【実施例】
【0021】
図1は、本発明が適用される車両10に備えられた車両用駆動装置12の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両用駆動装置12は、動力源として機能するエンジン14と、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース16(以下、ケース16という)内において共通の軸心上に配設された、エンジン14に直接或いは図示しないダンパーなどを介して間接的に連結された電気式無段変速部18(以下、無段変速部18という)と、無段変速部18の出力側に連結された機械式有段変速部20(以下、有段変速部20という)とを直列に備えている。又、車両用駆動装置12は、有段変速部20の出力回転部材である出力軸22に連結された差動歯車装置24、差動歯車装置24に連結された一対の車軸26等を備えている。車両用駆動装置12において、エンジン14や後述する第2回転機MG2から出力される動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義)は、有段変速部20へ伝達され、その有段変速部20から差動歯車装置24等を介して車両10が備える駆動輪28へ伝達される。車両用駆動装置12は、例えば車両10において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものである。尚、無段変速部18や有段変速部20等はエンジン14などの回転軸心(上記共通の軸心)に対して略対称的に構成されており、
図1ではその回転軸心の下半分が省略されている。
【0022】
エンジン14は、車両10の走行用の動力源であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン14は、後述する電子制御装置80によってスロットル弁開度或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が制御されることによりエンジン14の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。本実施例では、エンジン14は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく無段変速部18に連結されている。
【0023】
無段変速部18は、第1回転機MG1と、エンジン14の動力を第1回転機MG1及び無段変速部18の出力回転部材である中間伝達部材30に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構32と、中間伝達部材30に動力伝達可能に連結された第2回転機MG2とを備えている。無段変速部18は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、差動用回転機(差動用電動機)に相当し、又、第2回転機MG2は、動力源として機能する回転機(電動機)であって、走行駆動用回転機に相当する。車両10は、走行用の動力源として、エンジン14及び第2回転機MG2を備えたハイブリッド車両である。
【0024】
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ50を介して、車両10に備えられた蓄電装置としてのバッテリ52に接続されており、後述する電子制御装置80によってインバータ50が制御されることにより、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々の出力トルク(力行トルク又は回生トルク)であるMG1トルクTg及びMG2トルクTmが制御される。バッテリ52は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
【0025】
差動機構32は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸34を介してエンジン14が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構32において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
【0026】
有段変速部20は、中間伝達部材30と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機である。中間伝達部材30は、有段変速部20の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材30には第2回転機MG2が一体回転するように連結されているので、又は、無段変速部18の入力側にはエンジン14が連結されているので、有段変速部20は、動力源(第2回転機MG2又はエンジン14)と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機である。有段変速部20は、例えば第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置(以下、特に区別しない場合は単に係合装置CBという)とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。
【0027】
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路54内のソレノイドバルブSL1−SL4等から各々出力される調圧された各係合油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量(係合トルク、クラッチトルクともいう)Tcbが変化させられることで、それぞれ作動状態(係合や解放などの状態)が切り替えられる。係合装置CBを滑らすことなく(すなわち係合装置CBに差回転速度を生じさせることなく)中間伝達部材30と出力軸22との間でトルク(例えば有段変速部20に入力される入力トルクであるAT入力トルクTi)を伝達する為には、そのトルクに対して係合装置CBの各々にて受け持つ必要がある伝達トルク(係合伝達トルク、クラッチ伝達トルクともいう)分(すなわち係合装置CBの分担トルク)が得られる係合トルクTcbが必要になる。但し、伝達トルク分が得られる係合トルクTcbにおいては、係合トルクTcbを増加させても伝達トルクは増加しない。つまり、係合トルクTcbは、係合装置CBが伝達できる最大のトルクに相当し、伝達トルクは、係合装置CBが実際に伝達するトルクに相当する。従って、係合装置CBに差回転速度が生じている状態では、係合トルクTcbと伝達トルクとは同意である。本実施例では、有段変速部20の変速過渡中において差回転速度が生じている状態(例えばイナーシャ相中)の係合装置CBの伝達トルクを係合トルクTcbで表す(すなわち伝達トルクTcbで表す)。尚、係合トルクTcb(或いは伝達トルク)と係合油圧PRcbとは、例えば係合装置CBのパック詰めに必要な係合油圧PRcbを供給する領域を除けば、略比例関係にある。
【0028】
有段変速部20は、第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の各回転要素(サンギヤS1,S2、キャリアCA1,CA2、リングギヤR1,R2)が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的(或いは選択的)に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材30、ケース16、或いは出力軸22に連結されている。
【0029】
有段変速部20は、係合装置CBのうちの所定の係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比)γat(=AT入力回転速度ωi/出力回転速度ωo)が異なる複数の変速段(ギヤ段)のうちの何れかのギヤ段が形成される。つまり、有段変速部20は、係合装置CBが選択的に係合されることで、ギヤ段が切り替えられる(すなわち変速が実行される)。本実施例では、有段変速部20にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度ωiは、有段変速部20の入力回転部材の回転速度(角速度)である有段変速部20の入力回転速度であって、中間伝達部材30の回転速度と同値であり、又、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度ωmと同値である。AT入力回転速度ωiは、MG2回転速度ωmで表すことができる。出力回転速度ωoは、有段変速部20の出力回転速度である出力軸22の回転速度であって、無段変速部18と有段変速部20とを合わせた全体の変速機40の出力回転速度でもある。
【0030】
有段変速部20は、例えば
図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)−AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、高車速側(ハイ側のAT4速ギヤ段側)程、変速比γatが小さくなる。
図2の係合作動表は、各ATギヤ段と係合装置CBの各作動状態(各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置)との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部20のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。AT1速ギヤ段を成立させるブレーキB2には並列にワンウェイクラッチF1が設けられているので、発進時(加速時)にはブレーキB2を係合させる必要は無い。有段変速部20のコーストダウンシフトは、駆動要求量(例えばアクセル開度θacc)の減少やアクセルオフ(アクセル開度θaccがゼロ又は略ゼロ)による減速走行中の車速関連値(例えば車速V)の低下によってダウンシフトが判断(要求)されたパワーオフダウンシフトのうちで、アクセルオフの減速走行状態のままで要求されたダウンシフトである。尚、係合装置CBが何れも解放されることにより、有段変速部20は、何れのギヤ段も形成されないニュートラル状態(すなわち動力伝達を遮断するニュートラル状態)とされる。
【0031】
有段変速部20は、後述する電子制御装置80(特には有段変速部20の変速制御を実行する後述するAT変速制御部82)によって、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて係合装置CBのうちの(つまり変速前のATギヤ段を形成する所定の係合装置のうちの)解放側係合装置の解放と係合装置CBのうちの(つまり変速後のATギヤ段を形成する所定の係合装置のうちの)係合側係合装置の係合とが制御されることで、形成されるATギヤ段が切り替えられる(すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される)。つまり、有段変速部20の変速制御においては、例えば係合装置CBの何れかの掴み替えにより(すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより)変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。例えば、AT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウンシフト(2→1ダウンシフトと表す)では、
図2の係合作動表に示すように、解放側係合装置となるブレーキB1が解放されると共に、係合側係合装置となるブレーキB2が係合させられる。この際、ブレーキB1の解放過渡油圧やブレーキB2の係合過渡油圧が調圧制御される。
【0032】
図3は、無段変速部18と有段変速部20とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
図3において、無段変速部18を構成する差動機構32の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部20の入力回転速度)を表すm軸である。又、有段変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸22の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構32のギヤ比(歯車比)ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置36,38の各歯車比ρ1,ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数Zs/リングギヤの歯数Zr)に対応する間隔とされる。
【0033】
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速部18の差動機構32において、第1回転要素RE1にエンジン14(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材30と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン14の回転を中間伝達部材30を介して有段変速部20へ伝達するように構成されている。無段変速部18では、縦線Y2を横切
る直線L0により、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0034】
又、有段変速部20において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材30に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材30に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース16に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース16に選択的に連結されている。有段変速部20では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1,L2,L3,L4により、出力軸22における「1st」,「2nd」,「3rd」,「4th」の各回転速度が示される。
【0035】
図3中の実線で示す、直線L0及び直線L1,L2,L3,L4は、少なくともエンジン14を動力源として走行するエンジン走行が可能なハイブリッド走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構32において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ)=−(1/ρ)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。このとき、第1回転機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ52に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ52からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
【0036】
図3に図示はしていないが、エンジン14を停止させると共に第2回転機MG2を動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの共線図では、差動機構32において、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14は駆動されず、エンジン14の回転速度であるエンジン回転速度ωeはゼロとされ、MG2トルクTm(ここでは正回転の力行トルク)が車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。又、車両10の後進走行では、例えばモータ走行モードにおいて、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが車両10の後進方向の駆動トルクとして、前進用のAT1速ギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。
【0037】
車両用駆動装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と中間伝達部材30が連結された(見方を換えれば第2回転機MG2が動力伝達可能に連結された)第3回転要素RE3としてのリングギヤR0との3つの回転要素を有する差動機構32を備えて、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式変速機構(電気式差動機構)としての無段変速部18が構成される。つまり、エンジン14が動力伝達可能に連結された差動機構32と差動機構32に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とを有して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される無段変速部18が構成される。無段変速部18は、中間伝達部材30の回転速度であるMG2回転速度ωmに対する連結軸34の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe)の変速比γ0(=ωe/ωm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。
【0038】
例えば、ハイブリッド走行モードにおいては、有段変速部20にてATギヤ段が形成されたことで駆動輪28の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1回転機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe)が上昇或いは下降させられる。従って、エンジン走行では、エンジン14を効率の良い運転点にて作動させることが可能である。つまり、ATギヤ段が形成された有段変速部20と無段変速機として作動させられる無段変速部18とで、無段変速部18(差動機構32も同意)と有段変速部20とが直列に配置された変速機40全体として無段変速機を構成することができる。
【0039】
又は、無段変速部18を有段変速機のように変速させることも可能であるので、ATギヤ段が形成される有段変速部20と有段変速機のように変速させる無段変速部18とで、変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、変速機40において、出力回転速度ωoに対するエンジン回転速度ωeの変速比γt(=ωe/ωo)が異なる複数のギヤ段(模擬ギヤ段と称する)を選択的に成立させるように、有段変速部20と無段変速部18とを制御することが可能である。変速比γtは、直列に配置された、無段変速部18と有段変速部20とで形成されるトータル変速比であって、無段変速部18の変速比γ0と有段変速部20の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
【0040】
模擬ギヤ段は、例えば有段変速部20の各ATギヤ段と1又は複数種類の無段変速部18の変速比γ0との組合せによって、有段変速部20の各ATギヤ段に対してそれぞれ1又は複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、
図4は、ギヤ段割当(ギヤ段割付)テーブルの一例であり、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段−模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段−模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段−模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。
【0041】
図5は、
図3と同じ共線図上に有段変速部20のATギヤ段と変速機40の模擬ギヤ段とを例示した図である。
図5において、実線は、有段変速部20がAT2速ギヤ段のときに、模擬4速ギヤ段−模擬6速ギヤが成立させられる場合を例示したものである。変速機40では、出力回転速度ωoに対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度ωeとなるように無段変速部18が制御されることによって、あるATギヤ段において異なる模擬ギヤ段が成立させられる。又、破線は、有段変速部20がAT3速ギヤ段のときに、模擬7速ギヤ段が成立させられる場合を例示したものである。変速機40では、ATギヤ段の切替えに合わせて無段変速部18が制御されることによって、模擬ギヤ段が切り替えられる。
【0042】
図1に戻り、車両10は、更に、エンジン14、無段変速部18、及び有段変速部20などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置80を備えている。よって、
図1は、電子制御装置80の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置80は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
【0043】
電子制御装置80には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、MG1回転速度センサ62、MG2回転速度センサ64、出力回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、Gセンサ72、シフトポジションセンサ74、バッテリセンサ76、MG1温度センサ78など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度ωe、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度ωg、AT入力回転速度ωiであるMG2回転速度ωm、車速Vに対応する出力回転速度ωo、運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量(すなわちアクセルペダルの操作量)であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、車両10の前後加速度G、車両10に備えられたシフト操作部材としてのシフトレバー56の操作位置(操作ポジション)POSsh、バッテリ52のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、第1回転機MG1の温度であるMG1温度THgなど)が、それぞれ供給される。又、電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えばスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置58、インバータ50、油圧制御回路54など)に各種指令信号(例えばエンジン14を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の(すなわち有段変速部20の変速を制御する為の)油圧制御指令信号Satなど)が、それぞれ出力される。この油圧制御指令信号Satは、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbを調圧する各ソレノイドバルブSL1−SL4等を駆動する為の指令信号(駆動電流)であり、油圧制御回路54へ出力される。尚、電子制御装置80は、係合装置CBの狙いの係合トルクTcbを得る為の、各油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbの値に対応する油圧指令値(指示圧ともいう)を設定し、その油圧指令値に応じた駆動電流を出力する。
【0044】
電子制御装置80は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ52の充電状態(充電容量)SOCを算出する。又、電子制御装置80は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ52の充電容量SOCに基づいて、バッテリ52のパワーであるバッテリパワーPbatの使用可能な範囲を規定する(すなわちバッテリ52の入力電力の制限を規定する充電可能電力(入力可能電力)Win、及びバッテリ52の出力電力の制限を規定する放電可能電力(出力可能電力)Woutである)、充放電可能電力Win,Woutを算出する。充放電可能電力Win,Woutは、例えばバッテリ温度THbatが常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbatが低い程小さくされ、又、バッテリ温度THbatが常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbatが高い程小さくされる。又、充電可能電力Winは、例えば充電容量SOCが大きな領域では充電容量SOCが大きい程小さくされる。又、放電可能電力Woutは、例えば充電容量SOCが小さな領域では充電容量SOCが小さい程小さくされる。
【0045】
電子制御装置80は、車両10における各種制御を実現する為に、変速制御手段としてのAT変速制御手段すなわち変速制御部としてのAT変速制御部82、及びハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部84を備えている。
【0046】
AT変速制御部82は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)関係(例えばATギヤ段変速マップ)を用いて有段変速部20の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部20の変速制御を実行して有段変速部20のATギヤ段を自動的に切り替えるように、ソレノイドバルブSL1−SL4により係合装置CBの係合解放状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路54へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば出力回転速度ωo(ここでは車速Vなども同意)及びアクセル開度θacc(ここでは要求駆動トルクTdemやスロットル弁開度θthなども同意)を変数とする二次元座標上に、有段変速部20の変速が判断される為の変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)を有する所定の関係である。
【0047】
ハイブリッド制御部84は、エンジン14の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ50を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。ハイブリッド制御部84は、予め定められた関係(例えば駆動力マップ)にアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで要求駆動パワーPdem(見方を換えれば、そのときの車速Vにおける要求駆動トルクTdem)を算出する。ハイブリッド制御部84は、バッテリ52の充放電可能電力Win,Wout等を考慮して、要求駆動パワーPdemを実現するように、エンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2を制御する指令信号(エンジン制御指令信号Se及び回転機制御指令信号Smg)を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度ωeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン14のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルク(そのときのMG1回転速度ωgにおけるMG1トルクTg)を出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、又、そのときのMG2回転速度ωmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
【0048】
ハイブリッド制御部84は、例えば無段変速部18を無段変速機として作動させて変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、エンジン最適燃費点等を考慮して、要求駆動パワーPdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度ωeとエンジントルクTeとなるように、エンジン14を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速部18の無段変速制御を実行して無段変速部18の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の変速機40の変速比γtが制御される。
【0049】
ハイブリッド制御部84は、例えば無段変速部18を有段変速機のように変速させて変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係(例えば模擬ギヤ段変速マップ)を用いて変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部82による有段変速部20のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部18の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度ωoに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度ωeを制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、出力回転速度ωoの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定範囲で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。
【0050】
上記模擬ギヤ段変速マップは、ATギヤ段変速マップと同様に出力回転速度ωo及びアクセル開度θaccをパラメータとして予め定められている。
図6は、模擬ギヤ段変速マップの一例であって、実線はアップシフト線であり、破線はダウンシフト線である。模擬ギヤ段変速マップに従って模擬ギヤ段が切り替えられることにより、無段変速部18と有段変速部20とが直列に配置された変速機40全体として有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTdemが比較的大きい場合に、変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
【0051】
ハイブリッド制御部84による模擬有段変速制御と、AT変速制御部82による有段変速部20の変速制御とは、協調して実行される。本実施例では、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段の4種類のATギヤ段に対して、模擬1速ギヤ段−模擬10速ギヤ段の10種類の模擬ギヤ段が割り当てられている。このようなことから、模擬3速ギヤ段と模擬4速ギヤ段との間での変速(模擬3⇔4変速と表す)が行われるときにAT1速ギヤ段とAT2速ギヤ段との間での変速(AT1⇔2変速と表す)が行なわれ、又、模擬6⇔7変速が行われるときにAT2⇔3変速が行なわれ、又、模擬9⇔10変速が行われるときにAT3⇔4変速が行なわれる(
図4参照)。その為、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるように、ATギヤ段変速マップが定められている。具体的には、
図6における模擬ギヤ段の「3→4」、「6→7」、「9→10」の各アップシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1→2」、「2→3」、「3→4」の各アップシフト線と一致している(
図6中に記載した「AT1→2」等参照)。又、
図6における模擬ギヤ段の「3←4」、「6←7」、「9←10」の各ダウンシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1←2」、「2←3」、「3←4」の各ダウンシフト線と一致している(
図6中に記載した「AT1←2」等参照)。又は、
図6の模擬ギヤ段変速マップによる模擬ギヤ段の変速判断に基づいて、ATギヤ段の変速指令をAT変速制御部82に対して出力するようにしても良い。このように、有段変速部20のアップシフト時は、変速機40全体のアップシフトが行われる一方で、有段変速部20のダウンシフト時は、変速機40全体のダウンシフトが行われる。AT変速制御部82は、有段変速部20のATギヤ段の切替えを、模擬ギヤ段が切り替えられるときに行う。模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれる為、エンジン回転速度ωeの変化を伴って有段変速部20の変速が行なわれるようになり、その有段変速部20の変速に伴うショックがあっても運転者に違和感を与え難くされる。
【0052】
ハイブリッド制御部84は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部84は、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値以上となるエンジン走行領域にある場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。又、ハイブリッド制御部84は、要求駆動パワーPdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ52の充電容量SOCが予め定められた閾値未満となる場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。
【0053】
ハイブリッド制御部84は、MG1温度THgに基づいてMG1トルクTgを制限する。
図7は、MG1温度THgに基づいてMG1トルクTgが制限される一例を示す図である。
図7において、第1回転機MG1は、MG1温度THgが高い領域では、MG1温度THgが大きい程、MG1トルクTgの制限率Rres(MG1トルク制限率Rresともいう)が最大の100[%]から徐々に小さくされる。つまり、MG1トルクTgの出力が許容される上限値は、MG1温度THgが高い領域ではMG1温度THgが大きい程小さくされる。MG1温度THgが高い領域で第1回転機MG1の負荷が制限されることで、第1回転機MG1の更なる過熱と、過熱を起因とする減磁などによる不可逆的な出力低下とが抑制される。尚、制限率Rresは、例えば定格を100[%]としたときに、どれだけの負荷が許容されるかを表す数値であって、許容される負荷率に相当する。
【0054】
ここで、有段変速部20の変速を伴うときの変速機40の模擬有段変速制御について詳述する。ハイブリッド制御部84は、AT変速制御部82による有段変速部20の変速時(特には変速過渡におけるイナーシャ相中において)、第2回転機MG2の角加速度であるMG2角加速度dωm/dtとエンジン14の角加速度であるエンジン角加速度dωe/dtとが各々の目標値となるように、エンジントルクTeと、係合装置CBの伝達トルクTcb(すなわち有段変速部20における解放側係合装置及び係合側係合装置のうちの変速を進行させる側の変速進行側係合装置の伝達トルクTcb)とに基づいて、MG1トルクTgとMG2トルクTmとを制御する、変速時基本制御を実行する。エンジントルクTeに対するMG1トルクTgによる反力トルクにてリングギヤR0に現れるエンジン直達トルクTdと、MG2トルクTmとの合算トルクが有段変速部20へのAT入力トルクTiとなるので、MG1トルクTgとMG2トルクTmとを制御することは、そのAT入力トルクTiを制御することと同意である。
【0055】
有段変速部20の変速制御においては、パワーオンアップシフト、パワーオフアップシフト、パワーオンダウンシフト、及びパワーオフダウンシフトといった様々な変速パターン(変速様式)がある。パワーオンでの変速は、例えばアクセル開度θaccの増大やアクセルオンが維持された状態での車速Vの上昇によって判断された変速であり、パワーオフでの変速は、例えばアクセル開度θaccの減少やアクセルオフが維持された状態での車速Vの低下によって判断された変速である。仮に変速中に解放側係合装置及び係合側係合装置の何れにも伝達トルクTcbを発生させない状態とすると、パワーオンではAT入力回転速度ωiは成り行きで上昇させられる一方で、パワーオフではAT入力回転速度ωiは成り行きで低下させられる。その為、成り行きではAT入力回転速度ωiを変速後の同期回転速度ωisyca(=ωo×変速後の変速比γata)へ向けて変化させられない、パワーオンアップシフトやパワーオフダウンシフトでは、変速後のATギヤ段を形成する係合側係合装置に伝達トルクTcbを発生させることで変速を進行させることが好ましい。一方で、成り行きでAT入力回転速度ωiを変速後の同期回転速度ωisycaへ向けて変化させられる、パワーオフアップシフトやパワーオンダウンシフトでは、変速前のATギヤ段を形成する解放側係合装置の伝達トルクTcbを低下させることで変速を進行させることが好ましい。従って、パワーオンアップシフトやパワーオフダウンシフトにおける変速進行側係合装置は係合側係合装置である一方で、パワーオフアップシフトやパワーオンダウンシフトにおける変速進行側係合装置は解放側係合装置である。
【0056】
具体的には、ハイブリッド制御部84は、予め定められた次式(1)を用いて、MG2角加速度dωm/dtとエンジン角加速度dωe/dtとの各々の目標値、エンジントルクTe、及びAT伝達トルクTatに基づいて、MG1トルクTgとMG2トルクTmとを算出する。ハイブリッド制御部84は、算出したMG1トルクTgとMG2トルクTmとが各々得られる為の各回転機制御指令信号Smgをインバータ50へ出力する。次式(1)は、例えば無段変速部18におけるg軸、e軸、及びm軸(
図3参照)の各軸毎において成立する、慣性(イナーシャ)、角加速度、及び軸上のトルクで示される運動方程式と、無段変速部18が2自由度(すなわち各軸のうちの2つの軸の各回転速度が決まると残りの1つの軸の回転速度が決まるという2自由度)であることで規定される相互間の関係式とに基づいて、導き出された式である。従って、次式(1)中の2×2の各行列における各値a11、・・・、b11、・・・、c22は、各々、無段変速部18を構成する各回転部材の慣性や差動機構32の歯車比ρ0等の組み合わせで構成された値となっている。
【0057】
【数1】
【0058】
前記式(1)中のMG2角加速度dωm/dtとエンジン角加速度dωe/dtとの各々の目標値は、例えば有段変速部20の変速が様々な変速パターンのうちのどの変速パターンであるか、どのATギヤ段間での変速であるか、及びどの模擬ギヤ段間での変速であるかなどによって予め定められている。又、前記式(1)中のエンジントルクTeは、例えば要求駆動パワーPdemを実現するエンジンパワーPe(要求エンジンパワーPedemともいう)が得られる、そのときのエンジン回転速度ωeにおけるエンジントルクTe(要求エンジントルクTedemともいう)である。
【0059】
又、前記式(1)中のAT伝達トルクTatは、有段変速部20の変速時に係合装置CBの各々にて受け持つ必要がある各伝達トルクを中間伝達部材30(すなわちm軸上)に換算した各換算値の合算値(すなわち有段変速部20が伝達する伝達トルクを中間伝達部材30上に換算した値)である。前記式(1)は有段変速部20の変速を進行させるときのモデル式であるので、本実施例では、前記式(1)中のAT伝達トルクTatを便宜上、変速を進行させる主体となる変速進行側係合装置の伝達トルクTcbとする。前記式(1)において、変速進行側係合装置の伝達トルクTcbの値としてはフィードフォワード値が与えられる。その為、電子制御装置80は、変速進行側係合装置の伝達トルクTcbを設定する。電子制御装置80による変速進行側係合装置の伝達トルクTcbの設定では、有段変速部20の変速ショックや変速時間等のバランスを取るように、有段変速部20の変速パターンやどのATギヤ段間での変速であるかなどの異なる変速の種類毎に予め定められた関係を用いて、要求駆動パワーPdemを実現する要求エンジンパワーPedemに基づくAT入力トルクTiに応じた変速進行側係合装置の伝達トルクTcbの値が設定される。
【0060】
図8は、有段変速部20の通常のパワーオンダウンシフト制御を説明する為の共線図の一例を示す図である。
図8は、
図3の共線図における無段変速部18の部分に相当する。
図8において、有段変速部20のパワーオンダウンシフト中は、例えば前記式(1)を用いた制御(フィードバック制御)によって、第1回転機MG1にて、エンジントルクTe(A部黒矢印参照)を受ける反力トルク(反力トルクTgrfともいう)が発生させられつつ(B部黒矢印参照)、パワーオンダウンシフトの進行に必要な変速進行用トルク(変速進行用トルクTgshともいう)が出力されて(C部白抜き矢印参照)、自らの回転速度(MG1回転速度ωg)が下げられる(D部矢印参照)。これにより、MG2角加速度dωm/dtとエンジン角加速度dωe/dtとが目標値となるように制御される(すなわちAT入力回転速度ωi(=MG2回転速度ωm)とエンジン回転速度ωeとが狙いの回転速度へ制御される)(E部矢印参照)。
【0061】
ところで、第1回転機MG1は、
図7に示したように、MG1トルクTgが制限されることがある。有段変速部20のパワーオンダウンシフト時に、MG1トルクTgが制限されていると、第1回転機MG1が反力トルクTgrfに加え変速進行用トルクTgshを十分に発生することができない場合がある。
【0062】
図11は、MG1トルクTgが制限されているときの有段変速部20のパワーオンダウンシフト制御(後述する本実施例とは別の比較例)を説明する為の共線図の一例を示す図である。
図11は、
図8の共線図に相当する。
図11において、有段変速部20のパワーオンダウンシフト中は、
図8で示した通常のパワーオンダウンシフト制御と同様に、第1回転機MG1にて、反力トルクTgrfが発生させられつつ変速進行用トルクTgshが出力される。この際、MG1トルクTgが制限されている状態では、第1回転機MG1が変速進行用トルクTgshを十分に発生することができず、自らの回転速度(MG1回転速度ωg)を目標の変速状態(破線参照)へ下げることができない場合がある(A部矢印参照)。このような場合、ダウンシフトの進行が停滞したり、又は、ダウンシフトによるAT入力回転速度ωi(=MG2回転速度ωm)の上昇(B部矢印参照)に引きずられてエンジン回転速度ωeが目標となるダウンシフト後の同期回転速度ωesyca(=ωo×変速後の変速機40の変速比γta)よりも吹き上がってしまい(C部矢印参照)、運転者に違和感を与える可能性がある。
【0063】
そこで、電子制御装置80は、有段変速部20のパワーオンダウンシフト時において、MG1トルクTgが制限状態である場合には、予め要求エンジンパワーPedem(ここでは要求エンジントルクTedemも同意)を制限する。これにより、有段変速部20のパワーオンダウンシフト時において、MG1トルクTgが制限されているときであっても、第1回転機MG1が反力トルクTgrfに加えて変速進行用トルクTgshを必要な分だけ発生させることができる。
【0064】
具体的には、電子制御装置80は、上述した予め要求エンジンパワーPedemを制限する制御機能を実現する為に、更に、車両状態判定手段すなわち車両状態判定部86、制限状態判定手段すなわち制限状態判定部88、及び出力制限手段すなわち出力制限部90を備えている。
【0065】
車両状態判定部86は、車両10が走行しているときに、有段変速部20のパワーオンダウンシフト中であるか否かを、例えば油圧制御指令信号Satに基づいて判定する。又、車両状態判定部86は、有段変速部20のパワーオンダウンシフトの変速過渡中においてイナーシャ相が開始されたか否かを、例えばAT入力回転速度ωiがダウンシフト後の同期回転速度ωisycaに向けて上昇し始めたか否かに基づいて判定する。又、車両状態判定部86は、有段変速部20のパワーオンダウンシフトが完了したか否かを、例えば油圧制御指令信号Satに基づいて判定する。
【0066】
制限状態判定部88は、車両状態判定部86により有段変速部20のパワーオンダウンシフト中であると判定された場合には、MG1トルクTgが、有段変速部20のパワーオンダウンシフトの進行に必要な変速進行用トルクTgshを確保できる所定負荷Loadfよりも制限されている制限状態であるか否かを判定する。所定負荷Loadfは、例えば第1回転機MG1において反力トルクTgrfと変速進行用トルクTgshとを出力することが可能なMG1トルク制限率Rresの下限値である。つまり、所定負荷Loadfは、第1回転機MG1において反力トルクTgrfと変速進行用トルクTgshとを出力する為に必要となるMG1トルク制限率Rresである。制限状態判定部88は、
図7に示すようなMG1温度THgとMG1トルク制限率Rresとの予め定められた関係(マップ)を用いて、MG1温度THgに基づいて実際のMG1トルク制限率Rres(実MG1トルク制限率Rresともいう)を算出する。制限状態判定部88は、実MG1トルク制限率Rresが所定負荷Loadfよりも小さいか否かに基づいて、MG1トルクTgが制限状態であるか否かを判定する。
【0067】
有段変速部20のどのATギヤ段間でのパワーオンダウンシフトであるかの異なる変速の種類によってパワーオンダウンシフト前後のAT入力回転速度ωiの変化量Δωi(=ダウンシフト後の同期回転速度ωisyca−ダウンシフト前の同期回転速度ωisycb(=ωo×変速前の変速比γatb))が異なる。そのAT入力回転速度ωiの変化量Δωiが大きい程、パワーオンダウンシフト中に大きなMG1回転速度ωgの下げ幅が必要となって大きな変速進行用トルクTgshが必要となると考えられる。又は、出力回転速度ωo(車速Vも同意)が高ければ、そのAT入力回転速度ωiの変化量Δωiが大きくされる。又は、有段変速部20のパワーオンダウンシフト前後のエンジン回転速度ωeの変化量Δωe(=ダウンシフト後の同期回転速度ωesyca−ダウンシフト前の同期回転速度ωesycb(=ωo×変速前の変速機40の変速比γtb))が小さい程、パワーオンダウンシフト中に大きなMG1回転速度ωgの下げ幅が必要となって大きな変速進行用トルクTgshが必要となると考えられる。変速進行用トルクTgshが大きい程、所定負荷Loadfは大きくされる。このようなことから、制限状態判定部88は、有段変速部20の変速の種類、出力回転速度ωo(又は車速V)、及び有段変速部20のパワーオンダウンシフト時におけるエンジン回転速度ωeの変化量Δωeのうちの少なくとも1つのパラメータに基づいて、所定負荷Loadfを設定する。
【0068】
より好適には、制限状態判定部88は、有段変速部20の変速の種類、出力回転速度ωo(又は車速V)、及び有段変速部20のパワーオンダウンシフト時におけるエンジン回転速度ωeの変化量Δωeのうちの少なくとも1つをパラメータとして、変速進行用トルクTgshが予め定められた関係(変速進行用トルクマップ)を有している(つまり記憶している)。制限状態判定部88は、その変速進行用トルクマップを用いて上記パラメータに基づいて変速進行用トルクTgshを算出し、現在のエンジントルクTeを受ける反力トルクTgrfと、その算出した変速進行用トルクTgshとに基づいて、所定負荷Loadfを設定する。
【0069】
要求エンジンパワーPedemの制限は、ダウンシフトの進行が停滞したり、又は、エンジン回転速度ωeの吹き上がりが発生してからではなく、そうなる前から予め(事前に)実行しておくことが好適である。その為、制限状態判定部88は、有段変速部20のパワーオンダウンシフトに伴うAT入力回転速度ωiの変化開始前までに(すなわちイナーシャ相の開始前までに)、MG1トルクTgが制限状態であるか否かを判定する。好適には、制限状態判定部88は、有段変速部20のパワーオンダウンシフトの開始時から、MG1トルクTgが制限状態であるか否かを判定する。
【0070】
ハイブリッド制御部84は、有段変速部20のパワーオンダウンシフト時において、制限状態判定部88によりMG1トルクTgが制限状態でないと判定された場合には、要求エンジンパワーPedemを制限しない状態で変速時基本制御を実行する、通常時制御を実行する。
【0071】
出力制限部90は、有段変速部20のパワーオンダウンシフト時において、制限状態判定部88によりMG1トルクTgが制限状態であると判定された場合には、エンジンパワーPeを所定パワーPef以下となるように制限する(つまりエンジントルクTeを所定トルクTef以下となるように制限する)指令を、ハイブリッド制御部84へ出力する。ハイブリッド制御部84は、有段変速部20のパワーオンダウンシフト時において、出力制限部90の指令に基づいて、要求エンジンパワーPedemを制限した状態で変速時基本制御を実行する。
【0072】
所定パワーPefは、エンジントルクTeを受ける反力トルクTgrfに変速進行用トルクTgshを加えたトルクをMG1トルクTgで実現できる上限のエンジンパワーPeであり、有段変速部20のパワーオンダウンシフト時に必要となる変速進行用トルクTgshを実現可能とする為の要求エンジンパワーPedemの制限値(上限値)である。所定トルクTefは、エンジントルクTeを受ける反力トルクTgrfに変速進行用トルクTgshを加えたトルクをMG1トルクTgで実現できる上限のエンジントルクTeであり、有段変速部20のパワーオンダウンシフト時に必要となる変速進行用トルクTgshを実現可能とする為の要求エンジントルクTedemの上限値である。
【0073】
前述したように、有段変速部20の変速の種類、出力回転速度ωo(又は車速V)、及び有段変速部20のパワーオンダウンシフト時におけるエンジン回転速度ωeの変化量Δωeのうちの少なくとも1つのパラメータは、必要となる変速進行用トルクTgshの値に関係する。又、MG1トルクTgの制限値としての実MG1トルク制限率Rresが小さい程、出力可能なMG1トルクTgから必要となる変速進行用トルクTgshを差し引いた、反力トルクTgrfとして出力可能なトルク分が小さくされて、反力トルクTgrfにて受けることが可能なエンジントルクTeが小さくされる。このようなことから、出力制限部90は、実MG1トルク制限率Rres、有段変速部20の変速の種類、出力回転速度ωo(又は車速V)、及び有段変速部20のパワーオンダウンシフト時におけるエンジン回転速度ωeの変化量Δωeのうちの少なくとも1つのパラメータに基づいて、所定パワーPefを設定する(つまり所定トルクTefを設定する)。所定パワーPef(所定トルクTef)は、例えば有段変速部20のパワーオンダウンシフト開始時(又は制限状態判定部88による、MG1トルクTgが制限状態であるとの判定時点)における、上記少なくとも1つのパラメータに基づいて設定され、パワーオンダウンシフト中に亘って一律の値が用いられても良い。又は、所定パワーPef(所定トルクTef)は、有段変速部20のパワーオンダウンシフト中における、上記少なくとも1つのパラメータに基づいて設定され、パワーオンダウンシフト中に可変とされても良い。
【0074】
より好適には、出力制限部90は、実MG1トルク制限率Rres、有段変速部20の変速の種類、出力回転速度ωo(又は車速V)、及び有段変速部20のパワーオンダウンシフト時におけるエンジン回転速度ωeの変化量Δωeのうちの少なくとも1つをパラメータとして、有段変速部20のパワーオンダウンシフト時に必要となる変速進行用トルクTgshを実現可能とする為のエンジンパワーPe(所定トルクTefを設定する場合はエンジントルクTe)の上限値が予め定められた関係(制限値マップ)を有している(つまり記憶している)。出力制限部90は、その制限値マップを用いて、上記パラメータに基づいて所定パワーPefを設定する(つまり所定トルクTefを設定する)。
【0075】
要求エンジンパワーPedemの制限は、制限状態判定部88によりMG1トルクTgが制限状態であると判定された時点から実行されれば良いが、例えば少なくともイナーシャ相の開始後の変速過渡期間で実行されても良い。つまり、出力制限部90は、エンジンパワーPeの制限を(つまりエンジントルクTeの制限を)、例えば有段変速部20のパワーオンダウンシフトに伴うAT入力回転速度ωiの変化開始時に開始する(すなわち車両状態判定部86により有段変速部20のパワーオンダウンシフトの変速過渡中においてイナーシャ相が開始されたと判定された場合に開始する)。
【0076】
又、エンジンパワーPeを制限したことでエンジン14の作動(燃焼)が不安定になってしまうことは回避することが望ましい。その為、出力制限部90は、エンジンパワーPeの制限を(つまりエンジントルクTeの制限を)、エンジンパワーPe(エンジントルクTe)が安定して出力されている状態のときに開始する。例えば、出力制限部90は、エンジン14の燃焼が安定しているときにエンジンパワーPeの制限を実行する。
【0077】
又、要求エンジンパワーPe
demの制限は、イナーシャ相の終了時点まで(つまりAT入力回転速度ωiがダウンシフト後の同期回転速度ωisycaと同期したパワーオンダウンシフトの完了時点まで)継続されることが好適である。従って、出力制限部90は、エンジンパワーPeの制限を(つまりエンジントルクTeの制限を)、例えば車両状態判定部86により有段変速部20のパワーオンダウンシフトが完了したと判定された場合に終了する。又は、要求エンジンパワーPe
demの制限は、ダウンシフトの進行が停滞する可能性、又は、エンジン回転速度ωeの吹き上がりが発生する可能性が低くなるまで継続されれば良い。従って、出力制限部90は、エンジンパワーPeの制限を(つまりエンジントルクTeの制限を)、例えば有段変速部20のパワーオンダウンシフトが完了したときに、又は、そのパワーオンダウンシフトの進行度Rproが所定進行度Rprofに到達したときに、又は、そのパワーオンダウンシフトの制御開始時から所定時間TMdsf経過したときに、又は、そのパワーオンダウンシフトに伴うAT入力回転速度ωiの変化開始時(すなわちイナーシャ相の開始時)から第2所定時間TMinaf経過したときに、終了する。パワーオンダウンシフトの進行度Rproは、パワーオンダウンシフトがどの程度進行したかを表す度合であり、その進行度Rproとしては、例えば実際のAT入力回転速度ωiとダウンシフト後の同期回転速度ωisycaとの差回転速度Dωi(=ωisyca−ωi)、同期回転速度ωisycaに対する実際のAT入力回転速度ωiの割合Rωi(=ωi/ωisyca)などが用いられる。所定進行度Rprof、所定時間TMdsf、及び第2所定時間TMinafは、各々、例えば要求エンジンパワーPe
demの制限を解除しても、ダウンシフトの進行が停滞する可能性、又は、エンジン回転速度ωeの吹き上がりが発生する可能性が低いと又は可能性がないと判断できる為の予め定められた閾値である。
【0078】
又、有段変速部20のパワーオンダウンシフトの過渡中にパワーオフに切り替えられると、変速進行側係合装置が解放側係合装置から係合側係合装置へ切り替えられて、MG1トルクTgやMG2トルクTmのトルク制御、変速進行側係合装置の油圧制御などがパワーオンダウンシフトからパワーオフダウンシフトに合わせた制御へ切り替えられる場合がある。このような場合、パワーオンダウンシフト時において要求エンジンパワーPe
demの制限が実行中であるときには、その制限は解除することが望ましい。又は、パワーオフに切り替えられたことで、要求エンジンパワーPe
demが低減されるので、要求エンジンパワーPe
demを制限する必要性がない。その為、出力制限部90は、エンジンパワーPeの制限中に(つまりエンジントルクTeの制限中に)パワーオフに切り替えられたことによりパワーオフダウンシフトとしてダウンシフトが進行させられる場合には、エンジンパワーPeの制限を解除する(つまりエンジントルクTeの制限を解除する)。
【0079】
図9は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち有段変速部20のパワーオンダウンシフトの際に、変速の進行が停滞することによる又はエンジン回転速度ωeが吹き上がってしまうことによる、運転者への違和感を防止又は抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば走行中に繰り返し実行される。
図10は、
図9のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の有段変速部20のパワーオンダウンシフト制御を説明する為の共線図の一例を示す図である。
図10は、
図8の共線図に相当する。
【0080】
図9において、先ず、車両状態判定部86の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、有段変速部20のパワーオンダウンシフト中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合は制限状態判定部88の機能に対応するS20において、MG1トルクTgが、有段変速部20のパワーオンダウンシフトの進行に必要な変速進行用トルクTgshを確保できる所定負荷Loadfよりも制限されている制限状態であるか否かが判定される。このS20の判断が否定される場合はハイブリッド制御部84の機能に対応するS30において、通常の有段変速部20のパワーオンダウンシフト時における制御(すなわち要求エンジンパワーPedemを制限しない状態で変速時基本制御を実行する、通常時制御)が実行される(
図8参照)。上記S20の判断が肯定される場合は出力制限部90及びハイブリッド制御部84の機能に対応するS40において、エンジンパワーPeが所定パワーPef以下となるように制限され、要求エンジンパワーPedemが制限された状態で変速時基本制御が実行される。次いで、車両状態判定部86の機能に対応するS50において、有段変速部20のパワーオンダウンシフトが完了(終了)したか否かが判定される。このS50の判断が否定される場合は上記S40が実行される。このS50の判断が肯定される場合は出力制限部90及びハイブリッド制御部84の機能に対応するS60において、要求エンジンパワーPedemの制限が終了(解除)される。
【0081】
図10において、有段変速部20のパワーオンダウンシフト中は、
図8で示した通常のパワーオンダウンシフト制御と同様に、第1回転機MG1にて、反力トルクTgrfが発生させられつつ変速進行用トルクTgshが出力される。この際、MG1トルクTgが制限状態である場合には、第1回転機MG1が変速の進行に必要な変速進行用トルクTgshを出力しながら反力トルクTgrfを確保できるエンジントルクTeとなるように、予め要求エンジンパワーPedem(要求エンジントルクTedem)が低減される(A部黒矢印参照)。これにより、変速進行用トルクTgshによってMG1回転速度ωgが適切に下げられながら変速が進行させられ(B部矢印参照)、MG2回転速度ωmとエンジン回転速度ωeとが狙いの回転速度へ制御される(C部矢印参照)。
【0082】
上述のように、本実施例によれば、有段変速部20のパワーオンダウンシフト時において、MG1トルクTgが制限状態である場合には、エンジンパワーPeが所定パワーPef以下となるように制限される(つまりエンジントルクTeが所定トルクTef以下となるように制限される)ので、エンジントルクTeを受ける第1回転機MG1の反力トルクTgrfが低減される。これにより、第1回転機MG1に対して、変速をする上で自らの回転速度(MG1回転速度ωg)を下げる為のトルク(すなわちパワーオンダウンシフトの進行に必要な変速進行用トルクTgsh)を確保することができるようになり、変速の進行が停滞したり又はエンジン回転速度ωeが吹き上がってしまうことを防止又は抑制しつつ、パワーオンダウンシフトを実行させることができる。よって、有段変速部20のパワーオンダウンシフトの際に、変速の進行が停滞することによる又はエンジン回転速度ωeが吹き上がってしまうことによる、運転者への違和感を防止又は抑制することができる。
【0083】
また、本実施例によれば、有段変速部20の変速の種類、出力回転速度ωo(又は車速V)、及び有段変速部20のパワーオンダウンシフト時におけるエンジン回転速度ωeの変化量Δωeのうちの少なくとも1つのパラメータに基づいて、所定負荷Loadfが設定されるので、MG1トルクTgが制限状態であるか否かが適切に判定される。
【0084】
また、本実施例によれば、実MG1トルク制限率Rres、有段変速部20の変速の種類、出力回転速度ωo(又は車速V)、及び有段変速部20のパワーオンダウンシフト時におけるエンジン回転速度ωeの変化量Δωeのうちの少なくとも1つのパラメータに基づいて、所定パワーPefが設定される(つまり所定トルクTefが設定される)ので、変速の進行が停滞したり又はエンジン回転速度ωeが吹き上がってしまうことを防止又は抑制しつつ、パワーオンダウンシフトを適切に実行させることができる。
【0085】
また、本実施例によれば、エンジンパワーPeの制限が(つまりエンジントルクTeの制限が)、エンジンパワーPe(エンジントルクTe)が安定して出力されている状態のときに開始されるので、エンジンパワーPe(エンジントルクTe)が制限されたとしてもエンジン14の作動が不安定となり難い。
【0086】
また、本実施例によれば、エンジンパワーPeの制限が(つまりエンジントルクTeの制限が)、有段変速部20のパワーオンダウンシフトが完了したときに、又は、そのパワーオンダウンシフトの進行度Rproが所定進行度Rprofに到達したときに、又は、そのパワーオンダウンシフトの制御開始時から所定時間TMdsf経過したときに、又は、そのパワーオンダウンシフトに伴うAT入力回転速度ωiの変化開始時(すなわちイナーシャ相の開始時)から第2所定時間TMinaf経過したときに、終了させられるので、変速の進行が停滞したり又はエンジン回転速度ωeが吹き上がってしまう可能性のある間は適切にエンジンパワーPe(エンジントルクTe)が制限される。見方を換えれば、変速の進行が停滞したり又はエンジン回転速度ωeが吹き上がってしまう可能性が低くなれば、要求された通りにエンジンパワーPe(エンジントルクTe)が出力され易くなる。
【0087】
また、本実施例によれば、エンジンパワーPeの制限中に(つまりエンジントルクTeの制限中に)パワーオフに切り替えられたことによりパワーオフダウンシフトとしてダウンシフトが進行させられる場合には、エンジンパワーPeの制限が解除される(つまりエンジントルクTeの制限が解除される)ので、パワーオフダウンシフトに合わせた制御が適切に実行される。
【0088】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0089】
例えば、前述の実施例では、MG1トルク制限率Rresにて所定負荷LoadfやMG1トルクTgの制限値を規定したが、この態様に限らない。例えば、MG1トルクTgにて所定負荷LoadfやMG1トルクTgの制限値を規定しても良い。このような場合、所定負荷Loadfは、例えば第1回転機MG1において反力トルクTgrfと変速進行用トルクTgshとを出力することが可能なMG1トルクTgの下限値(つまり、第1回転機MG1において反力トルクTgrfと変速進行用トルクTgshとを出力する為に必要となるMG1トルクTg)である。又、MG1トルクTgの制限値は、第1回転機MG1において出力することが許容されるMG1トルクTgの上限値である。
【0090】
また、前述の実施例における変速機40の変速時基本制御(例えば前記式(1)を用いた変速制御)は、有段変速部20の変速を伴うときの変速機40の模擬有段変速制御時の他に、変速機40全体として無段変速機として作動させているときの有段変速部20の変速制御時にも適用することができる。
【0091】
また、前述の実施例では、有段変速部20は、前進4段の各ATギヤ段が形成される遊星歯車式の自動変速機であったが、この態様に限らない。例えば、有段変速部20は、複数の係合装置が選択的に係合されることで変速が実行される自動変速機であれば良い。このような自動変速機としては、有段変速部20のような遊星歯車式の自動変速機でも良いし、又は、同期噛合型平行2軸式自動変速機であって入力軸を2系統備えて各系統の入力軸に係合装置(クラッチ)がそれぞれつながり更にそれぞれ偶数段と奇数段へと繋がっている型式の変速機である公知のDCT(Dual Clutch Transmission)などの自動変速機であっても良い。DCTの場合には、所定の係合装置は、2系統の各入力軸にそれぞれつながる係合装置が相当する。
【0092】
また、前述の実施例では、変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、模擬ギヤ段変速マップを用いて模擬ギヤ段を切り替えたが、この態様に限らない。例えば、シフトレバー56やアップダウンスイッチ等による運転者の変速指示に従って変速機40の模擬ギヤ段を切り替えるものでも良い。
【0093】
また、前述の実施例では、4種類のATギヤ段に対して10種類の模擬ギヤ段を割り当てる実施態様を例示したが、この態様に限らない。好適には、模擬ギヤ段の段数はATギヤ段の段数以上であれば良く、ATギヤ段の段数と同じであっても良いが、ATギヤ段の段数よりも多いことが望ましく、例えば2倍以上が適当である。ATギヤ段の変速は、中間伝達部材30やその中間伝達部材30に連結される第2回転機MG2の回転速度が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、又、模擬ギヤ段の変速は、エンジン回転速度ωeが所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、それら各々の段数は適宜定められる。
【0094】
また、前述の実施例では、差動機構32は、3つの回転要素を有するシングルピニオン型の遊星歯車装置の構成であったが、この態様に限らない。例えば、差動機構32は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、差動機構32は、ダブルプラネタリの遊星歯車装置であっても良い。又、差動機構32は、エンジン14によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及び中間伝達部材30が各々連結された差動歯車装置であっても良い。
【0095】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。