特許第6673595号(P6673595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673595
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】弾性ローラの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/08 20060101AFI20200316BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20200316BHJP
   G03G 15/16 20060101ALI20200316BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20200316BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20200316BHJP
   B65H 5/06 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   G03G15/08 235
   G03G15/00 551
   G03G15/16 103
   G03G15/08 221
   G03G15/20 515
   F16C13/00 B
   F16C13/00 Z
   B65H5/06 A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-141115(P2016-141115)
(22)【出願日】2016年7月19日
(65)【公開番号】特開2018-13513(P2018-13513A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 侑紀
(72)【発明者】
【氏名】堀川 寿行
【審査官】 飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−294952(JP,A)
【文献】 特開2011−226568(JP,A)
【文献】 特開2008−262067(JP,A)
【文献】 特開2009−269340(JP,A)
【文献】 特開2001−125367(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0144505(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/08
B65H 5/06
F16C 13/00
G03G 15/00
G03G 15/16
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状本体及び該筒状本体の少なくとも一端部に前記筒状本体よりも小径の端部を有する軸体と、前記筒状本体の外周に弾性層とを有する弾性ローラの製造方法であって、
前記弾性層を形成するゴム組成物で少なくとも前記筒状本体の端面を密閉状態に被覆する工程と、
前記ゴム組成物のうち、前記端面から前記端部の先端方向に0.5mm以上5mm以下の領域を被覆する基端側被覆部分よりも先端側を被覆する先端側被覆部分を除去して前記密閉状態を解放し、次いで前記基端側被覆部分を除去する工程と、
前記基端側被覆部分を除去する前又は後に前記ゴム組成物を硬化する工程と
を有する弾性ローラの製造方法。
【請求項2】
前記被覆する工程は、前記軸体の全体を被覆する請求項1に記載の弾性ローラの製造方法。
【請求項3】
前記除去する工程は、前記基端側被覆部分及び前記先端側被覆部分を、それぞれ、1回又は複数回で除去する請求項1又は2に記載の弾性ローラの製造方法。
【請求項4】
前記被覆する工程は、前記ゴム組成物と複数の前記軸体とを連続して押出成形する請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性ローラの製造方法。
【請求項5】
前記被覆する工程は、前記筒状本体の外周を被覆する前記ゴム組成物の厚さを1mm以上20mm以下にする請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性ローラの製造方法。
【請求項6】
前記軸体は、前記筒状本体と前記端部との外径差が0mmを超え15mm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性ローラの製造方法。
【請求項7】
前記弾性ローラは、外径が20mm以上60mm以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性ローラの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性ローラの製造方法に関し、さらに詳しくは、弾性層の端部近傍における気泡の発生を抑え、耐久性の高い弾性ローラの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンター及びビデオプリンター等のプリンター、複写機、ファクシミリ、これらの複合機等の画像形成装置には、例えば、現像剤を担持搬送する現像ローラ、現像剤を現像ローラに供給する現像剤供給ローラ、記録体を搬送する搬送ローラ、現像剤を記録体に転写させる転写ローラ、記録体上の現像剤を記録体に定着させる定着ローラ、定着ローラを圧接する加圧ローラ等の多種多様の各種弾性ローラを備えている。
【0003】
これらの弾性ローラは、例えば、軸体とその外周に形成された弾性層とを備えており、軸体の外周をゴムで被覆した後に余剰のゴムを切断して製造できる(例えば、特許文献1〜5)。具体的には、弾性ローラは、軸体と未加硫ゴムとを一体押出成形、分出して軸体の外周に未加硫ゴムを連続的に押出し、余剰の未加硫ゴムを切除し、未加硫ゴムを加硫して、製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−66979号公報
【特許文献2】特開2006−305770号公報
【特許文献3】特開2007−212864号公報
【特許文献4】特開2011−226568号公報
【特許文献5】特開2006−123256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、画像形成装置における、省エネルギーの要請、また高耐久化、高速化の要請から、弾性ローラは大径化されることがある。例えば、定着ローラは、大径化されると多くの熱を保持できることから、消費エネルギーを低減し、また回転数を抑えることができ、上記要請に応えることができる。
【0006】
また、軸体は、外径が一定の棒状体又は筒状体が用いられることが多いが、定着ユニットの構造の点で、弾性層が形成される中央部の両端に小径の端部(軸受部)を有するものが用いられることがある。
【0007】
このような軸体を用いて、弾性ローラ、特に大径化された弾性ローラを、上述のように一体押出成形によって製造すると、弾性層の端部近傍に気泡が発生する現象が新たに確認された。弾性層の端部近傍に気泡が存在すると、弾性ローラの使用により弾性層が軸体から剥離し、耐久性が低下する。また、気泡の存在により、弾性層端部近傍の硬度等の物性が他の部分と相違して、弾性ローラが所望の機能を十分に発揮できない。
【0008】
本発明は、弾性層の端部近傍における気泡の発生を抑え、耐久性の高い弾性ローラを製造する方法を提供することを、課題にする。
【0009】
本発明において、弾性層の端部近傍に発生する気泡は、弾性層中に存在する中空領域であって、例えば発泡弾性層が有するセルとは大きさで区別できる。具体的には、発泡弾性層において、軸体の近傍(例えば、発泡弾性層と軸体の境界近傍)に存在する中空領域のうち、直径が1mm以上のものを気泡と判断し、1mm未満であるものをセルと判断する。ここで、中空領域の直径はマイクロスコープを用いて測定できる。
セルと気泡は外観によっても区別できる。具体的には、発泡弾性層と軸体の境界にスキン層が形成されている場合、スキン層中の中空領域を気泡と判断する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、筒状本体及び端部を有する軸体にゴム組成物を被覆して弾性ローラを製造する場合に、筒状本体の、端部が接続される端面とゴム組成物との間が密閉され、この密閉空間内に密封された空気が、ゴム組成物を除去する際にゴム組成物中に、又は、ゴム組成物と筒状本体の外周面との間に侵入して、弾性層の端部近傍に気泡を発生させることを見出した。この空気の密閉は、弾性ローラが大径になるほど、また軸体における筒状本体と端部との外径差が大きくなるほど、顕著に発生することが分かった。これらの知見に基づき、密封された空気の除去手段についてさらに検討を進めたところ、密封された空気をゴム組成物中等に侵入させることなく排出するためには、密閉空間に通じる排気孔(空気孔)を単にゴム組成物に設けるだけでは十分ではなく、密閉空間の密閉状態を解除(解放)するように、ゴム組成物の一部を予め除去(切除)することが効果的であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明の課題は、以下の手段によって達成された。
(1)筒状本体及び該筒状本体の少なくとも一端部に前記筒状本体よりも小径の端部を有する軸体と、前記筒状本体の外周に弾性層とを有する弾性ローラの製造方法であって、
前記弾性層を形成するゴム組成物で少なくとも前記筒状本体の端面を密閉状態に被覆する工程と、
前記ゴム組成物のうち、前記端面から前記端部の先端方向に0.5mm以上5mm以下の領域を被覆する基端側被覆部分よりも先端側を被覆する先端側被覆部分を除去して前記密閉状態を解放し、次いで前記基端側被覆部分を除去する工程と、
前記基端側被覆部分を除去する前又は後に前記ゴム組成物を硬化する工程と
を有する弾性ローラの製造方法。
(2)前記被覆する工程は、前記軸体の全体を被覆する(1)に記載の弾性ローラの製造方法。
(3)前記除去する工程は、前記基端側被覆部分及び前記先端側被覆部分を、それぞれ、1回又は複数回で除去する(1)又は(2)に記載の弾性ローラの製造方法。
(4)前記被覆する工程は、前記ゴム組成物と複数の前記軸体とを連続して押出成形する(1)〜(3)のいずれか1項に記載の弾性ローラの製造方法。
(5)前記被覆する工程は、前記筒状本体の外周を被覆する前記ゴム組成物の厚さを1mm以上20mm以下にする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の弾性ローラの製造方法。
(6)前記軸体は、前記筒状本体と前記端部との外径差が0mmを超え15mm以下である(1)〜(5)のいずれか1項に記載の弾性ローラの製造方法。
(7)前記弾性ローラは、外径が20mm以上60mm以下である(1)〜(6)のいずれか1項に記載の弾性ローラの製造方法。
【0012】
本発明において、筒状本体の端面は端部が接続、連設される面を意味する。また、端部の基端とは筒状本体の端面に接続された端部分を意味し、先端は基端の反対側の端部分、すなわち端部の自由端を意味する。
また、本発明において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、弾性層の端部近傍における気泡の発生を抑え、耐久性の高い弾性ローラを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の製造方法で製造される弾性ローラを示す概略斜視図である。
図2図2は、本発明の製造方法における除去する工程を説明する説明断面図である。
図3図3は、実施例において弾性ローラの耐久性試験を実施するのに用いた耐久性試験装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の製造方法で製造される弾性ローラについて説明する。
本発明の弾性ローラは、軸体と弾性層とを有していればよく、その他の構成は特に限定されない。例えば、弾性層の外周にコート層又は表面層を有していてもよく、軸体と弾性層の間又は層間に接着層又はプライマー層を有していてもよい。
【0016】
弾性ローラの形状及び寸法は、特に限定されず、用途、機能及び画像形成装置等に応じて、適宜に設定される。例えば、弾性ローラが取りうる形状としては、所謂、ストレート形、クラウン形、逆クラウン形等が挙げられる。
弾性ローラの外径は、画像形成装置に用いられる場合、通常、20〜30mm程度であるが、近年の要請に応えるべく大径化する場合には例えば30〜60mmである。したがって、大径化も可能とする本発明においては、弾性ローラの外径は20〜60mmとすることができる。軸線長さは、通常、A3サイズ又はA4サイズ(共に日本工業規格参照)に適合する長さに設定される。
【0017】
弾性層は、発泡弾性層であっても未発泡(中実)の弾性層であってもよく、用途及び特性等に応じて、適宜に選択される。弾性層として、弾性ローラが画像形成装置の定着ローラとして用いられる場合には、好ましくは、発泡弾性層が選択される。
【0018】
本発明の弾性ローラの一例としての弾性ローラ1は、図1に示されるように、軸体2と、その外周面に形成された発泡弾性層3とを備えている。
【0019】
軸体2は、図1に示されるように、筒状本体2Aと、筒状本体2Aの両端面2Cそれぞれに接続された端部2Bとを有している。
筒状本体2Aは、発泡弾性層3が形成される部分であり、軸線方向に均一な外径を有している。端部2Bは、軸線方向に均一で筒状本体2Aよりも小さな外径を有している。筒状本体2A及び端部2Bの形状は、いずれも特に限定されず、例えば、筒状又は柱状(棒状)が挙げられる。
筒状本体2A及び端部2Bの寸法は、用途等に応じて適宜に設定される。軸体2において、筒状本体2Aと軸体2Bとの外径差が、0mmを超え15mm以下であるのが好ましく、1〜15mmであるのがより好ましく、1〜10mmであるのが特に好ましい。外径差が上記範囲内にあると、筒状本体2Aと小径の端部2Bとの間に空気が残りにくく、弾性層の端部近傍における気泡の発生を抑えることができる。
【0020】
軸体2は、良好な導電特性を有していればよく、通常、鉄、アルミニウム、ステンレス鋼、真鍮等で構成される。また、軸体2は、熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂等の絶縁性芯体にメッキを施して導電化した軸体であってもよく、さらには、熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂等に導電性付与剤としてカーボンブラック又は金属粉体等を配合した導電性樹脂で形成された軸体であってもよい。
【0021】
発泡弾性層3は、従来公知の画像形成装置用弾性ローラにおける発泡弾性層と基本的に同様であり、筒状本体2Aの外周面に形成される。
発泡弾性層3は、その内部及び/又は外表面にセル(図1において、図示しない。)を有する所謂「スポンジ状」になっている。ここで、セルは、後述する発泡ゴム組成物に含有される発泡剤の発泡又は分解等によって生じる発泡弾性層3内又は表面に開口する中空領域をいい、上述のように、気泡とは異なる。
【0022】
発泡弾性層3の厚さは、特に限定されないが、例えば、2〜42mm、好ましくは4〜30mm、より好ましくは4〜20mmである。
【0023】
発泡弾性層3は、以下の特性を有している。
すなわち、硬度が15〜60であるのが好ましく、20〜50であるのがさらに好ましい。これにより、ニップ幅の確保、印字特性の向上という効果が得られる。硬度は硬度計アスカーC定圧荷重機を用いて測定できる。
【0024】
また、セル径が100〜400μmであるのが好ましく、150〜350μmであるのがさらに好ましい。これにより、印字向上という効果が得られる。セル径はマイクロスコープVH−5000での画層解析により測定できる。
【0025】
本発明の弾性ローラの製造方法(本発明の製造方法ともいう)は、筒状本体及びこの筒状本体の少なくとも一端部に筒状本体よりも小径の端部を有する軸体と、筒状本体の外周に弾性層とを有する弾性ローラを製造する方法である。例えば、上記弾性ローラ1を好適に製造できる。
【0026】
本発明の製造方法は、弾性層を形成するゴム組成物で少なくとも筒状本体の端面を密閉状態に被覆する工程と、ゴム組成物のうち、端面から先端方向に0.5〜5mmまでの領域を被覆する基端側被覆部分よりも先端側を被覆する先端側被覆部分を除去して密閉状態を解放し、次いで基端側被覆部分を除去する工程と、基端側被覆部分を除去する前又は後にゴム組成物を硬化する工程とを有する。
【0027】
本発明の製造方法を、筒状本体及び筒状本体の少なくとも一端部に筒状本体よりも小径の端部を有する軸体として軸体2を用いた場合を例に挙げて、具体的に説明する。
【0028】
本発明の製造方法においては、まず、軸体2を準備する。軸2体は上述の通りであり、上述の材料で形成する。軸体2は、必要に応じて予め、筒状本体の外周面に接着剤又はプライマーを、スプレー法、浸漬法等によって、塗布し、その外周面に接着層又はプライマー層を形成しておくのがよい。
【0029】
一方、弾性層を形成するゴム組成物を準備又は調製する。準備又は調製するゴム組成物は、弾性層に応じて選択される。例えば、発泡弾性層3を形成する場合は発泡ゴム組成物が選択され、中実な弾性層を形成する場合には発泡性のない(未発泡)ゴム組成物が選択される。例えば、ゴム組成物は、ゴム及び導電性付与剤を含有し、所望により発泡剤及び/又は各種添加剤を含有するものを挙げることができる。
【0030】
発泡弾性層3を形成する場合に用いる発泡ゴム組成物は、ゴムと、発泡剤と、所望により各種添加剤等とを含有する組成物であればよく、例えば、発泡シリコーンゴム系組成物、特に付加反応型発泡シリコーンゴム組成物が好ましい。付加反応型発泡シリコーンゴム組成物として、ビニル基含有シリコーン生ゴムと、シリカ系充填材と、発泡剤と、付加反応架橋剤と、付加反応触媒と、反応制御剤と、導電性付与剤とを含有し、所望により有機過酸化物架橋剤と各種添加剤とを含有する付加反応型発泡シリコーンゴム組成物が挙げられる。これらの各成分は、例えば、特開2008−076751号公報に記載されている「付加反応型発泡シリコーンゴム組成物」を用いることができ、これに記載された内容は本明細書に組み込まれる。
【0031】
ゴム組成物は、未加硫状態でのゴム可塑度(測定温度23℃)が150〜300であるのが好ましく、200〜250であるのがより好ましい。ゴム可塑度が上記範囲内にあると、押出成形時に分出しされた未加硫ゴムの表面が平滑になり、分出し外径の管理ができる。ゴム可塑度の測定方法は可塑度計にて測定する。具体的な条件は、未加硫ゴムを2g計量して可塑度計にセットし、荷重を加える。9.8Nの荷重を加えてから3分後の数値を読み取る。
【0032】
本発明の製造方法において、少なくとも、軸体2の筒状本体2Aの外周及び端面2Cをゴム組成物で密閉状態に被覆する工程を行う。
ゴム組成物で被覆する手段は、いかなる手段でもよいが、押出成形(分出し)であるのが好ましい。押出成形は、ストレートヘッド押出機又はクロスヘッド押出機を用いて、行うことができる。押出形成は、軸体を1本ずつ間欠的に送出して成形してもよく、複数の軸体を軸線方向に配列して連続的に成形してもよい。生産性を考慮すると、連続的に押出成形するのが好ましい。
【0033】
ゴム組成物を押し出すときの温度は、特に限定されないが、ゴム組成物の温度が10〜30℃であるのが好ましく、15〜25℃であるのがより好ましい。押出温度が上記範囲内にあると、加硫の進行が抑えられ、長時間にわたり、安定的に押出し成形できるという効果が得られる。
【0034】
筒状本体2Aの外周を被覆するゴム組成物6の厚さとしては、筒状本体2A上に成形されるゴム組成物6の厚さが、好ましくは1〜20mm、より好ましくは3〜15mm、さらに好ましくは3〜9mmに設定される。ゴム組成物6の厚さが上記範囲内にあると、熱伝導のバランスが良く、均一な弾性層が得られる。なお、筒状本体2Aの端面2Cよりも先端側に成形されるゴム組成物6の厚さは、端面2Cを密閉できれば特に限定されないが、例えば、2〜15mmであるのが好ましい。
【0035】
ゴム組成物6を軸体2の外周に、好ましくは押出成形により、被覆すると、特に押出成形を連続的に行うと、軸体2の全体がゴム組成物6で被覆される。具体的には、図2に示されるように、ゴム組成物6は、筒状本体2Aの外周に接し、筒状本体2Aの端面2Cを越えると徐々に小径になって端部2Bの先端側の外周に接する管状に、成形される。管状に成形されたゴム組成物6と筒状本体2Aの端面2Cと軸体2Bの外周面とで閉塞された内部空間5が形成され、少なくとも筒状本体2Aの端面2Cが密閉状態になる。このとき、内部空間5にはこの工程を行う環境下に存在する気体、通常空気が封入されている。空気の密封は、押出成形であれば、ゴム組成物6の押出圧力の低下により、生じると考えられる。
【0036】
本発明の製造方法においては、次いで、筒状本体2Aの端面2Cよりも先端側に成形された余剰なゴム組成物を除去する工程を行う。この除去する工程は、少なくとも2段階で行われる。
この工程においては、成形されたゴム組成物6のうち筒状本体2A上以外に配置された余剰部分を、基端側被覆部分6aと先端側被覆部分6bとの少なくとも2つに分ける。すなわち、基端側被覆部分6aは、筒状本体2Aの端面2Cから先端方向に0.5〜5mmまでの領域を被覆する部分とし、先端側被覆部分6bはこの基端側被覆部分6aよりも先端側を被覆する部分とする。なお、図2において、基端側被覆部分6aを破線で示した。
【0037】
本発明の製造方法において、基端側被覆部分6aと先端側被覆部分6bとの境界、すなわち先端側被覆部分6bを除去するためのゴム組成物の切断位置は、筒状本体2Aの端面2Cから先端方向に0.5mm以上5mm以下である。この切断位置が0.5mm未満であると、弾性層の端部近傍における気泡の発生を抑えることができるが、切断しろが少ないため(ゴムが逃げてしまい)ゴム位置の規格寸法が外れることがある。一方、切断位置が5mmを超えると、切断しろが十分にあるためゴム位置の規格寸法に切断することができるが、弾性層の端部近傍における気泡の発生を抑えることができないことがある。気泡の発生防止とゴム位置の規格寸法への切断を両立できる点で、切断位置は2〜4mmが好ましい。
【0038】
ここで、ゴム組成物6で被覆された状態において、筒状本体2Aの端面2Cの位置は、切断機の設定によって、確認できる。
【0039】
切断位置は、軸体2の外径差と関連性を有している。具体的には、外径差が0mmを超え15mm以下であるとき、切断位置は2〜4mmが好ましい。外径差が上記範囲にある軸体2を用いて切断位置を上記範囲に設定すると、本発明の効果が顕著になる。
【0040】
除去する工程においては、まず、先端側被覆部分6bを除去する(第1ステップ)。具体的には、先端側被覆部分6bを、基端側被覆部分6a内で設定された上記切断位置よりも先端側にある基端側被覆部分6aとともに、除去する。この第1ステップにより、先端側被覆部分6bが除去されて端面2Cの密閉状態が解除される。そうすると、管状に成形されたゴム組成物6は端部が開口した円錐台状になる。これにより、ゴム組成物6で密閉された内部空間5が開放され、内部空間5に密封された空気が排出されて、内部空間5内がほぼ常圧になる。
【0041】
除去する工程においては、次いで、余剰なゴム組成物のうち、第1ステップで残存したゴム組成物を除去する(第2ステップ)。第2ステップは、ゴム組成物と筒状本体2Aとの両端面が略面一となるように、ゴム組成物、通常、(残余の)基端側被覆部分6a等を除去する。
【0042】
除去する工程は、基端側被覆部分6a及び先端側被覆部分6bをそれぞれ1回又は複数回で除去することができる。
ゴム組成物6の除去方法は、特に限定されず、例えば、手動カット、自動カット法等が挙げられる。特に、第2ステップは、除去すべき余剰のゴム組成物6が筒状本体2Aの端面2Cより円錐台状(リング状)に突出した状態で安定していないから、除去方法は上記の中でも回転させながら鋭利な刃でカットする自動カット法が好ましい。
【0043】
このようにして余剰なゴム組成物の除去工程を行うと、内部空間5に密封された空気が外部に排出され、ゴム組成物中にも、またゴム組成物と筒状本体2Aの外周面との間にも、内部空間5に封入された気体が侵入することを防止できる。
【0044】
本発明の製造方法において、基端側被覆部分6aを除去する(第2ステップ)前又は後に、ゴム組成物6を硬化する工程と行う。本発明においては、第2ステップ後に行うのが好ましい。
硬化する工程は、特に限定されないが、通常、ゴム組成物を一次加硫し、次いで二次加硫する方法が好適に挙げられる。
【0045】
ゴム組成物の一次加硫は、ゴム組成物に含まれるゴム、例えば、ビニル基含有シリコーン生ゴムが架橋し、かつ、発泡剤が分解又は発泡するのに十分な条件で行われればよい。例えば、ゴム組成物は、通常、赤外線加熱炉又は熱風炉等の加熱炉、乾燥機等の加熱機等により、170〜500℃程度、特に200〜400℃に加熱され、数分以上1時間以下、特に5〜30分間、加熱される。
【0046】
ゴム組成物の二次加硫は、一次加硫で架橋されたゴム組成物をより確実に架橋させる工程であり、二次加硫によって、ゴム組成物が硬化して成る硬化体の物性が安定するという効果が得られる。二次加硫は、例えば、一次加硫されたゴム組成物を、さらに、押出成形された状態のままで、例えば、180〜250℃、好ましくは190〜230℃で、1〜24時間、好ましくは3〜10時間にわたって、又は、金型を用いて、例えば、130〜200℃、好ましくは150〜180℃で、5分以上24時間以下、好ましくは10分以上10時間以下にわたって、再度加熱されることによって、行われる。
【0047】
このようにして、弾性層が形成される。
【0048】
本発明の製造方法においては、所望により、一次硬化体又は二次硬化体(弾性層)の形状又は外径を調整する工程を実施することができる。この工程においては、例えば、研磨処理、切除処理、ブラスト処理、旋削処理等の各処理を適宜に選択できる。
【0049】
本発明の製造方法においては、所望により、弾性層の外周面に表面層及びコート層等の他の層を形成することもできる。他の層は、例えば、樹脂組成物又はゴム組成物等の適宜の組成物を弾性層の外周面に塗布した後に硬化して、形成される。
【0050】
上記工程を有する本発明の製造方法によれば、ゴム組成物の被覆時に密封された気体を排出できるから、ゴム組成物を除去する際にゴム組成物に、及び、ゴム組成物と筒状本体2Aの外周面との間に気体の侵入を防止できる。したがって、弾性層の端部近傍における気泡の発生を抑え、耐久性の高い弾性ローラを製造できる。
このように気体の侵入を防止できる本発明の製造方法は、大径の弾性ローラを製造する方法として、また筒状本体2Aと端部2Bとの外径差が大きな軸体2を有する弾性ローラ1を製造する方法として、好適である。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
無電解ニッケルメッキ処理が施された、両端面2Cに端部2Bが連設された筒状本体2Aからなる下記寸法の軸体(SUM22製)2を準備した。
筒状本体2Aの寸法:外径18mm、軸線長さ312mm
端部2Bの寸法:外径9mm、軸線長さ8.5mm
筒状本体2Aと端部2Bとの外径差:9mm
次いで、この軸体2をエタノールで洗浄し、筒状本体2Aの表面にシリコーン系プライマー(商品名「プライマーNo.16」、信越化学工業社製)を塗布した。プライマー処理した軸体2を、ギヤオーブンを用いて、150℃の温度にて10分焼成処理した後、常温にて30分以上冷却し、筒状本体2Aの表面にプライマー層を形成した。
【0052】
次いで、ビニル基含有シリコーン生ゴムとシリカ系充填材とを含むシリコーンゴム組成物「KE−904FU」(信越化学工業社製:商品名)100質量部と、付加反応架橋剤「C−153A」(信越化学工業社製:商品名)2.0質量部と、有機系発泡剤アゾビス−イソブチロニトリル「KEP−13」(信越化学工業社製:商品名)2.5質量部と、付加反応触媒としての白金触媒適量と、反応制御剤「R−153A」(信越化学工業社製:商品名)0.5質量部と、有機過酸化物架橋剤「C−3」(信越化学工業社製:商品名)適量と、耐熱性向上剤「KEP−12」(信越化学工業社製:商品名)1.0質量部とを、二本ロールで十分に混練して、付加反応型発泡シリコーンゴム組成物を調製した。この付加反応型発泡シリコーンゴム組成物のゴム可塑度は210であった。
【0053】
クロスヘッドダイを備えた押出成形機を用いて付加反応型発泡シリコーンゴム組成物を軸体2と共に一体分出しした。具体的には、温度約20℃において、付加反応型発泡シリコーンゴム組成物を、筒状本体2A及び筒状端部2Bの全体に、5mm又は20mmの厚さに被覆されるように、分出しした。これにより、筒状本体2Aの端面2Cを密閉状態に付加反応型発泡シリコーンゴム組成物で被覆した(被覆する工程)。内部空間5は、端面よりも先端側5mmまで、形成されていた。
【0054】
次いで、ゴム組成物を除去する工程を行った。具体的には、付加反応型発泡シリコーンゴム組成物で被覆した軸体2を汎用旋盤にセットし、筒状本体2Aの端面2Cから3.5mmの位置よりも先端側を被覆する、付加反応型発泡シリコーンゴム組成物の先端側被覆部分6bを、3.5mmを超え5.0mmまでの基端側被覆部分6aとともに、切除した(端面2Cの密閉状態は解除された)。次いで、端面2Cから3.5mmの位置までを被覆している付加反応型発泡シリコーンゴム組成物の基端側被覆部分6a(残部)を同様にして切除した。
【0055】
次いで、赤外線加熱炉(IR炉)を用いて、筒状本体2Aを被覆している付加反応型発泡シリコーンゴム組成物を250℃で10分間、一次加硫した。その後、さらに、ギヤオーブンを用いて、200℃で7時間にわたって二次加硫し、常温にて1時間放置した(ゴム組成物を硬化する工程)。
このようにして、外径が28mmと58mmの2種類の弾性ローラを製造した。
【0056】
(実施例2〜5)
実施例1において、先端側被覆部分6bを切断する切断位置を、3.5mmから、3mm、4mm、2mm又は2.5mmにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2〜5の弾性ローラ(2種類)をそれぞれ製造した。
【0057】
(実施例6)
実施例1において、筒状本体2Aの外径を12mm(端部2Bとの外径差:3mm)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の弾性ローラ(2種類)を製造した。
【0058】
(比較例1)
実施例1において、切断位置を5mmに変更し、付加反応型発泡シリコーンゴム組成物の切断面から筒状本体2Aの端部にかけて外径0.6mmの針で貫通穴をあけた以外は実施例1と基本的に同様にして比較例1の弾性ローラを製造した。
【0059】
(比較例2)
実施例1において、切断位置を0.3mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の弾性ローラを製造した。
【0060】
(比較例3)
実施例1において、切断位置を7mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の弾性ローラを製造した。
【0061】
(セル径及び硬度の測定)
上記方法により、発泡弾性層についてセル径及び硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
(気泡の発生)
各例で製造した弾性ローラにおいて、以下のようにして発泡弾性層の端部に存在する気泡を確認した。すなわち、マイクロスコープVH−5000(キーエンス社製)による画像解析にて、発泡弾性層の端部に存在する中空領域の直径を算出し、上記判断基準により、気泡の有無を判断した。
【0063】
(耐久性)
製造した各弾性ローラの耐久性を、図3に示す耐久性試験装置70を用いて、以下のようにして評価した。
この耐久性試験装置70は、筐体内部の下面に固定され、内部ヒータ72を備えた加熱ローラ71と、この加熱ローラ71の軸方向に沿って、その両側に設けられた保温材73と、加熱ローラ71と対向するように、筐体内部の上面に上下動可能に設けられた試験ローラ装着部74と、試験ローラ装着部74を上下に移動可能な押圧力調整手段75、例えば、押圧調整用マイクロメータとを備えている。なお、加熱ローラ71として、直径20mmの金属(ステンレス鋼、SUS304)製ローラを用いた。
各弾性ローラを、試験ローラ装着部74のベアリングに装着し、押圧力調整手段75を操作して、装着した弾性ローラ76を加熱ローラ71に圧接した。このとき、加熱ローラ71と弾性ローラ76との圧接部において、弾性ローラ76における発泡弾性層が内部に2mm凹陥するように、弾性ローラ76を固定した(すなわち、弾性ローラ76の外径と加熱ローラ71との外径の和よりも2mm短くなるように、弾性ローラ76の中心軸と加熱ローラ71の中心軸との距離dを調節した。)
次いで、外部ヒータ73及び内部ヒータ72を起動し、加熱ローラ71の表面温度を180℃に調節した。その後、試験ローラ装着部74に装備された駆動手段(図示しない)により、回転速度126rpmで50時間連続稼動し、弾性ローラ76における発泡弾性層の凹陥状態を解除後、弾性ローラ76を常温で24時間放置した。24時間放置後に、発泡弾性層端部の気泡の成長、すなわち気泡の大きさの変化を確認した後、さらに同条件で連続稼動した。連続稼働中、50時間ごとに、計200時間になるまで、発泡弾性層端部の気泡の成長を経過観察した。
耐久性は、上記(気泡の発生)試験と同様にマイクロスコープで発泡弾性層の端部を観察して、下記基準により、評価した。200時間稼働後においても、気泡の成長がない又は気泡がない場合を「○」(合格)とし、50時間ごとに観察した結果、200時間稼働前に、気泡の成長が確認できた場合を「×」(不合格)とした。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示されるように、本発明の弾性ローラの製造方法により製造された実施例1〜6の弾性ローラは、いずれも、気泡の発生がなく、耐久性が優れていた。
これに対して、貫通孔を設けた比較例1、並びに、切断位置を0.3mm又は7mmに設定した比較例2及び3は、ともに、気泡が発生し、耐久性が劣っていた。
【符号の説明】
【0066】
1、76 弾性ローラ
2 軸体
2A 筒状本体
2B 端部
2C 端面
3 発泡弾性層
5 内部空間
6 ゴム組成物
6a 基端側被覆部分
6b 先端側被覆部分
70 耐久性試験装置
71 加熱ローラ
72 内部ヒータ
73 保温材
74 試験ローラ装着部
75 押圧力調整手段
図1
図2
図3