(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記超弾性合金は、(a)冷間加工したニッケルチタン、(b)冷間加工しかつエージ処理したニッケルチタン、(c)冷間加工したニッケルチタンと他の合金要素とを含む合金、及び(d)冷間加工しかつエージ処理したニッケルチタンと他の合金要素とを含む合金、よりなるグループから選択した、アーチワイヤ止め。
請求項1記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記本体は、(a)冷間加工したベータIIIチタン、及び(b)固溶化熱処理しかつエージ処理したベータIIIチタンからなる材料で形成した、アーチワイヤ止め。
請求項1記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記本体は、前記本体の端面視で前記本体の中心線となる縦方向中心線を有し、また前記本体は、前記本体の端面視で前記縦方向中心線に対して対称的に配置した、アーチワイヤ止め。
請求項1記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記本体は、前記本体の端面視で前記本体の中心線となる縦方向中心線を有し、また前記本体は、前記本体の端面視で前記縦方向中心線に対して非対称的に配置した、アーチワイヤ止め。
請求項1記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記本体は、前記本体の側面視で前記本体の中心線となる横方向中心線を有し、また前記本体は、前記本体の側面視で前記横方向中心線に対して対称的に配置した、アーチワイヤ止め。
請求項1記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記本体は、前記本体の側面視で前記本体の中心線となる横方向中心線を有し、また前記本体は、前記本体の側面視で前記横方向中心線に対して非対称的に配置した、アーチワイヤ止め。
請求項1記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記本体は、さらに、前記第1及び第2のアーム部分相互間に延在し、これら第1及び第2のアーム部分を互いに連結するベース部分を有する、アーチワイヤ止め。
請求項1記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記内側把持面のそれぞれは、(a)滑らかな表面、(b)不規則な表面、(c)凹凸のある表面、及び(d)摩擦性を高める材料でコーティングした表面、よりなるグループから選択した表面とする、アーチワイヤ止め。
請求項1記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記進入路は、前記本体の端面視で前記進入路の進入方向に従って各アーム部分が互いに漸次近接するように、前記アーチワイヤ収容ステーションの方向にテーパを付けた、アーチワイヤ止め。
請求項24記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記進入路はスロート部で終端させ、また前記スロート部は前記アーチワイヤのサイズより小さいサイズにした、アーチワイヤ止め。
請求項1記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記本体は近心面及び遠心面を有し、また前記進入路は前記本体の前記近心面及び遠心面における開孔によって画定した、アーチワイヤ止め。
請求項29記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記歯列矯正用の付属部は、(a)フック、(b)補助溝孔、及び(c)アイレットからなるグループから選択した、アーチワイヤ止め。
請求項33記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記第1アーム部分は外面を有し、また前記フックは前記第1アーム部分の前記外面に直交するよう突出させた、アーチワイヤ止め。
請求項31記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記第1アーム部分は外面を有し、また前記フックは前記第1アーム部分の前記外面に対して斜めに傾斜するよう突出させた、アーチワイヤ止め。
請求項36記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記ベース部分は外面を有し、また前記フックは前記ベース部分の前記外面に直交するよう突出させた、アーチワイヤ止め。
請求項36記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記ベース部分は外面を有し、また前記フックは前記ベース部分の前記外面に対して斜めに傾斜するよう突出させた、アーチワイヤ止め。
請求項1記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記アーチワイヤ収容ステーションは、(a)円形輪郭、(b)長方形輪郭、(c)方形輪郭及び(d)D字状輪郭よりなるグループから選択した輪郭を有するアーチワイヤを収容する形状にした、アーチワイヤ止め。
請求項1記載のアーチワイヤ止めにおいて、前記アーチワイヤ収容ステーションは、(a)円形輪郭、(b)楕円形輪郭、(c)長方形輪郭、(d)方形輪郭及び(d)四葉のクローバー状輪郭よりなるグループから選択した輪郭を有する、アーチワイヤ止め。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このタイプの止めの比較的小さいサイズ及びまた止めが可動コンポーネントを有すると
いう事実は、現場での取扱い及び展開配置を困難にする傾向があった。さらに、口腔内に
取付けた後では止めはかさばりがちであり、またかさばる結果として患者の頬又は歯肉組
織に炎症を引き起こすという若干の不満があった。これら止めのデザインは、食べ物を止
め内に、又は止めと患者の柔らかい組織若しくは歯との間に溜まらせることになり得る。
さらに、これら止めは時間とともにアーチワイヤから緩み、又は滑脱する傾向がある。
【0007】
アーチワイヤの近心側/遠心側方向への変位を制限するより一般的な手法としては、捲
縮可能な管状又はC字状のスリーブを使用することがある。アーチワイヤをスリーブに挿
通し、スリーブのアーチワイヤに対する位置は、スリーブを所定位置に捲縮することによ
って固定する。滑脱は、このタイプの止めが直面する問題であり、なぜならアーチワイヤ
に力を加えるときスリーブ内で摺動しがちであるからである。この問題に対処するため、
若干のスリーブには、スリーブの摩擦を増大させ、そして把持作用を高める、粗面化した
又は不規則なワイヤ係合内面を設けることをしてきた。これら粗面化表面は、ワイヤ係合
内面に砥粒性材料をコーティングことによって、又は機械加工で粗面化することによって
得ることができる。これら変更によれば、アーチワイヤの滑脱発生は少なくなる傾向があ
る。しかし、取扱い及び滑脱の問題は残る。スリーブへのアーチワイヤ挿通は難題であり
、なぜならアーチワイヤ自体が比較的小さい断面積を有し、またスリーブに形成する通路
がやはり極めて小さいからである。アーチワイヤを挿通した後(かつ捲縮前)には、スリ
ーブは捲縮中に不慮に移動することがあり、したがって、精確な位置決めは困難になる。
【0008】
上述したところから、歯列矯正把持装置又はアーチワイヤ止めに高めた把持作用を持た
せ、既存のアーチワイヤ止めで経験されてきた滑脱問題を克服することは有益である。こ
のようなアーチワイヤ把持装置は、取扱いが比較的容易であり、またアーチワイヤに対す
る取付けが迅速であることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態の広範な態様によれば、アーチワイヤに取付ける歯列矯正用の把持装
置を提供する。この把持装置は、超弾性合金、冷間加工したベータIIIチタン、固溶化熱
処理しかつエージ処理したベータIIIチタンよりなるグループから選択した材料で形成し
た本体を有する。本体は、互いに離れるとともに互いに連結した第1アーム部分及び第2
アーム部分を有する。第1アーム部分はアーチワイヤ用の第1内側把持面を設けた第1ジ
ョー部分を有する。第2アーム部分はアーチワイヤ用の第2内側把持面を設けた第2ジョ
ー部分を有する。第1及び第2の内側把持面を互いに離れた関係にして互いに対向配置す
る。第1及び第2の内側把持面相互間の間隙は、アーチワイヤを内部に収容するアーチワ
イヤ収容ステーションを画定する。アーチワイヤ収容ステーションの少なくとも一部はア
ーチワイヤよりも小さいサイズとする。本体は、さらに、第1アーム部分と第2アーム部
分との間に画定される進入路を有する。進入路はアーチワイヤ収容ステーションにアクセ
スを可能にする。第1アーム部分及び第2アーム部分は、アーチワイヤを進入路からアー
チワイヤ収容ステーション内に進入させるとき、互いに離れる外方に弾性的に転向可能と
する。第1及び第2の内側把持面は、アーチワイヤをアーチワイヤ収容ステーション内に
着座させるとき、アーチワイヤに係合して、アーチワイヤに対して両側から把持力を加え
、把持装置のアーチワイヤに対する変位に抵抗を示すようにする。
【0010】
他の特徴として、本体を一体構造にする。他の代案として、少なくとも一方のアーム部
分を別個のコンポーネントとする。随意的に、超弾性合金は、(a)冷間加工したニッケル
チタン、(b)冷間加工しかつエージ処理したニッケルチタン、(c)冷間加工したニッケル
チタンと他の合金要素とを含む合金、及び(d)冷間加工しかつエージ処理したニッケルチ
タンと他の合金要素とを含む合金、よりなるグループから選択することができる。一実施
形態において、超弾性合金は、リニア超弾性モードで挙動するものとする。他の実施形態
において、超弾性合金は、非リニア超弾性モードで挙動するものとする。代替的実施形態
において、本体は、(a)冷間加工したベータIIIチタン、及び(b)固溶化熱処理しかつエ
ージ処理したベータIIIチタンからなる材料で形成する。
【0011】
他の実施形態において、本体は縦方向中心線を有する。第1及び第2のアーム部分は縦
方向中心線の両側に配置し、また、互いに鏡像関係になるようにする。
【0012】
さらに他の実施形態において、本体は縦方向中心線を有し、また本体は縦方向中心線の
周りに対称的に配置する。代案として、本体は、縦方向中心線の周りに非対称的に配置す
る。さらに他の実施形態において、本体は横方向中心線を有し、また本体は横方向中心線
の周りに対称的に配置する。他の代替的実施形態において、本体は横方向中心線の周りに
非対称的に配置する。
【0013】
一実施形態において、本体は、さらに、前記第1及び第2のアーム部分相互間に延在し
、これら第1及び第2のアーム部分を互いに連結するベース部分を有する。進入路をベー
ス部分に対向する側に配置する。
【0014】
一実施形態において、アーチワイヤは外面で画定される輪郭を有する。第1及び第2の
内側把持面は、前記アーチワイヤにおける前記外面の輪郭の少なくとも一部分にほぼ適合
する構成とする。さらに、アーチワイヤの前記輪郭はほぼ円形であり、また第1及び第2
の内側把持面それぞれは、アーチワイヤの輪郭の曲率に少なくとも部分的に合致する構成
とした円弧状輪郭にする。他の実施形態において、アーチワイヤは直径を有する。アーチ
ワイヤ収容ステーションは、ほぼ円形の輪郭及び直径を有する。アーチワイヤ収容ステー
ションの直径は、アーチワイヤの直径より小さいサイズとする。
【0015】
さらに他の実施形態において、アーチワイヤは幅を有する。アーチワイヤ収容ステーシ
ョンの少なくとも一部はアーチワイヤの幅より小さいサイズとする。随意的に、アーチワ
イヤ収容ステーションは一定寸法の幅を有するものとすることができる。アーチワイヤ収
容ステーションの幅はアーチワイヤの幅より小さいサイズとすることができる。さらに、
本体は縦方向中心線を有する。第1及び第2のアーム部分は縦方向中心線の両側に配置す
る。第1及び第2のアーム部分は互いに鏡像関係になるようにする。第1及び第2の内側
把持面は、縦方向中心線にほぼ平行に指向させる。
【0016】
随意的な実施形態において、アーチワイヤは幅を有する。アーチワイヤ収容ステーショ
ンは可変寸法の幅を有する。アーチワイヤ収容ステーションの最小幅は前記アーチワイヤ
の幅より小さいサイズとする。本体は縦方向中心線を有する。第1及び第2のアーム部分
は縦方向中心線の両側に配置し、第1及び第2のアーム部分は互いに鏡像関係になるよう
にする。第1及び第2の内側把持面は縦方向中心線に対して傾斜した向きを有する。各内
側把持面が進入路の方向に互いに接近する方向に収束するものとする。
【0017】
他の実施形態において、内側把持面のそれぞれは、(a)滑らかな表面、(b)不規則な表
面、(c)凹凸のある表面、及び(d)摩擦性を高める材料でコーティングした表面、よりな
るグループから選択した表面とする。
【0018】
他の実施形態において、進入路は、漏斗状としかつ前記アーチワイヤ収容ステーション
の方向にテーパを付ける。進入路はスロート部で終端させ、またスロート部はアーチワイ
ヤのサイズより小さいサイズにする。随意的な実施形態において、スロート部はアーチワ
イヤにおける直径の35%〜40%の範囲内でサイズ決めする。他の随意的な実施形態に
おいて、スロート部はアーチワイヤにおける幅の65%〜70%の範囲内でサイズ決めす
る。
【0019】
さらに他の実施形態において、本体に形成した歯列矯正用の付属部を備える。歯列矯正
用の付属部は、(a)フック、(b)補助溝孔、及び(c)アイレットからなるグループから選
択する。他の実施形態において、把持装置は、さらに、本体から突出するフックを備える
。随意的に、フックは本体に一体に形成する。他の実施形態において、フックは第1アー
ム部分に担持する。第1アーム部分は外面を有する。フックは第アーム部分の外面に直交
するよう突出させる、又は代案として、フックは第1アーム部分の外面に対して斜めに傾
斜するよう突出させることができる。
【0020】
さらに他の実施形態において、本体は、さらに、第1及び第2のアーム部分間に延在し
、これら第1及び第2のアーム部分相互を連結するベース部分を有する。フックをベース
部分に担持する。ベース部分は外面を有する。フックは第アーム部分の外面に直交するよ
う突出させる、又は代案として、フックは第1アーム部分の外面に対して斜めに傾斜する
よう突出させることができる。
【0021】
さらに他の実施形態において、本体は、さらに外面を有し、またフックは本体の外面か
ら突出させる。
【0022】
他の実施形態において、アーチワイヤ収容ステーションは、(a)円形輪郭、(b)長方形
輪郭、(c)方形輪郭及び(d)D字状輪郭よりなるグループから選択した輪郭を有するアー
チワイヤを収容する形状にする。
【0023】
さらに他の実施形態において、把持装置には把持装置の取扱いを容易にする手段を設け
る。この取扱いを容易にする手段は本体に形成する。より具体的には、取扱いを容易にす
る手段は、第1アーム部分の外面に画定した第1溝及び第2アーム部分の外面に画定した
第2溝を有する。第1溝を前記第2溝とは対向する反対側に配置する。他の実施形態にお
いて、取扱いを容易にする手段は、ベース部分から突出する第1側方ウイング部材及び第
2側方ウイング部材を有し、第1側方ウイング部材は第1アーム部分に対して離れた関係
になるよう配置する。第2側方ウイング部材は第2アーム部分に対して離れた関係になる
よう配置する。他の実施形態において、第1及び第2の側方ウイング部材それぞれは、側
方外面を有し、かつ未転向位置と転向位置との間で移動可能とする。把持装置は、第1側
方ウイング部材の側方外面と第2側方ウイング部材の側方外面との間に測った幅を有し、
第1及び第2の側方ウイング部材が未転向位置にあるときの把持装置の幅は、第1及び第
2の側方ウイング部材が転向位置にあるときの把持装置の幅よりも小さいものとする。
【0024】
他の実施形態において、アーチワイヤ収容ステーションは、(a)円形輪郭、(b)楕円形
輪郭、(c)長方形輪郭、(d)方形輪郭及び(d)四葉のクローバー状輪郭よりなるグループ
から選択した輪郭を有するものとする。
【0025】
一実施形態において、本体は縦方向中心線を有する。アーチワイヤ収容ステーションは
、長軸及び短軸で規定されるほぼ楕円形輪郭を有する。短軸は縦方向中心線に平行に配置
されるものとする。他の実施形態において、アーチワイヤは直径を有し、アーチワイヤ収
容ステーションは、短軸に沿って測った直径を有する。アーチワイヤ収容ステーションの
前記短軸に沿って測った直径は、アーチワイヤの直径よりも小さいサイズとする。
【0026】
本発明の他の実施形態における広範な態様によれば、アーチワイヤに取付ける歯列矯正
用の把持装置を提供する。把持装置は、形状記憶材料の記憶した形状から大きく変形する
ことができる形状リセット温度範囲と、及び前記形状記憶材料が記憶した前記形状を回復
することができる形状回復温度範囲とを有する、形状記憶材料で形成した本体を備える。
本体は、互いに離れるとともに互いに連結した第1アーム部分及び第2アーム部分を有す
る。第1アーム部分はアーチワイヤ用の第1内側把持面を設けた第1ジョー部分を有する
。第2アーム部分はアーチワイヤ用の第2内側把持面を設けた第2ジョー部分を有する。
第1及び第2の内側把持面を互いに離れた関係にして互いに対向配置する。第1及び第2
の内側把持面相互間の間隙は、アーチワイヤを内部に収容するアーチワイヤ収容ステーシ
ョンを画定する。アーチワイヤ収容ステーションの少なくとも一部が前記アーチワイヤよ
りも小さいサイズとする。本体は、さらに、第1アーム部分と第2アーム部分との間に画
定される進入路を有する。この進入路によりアーチワイヤ収容ステーションに対するアク
セスを可能にする。第1アーム部分及び第2アーム部分は、本体の前記形状記憶材料の温
度が形状リセット温度範囲内にあるとき互いに離れる外方に移動可能であり、また前記形
状記憶材料の温度が前記形状回復温度範囲未満にある限り互いに離れる拡開状態に留まり
、したがって、前記進入路から前記アーチワイヤを前記アーチワイヤ収容ステーション内
に導入できる。第1及び第2の内側把持面は、アーチワイヤをアーチワイヤ収容ステーシ
ョン内に着座させ、かつ本体の形状記憶材料の温度が形状回復温度範囲内にあるとき、ア
ーチワイヤに係合して、アーチワイヤに対して両側から把持力を加え、把持装置のアーチ
ワイヤに対する変位に抵抗を示す。
他の実施形態において、形状記憶材料は、(a)形状記憶合金、及び(b)形状記憶非金属
材料よりなるグループから選択する。他の実施形態において、形状記憶材料の前記形状回
復温度範囲は、患者の口腔内温度未満とする。他の実施形態において、形状記憶材料の前
記形状回復温度範囲は、患者の口腔内温度を包含するものとする。代替的実施形態におい
て、形状記憶材料の形状回復温度範囲は患者の口腔内温度より高く、また形状記憶材料の
形状リセット温度範囲は患者の口腔内温度未満とする。
【0027】
本発明の他の実施形態における広範な態様によれば、アーチワイヤに取付ける歯列矯正
用の把持装置を提供する。この把持装置は、互いに離れるとともに互いに連結した第1ア
ーム部分及び第2アーム部分を有する本体を有する。第1アーム部分はアーチワイヤ用の
第1内側把持面を設けた第1ジョー部分を有する。第2アーム部分はアーチワイヤ用の第
2内側把持面を設けた第2ジョー部分を有する。第1及び第2の内側把持面を互いに離れ
た関係にして互いに対向配置する。第1及び第2の内側把持面相互間の間隙は、アーチワ
イヤを内部に収容するアーチワイヤ収容ステーションを画定する。アーチワイヤ収容ステ
ーションの少なくとも一部が前記アーチワイヤよりも小さいサイズとする。本体は、さら
に、第1アーム部分と第2アーム部分との間に画定される進入路を有する。この進入路に
より、アーチワイヤ収容ステーションに対するアクセスを可能にする。第1アーム部分及
び第2アーム部分は、アーチワイヤを進入路からアーチワイヤ収容ステーション内に進入
させるとき、互いに離れる外方に弾性的に転向可能である。第1及び第2の内側把持面は
、アーチワイヤをアーチワイヤ収容ステーション内に着座させるとき、アーチワイヤに係
合して、アーチワイヤに対して両側から把持力を加え、把持装置の前記アーチワイヤに対
する変位に抵抗を示すようになる。さらに他の実施形態において、本体は弾性ばね復帰材
料で形成する。
【0028】
本発明のさらに他の実施形態における広範な態様によれば、歯列矯正用アーチワイヤキ
ットを提供する。このキットは、アーチワイヤと、アーチワイヤに取付ける把持装置とを
備える。把持装置は、超弾性合金、冷間加工したベータIIIチタン、固溶化熱処理しかつ
エージ処理したベータIIIチタンよりなるグループから選択した材料で形成した本体を有
する。この本体は、互いに離れるとともに互いに連結した第1アーム部分及び第2アーム
部分を有する。第1アーム部分はアーチワイヤ用の第1内側把持面を設けた第1ジョー部
分を有する。第2アーム部分はアーチワイヤ用の第2内側把持面を設けた第2ジョー部分
を有する。第1及び第2の内側把持面を互いに離れた関係にして互いに対向配置する。第
1及び第2の内側把持面相互間の間隙が前記アーチワイヤを内部に収容するアーチワイヤ
収容ステーションを画定する。アーチワイヤ収容ステーションの少なくとも一部が前記ア
ーチワイヤよりも小さいサイズとする。本体は、さらに、第1アーム部分と第2アーム部
分との間に画定される進入路を有する。この進入路によれば、アーチワイヤ収容ステーシ
ョンに対するアクセスを可能にする。第1アーム部分及び第2アーム部分は、アーチワイ
ヤを進入路からアーチワイヤ収容ステーション内に進入させるとき、互いに離れる外方に
弾性的に転向可能である。第1及び第2の内側把持面は、アーチワイヤをアーチワイヤ収
容ステーション内に着座させるとき、アーチワイヤに係合して、アーチワイヤに対して両
側から把持力を加え、把持装置のアーチワイヤに対する変位に抵抗を示すようになる。
【0029】
他の実施形態において、アーチワイヤは、(a)円形輪郭、(b)長方形輪郭、(c)方形輪
郭及び(d)D字状輪郭よりなるグループから選択した断面輪郭を有する。随意的な実施形
態において、アーチワイヤは、(a)編組ワイヤ条、及び(b)螺旋撚りワイヤ条からなるグ
ループから選択したもので形成する。さらに、アーチワイヤは、(a)コアを有する多条ア
ーチワイヤ、及び(b)多条コアレスアーチワイヤからなるグループから選択する。他の随
意的な実施形態において、アーチワイヤは単独の中実ワイヤとする。
【0030】
さらに他の実施形態において、アーチワイヤは、(a)リニア弾性材料、(b)超弾性材料
、及び(c)形状記憶材料からなるグループから選択した材料で形成する。
【0031】
本発明の他の実施形態における広範な態様によれば、歯科用コンポーネントに取付ける
歯科用の把持装置を提供する。この把持装置は、超弾性合金、冷間加工したベータIIIチ
タン、固溶化熱処理しかつエージ処理したベータIIIチタンよりなるグループから選択し
た材料で形成した本体を有する。本体は、互いに離れるとともに互いに連結した第1アー
ム部分及び第2アーム部分を有する。第1アーム部分は第1内側把持面を設けた第1ジョ
ー部分を有する。第2アーム部分は第2内側把持面を設けた第2ジョー部分を有する。第
1及び第2の内側把持面を互いに離れた関係にして互いに対向配置する。第1及び第2の
内側把持面相互間の間隙は、前記歯科用コンポーネントを内部に収容する収容ステーショ
ンを画定する。収容ステーションの少なくとも一部は歯科用コンポーネントよりも小さい
サイズとする。本体は、さらに、第1アーム部分と第2アーム部分との間に画定される進
入路を有する。この進入路によれば、収容ステーションに対するアクセスを可能にする。
第1アーム部分及び第2アーム部分は、歯科用コンポーネントを前記進入路から収容ステ
ーション内に進入させるとき、互いに離れる外方に弾性的に転向可能である。第1及び第
2の内側把持面は、歯科用コンポーネントを前記収容ステーション内に着座させるとき、
歯科用コンポーネントに係合して、歯科用コンポーネントに対して両側から把持力を加え
、把持装置の歯科用コンポーネントに対する変位に抵抗を示すようになる。
【0032】
本発明の他の実施形態における広範な態様によれば、把持すべき物体に取付ける把持装
置を提供する。この把持装置は、超弾性合金、冷間加工したベータIIIチタン、固溶化熱
処理しかつエージ処理したベータIIIチタンよりなるグループから選択した材料で形成し
た本体を有する。この本体は、互いに離れるとともに互いに連結した第1アーム部分及び
第2アーム部分を有する。第1アーム部分は第1内側把持面を設けた第1ジョー部分を有
する。第2アーム部分は第2内側把持面を設けた第2ジョー部分を有する。第1及び第2
の内側把持面を互いに離れた関係にして互いに対向配置する。第1及び第2の内側把持面
相互間の間隙は把持すべき物体を内部に収容する物体収容ステーションを画定し、物体収
容ステーションの少なくとも一部は把持すべき物体よりも小さいサイズとする。本体は、
さらに、第1アーム部分と第2アーム部分との間に画定される進入路を有する。この進入
路によれば、物体収容ステーションに対するアクセスを可能にする。第1アーム部分及び
第2アーム部分は、把持すべき物体を前記進入路から物体収容ステーション内に進入させ
るとき、互いに離れる外方に弾性的に転向可能である。第1及び第2の内側把持面は、把
持すべき物体を物体収容ステーション内に着座させるとき、把持すべき物体に係合して、
把持すべき物体に対して両側から把持力を加え、把持装置の前記把持すべき物体に対する
変位に抵抗を示すようになる。
【0033】
本発明の実施形態は、添付図面に関連する実施形態に対する詳細な説明を参照すること
により、より明確に理解できるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下の説明及び本明細書に記載の実施形態は、本発明の原理及び態様における特定実施
形態の例の説明として記載するものである。これらの例は、本発明の原理の説明を目的と
するもので、本発明の原理を限定するものではない。以下の説明において、同様の部分に
は、本明細書及び図面全体にわたり、同一の参照符号で示す。
【0036】
本明細書で使用する用語「超弾性材料(superelastic material)」は、リニア超弾性
モード又は非リニア超弾性モードで作動又は挙動する材料を意味するものと理解されたい
。同様に、「超弾性金属合金」は、リニア超弾性モード又は非リニア超弾性モードで作動
又は挙動する金属合金を意味する。本明細書の文脈で、材料が約4%のひずみを受けて荷
重を取り除いた後に過剰な永久的ゆがみを生ずることがなく、常に応力とひずみとの間に
ほぼ線形関係を呈することができるとき、リニア超弾性モードで挙動するものとみなす。
材料が比較的大きなひずみ量を生ずる能力を示し、荷重を取り除いた後に過剰な永久的ゆ
がみを生ずることがなく、材料の荷重及び無荷重応力‐ひずみ曲線が、その範囲の大部分
にわたり非線形的又は多重線形的であるとき、非リニア超弾性モードで挙動するものとみ
なす。
【0037】
用語「形状記憶材料」は、形状記憶モードで動作又は挙動する材料を意味するものと理
解されたい。同様に、「形状記憶合金」は、形状記憶モードで動作又は挙動する合金を意
味するものと理解されたい。本明細書の文脈では、材料が予め記憶された形状に対して変
形を受け、その後に同一タイプの外部刺激、最も一般的には可逆温度変化(例えば、材料
が合金である場合のような)に晒されるとき、記憶された形状に復帰する、という双方の
作用の能力を有するとき、形状記憶モードで挙動するとみなす。
【0038】
図1,2A及び2Bにつき説明すると、本発明の第1実施形態による、全体的に参照符
号20を付けた歯列矯正把持装置を示す。把持装置20は、歯列矯正アーチワイヤに使用
するよう構成する。歯列矯正把持装置20は、近心面22、遠心面24、及び近心面22
と遠心面24との間に延在する細長の本体26を有する。この実施形態において、本体2
6は超弾性材料から一体構造(ワンピース又はモノリシック)で作製する。好適には、こ
のような材料は超弾性合金とする。最も好適には、超弾性合金としては、ニッケルチタン
、又はニッケルチタンと他の合金要素(例えば、クロム[Cr]、鉄[Fe]、バナジウム[
V]、アルミニウム[Al]、銅[Cu]、コバルト[Co])による合金、例えば、ニッケル
/チタン/銅合金又はニッケル/チタン/銅/クロム合金がある。好適には、ニッケルチ
タン、又はニッケルチタンと他の合金要素による合金は、冷間加工する。しかし、冷間加
工しかつエージ処理した、ニッケルチタン、又は冷間加工しかつエージ処理した、ニッケ
ルチタンと他の合金要素も使用できる。この実施形態において、把持装置20は冷間加工
ニッケルチタンで形成する。
【0039】
しかし、把持装置は歯列矯正用途に適し、また超弾性材料が示すのと同様なばね復帰特
性を有する他の材料から形成することができることも理解されたい。例えば、冷間加工ベ
ータIIIチタン又は固溶[溶体]化熱処理及びエージ処理したベータIIIチタン(チタンモ
リブデン合金)で形成した把持装置が優れた把持強度を有していることが分かった。テス
ト鑑定では把持装置が冷間加工したELGILOY(登録商標)合金(コバルト、クロム
及びニッケル合金)でも形成できることが分かった。さらに他の材料も選択することがで
き、この場合、アーチワイヤとの係合中に把持装置が撓むときの永久変形及び/又は機械
的破損に耐性を示すとともに、同時に十分な材料強度を有して、把持装置をアーチワイヤ
に完全に係合した後には所定位置に強固にアーチワイヤを保持しするようばね復帰特性を
示す能力に基づいて選択する。
【0040】
さらに他の実施形態において、把持装置は、形状記憶材料、例えば、形状記憶合金で形
成することができる。しかし、形状記憶特性を有する非金属材料(例えば、ポリマー)を
使用することもできる。
【0041】
強度及び堅牢性上の理由から、一般的に本体はモノリシック体として形成するのが好ま
しい。しかし、用途によっては、個別コンポーネントから本体を作製するのが好ましい場
合がある。これらコンポーネントは、すべて同一の超弾性材料又は形状記憶材料で形成す
る。代案として、本体は、超弾性材料の複合体又は形状記憶材料の複合体で形成すること
ができる。さらに代替的実施形態において、本体は、1つ若しくは複数の超弾性材料と非
超弾性材料との複合体、又は1つ若しくは複数の形状記憶材料と非形状記憶材料との複合
体で形成する。
【0042】
好適には、歯列矯正把持装置を材料除去技術で製造する。しかし、他の製造技術、例え
ば、高速原型作成、焼結、鋳造、押し出し成形等を使用して作製することができる。本体
を個別コンポーネントで形成する場合、これらコンポーネントは上述の方法のうち1つ等
を使用して形成し、つぎにレーザー溶接、融着又は他の同様なプロセスによって互いに組
み付けて、本体を形成することができる。
【0043】
本体26は、
図2Aで示すような近心側端面図で見るとき、ほぼ長方形の形状又は輪郭
を有する。本体26の形状は、滑らかな丸みを付けた4個のコーナー、すなわち、第1コ
ーナー30、第2コーナー32、第3コーナー34、及び第4コーナー36によって画定
される。コーナー30,32,34及び36は丸みを付けて急峻突出端縁の形成を回避し
、さもないと歯列矯正把持装置20を患者口腔内に展開配置したとき、患者口腔内の柔ら
かい組織に炎症を引き起こし、不快感を催すことになる。
【0044】
本体26は、縦方向中心線CL
1(
図2Aに示す)、ベース部分38、及びこのベース
部分38に連結した互いに離間させて縦方向中心線CL
1の両側に配置する1対の部分、
すなわち第1アーム部分40、第2アーム部分42を有する。本体26は縦方向中心線C
L
1の周りに対称的にし、アーム部分40,42が互いに鏡像関係になるようにする。本
体26は、さらに、横方向中心線CL
2(
図2Bに示す)の周りにも対称的にする。この
ことはすべての用途でそうする必要はない。他の実施形態において、本体は縦方向中心線
CL
1及び横方向中心線CL
2のうち一方又は双方の周りに非対称にすることができる。
【0045】
第1アーム部分40は第1コーナー30でベース部分38に結合するとともに、第2ア
ーム部分42は第2コーナー32でベース部分38に結合する。各アーム部分40,42
はそれぞれ、ベース部分38にほぼ直交する方向にコーナー30,32から離れるよう延
在させる。第3コーナー34で第1アーム部分40は第2アーム部分42に向かって内方
に転向し、最終的にアーチワイヤ係合用の第1ジョー部分44で終端する。同様に、第2
アーム部分42は第4コーナー36で第1アーム部分40に向かって内方に転向し、アー
チワイヤ係合用の第2ジョー部分46で終端する。
【0046】
図2Aで示すように、第1及び第2のジョー部分44,46は、互いに対向配置し、ま
た比較的小さい間隙によって分離し、この間隙は、アーチワイヤ50を内部に捕捉係合す
る(確実に保持する)アーチワイヤ収容溝孔又はステーション48を画定する。このよう
な構成にした第1及び第2のジョー部分44,46は、ともに歯列矯正把持装置20の把
持ジョー52を画定する。
【0047】
好適な実施形態で本体26に互いに対向してベース部分38に結合及び一体構成にした
アーム部分40,42を形成するが、他の実施形態で本体を異なる構成にすることができ
る。例えば、アーム部分のうち一方又は双方を、個別コンポーネントとして作製し、後で
ベース部分に固定することができる。
【0048】
他の実施形態において、本体は互いに対向させて取付けた2対のアーム部分を設けるこ
とができる。このような実施形態において、第1アーム部分対は互いに離して並置した第
1アーム部分及び第2アーム部分を有する。同様に、第1アーム部分対は互いに離して並
置した第3アーム部分及び第4アーム部分を有する。第1アーム部分は第3アーム部分に
対向配置させるとともに、第2アーム部分は第4アーム部分に対向配置させる。これらア
ーム部分それぞれは、アームワイヤ係合用のジョー部分を有する。第1アーム部分のジョ
ー部分と第2アーム部分のジョー部分との間、及び第1アーム部分のジョー部分と第2ア
ーム部分のジョー部分との間に、アーチワイヤを捕捉係合する(確実に保持する)よう係
合するアーチワイヤ収容溝孔又はアーチワイヤ収容ステーションを画定する。このような
構成にした第1アーム部分及び第2アーム部分のジョー部分はともに第1把持ジョーを画
定するとともに、第3アーム部分及び第4アーム部分のジョー部分はともに第2把持ジョ
ー52を画定する。さらに他の実施形態において、互いに対向する2対より多いアーム部
分対を設けることができる。さらに、本体は、2個又はそれより多いより小さいアーム部
分を単独のより大きいアーム部分に対向させて取付けるよう構成することもできる。
【0049】
さらに他の変更を本体に加えることができる。
図2Aに示す実施形態において、本体2
6には厳密に画定したベース部分38を形成する。他の実施形態において、ベース部分は
、隆起の少ない構造に構成する。さらに他の実施形態において、ベース部分はともに省く
ことができる。このような実施形態において、アーム部分は互いに連結する。
【0050】
図2A及び2Bにつき説明すると、細長の本体26は、さらに、本体26の近心面22
と遠心面24との間で測った長さL
1、第1アーム部分40の外側面60と第2アーム部
分42の外側面62との間で測った幅W
1、ベース部分38の外面64とこの外面64と
は反対側に位置するアーム部分40,42の外面66との間で測った高さH
1を有する。
この実施形態において、本体26はできるだけ幅広にする。他の実施形態において、本体
は、幅W
1に等しい、又は幅W
1より大きい、又は幅W
1より小さい長さL
1を有する構
成とすることができる。
【0051】
ベース部分38とは反対側の第3及び第4のコーナー34,36間のほぼ中間で、アー
チワイヤ進入路70を本体26内に形成する。進入路70は、本体26の全長にわたり延
在させ、ベース部分38の方向にテーパを付けたほぼ漏斗形状にし、最終的にスロート部
72で終端する。進入路70の漏斗形状は、互いに対向する1対の第1傾斜本体表面74
及び第2傾斜本体表面76により画定する。これら傾斜本体表面74,76は角度θ
1だ
け互いに離れる。この実施形態において、角度θ
1は約60.8゜である。他の実施形態
においては、異なる値の(より大きい又は小さい)θ
1を使用することができる。さらに
他の実施形態において、進入路は異なる形状を有する構成とすることができる。
【0052】
スロート部72のサイズは、進入路70の最も狭いポイントにおける傾斜本体表面74
,76間の距離T
1に対応する。距離T
1は、歯列矯正把持装置20によって把持すべき
アーチワイヤ50のサイズ/直径D
1(又はアーチワイヤの範囲)に基づいて選択する。
距離T
1は、過剰な力を加わえることなくアーチワイヤ50をアーチワイヤ収容ステーシ
ョン48内に挿入できるに十分な大きさにしなければならない。しかし、スロート部72
が大き過ぎて、アーチワイヤ50がスロート部72を経て把持ジョー52から容易に釈放
されないサイズにするよう注意しなければならない。距離T
1のサイズ決めを直径D
1の
約35%〜約40%の間における範囲内にすることが上述の設計目的に合致しがちである
ことを見出した。他の実施形態において、距離T
1は、異なるサイズのアーチワイヤ又は
特別な用途に適合するよう増減させることができる。
【0053】
進入路70(より具体的には、スロート部72)はアーチワイヤ収容ステーション48
に向かって開放する(又はアクセスをもたらす)。この実施形態において、第1及び第2
のジョー部分44,46の内側把持面78,80は、それぞれ凹面又はへこみ部82を有
する構成とし、アーチワイヤ収容ステーション48に対してほぼ円形の輪郭を付与する。
このような構成にしたアーチワイヤ収容ステーション48の輪郭は、アーチワイヤ50の
少なくとも断面(すなわち、円形又はほぼ円形)の形状に合致する。
【0054】
この構成によれば、内側把持面78,80とアーチワイヤ50の外面84との間におけ
る接触/係合を最大化し、またアーチワイヤに対する把持力の適正な分布が確実に得られ
るようにすることによって、アーチワイヤ50のアーチワイヤ収容ステーション48内で
の保持を改善することができる。アーチワイヤ収容ステーション48の幾何学的形状をア
ーチワイヤ50の幾何学的形状に合致させることによって、アーチワイヤ又は把持装置が
突然の衝撃に晒される場合でも、アーチワイヤが不慮に把持装置から釈放されるのを軽減
する。
【0055】
アーチワイヤ収容ステーションの輪郭をアーチワイヤの輪郭に合致させることは好まし
いが、すべての用途でそうする必要はない。幾つかの用途では、アーチワイヤ収容ステー
ションはアーチワイヤとは異なる輪郭を有する構成とすることができる。
【0056】
他の変更も可能である。例えば、この実施形態では内側把持面78,80は本体26の
長さL
1全体にわたり同一の円弧状輪郭を維持し、他の実施形態では内側把持面の輪郭を
本体の長さ全体にわたり変化させることができる。内側把持面は不規則表面輪郭にするこ
とができる。内側把持面を滑らかにする代わりに、摩擦性を高めるよう凹凸形成又は粗面
化することができる。さらに、内側把持面に摩擦特性を高める材料でコーティングするこ
とができる。
【0057】
この実施形態において、アーチワイヤ収容ステーション48が円形輪郭であることによ
って、内側把持面78の曲率半径の中心点は、内側把持面80の曲率半径の中心点に一致
し、双方の中心点は縦方向中心線CL
1上に存在する。
【0058】
アーチワイヤ収容ステーション48は、互いに対向する内側把持面78,80によって
ほぼ画定される直径D
2を有する。アーチワイヤ収容ステーション48の直径D
2は、ア
ーチワイヤ50の直径D
1よりも僅かに小さいサイズとする。好適には、直径D
2は、直
径D
1よりも20%小さいサイズとする。他の実施形態において、直径D
2のサイズ決め
を異ならせることができる。
【0059】
取付け手順実施中、アーチワイヤ50をアーチワイヤ収容ステーション48内に収容す
るとき、第1及び第2のアーム部分40,42は互いに離れる外方に部分的に転向し、ア
ーチワイヤ収容ステーション48の直径D
2がアーチワイヤ50の直径D
1よりも小さい
という事実を補償する。歯列矯正把持装置20を超弾性合金から形成するため、アーム部
分40,42は弾性を示し、原初(未転向)位置に偏移される。アーム部分40,42は
原初位置に復帰しようとするため、アーチワイヤ50を部分的に包囲する内側把持面78
,80はクランプ力又は把持力をアーチワイヤ50の外面84に加える(
図4に明示する
)。この把持力が加わることにより、アーチワイヤ50を緊密に保持し、また把持装置2
0がアーチワイヤ50に対して変位するのに抵抗を示す(移動を捕捉する)。したがって
、把持ジョー52は合金の特別なばね復帰特性を活用することによる把持力を導き出し、
アーチワイヤ50を緊密にクランプする。この結果、把持装置20の把持ジョー52は、
従来のアーチワイヤ止めよりもより大きい把持力をアーチワイヤに加え、また滑脱に対す
るより良好な抵抗を示す。
【0060】
把持装置20をアーチワイヤ止めとして使用するとき、アーチワイヤの把持装置に対す
る移動は、近心面/遠心面方向に抵抗を受ける。しかし、把持力はあらゆる方向の移動に
対しても阻止し、またアーチワイヤの周りの回転に対しても抵抗を示そうとする。
【0061】
スロート72に対向して、アーチワイヤ収容ステーション48は比較的狭い通路88に
向かって開放する。この通路88は、ベース部分38に向かって延在し、また円弧状(ほ
ぼU字状)の切欠き90に連通し、この切欠き90は互いに対向する第1部分92及び第
2部分94を有する。切欠き90の第1部分92は第1アーム部分40とベース部分38
との間に画定され、また通路88から本体26の第3コーナー34に向かう円弧状経路に
従う。切欠きの第1部分92の終端部96は、第1把持ジョー部分44の内側把持面78
に画定される凹面82の中間点にほぼ整列する。このように構成して、切欠きの第1部分
92は第1把持ジョー部分44における半島状区域98を画定する。
【0062】
同様に、切欠き90の第2部分94は第2アーム部分42とベース部分38との間に画
定され、通路88から本体26の第4コーナー36に向かう円弧状経路に従う。切欠きの
第2部分94の終端部100は、第2把持ジョー部分46の内側把持面80に画定される
凹面82の中間点にほぼ整列する。このように構成して、切欠きの第2部分94は第2把
持ジョー部分46における半島状区域102を画定する。他の実施形態においては、切欠
き90を異なる構成にすることもできる。
【0063】
切欠きの部分92,94の目的は、アーチワイヤ50をスロート部70からアーチワイ
ヤ収容ステーション48内に押し込むとき、把持ジョー部分44,46が過剰な力を加え
ることなく、互いに離れる外方に転向することができるようにするためである。切欠きの
部分92,94によれば、アーチワイヤ50をアーチワイヤ収容ステーション48内に保
持されるとき(
図4に明示する)、把持ジョー部分44,46の半島状区域98,102
がそれぞれ第1及び第2のコーナー30,32に向かって転向する。
【0064】
つぎに、
図3及び4につき説明すると、1条のアーチワイヤ50を歯列矯正把持装置2
0の把持ジョー52によって強固に保持された状態を示す。上述したように、この実施形
態におけるアーチワイヤ50は、円形又はほぼ円形の断面であり、直径D
1を有する。こ
のアーチワイヤは、リニア弾性材料(例えば、ステンレス鋼、コバルトクロム、ベータ[I
II]チタン)、超弾性材料(ニッケルチタン、ニッケル/チタン/銅、ニッケル/チタン
/銅/クロムの合金のような超弾性合金を含む)、形状記憶材料(形状記憶ポリマーのよ
うな非金属形状記憶材料、又は形状記憶合金を含む)、又は超弾性若しくは形状記憶特性
を有し、歯列矯正用途での使用に適した他の材料から作製することができる。
【0065】
説明を分かり易くするため、アーチワイヤ50は概念的に単条の中実ワイヤとして示す
。しかし、アーチワイヤ50は複数本の編組ワイヤ又は螺旋卷回ワイヤの形式をとること
ができる。このような螺旋卷回ワイヤの例としては、カナダ国オンタリオ州ケンブリッジ
のストライト・インダストリーズ社(Strite Industries Limited)によって製造及びS
PEEDスーパーケーブル(登録商標)のブランド名の下で販売されているアーチワイヤ
がある。把持装置20に関連して使用されるアーチワイヤは、コアを有することができ、
又は代案として、コアレス(すなわち、中空の円筒形中心部を有する)とすることができ
る。このようなコアレスアーチワイヤの例としては、ストライト・インダストリーズ社(
Strite Industries Limited)によって製造及びSPEED・チューブラー・スーパーケ
ーブル(登録商標)のブランド名の下で販売されているアーチワイヤがある。さらに代案
として、アーチワイヤはヒルズ・デュアル・ジオメトリ・ワイヤ、すなわち、矩形断面を
設けた第1区域及び円形断面を設けた第2区域を有するワイヤの形式をとることができる
。このような場合、歯列矯正把持装置20は、円形断面の第2区域に使用する。
【0066】
図6,7,8及び9につき説明すると、これは把持装置20をアーチワイヤ50に取り
付けるのに使用するプライヤ110としての歯列矯正ツールを示す。プライヤ110は第
1アーム112及び第2アーム114を有し、これらアームは互いに取付け交差させ、枢
着コネクタ116によって互いに回動自在に連結する。第1アーム112は第1端部11
8、それとは反対側の第2端部120、第1湾曲ハンドル部分122、第1ビーク(嘴)
部分124及び第1ハンドル部分122を第1ビーク部分124に結合する第1遷移部分
126を有する。第1遷移部分126は第2端部120よりも第1端部118に近接した
位置に配置し、枢着コネクタ116の一部を収容する。第1ハンドル部分122は第2端
部120から第1遷移部分126まで延在するとともに、第1ビーク部分124は第1遷
移部分126から第1端部118まで延在する。第1ビーク部分124は、ほぼテーパが
付いた輪郭を有するが、第1作業先端部128で終端させ、この第1作業先端部128は
プライヤ110の長手方向軸線Pに対して傾きを有して延在する。この実施形態において
、長手方向軸線Pと作業先端部128との間に生ずる角度αは30゜である(
図7参照)
。他の実施形態においては、異なる角度αを使用することができる。
【0067】
第2アーム114は構造的に第1アーム112とほぼ同様であり、やはり第1端部13
0、これとは反対側の第2端部132、第2湾曲ハンドル部分134、第2ビーク部分1
36及び第2ハンドル部分134を第2ビーク部分136に結合する第2遷移部分138
を有する。第2遷移部分138は第2端部132よりも第1端部130に近接する位置に
配置し、枢着コネクタ116の他の部分を収容する。このように構成して、アーム112
,114をそれぞれの遷移部分126,138で枢着コネクタ116によって互いに結合
する。第2ハンドル部分134は第2端部132から第2遷移部分138まで延在すると
ともに、第2ビーク部分136は第2遷移部分138から第1端部130まで延在する。
第2ビーク部分136もほぼテーパが付いた輪郭を有し(
図6参照)、ただし第2作業先
端部140で終端させ、この第2作業先端部140は、作業先端部128と同様プライヤ
120の長手方向軸線Pに対して同一の傾斜角を有して延在する。
【0068】
図8,9を参照して、第1及び第2の作業先端部128,140をより詳細に説明する
。第1作業先端部128はほぼブロック状の本体142を有し、内面144が第2作業先
端部140に指向する。内面144からほぼ直交する方向にフランジ146が突出する。
このフランジ146は、本体142の幅全体に沿って延在し、作業先端部128の遊端1
48に近接して担持される。以下に詳細に説明するように、フランジ146は第2作業先
端部140に画定した横方向溝孔150に整列するよう構成する。代替的な実施形態にお
いて、フランジは異なる構成にすることができる。
【0069】
図9につき説明すると、第2作業先端部140は、やはりブロック状の本体152を有
し、内面154を第1作業先端部128に指向させる。内面154には、本体152の幅
にわたるほぼC字状の第1横方向溝孔150を形成する。第1横方向溝孔150は、アー
チワイヤの区域を収容するサイズにする。代替的実施形態において、第1横方向溝孔は異
なる構成にすることができ、例えば、異なるサイズのアーチワイヤに適合するよう段差付
きにすることができる。
【0070】
内面154に画定した長方形のポケット又はさねはぎ溝158を横方向溝孔150に部
分的に重ね合わせ、さねはぎ溝158の短辺が横方向溝孔150にほぼ平行に指向するよ
うにする。有利には、長方形のさねはぎ溝158は、歯列矯正把持装置、例えば把持装置
20を保持する着座部として構成し、この着座部は把持装置のアーチワイヤへの取付け中
に使用する。この着座部を設けることにより、把持装置20の不慮の脱落又は喪失の事態
を少なくし、また比較的小さいサイズであるがために扱いにくい把持装置の取扱いを容易
にする。他の実施形態において、把持装置の取扱いは、ばね負荷機構を長方形さねはぎ溝
に組み込んで把持装置の保持を確実にすることにより改善できるようにする。代案として
、第2作業先端部及び把持装置のうち一方に、把持装置をプライヤ110に保持するのを
支援する粘着性のある材料でコーティングすることができる。
【0071】
本体152には、さらに、第1横方向溝孔150及びさねはぎ溝158の双方から窪ま
せた第2横方向溝孔160を設ける。第2横方向溝孔160はさねはぎ溝158の短辺と
同一範囲にわたりかつそれに平行に延在させる。第2横方向溝孔160は、把持装置製造
プロセスで残存する可能性のあるベース部分38からのいかなる突出部をも収納するクリ
アランスをもたらす。同一目的のための付加的な溝孔を設けることができる。
【0072】
プライヤ110のアーム112,114は、閉鎖セッティング位置(図示せず)と開放
セッティング位置162(
図8に明示する)との間で相対移動可能である。閉鎖セッティ
ング位置では、第1雄型作業先端部128のフランジ146が第2雌型作業先端部140
の溝孔150に整合する。開放セッティング位置162では第1及び第2の作業先端部1
28,140間に間隙が存在する。アーム112,114を開放セッティング位置162
から閉鎖セッティング位置に移動するため、利用者は第1及び第2のハンドル部分122
,134を互いに引き寄せ合う。アーム112,114は枢着コネクタ116の周りに回
動し、第1及び第2のビーク部分124,136を互いの方向に向けて接近移動させ、こ
れにより第1及び第2の作業先端部128,140間の間隙を閉じる。代替的実施形態に
おいて、プライヤはばね負荷とする。
【0073】
他の実施形態において、フランジ146、並びに第1及び第2の横方向溝孔150,1
60の構成は、第1及び第2の作業先端部128,140で異なる指向性にすることがで
きる。例えば、他の実施形態において、
図8に示す構成から90゜回転させた向きにする
ことができる。
【0074】
歯列矯正プライヤ110を使用して、歯列矯正把持装置20をアーチワイヤ50に取付
ける典型的な手順を以下に、より詳細に説明する。歯列矯正医は、プライヤ110のアー
ム112,114を開放セッティング位置162に移動し、第2アーム114を第1アー
ム112の上方に配置するようプライヤを向き決めする。この位置において、第2作業先
端部140に画定した長方形さねはぎ溝158に対して上方からアクセス可能となる。歯
列矯正医は、つぎに歯列矯正把持装置20を第2作業先端部140内に配置し、把持装置
20が長方形さねはぎ溝158内で適正に着座し、進入路70が第1横方向溝孔150と
同軸状に指向し、かつ第1作業先端部128に対面することを確実にする。把持装置20
のさねはぎ溝158内への適正配置は、把持装置の本体26がほぼ長方形形状であって、
本体26がさねはぎ溝158内で回転しようとする傾向はないため、容易になる。このと
き、把持装置20はアーチワイヤ50に取付ける準備が整う。
【0075】
歯列矯正医は把持装置20をアーチワイヤ50に取付けることができ、この取付けは、
アーチワイヤ50を患者の歯列弓に装着する間に、又は患者の歯に取付けた歯列矯正具若
しくはブラケットにアーチワイヤ50を取付ける前に行う。歯列矯正医はプライヤ110
を、把持装置20内に保持すべきアーチワイヤ区域に位置決めし、またアーチワイヤ50
のその区域を(把持装置の本体26に画定した)進入路70及び第2作業先端部140の
第1横方向溝孔150に整列させる。好適には、把持装置20を、患者の上側歯列弓に予
め装着してあるアーチワイヤ50に取付けている場合、進入路70は歯肉に向かって指向
させる。他方、把持装置20を、患者の下側歯列弓に予め装着してあるアーチワイヤ50
に取付けている場合、好適には、進入路70は咬合部に向けて指向させる。このことは、
さらに、取付け手順実施中に把持装置20が不慮にプライヤ110から脱落するのを回避
する助けとなる。このことは、あらゆる用途でそうする必要はない。他の実施形態におい
て、進入路70は異なる向き、例えば、舌又は唇に向けて指向させることができる。
【0076】
歯列矯正医はハンドル部分122,134をともに引き絞り、第1作業先端部y128
のフランジ部分146をアーチワイヤ50の保持すべき区域に作用させる(
図10に明示
する)。フランジ部分146はアーチワイヤ50を所定位置に保持するとともに、第2作
業先端部140は傾斜した本体表面74,76をアーチワイヤに押し付けるよう作用する
。十分な力を加えると、把持装置20のアーム部分40,42は互いに離れる方向に外方
に転向し、スロート部72は広がってアーチワイヤ50を内部に収容する(
図11参照)
。アーチワイヤ50がスロート部72を越えた後には、アーム部分40,42は互いに接
近する方向に撓み戻り、原初(未転向)位置に復帰しようとする。第1及び第2のジョー
部分44,46の内側把持面78,80はアーチワイヤ50の外面84に圧着し、アーチ
ワイヤ50を把持装置20内に緊密に保持し、把持装置20のアーチワイヤ50に対する
変位を阻止する。把持装置20をアーチワイヤ50に取付けた状態で、歯列矯正医はプラ
イヤ110のアーム112,114を開放セッティング位置162に移動し、把持装置2
0をツールから釈放する。
【0077】
歯列矯正プライヤ110は把持装置20及び他の同様な把持装置向けに特別に設計する
。したがって、プライヤ110を使用して把持装置20又は他の同様な把持装置をアーチ
ワイヤに取付けるのは容易性及び利便性のために好ましいが、すべての用途にそうする必
要はない。他のツールを使用して、把持装置20又は他の類似の把持装置をアーチワイヤ
に取付けることができる。
【0078】
図示及び説明した実施形態において、把持装置20はニッケルチタンによるリニア超弾
性モードで挙動する合金で形成する。上述の典型的な取付け手順を、超弾性モードで挙動
する合金により形成した把持装置に特別に適用することを理解されたい。把持装置を形状
記憶モードで挙動する材料とする場合、取付け手順は以下に説明するように異なってくる
。
【0079】
初期ステップとして、把持装置を、形状記憶材料の記憶した形状からの大きな変形を可
能にする温度範囲(本明細書では形状リセット温度範囲)内の温度まで冷却する。この冷
却は把持装置を冷却装置又はドライアイスのような冷却媒体に接触させることにより得ら
れ、この冷却は把持装置を展開するときまで行う。同様の冷却したツールを把持装置の本
体における進入路内に挿入し、把持装置のアームを外方に転向させる。把持装置の温度が
形状記憶材料の形状回復温度範囲(すなわち、形状記憶材料が記憶した形状を回復する温
度範囲)よりも低いため、アームはツールを取り外した後でもそれぞれの撓んだ又は転向
した位置に留まり、進入路は、望ましい直径又は幅のアーチワイヤが進入路から把持装置
のジョー内に通過できるに十分大きい開放状態に留まる。
【0080】
この後、歯列矯正医は即座に把持装置を患者の口腔内又は患者口腔の外部に設置したア
ーチワイヤにおける所望位置に配置する(いずれの場合もアーチワイヤは把持装置のジョ
ー内に配置する)。把持装置は、つぎに形状回復温度範囲内の温度まで加熱する。把持装
置が形状回復温度範囲内の温度に達するとき、材料における形状記憶特性によりアームを
互いに接近する方向に復帰移動させ、原初(未転向)位置に復元しようとする。第1及び
第2のジョー部分の内側把持面はアーチワイヤの外面に圧着し、アーチワイヤを把持装置
内に緊密に保持し、これにより把持装置のアーチワイヤに対する変位を阻止する。
【0081】
幾つかの実施形態において、人の口腔温度(平均で36.8゜Cであるが、個人個人に
より、また日によって変動する)未満の形状回復温度範囲を有するのが望ましい場合があ
る。例えば、形状記憶材料がニッケルチタンである場合、−15゜C〜5゜Cの形状回復
温度範囲を使用することができる。勿論、他の温度範囲を使用することもできる。このよ
うにして、把持装置の形状記憶は、把持装置が口腔内の自然温度に戻るよう温まることに
よって、簡単に得られる。この時間中に、把持装置はアーチワイヤの望ましい取付けポイ
ントの所定位置に保持され、把持装置のアーチワイヤに沿う摺動又はシフトを阻止する。
把持装置が比較的小さいサイズであることによって、このことは極めて短時間で済む。代
替的実施形態において、形状回復温度範囲は、患者口腔内温度を含むものとすることがで
きる。このような実施形態においては、形状回復温度範囲は、例えば17゜C〜37゜C
の範囲とすることができる。
【0082】
さらに他の実施形態において、形状回復温度範囲は、人の口腔内温度よりも高い、例え
ば、45゜C〜60゜Cの範囲とすることができる。このような場合、人の口腔内温度未
満例えば、−36゜C〜0゜Cの範囲とした形状リセット温度範囲を有する、形状記憶材
料を使用する。このような形状記憶材料は、把持装置が低温で開放状態にするのに続いて
一定冷却する必要がない程度に十分高い形状回復温度範囲を有するものにすべきである。
さらに、形状記憶材料は、人の口腔内温度まで冷却するとき、把持装置が十分な把持力を
保持するのを確実にするよう選択する。
【0083】
形状回復温度範囲を人の口腔内温度よりも高い設定にするとき、把持装置は、把持装置
のジョーを閉じさせることなく、外気温及び人の口腔内温度を含めてそれより若干高い温
度で輸送及び取扱いをすることができる。このような場合に把持装置をアーチワイヤに取
付けるとき、アーチワイヤへの設置中把持装置に対する加熱を局所化するよう注意し、ま
た設置ポイント近傍の歯又は周囲組織に対する熱的タメージを防止する対策を講じるべき
である。
【0084】
図5A,5B及び5Cにつき説明すると、これらは本発明の原理により構成した歯列矯
正把持装置の第2の実施形態を示す。この実施形態の把持装置は、全体的に参照符号17
0で示し、あらゆる材料観点(すなわち、機能性、構成及び構造)で
図1〜3に示す把持
装置20に類似し、ただし把持装置170には、把持装置の本体174から垂下するフッ
ク172を設ける点で異なる。
【0085】
本体174は、縦方向中心線CL
1(
図5Bに示す)、横方向中心線CL
2(
図5Cに
示す)、ベース部分176及び互いに離れて対向する1対の第1アーム部分178及び第
2アーム部分180を有し、これら第1及び第2のアーム部分はベース部分176に連結
し、かつ縦方向中心線CL
1の両側で対向配置する点で本体26に類似する。本体174
は縦方向中心線CL
1の周りに対称的にし、アーム部分178,180が互いに鏡像関係
になるようにする。本体は横方向中心線CL
2の周りにも対称的となるよう構成する。
【0086】
しかし、本体26とは異なり、本体174は、ベース部分176の外面182に連結し
たフック172を設け、このフック172は第1及び第2のアーム部分178,180か
ら離れる方向に縦方向中心線CL
1に沿って突出させる。この実施形態において、フック
172は本体174に一体に形成する。このことはあらゆる用途でそのようにする必要は
ない。他の実施形態において、フックは別個のコンポーネントとして作製し、釈放可能に
又は永久的に把持装置の本体に固着することができる。
【0087】
他の変更も可能である。例えば、フックはベース部分に直交する方向に突出させる必要
はない。ベース部分から傾斜させて突出させることができる。この実施形態において、フ
ックはベース部分の中心で進入路に整列させて配置するが、他の実施形態において、フッ
クは、ベース部分及び進入路のうち一方又は双方に対して異なる位置に配置することがで
きる。さらに他の実施形態において、フックはベース部分の代わりに一方のアーム部分に
担持することができる。フックはアーム部分から直交するよう又は傾斜させた向きで突出
させることができる。フックを一方のアーム部分に担持する実施形態において、望ましい
のはフックを担持するアーム部分をより堅牢にし(すなわち、より大きく及び/又は厚く
し)、フックがアーム部分に加える力によりよく抵抗を示すようにする。さらに考えられ
ることとしては、フックを把持装置の本体の外面に取付けることである。
【0088】
フック172は、基端部184、遊端186及び基端部184と遊端186との間に延
在するステム188を有する。基端部184において、ステム188は全側方に滑らかな
丸め表面にして外方にフレアを付ける。基端部184よりも遊端186に近接する位置で
、ステム188もやはり全側方に滑らかな丸め表面にして外方にフレアを付けるが、その
後短距離にわたり、再び内方にテーパを付ける。この構成により、フック172の球根状
先端190を画定する。他の実施形態において、フック172は異なる形状にすることが
できる。
【0089】
図5A,5B及び5Cに示す実施形態において、フック172を設けた把持装置170
を示す。他の実施形態において、把持装置にはフック以外の付属部を外付けすることがで
きる。例えば、代替的実施形態において、補助溝孔又はアイレットを把持装置の本体に形
成することができる。
【0090】
歯列矯正処置中、把持装置170は2重の目的を果たす。すなわち、アーチワイヤの近
心/遠心方向への移動を捕捉するとともに、歯列矯正用の弾性/エラストマーバンド又は
結紮タイ(金属又はエラストマー)又は牽引力ばねを結紮する係留ポイントとして作用す
る。
【0091】
把持装置170はアーチワイヤ50に対して把持装置20と同様にして取付ける。しか
し、プライヤ110は変更して、第2横方向さねはぎ溝160によって生ずるよりも大き
いクリアランスを生じてフック172を収容できるようにしなければならない。
【0092】
図1〜5Cに示す実施形態において、把持装置20,170は円形断面のアーチワイヤ
を収容かつ緊密にクランプするよう構成する。しかし、あらゆる用途でそのようにする必
要はない。
図12〜17に示す第3実施形態において、ほぼ長方形断面のアーチワイヤ2
02に使用するよう構成した歯列矯正把持装置200を示す。
【0093】
図12,13A及び13Bにつき説明すると、把持装置200は上述の把持装置20に
ほぼ類似し、やはり、近心面204、遠心面206及び近心面204と遠心面206との
間に延在する細長の本体208を有する。この実施形態において、本体208は超弾性材
料から作製した一体(ワンピース又はモノリシック)構造とする。好適には、このような
材料は超弾性合金である。最も好適には、超弾性合金はニッケルチタン又はニッケルチタ
ンと他の合金要素(例えば、クロム[Cr]、鉄[Fe]、バナジウム[V]、アルミニウム[
Al]、銅[Cu]、コバルト[Co])による合金、例えば、ニッケル/チタン/銅合金又
はニッケル/チタン/銅/クロム合金がある。好適には、ニッケルチタン、又はニッケル
チタンと他の合金要素による合金は、冷間加工する。しかし、冷間加工しかつエージ処理
した、ニッケルチタン、又は冷間加工しかつエージ処理した、ニッケルチタンと他の合金
要素による合金も使用できる。この実施形態において、把持装置200は冷間加工ニッケ
ルチタンで形成する。
【0094】
しかし、把持装置は歯列矯正用途に適し、また超弾性材料が示すのと同様なばね復帰特
性を有する他の材料から形成することができることも理解されたい。例えば、冷間加工ベ
ータIIIチタン又は固溶[溶体]化熱処理及びエージ処理したベータIIIチタン(チタンモ
リブデン合金)で形成した把持装置が優れた把持強度を有していることが分かった。さら
に他の材料も選択することができ、この場合、アーチワイヤとの係合中に把持装置が撓む
ときの永久変形及び/又は機械的破損に耐性を示すとともに、同時に十分な材料強度を有
して、把持装置をアーチワイヤに完全に係合した後には所定位置に強固にアーチワイヤを
保持しするようばね復帰特性を示す能力に基づいて選択する。
【0095】
さらに他の実施形態において、把持装置は、形状記憶材料、例えば、形状記憶合金で形
成することができる。しかし、形状記憶特性を有する非金属材料(例えば、ポリマー)を
使用することもできる。
【0096】
把持装置20の本体26と同様に、本体208は
図13Aに示すような近心面側から見
るとき、ほぼ長方形の形状又は輪郭を有する。本体208の形状は、滑らかな丸みを付け
た4個のコーナー、すなわち、第1コーナー210、第2コーナー212、第3コーナー
214及び第4コーナー216によって画定される。コーナー210,212,214及
び216は丸みを付けて急峻な突出端縁がないようにし、さもないと、歯列矯正把持装置
200を患者の口腔内に展開配置したとき、患者の口腔内における柔らかい組織に炎症を
引き起こし、また不快にさせる。
【0097】
本体208は、縦方向中心線CL
1(
図13Aに示す)、横方向中心線CL
2(
図13
Bに示す)、ベース部分218、及びこのベース部分218に連結した互いに離間させて
縦方向中心線CL
1の両側に配置する1対の部分、すなわち第1アーム部分220、第2
アーム部分222を有する。本体208は縦方向中心線CL
1の周りに対称的にし、アー
ム部分220,222が互いに鏡像関係になるようにする。また本体208は、横方向中
心線CL
2の周りに対称にすることができる。他の実施形態において、本体は縦方向中心
線CL
1及び横方向中心線CL
2のうち一方又は双方の周りに非対称にすることができる
。
【0098】
第1アーム部分220は第1コーナー210でベース部分218に結合するとともに、
第2アーム部分222は第2コーナー212でベース部分218に結合する。各アーム部
分220,222はそれぞれ、ベース部分218にほぼ直交する方向にコーナー210,
212から離れるよう延在させる。第3コーナー214で第1アーム部分220は第2ア
ーム部分222に向かって内方に転向し、最終的に第1スタブ状突起224で終端する。
第1アーム部分220の第1スタブ状突起224とベース部分218との間に延在する区
域は、第1ジョー部分226を画定する。同様に、第2アーム部分222は第4コーナー
216で第1アーム部分220に向かって内方に転向し、第2スタブ状突起228で終端
する。第2アーム部分222の第2スタブ状突起228とベース部分218との間に延在
する区域は第2ジョー部分230を画定する。
【0099】
第1及び第2のジョー部分226,230は、互いに対向配置し、また比較的小さい間
隙によって分離し、この間隙は、アーチワイヤ202を内部に捕捉係合する(確実に保持
する)アーチワイヤ収容溝孔又はステーション232を画定する。このような構成にした
第1及び第2のジョー部分226,230は、ともに歯列矯正把持装置200の把持ジョ
ー234を画定する(
図12に明示する)。
【0100】
図12,13A及び13Bにつき説明すると、細長の本体208は、さらに、近心面2
04と遠心面206との間で測った長さL
2、第1アーム部分220の外側面240と第
2アーム部分222の外側面240との間で測った幅W
2、ベース部分218の外面24
8とこの外面248とは反対側に位置するアーム部分220,222の外面250との間
で測った高さH
2を有する。この実施形態において、本体208はできるだけ幅広にする
。他の実施形態において、本体は、幅W
2に等しい、又は幅W
2より大きい、又は幅W
2
より小さい長さL
2を有する構成とすることができる。
【0101】
ベース部分218とは反対側の第3及び第4のコーナー214,216間のほぼ中間で
、アーチワイヤ進入路252を本体208内に形成する。進入路252は、本体208の
全長にわたり延在させ、ベース部分218の方向にテーパを付けたほぼ漏斗形状にし、最
終的にスロート部254で終端する。進入路252の漏斗形状は、第1スタブ状突起22
4によって生ずる第1傾斜面256及び第2スタブ状突起228によって生ずる第2傾斜
面258により画定する。これら傾斜面256,258は角度θ
2(図示せず)だけ互い
に離れる。この実施形態において、角度θ
2は約24゜である。他の実施形態においては
、異なる値の(より大きい又は小さい)θ
2を使用することができる。
【0102】
スロート部254のサイズは、進入路252の最も狭いポイントにおける傾斜面256
,258間の距離T
2に対応する。距離T
2は、歯列矯正把持装置200によって把持す
べきアーチワイヤ202のサイズ(すなわち、幅W
3)に基づいて(又はアーチワイヤの
範囲に基づいて)選択する。距離T
2は、過剰な力を加わえることなくアーチワイヤ20
2に把持装置200を装着できるに十分な大きさにしなければならない。しかし、スロー
ト部254が大き過ぎて、アーチワイヤ202がスロート部254を経て把持ジョー23
4から容易に釈放されないサイズにするよう注意しなければならない。距離T
2のサイズ
決めを幅W
3の約65%〜約70%の間における範囲内にすることが上述の設計目的に合
致しがちであることを見出した。他の実施形態において、距離T
2は、異なるサイズのア
ーチワイヤ又は特別な用途に適合するよう増減させることができる。
【0103】
進入路252(より具体的には、スロート部254)はアーチワイヤ収容ステーション
232に向かって開放する(又はアクセスをもたらす)。この実施形態において、アーチ
ワイヤ収容ステーション232はほぼ四葉のクローバー状(ただし、スロート部254の
位置に対応する第4側面は欠けている)の形状をしている。この四葉のクローバー状の形
状は、
図13Aに明示するように、本体208に形成した4個の丸みのあるアンダーカッ
ト又はクリアランス、すなわち、第1コーナー210に隣接する第1アンダーカット26
0、第2コーナー212に隣接する第1アンダーカット262、第3コーナー214に隣
接する第1アンダーカット264、及び第4コーナー216に隣接する第1アンダーカッ
ト266、並びに3個の内面、すなわち、第1及び第2のジョー部分226,230の互
いに対向する1対の内側把持面268,270及びベース部分218の内面272が画定
する。アンダーカット260,262,264及び266は、アーチワイヤ202の角丸
めしたコーナー274,276,278及び280を収容するために設ける。それほど好
適ではないが、代替的実施形態において、アーチワイヤ収容ステーションは、何らアンダ
ーカットのない構成にすることができる。例えば、アーチワイヤ収容ステーションはほぼ
方形又は長方形の輪郭にすることができる。
【0104】
内面272はアーチワイヤ202の支持側面288用の着座部を画定する。この内面2
72は第1及び第2のアンダーカット260,262間に延在し、またベース部分218
の外面248にほぼ平行とする。
【0105】
第1ジョー部分226の内側把持面268は第1及び第3のアンダーカット260,2
64間に延在するとともに、第2ジョー部分230の内側把持面270は第2及び第4の
アンダーカット262,266間に延在する。内側把持面268,270のそれぞれは、
縦方向中心線CL
1に対して僅かに傾斜した向きを有する。とくに、内側把持面268は
、第1アンダーカット260から第3アンダーカット264まで延在するとき、対向する
把持面270に向かって内方にテーパを付ける。同様に、内側把持面270は、第4アン
ダーカット266の方向に把持面268に向かって内方にテーパを付ける。換言すれば、
第1及び第2の内側把持面268,270は、進入路252の方向に互いに接近して収束
すると言える。この実施形態において、各把持面268,270のテーパ角度θ
3(場合
によっては、(縦方向中心線CL
1にほぼ平行な)垂直軸線Vと各把持面268,270
との間で測った角度)は3゜である。
【0106】
このテーパは、アーチワイヤ202をアーチワイヤ収容ステーション232内に収容し
、アーム部分220,222が部分的に転向するとき、把持面268,270とアーチワ
イヤ202の横側面284,286との間のよりよい接触/係合を促そうとする。このこ
とは、アーチワイヤに対する把持力の適正な分布が確実に得られることによって、アーチ
ワイヤ202のアーチワイヤステーション232内での保持を改善しようとする。このよ
うにして、アーチワイヤ又は把持装置が突然の衝撃に晒される場合であっても、アーチワ
イヤが把持装置から不慮に釈放されるリスクを軽減することができる。
【0107】
他の実施形態において、内側把持面双方のテーパ角度θ
3を異なる(すなわち、より大
きい又はより小さい)ものにして使用することができる。さらに代案として、これら内側
把持面には何らテーパを設けないようにすることができる。このような実施形態において
、第1及び第2の内側把持面を縦方向中心線CL
1にほぼ平行に指向させる。
【0108】
好適には、アーチワイヤ収容ステーション232の、(把持面268及び270がそれ
ぞれ第3アンダーカット264及び第4アンダーカット266に合流する位置で把持面2
68,270間において測った)最も狭いポイントにおける幅は、アーチワイヤ202の
幅W
3よりも少なくとも10%小さいものとする。しかし、他の実施形態において、アー
チワイヤ収容ステーションの幅を異なるサイズにすることができる。
【0109】
他の変更も可能である。例えば、この実施形態では内側把持面268,270は本体2
08の長さL
2全体にわたり同一の輪郭を維持し、他の実施形態では内側把持面の輪郭を
本体の長さ全体にわたり変化させることができる。内側把持面は不規則表面輪郭にするこ
とができる。内側把持面を滑らかにする代わりに、摩擦性を高めるよう凹凸形成又は粗面
化することができる。さらに、内側把持面に摩擦特性を高める材料でコーティングするこ
とができる。
【0110】
この実施形態において、内側把持面268,270は傾いた向きを有するため、内側把
持面268,270間の間隙又は距離Gは一定ではない。内側把持面268,270間の
最も狭いポイント(すなわち、把持面268が第3アンダーカット264と合流する位置
と、把持面270が第4アンダーカット266と合流する位置との間)における間隙Gは
幅W
3よりも小さいサイズとする。内側把持面が縦方向中心線CL
1にほぼ平行に指向す
る実施形態において、内側把持面間のあらゆる位置で測った間隙Gをやはり幅W
3よりも
小さいサイズとする。
【0111】
取付け手順実施中、アーチワイヤ202をアーチワイヤ収容ステーション232内に収
容するとき、第1及び第2のアーム部分220,222は互いに離れる外方に部分的に転
向し、内側把持面268,270間の最も狭いポイントで測った間隙Gがアーチワイヤ2
02の幅W
3よりも小さいという事実を補償する。歯列矯正把持装置200を超弾性合金
から形成するため、アーム部分220,222は弾性を示し、原初(未転向)位置に偏移
される。アーム部分220,222は原初位置に復帰しようとするため、内側把持面26
8,270はクランプ力又は把持力をアーチワイヤ202の横側面284,286に加え
る(
図15に明示する)。この把持力が加わることにより、アーチワイヤ202を緊密に
保持し、また把持装置200がアーチワイヤ202に対して変位するのに抵抗を示す(移
動を捕捉する)。したがって、把持ジョー234は合金の特別なばね復帰特性を活用する
ことによる把持力を導き出し、アーチワイヤ202を緊密にクランプする。この結果、把
持装置200の把持ジョー234は、従来のアーチワイヤ止めよりもより大きい把持力を
アーチワイヤに加え、また滑脱に対するより良好な抵抗を示す。
【0112】
把持装置200をアーチワイヤ止めとして使用するとき、アーチワイヤの把持装置に対
する移動は、近心面/遠心面方向に抵抗を受ける。しかし、把持力はあらゆる方向の移動
に対しても阻止し、またアーチワイヤの周りの回転に対しても抵抗を示そうとする。
【0113】
つぎに
図14及び15につき説明すると、1条のアーチワイヤ202を歯列矯正把持装
置200の把持ジョー234によって強固に保持された状態を示す。この実施形態におけ
るアーチワイヤ202は、長方形又はほぼ長方形の断面であり、この断面は、角丸めした
コーナー274,278間及び角丸めしたコーナー276,280間に延在する横側面2
84,286(すなわち、短辺側)、並びに角丸めしたコーナー278,280間及び角
丸めしたコーナー274,276間に延在する対向面282,288(すなわち、長辺側
)により画定する。アーチワイヤ202の幅W
3は横側面284,286間の距離で画定
され、アーチワイヤ202の深さH
3は対向面282,288間の距離で画定される。
【0114】
説明を分かり易くするため、アーチワイヤ202は概念的に単条の中実ワイヤとして示
す。しかし、アーチワイヤ202は複数本の編組ワイヤ又は螺旋卷回ワイヤの形式をとる
ことができる。この多重撚り線アーチワイヤは、角丸めしたコーナーを有するほぼ長方形
の断面を有するよう形成する(例えば、圧延加工によって)ことができ、また有芯又はコ
アレスとすることができる。
【0115】
歯列矯正把持装置200のアーチワイヤ202に対する取付けは、上述した把持装置2
0のアーチワイヤ50に対する取付けと同様である。歯列矯正医は、プライヤ110のア
ーム112,114を開放セッティング位置162に移動し、第2アーム114を第1ア
ーム112の上方に配置するようプライヤを向き決めする。この位置において、第2作業
先端部140に画定した長方形さねはぎ溝158に対して上方からアクセス可能となる。
歯列矯正医は、つぎに歯列矯正把持装置200を第2作業先端部140内に配置し、把持
装置200が長方形さねはぎ溝158内で適正に着座し、進入路252が第1横方向溝孔
150と平行になることを確実にする。このとき、把持装置200はアーチワイヤ202
に取付ける準備が整う。
【0116】
歯列矯正医は把持装置200をアーチワイヤ202に取付けることができ、この取付け
は、アーチワイヤ202を患者の歯列弓に装着する間に、又は患者の歯に取付けた歯列矯
正具若しくはブラケットにアーチワイヤ202を取付ける前に行う。歯列矯正医はプライ
ヤ110を、把持装置200内に保持すべきアーチワイヤ区域に位置決めし、またアーチ
ワイヤ202のその区域を(把持装置の本体208に画定した)進入路252及び第2作
業先端部140の第1横方向溝孔150に整列させる。好適には、把持装置200を、患
者の上側歯列弓に予め装着してあるアーチワイヤ202に取付けている場合、進入路25
2は歯肉に向かって指向させる。他方、把持装置200を、患者の下側歯列弓に予め装着
してあるアーチワイヤ202に取付けている場合、好適には、進入路252は咬合部に向
けて指向させる。このことは、さらに、取付け手順実施中に把持装置200が不慮にプラ
イヤ110から脱落するのを回避する助けとなる。このことは、あらゆる用途でそうする
必要はない。他の実施形態において、進入路252は異なる向き、例えば、舌又は唇に向
けて指向させることができる。
【0117】
歯列矯正医はハンドル部分122,134をともに引き絞り、第1作業先端部y128
のフランジ部分146をアーチワイヤ202の保持すべき区域に作用させる(
図16に明
示する)。フランジ部分146はアーチワイヤ202を所定位置に保持するとともに、第
2作業先端部140は傾斜した本体表面256,258をアーチワイヤに押し付けるよう
作用する。十分な力を加えると、把持装置200のアーム部分220,222は互いに離
れる方向に外方に転向し、スロート部254は広がってアーチワイヤ202を内部に収容
する(
図17参照)。アーチワイヤ202がスロート部254を越えた後には、アーム部
分220,222は互いに接近する方向に撓み戻り、原初(未転向)位置に復帰しようと
する。第1及び第2のジョー部分226,230の内側把持面268,270はアーチワ
イヤ202の横側面284,286に圧着し、アーチワイヤ202を把持装置200内に
緊密に保持し、把持装置200のアーチワイヤ202に対するあらゆる方向の変位を阻止
する。把持装置200をアーチワイヤ202に取付けた状態で、歯列矯正医はプライヤ1
10のアーム112,114を開放セッティング位置162に移動し、把持装置200を
ツールから釈放する。
【0118】
図示及び説明した実施形態において、把持装置200はニッケルチタンによるリニア超
弾性モードで挙動する合金で形成する。把持装置を形状記憶モードで挙動する材料とする
場合、取付け手順は段落[0079]〜[0083]で上述したのと同様となる。
【0119】
把持装置200は、直角コーナーで画定される長方形断面を有するアーチワイヤに使用
することができると理解されたい。適正な変更により、把持装置200は、方形断面(直
角コーナー又は角丸めしたコーナーで画定される)のアーチワイヤに使用することもでき
る。さらに、本発明の原理は、円形、長方形又は方形以外の断面を有するアーチワイヤに
対する使用に適した把持装置を設計するのに適用することができる。例えば、把持装置は
D字状輪郭を有するアーチワイヤ(例えば、カナダ国オンタリオ州ケンブリッジのストラ
イト・インダストリーズ社によって製造及びSPEED Dワイヤ(登録商標)の下で販
売されているアーチワイヤ)、又は2個の直角コーナー及び1個の角丸めしたコーナーを
有する輪郭のアーチワイヤ(例えば、カナダ国オンタリオ州ケンブリッジのストライト・
インダストリーズ社によって製造及びSPEED ワイヤ(登録商標)の下で販売されて
いるアーチワイヤ)がある。
【0120】
このような場合、把持装置は超弾性材料又は形状記憶材料又はベータIIIチタン又は他
の適当な材料で形成することができ、またアーム部分及びベース部分を有する把持装置2
0及び200に類似の構造とすることができる。各アーム部分はジョー部分を有し、他の
ジョー部分とともに把持ジョーを形成する。これらジョー部分は、アーチワイヤの側方寸
法又は幅よりも小さいサイズのジョー間に存在する間隙を生ずるよう互いに離して配置す
る。さらに、ジョー部分にはアーチワイヤの表面に係合するよう構成した内側把持面を設
ける。若干の場合、このような内側把持面の輪郭は把持すべきアーチワイヤの形状に近似
(又は対応)するよう設計することができる。
【0121】
他の変更も可能である。他の実施形態では、把持装置には、把持装置の取扱いを容易に
してプライヤ又は他のツール内に把持装置を良好に向き決め又は位置決めできるようにす
る手段を設けることができる。一実施形態において、このような手段は、プライヤ又は他
のツールにおける整合突起に整合可能な溝、切欠き又は窪みの形式とすることができる。
こうした実施形態を
図18〜
図21に例示する。
【0122】
図18及び19は材料に関しては上述の把持装置20とほぼ類似しており、把持装置の
本体306に形成した、互いに対向する1対の細長い溝又はノッチ302,304を有す
る点で異なる把持装置300を示す。第1溝302は第1アーム部分310の外面308
に形成し、また本体306の全長にわたり延在する。この実施形態において、第1溝30
2は本体306の第1及び第2のコーナー312,314間で第2コーナー314寄りに
配置する。同様に、第2溝304は第2アーム部分318の外面316に形成し、また本
体306の全長にわたり延在する。第2溝304は本体306の第3及び第4のコーナー
320,322間で第4コーナー322寄りに配置する。この実施形態において、溝30
2,304は円弧状の輪郭を有する。他の実施形態において、溝は異なる輪郭にし、また
異なる配置にすることができる。例えば、他の実施形態において、溝は本体に沿って一部
分にわたってのみ延在させることができる。溝はベース部分寄りに形成することができる
。代案として、各アーム部分の外面には1個より多い数の溝を設けることができる。さら
に他の実施形態において、把持装置の取扱いを容易にする手段を異なる形式のものとする
ことができる。例えば、把持本体においてツールの突出部に整合可能な溝を設ける代わり
に、ツールの作業先端部に形成した溝に整合する突出部を把持装置の本体に設けることが
できる。
【0123】
図20及び21は材料の点に関しては上述の把持装置200に類似しており、把持装置
の本体326に形成した、互いに対向する1対の細長い溝又はノッチ322,324を有
する点で異なる把持装置320を示す。溝322,324の構成及びこれら溝の本体32
6における配置は、溝302,304の構成及びこれら溝の本体306における配置にほ
ぼ類似し、したがって、それ以上の説明は不要であろう。
【0124】
図22及び23は、本発明の第6実施形態による把持装置340を示す。把持装置34
0は材料に関しては上述の把持装置300にほぼ類似するが、把持装置340が把持装置
300のアーチワイヤ収容ステーションとは異なる構成のアーチワイヤ収容ステーション
を有し、また把持装置340が把持装置300のベース部分よりも若干補強した(より厚
くした)ベース部分344を有する異なる本体343にした点で異なる。
【0125】
とくに、円形輪郭(
図2Aに示すアーチワイヤ収容ステーション48に類似してなくは
ない)を有する把持装置300のアーチワイヤ収容ステーションとは異なり、アーチワイ
ヤ収容ステーション342は、楕円形又は長円形の輪郭(
図23に破線で示す)を有する
。楕円形輪郭は、互いに対向する第1及び第2のジョー部分350,352の内側把持面
346,348によってほぼ画定される。この実施形態において、楕円形輪郭の長軸は縦
方向中心線CL
1に整列する。他の実施形態において、この長軸は縦方向中心線CL
1に
平行に配置するが、縦方向中心線CL
1からオフセットして配置する。
【0126】
アーチワイヤ収容ステーション342の楕円形輪郭により、内側把持面346の曲率半
の中心点は内側把持面348の曲率半の中心点からオフセットしており、また双方の中心
点は縦方向中心線CL
1からオフセットしている。
【0127】
アーチワイヤ収容ステーション342は、互いに対向する内側把持面346,348に
よって画定される短直径D
S(すなわち、短軸で測った直径)を有する。アーチワイヤ収
容ステーション342の直径D
Sはアーチワイヤ50の直径D
1よりも僅かに小さいサイ
ズである。好適には、直径D
Sを直径D
1よりも約10%〜15%の間のサイズとする。
他の実施形態において、直径D
Sを異なるサイズにすることができる。
【0128】
楕円形輪郭を有するアーチワイヤ収容ステーション342を構成することにより、円形
又はほぼ円形断面のアーチワイヤを把持装置340に配置するとき、向上した把持力が発
生する。
【0129】
この実施形態において、ベース部分344は把持装置300のベース部分よりも一層突
き出て、1対の第1側方ウイング部材354及び第2側方ウイング部材356を支持し、
これら側方ウイング部材(屈折可能なフィンガ部)はベース部分344から垂下するよう
一体に形成する。第1側方ウイング部材354は、把持装置の本体343の中心部分35
8からほぼアーチワイヤ収容ステーション342の方向に、湾曲したフィンガ状に突出す
る。第1側方ウイング部材354は、把持装置の本体343に画定した細長の溝又はノッ
チ362の手前で止まる遊端360によって終端させ、溝又はノッチへのアクセスを妨げ
ないようにする。ノッチ362は、把持装置の本体306に形成したノッチ302に類似
の構造及び目的を有する。把持装置の本体343の第1側方ウイング部材354と第1ア
ーム部分355との間には細長の間隙364が画定される。
【0130】
同様に、側方ウイング部材356は、把持装置の本体343の中心部分358からほぼ
アーチワイヤ収容ステーション342の方向に、湾曲したフィンガ状に突出する。第1側
方ウイング部材356は、把持装置の本体343に画定した細長の溝又はノッチ370の
手前で止まる遊端368によって終端させ、溝又はノッチへのアクセスを妨げないように
する。ノッチ370は把持装置の本体306に形成したノッチ304に類似の構造及び目
的を有する。間隙364に類似の間隙372は、把持装置の本体343の側方ウイング部
材356と第2アーム部分374との間に延在する。以下に詳細に説明するように、間隙
364,372は、側方ウイング部材354,356との間に、側方ウイング部材354
,356がそれぞれに対応する未転向位置380と転向位置382との間で移動できるよ
うにする。
【0131】
他の実施形態においては、側方ウイング部材は異なる構成にすることができる。
【0132】
側方ウイング部材354,356の目的は、上述の歯列矯正プライヤ110(又は類似
のもの)を使用する歯列矯正医が把持装置340を取扱い易くするためである。より具体
的には、
図24A及び24Bに示すように、側方ウイング部材354,356は、把持装
置340をプライヤ110の第2作業先端部140に形成した長方形のさねはぎ溝158
内に着座させるとき、把持装置340の不慮の釈放を防止する弾性止めとして作用する。
【0133】
側方ウイング部材354,356が、これらに対応する未転向位置380(
図23及び
24Aに示す)にあるとき、把持装置340は、幅W
5(第1側方ウイング部材354の
側方外面384と第2側方ウイング部材356の側方外面386との間で測った幅)を有
し、この幅W
5は長方形のさねはぎ溝158の幅よりも大きい。逆に、力を把持装置34
0に加える(歯列矯正医が自らの指を使って手作業で、又はプライヤ110の第1作業先
端部に形成したフランジ146を使用して機械的に加える)とき、側方ウイング部材35
4,356は押圧されてそれぞれに対応する転向位置382(
図24Bに示す)に移動し
、この場合、遊端360,368は間隙364,372に入り込み、幅W
5は長方形のさ
ねはぎ溝158の幅よりも僅かに小さくなる。このことにより、把持装置340をさねは
ぎ溝158内に収容しまた捕捉するよう保持する。
【0134】
歯列矯正把持装置340は超弾性合金から形成するため、側方ウイング部材354,3
56は弾性を示し、原初(未転向)位置に押圧される。側方ウイング部材354,356
は原初位置に復帰しようとするため、側方ウイング部材354,356の側方外面384
,386は、長方形のさねはぎ溝158を画定する壁388,390に押し付けられ、こ
れら壁に対して外方への力を発生する。これら力は把持装置を長方形のさねはぎ溝158
内に保持しようと作用する。
【0135】
歯列矯正把持装置340のアーチワイヤに対する取付けは、上述したアーチワイヤ50
に対する把持装置20の取付けにほぼ類似し、したがって、更なる説明は不要であろう。
【0136】
図25及び26は材料に関して上述した把持装置320とほぼ類似する把持装置400
を示し、ただし把持装置400は、1対の第1側方ウイング部材406及び第2側方ウイ
ング部材408が付属する、若干補強した(より厚くした)ベース部分404を有する異
なった本体402を有する点で異なる。この点に関して、ベース部分404の構造及び側
方ウイング部材406,408の構成配置は、ベース部分344及び側方ウイング部材3
54,356のと類似し、したがって、ベース部分344及び側方ウイング部材354,
356に関する説明でベース部分404の構造及び側方ウイング部材406,408の構
成配置に関しては十分であろう。
【0137】
図2A及び13Aに示す把持装置も、上述したように肥大化したベース部分及び側方ウ
イング部材を有する構成にすることができる。
【0138】
図1〜5,12〜15,18〜23,25及び26に示す実施形態において、把持装置
はすべて、本体に達し、またアーチワイヤ収容ステーションにアクセスする漏斗状の進入
路によって特徴付けられる分割本体構成を有する。他の実施形態において、把持装置は異
なる形状にすることができる。代替的実施形態において、把持装置は、環状又はドーナツ
状の本体であって、互いに離れて転向可能なアーム部分(図示の他の実施形態の文脈で説
明したのと類似)を環状本体のエンベロープ内に収納する本体を有するものとすることが
できる。この場合、進入路は、アーチワイヤ収容ステーションにアクセスできるよう近心
面及び遠心面に形成した開孔によって画定する。把持装置は、アーチワイヤの先端をアー
チワイヤ収容ステーションに押し込むことによってアーチワイヤに配置することができる
。
【0139】
上述したアーチワイヤ把持装置のいずれにも、又は本発明の原理に従って構成した他の
アーチワイヤ把持装置にも、フック(例えば、
図5Aに示したフック172)、補助溝孔
、アイレット等の形式の付属部を設けることができる。
【0140】
上述したアーチワイヤ把持装置のいずれも、又は本発明の原理に従って構成した他のア
ーチワイヤ把持装置も、端部止め(すなわち、アーチワイヤ端部の変位を制限する)とし
て使用することができる。代案として、把持装置は、特別なブラケット/歯構成のアーチ
ワイヤに対する変位に抵抗を示すのに使用することができる。
【0141】
上述の記載は、把持装置のアーチワイヤに対する例示的な使用について説明してきた。
本発明の原理に従って形成した把持装置は、アーチワイヤに関して使用するのによく適合
するが、把持装置の使用はアーチワイヤに限定するものでないことを理解されたい。本発
明の原理に従って形成した把持装置は、アーチワイヤ以外のワイヤ、又はさらに把持若し
くは緊密に保持するのが必要な補助歯科用デバイス若しくは他の歯科用コンポーネントに
も有利に使用することができる。さらに、本発明の原理は、単に歯科/歯列矯正の用途に
限定する必要はない。適切な変更により、上述の把持装置は、アーチワイヤ又は歯科用コ
ンポーネント以外の物体を把持するよう構成することができる。
【0142】
上述の説明及び添付図面は、本発明者が現在想起した本発明の特定の好適な実施形態に
関するものであるが、種々の改変、変更及び適用も本発明の精神から逸脱するものではな
いと理解されたい。