特許第6673620号(P6673620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6673620生体用粘着剤組成物および生体用粘着シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673620
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】生体用粘着剤組成物および生体用粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/00 20060101AFI20200316BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20200316BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20200316BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20200316BHJP
   A61L 15/58 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C09J133/00
   C09J11/06
   C09J133/06
   C09J7/20
   A61L15/58
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-6703(P2016-6703)
(22)【出願日】2016年1月16日
(65)【公開番号】特開2017-125167(P2017-125167A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2018年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井ヶ田 和博
(72)【発明者】
【氏名】前山 吉寛
【審査官】 井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−015537(JP,A)
【文献】 特開平11−263961(JP,A)
【文献】 特表平10−500328(JP,A)
【文献】 特開平08−325307(JP,A)
【文献】 特開2009−261727(JP,A)
【文献】 特開平09−132525(JP,A)
【文献】 特開2001−254063(JP,A)
【文献】 特開2012−062478(JP,A)
【文献】 特開2004−002782(JP,A)
【文献】 特開平11−035608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
A61L 15/00− 15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解パラメータが9.5以下の(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位(A)を全構成単位に対して30質量%以上65質量%以下含み、かつ溶解パラメータが9.5を超える(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位(B)を全構成単位に対して35質量%以上含む(メタ)アクリル系重合体と、酸価エチレンの付加モル数が10mol〜100molの範囲であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルとを含有し、
前記構成単位(B)が、メチルアクリレートまたはメチルメタクリレートの少なくとも一つ以上を含み、
前記(メタ)アクリル系重合体の合計100質量部に対する界面活性剤の総量が3質量部〜5質量部である生体用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記構成単位(A)がn−ラウリルメタクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレートの少なくとも一つ以上である請求項1に記載の生体用粘着剤組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の生体用粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有する生体用粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体用粘着剤組成物および生体用粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚に代表される生体に直接貼りつける生体用粘着シートは、たとえば創傷の保護や治療を目的とする絆創膏類、各種疾病の治療や予防を目的とし経皮吸収製剤と呼ばれる貼付剤類、消炎、鎮痛を目的とする湿布剤、テープ剤、パップ剤、さらに付け爪、付け睫毛、付けぼくろ、かつらの各種用途に広く用いられている。
このような生体用粘着シートは、たとえば紙、不織布、各種樹脂に代表される各種基材と生体用粘着剤組成物を形成する粘着剤層とを積層した態様で広く用いられている。
【0003】
水分を多く含み、生体に対してたとえばかぶれを抑制し、かつ生体との粘着力が適度であるため、一般に、生体用粘着剤組成物には、エマルションタイプの(メタ)アクリル系共重合体を含む組成物が広く用いられている。
【0004】
生体用粘着剤組成物は広く知られている。たとえば、特許文献1は、アルキル基の炭素数3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、アルキルの炭素数4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、官能性単量体と、その他の単量体とをそれぞれ特定量で含み、かつガラス転移点が10℃以下のアクリル系(共)重合体を含有する医療用粘着剤組成物を開示している。特許文献1によれば、アルキル基の炭素数4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量が粘着剤組成物中で30重量%を超えれば、粘着力が高くなり過ぎて角質の剥離が起きるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−132525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生体用粘着シートには、従来よりも長時間の生体への貼付が求められつつある。たとえば24時間以上生体用粘着シートを生体に貼付する場合、生体からの発汗により、粘着力の低下が起き、意図せぬ剥離が起きる。この貼付中の剥離を抑制するため生体用粘着シートの粘着力を高めると、使用後つまり生体用粘着シートを生体から剥がす際に、強い痛みを生じる場合がある。
つまり、生体用粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有する生体用粘着シートにおいて、貼付中に長時間剥離せず、かつ使用後の剥離時の痛みを抑制することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、貼付中に長時間剥離せず、かつ使用後の剥離時の痛みを抑制できる生体用粘着剤組成物および生体用粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有する生体用粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
[1]溶解パラメータが9.5以下の(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位(A)を全構成単位に対して30質量%以上65質量%以下含み、かつ溶解パラメータが9.5を超える(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位(B)を全構成単位に対して35質量%以上含む(メタ)アクリル系重合体と、界面活性剤とを含有する生体用粘着剤組成物である。
【0009】
[2]前記構成単位(A)がn−ラウリルメタクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレートの少なくとも一つ以上である[1]に記載の生体用粘着剤組成物である。
【0010】
[3]前記構成単位(B)がメチルアクリレートまたはメチルメタクリレートの少なくとも一つ以上である[1]または[2]に記載の生体用粘着剤組成物である。
【0011】
[4][1]から[3]のいずれか一つに記載の生体用粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有する生体用粘着シートである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、貼付中に長時間剥離せず、かつ使用後の剥離時の痛みを抑制できる生体用粘着剤組成物および生体用粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有する生体用粘着シートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、各成分に該当する物質が組成物中に複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0015】
本明細書において「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの両方を包含する用語であり、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルの両方を包含する用語である。
本明細書において「生体用粘着剤組成物」を単に「粘着剤組成物」または「組成物」とも称する。
本明細書において「生体用粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有する生体用粘着シート」を単に「生体用粘着シート」または「粘着シート」とも称する。
本明細書において「(メタ)アクリル系単量体」は、アクリロイル基とメタクリロイル基の少なくともいずれか一つを有する単量体である。
【0016】
[生体用粘着剤組成物]
本発明の生体用粘着剤組成物は、溶解パラメータが9.5以下の(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位(A)を全構成単位に対して30質量%以上65質量%以下含み、かつ溶解パラメータが9.5を超える(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位(B)を全構成単位に対して35質量%以上含む(メタ)アクリル系重合体(以下、「(メタ)アクリル系重合体」または「重合体」ともいう。)と、界面活性剤とを含有する。
前記重合体は、たとえば(メタ)アクリル系単量体と界面活性剤と水と重合開始剤とを用いて乳化重合により得られる。
本発明の生体用粘着剤組成物は、通常、生体用粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有する粘着シートに用いられる。生体用粘着シートの詳細は後述する。
【0017】
本発明者は、本発明の生体用粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有する粘着シートが、貼付中に長時間剥離せず、かつ使用後の剥離時の痛みを抑制できる理由を以下のように考えている。
本発明の粘着シートを、貼付中に長時間貼り付けても剥離せずかつ使用後に剥離時の痛みを抑制するためには、粘着剤組成物が生体との親和性を有することと、貼付時の生体から発生する水分の吸収を抑制することとが必要である。
本発明の粘着剤組成物は、溶解パラメータが9.5以下の(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位が30質量%以上65質量%以下含む重合体を含有するため、生体への貼付時に発汗に代表される水分による粘着剤組成物が過度の水分の吸収に起因する可塑化や膨潤が抑制でき、粘着力の低下、意図せぬ剥離が起こらず、かつ経時での粘着力の過度の上昇を抑えられ、剥離時の痛みを抑制できる。また、溶解パラメータが9.5を超える(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位が35質量%以上含む重合体を含有するため、生体との親和性が良好となり、長時間貼り付けても剥離しない。よって、本発明の生体用粘着剤組成物は、貼付中に長時間剥離せずかつ使用後の剥離時の痛みを抑制できる。
【0018】
[(メタ)アクリル系重合体]
本発明の粘着剤組成物が含む(メタ)アクリル系重合体は、溶解パラメータが9.5以下の(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位(A)と、溶解パラメータが9.5を超える(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位(B)とを特定の割合で含む。そのため、本発明の粘着シートは、貼付中に長時間剥離せず、かつ使用後の剥離時の痛みを抑制できる。
【0019】
なお、本発明において、溶解パラメータは、Fedorの推算式より算出した値である。具体的には、構造による凝集エネルギー密度(Ecoh)とモル容積(V)の値から、ΣEcohとΣVの値を算出し下記の式で求めた値である。
[溶解パラメータ]=[ΣEcoh/(ΣV×4.182)]1/2
【0020】
前記重合体が含む溶解パラメータが9.5以下の(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位(A)は、たとえばn−ラウリルメタクリレート(溶解パラメータ 9.02)、2−エチルヘキシルアクリレート(同 9.23)およびn−ブチルメタクリレート(同 9.45)のいずれかに由来する構成単位が挙げられる。特に、前記構成単位(A)が、n−ラウリルメタクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレートのいずれかに由来する構成単位であれば、前記重合体のガラス転移温度が適度に低くなるため、本発明の粘着シートは長時間生体に貼付しても剥離せず好ましい。
【0021】
前記重合体が含む溶解パラメータが9.5を超える(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位(B)は、たとえばメチルアクリレート(溶解パラメータ 10.56)、エチルアクリレート(同 10.21)、プロピルアクリレート(同 9.96)、n−ブチルアクリレート(同 9.77)、メチルメタクリレート(同 9.94)、エチルメタクリレート(同 9.73)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(同 9.94)、アクリル酸(同 14.05)およびメタクリル酸(同 12.54)のいずれかに由来する構成単位が挙げられる。特に、前記構成単位(B)が、メチルアクリレートまたはメチルメタクリレートのいずれかに由来する構成単位であれば凝集力が適度になるため、本発明の粘着シートは長時間生体に貼付しても剥離せず好ましい。
【0022】
前記重合体は、本発明の優れた効果を損なわない限り、前記構成単位(A)または前記構成単位(B)を形成する単量体以外の単量体に由来する構成単位として含んでもよい。このような単量体は、たとえば蟻酸ビニル、酢酸ビニルに代表される飽和脂肪酸ビニルエステル類、N-ビニル-2-プロピオラクタム、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-2-ヘプトラクタムに代表されるビニルラクタム類が挙げられる。
【0023】
前記重合体の質量に対する前記構成単位(A)と前記構成単位(B)との質量の和の比は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、100%がさらに好ましい。前記質量比が90%以上であれば、前記重合体が(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位をより多く含むため、本発明の粘着剤組成物は生体への親和性がより適度に高くなり、長時間剥離しない効果をより奏する。
【0024】
貼付中に長時間剥離せず使用後の剥離時の痛みを抑制できかつ屈曲性が優れるため、前記重合体のガラス転移温度は、−60℃〜10℃の範囲が好ましく、−50℃〜−20℃の範囲がより好ましい。
なお、本発明において屈曲性とは、たとえば肘や膝に代表される屈曲する生体の部位に粘着シートを貼付した際、粘着シートが剥離しない性能を意味する。
【0025】
本発明におけるガラス転移温度は、前記重合体について、下記式の計算により求められる絶対温度(K)をセルシウス温度(℃)に換算した値である。
【0026】
【数1】
【0027】
式中、Tg1、Tg2、・・・・・及びTgnは、単量体1、単量体2、・・・・・および単量体nそれぞれの単量体を単独重合体としたときの絶対温度(K)で表されるガラス転移温度である。m1、m2、・・・・・およびmnは、それぞれの単量体の質量分率である。
なお、「単独重合体としたときの絶対温度(K)で表されるガラス転移温度」は、その単量体を単独で重合して製造した単独重合体の絶対温度(K)で表されるガラス転移温度をいう。
単独重合体のガラス転移温度は、その単独重合体を、示差走査熱量測定装置(DSC)(セイコーインスツルメンツ社製、EXSTAR6000)を用い、窒素気流中、測定試料10mg、昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られたDSCカーブの変曲点を、単独重合体のガラス転移温度としたものである。
【0028】
代表的な単量体の「単独重合体のセルシウス温度(℃)で表されるガラス転移温度」は、n−ラウリルメタクリレートは−65℃であり、2−エチルヘキシルアクリレートは−76℃であり、n−ブチルメタクリレートは21℃であり、n−ブチルアクリレートは−57℃であり、メチルアクリレートは5℃であり、エチルアクリレートは−27℃であり、メチルメタクリレートは103℃であり、アクリル酸は163℃である。
たとえば、これら代表的な単量体に由来する構成単位を含むことで、前記重合体の前述のガラス転移温度を適切に調整可能である。
【0029】
[界面活性剤]
本発明の粘着剤組成物は、界面活性剤を含有する。なお、本発明の粘着剤組成物が含有する界面活性剤は、同一分子内に疎水基および親水基を有する。
【0030】
本発明の粘着剤組成物が含有する界面活性剤は、特に制約はなく、乳化重合に用いられる通常の各種界面活性剤、たとえばノニオン系界面活性剤類、アニオン系界面活性剤類、カチオン系界面活性剤類および両性界面活性剤類を使用できる。これらの界面活性剤は、単独または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0031】
より詳しくは、前記ノニオン系界面活性剤類として、たとえばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルに代表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルに代表されるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートに代表されるソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートに代表されるポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートに代表されるポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドに代表されるグリセリン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマーが挙げられる。
【0032】
また、前記アニオン系界面活性剤類として、たとえばオレイン酸ナトリウムに代表される高級脂肪酸塩類、たとえば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムに代表されるアルキルアリールスルホン酸塩類、ラウリル硫酸ナトリウムに代表されるアルキル硫酸エステル塩類、ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムに代表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムに代表されるポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類、モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムに代表されるアルキルスルホコハク酸エステル塩類が挙げられる。
【0033】
また、前記カチオン界面活性剤類として、たとえばラウリルアミンアセテートに代表されるアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリドに代表される第4級アンモニウム塩、ポリオキシエチルアルキルアミンが挙げられる。
【0034】
また、両性界面活性剤類として、たとえばラウリルベタインに代表されるアルキルベタインが挙げられる。
【0035】
さらに、共重合性の不飽和基を分子構造内に持つ、いわゆる反応性界面活性剤も好適に使用できる。
【0036】
本発明の粘着剤組成物が含有する界面活性剤は、生体用粘着剤組成物に十分な実績があるため、10mol〜100molの範囲、好ましくは20mol〜70molの範囲の酸価エチレンの付加モル数を有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルが好ましい。
【0037】
なお、このような界面活性剤として、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルである第一工業製薬株式会社製 商品名ノイゲンEM−230D、ノイゲンEM−250、青木油脂工業株式会社製 商品名BLAUNON N−520、N−550、日油株式会社製 商品名ノニオンNS−230、NS−270がそれぞれ市販されている。
【0038】
本発明の粘着剤組成物が含有する界面活性剤の総量は、たとえば前記重合体の合計100質量部に対して1質量部〜10質量部の範囲、好ましくは3質量部〜5質量部の範囲である。
【0039】
[その他の添加剤]
本発明の粘着剤組成物が含む前記重合体は、重合開始剤を用いて調製できる。
前記重合開始剤として、たとえば過硫酸カリウム、重亜硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムに代表される過硫酸塩やアゾビスイソブチロニトリルに代表されるアゾ化合物が挙げられる。
前記重合体の調製時に使用する前記重合開始剤の総量は、たとえば前記重合体の総量100質量部に対して0.01質量部〜5質量部の範囲、好ましくは0.1〜1質量部の範囲である。
【0040】
前記重合体は、本発明の優れた効果を損なわない限り、連鎖移動剤を含んでもよい。このような連鎖移動剤は、たとえばアルキルメルカプタン、チオグリコール、2−メルカプトプロピオン酸に代表されるメルカプタン化合物が挙げられる。
【0041】
本発明の粘着剤組成物は、本発明の優れた効果を損なわない限り、各種顔料、各種染料、粘着付与剤、無機充填材を含んでもよい。また、前記(メタ)アクリル系重合体以外の各種樹脂、オリゴマーを含んでもよい。
【0042】
本発明の粘着剤組成物は、各種薬剤を含むことでいわゆる経皮吸収製剤に適用できる。このような各種薬剤は、たとえば冠血管拡張剤、抗不整脈剤、狭心症剤、血圧降下剤、強心剤、気管支喘息剤(気管支拡張剤)、抗高圧剤、カルシウム拮抗剤、消炎鎮痛剤、皮膚疾患用剤、局所麻酔剤、降圧利尿剤、催眠鎮静剤、中枢神経作用剤、精神活力剤、ホルモン剤、サルファ剤、抗結核剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、鎮痛剤が挙げられる。
【0043】
[生体用粘着シート]
本発明の生体用粘着シートは、生体用粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有する。より具体的には、本発明の生体用粘着シートは、生体用粘着剤組成物をたとえば剥離紙上に塗布後乾燥させて粘着剤層とし、次いで紙、不織布、各種樹脂に代表される各種基材と積層した態様である。
【0044】
本発明の粘着シートの態様例は、絆創膏類、ドレッシング材、ドレープ材である。
また、本発明の粘着シートの別の態様例は、経皮吸収製剤と呼ばれる貼付剤類、湿布剤、テープ剤、パップ剤である。
また、本発明の粘着シートの別の態様例は、付け爪、付け睫毛、付けぼくろ、かつら、一時的に人体に貼るボディーシールやタトゥーシール、顔のしわやたるみを目立ちにくくするリフトアップテープ、二重まぶたに矯正するアイテープ、顔パック用のフェイスマスクである。
また、本発明の粘着シートの別の態様例は、各種治療や検査に用いる医療機器が備える電極(生体用電極)である。
さらに、本発明の粘着シートは、人体のみならず、たとえば犬、猫、兎に代表される愛玩動物にも適用できる。
【0045】
本発明の粘着シートは、生体から剥離した際、生体上に粘着剤組成物の一部の残存、いわゆる糊残りがない。一般に生体用粘着シートの使用時に糊残りが生じる場合、剥離後に別途糊をふき取る作業が必要となり不具合となる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
温度計、攪拌機、還流冷却器を備えた反応容器に、脱イオン水30質量部を仕込み、内温を70℃に昇温させた。一方、別の反応容器にイオン交換水20質量部、界面活性剤として、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(第一工業製薬株式会社製 商品名ノイゲンEM−230D:有効成分濃度70質量%)5.7質量部(有効成分:4質量部)を仕込み攪拌して溶解させ、次いでこれに溶解パラメータが9.5以下の(メタ)アクリル系単量体である2エチルヘキシルアクリレート(2EHA)30質量部と、溶解パラメータが9.5を超える(メタ)アクリル系単量体であるメチルアクリレート(MA)68質量部およびアクリル酸(AA)2質量部よりなる単量体混合物を加えて攪拌し、単量体プレミックスを得た。反応容器の内容物を窒素気流下に攪拌しながら加熱し、反応容器内の水温が70℃に達した時点で重亜硫酸ナトリウム0.03質量部を加えた後、重合開始剤として、2%過硫酸カリウム水溶液20質量部(有効成分:0.4質量部)および単量体プレミックスを逐次添加して重合開始させ、約5時間重合反応を行った。重合反応終了後、同温度で約2時間攪拌を継続してから冷却し実施例1の組成物を得た。
なお、得られた組成物のpHは2.4であり、粘度(BH型、20rpm、25℃で測定)は257mPa・sであり、固形分は59.1%であり、ガラス転移温度は−24℃であった。
【0048】
[実施例2〜12、比較例1〜6]
表1に記載した組成にした以外は、実施例1と同様の手順でそれぞれの組成物を得た。
なお、表1において、組成における各数値は質量部を表し、また、(メタ)アクリル系単量体名の後の括弧内に記載した数値は溶解パラメータを表す。
また、表1において、「LMA」はn−ラウリルメタクリレートの、「2EHA」は2−エチルヘキシルアクリレートの、「BMA」はn−ブチルメタクリレートの、「BA」はn−ブチルアクリレートの、「MA」はメチルアクリレートの、「EA」はエチルアクリレートの、「MMA」はメチルメタクリレートの、「AA」はアクリル酸の、それぞれの略称である。
また、表1において、「EM−230D」は第一工業製薬株式会社製 商品名ノイゲンEM−230Dの、「EM−250」は商品名ノイゲンEM−250の、「NS-270」は日油株式会社製 商品名ノニオンNS-270の、それぞれの略称である。また、希釈されて市販されている界面活性剤は、有効成分に換算後の質量部を記載した。
さらに、表1において、「−」は、該当成分を配合していないことを意味する。
【0049】
[評価]
各実施例および比較例の粘着剤組成物について、保持性、痛み、糊残りおよび屈曲性のそれぞれの項目を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
各評価に用いる試験片は下記の手順にて作製した。
各実施例および比較例のそれぞれの粘着剤組成物を剥離紙(王子タック株式会社製 商品名 G7B−J)上に乾燥後の質量が70〜90g/mの範囲になるように塗工し、100℃で10分間の加熱乾燥後、不織布(日清紡ホールディングス株式会社製 商品名 オイコスAP20600400)と貼り合せ、生体用粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有する生体用粘着シートである試験片とした。試験片の大きさは5cm角である。この試験片を用いて、以下の各項目を評価した。
【0051】
1、保持性
上記で作製した試験片をヒトの皮膚に貼付後24時間保持し、剥がれの有無を目視にて確認した。以下の基準で評価した。
◎:剥がれがない。
○:端の部分に若干の剥がれがあるが実用上問題ない。
×:剥落する。
【0052】
2、痛み
保持性の評価とあわせて評価した。ヒトの皮膚に貼付後24時間保持し、次いで試験片を急速に手で剥離した。痛みの具合を以下の基準で評価した。
◎:剥離の際、痛みがない。
○:剥離の際、痛みが若干あるが実用上問題ない。
×:剥離の際、痛みを強く感じる。
【0053】
3、糊残り
上記で作製した試験片をヒトの皮膚に24時間貼付後、手で剥離した。次いで皮膚上の糊残りの有無を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
◎:剥がした後の糊残りが全くない。
○:糊残りが若干あるが、実用上問題ない。
×:糊残りが顕著であり不具合がある。
【0054】
4、屈曲性
上記で作製した試験片を、90度曲げた肘に貼付後、直ちに屈曲と延伸とを10回繰り返した。試験片の剥がれの有無を以下の基準で評価した。
◎:剥がれがない。
○:端の部分に若干の剥がれがあるが問題ない。
×:剥がれがある。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示した通り、各実施例の粘着剤組成物を備えた試験片は、すべての評価項目で合格している。一方、各比較例の粘着剤組成物を備えた試験片は、いずれかの評価項目で不具合があった。たとえば、比較例1の粘着剤組成物を備えた試験片は、保持性の評価では合格しているが、皮膚からの剥離の際に痛みを生じさせる不具合がある。
【0057】
なお、実施例1〜12の生体用粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位のみからなる重合体をいずれも含む。つまり、実施例1〜12の生体用粘着剤組成物が含有する重合体において、重合体の質量に対する構成単位(A)および構成単位(B)の質量の和の比はいずれも100%である。
【0058】
以上示したとおり、本発明の生体用粘着剤組成物に由来する粘着剤層を有する生体用粘着シートは、貼付中に長時間剥離せず、かつ使用後の剥離時の痛みを抑制できる。