(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では次のような問題がある。
(1)新築地下躯体を構築する場合に、既存地下外壁の直下に山留め壁を構築することができないため、新築地下面積が小さくなる。
(2)新築地下躯体の山留め壁の構築の障害となる耐圧盤をアースオーガ―などを用いて削孔する場合、大径の穿孔が形成されるため、その構築作業の途中で躯体の強度への影響が懸念される。
(3)特に既存地下躯体の耐圧盤に削孔を連続して形成する場合には、前述のように支保工が必要となり、工期及び工数が多大となる。
(4)山留め壁は、地下外壁と連続する梁より下方へ延びており、地下外壁と直接連続していないため、一体性が十分に保たれない。
【0006】
本発明の第1の目的は、既存の建物の地下外壁の真下に山留め壁本体を構築することにより新築躯体用の山留め壁を構築する方法及び山留め壁を提案することである。
本発明の第2の目的は、上記躯体に穿設したコア孔から高圧噴射撹拌工法による施工を行うことにより、障害撤去面積を小さくすることができる新築躯体用の山留め壁を構築する方法及び山留め壁を提案することである。
本発明の第3の目的は、上記山留め壁本体を構築する際に支保工の数を少なくすることができる、或いは支保工を使わずに実施できる、新築躯体用の山留め壁を構築する方法及び山留め壁を提案することである。
本発明の第4の目的は、既存建物の地下外壁と山留め壁本体との間に張力を導入することで両者の一体性を高めることができる、新築躯体用の山留め壁を構築する方法及び山留め壁を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の手段は、山留め壁の構築方法であって、
既存建物の外壁又は外壁近傍の躯体部分に、外壁面の横幅方向に向かって、複数の縦方向の貫通孔を穿設し、
それら外壁及び外壁近傍の躯体部分で形成される外壁部の直下の土壌に対して、上記貫通孔を介して高圧噴射攪拌を行って、外壁部の下方へ連なる改良体を
山留め壁本体として構築し、
上記貫通孔を通して、上記改良体内へ芯材の下半部を埋設するとともに、芯材の上半部を、上記外壁部に係止させ
ており、
上記芯材は、上記外壁部とこの外壁部の下面に当接する山留め壁本体とを相互に拘束された状態で連結させた部材であって、上記外壁部との係止箇所に対して芯材に沿った縦向きの連結力を発揮するものであり、
それら山留め壁本体と外壁部とで山留め壁を構築する。
【0008】
本手段は、
図3に示す山留め壁の構築方法を示している。すなわち、既存建物の外壁部12に複数の縦方向の貫通孔16を穿設し(同図(A)参照)、この貫通孔を介して挿入した高圧噴射撹拌用パイプ30(同図(B)参照)を使用して高圧噴射撹拌を行って改良体20Aを形成し(同図(C)参照)、さらに貫通孔を介して挿入された芯材を利用して(同図(D)参照)、改良体が硬化してなる山留め壁本体と外壁部とで連結し、山留め壁を構築する。高圧噴射撹拌により改良体を形成するので、貫通孔が大きくならず、支保工の数を減らす(支保工をなくすることを含む)ことができる。改良体は既存建物の外壁部12の真下に形成できるから、新築地下面積が狭くならない。
【0009】
山留め壁本体と外壁部とを“連結”するとは、芯材の拘束力により山留め壁本体及び外壁部に対して作用する外力に抵抗するという程度の意味である。両者が当接箇所で連続的に結合している必要はない。後述の如く芯材に張力を導入することが好適であるが、これは必ずしも必須の要件ではない。
「貫通孔」は、高圧噴射撹拌用パイプ30挿入用と芯材24挿入用とを兼用してもよく、また高圧噴射撹拌用パイプ挿入用の貫通孔と芯材挿入用の貫通孔とをそれぞれ形成してもよい(
図8参照)。
なお、別々の貫通孔を設ける場合には、芯材挿通用の貫通孔を穿設する工程と、高圧噴射撹拌用パイプ挿通孔を介して高圧噴射撹拌を行う工程との先後は問わないものとする。
【0010】
第2の手段は、建物の外壁及び外壁近傍の躯体部分で形成され、かつ外壁面の横幅方向に向かって複数の縦方向の貫通孔が穿設された外壁部と、
外壁部の下方の土壌を地盤改良して構築される山留め壁本体と、
を具備し、
上記複数の貫通孔は、相互に連続していない独立孔であり、
少なくとも一部の貫通孔を通して下半部を山留め壁本体に埋設され、かつ上半部を外壁部に連結した
芯材が設けられており、
この芯材は、上記外壁部とこの外壁部の下面に当接する山留め壁本体とを相互に拘束された状態で連結させた部材であって、上記外壁部との係止箇所に対して芯材に沿った縦向きの連結力を発揮するものであり、
かつ上記芯材をプレストレス導入用の芯材として、この芯材によって山留め壁本体と外壁部とが緊結されてなる。
【0011】
本手段は、第1の手段により構築することに適した山留め壁を提案している。高圧噴射撹拌による場合には、機械撹拌による場合に比較して、貫通孔を大きくする必要がないので、一連の貫通孔を掘削範囲が相互に重ならない独立孔とすることが容易である。またこれにより躯体の強度低下を少なくし、支保工の数を減らす(支保工を不要とすることを含む)ことができる。また貫通孔に挿通した芯材にプレストレスを導入することにより、山留め壁本体20と外壁部12とを緊結している。これにより山留め壁本体と外壁部との摩擦力を増大させるようにしている(
図4参照)。
【0012】
なお、“第1の手段により構築することに適した”山留め壁とは、第1の手段で構築された山留め壁に限定されるという意味ではない。第1の手段で貫通孔について説明した事柄は本手段に援用する。
【0013】
第3の手段は、第2の手段を有し、かつ
上記貫通孔の孔面内に芯材との間のフリクションカットを施してなる。
【0014】
本手段は、
図4に示すように貫通孔16の孔面と芯材24との間にフリクションカット手段18を設けることを提案する。この構成により芯材24に導入した張力は、芯材と貫通孔との間の摩擦力によって減殺されることなく、山留め壁本体20と外壁部12との摩擦力の増加に利用されるので、両者の連結をより強固なものにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
第1の手段に係る発明によれば、貫通孔を介して高圧噴射攪拌を行なうから、貫通孔の径を大きくする必要がなく、支保工の数を減らすことができるともに、既存建物の外壁部の下方へ連なる改良体を構築するから外壁部の真下に山
留め壁本体を構築することができる。
第2の手段に係る発明によれば、プレストレス導入用の芯材によって山留め壁本体と外壁部とが緊結されたから、山留め壁本体と外壁部との間の摩擦抵抗を増加させることができる。また貫通孔を独立孔としたから、躯体の強度低下を抑制できる。
第3の手段に係る発明によれば、貫通孔16と芯材との間にフリクションカット手段を形成したから、山留め壁本体と既存底盤との摩擦力を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1から
図5は、本発明の第1実施形態に係る山留め壁及び当該山留め壁の構築方法を示している。
図1中、2は地盤であり、4は掘削部である。説明の便宜上、山留め壁の構成について説明する。
【0018】
本発明の山留め壁10は、既存建物の外壁部12と山留め壁本体20とから構成される。
本明細書において、外壁部12とは、既存建物の躯体Bのうち外壁B1と、外壁近傍の躯体部分B2を言うものとする。後者としては、例えば
図3(A)に示す耐力盤B3や床スラブの付け根の部分が該当する。
【0019】
外壁部12には、複数の貫通孔16が縦設されており、
図2に示す如く、外壁部の横幅方向に等間隔に配列されている。
これら貫通孔16は、コア孔として既存建物の解体作業に先立って穿設される。
本発明の貫通孔16は、
図2に示すように、穿設箇所が相互に重ならない独立孔であり、従って躯体本体の強度を低下させる程度が少ない。
なお、本実施形態の貫通孔16は、後述の高圧噴射撹拌用パイプ30挿通用及び芯材24挿通用を兼用している。高圧噴射撹拌工法は、超高圧硬化剤を圧縮空気とともに回転させながら地中に噴射し、地盤を掘削しながら地盤中に円柱体状の硬化体を形成する方法であり、スクリュー式のアースオーガ―で地盤を掘削する工法と比較して大径の孔を掘削する必要がない。
本実施形態の貫通孔16の径は通常200mm程度で足りる。
そして本実施形態では、貫通孔の穿設箇所の内側と外側とを支保工で接続する必要がない程度に貫通孔相互の間隔をとっている。その間隔の大きさは事例によって異なるが、好適な一例として1m程度の間隔をとることができる。
なお、本実施形態の貫通孔16は、既存建物の外壁近傍の躯体部分B2において、各階の床スラブ及び耐圧盤を垂直方向に穿設してなる。
耐圧盤に設けられた一番下の貫通孔16の孔面内にはフリクションカット手段18が形成される。このフリクションカット手段18は、摩擦係数の低いシートなどで形成することができる。
【0020】
山留め壁本体20は、
図1に示す如く、上記外壁部12の真下に形成される。山留め壁本体20は、上述の貫通孔16を介して高圧噴射撹拌工法を施し、上方から見て各貫通孔を中心とする円柱状の改良体20Aにより形成される。それら円柱体の径は貫通孔の径より大きく相互に連設して壁を構成する。また改良体は、一番下の貫通孔16の内部へ延びる延長部分21を有する。
【0021】
上記改良体20Aが硬化した後に少なくとも外壁部12より内方の躯体部分を解体し、併せて当該躯体部分の下方の地盤を掘削することで、掘削部4が形成される。
【0022】
芯材24は、外壁部12と山留め壁本体20とを連結する応力材であり、その下端部は山留め壁本体20が硬化する前に挿入され、定着されている。またその上端部は、外壁部12の適所(図示例では耐力盤に穿設した貫通孔16の上)に設置された係止具26で係止されている。
【0023】
芯材24の形状は、改良体との定着力を向上させるために適当な形状(例えば環状溝・ネジ溝状の凹凸を設けた形状)とすることができる。さらに山留め壁本体20内において芯材だけでは定着力が足りないときには、芯材24の外部に付設され、或いは取り付けられる抵抗部28を付設することができる。抵抗部の一例として、機械式定着部材を挙げる。機械式定着部材の一例としては、芯材挿通孔を備えかつ所要の抵抗を有する適当な形状(例えば筒形)の部材とすることができる。芯材挿通孔の内面及び芯材の外面には相互に噛み合うネジ構造が形成されている。
【0024】
本実施形態では、芯材24は、張力導入に適した鉄筋材を使用し、芯材24の下端部が改良体20Aに定着された後に上記係止具26により上へ引き上げ、張力を掛けるようにしている。
【0025】
図3は、本発明の山留め壁の構築方法を示している。
図3(A)に示すように、既存建物の外壁部12に貫通孔16を穿設する。貫通孔16は、比較的小径の独立孔であるため、支保工は必要とならない。
次に
図3(B)に示すように、スラブ上に設置した造成機Sを介してそれら貫通孔16より高圧噴射撹拌用パイプ30が外壁部12下方の地盤へ挿入するとともに、
図3(C)のように当該パイプから硬化剤を噴出して、改良体20Aを形成する。また両図には表れないが、一番の下の貫通孔16から芯材24が外壁部12下方の地盤へ挿入される。
上述の高圧噴射撹拌用パイプ30の下端には噴射部32が付設されており、噴射部32には、下方への第1噴射口32A及び水平方向への第2噴射口32Bを有する。高圧噴射撹拌用パイプ30は、昇降可能かつ回転可能な態様で造成機Sによって支持されている。
そして、高圧噴射撹拌用パイプ30は、
図6(A)に示すように、まず第1噴射口32Aから下向きの削孔水を噴き出しながら下降される。これにより、地盤中に縦孔部6が形成される。所要長さの縦孔部6が形成された後、高圧噴射撹拌用パイプは、第2噴射口32Bから硬化剤を噴射しながら回転されかつ引き上げられる。これにより縦孔部の回りの土壌が掘削、撹拌され、硬化剤と混合される。これにより硬化体20Aが形成される。このように、
図6(B)に示すように外壁部下面14まで第2噴射口32Bが徐々に移動して、硬化体20Aが形成される。因みに、公知の噴射部32では、下方の第1噴射口32Aから水平方向の第2噴射口32Bへの噴射口の切り替え手段は、噴射口32内にある図示しない止水ボールの着脱によって実施される。
そして拘束噴射撹拌用パイプを除去するとともに、芯材24の下半部を改良体20Aへ挿入させる。しかる後に改良体を養生させる。
そして改良体20Aが在る程度硬化した後に
図3(D)に示す係止具26を操作して芯材24に張力を導入する。
しかる後、
図3(D)に示す2点鎖線aの内側の建物躯体部分、及び、その外側の外壁部分を解体し、さらに当該躯体部分の下方の地盤を掘削して、掘削部4を形成する。
【0026】
図4には、芯材24への張力導入の作用を示す。即ち、山留め壁10本体へ定着された芯材24が、図中に矢印で示すように締め上げられることで、山留め壁本体20の上面22と外壁部12の下面14とが相互に強く圧接されるために、両面間の摩擦力が増大し、横方向の外力に対して十分に抵抗力を発揮する。
また貫通孔16の孔面にはフリクションカットを施しているので、改良体20Aの延長部分21と貫通孔16の孔面との摩擦による荷重損失を低下することができ、上記締め上げ力を山留め壁本体20の上面22と外壁部12の下面14との圧接力として十分に活用できる。これにより、改良体20Aと外壁部12との一体性が高まる。
ここでの一体性とは、主として改良体と外壁部との間の圧接力が増すという意味であり、試算上はその圧接力のみで所定の摩擦力が得られるように設計する。もっとも改良体20Aが外壁部12の下面に押し付けられて、外壁部12の下面の形状になじんだ形で硬化し、“かみあい”のような作用を生ずると考えられる。
【0027】
ここで上述の摩擦機構の試算を行う。
外部からの荷重に対して鉄筋を締め付けることで発生する摩擦で抵抗する。
付着許容応力度:0.1Fc=0.2N/mm
2
外部からの荷重:Q:23.0t/m
せん断力Qに耐えるために必要な導入軸力は、1mあたり2本の鉄筋を入れるとすると、
N=Q/(2×μ)=230kN
鉄筋を底盤下より8m挿入すると考えると
230020/(8000×160)=0.18N/mm
2< 0.2N/mm
2
余裕を見て0.2N/mm
2という数値を採用すると、 その際の導入トルクTは
T=k×d×N=0.2×0.051×230=2.3kN・m
以上のことから十分な安定性が得られることが判る。
【0028】
本発明の山留め壁及びその構築方法によれば、高圧噴射撹拌工法を用いて既存建物の外壁部の真下に山留め壁本体20を形成するので、新築建物の敷地面積が狭くなり過ぎることがなく、高圧噴射撹拌工法では大径の貫通孔が必要ないので、支保工による補強を低減することができ、工期や工数を減らすことができる。
【0029】
以下、本発明の他の実施形態について説明する。これらの説明において第1実施形態と同じ構成に関しては解説を省略する。
【0030】
図7は、本発明の第2実施形態に係る山留め壁を縦断面図で示している。この実施形態では、既存建物の外壁B1に上下に長い貫通孔16を縦設している。また芯材16の下端に機械式定着部材28を設けている。
【0031】
図8は、本発明の第3実施形態に係る山留め壁を縦断面図で示している。
この実施形態では、貫通孔として、芯材24が挿入された第1貫通孔16Aと、高圧噴射撹拌用パイプ30が挿入された第2貫通孔16Bとをそれぞれ形成している。
図示例においては、第2貫通孔16Bが第1貫通孔16Aよりも大径である。また第1貫通孔16Aの孔面にのみフリクションカットを施している。
なお、図示例と異なり、第2貫通孔16Bを芯材24挿入用及び高圧噴射撹拌用パイプ30挿入用の兼用としてもよい。
【0032】
なお、本願明細書の実施形態は好適な実施の態様を示しているに過ぎず、本発明の精神に反しない限り、適宜その内容を変更することを妨げるものではない。