【実施例】
【0026】
以下、実験例に基づいて、本発明を説明するが、本発明はこれらに限定するものではない。
【0027】
(実施例1)
塩分の噴霧回数、セメントの種類の影響をみるため、以下の実験を行った。
使用材料
白色セメント系モルタル:白色ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)+砂(東北珪砂株式会社製、7号ケイ砂)
普通ポルトランドセメント系モルタル:普通ポルトランドセメント(デンカ株式会社製)+砂(東北珪砂株式会社製、7号ケイ砂)
金属粉末:試薬鉄粉(キシダ化学株式会社、純度99.5%以上)をJIS標準篩いで篩い分けし、目開き45μm篩い上かつ目開き300μm篩い下に粒子径を調整した鉄粉。
水:蒸留水
上記使用材料を用いて、以下の通りモルタルパネルを作製した。白色セメント系モルタルは、白色ポルトランドセメントと砂の割合を1:1、白色ポルトランドセメントと水の割合を2:1、さらに白色ポルトランドセメントと砂の合計100部に対して鉄粉を10部の割合で秤量し、モルタルミキサーに全材料を投入、低速で30秒間練り混ぜた後、高速で90秒間練り混ぜ、モルタルを作製した。練りあがったモルタルを、開口部が4×4cm、深さが0.5cmの型枠に打込み、20℃−80%R.H.の恒温恒湿室にて3日間養生後、型枠から取り外して角板状のモルタルパネルを作製した。
また、白色ポルトランドセメントを普通ポルトランドセメントに置き換えた普通ポルトランドセメント系モルタルパネルも同様の方法で作製した。さらに、比較として鉄粉を添加しないモルタルパネルも同様の方法で作製した。
【0028】
作製したモルタルパネルを垂直な衝立に取り付け、蒸留水および3%の塩化ナトリウム水溶液を3時間噴霧と3日間気中曝露を所定回数繰り返した。実験温度は、実施例2〜5も含め、全て30℃とした。
【0029】
モルタルパネルへ塩化ナトリウム水溶液を繰り返し噴霧した結果、白色ポルトランドセメントを使用し鉄粉を添加したものは、噴霧回数の増加とともに着色面積は増加した。所定回数噴霧を繰り返した後、モルタルパネル表面の変色した部分の面積を測定した。着色面積は、モルタルパネルをデジタルカメラで撮影し、このデータを2値化して変色部分を黒色に、変色の無い部分を白色に変換し、この黒色の部分のしめる割合を算出することにより行った。なお、データ処理は画像処理ソフトの1つであるImageJ(日本語版)で行った。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示したとおり、鉄粉を添加したモルタルパネルは、塩水の噴霧回数が多くなるにつれて着色面積が増加した。
鉄粉を添加した普通ポルトランドセメント系モルタルパネルは素地の色の影響で白色セメント系モルタルパネルに比べて着色の判別がしづらく、上記方法で着色面積を数値化した場合、小さな値となった。
また、鉄粉を加えないモルタルパネル、塩化ナトリウム水溶液の代わりに蒸留水を噴霧したモルタルパネルは、着色しなかった。
【0032】
(実施例2)
金属粉末の添加量の影響をみるため、以下の実験を行った。
鉄粉の添加量を、白色ポルトランドセメントと砂の合計100部に対して1〜50部に変えたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、モルタルパネルを作製した。
さらに、鉄粉添加量20部については、型枠へ2mmおよび1mmの厚さで打設し、3時間後に鉄粉を添加しないモルタルを上から打設して0.5cmとなるようにして鉄粉を添加した層を暴露面とする2層構造のモルタルパネルも作製した。
また、作製したモルタルパネルについて50倍の顕微鏡を用いて曝露面を4箇所撮影し、各写真の露出している鉄粉の個数をカウントして、4箇所の平均値と撮影面積より1cm
2あたりの平均露出数を算出した。
【0033】
作製したモルタルパネルを垂直な衝立に取り付け、3%の塩化ナトリウム水溶液を3時間噴霧と3日間気中曝露を20回繰り返した。
【0034】
【表2】
【0035】
表2に示したとおり、鉄粉添加量が多くなるにつれて曝露面に露出する鉄粒子の個数も大きくなり、モルタルパネルの着色面積が大きくなった。鉄粉添加量が0.5部では曝露面に露出する鉄粒子が80個/cm
2未満となり着色部分が小さく着色面積が判り難く、また鉄粉添加量が50部の場合には曝露面に露出する鉄粒子が3000個/cm
2を超え、腐食による鉄粉の体積膨張のためモルタルパネル表層の剥離が発生した。
また、鉄粉添加量40部のモルタルパネルは、30部以下の添加量のパネルに比べ強度が小さく、衝立からの取外しの際に破損するものがあり、鉄粉の添加量は30部以下が好ましい。
さらに、鉄粉を20部添加した層と鉄粉無添加の層の2層からなるモルタルパネルについては、鉄粉添加層の厚さに関わらず曝露面に露出する鉄粒子の単位面積あたりの数が同じとなり、鉄粉を20部添加した場合と同様の結果が得られた。
【0036】
(実施例3)
鉄粉の粒子径の影響をみるため、以下の実験を行った。
試薬鉄粉をJIS標準篩いによって篩い分けし、目開き45μm篩い上かつ目開き500μm篩い下品、目開き500μm篩い上品、目開き45μm篩い下品に粒子径を分け、それぞれの鉄粉を使用したこと以外は実施例1と同様にモルタルパネルを作製した。なお、使用したセメントは白色ポルトランドセメントで、篩い分けした鉄粉はセメント+砂100部に対して10部添加した。
【0037】
作製したモルタルパネルを垂直な衝立に取り付け、3%の塩化ナトリウム水溶液の3時間噴霧と3日間気中曝露を20回繰り返した。
【0038】
【表3】
【0039】
表3に示したとおり、目開き500μm篩いの篩い上品を使用したモルタルパネルは、表面の鉄粉が一部脱落した。また、目開き45μm篩いの篩い下品を使用したモルタルパネルは、着色の判別が難しかった。45−500μmに篩い分け品を使用したモルタルパネルは表面性状が平滑でなく、45−300μm篩い分け品を使用したモルタルパネルが最も好ましい結果を示した。
【0040】
(実施例4)
表面を酸化させた金属粉末の影響をみるため、以下の実験を行った。
実施例1で使用した鉄粉を大気雰囲気の電気炉で800℃−3時間加熱し表面を酸化させた。加熱処理により、重量が27%増加し、この表面を酸化させた鉄粉を使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、モルタルパネルを作製した。なお、セメントは白色ポルトランドセメントを使用し、表面を酸化させた鉄粉は、セメント+砂100部に対して10部添加した。
【0041】
作製したモルタルパネルを垂直な衝立に取り付け、3%の塩化ナトリウム水溶液の3時間噴霧と3日間の気中曝露を所定回数繰り返した。
【0042】
【表4】
【0043】
表4に示したとおり、表面を酸化させた鉄粉を用いたモルタルパネルは、酸化処理を行ってない鉄粉を用いたモルタルパネルと同様に着色した。噴霧20回後の着色面積は、酸化処理を行ってない鉄粉を使用した場合に比べて小さいが、噴霧40回後の着色面積は、酸化処理を行わない鉄粉を使用したモルタルパネル噴霧20回後と同等の着色面積となった。このことから、表面を酸化させた鉄粉を用いたモルタルパネルは、酸化処理を行わないモルタルパネルよりも厳しい塩害環境においても使用が可能である。
なお、表面を酸化させた鉄粉を加えたモルタルパネルに蒸留水を噴霧したものは、着色しなかった。
【0044】
(実施例5)
銅粉の影響をみるため、以下の実験を行った。
鉄粉の代わりに市販の銅粉(試薬1級 粒子径75−150μm、純度99.5%以上)を使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、モルタルパネルを作製した。なお、セメントは白色ポルトランドセメントを使用し、銅粉はセメント+砂100部に対して10部添加した。モルタルパネル作製後のモルタルパネル表面は、全体が薄い桃色を呈した。
【0045】
作製したモルタルパネルを垂直な衝立に取り付け、3%の塩化ナトリウム水溶液の3時間噴霧と3日間気中曝露を所定回数繰り返した。
【0046】
【表5】
【0047】
表5に示したとおり、銅粉を用いたモルタルパネルは、鉄粉使用時よりも早く変色し、噴霧5回後に全体が薄い青色に変色した。その後、20回まで継続したが、色の濃さに変化は無かった。このことより、銅粉を用いたモルタルパネルは、塩害環境の強弱を見るには適してないが、塩分の有無を鉄粉より早く判定することが出来る。
なお、塩化ナトリウム水溶液の代わりに蒸留水を噴霧したモルタルパネルは、噴霧を20回実施しても着色しなかった。
【0048】
(実施例6)
鉄粉を添加したモルタルパネルの着色量と、モルタルパネル中の塩分量の関係をみるため、以下の実験を行った。
鉄粉を添加したモルタルパネルは実験No.1−1と同様の操作を行い作製した。
一方、塩分量を測定する方法として、特許第5686349号に記載の実験例1の表2中No.1−4のモルタルパネルを作製した。
【0049】
鉄粉を添加したモルタルパネルと、塩分量を測定するモルタルパネルをそれぞれ垂直な衝立に取り付け、3%の塩化ナトリウム水溶液を3時間噴霧と3日間気中曝露を所定回数繰り返し実施した。
【0050】
所定回数の塩化ナトリウム水溶液噴霧を行った供試体を衝立から取外し、鉄粉を添加したパネルは着色面積を測定し、一方、塩分量を測定するモルタルパネルはJIS A1154の「硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオンの試験方法」に基づき、全塩化物イオン量(以下、塩分量と記載する)を測定し、表6を得た。
なお、特許第5686349号に記載の実験例1の表2中No.1−4の方法で作製したモルタルパネルの塩分量は0.11kg/m
3であった。
【0051】
【表6】
【0052】
表6に示した通り、鉄粉を添加したモルタルパネルの着色面積はモルタルパネルの塩分量の増加と共に大きくなることが示された。
なお、実験No.6−4に示す通り、蒸留水を噴霧したモルタルパネルは着色せず、モルタルパネルの塩分量の変化はなかった。
【0053】
(実施例7)
実施例6と同様に、鉄粉を添加したモルタルパネルと、塩分量を測定するためのモルタルパネルを作製し、糸魚川市の海岸から30m離れた供用開始から30年以上経過していえるコンクリート橋の梁に5m間隔でそれぞれモルタルパネルを取り付け、1年後に回収して実施例6と同様の方法で着色量及び塩分量を測定し、表7を得た。
【0054】
【表7】
【0055】
表7に示す通り、海側の梁に設置した鉄粉を添加したモルタルパネルの着色面積は、20〜25%であり、塩分量は4kg/m
3前後であった。一方、山側に設置した鉄粉を添加したモルタルパネルは着色しておらず、塩分量は1kg/m
3程度であった。
このように、鉄粉を添加したモルタルパネルの着色度合いと、モルタルパネルの塩分量のどちらも同様に、海側の梁の塩害環境が山側に比べて厳しいことが示され、供用年数を考慮し、この結果を基に同橋梁の補修は、海側の部分のみ、耐塩害性に優れた断面修復材で補修することを提案することにした。
このように金属粉および/または表面を酸化させた金属粉を含有したモルタルパネルをコンクリート構造物に設置し、モルタルパネル表面の変色を利用することにより、設置された箇所のコンクリート構造物の診断が可能となり、補修箇所を特定することができる。
従来技術と比較するため、JFEテクノリサーチ株式会社製の鋼製ワッペン試験片(5×5cm、厚さ0.2cm)をそれぞれの位置に取り付け観察したが、風雨の影響により山側のワッペン試験片も海側と同様に腐食し、明確な差異は認められず、コンクリート構造物の塩害診断は困難であった。