(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記短絡用半導体スイッチを閉路させる電圧源は、前記主回路用半導体スイッチのゲート−ソース間のキャパシタンスに残留する電荷である請求項1に記載の半導体スイッチ用電荷引き抜き回路。
電源と負荷との間に設けられ、入力に対する出力の極性を交互に反転させるスイッチングを行う機能をそれぞれが有する前段回路及び後段回路を備えている変圧装置であって、
前記前段回路及び前記後段回路の少なくとも一方に設けられ、一対のリアクタンス素子を接続点で互いに直列に接続して成る直列体と、
前記直列体の両端を第1ポートとした場合に、前記直列体の一端と前記接続点との間、及び、前記直列体の他端と前記接続点との間を、スイッチングにより交互に、かつ、極性を反転させながら第2ポートとして、前記第1ポートから前記第2ポートへの電力の伝送、及び、前記第2ポートから前記第1ポートへの電力の伝送のいずれか一方を実行するスイッチ装置とを備え、
前記スイッチ装置は、
前記スイッチングを行う主回路用半導体スイッチと、
前記主回路用半導体スイッチのゲート-ソース間にゲート信号を与える駆動回路と、
前記主回路用半導体スイッチのゲート及びソースにそれぞれ繋がる2線路間に接続される電荷引き抜き回路と、を備え、
前記電荷引き抜き回路は、
前記2線路間の電圧が、前記主回路用半導体スイッチをオン状態にする電圧の閾値に達しているか否かを検知する電圧検知回路と、
出力2端子がそれぞれ前記2線路に接続され、前記2線路間の電圧が前記閾値に達しているときは開路し、前記閾値に達していないときは閉路することにより前記ゲートと前記ソースとを互いに短絡する短絡用半導体スイッチと、
を備えている変圧装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態の要旨]
本発明の実施形態の要旨としては、少なくとも以下のものが含まれる。
【0013】
(1)これは、主回路用半導体スイッチのゲート及びソースにそれぞれ繋がる2線路間に接続される、半導体スイッチ用電荷引き抜き回路であって、前記2線路間の電圧が、前記主回路用半導体スイッチをオン状態にする電圧の閾値に達しているか否かを検知する電圧検知回路と、出力2端子がそれぞれ前記2線路に接続され、前記2線路間の電圧が前記閾値に達しているときは開き、前記閾値に達していないときは閉じる短絡用半導体スイッチと、を備えている半導体スイッチ用電荷引き抜き回路である。
【0014】
上記の半導体スイッチ用電荷引き抜き回路では、ゲート−ソース間の電圧が、スイッチオン(ゲート信号Hレベル)からスイッチオフ(ゲート信号Lレベル)の状態となって閾値より下がると、短絡用半導体スイッチが閉じて、ゲート−ソース間を短絡する。これにより、ゲート−ソース間のキャパシタンスに残留する電荷は一気に失われる。すなわち、ゲート−ソース間のキャパシタンスに残留する電荷を極めて迅速に引き抜くことができる。
こうして、高速なスイッチングを行う半導体スイッチにおいてゲート信号がHレベルからLレベルに転じるときのゲート−ソース間の電圧の降下をスピードアップすることができる。
【0015】
(2)また、(1)の半導体スイッチ用電荷引き抜き回路において、例えば、前記短絡用半導体スイッチを閉路させる電圧源は、前記主回路用半導体スイッチのゲート−ソース間のキャパシタンスに残留する電荷である。
この場合、ゲート−ソース間のキャパシタンスに残留する電荷が短絡用半導体スイッチを閉路させるので、電荷が引き抜かれると自然に、短絡用半導体スイッチは開路し、次の2線路間の電圧(ゲート信号)を待ち受ける状態とすることができる。すなわち、当該半導体スイッチ用電荷引き抜き回路は専用の制御電源を必要としない。
【0016】
(3)また、(1)の半導体スイッチ用電荷引き抜き回路において、前記電圧検知回路は、前記2線路間の電圧が前記閾値に達していると導通し、前記閾値に達していないと非導通であるツェナーダイオードと、前記ツェナーダイオードの導通によって閉路し、前記ツェナーダイオードの非導通によって開路する電荷引き抜き制御用半導体スイッチと、を備え、前記電荷引き抜き制御用半導体スイッチの開路で前記短絡用半導体スイッチを閉路し、前記電荷引き抜き制御用半導体スイッチの閉路で前記短絡用半導体スイッチを開路するものであってもよい。
この場合、簡易な回路で、短絡用半導体スイッチを高速に、かつ、安定して動作させることができる。
【0017】
(4)一方、これは、主回路用半導体スイッチを駆動するための半導体スイッチ駆動回路であって、前記主回路用半導体スイッチのゲート-ソース間にゲート信号を与える駆動回路と、前記主回路用半導体スイッチのゲート及びソースにそれぞれ繋がる2線路間に接続される電荷引き抜き回路と、を備え、前記電荷引き抜き回路は、前記2線路間の電圧が、前記主回路用半導体スイッチをオン状態にする電圧の閾値に達しているか否かを検知する電圧検知回路と、出力2端子がそれぞれ前記2線路に接続され、前記2線路間の電圧が前記閾値に達しているときは開き、前記閾値に達していないときは閉じる短絡用半導体スイッチと、を備えている。
【0018】
このような半導体スイッチ駆動回路では、駆動回路に当該電荷引き抜き回路を併設することにより、ゲート−ソース間の電圧が、スイッチオン(ゲート信号Hレベル)からスイッチオフ(ゲート信号Lレベル)の状態となって閾値より下がると、短絡用半導体スイッチが閉じて、ゲート−ソース間を短絡する。これにより、ゲート−ソース間のキャパシタンスに残留する電荷は一気に失われる。すなわち、ゲート−ソース間のキャパシタンスに残留する電荷を極めて迅速に引き抜くことができる。
こうして、高速なスイッチングを行う半導体スイッチにおいてゲート信号がHレベルからLレベルに転じるときのゲート−ソース間の電圧の降下をスピードアップすることができる。これにより、スイッチング損失を低減するか又は、主回路用半導体スイッチのスイッチング周波数をさらに高めることができる。
【0019】
(5)また、これは、電源と負荷との間に設けられ、入力に対する出力の極性を交互に反転させるスイッチングを行う機能をそれぞれが有する前段回路及び後段回路を備えている変圧装置であって、前記前段回路及び前記後段回路の少なくとも一方に設けられ、一対のリアクタンス素子を接続点で互いに直列に接続して成る直列体と、前記直列体の両端を第1ポートとした場合に、前記直列体の一端と前記接続点との間、及び、前記直列体の他端と前記接続点との間を、スイッチングにより交互に、かつ、極性を反転させながら第2ポートとして、前記第1ポートから前記第2ポートへの電力の伝送、及び、前記第2ポートから前記第1ポートへの電力の伝送のいずれか一方を実行するスイッチ装置と、を備えている。前記スイッチ装置は、前記スイッチングを行う主回路用半導体スイッチと、前記主回路用半導体スイッチのゲート-ソース間にゲート信号を与える駆動回路と、前記主回路用半導体スイッチのゲート及びソースにそれぞれ繋がる2線路間に接続される電荷引き抜き回路と、を備えている。前記電荷引き抜き回路は、前記2線路間の電圧が、前記主回路用半導体スイッチをオン状態にする電圧の閾値に達しているか否かを検知する電圧検知回路と、出力2端子がそれぞれ前記2線路に接続され、前記2線路間の電圧が前記閾値に達しているときは開き、前記閾値に達していないときは閉じる短絡用半導体スイッチと、を備えている。
【0020】
このように構成された変圧装置では、一対のリアクタンス素子を含む回路構成とスイッチングとによって変圧を行うことができる。このような変圧装置を電力用の変圧器として用いることにより、コイルや鉄心等を含む従来のトランスは不要となる。従って、変圧器の飛躍的な小型軽量化及び、それに伴う低コスト化を実現することができる。また、高周波トランスで課題となる寄生容量、漏れ磁界発生の問題も解消され、低損失な変圧器を実現することができる。
また、主回路用半導体スイッチの駆動回路に当該電荷引き抜き回路を併設することにより、ゲート−ソース間の電圧が、スイッチオン(ゲート信号Hレベル)からスイッチオフ(ゲート信号Lレベル)の状態となって閾値より下がると、短絡用半導体スイッチが閉じて、ゲート−ソース間を短絡する。これにより、ゲート−ソース間のキャパシタンスに残留する電荷は一気に失われる。すなわち、ゲート−ソース間のキャパシタンスに残留する電荷を極めて迅速に引き抜くことができる。
こうして、高速なスイッチングを行う半導体スイッチにおいてゲート信号がHレベルからLレベルに転じるときのゲート−ソース間の電圧の降下をスピードアップすることができる。これにより、スイッチング損失を低減するか又は、主回路用半導体スイッチのスイッチング周波数をさらに高めることができる。スイッチング周波数を高めることは、リアクタンス素子の小型化にも寄与する。
【0021】
[実施形態の詳細]
以下、実施形態の詳細について、図面を参照して説明する。まず、変圧装置について説明し、その後、半導体スイッチ駆動回路及び半導体スイッチ用電荷引き抜き回路について説明する。
【0023】
《変圧装置の第1実施形態》
図1は、第1実施形態に係る変圧装置1を示す回路図である。図において、変圧装置1は、電源(交流電源)2と、負荷R(Rは、抵抗値でもある。)との間に設けられている。変圧装置1は、一対のキャパシタC1,C2と、一対のインダクタL1,L2と、4つの半導体スイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2と、これらの半導体スイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2のオン/オフを制御する半導体スイッチ駆動回路3と、を備えている。半導体スイッチ駆動回路3については、ここでは概念的なシンボル表示にとどめ、詳細については後述する。
なお、一対のキャパシタC1,C2のキャパシタンス値は同じ値であってもよいし、互いに異なる値であってもよい。一対のインダクタL1,L2のインダクタンス値についても同様である。
【0024】
半導体スイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2及び半導体スイッチ駆動回路3により、変圧装置1の回路接続の状態を切り替えるスイッチ装置4が構成されている。半導体スイッチS
r1,S
r2は互いに同期して動作し、また、半導体スイッチS
b1,S
b2は互いに同期して動作する。そして、半導体スイッチS
r1,S
r2のペアと、半導体スイッチS
b1,S
b2のペアとは、排他的に交互にオンとなるよう動作する。半導体スイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2は、例えば、SiC素子又はGaN素子からなる半導体スイッチング素子である。SiC素子又はGaN素子は、例えばSi素子に比べて、より高速なスイッチングが可能である。また、素子を多段に接続しなくても、充分な耐圧(例えば6.6kV/1個も可能)が得られる。
【0025】
図1において、一対のキャパシタC1,C2は、接続点M1において互いに直列に接続されている。そして、その直列体の両端に、電源2が接続されている。一対のキャパシタC1,C2の直列体には入力電圧v
inが印加され、入力電流i
inが流れる。
また、一対のインダクタL1,L2は、接続点M2において互いに直列に接続されている。そして、その直列体の両端に、キャパシタC1,C2を介した入力電圧v
mが印加され、入力電流i
mが流れる。負荷Rには、半導体スイッチS
r2,S
b2のいずれかがオンのとき電流が流れる。ここで、負荷Rに印加される電圧をv
out、変圧装置1から負荷Rに流れる出力電流をi
outとする。
【0026】
図2の(a)は、
図1における4つの半導体スイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2のうち、上側にある2つの半導体スイッチS
r1,S
r2がオンで、下側にある2つの半導体スイッチS
b1,S
b2がオフであるときの、実体接続の状態を示す回路図である。なお、
図1におけるスイッチ装置4の図示は省略している。また、
図2の(b)は、(a)と同じ回路図を、階段状に書き換えた回路図である。
一方、
図3の(a)は、
図1における4つの半導体スイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2のうち、下側にある2つの半導体スイッチS
b1,S
b2がオンで、上側にある2つの半導体スイッチS
r1,S
r2がオフであるときの、実体接続の状態を示す回路図である。また、
図3の(b)は、(a)と同じ回路図を、階段状に書き換えた回路図である。
【0027】
図2,
図3の状態を交互に繰り返すことにより、キャパシタC1,C2の直列体の接続点M1を介して取り出される電圧は、さらに、インダクタL1,L2の直列体の接続点M2を介して取り出される電圧となる。すなわち、一対のキャパシタC1,C2を含む前段回路と、一対のインダクタL1,L2を含む後段回路を備えた回路構成であり、かつ、各段において、スイッチングにより、入力に対する出力の極性が反転する。なお、キャパシタC1,C2に関してはスイッチングにより交互に電流の向きが反転し、インダクタL1,L2に関してはスイッチングにより交互に電圧の向きが反転する。
ここで、入力電圧は1/4となって出力されるのではないかと推定できる。以下、これを理論的に証明する。
【0028】
図2において、電源2からの入力電圧をv
in、負荷Rに印加される電圧をv
out、キャパシタC1に印加される電圧をv
1、キャパシタC2に印加される電圧をv
2、インダクタL1に流れる電流をi
1、インダクタL2に流れる電流をi
2とすると、以下の式が成り立つ。
なお、計算の簡略化のため、キャパシタC1,C2のキャパシタンスは共に同じ値C、インダクタL1,L2のインダクタンスは共に同じ値L、とする。
【0030】
上記の式は、v
1,i
1,i
2の式に変形すると、以下のようになる。
【0032】
ここで、Ri
1=v
3、Ri
2=v
4と置くと、以下の方程式1が得られる。
【0034】
また、
図3において、
図2と同様に、電源2からの入力電圧をv
in、負荷Rに印加される電圧をv
out、キャパシタC1に印加される電圧をv
1、キャパシタC2に印加される電圧をv
2、インダクタL1に流れる電流をi
1、インダクタL2に流れる電流をi
2とすると、以下の式が成り立つ。
【0036】
上記の式は、v
1,i
1,i
2の式に変形すると、以下のようになる。
【0038】
ここで、Ri
1=v
3、Ri
2=v
4と置くと、以下の方程式2が得られる。
【0040】
ここで、上記2つの状態から厳密解の導出は困難である。そこで、実用上問題ないと思われる範囲で以下の条件を設定する。
(1)Lのインピーダンス(リアクタンス)は、スイッチング周波数fsにおいては、抵抗値Rに対して十分大きいが、入力電圧の周波数f
oにおいては、抵抗値に対して十分小さい。すなわち、2πf
oL<<R<<2πfsL、である。不等号で示す差は、例えば、1桁以上、より好ましくは2桁以上の差であることが好ましい。これにより、歪みの少ない、より安定した変圧動作が得られる。
(2)Cのインピーダンス(リアクタンス)は、スイッチング周波数fsにおいては、抵抗値Rに対して十分小さいが、入力電圧の周波数f
oにおいては、抵抗値に対して十分大きい。すなわち、1/(2πfsC)<<R<<1/(2πf
oC)、である。不等号で示す差は、例えば、1桁以上、より好ましくは2桁以上の差であることが好ましい。これにより、歪みの少ない、より安定した変圧動作が得られる。
(3)また、スイッチングの一周期中で、入力電圧は、ほとんど変化しない。
従って、v
in(t+Δt)=v
in(t) (0 ≦ Δt ≦ 1/fs)
(4)系は定常であり、周期(1/fs)でほぼ同じ状態に戻る。
従って、v
x(t+(1/fs))≒ v
x(t) (x=1,2,3,4)
【0041】
半導体スイッチS
r1,S
r2が、0≦t≦(1/2fs)の時間でオン、半導体スイッチS
b1,S
b2が、(1/2fs)≦t≦(1/fs)の時間でオンになるとすると、方程式1についてはt=0の周りで1次近似して以下の方程式3が得られる。また、方程式2については、t=(1/2fs)の周りで1次近似して以下の方程式4が得られる。
【0043】
なお、上記の方程式(3)において、3段目の式における右辺の第3項の、−(1/2){v
in(1/2fs)−v
in(0)}は、十分に0に近い値である。
【0045】
なお、上記の方程式(4)において、3段目の式における右辺の第3項の、−(1/2){v
in(1/fs)−v
in(1/2fs)}は、十分に0に近い値である。
【0046】
ここで、方程式3,4におけるv
1,v
3,v
4をそれぞれ繋げると、すなわち、v
1(0)=v
1(1/fs)、v
3(0)=v
3(1/fs)、v
4(0)=v
4(1/fs)、であることを利用し、また、ΔT=1/(2fs)とおいて、以下の式が得られる。
【0048】
また、上記(直前)の式の1段目と2段目との和をとると、
v
in=−2{v
3(0)+v
4(0)+v
3(ΔT)+v
4(ΔT)}+v
1(0)−v
1(ΔT)
ここで、方程式3の3段目の式より、v
1(0)−v
1(ΔT)=(1/(4fsCR))v
4(0)
また、−v
out=R(i
1+i
2)=v
3+v
4であり、常に成り立つ式であるので、以下の結論式が得られる。
【0050】
なお、ここでは簡略化のために各C、各Lは同一値として扱ったが、これらが異なる場合においても、同様の式展開によって同様の結果を導くことができる。
結論式における最下段の式の右辺の第2項は第1項に比べて十分に小さいので無視できる。従って、負荷変動(Rの値の変動)に関係なくv
in≒4v
outとなり、出力電圧は、入力電圧のほぼ1/4となる。なお、負荷R以外での損失は無いので、出力電流は入力電流の約4倍、入力インピーダンスは抵抗値Rの16倍になる。
【0051】
ここで、再度、
図1〜3の変圧装置1の構成を確認すると、変圧装置1は、第1直列体(C1,C2)と、第2直列体(L1,L2)と、スイッチ装置4とを備えている。第1直列体(C1,C2)は、一対のリアクタンス素子(キャパシタC1,C2)を第1接続点(M1)で互いに直列に接続して成り、その両端が、電源2と接続される。第2直列体(L1,L2)は、一対のリアクタンス素子(インダクタL1,L2)を第2接続点(M2)で互いに直列に接続して成る。
【0052】
そして、
図2の(b)及び
図3の(b)に示すように、スイッチ装置4は、第2直列体(L1,L2)の両端が、第1直列体(C1,C2)の一端と第1接続点(M1)との間に接続される状態と、他端と第1接続点(M1)との間に接続される状態とを、交互に成立させ、かつ、入力に対する出力の極性が反転するように切り替える。また、これと同期して、負荷Rが、第2直列体(L1,L2)の一端と第2接続点(M2)との間に接続される状態と、他端と第2接続点(M2)との間に接続される状態とを、交互に成立させ、かつ、入力に対する出力の極性が反転するように切り替える。
【0053】
なお、回路パラメータ条件として、インダクタンスに関しては、2πf
oL<<R<<2πfsL、である。また、キャパシタンスに関しては、1/(2πfsC)<<R<<1/(2πf
oC)である。この回路パラメータ条件が満たされることにより、負荷変動に対して変圧比が一定であることを確実に実現し、歪みの少ない、より安定した変圧動作が得られる。なお、不等号で示す差は、例えば、1桁以上、より好ましくは2桁以上の差があることが好ましい(以下、同様。)。
【0054】
図4は、上が、変圧装置1に対する入力電圧、下が、入力電流をそれぞれ表す波形図である。
図5は、変圧の中間段階での電圧v
m、電流i
mをそれぞれ表す波形図である。これは実際には、スイッチングによるパルス列によって構成され、全体として図示のような波形となる。
また、
図6は、上が、変圧装置1からの出力電圧、下が、出力電流をそれぞれ表す波形図である。
図4,
図6の対比により明らかなように、電圧は1/4に変圧され、それに伴って、電流は4倍となる。
【0055】
《変圧装置の第2実施形態》
図7は、第2実施形態に係る変圧装置1を示す回路図である。変圧装置1の実体は
図1と同じであるが、
図1との違いは、電源2と負荷Rとが、入れ替わっている点である。この場合、入力/出力が逆になるが、入力電圧は4倍に昇圧される。昇圧に伴って、出力電流は1/4になる。なお、回路パラメータ条件は、第1実施形態と同様である。
【0056】
図8は、上が、
図7の変圧装置1に対する入力電圧、下が、入力電流をそれぞれ表す波形図である。また、
図9は、上が、変圧装置1からの出力電圧、下が、出力電流をそれぞれ表す波形図である。
図8,
図9の対比により明らかなように、電圧は4倍に変圧され、それに伴って、電流は1/4となる。
このように、
図1又は
図7に示す変圧装置1は、入力/出力の可逆性を有している。
【0057】
《変圧装置のその他の実施形態を含めた総括》
特許文献1にも開示されているように、変圧装置の構成にはバリエーションがある。ここでは、種々のバリエーションを再掲することは省略するが、バリエーションを考慮して変圧装置を総括すると、以下のようになる。
図10は、変圧装置1を大局的に見た概略構成を示すブロック図である。すなわち、変圧装置1は、電源2と負荷Rとの間に設けられ、電源2と接続される前端側に入力ポートP1及びP2を有し、後端側に出力ポートP3及びP4を有する前段回路1fと、負荷Rと接続される後端側に出力ポートP7及びP8を有し、前端側に入力ポートP5及びP6を有する後段回路1rとを備えている。
【0058】
すなわち変圧装置1は、電源2と負荷Rとの間に設けられ、入力に対する出力の極性を交互に反転させるスイッチングを行う機能をそれぞれが有する前段回路1f及び後段回路1rを備えている。そして、当該変圧装置1は、前段回路1f及び後段回路1rの少なくとも一方に、一対のリアクタンス素子を接続点で互いに直列に接続して成る直列体を備えている。また、変圧装置1に含まれるスイッチ装置4(
図1)は、前記直列体の両端を第1ポートとした場合に、前記直列体の一端と前記接続点との間、及び、前記直列体の他端と前記接続点との間を、スイッチングにより交互に、かつ、極性を反転させながら第2ポートとして、前記第1ポートから前記第2ポートへの電力の伝送、及び、前記第2ポートから前記第1ポートへの電力の伝送のいずれか一方を実行する。
【0059】
このように構成された変圧装置1では、一対のリアクタンス素子を含む回路構成とスイッチングとによって変圧を行うことができる。このような変圧装置1を電力用の変圧器として用いることにより、コイルや鉄心等を含む従来のトランスは不要となる。従って、変圧器の飛躍的な小型軽量化及び、それに伴う低コスト化を実現することができる。また、高周波トランスで課題となる寄生容量、漏れ磁界発生の問題も解消され、低損失な変圧器を実現することができる。
【0060】
次に、回路構成の具体的なブロックから総括する。
図11は、前段回路1fとして選択しうる回路の基本形を示す図である。
変圧装置1の前段回路としては、以下の(F1)〜(F5)のいずれかが選択可能である。
【0061】
(F1)は、
図11の(a)に示す前段回路1fである。
すなわち、(F1)は、一対のキャパシタをキャパシタ接続点で互いに直列に接続して成る直列体の両端がそれぞれ入力ポートP1及び入力ポートP2に接続され、キャパシタ接続点は出力ポートP4に接続され、入力ポートP1と出力ポートP3との間にある第1スイッチと、入力ポートP2と出力ポートP3との間にある第2スイッチとが、スイッチングにより交互にオン状態となる前段回路、である。
【0062】
(F2)は、
図11の(b)に示す前段回路1fを1ユニットとして、複数ユニットで多段化した前段回路である。多段化には、出力ポートP3に直結する線路にもキャパシタが必要になる。
すなわち、(F2)は、(F1)の前段回路において出力ポートP3に直結する線路にキャパシタを介挿したものを1ユニットとして、複数ユニットの入力ポートP1,P2を互いに直列に接続し、複数ユニットの出力ポートP3,P4を互いに並列に接続した前段回路、である。
【0063】
(F3)は、
図11の(c)に示す前段回路1fである。
すなわち、(F3)は、一対のインダクタをインダクタ接続点で互いに直列に接続して成る直列体の両端がそれぞれ出力ポートP3及び出力ポートP4に接続され、インダクタ接続点は入力ポートP2に接続され、入力ポートP1と出力ポートP3との間にある第1スイッチと、入力ポートP1と出力ポートP4との間にある第2スイッチとが、スイッチングにより交互にオン状態となる前段回路、である。
【0064】
(F4)は、
図11の(d)に示す前段回路1fを1ユニットとして、複数ユニットで多段化した前段回路である。多段化には、入力ポートP1に直結する線路にもインダクタが必要になる。
すなわち、(F3)の前段回路において入力ポートP1に直結する線路にインダクタを介挿したものを1ユニットとして、複数ユニットの前記入力ポートP1,P2を互いに並列に接続し、複数ユニットの前記出力ポートP3,P4を互いに直列に接続した前段回路、である。
【0065】
(F5)は、
図11の(e)に示す前段回路1fである。
すなわち、(F5)は、4個のスイッチによって構成され、入力ポートP1,P2から入力して出力ポートP3,P4から出力するフルブリッジ回路の前段回路、である。
【0066】
図12は、後段回路1rとして選択しうる回路の基本形を示す図である。
変圧装置1の後段回路としては、以下の(R1)〜(R5)のいずれかが選択可能である。
【0067】
(R1)は、
図12の(a)に示す後段回路1rである。
すなわち、(R1)は、一対のインダクタをインダクタ接続点で互いに直列に接続して成る直列体の両端がそれぞれ入力ポートP5及び入力ポートP6に接続され、インダクタ接続点は出力ポートP8に接続され、入力ポートP5と出力ポートP7との間にある第1スイッチと、入力ポートP6と出力ポートP7との間にある第2スイッチとが、スイッチングにより交互にオン状態となる後段回路、である。
【0068】
(R2)は、
図12の(b)に示す後段回路1rを1ユニットとして、複数ユニットで多段化した後段回路である。多段化には、出力ポートP7に直結する線路にもインダクタが必要になる。
すなわち、(R2)は、(R1)の後段回路において出力ポートP7に直結する線路にインダクタを介挿したものを1ユニットとして、複数ユニットの入力ポートP5,P6を互いに直列に接続し、複数ユニットの出力ポートP7,P8を互いに並列に接続した後段回路、である。
【0069】
(R3)は、
図12の(c)に示す後段回路1rである。
すなわち、(R3)は、一対のキャパシタをキャパシタ接続点で互いに直列に接続して成る直列体の両端がそれぞれ出力ポートP7及び出力ポートP8に接続され、キャパシタ接続点は入力ポートP6に接続され、入力ポートP5と出力ポートP7との間にある第1スイッチと、入力ポートP5と出力ポートP8との間にある第2スイッチとが、スイッチングにより交互にオン状態となる後段回路、である。
【0070】
(R4)は、
図12の(d)に示す後段回路1rを1ユニットとして、複数ユニットで多段化した後段回路である。多段化には、入力ポートP5に直結する線路にもキャパシタが必要になる。
すなわち、(R4)は、(R3)の後段回路において入力ポートP5に直結する線路にキャパシタを介挿したものを1ユニットとして、複数ユニットの入力ポートP5,P6を互いに並列に接続し、複数ユニットの出力ポートP7,P8を互いに直列に接続した後段回路、である。
【0071】
(R5)は、
図12の(e)に示す後段回路である。
すなわち、(R5)は、4個のスイッチによって構成され、入力ポートP5,P6から入力して出力ポートP7,P8から出力するフルブリッジ回路の後段回路、である。
【0072】
そして、上記の前段回路(F1)〜(F5)のうちのいずれか一つと、後段回路(R1)〜(R5)のうちのいずれか一つとを備えて構成され、かつ、前段回路が(F5)で後段回路が(R5)であるという組み合わせは除外する変圧装置であればよい。
かかる変圧装置では、回路構成とスイッチングとによって変圧を行うことができる。このような変圧装置を電力用の変圧器として用いることにより、コイルや鉄心等を含む従来のトランスは不要となる。従って、変圧器の飛躍的な小型軽量化及び、それに伴う低コスト化を実現することができる。また、高周波トランスで課題となる寄生容量、漏れ磁界発生の問題も解消され、低損失な変圧器を実現することができる。
【0073】
なお、上記の変圧装置における前段回路・後段回路の組み合わせと、変圧比との関係は、以下の表1に示す通りである。なお、表1において、「C」はキャパシタを用いる回路を、「L」はインダクタを用いる回路を、「FB」はフルブリッジ回路を用いる回路を、それぞれ示している。N
Fは前段回路のユニット数を表し、N
Rは後段回路のユニット数を表す。
【0075】
上記のように、各種の変圧比を容易に実現することができる。
さらに、上記のいずれかの前段回路・後段回路を備えた変圧装置を、複数組、縦続に構成してもよい。この場合、降圧・昇圧ともに、大きな変圧比を実現することができる。
【0076】
《直流電源の場合の実施形態の総括》
なお、上記各実施形態においては電源2が交流電源であるとして説明したが、上述の変圧装置1は、直流電源にも適用可能であり、DC/DCコンバータとしても使用可能である。
電源2が交流電源ではなく直流電源である場合の変圧装置1は、後段回路1rのバリエーションがさらにある。
図12に示した後段回路1rとして選択しうる回路の基本形と対応させて考えると、
図13は、ダイオードを用いた場合の、後段回路1rとして選択しうる回路の基本形を示す図である。
電源(直流電源)2に対する変圧装置1の後段回路(ダイオード使用)としては、以下の(R1)〜(R5)のいずれかが選択可能である。
【0077】
(R1)は、
図13の(a)に示す後段回路1rである。
すなわち、(R1)は、一対のインダクタをインダクタ接続点で互いに直列に接続して成る直列体の両端がそれぞれ入力ポートP5及び入力ポートP6に接続され、インダクタ接続点は出力ポートP8に接続され、入力ポートP5と出力ポートP7との間にある第1ダイオードと、入力ポートP6と出力ポートP7との間にある第2ダイオードとが、入力電圧の極性に応じて交互に導通する後段回路、である。
【0078】
(R2)は、
図13の(b)に示す後段回路1rを1ユニットとして、複数ユニットで多段化した後段回路である。多段化には、出力ポートP7に直結する線路にもインダクタが必要になる。
すなわち、(R2)は、(R1)の後段回路において出力ポートP7に直結する線路にインダクタを介挿したものを1ユニットとして、複数ユニットの入力ポートP5,P6を互いに直列に接続し、複数ユニットの出力ポートP7,P8を互いに並列に接続した後段回路、である。
【0079】
(R3)は、
図13の(c)に示す後段回路1rである。
すなわち、(R3)は、一対のキャパシタをキャパシタ接続点で互いに直列に接続して成る直列体の両端がそれぞれ出力ポートP7及び出力ポートP8に接続され、キャパシタ接続点は入力ポートP6に接続され、入力ポートP5と出力ポートP7との間にある第1ダイオードと、入力ポートP5と出力ポートP8との間にある第2ダイオードとが、入力電圧の極性に応じて交互に導通する後段回路、である。
【0080】
(R4)は、
図13の(d)に示す後段回路1rを1ユニットとして、複数ユニットで多段化した後段回路である。多段化には、入力ポートP5に直結する線路にもキャパシタが必要になる。
すなわち、(R4)は、(R3)の後段回路において入力ポートP5に直結する線路にキャパシタを介挿したものを1ユニットとして、複数ユニットの入力ポートP5,P6を互いに並列に接続し、複数ユニットの出力ポートP7,P8を互いに直列に接続した後段回路、である。
【0081】
(R5)は、
図13の(e)に示す後段回路である。
すなわち、(R5)は、4個のダイオードによって構成され、入力ポートP5,P6から入力して出力ポートP7,P8から出力するフルブリッジ回路の後段回路、である。
【0082】
なお、
図13の(a)〜(d)におけるダイオードの向きは、個々のダイオードが図示と逆向き(アノード・カソードが逆)であってもよい。
【0083】
以上のように、電源が直流電源である場合は、後段の回路バリエーションが多くなり、まず、交流電源の場合と同様に、
図11の前段回路(F1)〜(F5)のうちのいずれか一つと、
図12の後段回路(R1)〜(R5)のうちのいずれか一つとを備えて構成され、かつ、前段回路が(F5)で後段回路が(R5)であるという組み合わせは除外する変圧装置であればよい。
また、
図11の前段回路(F1)〜(F5)のうちのいずれか一つと、
図13の後段回路(R1)〜(R5)のうちのいずれか一つとを備えて構成され、かつ、前段回路が(F5)で後段回路が(R5)であるという組み合わせは除外する変圧装置であればよい。
【0085】
次に、スイッチ装置4における、半導体スイッチ駆動回路3について詳細に説明する。半導体スイッチ駆動回路3は、半導体スイッチの駆動のためのゲート信号を与える駆動回路3d(狭義の半導体スイッチ駆動回路)と、後述の改良型の電荷引き抜き回路53とを備えることが好ましいが、まず、駆動回路3dを主体とした半導体スイッチ駆動回路3について説明する。
【0086】
《回路構成》
図14は、例えば
図1におけるスイッチ装置4の回路構成の概要を示すブロック図の一例である。半導体スイッチS
r1,S
r2,S
b1,S
b2(以下、他の半導体スイッチと区別するため、主回路用半導体とも言う。)としては、例えば、高速スイッチングが可能なMOSFETが好適である。ここで、例えば代表例として主回路用半導体スイッチS
r1をスイッチング動作させる半導体スイッチ駆動回路3は、ゲート信号発生部31、変調信号発生部32、変調部33、絶縁カプラ34、及び、復調部35を有している。
【0087】
ゲート信号発生部31は、主回路用半導体スイッチS
r1を駆動するパルス信号を出力する。パルス信号の周波数は、例えば20kHzである。変調信号発生部32は、例えば40.68MHzの連続した発振信号である変調信号を出力する。変調部33はゲート信号を、変調信号の高周波で変調した高周波ゲート信号を生成し、かつ、それに一定の振幅を与えた信号重畳電圧として出力する。なお、ゲート信号発生部31は例えば、コンピュータを含み、ソフトウェア(コンピュータプログラム)をコンピュータが実行することで、少なくともゲート信号発生の機能を実現する。ソフトウェアは、制御部の記憶装置(図示せず。)に格納される。但し、コンピュータを含まないハードウェアのみの回路でゲート信号発生部31を構成することも可能である。
【0088】
なお、他の主回路用半導体スイッチS
r2,S
b1,S
b2についても同様の半導体スイッチ駆動回路、又は、その一部若しくは全部を共用した半導体スイッチ駆動回路を使用することができる。
【0089】
図15は、半導体スイッチ駆動回路3(3d)の、具体的な一例を示す回路図である。
図14と対応する部分には同一符号を付している。
図15において、変調部33は、例えばMOSFETである半導体スイッチQ1,Q2,Q3,Q4を図示のようにフルブリッジ接続して構成されている。半導体スイッチQ1,Q2,Q3,Q4のゲート−ソース間にはそれぞれ、ゲートドライバ41,42,43,44が接続されている。
【0090】
ゲートドライバ41〜44には、変調信号発生部32が接続されている。変調信号発生部32は、各半導体スイッチQ1,Q2,Q3,Q4におけるゲート−ソース間の電圧源でもあり、半導体スイッチQ1,Q4のペアと、半導体スイッチQ2,Q3のペアとで、電圧が逆極性になるように接続されている。また、ゲートドライバ41〜44には、ゲート信号発生部31からパルス状のゲート信号が与えられる。変調部33には、直流電源36から例えばDC20Vの電圧が入力される。直流電源36には、コンデンサ37が並列に接続されている。
【0091】
絶縁カプラ34の電気回路上の機能はコンデンサである。変調部33と復調部35とを繋ぐ電路の一対の線路E1,E2上には、それぞれ、電極対34a、34bが設けられている。各電極対34a,34bは、絶縁体(空気である場合も含む。)を挟んで互いに対向する電極間で電界結合することにより、電圧(電力)を伝送することができる。
また、物理的な配置の点で見た絶縁カプラ34は、二組の電極対34a,34bが互いに絶縁距離を置いて並んでいる構成を有している。これにより、一対のコンデンサを集約して設けることができ、また、コンデンサとして必要な容量を容易に確保することができる。
【0092】
復調部35は、倍電圧整流回路50と、抵抗49とによって構成されている。倍電圧整流回路50は、一対のダイオード45,46の直列体と、一対のコンデンサ47,48の直列体とが、互いに並列に接続されて構成されている。ダイオード45,46の相互接続点、及び、コンデンサ47,48の相互接続点は、入力ポートとなり、それぞれ、線路E1側及び線路E2側に接続されている。各直列体の両端は出力ポートとなる。倍電圧整流回路50は、入力ポートへの入力電圧を昇圧して出力ポートに出力できるので、高めの駆動電圧が必要な半導体スイッチ
Sr1に好適である。
なお、倍電圧整流回路50は一例に過ぎず、他の整流回路(例えば、倍電流整流回路)であってもよい。
【0093】
倍電圧整流回路50には抵抗49が並列に接続され、抵抗49の両端の電圧が、半導体スイッチS
r1のゲート−ソース間電圧として与えられる。また、抵抗49は、ゲート−ソース間のキャパシタンスに貯まった電荷を徐々に放電させる効果がある。仮に、この抵抗49が無い場合には、電荷が放電しないので、オフにする信号が来てもゲート電圧が残り続け、半導体スイッチS
r1はオンのままとなる。
半導体スイッチS
r1は、主回路電圧が交流の場合に双方向性の制御を担保するため、例えば、一対の半導体スイッチQ5,Q6を互いに逆極性となるよう直列接続して構成されている。一対の半導体スイッチQ5,Q6には同じゲートーソース間電圧が与えられ、両者の動作タイミングは同時である。
【0094】
《波形図で見た動作》
図16の(a)は、変調信号発生部32が出力する変調信号、(b)はゲート信号発生部31が出力するゲート信号、(c)は変調部33が出力する信号重畳電圧を、それぞれの一例として表している。変調信号の1周期は、実際には図示しているよりもさらに短いが、説明の便宜上、波形のイメージがわかる程度に表示している。ゲート信号は、最終的に制御したい半導体スイッチ(例えばS
r1)のオン/オフのタイミングを持つ制御信号である。
【0095】
変調信号は常時、半導体スイッチQ1〜Q4のゲートドライバ41〜44に与えられている。但し、変調信号の符号が正のときは、例えば半導体スイッチQ1,Q4に順方向のゲート−ソース電圧をかけ得るターンオン可能な状態となり、これに対して、半導体スイッチQ2,Q3はターンオンできない状態となる。逆に、変調信号の符号が負のときは、半導体スイッチQ2,Q3に順方向のゲート−ソース電圧をかけ得るターンオン可能な状態となり、半導体スイッチQ1,Q4はターンオンできない状態となる。
【0096】
また、ゲート信号がオフのときは、全ての半導体スイッチQ1〜Q4はオフとなり、変調部33の出力は得られない。ゲート信号がオンのときは、変調信号の符号に応じて半導体スイッチQ1,Q4のペア、及び、半導体スイッチQ2,Q3のペアが交代でオンとなり、変調信号の変化に同期して、
図16の(c)に示すように、直流電源36の電圧(20V付近)を振幅とした高周波の交流電圧が変調部33から出力される。この出力は、信号重畳電圧であり、ゲート信号(周期T1、パルス幅T2)、所定の電圧、電界結合に必要な高周波(周期T3)、の各要素を備えている。
【0097】
このような信号重畳電圧は、絶縁カプラ34を通過し、復調部35への入力となる。すなわち、絶縁カプラ34は、その1次側電極と2次側電極との間での電界結合により、信号重畳電圧を伝送することができる。
【0098】
図17の(a)は、絶縁カプラ34を経て復調部35へ入力される信号重畳電圧の一例を示す図である。伝送損失により信号重畳電圧の振幅は若干低下する。(b)は、復調部35から出力される整流信号を示す図である。信号重畳電圧は、倍電圧整流回路50により整流され、(b)に示す整流信号となって復調部35から出力される。出力される電圧は、半導体スイッチ(例えばS
r1)のゲート−ソース間に印加される。整流信号(矩形波などの包絡線電圧)は、半導体スイッチのゲート−ソース間に印加される駆動電圧であるとともに、オン/オフの時間的なタイミング(周期T1、パルス幅T2)を示すゲート信号でもある。駆動電圧としては、例えば、約15Vを確保することができ、半導体スイッチのゲート−ソース間電圧として十分な値が得られる。
【0099】
《ここまでのまとめ》
このような半導体スイッチ駆動回路3によれば、駆動電圧とゲート信号とを信号重畳電圧として1つにまとめて搬送することができる。また、信号重畳電圧は、コンデンサである絶縁カプラ34を通して伝送され、復調部35を経て、半導体スイッチ(例えばS
r1)の駆動電圧になると共に、ゲート信号となる。この場合、一対の線路間(E1−E2)での電圧である信号重畳電圧は、絶縁カプラ34の1次側から2次側へ伝送されるが、絶縁カプラ34の絶縁体の存在によって、2次側の対地電位は電極対34a,34bの1次側には伝わらない。すなわち、電極対の2次側に接続される半導体スイッチ(例えばS
r1)の端子が高電位(例えば対地電位6.6kV)となっても、1次側は低電位(例えば10V、20V程度)とすることができる。従って、電極対34a,34bの1次側に設けられるデバイスを2次側の高電位から絶縁し、保護することができる。
【0100】
<半導体スイッチ用電荷引き抜き回路>
【0101】
なお、上記の復調部35は、簡素な一例を示したが、以下、より好ましい回路のあり方について背景から説明する。その中でも特に、半導体スイッチ用電荷引き抜き回路について説明する。
【0102】
《復調部の特性》
図18は、
図15に示した復調部(整流部)35の動作例を示す図である。上の波形図における実線部分は、復調部35への入力電圧を表している。縦のハッチングで表しているのは実際には40.68MHzの高周波電圧であり、太線で囲む図示の一部を時間軸で拡大すると下の図のようになっている。
【0103】
一方、上の図の点線部分は出力電圧を表す。出力電圧は、20kHzの電圧(ゲート信号)のみが取り出されている。なお、倍電圧整流回路50により、電圧は入力電圧よりも上昇している。ここで、ゲート信号がオフに転じるときの出力電圧の立ち下がりに注目すると、スロープ状に緩慢に降下しているのがわかる。これは、主回路用半導体スイッチのゲート-ソース間のキャパシタンスに残留している電荷が、抵抗49で放電する特性である。例えば、立ち下がり開始時の電圧を7.00Vとすると、これが2.56V(≒7.00/e)まで下がるのに5.0μsかかる(eは自然対数の底である。)。これは、立ち下がりの時間としては、長い。
【0104】
例えば、
図15の復調部35の場合、主回路用半導体スイッチS
r1のゲート−ソース間のキャパシタンスをC
GS、抵抗49の抵抗値をR
1、時定数をτとすると、τ=C
GS・R
1である。時定数τを小さくするには、キャパシタンスC
GS又は抵抗値R
1を小さくすることが必要である。しかし、キャパシタンスC
GSは、主回路用半導体スイッチに依存し、下げることは困難である。一方、抵抗値R
1を下げると、抵抗49での電力消費が無視できなくなる。また、抵抗49での電力消費を考慮して駆動電力を増大させることも必要となり、好ましくない。
【0105】
そこで、抵抗49に代わる電荷引き抜き回路を考える。
図19は、半導体スイッチS
r1をキャパシタンスC
GSとして見た場合の、復調部35と、半導体スイッチS
r1との接続を表す回路図である。
図において、倍電圧整流回路50とキャパシタンスC
GSとの間には、電荷引き抜き回路53が設けられている。電荷引き抜き回路53は、電圧検知回路51と、この電圧検知回路51によってオン/オフされる短絡用半導体スイッチ52とを備えている。
【0106】
図20は、
図19における電圧検知回路51の内部回路を詳細に示した、復調部35と、半導体スイッチS
r1のキャパシタンスC
GSとの接続を表す回路図である。図において、電荷引き抜き回路53は、キャパシタンスC
GSすなわち、主回路用半導体スイッチのゲート及びソースにそれぞれ繋がる2つの線路EL1,EL2間に接続されている。電圧検知回路51は、2線路EL1,EL2間に接続されたツェナーダイオード54及び抵抗55の直列体と、2線路EL1,EL2間に接続された抵抗58及び半導体スイッチ59の直列体と、抵抗56及びコンデンサ57の並列体とを備えている。
【0107】
抵抗56及びコンデンサ57の並列体は、ツェナーダイオード54及び抵抗55の直列体の接続点と、半導体スイッチ59のベースとの間に接続されている。半導体スイッチ59の出力端子(コレクタ)には、短絡用半導体スイッチ52のベースが接続されている。短絡用半導体スイッチ52は、2電路EL1,EL2間に接続されている。
【0108】
電圧検知回路51内の各素子の主な役割として、ツェナーダイオード54は、2電路EL1,EL2間の電圧の立ち下がり検知を行う。抵抗55は、保護抵抗である。抵抗56及びコンデンサ57の並列体はハイパスフィルタである。抵抗58は短絡用半導体スイッチ52のベース電流調整用である。半導体スイッチ59は、電荷引き抜き制御用である。なお、この例では、抵抗56及びコンデンサ57の並列体を用いているが、これは省略して、ツェナーダイオード54及び抵抗55の直列体の相互接続点と半導体スイッチ59のベースとを直結しても、電荷引き抜き回路53としての動作は担保することができる。また、2つの半導体スイッチ52,59は一例としてトランジスタであるが、他の半導体スイッチを用いてもよい。
【0109】
次に、
図20と同じ回路に電流の流れを図示した
図21を参照して電荷引き抜き回路53の動作について説明する。
図21の(a)において、ゲート信号がHレベルの時は、ツェナーダイオード54が導通し、抵抗55に電流が流れる。また、抵抗56を介して半導体スイッチ59がターンオン(閉路)する。この時、抵抗58から半導体スイッチ59へ電流が流れる。この場合、短絡用半導体スイッチ52のベース−エミッタ間には電圧が印加されないので、短絡用半導体スイッチ52はオフ(開路)状態である。抵抗55,58の抵抗値を大きな値(例えば10kΩ以上)に設定することにより、2線路EL1,EL2間に流れる電流は抑制することができる。すなわち、ゲート信号がHレベルの時の、電荷引き抜き回路53での消費電力を抑制することができる。なお、ゲート信号がHレベルであることにより、主回路用半導体スイッチS
r1はオンであり、キャパシタンスC
GSには電荷が蓄えられている。
【0110】
次に、ゲート信号がLレベルに転じると、(b)に示すように、ツェナーダイオード54が非導通となり、半導体スイッチ59はオフ(開路)の状態になる。これにより、短絡用半導体スイッチ52のベース−エミッタ間に電圧が付与され、短絡用半導体スイッチ52はオン(閉路)の状態となる。これにより、キャパシタンスC
GSの両端は、閉路している半導体スイッチ52で短絡され、キャパシタンスC
GSに残留している電荷は一気に失われる。こうして、主回路用半導体スイッチS
r1におけるゲート−ソース間のキャパシタンスC
GSに残留する電荷を極めて迅速に引き抜くことができる。
【0111】
電荷の引き抜き完了後、キャパシタンスC
GSの電圧は0になり、短絡用半導体スイッチ52はオフ(開路)、半導体スイッチ59はオフ(開路)、及び、ツェナーダイオード54が非導通の状態となる。次のゲート信号(Hレベル)が来れば、再び(a)の状態となり、以下同様の電荷引き抜き動作が繰り返される。
【0112】
《検証》
図22は、
図20に示す電荷引き抜き回路53を含む復調部35の入力電圧及び出力電圧を示す特性図である。実線は高周波の入力電圧を示し、点線は20kHzの出力電圧(ゲート信号)を示す。これによると、ゲート信号がHレベルからLレベルに転じるときの出力電圧の立ち下がり特性が劇的に改善されている。
【0113】
図23は、比較のために、電荷引き抜き回路53が無い場合の特性図で、
図18の時間軸を拡大した図である。この場合、前述のように、出力電圧が(1/e)になるまで5μsかかる。これに対して、
図24は、電荷引き抜き回路53がある場合の特性図で、
図22の時間軸を拡大した図である。この場合、出力電圧が立ち下がる瞬間の電圧は7.14Vで、これが2.63V(=7.14/e)まで下がる時間は433nsであった。従って、電荷引き抜き回路53を設けることにより、時定数τは、前述の5μsの約1/11に低減された。
【0114】
《電荷引き抜き回路のまとめ》
以上のように、上記の電荷引き抜き回路53では、ゲート−ソース間の電圧が、スイッチオン(ゲート信号Hレベル)からスイッチオフ(ゲート信号Lレベル)の状態となって閾値より下がると、短絡用半導体スイッチ52が閉じて、ゲート−ソース間を短絡する。これにより、ゲート−ソース間のキャパシタンスC
GSに残留する電荷は一気に失われる。すなわち、ゲート−ソース間のキャパシタンスC
GSに残留する電荷を極めて迅速に引き抜くことができる。
【0115】
また、電圧検知回路51を動作させ、短絡用半導体スイッチ52を閉路させる電圧源は、主回路用半導体スイッチS
r1のゲート−ソース間のキャパシタンスC
GSに残留する電荷である。従って、電荷が引き抜かれると自然に、短絡用半導体スイッチ52は開路し、次の2線路間の電圧(ゲート信号)を待ち受ける状態とすることができる。すなわち、当該電荷引き抜き回路53は専用の制御電源を必要としない。
【0116】
また、ツェナーダイオード54の導通動作をトリガとして短絡用半導体スイッチ52を動作させる電荷引き抜き回路は、簡易な回路で、短絡用半導体スイッチ52を高速に、かつ、安定して動作させることができる。
【0117】
なお、上記の電荷引き抜き回路53は、絶縁カプラ34を用いる半導体スイッチ駆動回路に限らず、各種の半導体スイッチ駆動回路に適用することができる。
【0118】
<補記>
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
但し、明細書及び図面に開示した通りの全ての構成要素を備える半導体スイッチ用絶縁カプラ、半導体スイッチ駆動回路、及び、変圧装置も、本発明に含まれるものであることは言うまでもない。