特許第6673686号(P6673686)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6673686コンクリート構造物の塩害診断用モルタルパネルおよびそれを用いた塩害診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673686
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の塩害診断用モルタルパネルおよびそれを用いた塩害診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/04 20060101AFI20200316BHJP
   C04B 22/04 20060101ALI20200316BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   G01N17/04
   C04B22/04
   C04B28/02
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-243762(P2015-243762)
(22)【出願日】2015年12月15日
(65)【公開番号】特開2017-110954(P2017-110954A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久本 雅則
(72)【発明者】
【氏名】石田 秀朗
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 実
【審査官】 野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−051889(JP,A)
【文献】 特開2014−105136(JP,A)
【文献】 特開2015−224906(JP,A)
【文献】 特開2006−064466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00−04
C04B 22/04
C04B 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルタルパネル全体の金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末の添加量がセメントと砂の合量100質量部に対して、1〜40質量部であり、モルタルパネルの暴露面における金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末粒子の表面の露出数が1cm当たり80個から3000個であることを特徴とするコンクリート構造物の塩害診断用モルタルパネル。
【請求項2】
金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末の粒子径が、45〜500μmであることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の塩害診断用モルタルパネル。
【請求項3】
金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末が、鉄粉または銅粉であることを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート構造物の塩害診断用モルタルパネル。
【請求項4】
外部からの塩分でモルタルパネル内の金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末の腐食が進行し、モルタルパネルの変色により、モルタルパネルを設置した箇所のコンクリート構造物の塩害を診断することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の塩害診断用モルタルパネルを用いた塩害診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木建築分野で使用されるコンクリート構造物の塩害診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、海岸近くや融雪剤を使用するコンクリート構造物の塩害による劣化が課題となっている。コンクリート構造物の塩害による劣化とは、外部からの塩分がコンクリート構造物の内部に浸透し、コンクリート構造物内部に設置した鉄筋の酸化皮膜が破壊され、鉄筋が腐食膨張し、コンクリート構造物がひび割れを起こして早期に劣化してしまう現象である。
【0003】
コンクリート構造物の塩害による劣化の程度は、外部からの塩分量によるところが大きく、例えば、海岸近くのコンクリート構造物の場合は、海側部分と山側部分では海側部分の方がコンクリート構造物の塩害による劣化が激しく、また、海側部分においても飛来塩分の多い場所の方が塩害による劣化の程度は大きくなる。
【0004】
塩害により劣化したコンクリート構造物は、例えば、断面修復工法と呼ばれる方法で修復する。この断面修復工法は、コンクリートの劣化部分をハツリ除去し、ポリマーセメント系モルタルの断面修復材でコンクリート断面を復元する工法である。コンクリート構造物のそれぞれの箇所で塩分量を細かく測定すれば、コンクリート構造物全面を断面修復することなく、塩分量の多い箇所のみを修復すれば良く、コストダウンに繋がるが、従来は以下の通り、コンクリート構造物の塩分量を測定する手法は手間がかかる等課題があった。
【0005】
コンクリート構造物の塩分量を測定する手法としては、コンクリート構造物のそれぞれの箇所でコアリングやドリル穿孔によるコンクリート粉のサンプリングにより行っているが、実構造物に損傷を与えることや塩分量の測定に手間がかかることから、より簡易的な測定方法が求められていた。
【0006】
簡易的な方法としては、JIS Z 2381に規定されたドライガーゼ法や、建設省土木研究所が提案した土研法があり、これらはコンクリート構造物の設置箇所の飛来塩分量を測定するものである。前者は、海岸線近くで発生する波しぶきの様な大きな粒子は捕集されにくく、また後者は、微細な粒子が捕集できない等の課題があり、コンクリート構造物近傍の塩分量をより正確に評価することは難しかった(非特許文献1)。
【0007】
そこで、モルタル板をコンクリート構造物に取り付けて、それを一定期間後に回収し、塩分量を測定することにより、コンクリート構造物が設置されている箇所の塩分量を評価する方法が提案されている(非特許文献2、3、特許文献1)。本方法は、コンクリート構造物を損傷することなく、また、細かい範囲での塩分量を把握することができる。しかしながら、回収したモルタル板の塩分量は、JIS A 1154の方法で、吸光光度法やイオンクロマト法といった高度な測定方法で求める必要があり、より簡易に塩分量を推定することが望まれていた。
【0008】
例えば、鋼橋梁の適用判定として、鉄板の酸化腐食を利用したワッペン式暴露試験と呼ばれる環境診断ツールが提唱されている(非特許文献4)。これは色の変化を利用したものでは無く、炭素鋼などの金属板の酸化腐食による減量を評価するものであり、金属板とコンクリートを複合しておらず、塩害環境でなくても金属板が腐食するため、コンクリート構造物に適用することは困難である。
【0009】
また、金属薄膜の色の変化により、腐食性ガス環境を判断する方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、具体的な金属薄膜の種類が示されておらず、腐食性ガスの種類も不明である。さらに、金属薄膜とコンクリートを複合しておらず、塩害環境でなくても金属薄膜が腐食するため、コンクリート構造物の塩害診断をすることは困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】佐々木慎一、堺孝司、:コンクリート中への塩化物の浸透と海洋環境条件、コンクリート工学年次論文集、Vol.16、No.1(1994)
【非特許文献2】佐伯竜彦、能勢陽祐、菊池道生:薄板モルタル供試体を用いたミクロ塩害環境評価手法に関する基礎的検討、コンクリート工学年次論文集、Vol.33、No.1(2011)
【非特許文献3】佐伯竜彦、能勢陽祐、菊池道生:薄板モルタル供試体によるミクロ塩害環境評価の可能性に関する検討、コンクリート技術大会(会津)、pp138−139(2012)
【非特許文献4】例えば 安波博道、金井浩一、中島和俊、ワッペン式暴露試験によるニッケル系高耐候性鋼の適用評価、土木技術資料50−11(2008)
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5686349号
【特許文献2】特開2005−257532号公報
【0012】
本発明者らは、鋭意努力を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末を含有する塩害診断用モルタルパネルをコンクリート構造物の表面に設置することによって、コンクリート構造物が設置された箇所の塩害の診断をモルタルパネルの色の変色により容易に診断できる、コンクリート構造物の塩害診断用モルタルパネルおよびそれを用いた塩害診断方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、()モルタルパネル全体の金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末の添加量がセメントと砂の合量100質量部に対して、1〜40質量部であり、モルタルパネルの暴露面における金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末粒子の表面の露出数が1cm当たり80個から3000個であることを特徴とするコンクリート構造物の塩害診断用モルタルパネルであり、(2)金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末の粒子径が、45〜500μmであることを特徴とするコンクリート構造物の塩害診断用モルタルパネルであり、()金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末が、鉄粉または銅粉であることを特徴とするコンクリート構造物の塩害診断用モルタルパネルである。()外部からの塩分でモルタルパネル内の金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末の腐食が進行し、モルタルパネルの変色により、モルタルパネルを設置した箇所のコンクリート構造物の塩害を診断することを特徴とするコンクリート構造物の塩害診断用モルタルパネルを用いた塩害診断方法である。

【発明の効果】
【0015】
本発明のコンクリート構造物の塩害診断用モルタルパネルは、金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末とモルタルを複合することによって、実際のコンクリート構造物に近い環境に晒され、また、モルタルパネル自体の色の変化により設置された場所でのコンクリート構造物の塩害の診断をすることが可能となる。従って、JISA 1154の方法で行う、吸光光度法やイオンクロマト法といった高度な測定方法を用いることなく、より簡易にコンクリート構造物の塩害の診断を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は、特に規定しない限り質量基準で示す。
【0017】
本発明の塩害診断用モルタルパネルは、セメント、砂、および、金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末、水を含有する。さらに、ブリーディング防止、流動性や凝結時間調整等を目的として、通常用いられる、増粘剤、分散剤、減水剤、硬化促進剤、遅延剤等の各種添加剤を併用することは、本発明の目的を阻害しない範囲であれば好ましい。
【0018】
本発明で使用するセメントは、通常ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、超速硬セメント、中庸熱セメント、高炉セメント、アルミナセメント等の各種セメントを使用することが出来るが、モルタルパネルの色の変化が明確な白色セメントを用いることが好ましい。
【0019】
本発明で使用する砂は、特に限定されないが、石灰砕砂、ケイ砂、あるいはセメント強さ用標準砂等が、モルタルパネルの色の変化が明確なことから好ましい。
【0020】
本発明で使用する金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末は、モルタル中の強アルカリ性のもとでも溶解せず、塩化物イオンにより腐食が促進し、腐食により金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末の色が変化するか、又は異なる色の腐食生成物を生じる金属粉末および/または表面を酸化させた金属粉末が好ましい。
このような金属粉末のうち、鉄および鉄を含む合金、銅および銅を含む合金が好ましい。なお、試薬の鉄や銅の表面は大気中の酸素と反応して表面に酸化層を形成するが、本発明では、金属粉末と定義する。
【0021】
一方、表面を酸化させた金属粉末とは、酸化雰囲気の1000℃以下で加熱処理した金属粉末をいう。表面を酸化させた金属粉末を用いたモルタルパネルは、酸化処理を行わない金属粉末を用いたモルタルパネルよりも厳しい塩害環境においても使用が可能である。以降、金属粉末と、表面を酸化させた金属粉末を、合わせて金属粉末類と称することとする。
【0022】
金属粉末類の粒子径は、45〜500μmが好ましく、45〜300μmがより好ましい。粒子径が500μmを超えると、モルタルパネル暴露面から金属粉末類が脱落し易くなる。一方、粒子径が、45μmより小さいと、金属粉末類が腐食しても変色が確認しづらい場合がある。ここで、粒子径は、JISZ 8801−1の試験用ふるいの目開き寸法をいう。
【0023】
モルタルパネル全体の金属粉末類の添加量は、セメントと砂の合量100質量部に対して、1〜40部が好ましく、5〜30部がより好ましい。40部を超えて添加するとモルタルパネル自体の強度低下や、腐食物生成時の体積膨張による金属粉末類の脱落が生じる恐れがあり好ましくなく、1部より少ないとモルタルパネル表面の変色が不明確になる場合がある。金属粉末類に鉄粉を使用した場合、曝露面で露出している鉄粉は腐食によりFeやFe、中間生成物のFeOOH等を生じ、これらの生成物が水分と共にさび汁となってモルタルの表面に拡散することにより金属粉末の周囲が変色する。この曝露面に露出している金属粉末類の粒子個数は1cmあたり80個から3000個が好ましく、400個から1500個がより好ましい。露出している金属粉末類の粒子個数が1cmあたり80個未満であると金属粉末類の腐食によるモルタルパネル表面の変色が不明確になる場合があり、また1cmあたり3000個を超えると腐食時の体積膨張により曝露面から脱落するため、曝露面に露出する金属粉末類の粒子個数は1cmあたり80個から3000個が好ましい。なお、塩化物によるモルタルパネルの変色は、暴露面の表層部に存在する金属粉末類が関与するため、パネルを多層構造とし、暴露する面の層にのみに金属粉末類を添加しても同様の結果を得ることができる。
【0024】
金属粉末類を含有する塩害診断用モルタルパネルの作製方法としては、セメント、砂、金属粉末類、さらに必要に応じて各種の添加剤と、水を加えて混練し、暴露面を下にした型枠に流し込む方法が、金属粉末類が表層部に偏析することから好ましい。
セメント、砂および水の割合は、本発明の目的を満足する範囲であれば特に限定されないが、セメント100部に対して、砂は400部以下、水は20〜100部が好ましく、さらに、砂は50〜300部、水は30〜60部がより好ましい。なお、通常はモルタルは、セメント、砂と水を混ぜたものをいうが、本発明では砂を用いずにセメントと水を混ぜたものも本発明に含まれる。
【0025】
塩害診断用モルタルパネルの形状は特に限定されないが、通常、角板状、円盤状、楕円形状等が選ばれる。直径または長さは特に限定されないが、設置の際の作業性、設置スペースや設置したモルタルパネルの視認性から、通常は3〜10cm程度にすることが好ましい。また、厚さは、取付け、取り外しの際に割れ難く、かつ自重で剥離落下しない厚さが好ましく、具体的には、0.2〜5cmが好ましく、0.5〜1cmがより好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、実験例に基づいて、本発明を説明するが、本発明はこれらに限定するものではない。
【0027】
(実施例1)
塩分の噴霧回数、セメントの種類の影響をみるため、以下の実験を行った。
使用材料
白色セメント系モルタル:白色ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)+砂(東北珪砂株式会社製、7号ケイ砂)
普通ポルトランドセメント系モルタル:普通ポルトランドセメント(デンカ株式会社製)+砂(東北珪砂株式会社製、7号ケイ砂)
金属粉末:試薬鉄粉(キシダ化学株式会社、純度99.5%以上)をJIS標準篩いで篩い分けし、目開き45μm篩い上かつ目開き300μm篩い下に粒子径を調整した鉄粉。
水:蒸留水
上記使用材料を用いて、以下の通りモルタルパネルを作製した。白色セメント系モルタルは、白色ポルトランドセメントと砂の割合を1:1、白色ポルトランドセメントと水の割合を2:1、さらに白色ポルトランドセメントと砂の合計100部に対して鉄粉を10部の割合で秤量し、モルタルミキサーに全材料を投入、低速で30秒間練り混ぜた後、高速で90秒間練り混ぜ、モルタルを作製した。練りあがったモルタルを、開口部が4×4cm、深さが0.5cmの型枠に打込み、20℃−80%R.H.の恒温恒湿室にて3日間養生後、型枠から取り外して角板状のモルタルパネルを作製した。
また、白色ポルトランドセメントを普通ポルトランドセメントに置き換えた普通ポルトランドセメント系モルタルパネルも同様の方法で作製した。さらに、比較として鉄粉を添加しないモルタルパネルも同様の方法で作製した。
【0028】
作製したモルタルパネルを垂直な衝立に取り付け、蒸留水および3%の塩化ナトリウム水溶液を3時間噴霧と3日間気中曝露を所定回数繰り返した。実験温度は、実施例2〜5も含め、全て30℃とした。
【0029】
モルタルパネルへ塩化ナトリウム水溶液を繰り返し噴霧した結果、白色ポルトランドセメントを使用し鉄粉を添加したものは、噴霧回数の増加とともに着色面積は増加した。所定回数噴霧を繰り返した後、モルタルパネル表面の変色した部分の面積を測定した。着色面積は、モルタルパネルをデジタルカメラで撮影し、このデータを2値化して変色部分を黒色に、変色の無い部分を白色に変換し、この黒色の部分のしめる割合を算出することにより行った。なお、データ処理は画像処理ソフトの1つであるImageJ(日本語版)で行った。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示したとおり、鉄粉を添加したモルタルパネルは、塩水の噴霧回数が多くなるにつれて着色面積が増加した。
鉄粉を添加した普通ポルトランドセメント系モルタルパネルは素地の色の影響で白色セメント系モルタルパネルに比べて着色の判別がしづらく、上記方法で着色面積を数値化した場合、小さな値となった。
また、鉄粉を加えないモルタルパネル、塩化ナトリウム水溶液の代わりに蒸留水を噴霧したモルタルパネルは、着色しなかった。
【0032】
(実施例2)
金属粉末の添加量の影響をみるため、以下の実験を行った。
鉄粉の添加量を、白色ポルトランドセメントと砂の合計100部に対して1〜50部に変えたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、モルタルパネルを作製した。
さらに、鉄粉添加量20部については、型枠へ2mmおよび1mmの厚さで打設し、3時間後に鉄粉を添加しないモルタルを上から打設して0.5cmとなるようにして鉄粉を添加した層を暴露面とする2層構造のモルタルパネルも作製した。
また、作製したモルタルパネルについて50倍の顕微鏡を用いて曝露面を4箇所撮影し、各写真の露出している鉄粉の個数をカウントして、4箇所の平均値と撮影面積より1cmあたりの平均露出数を算出した。
【0033】
作製したモルタルパネルを垂直な衝立に取り付け、3%の塩化ナトリウム水溶液を3時間噴霧と3日間気中曝露を20回繰り返した。
【0034】
【表2】


【0035】
表2に示したとおり、鉄粉添加量が多くなるにつれて曝露面に露出する鉄粒子の個数も大きくなり、モルタルパネルの着色面積が大きくなった。鉄粉添加量が0.5部では曝露面に露出する鉄粒子が80個/cm未満となり着色部分が小さく着色面積が判り難く、また鉄粉添加量が50部の場合には曝露面に露出する鉄粒子が3000個/cmを超え、腐食による鉄粉の体積膨張のためモルタルパネル表層の剥離が発生した。
また、鉄粉添加量40部のモルタルパネルは、30部以下の添加量のパネルに比べ強度が小さく、衝立からの取外しの際に破損するものがあり、鉄粉の添加量は30部以下が好ましい。
さらに、鉄粉を20部添加した層と鉄粉無添加の層の2層からなるモルタルパネルについては、鉄粉添加層の厚さに関わらず曝露面に露出する鉄粒子の単位面積あたりの数が同じとなり、鉄粉を20部添加した場合と同様の結果が得られた。
【0036】
(実施例3)
鉄粉の粒子径の影響をみるため、以下の実験を行った。
試薬鉄粉をJIS標準篩いによって篩い分けし、目開き45μm篩い上かつ目開き500μm篩い下品、目開き500μm篩い上品、目開き45μm篩い下品に粒子径を分け、それぞれの鉄粉を使用したこと以外は実施例1と同様にモルタルパネルを作製した。なお、使用したセメントは白色ポルトランドセメントで、篩い分けした鉄粉はセメント+砂100部に対して10部添加した。
【0037】
作製したモルタルパネルを垂直な衝立に取り付け、3%の塩化ナトリウム水溶液の3時間噴霧と3日間気中曝露を20回繰り返した。
【0038】
【表3】
【0039】
表3に示したとおり、目開き500μm篩いの篩い上品を使用したモルタルパネルは、表面の鉄粉が一部脱落した。また、目開き45μm篩いの篩い下品を使用したモルタルパネルは、着色の判別が難しかった。45−500μmに篩い分け品を使用したモルタルパネルは表面性状が平滑でなく、45−300μm篩い分け品を使用したモルタルパネルが最も好ましい結果を示した。
【0040】
(実施例4)
表面を酸化させた金属粉末の影響をみるため、以下の実験を行った。
実施例1で使用した鉄粉を大気雰囲気の電気炉で800℃−3時間加熱し表面を酸化させた。加熱処理により、重量が27%増加し、この表面を酸化させた鉄粉を使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、モルタルパネルを作製した。なお、セメントは白色ポルトランドセメントを使用し、表面を酸化させた鉄粉は、セメント+砂100部に対して10部添加した。
【0041】
作製したモルタルパネルを垂直な衝立に取り付け、3%の塩化ナトリウム水溶液の3時間噴霧と3日間の気中曝露を所定回数繰り返した。
【0042】
【表4】
【0043】
表4に示したとおり、表面を酸化させた鉄粉を用いたモルタルパネルは、酸化処理を行ってない鉄粉を用いたモルタルパネルと同様に着色した。噴霧20回後の着色面積は、酸化処理を行ってない鉄粉を使用した場合に比べて小さいが、噴霧40回後の着色面積は、酸化処理を行わない鉄粉を使用したモルタルパネル噴霧20回後と同等の着色面積となった。このことから、表面を酸化させた鉄粉を用いたモルタルパネルは、酸化処理を行わないモルタルパネルよりも厳しい塩害環境においても使用が可能である。
なお、表面を酸化させた鉄粉を加えたモルタルパネルに蒸留水を噴霧したものは、着色しなかった。
【0044】
(実施例5)
銅粉の影響をみるため、以下の実験を行った。
鉄粉の代わりに市販の銅粉(試薬1級 粒子径75−150μm、純度99.5%以上)を使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、モルタルパネルを作製した。なお、セメントは白色ポルトランドセメントを使用し、銅粉はセメント+砂100部に対して10部添加した。モルタルパネル作製後のモルタルパネル表面は、全体が薄い桃色を呈した。
【0045】
作製したモルタルパネルを垂直な衝立に取り付け、3%の塩化ナトリウム水溶液の3時間噴霧と3日間気中曝露を所定回数繰り返した。
【0046】
【表5】
【0047】
表5に示したとおり、銅粉を用いたモルタルパネルは、鉄粉使用時よりも早く変色し、噴霧5回後に全体が薄い青色に変色した。その後、20回まで継続したが、色の濃さに変化は無かった。このことより、銅粉を用いたモルタルパネルは、塩害環境の強弱を見るには適してないが、塩分の有無を鉄粉より早く判定することが出来る。
なお、塩化ナトリウム水溶液の代わりに蒸留水を噴霧したモルタルパネルは、噴霧を20回実施しても着色しなかった。
【0048】
(実施例6)
鉄粉を添加したモルタルパネルの着色量と、モルタルパネル中の塩分量の関係をみるため、以下の実験を行った。
鉄粉を添加したモルタルパネルは実験No.1−1と同様の操作を行い作製した。
一方、塩分量を測定する方法として、特許第5686349号に記載の実験例1の表2中No.1−4のモルタルパネルを作製した。
【0049】
鉄粉を添加したモルタルパネルと、塩分量を測定するモルタルパネルをそれぞれ垂直な衝立に取り付け、3%の塩化ナトリウム水溶液を3時間噴霧と3日間気中曝露を所定回数繰り返し実施した。
【0050】
所定回数の塩化ナトリウム水溶液噴霧を行った供試体を衝立から取外し、鉄粉を添加したパネルは着色面積を測定し、一方、塩分量を測定するモルタルパネルはJIS A1154の「硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオンの試験方法」に基づき、全塩化物イオン量(以下、塩分量と記載する)を測定し、表6を得た。
なお、特許第5686349号に記載の実験例1の表2中No.1−4の方法で作製したモルタルパネルの塩分量は0.11kg/mであった。
【0051】
【表6】
【0052】
表6に示した通り、鉄粉を添加したモルタルパネルの着色面積はモルタルパネルの塩分量の増加と共に大きくなることが示された。
なお、実験No.6−4に示す通り、蒸留水を噴霧したモルタルパネルは着色せず、モルタルパネルの塩分量の変化はなかった。
【0053】
(実施例7)
実施例6と同様に、鉄粉を添加したモルタルパネルと、塩分量を測定するためのモルタルパネルを作製し、糸魚川市の海岸から30m離れた供用開始から30年以上経過していえるコンクリート橋の梁に5m間隔でそれぞれモルタルパネルを取り付け、1年後に回収して実施例6と同様の方法で着色量及び塩分量を測定し、表7を得た。
【0054】
【表7】
【0055】
表7に示す通り、海側の梁に設置した鉄粉を添加したモルタルパネルの着色面積は、20〜25%であり、塩分量は4kg/m前後であった。一方、山側に設置した鉄粉を添加したモルタルパネルは着色しておらず、塩分量は1kg/m程度であった。
このように、鉄粉を添加したモルタルパネルの着色度合いと、モルタルパネルの塩分量のどちらも同様に、海側の梁の塩害環境が山側に比べて厳しいことが示され、供用年数を考慮し、この結果を基に同橋梁の補修は、海側の部分のみ、耐塩害性に優れた断面修復材で補修することを提案することにした。
このように金属粉および/または表面を酸化させた金属粉を含有したモルタルパネルをコンクリート構造物に設置し、モルタルパネル表面の変色を利用することにより、設置された箇所のコンクリート構造物の診断が可能となり、補修箇所を特定することができる。
従来技術と比較するため、JFEテクノリサーチ株式会社製の鋼製ワッペン試験片(5×5cm、厚さ0.2cm)をそれぞれの位置に取り付け観察したが、風雨の影響により山側のワッペン試験片も海側と同様に腐食し、明確な差異は認められず、コンクリート構造物の塩害診断は困難であった。