特許第6673735号(P6673735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673735
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】内燃機関用ピストン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/22 20060101AFI20200316BHJP
   F01M 1/08 20060101ALI20200316BHJP
   F01P 3/08 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   F02F3/22 A
   F01M1/08 B
   F01P3/08 C
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-72010(P2016-72010)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-180409(P2017-180409A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008822
【氏名又は名称】アート金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 悠有子
(72)【発明者】
【氏名】垂澤 千秋
(72)【発明者】
【氏名】小林 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】野口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】矢坂 亮
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−050753(JP,U)
【文献】 特開平08−312453(JP,A)
【文献】 特開昭56−124650(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0265743(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103925104(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/22
F01M 1/08
F01P 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂部を有するピストンクラウン部と、ピストンピンが挿入されるピストンピン孔をそれぞれ有する一対のピンボス部とを有し、ノズルを有するオイルジェット装置から前記頂部の裏面に向けて噴射された冷却用のオイルにより冷却されるピストンであって、
前記頂部は、少なくとも一方の前記ピンボス部の近傍であって、前記頂部の内部に設けられた冷却空洞と、前記ノズルから噴射される前記オイルを前記冷却空洞に導く前記頂部の前記裏面に設けられた導入穴とを有し、
前記導入穴は、前記冷却空洞に接続される導入開口部を備え、
前記導入開口部が形成される位置で、前記冷却空洞の長手方向に直交する冷却空洞断面における最下点を、前記導入開口部の導入開口最下部よりも低い位置とし、
前記冷却空洞断面が、最も高い位置となる最上点を有し、
前記冷却空洞断面は、前記最下点を含む下側円弧部と、前記最上点を含む上側円弧部と、前記上側円弧部から前記下側円弧部に至る傾斜部と、を有する
ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項2】
前記導入開口部が前記最上点の鉛直下に位置することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用ピストン。
【請求項3】
前記導入開口部が前記上側円弧部に位置することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用ピストン。
【請求項4】
前記導入開口部が前記下側円弧部と前記上側円弧部との間に位置することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用ピストン。
【請求項5】
頂部を有するピストンクラウン部と、ピストンピンが挿入されるピストンピン孔をそれぞれ有する一対のピンボス部とを有し、ノズルを有するオイルジェット装置から前記頂部の裏面に向けて噴射された冷却用のオイルにより冷却されるピストンであって、
前記頂部は、少なくとも一方の前記ピンボス部の近傍であって、前記頂部の内部に設けられた冷却空洞と、前記ノズルから噴射される前記オイルを前記冷却空洞に導く前記頂部の前記裏面に設けられた導入穴とを有し、
前記導入穴は、前記冷却空洞に接続される導入開口部を備え、
前記導入開口部が形成される位置で、前記冷却空洞の長手方向に直交する冷却空洞断面における最下点を、前記導入開口部の導入開口最下部よりも低い位置とし、
前記冷却空洞断面は、前記最下点を含む下側円弧部と、前記下側円弧部の端部から鉛直方向に立ち上げた立ち上げ部と、前記立ち上げ部から前記導入開口部の導入開口最上部に至る傾斜部と、を有することを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項6】
頂部を有するピストンクラウン部と、ピストンピンが挿入されるピストンピン孔をそれぞれ有する一対のピンボス部とを有し、ノズルを有するオイルジェット装置から前記頂部の裏面に向けて噴射された冷却用のオイルにより冷却されるピストンであって、
前記頂部は、少なくとも一方の前記ピンボス部の近傍であって、前記頂部の内部に設けられた冷却空洞と、前記ノズルから噴射される前記オイルを前記冷却空洞に導く前記頂部の前記裏面に設けられた導入穴とを有し、
前記導入穴は、前記冷却空洞に接続される導入開口部を備え、
前記導入開口部が形成される位置で、前記冷却空洞の長手方向に直交する冷却空洞断面における最下点を、前記導入開口部の導入開口最下部よりも低い位置とし、
前記冷却空洞断面は、最も高い位置となる最上点を有し、
前記冷却空洞断面が円形であり、
前記最下点が前記円形の最下点に形成され、前記最下点が前記最上点の鉛直下に位置することを特徴とする内燃機関用ピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン頂部の裏面に対してオイルジェット装置から冷却用オイルを噴射してピストンを効果的に冷却するようにした内燃機関用ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の内燃機関のピストンは、燃焼ガスの爆発ガス圧を受ける頂部と周囲にピストンリング溝を設けたランド部から形成されたピストンクラウン部と、ピストンピンを介してコンロッドの小端部に連結された一対のピンボス部と、ピストンの上下往復動をガイドする一対のスカート部とが形成されたものが知られている。このピストンクラウン部の頂部は、高温の燃焼ガスに曝されることが避けられず、ピストン内部にクーリングチャンネル(冷却空洞)を設けることで、冷却性能を持たせたピストン構造が知られている。
この冷却空洞には、オイル入口(導入穴)が設けられ、ピストン下方に設けたオイルジェットからオイルを噴射して、導入穴から冷却空洞にオイルを供給する。
ピストンは上下方向に往復運動するため、オイルジェットから導入穴に噴射し、冷却空洞に入ったオイルには慣性力が発生する。
ピストンの下降行程後半から上昇行程前半では、オイルは慣性力によって冷却空洞の下面に押し付けられる。オイルの導入穴は、通常は冷却空洞の下面に形成されている。従って、ピストンの下降行程後半から上昇行程前半では、オイルは、導入穴から排出されてしまい、冷却空洞に十分に供給されず、冷却性能が低下する。
【0003】
このような問題に対して、特許文献1では、オイルの導入穴の上方に位置する、冷却空洞の天井部に案内壁を設けている。特許文献1は、この案内壁によって、導入穴から入ったオイルの流れ方向を変更し、冷却空洞に導いている。
また、特許文献2では、冷却空洞に、導入穴に向かって流路幅を拡大するスロープ部と、スロープ部に沿って逆流するオイルの流れ方向を変更する逆流防止壁部を設けている。特許文献2は、スロープ部と逆流防止壁部とによって、導入穴からオイルが排出されることを防止するとともにオイルの流入が阻害されることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−90448号公報
【特許文献2】特開2010−59842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び特許文献2は、いずれも導入穴近傍に位置する冷却空洞に、案内壁や逆流防止壁部を形成するものであり、精度良く製造することが難しく、安定した性能を得にくい。
【0006】
そこで、本発明は導入穴からのオイルの逆流防止を図れ、精度良く製造できる内燃機関用ピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内燃機関用ピストンはかかる課題を解決するためになされたもので、頂部を有するピストンクラウン部と、ピストンピンが挿入されるピストンピン孔をそれぞれ有する一対のピンボス部とを有し、ノズルを有するオイルジェット装置から前記頂部の裏面に向けて噴射された冷却用のオイルにより冷却されるピストンであって、前記頂部は、少なくとも一方の前記ピンボス部の近傍であって、前記頂部の内部に設けられた冷却空洞と、前記ノズルから噴射される前記オイルを前記冷却空洞に導く前記頂部の前記裏面に設けられた導入穴とを有し、前記導入穴は、前記冷却空洞に接続される導入開口部を備え、前記導入開口部が形成される位置で、前記冷却空洞の長手方向に直交する冷却空洞断面における最下点を、前記導入開口部の導入開口最下部よりも低い位置とし、前記冷却空洞断面が、最も高い位置となる最上点を有し、前記冷却空洞断面は、前記最下点を含む下側円弧部と、前記最上点を含む上側円弧部と、前記上側円弧部から前記下側円弧部に至る傾斜部と、を有することを特徴とする。
また、頂部を有するピストンクラウン部と、ピストンピンが挿入されるピストンピン孔をそれぞれ有する一対のピンボス部とを有し、ノズルを有するオイルジェット装置から前記頂部の裏面に向けて噴射された冷却用のオイルにより冷却されるピストンであって、前記頂部は、少なくとも一方の前記ピンボス部の近傍であって、前記頂部の内部に設けられた冷却空洞と、前記ノズルから噴射される前記オイルを前記冷却空洞に導く前記頂部の前記裏面に設けられた導入穴とを有し、前記導入穴は、前記冷却空洞に接続される導入開口部を備え、前記導入開口部が形成される位置で、前記冷却空洞の長手方向に直交する冷却空洞断面における最下点を、前記導入開口部の導入開口最下部よりも低い位置とし、前記冷却空洞断面は、前記最下点を含む下側円弧部と、前記下側円弧部の端部から鉛直方向に立ち上げた立ち上げ部と、前記立ち上げ部から前記導入開口部の導入開口最上部に至る傾斜部と、を有することを特徴とする。
さらに、頂部を有するピストンクラウン部と、ピストンピンが挿入されるピストンピン孔をそれぞれ有する一対のピンボス部とを有し、ノズルを有するオイルジェット装置から前記頂部の裏面に向けて噴射された冷却用のオイルにより冷却されるピストンであって、前記頂部は、少なくとも一方の前記ピンボス部の近傍であって、前記頂部の内部に設けられた冷却空洞と、前記ノズルから噴射される前記オイルを前記冷却空洞に導く前記頂部の前記裏面に設けられた導入穴とを有し、前記導入穴は、前記冷却空洞に接続される導入開口部を備え、前記導入開口部が形成される位置で、前記冷却空洞の長手方向に直交する冷却空洞断面における最下点を、前記導入開口部の導入開口最下部よりも低い位置とし、前記冷却空洞断面は、最も高い位置となる最上点を有し、前記冷却空洞断面が円形であり、前記最下点が前記円形の最下点に形成され、前記最下点が前記最上点の鉛直下に位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、冷却空洞に導入されたオイルが導入穴から排出されることを防止でき、このオイルの逆流防止の構造を容易に精度良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明によるピストンが適用される内燃機関の要部を示す断面図。
図2】本発明の第1実施形態のピストンを裏面から見た斜視図。
図3】ピストンピン孔の軸方向に直交する方向に沿うピストンの縦断面図。
図4図4のIII-III線に沿う同ピストンの横断面図。
図5】同ピストンの底面図。
図6図3の要部拡大図。
図7】本発明の第1実施形態と比較例とにおける冷却空洞のオイルの通過率の相対評価を示すグラフ。
図8】(a)は本発明の第1実施形態を示す構成図、(b)は比較例を示す構成図。
図9】本発明の第2実施形態における図6相当図。
図10】本発明の第3実施形態における図6相当図。
図11】本発明の第4実施形態における図6相当図。
図12】本発明の第5実施形態における図6相当図。
図13】本発明の第6実施形態における図6相当図。
図14】本発明の第7実施形態における図6相当図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の第1から第7実施形態を添付図面に沿って説明するが、本発明は図示した実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明に係るピストンをガソリンエンジンに適用されるピストンに適用して説明するが、ディーゼルエンジン、LPGエンジン、メタノールエンジン、水素エンジンなどあらゆるエンジンに適用できる。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本発明によるピストンが適用される内燃機関の要部を示す断面図である。このピストン3は、ガソリンエンジンに適用されるピストンである。この内燃機関では、シリンダブロック1に円筒状のシリンダボア2が形成され、このシリンダボア2の内側にピストン3が摺動可能に収容されている。ピストン3には、ピストンピン4を介してコネクティングロッド5の上端が連結されている。コネクティングロッド5の下端は、クランクピン6を介してクランクシャフト7に連結されている。
【0012】
シリンダブロック1の図示下側に設けられたクランクケース8とシリンダブロック1の下部により、クランクシャフト7を収容するクランク室9が形成されている。クランク室9側に位置するシリンダボア2の下端近傍には、ピストン3を冷却するためのオイルを噴射するオイルジェット装置11が備えられている。このオイルジェット装置11は、先端を上方に向けたノズル12を備え、図示下方からピストン3に向けてオイルを噴射する。
【0013】
図2は、本発明の第1実施形態のピストンを裏面から見た斜視図である。
【0014】
ピストン3は、ピストンクラウン部24と、一対のスカート部25a、25bと、一対のピンボス部26a、26bと、サイドウォール部28a、28bとを有している。
【0015】
ピストンクラウン部24は、頂部21と、ピストンリング溝22を有するランド部23とを有している。また、ピストンクラウン部24は、後述する冷却空洞29(図3参照)を有している。スカート部25a、25b(以下、特に区別しない場合は、単にスカート部25という。以下同様。)は、ピストンクラウン部24の外周縁から立ち上がり延びている。ピンボス部26a、26b(ピンボス部26)は、面方向がスカート部25a、25bとほぼ直交するように頂部21の裏面30に設けられている。ピンボス部26a、26bは、ピストンピン4が挿入されるピストンピン孔27a、27b(ピストンピン孔27)を有している。サイドウォール部28a、28b(サイドウォール部28)は、ピストンピン孔27a、27b(ピストンピン4)の中心軸方向と交差する交差方向に延び、ピンボス部26a、26bとスカート部25a、25bの端部をそれぞれ連結する。
【0016】
次に、ピストンクラウン部24に設けられた冷却空洞29について説明する。
【0017】
図3は、ピストンピン孔の軸方向に直交する方向に沿うピストンの縦断面図である。図4は、図3のIII-III線に沿うピストンの横断面図である。図5は、ピストンの底面図、図6は、図3の要部拡大図である。
【0018】
図3及び図4に示すように、冷却空洞29は、ピストンクラウン部24の外周縁に沿うように頂部21の内部に形成されたリング形状の空洞である。
図4に示すX方向が冷却空洞29の長手方向であり、Y方向はX方向に直交する方向である。
冷却空洞29は、両方のピンボス部26(およびサイドウォール部28)の近傍に設けられている。冷却空洞29は、各ピンボス部26の外周を囲うようにスカート部25間に形成されている。冷却空洞29は、塩中子を用いて形成されるのが好ましいが特に限定されない。
【0019】
図5に示すように、ピストンクラウン部24(頂部21)は裏面30に、導入穴35と、導出穴36とを有する。
導入穴35は、オイルジェット装置11のノズル12から噴射されるオイルを冷却空洞29に導き、流入させる。導入穴35は、頂部21の裏面30に設けられ、サイドウォール部28の内側に設けられる。導入穴35は、ノズル12から噴射されたオイルが当る位置に配置されるのが好ましい。
【0020】
図6を用いて導入穴が形成される位置における冷却空洞について詳細に説明する。
【0021】
図6では、導入穴35が形成される位置での、冷却空洞29の長手方向に直交する冷却空洞断面(縦断面)29sを示している。
導入穴35は、冷却空洞29に接続される導入開口部35aを備えている。導入開口部35aの最も低い周縁部が、導入開口最下部35b(鉛直方向、ピストン高さ方向、またはX方向およびY方向に直交する方向における最下部)である。そして、導入開口部35aが形成される位置における冷却空洞断面29sの最下点29b(鉛直方向、ピストン高さ方向またはX方向およびY方向に直交する方向最下点)は、導入開口最下部35bよりも低い位置とする。
このように、導入開口部35aが形成される位置で、導入開口最下部35bよりも低い最下点29bを形成することで、最下点29bを含む最下面29aがオイル溜まり部として機能する。
【0022】
導入開口部35aが形成される位置で、冷却空洞29の長手方向に直交する冷却空洞断面29sは、最も高い位置となる最上点29cを有している。導入開口部35aは最上点29cの鉛直下に位置する。
このように、導入開口部35aを最上点29cの鉛直下に位置させることで、導入穴35から導入されるオイルはより高い位置まで移動するため、ピストン3下降行程後半から上昇行程前半において、導入穴35に戻るオイルを減少でき、より多くのオイルを最下点29bを含む最下面29aに溜めることができる。
【0023】
また、冷却空洞断面29sは、最下点29bを含む下側(内周側)円弧部29dと、最も高い位置を含む上側円弧部29eとを有している。そして、導入開口部35aは上側(外周側)円弧部29eに位置する(接する)。
このように、上側円弧部29eに導入開口部35aを位置させることで、導入穴35から導入されるオイルは、導入開口部35aが形成される位置での冷却空洞29内でより高い位置まで移動するため、ピストン3下降行程後半から上昇行程前半において、導入穴35に戻るオイルを減少でき、より多くのオイルを最下面29aに溜めることができる。
【0024】
また、冷却空洞断面29sは、上側円弧部29eから下側円弧部29dに至る傾斜部29fを有している。
このように、傾斜部29fを有することで、上側円弧部29eに至ったオイルは、傾斜部29fに沿って移動することで、下側円弧部29dに導かれるため、より多くのオイルを最下面29aに溜めることができる。
【0025】
次に、第1実施形態におけるピストン3の作用について説明する。
【0026】
オイルジェット装置11は、導入穴35に向けて冷却用のオイルをノズル12より噴射する。なお、設計上は導入穴35に向けてオイルは噴射されるが、実際には偏って噴射される場合もある。導入穴35に入ったオイルは、導入開口部35aから冷却空洞29に流入する。
【0027】
導入開口部35aから冷却空洞29に流入したオイルは、ピストン3の摺動に伴う慣性力を受けながら冷却空洞29を伝う。このとき導入開口部35aに隣接して、導入開口最下部35bよりも低い最下面29aが位置しているため、ピストン3下降行程後半から上昇行程前半において、導入開口部35aに向かうオイルの多くは最下面29aに溜まる。特に、最上点29cに至ったオイルは、傾斜部29fに沿って移動して、最下面29aに導かれる。
このように、最下面29aに溜まったオイルは、冷却空洞29を流動し、ピストンクラウン部24の内部からピンボス部26の周囲を効率的に冷却する。
【0028】
図7は、本発明の第1実施形態と比較例とにおける冷却空洞のオイルの通過率の相対的評価を示すグラフである。図8(a)は本発明の第1実施形態を示す構成図、図8(b)は比較例を示す構成図である。
【0029】
図7は、横軸をオイルジェット吐出流量、縦軸を通過率としている。
オイルジェット吐出流量は、図1に示すノズル12から吐出するオイル量であり、通過率は、ノズル12から吐出するオイル量をA、導出穴36から排出されるオイル量をBとした場合に、B/Aである。
比較例では、冷却空洞29の最下点29bと、導入開口部35aの導入開口最下部35bの高さを同じとした以外は、第1実施形態と同一構成とした。
図7に示すように、ノズル12から吐出するオイル量を変化させても、第1実施形態は比較例よりも通過率が常に高く、最大では6%の通過率の上昇となった。
【0030】
以上のように、本発明は、冷却空洞断面29sの最下点29bを、導入開口最下部35bよりも低い位置とすることで導入穴35からのオイルの逆流防止を図ることができる。そして、冷却空洞断面29sの最下点29bを、導入開口最下部35bよりも低い位置とするには、導入開口最下部35bが最下点29bでない位置となるように導入穴35を形成すればよく、本発明によれば、オイルの逆流防止の構造を、容易に精度良く製造することができる。
【0031】
このような第1実施形態におけるピストン3は、導入開口部35aが形成される位置で、導入開口最下部35bよりも低い最下面29aを形成することで、最下面29aがオイル溜まり部として機能し、導入穴35に戻るオイルを減少でき、より多くのオイルを最下面29aに溜めることができる。そして、より多くのオイルを最下面29aに溜めることで、より多くのオイルを冷却空洞29に流動させることができるため、ピストンリング溝22近傍を効率的に冷却でき、ピストンリング溝22に対するアルミ凝着を抑制することもできる。このような第1実施形態におけるピストン3は、冷却効率の向上に伴いピストン3に発生する不具合を防止することができ、ひいてはエンジン性能を向上させることができる。
【0032】
[第2実施形態]
本発明の内燃機関用ピストンの第2実施形態について説明する。
【0033】
図9は、本発明の第2実施形態における図6相当図である。本発明の第2実施形態においても、図1から図5までの構成については、第1実施形態のピストン3とほぼ同一であるため、重複する説明を省略する。
【0034】
本発明の第2実施形態においても、導入穴35は、冷却空洞29に接続される導入開口部35aを備えている。そして、導入開口部35aが形成される位置における冷却空洞断面29sの最下点29bは、導入開口部35aの導入開口最下部35bよりも低い位置とする。
また、本発明の第2実施形態においても、導入開口部35aが形成される位置で、冷却空洞29の長手方向に直交する冷却空洞断面29sは、最も高い位置となる最上点29cを有している。導入開口部35aは最上点29cの鉛直下に位置する。
また、本発明の第2実施形態においても、冷却空洞断面29sは、最下点29bを含む下側円弧部29dと、最も高い位置を含む上側円弧部29eとを有している。そして、導入開口部35aは上側円弧部29eに位置する。
【0035】
本発明の第2実施形態では、冷却空洞断面29sは、最下点29bを有する円弧部(下側円弧部)29dと、円弧部29dの端部から鉛直方向に立ち上げた立ち上げ部29gと、上面を形成する天面部29hとを有している。天面部29hは最上点29cを形成する。そして、円弧部29dと導入開口部35aとは天面部29hの鉛直下に位置する。
このように、広い天面部29hで円弧部29dと導入開口部35aとの上方を覆うことで、導入穴35から導入されるオイルは、導入開口部35aの開口範囲よりも広範囲に拡散されるため、導入穴35に戻るオイルを減少でき、より多くのオイルを円弧部29dに溜めることができる。
【0036】
[第3実施形態]
図10は、本発明の第3実施形態における図6相当図である。本発明の第3実施形態においても、図1から図5までの構成については、第1実施形態のピストン3とほぼ同一であるため、重複する説明を省略する。
【0037】
本発明の第3実施形態においても、導入穴35は、冷却空洞29に接続される導入開口部35aを備えている。そして、導入開口部35aが形成される位置における冷却空洞断面29sの最下点29bは、導入開口部35aの導入開口最下部35bよりも低い位置とする。
本発明の第3実施形態では、冷却空洞断面29sが、最下点29bを含む下側円弧部29dと、最も高い位置を含む上側円弧部29eとを有している。そして、導入開口部35aは上側円弧部29eに位置する。
このように、最も高い位置を含む上側円弧部29eに導入開口部35aを位置させることで、導入穴35から導入されるオイルは、上側円弧部29eから下側円弧部29dに導かれやすく、導入穴35に戻るオイルを減少でき、より多くのオイルを最下面29aに溜めることができる。
また、冷却空洞断面29sは、上側円弧部29eから下側円弧部29dに至る傾斜部29fを有している。
【0038】
[第4実施形態]
図11は、本発明の第4実施形態における図6相当図である。本発明の第4実施形態においても、図1から図5までの構成については、第1実施形態のピストン3とほぼ同一であるため、重複する説明を省略する。
【0039】
本発明の第4実施形態においても、導入穴35は、冷却空洞29に接続される導入開口部35aを備えている。そして、導入開口部35aが形成される位置における冷却空洞断面29sの最下点29bは、導入開口部35aの導入開口最下部35bよりも低い位置とする。
また本発明の第4実施形態においても、冷却空洞断面29sは、最も高い位置を含む最上点29cを有している。導入開口部35aは最上点29cの鉛直下に位置する。
本発明の第4実施形態では、冷却空洞断面29sが、最下点29bを含む下側円弧部29dと、最も高い位置を含む上側円弧部29eとを有している。そして、導入開口部35aは下側円弧部29dと上側円弧部29eとの間に位置する。
このように、下側円弧部29dと上側円弧部29eとの間に導入開口部35aを位置させることでも、導入穴35から導入されるオイルは、下側円弧部29dに導かれやすく、導入穴35に戻るオイルを減少でき、より多くのオイルを最下面29aに溜めることができる。
また、冷却空洞断面29sは、上側円弧部29eから下側円弧部29dに至る傾斜部29fを有している。
【0040】
[第5実施形態]
図12は、本発明の第5実施形態における図6相当図である。本発明の第5実施形態においても、図1から図5までの構成については、第1実施形態のピストン3とほぼ同一であるため、重複する説明を省略する。
【0041】
本発明の第5実施形態においても、導入穴35は、冷却空洞29に接続される導入開口部35aを備えている。そして、導入開口部35aが形成される位置における冷却空洞断面29sの最下点29bは、導入開口部35aの導入開口最下部35bよりも低い位置とする。
本発明の第5実施形態では、冷却空洞断面29sは円形であり、最下面29aが円形の最下点に形成される。
このように、冷却空洞断面29sを円形として最下点29bを円形の最下点に形成することでも、導入穴35から導入されるオイルは、最下面29aに導かれやすく、導入穴35に戻るオイルを減少でき、より多くのオイルを最下面29aに溜めることができる。
【0042】
[第6実施形態]
図13は、本発明の第6実施形態における図6相当図である。本発明の第6実施形態においても、図1から図5までの構成については、第1実施形態のピストン3とほぼ同一であるため、重複する説明を省略する。
【0043】
本発明の第6実施形態においても、導入穴35は、冷却空洞29に接続される導入開口部35aを備えている。そして、導入開口部35aが形成される位置における冷却空洞断面29sの最下点29bは、導入開口部35aの導入開口最下部35bよりも低い位置とする。
【0044】
本発明の第6実施形態では、冷却空洞断面29sは、最下点29bを有する円弧部(下側円弧部)29dと、円弧部29dの端部から鉛直方向に立ち上げた立ち上げ部29gと、立ち上げ部29gから導入開口最上部35cに向って傾斜する傾斜部29fとを有している。なお、導入開口最上部35cは、導入開口部35aの最も高い周縁部である。
このように、最下点29bを形成することでも、導入穴35から導入されるより多くのオイルを最下面29aに溜めることができる。
【0045】
[第7実施形態]
図14は、本発明の第7実施形態における図6相当図である。本発明の第7実施形態においても、図1から図5までの構成については、第1実施形態のピストン3とほぼ同一であるため、重複する説明を省略する。
【0046】
本発明の第7実施形態においては、冷却空洞29および導入開口部35aの形状、位置が、第1実施形態の冷却空洞29および導入開口部35aの形状、位置に対して、鉛直方向軸に関する対称となっている。このため、下側円弧部29dが外周側に、上側円弧部29eが内周側に位置する。
なお、本発明の第2から第4実施形態についても、第7実施形態のように鉛直方向軸に関する対称形状であってもよい。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の内燃機関用ピストンは、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジン、メタノールエンジン、水素エンジンなどあらゆるエンジンに適用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 シリンダブロック
2 シリンダボア
3 ピストン
4 ピストンピン
5 コネクティングロッド
6 クランクピン
7 クランクシャフト
8 クランクケース
9 クランク室
11 オイルジェット装置
12 ノズル
21 頂部
22 ピストンリング溝
23 ランド部
24 ピストンクラウン部
25 スカート部
26 ピンボス部
27 ピストンピン孔
28 サイドウォール部
29 冷却空洞
29a 最下面
29b 最下点
29c 最上点
29d 下側円弧部(円弧部)
29e 上側円弧部
29f 傾斜部
29g 立ち上げ部
29h 天面部
29s 冷却空洞断面
30 裏面
35 導入穴
35a 導入開口部
35b 導入開口最下部
35c 導入開口最上部
36 導出穴
図1
図2
図3
図4
図5
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図12
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図14