(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、入射した光を光源に向かって反射する再帰反射シートが知られており、交通標識、案内標識、車両用のナンバープレート、広告看板、車線分離標、視線誘導標などに広く利用されている。
【0003】
このような再帰反射シートとして、例えば下記特許文献1が提案されている。下記特許文献1の再帰反射シートは、いわゆるカプセルタイプのプリズム型再帰反射シートと呼ばれるものであり、再帰反射シートの表面側から表面保護層、再帰反射素子層、結合材層の順序で、当該各層が積層される。
【0004】
結合材層には、再帰反射素子層の再帰反射素子面と結合する結合部が部分的に形成されており、結合材層のうち結合部以外の部分は、再帰反射素子面と離間している。結合部が部分的に形成されることによって再帰反射素子層と結合材層との間には空気層が形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の再帰反射シートでは結合部が他の部分に比べて硬くなる傾向にあるため、当該再帰反射シートを折り曲げると隣り合う結合部間の部位が屈曲し易い。そのため、再帰反射シートを折り曲げて曲面に設ける場合、隣り合う結合部間の部位が屈曲することにより、当該屈曲部位を基準として隣接する再帰反射素子同士が衝突するため十分に屈曲せず、曲面に追従し難いという懸念があった。また、再帰反射素子同士の衝突により、再帰反射素子が変形する場合や損傷する場合などの事態が生じうるため、再帰反射シートの反射性能が低減する懸念もあった。
【0007】
そこで、本発明は、反射性能を低減することなく、曲面追従性を向上し得る再帰反射シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明の再帰反射シートは、平面状の表面と、前記表面に対向するともに、複数のコーナーキューブ型再帰反射素子の反射面から形成される凹凸面状の裏面とを有する再帰反射層と、前記再帰反射層の前記裏面に対向して配置される層であって、前記再帰反射層と結合する結合部を有する結合材層と、を備える再帰反射シートにおいて、前記再帰反射シートの前記結合部が配置されている部位の少なくとも一部に、前記再帰反射シートの厚み方向に沿って、前記再帰反射層の前記表面から前記結合材層内まで延在するスリットを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の再帰反射シートでは、スリットが再帰反射層の表面から、再帰反射層を貫通して結合材層内まで延在して設けられている。
このようにした場合、スリットが設けられていない場合に比べて、再帰反射シートを屈曲させたとき、スリットが設けられた結合部で屈曲する。したがって、当該再帰反射シートの屈曲部位を基準として隣接する再帰反射素子同士が衝突したり、再帰反射素子が変形や損傷したりする場合などの事態が低減される。
この結果、再帰反射シートの反射性能を低減することなく、曲面追従性が向上する。
【0010】
また、前記再帰反射層の前記表面に、前記スリットの空隙を維持した状態で設けられる表面保護層をさらに備えることが好ましい。
【0011】
このようにした場合、再帰反射シートのうちスリットが配置される部位以外は、表面保護層が密着して配置されるため一段と硬くなるが、スリットが配置される部位は空隙を維持しているため硬くなり難い。そのため、再帰反射シートのうちスリットが配置される部位を、それ以外の部位に比べて、一段と屈曲し易くすることができる。
したがって、表面保護層を設けない場合や、スリットの空隙を維持せずに表面保護層を設ける場合に比べて、再帰反射シートを屈曲させたとき、スリットが設けられた結合部でより一段と屈曲する。よって、当該再帰反射シートの屈曲部位を基準として隣接する再帰反射素子同士が衝突したり、この衝突により反射素子が変形や損傷したりする場合などの事態が一段と低減される。
この結果、再帰反射シートの反射性能をいっそう低減することなく、曲面追従性が向上する。
【発明の効果】
【0012】
このように本発明によれば、反射性能を低減することなく、曲面追従性を向上し得る再帰反射シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に好適となる実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(1)第1実施形態
図1は、第1実施形態における再帰反射シート1の縦断面(再帰反射シートの厚み方向の断面)を示す図である。
図1に示すように、本実施形態における再帰反射シート1は、再帰反射層10、結合材層20を主な構成要素として備える。
【0016】
再帰反射層10は、平面状の表面13と、表面13に対向するとともに、複数のコーナーキューブ型再帰反射素子12の反射面から形成される凹凸面上の裏面14とを有する単一の層である。この再帰反射層10は、表面13側から入射した光を、裏面14と結合材層20によって形成される空間ARとの界面で内部全反射し、入射した光を再帰反射させる。
【0017】
再帰反射層の裏面14は、複数のコーナーキューブ型再帰反射素子12の反射面から形成される凹凸面である。複数のコーナーキューブ型再帰反射素子12は、入射した光を再帰反射させるのに適した反射面を有している限り特に限定されるものではない。
【0018】
特に、複数の三角錐などの多面体のコーナーキューブ型再帰反射素子を隙間なく配置して裏面14が形成された場合、反射性能が優れるので好ましい。
【0019】
このような再帰反射層10の材料としては、光学的特性に優れたものがよい。例えば、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ化ビニリデン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ウレタン系樹脂などが挙げられる。特に、フッ化ビニリデン系樹脂、アクリル系樹脂が好ましい。
【0020】
フッ化ビニリデン系樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(メチルビニルエーテル)共重合体などが挙げられる。
【0021】
アクリル系樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリメタクリル酸エチル樹脂、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、ポリアクリル酸プロピル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸2エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0022】
なお、耐候性及び柔軟性を向上させる観点では、フッ化ビニリデン系樹脂とアクリル系樹脂とを含有する樹脂組成物で形成される再帰反射層10であることが好ましい。耐候性に優れるフッ化ビニリデン系樹脂と柔軟性に優れるアクリル系樹脂とを含む樹脂組成物により層を形成することで、再帰反射層10の耐候性及び柔軟性に優れたものにすることができる。
【0023】
結合材層20は、再帰反射層10の裏面14に対向して配置される層であって、再帰反射層10と結合する結合部22を部分的に有する単一の層である。この結合材層20は、結合部22が部分的に形成されることにより、再帰反射層10と結合材層20との間に空間ARを複数形成する。
【0024】
また、
図2に示すように、結合材層20の結合部22の横断面を、再帰反射層10の表面13側から正面視した場合、結合部22は網目状になっており、結合部22により区画された、六角形状の独立した空間ARが複数形成される。そして、結合部22には、スリット30が設けられている部分と、スリット30が設けられていない部分とが存在する。
【0025】
このような結合材層20の弾性率は、再帰反射層10の弾性率よりも低くされる。結合材層20の材料としては、例えば、再帰反射層10と同様の樹脂などが挙げられる。
【0026】
再帰反射層10との密着性をより高める場合、結合材層20は、再帰反射層10に含まれる同様の樹脂を含む樹脂組成物より形成されることが好ましい。さらに、着色剤、改質剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0027】
スリット30は、再帰反射シート1のうち結合部22が配置される部位に、再帰反射層10の表面13から裏面14に向かって結合材層20内まで延在して設けられている。言い換えると、スリット30は再帰反射層10を貫通して結合材層20に到達し、スリット30の先端が結合材層20内に留まっている。そのため、再帰反射シート1にスリット30を設けたとしても、再帰反射シート1がスリット30によって分断されることはない。
【0028】
本実施形態の場合、スリット30の断面(再帰反射シートの厚み方向の断面)は略三角形状とされ、結合材層20内に近づくに従ってスリット30の先端が徐々に細くなっている。また、本実施形態の場合、スリット30は、
図2に示すように、網目状の結合部22のうち図面の上下方向に沿ってのみ設けられており、図面の左右方向には設けられていない。
【0029】
粘着剤層40は、結合材層20において結合部22が存在する側の一面とは反対側の他面に設けられる。この粘着剤層40の材料としては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ニトリルゴム系樹脂、シリコーンゴム系樹脂などが挙げられる。
【0030】
なお、再帰反射シート1が未使用のときには、粘着剤層40において結合材層20に対向する一面とは反対側の他面に剥離層50が積層され、当該粘着剤層40にゴミなどが付着することが防止される。一方、再帰反射シート1を使用するときには、剥離層50は粘着剤層40から剥離される。
【0031】
以上のとおり、本実施形態の再帰反射シート1では、結合部22が配置される部位の厚み方向に沿って、再帰反射層10の表面から結合材層20まで延在するスリット30が設けられる。
【0032】
このため、再帰反射シート1はスリット30が設けられた結合部22で屈曲する。したがって、この再帰反射シート1では、当該再帰反射シート1の屈曲部位を基準として隣接する再帰反射素子12同士が衝突したり、再帰反射素子12が変形や損傷したりする場合などの事態が低減される。こうして、反射性能を低減することなく、曲面追従性を向上し得る再帰反射シートを提供することができる。
【0033】
(2)第2実施形態
図3は、第2実施形態における再帰反射シート2の縦断面(再帰反射シートの厚み方向の断面)を示す図である。
図3に示すように、本実施形態における再帰反射シート2は、表面保護層60を新たに有している点で、第1実施形態の再帰反射シート1と相違する。
【0034】
表面保護層60は、再帰反射層10の表面13を保護する光透過性の層であり、再帰反射層10の表面13を覆うように設けられている。この表面保護層60の材料としては、例えば、再帰反射層10と同様のものが挙げられる。なお、表面保護層60は、再帰反射シート2の外部から光が入射する側の層とされる。
【0035】
また、表面保護層60の弾性率は、結合材層20の弾性率と同等、又は結合材層20の弾性率より低くされる。表面保護層60の材料としては、例えば、結合材層20と同様の樹脂などが挙げられる。
【0036】
本実施形態における再帰反射シート2に設けられたスリット32は、再帰反射層10と表面保護層60とに囲まれ、当該スリット32内には空隙が形成される。本実施形態の場合、スリット32の断面が略三角形状とされ、結合材層20に近づくにしたがってスリット32の先端が徐々に細くなっている。
【0037】
このような本実施形態の再帰反射シート2では、再帰反射シート2のうちスリット32が配置される部位以外は、表面保護層60が密着して配置されるため一段と硬くなるが、スリット32が配置される部位はスリット32の空隙を維持しているため硬くなり難い。そのため、再帰反射シート2のうちスリット32が配置される部位を、それ以外の部位に比べて、一段と屈曲し易くすることができる。
したがって、表面保護層60を設けない場合や、スリット32の空隙を維持せずに表面保護層60を設ける場合に比べて、再帰反射シート2を屈曲させたとき、スリット32が設けられた結合部22でより一段と屈曲する。よって、当該再帰反射シート2の屈曲部位を基準として隣接する再帰反射素子12同士が衝突したり、この衝突により再帰反射素子12が変形や損傷したりする場合などの事態が一段と低減される。
この結果、再帰反射シート2の反射性能をいっそう低減することなく、曲面追従性が向上し得る再帰反射シートを提供することができる。
さらに、再帰反射層10の表面13やスリット32内へのごみの浸入や付着、また水滴等の外的刺激から保護されるため、再帰反射シート2の耐久性を向上させることができる。
【0038】
(3)第3実施形態
図4は、第3実施形態における再帰反射シート3の縦断面(再帰反射シートの厚み方向の断面)を示す図である。
図4に示すように、本実施形態における再帰反射シート3は、スリット34の空隙内が樹脂70で満たされている点で、第1実施形態の再帰反射シート1と、第2実施形態の再帰反射シート2と相違する。
【0039】
本実施形態における再帰反射シート3に設けられたスリット34は、スリット34の断面が略三角形状とされ、結合材層20に近づくにしたがってスリット34の先端が徐々に細くなっている。そして、スリット34の空隙内は樹脂70で満たされている。この樹脂70の弾性率は、表面保護層60の弾性率と同等、又は表面保護層60の弾性率より低くされる。樹脂70の材料としては、例えば、表面保護層60と同様の樹脂などが挙げられる。
【0040】
このような本実施形態の再帰反射シート3では、再帰反射シート3に設けられたスリット34の空隙内が、柔軟性の高い樹脂70で満たされている。
再帰反射シート3を屈曲させた際、曲げの挙動に追従してこの樹脂70が伸長する。そのため、再帰反射シート3のうちスリット34が配置される部位を、それ以外の部位に比べて、一段と屈曲し易くすることができる。
したがって、当該再帰反射シート3の屈曲部位を基準として隣接する再帰反射素子12同士が衝突したり、この衝突により再帰反射素子12が変形や損傷したりする場合などの事態がより一段と低減される。
この結果、再帰反射シート3の反射性能をいっそう低減することなく、曲面追従性が向上し得る再帰反射シートを提供することができる。
さらに、スリット34内へのごみの浸入や付着、また水滴等の外的刺激から保護されるため、再帰反射シート3の耐久性を向上させることができる。
【0041】
(4)変形例
以上、第1実施形態〜第2実施形態が一例として挙げられた。しかしながら本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0042】
上記実施形態において、空間ARの形状は六角形状とされた。しかしながら六角形状に限定されるものではなく、三角形状、四角形状、五角形状などの多角形状、円形状など任意の形状とすることができる。
【0043】
上記実施形態では、結合材層20は単一の層とされた。しかしながら、結合材層は必要に応じて、結合材層20と組成が同一もしくは相異なる複数の層で構成されていても良い。また、結合材層20を複数の層で構成するとともに、粘着剤層40側の最外層に最も弾性率が高い層を設ける場合、スリット30およびスリット32は、この最外層内まで延在しても良い。
【0044】
上記実施形態では、スリット30および32の断面の形状は、略三角形状とされた。しかしながらこれに限定されるものではなく、矩形状、台形状など任意の形状とすることができる。
【0045】
上記実施形態では、スリット30および32は、再帰反射シートのうち結合部22が配置される部位の一部であって、一方向に沿ってのみ設けられた。しかしながらこれに限定されるものではなく、結合部22が配置される部位の全部や、二方向に沿うなど任意の形状とすることができる。