ml量のメタノールを加え、50℃の水浴中で1時間振とう抽出し、不織布で抽出液と抽出残渣とに分けた。抽出液からメタノールを脱揮し、等量のヘキサンと水を加えて激しく振とうした。この有機相のみを回収し、ヘキサンを脱揮した後エタノールへ溶解させた。この溶液を実施例1と同じ条件で反応に供した。
【0048】
・処理液の組成
実施例2、比較例1の処理液におけるエチルエステル含有量を
図3に示す。実施例2では、比較例1では生成しないリンゴ酸ジエチルとレブリン酸エチルが特に生成量が大きいこと、また実施例1と比較例1で共通して生成するパルミチン酸エチルの量は同程度であることが示された。
この差について、比較例1では抽出されたリンゴ酸やクエン酸などの極性の高い有機酸は、ヘキサン/水の分液操作で水相へ分配し反応に関与しないため、生成しなかったと考えられる。また実施例1にて確認されたレブリン酸エステルは、糖やでんぷんなどの炭水化物とアルコールの反応により生成する(非特許文献1)。よってこれも比較例1では抽出された炭水化物が分液操作で水相へ分配し、反応に関与しないために生成しなかったと考えられる。実施例1と比較例1の反応は同条件で行っているため、生成物の定性的・定量的な差は、抽出・分液操作という反応に供する反応液の調製方法により生じていると言える。
【0049】
・処理液を用いた官能評価
副流煙臭気の官能評価は、シガレットを部屋の中で自然燃焼させ、所定時間後の室内の匂いを比較評価することで行った。評価は1対比較により行い、1対の評価あたりのパネル人数は約30人であった。パネルはどちらの部屋がたばこ臭いと感じるかを二者択一で回答した。
【0050】
官能評価結果1:実施例2による処理前後の変化
処理たばこ:日本産黄色種
材料品:市販のシガレット製品に使用される紙管
・処理後:調和・裁刻済の国内産黄色種を用いて実施例1の処理(120℃、3時間、触媒添加量:たばこ湿重量あたり50重量%)を行って処理液(組成物)を得た後、その処理液をもとの抽出残渣へかけ戻し、市販のシガレット製品の紙管を用いて作成したシガレット。
・未処理:調和・裁刻済の国内産黄色種と市販のシガレット製品の紙管で作成したシガレット。
図4に、評価パネルがたばこ臭気が強く感じられた方を二者択一で回答した結果を示す。
図4より、処理後のシガレットの方がたばこ臭気が小さいと回答した人数は有意に多かった。よってたばこ副流煙の臭気低減効果を確認することができた。
【0051】
官能評価結果2:実施例2の処理物の添加効果
処理たばこ:黄色種中骨
材料品:市販のシガレット製品の紙管
・試験品:調和・裁刻済の外国産黄色種中骨を用いて実施例1の処理(120℃、3時間、触媒添加量:たばこ湿重量あたり50重量%)により作成した処理液からエステル化合物を含む組成物を減圧蒸留および固相抽出により分離後、市販のシガレット製品を開放し香料を揮散させた刻(刻A)へ加香したシガレット。組成物の添加量は、総エステル量が刻A量に対して0.14〜0.95重量%になるよう添加した。
・対照品:刻Aで作成したシガレット。
図5に、評価パネルがたばこ臭気が強く感じられた方を二者択一で回答した結果を示す。
図5の縦軸の数値は、各試料中の刻みA量に対する総エステル量の重量割合を示す。試験品のシガレットの方がたばこ臭気が小さいと回答した人数は有意に多かった。よって本発明の組成物は他の刻へ加香することによってもたばこ副流煙の臭気低減効果を発現することが確認できた。
【0052】
官能評価結果3:先行技術文献(特許文献1)との比較
処理たばこ:日本産黄色種
材料品:市販のシガレット製品の紙管
・実施例1:刻Aに本発明の手法である実施例1の処理液(処理原料は国内産黄色種、反応条件は120℃、3時間、触媒添加量はたばこ湿重量あたり50重量%)から減圧蒸留および固相抽出によりエステル化合物を分離した組成物を添加して作成したシガレット。処理液の作成に供したたばこ:処理液を加香された刻Aの重量比は1:2であった。
・比較例1:添加物が比較例1の手法で作成した処理物であること以外は上記と同様に作成したシガレット。
図6に示すとおり、先行技術文献(特許文献1)に示された手法(比較例1)により作成したシガレットの方がたばこ臭いと評価した人数は有意に多かった。よって本発明の組成物のたばこ臭気低減効果の優位性を確認することができた。
【0053】
官能評価結果4:成分ごとの寄与
本発明の手法で生成するエステル化合物について、各化合物の試薬をたばこ刻へ添着し臭気低減効果の寄与を調べた。
材料品:市販のシガレット製品の紙管
・試験品:各試薬をエタノールに溶解させ、刻Aのたばこ湿重量に対して0.1%または1%になるよう噴霧し調和・乾燥させた試験刻を、市販製品の紙管を用いて作成したシガレット。
・対照品:試験品と同量のエタノールを噴霧した刻Aで作成したシガレット。
図7より、1%加香ではクエン酸トリエチル、パルミチン酸エチル、レブリン酸エチルにたばこ臭気低減効果が見られた。一方リンゴ酸ジエチルを加香したシガレットではたばこ臭気の選択率は増加した。0.1%加香では、いずれの成分もたばこ臭気を低減するか、ほぼ変化を与えないという結果が得られた。
【0054】
官能評価結果5:成分の混合
上記の処理を経て得られるパルミチン酸エチル、クエン酸トリエチルおよびリンゴ酸ジエチルに着目し、その添加量と混合の効果を確認した。
材料品:市販のシガレット製品に使用される紙管
・試験品:表4の添加量になるよう各試薬をエタノールに溶解させ、刻Aのたばこ湿重量に対して噴霧し調和・乾燥させた試験刻で作成したシガレット。
・対照品:試験品と同量のエタノールを噴霧した刻Aで作成したシガレット。
【0055】
【表4】
【0056】
図8−1および
図8−2で示されるとおり、パルミチン酸エチルおよびクエン酸トリエチルは、それぞれ単独で添加するよりも、リンゴ酸ジエチルを混合して用いた場合に、より強くたばこ副流煙の臭気低減効果を発現することが示唆された。
図8−1および
図8−2から各成分の存在比に着目し、前述の実施例を抜粋して再掲する。図中の縦軸の番号は、上記表4の試料番号に対応する。表中の試験品選択率は、試験品の方が臭気が強いと選択した人数/参加者数である。
【0057】
【表5】
【0058】
表5中のリンゴ酸ジエチルが総エステル量に占める割合と、二者択一たばこ臭気選択率を示すと
図9となる。
図9の縦軸が0.5より小さいとき、試験品(エチルエステル化合物の添加品)の方が対照品(エチルエステル化合物の無添加品)よりもたばこ副流煙による臭気が小さいと感じた人の割合が大きいことを示す。
よって、リンゴ酸ジエチルが特定の割合で混合されることによって、低臭気効果をより強く発現すること、またこのリンゴ酸ジエチルは、たばこに含有されるリンゴ酸から得られたものでも、試薬として単離されているものでも同様の効果をもつことが推察された。
【0059】
以下、前述のエステル化合物をより多く生成させるための手法や、より簡便に製造するための方法を示す。
<水抽出を含む工程>
実施例1および2では、たばこ葉に含まれる有機酸をエタノールを用いた抽出により液相へ移行させ、この抽出液を酸性条件下で加熱することによりエステル化反応を行わせた。ここでのエタノールは有機酸の抽出溶媒であり、かつそれ自身がエステル化反応に供されるものである。
生成するエチルエステル化合物の収率をより大きくするためには、有機酸の溶解度のより大きな溶媒で抽出して反応に供することで収率が向上できると考えられたため、水を抽出溶媒に用いる工程も考案した。さらに製造上重要である触媒の再生容易性や工程エネルギー低減の観点から、触媒自体を加熱しない工程や、水を完全に脱揮せずに反応に供する工程もあわせて考案した。
【0060】
<実施例3>水抽出工程1
葉たばこ刻に固液比1g-wet tobacco: 10ml量の水を加え、60℃の水浴中で1時間振とう抽出し、不織布で抽出液と抽出残渣とに分けた。抽出液の水を減圧脱揮した後エタノールへ転溶し、所定濃度のたばこ−水抽出物のエタノール溶液を調製した。反応条件は実施例1と同様であり、120℃、3時間、触媒添加量はたばこ湿重量あたり100重量%とした。
【0061】
<実施例4>水抽出工程2
葉たばこ刻に固液比1g-wet tobacco: 10ml量の水を加え、60℃の水浴中で1時間振とう抽出し、不織布で抽出液と抽出残渣とに分けた。水抽出液へたばこ湿重量あたり166重量%の触媒を添加して振とうし、プロトン交換を行った。ろ過により触媒を分離除去した後、水を減圧脱揮することでプロトン供与済みのたばこ−水抽出物を得た。これを所定濃度となるようエタノールへ溶解させ、耐圧容器内で120℃、3時間加熱しエステル化反応を進行させた。
【0062】
<実施例5>水抽出工程3
葉たばこ刻に固液比1g-wet tobacco: 10ml量の水を加え、60℃の水浴中で1時間振とう抽出し、不織布で抽出液と抽出残渣とに分けた。水抽出液へたばこ湿重量あたり166重量%の触媒を添加して振とうし、プロトン交換を行った。ろ過により触媒を分離除去した後、水を所定濃度まで濃縮し、たばこ−水抽出物を得た。水抽出物と体積基準で等量のエタノールを添加し、耐圧容器内で120℃、3時間加熱しエステル化反応を進行させた。
実施例3〜5の結果を表6及び
図10に示す。
図10に示されるとおり、水で抽出した溶液においても、前述のエタノール抽出時の結果と同様の反応が進行していることが示唆された。特に実施例4においては実施例2に比して約8倍以上のリンゴ酸ジエチルが生成し、収率を向上させることができた。実施例3では、水で抽出したことによる有機酸抽出量の増加よりも夾雑物の増加による反応速度低下の影響が強く反映されたためと考えられた。また実施例5では、水の反応阻害により収量は減少したものの、エタノールを半量に削減してもリンゴ酸ジエチルおよびパルミチン酸エチルを生成させることができた。
【0063】
【表6】
【0064】
<実施例6>少量の溶媒を用いた一段工程
前述のように抽出分離工程を経ることなく、たばこ葉と少量のエタノールおよび触媒を混合し、加熱することのみで反応が進行するかを確認した。
0.05g/mlのクエン酸-エタノール溶液をたばこ湿重量5gに対して約10ml添加し、耐圧容器で加熱することで反応に供した。加熱条件は120℃、3時間とした。
反応後のたばこ葉を含む溶液を所定量のエタノールへ分散させ、0.45μmのフィルターでろ過した溶液を前述の条件でGC−MS分析に供し、生成物の定性情報を得た。
図11上部に実施例6の処理物、下部に標準試薬のGCチャートを示す。
図11より、この条件ではリンゴ酸ジエチル、パルミチン酸エチルの生成が確認された。レブリン酸エチルとクエン酸トリエチルは痕跡程度であった。クエン酸のエチルエステルは非常に少量であったことから、添加したクエン酸は主に触媒として機能していると推察された。
クエン酸の第一解離定数は3.09であり、弱酸に分類される。本発明の方法では、少量の弱酸でも十分に反応が進行することが示唆された。