(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673909
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】光バリアフィルタの使用なしにサンプルスペクトルから照明エネルギーのスペクトル成分を除去する方法およびそのための装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20200316BHJP
G01J 3/02 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
G01N21/27 F
G01J3/02 C
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-519571(P2017-519571)
(86)(22)【出願日】2015年9月11日
(65)【公表番号】特表2017-533424(P2017-533424A)
(43)【公表日】2017年11月9日
(86)【国際出願番号】US2015049820
(87)【国際公開番号】WO2016057162
(87)【国際公開日】20160414
【審査請求日】2018年9月11日
(31)【優先権主張番号】14/506,704
(32)【優先日】2014年10月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517122475
【氏名又は名称】センター フォー クオンティテイティブ サイトメトリー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ, アブラハム
(72)【発明者】
【氏名】コーヘン, マーティン シー.
(72)【発明者】
【氏名】イングラム, ピーター
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0181867(US,A1)
【文献】
国際公開第2006/025104(WO,A1)
【文献】
特開2005−337789(JP,A)
【文献】
米国特許第05764354(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 − 21/73
G01J 3/00 − 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光バリアフィルタの使用なしにサンプルスペクトルから照明エネルギーのスペクトル成分である照明スペクトル成分を除去する方法であって、
照明エネルギーが基準チャンバとサンプルが与えられていないサンプルチャンバに同時に供給されるとき、前記基準チャンバとサンプルが与えられていない前記サンプルチャンバのそれぞれから第1の組の照明スペクトルを得ることと、
照明波長範囲にわたって波長ごとに前記基準チャンバからの第1の組の照明スペクトルとサンプルが与えられていない前記サンプルチャンバからの第1の組の照明スペクトルとの間の強度差を決定することと、
照明エネルギーが前記基準チャンバとサンプルが与えられた前記サンプルチャンバに同時に供給されるとき、前記基準チャンバとサンプルが与えられた前記サンプルチャンバのそれぞれから第2の組のスペクトルを得ることであって、前記基準チャンバからは、照明スペクトル成分のみを含む第2の組のスペクトルを得るとともに、サンプルが与えられた前記サンプルチャンバからは、照明スペクトル成分とサンプルスペクトル成分の両方を含む第2の組のスペクトルを得ることと、
前記基準チャンバからの照明スペクトル成分の強度とサンプルが与えられた前記サンプルチャンバからの照明スペクトル成分の強度を前記照明波長範囲にわたって等しくするために、対応する波長ごとに以前に決定された強度差を、前記基準チャンバからの第2の組のスペクトルに含まれる照明スペクトル成分の強度に減じるかまたは加えることによって、前記基準チャンバからの第2の組のスペクトルに含まれる照明スペクトル成分の強度を前記照明波長範囲にわたって調整することと、
サンプルが与えられた前記サンプルチャンバからの、照明スペクトル成分とサンプルスペクトル成分の両方を含む第2の組のスペクトルから、前記基準チャンバからの第2の組のスペクトルの調整された照明スペクトル成分を減じて、サンプルスペクトルから照明スペクトル成分を効果的に除去することと
を含む、方法。
【請求項2】
サンプルが前記サンプルチャンバの内部に配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サンプルが前記サンプルチャンバの外部に配置され、サンプル表面からの反射エネルギーが前記サンプルチャンバに導かれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
光バリアフィルタの使用なしにサンプルスペクトルから照明エネルギーのスペクトル成分である照明スペクトル成分を除去する方法であって、
照明エネルギーが、基準チャンバとサンプルが与えられていないサンプルチャンバとに同時に供給されるとき、基準チャンバとサンプルが与えられていないサンプルチャンバから出力されたエネルギーを回折格子に導き、受け取った照明エネルギーを前記回折格子によりCCDチップ上に回折して、前記基準チャンバとサンプルが与えられていない前記サンプルチャンバのそれぞれから第1の組の照明スペクトルを得ることと、
照明波長範囲にわたって波長ごとに、前記基準チャンバからの第1の組の照明スペクトルとサンプルが与えられていない前記サンプルチャンバからの第1の組の照明スペクトルとの間の強度差を決定することと、
照明エネルギーが、前記基準チャンバとサンプルが与えられた前記サンプルチャンバとに同時に供給されるとき、前記基準チャンバとサンプルが与えられた前記サンプルチャンバから出力されたエネルギーを前記回折格子に導き、受け取ったエネルギーを前記回折格子によりCCDチップ上に回折して、前記基準チャンバからは、照明スペクトル成分のみを含む第2の組のスペクトルを得るとともに、サンプルが与えられた前記サンプルチャンバからは、照明スペクトル成分とサンプルスペクトル成分の両方を含む第2の組のスペクトルを得ることと、
前記基準チャンバからの照明スペクトル成分の強度とサンプルが与えられた前記サンプルチャンバからの照明スペクトル成分の強度を前記照明波長範囲にわたって等しくするために、対応する波長ごとに以前に決定された強度差を、前記基準チャンバからの第2の組のスペクトルに含まれる照明スペクトル成分の強度に減じるかまたは加えることによって、前記基準チャンバからの第2の組のスペクトルに含まれる照明スペクトル成分の強度を前記照明波長範囲にわたって調整することと、
サンプルが与えられた前記サンプルチャンバからの、照明スペクトル成分とサンプルスペクトル成分の両方を含む第2の組のスペクトルから、前記基準チャンバからの第2の組のスペクトルの調整された照明スペクトル成分を減じて、サンプルスペクトルから照明スペクトル成分を効果的に除去することと
を含む、方法。
【請求項5】
サンプルが前記サンプルチャンバの内部に配置される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
サンプルが前記サンプルチャンバの外部に配置され、サンプル表面からの反射エネルギーが前記サンプルチャンバに導かれる、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広エネルギー範囲にわたる組合せサンプルスペクトルを得る方法に関し、より詳細には、フィルタの使用なしに照明成分を除去することによって広エネルギー範囲にわたる組合せサンプルスペクトルを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分光法はサンプルからのエネルギーを分離するプロセスであり、そのプロセスにより前記サンプルは特性評価される。放射能およびケミイルミンサンスなどの自然放出エネルギーを有するサンプル以外のほとんどの場合、ある形態のエネルギーでサンプルを照射して、サンプルにエネルギーを吸収させるかまたは放出させ、そのエネルギーをスペクトルの形態で検出できることが必要である。透過、反射、および吸収分光法は、照射エネルギーと、サンプルからの結果として生じるエネルギースペクトルとの間のこの相互作用に関しての最も簡単な例である。透過分光法の場合には、サンプルを通過したエネルギーのみをスペクトルで検出することができる。吸収分光法では、スペクトルで検出できるのは吸収されたエネルギーである。反射分光法では、検出可能なエネルギーは表面から反射されたエネルギーであり、一方、他のエネルギーはすべて吸収される。
【0003】
蛍光およびラマン分光法は、より複雑な技法であるが、その理由は、サンプルが、照射源と異なっておりかつ相補的でないエネルギーを放出するように、照射エネルギーが、電子を励起する分子構造と相互作用するからである。この種の説明は、さらに、核磁気共鳴分光法に適用することができ、ここで、放射エネルギーは、異なる磁界強度のスペクトルであり、サンプルスペクトルは、サンプルの共振原子のスペクトルの結果である。
【0004】
サンプルが自然にエネルギーを放出しないすべての分光法では、照明のエネルギーが、ある程度、サンプルのその結果として生じるスペクトル中に導入される。例えば、吸収分光法では、特に、赤外線分光法の場合には、結果として生じるスペクトルのベースラインは照明赤外線エネルギーであり、ここで、サンプルの分子構造は、特定波長の照明を吸収して、サンプルの特性吸収スペクトルを与える。反射分光法の場合には、サンプルの表面からのエネルギーの反射スペクトルが、照明エネルギーに重畳される。
【0005】
蛍光およびラマン分光法のように、放出エネルギーに照明エネルギーからのシフトがある場合、レーザ、帯域通過フィルタ、および/またはノッチフィルタによって供給される狭波長エネルギーが、照明エネルギーを除去しようとする際に使用される。これが行われる理由は、多くの場合、エネルギーシフトが小さく、放出エネルギーが照明エネルギーの重なりと強度とによって完全にマスクされ得るからである。これらの場合、サンプルのスペクトル特性の知見が必要とされ、ならびに照明エネルギーからサンプルの放出エネルギーを分離し最適化するために極めて特殊な測定器セットアップが必要とされる。
【0006】
理解できるように、照明のエネルギーは、照明が吸収されるか、または照明がサンプルの電子を異なるエネルギー状態に励起しそして電子が基底状態に落ちて戻るときにエネルギーが放出されるかのいずれかであるので、大部分の吸収および放出スペクトルを得る際のキー要素である。しかしながら、照明のエネルギー特性の吸収と放出の両方が、結果として生じるサンプルスペクトルに存在することがある。例えば、例えば水銀アーク光源およびキセノンアーク光源から生成されたときの照明スペクトルには強いピークが存在する。ほとんどの合成照明光源、ならびに自然照明光源では、ハロゲンランプおよび太陽光または星明かりなどからの照明を生成する元素に特有な吸収帯が存在する。照明からのこれらの余分なスペクトル寄与は、サンプルからのスペクトル成分の識別を妨げることがある。通常、フィルタが、これらのアーチファクトを除去するために使用される。しかしながら、フィルタの使用は、サンプルおよびそのスペクトル成分の応答を制限するもあり得る。フィルタの使用なしに照明成分を除去できるならば、純粋なサンプルスペクトルが生じることになる。
【0007】
ほとんどのサンプルは、サンプルおよびその組成を特性評価し識別する多くのスペクトルパラメータを有する。しかしながら、各形態の分光法は、その特定形態の分光法に対してサンプルの信号対雑音比を最適化するために照明エネルギーおよび放出エネルギーを様々な特定の方法で処理する様々な機器を必要とする。結合された分光器によって提示されていた単一のスペクトルを提示するスペクトルデータを単一機器から得る方法があるならば、便利であり、効率的であり、より多くの情報を与えることになる。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、フィルタの使用なしに広波長励光源から個々の放射スペクトルを得て分離する方法に関する。この方法のキーは、サンプルの広い組合せ励起/放出スペクトルを得ることと、組合せスペクトルから励起スペクトルを除去することとである。これは、同時にならびに同じ環境および機器条件下で組合せ励起/放出スペクトルと励起スペクトルの両方を別々に得ることによって達成される。次いで、励起スペクトルが、波長ごとに、組合せ励起/放出スペクトルから減じられ、サンプルにおける単一の放出スペクトル、または異なる混合物からの2つ以上のスペクトルの組合せであり得る純粋な放出スペクトルが残される。組合せ放出スペクトルの場合には、個々の放出スペクトルが、既知の放出スペクトルのモデルを使用して放出スペクトルをデコンボリュートすることによって得られる。
【0009】
本発明のさらなる特徴および利点は、本発明の例示的な実施形態を示す添付図に関連して行われる以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による、動作中の組合せ分光器の主要構成要素を示す図である。
【
図2】本発明による、較正されるべきサンプルとともに、画素をオングストロームに変換し較正する際に使用される赤色6600Å LEDのスペクトルを示す図である。
【
図3】本発明による、ゼロ次スペクトルを得る方法で使用されるスペクトルを示す図である。
【
図4】本発明による、補色寄与を示すスペクトルを示す図である。
【
図5】本発明による、組合せスペクトルにおける蛍光放出スペクトルを示す図である。
【
図6】本発明による、地質サンプル(方ソーダ石)からの蛍光のスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図の全体にわたって、同じ参照番号および文字が、特に明記されない限り、図示の実施形態の同様の要素、構成要素、部分、またはフィーチャを表すために使用される。主題発明が、例示的な実施形態の観点から添付図とともに詳細に説明される。
【0012】
本発明は、単一の手順からおよび/または単一の装置から以前は入手することができなかったサンプルに関する隠れたスペクトル情報を見えるようにするためにサンプルのスペクトルデータから照明成分を完全に除去することに基づく、発明者等によって「組合せ分光法」と名付けられた新しい手法を説明する。
【0013】
ほとんどの形態の分光法では、照明(照射)エネルギーはサンプルに対して向けられる。サンプルはその照明と相互作用し、放出波長を透過するか、吸収するか、反射するか、またはシフトすることによって応答することになる。しかしながら、照明エネルギーはサンプルによって消費されないので、照明からのスペクトルデータは、結果として生じるサンプルスペクトルに存在する。サンプルスペクトル中のこのデータの存在が、サンプルの分光成分をマスクすることがある。サンプルのスペクトルデータから照明エネルギーデータを除去することによって、結果として生じるサンプルスペクトルは、照明データの存在下では隠されていた多数のスペクトルパラメータを見えるようにすることができる。
【0014】
発明者等の新規の手法によれば、以下の新規の概念および用語が、本明細書の全体にわたって規定され使用されることになる。組合せ分光法は、最終スペクトルから照明光源成分を除去するフィルタレス分光法技法によって組合せスペクトルを得る新規の方法である。組合せスペクトルは、照明光源データなしに多数のスペクトル源からの成分を含むスペクトルである。ゼロ次スペクトルは、波長範囲にわたって基準チャンバおよびサンプルチャンバからのスペクトルを等しくすることからもたらされたスペクトルである。一次スペクトルは、ゼロ次スペクトルが確立された後の基準チャンバとサンプル含有チャンバとからのスペクトルである。最後に、二次スペクトルは、サンプルの一次スペクトルから照明の一次スペクトルを減じることによって照明スペクトルがサンプルスペクトルから除去された後、結果として生じるスペクトル(すなわち、組合せスペクトル)である。
【0015】
本発明の手法は、発明者等によって「組合せ分光器」と名付けられた装置を使用することによって実行される。一般に、組合せ分光器は、
図1に示すように、同じサイズ、形状、および反射率特性を有する2つの別個のチャンバ(基準およびサンプル)からなる。各チャンバはチャンバに照明を導入するための入口ポートを有することができ、照明は広波長範囲または狭波長範囲(例えば、UVからIR)の電磁エネルギーを有する。このエネルギーは、チャンバの表面によって反射され、出口ポートを通って出ていくことになる。好ましい実施形態では、出口ポートは、各チャンバにおいて制御可能な幾何形状をもつスリットである。スリットからの照明は、電磁エネルギーをそれぞれのスペクトル成分に回折することになるプリズムまたは回折格子に導かれる。
図1に示すように、次いで、2組のスペクトルデータが、適切な画素分解能を有する電荷結合デバイス(CCD)の別個の区域に導かれ、その結果、次いで、コンピュータは、データセットの各々を読んで処理して、それぞれ、照明のスペクトルと、サンプルおよび照明情報を含むスペクトルとを形成することができる。次いで、これらの画素からのデータがコンピュータソフトウェアによって較正および処理されて、サンプルの組合せスペクトルが生成される。
【0016】
本発明による組合せスペクトルを取得する手順の一部として、ゼロ次スペクトルが、サンプルをサンプルチャンバに導入する前に得られなければならない。このスペクトルは、分光器のチャンバが等しくされ規格化されていることと、注目する波長範囲全体にわたるサンプルチャンバの強度読みがゼロであることとを表す。これは、サンプルが存在しない状態で、機器の両方のチャンバに照明を導入することによって達成される。スリット幾何形状および照明パワー設定が、2つのチャンバからの結果として生じる照明スペクトル、すなわち、一次スペクトルが波長範囲にわたって等しくなるように機械的に調整される。
【0017】
実際には、これは、機械的調整のみの使用によっては完全には達成することができない。しかしながら、波長範囲にわたるゼロ強度値は、波長に関して両方のスペクトルを較正または調整し、次いで、サンプルの存在しないサンプルチャンバから生じたスペクトルから照明スペクトルを減じることによって、ゼロ次スペクトルから得ることができる。2つのスペクトル間の減算からもたらされた結果として生じる強度差が、波長ごとに決定され、サンプルスペクトルの強度は、照明スペクトルが、現在、サンプルスペクトルから減じられるとき、結果として生じるゼロ次スペクトルが実験の波長範囲にわたってゼロ強度値を有するように調整される。次いで、サンプルがサンプルチャンバ中に置かれ、一次サンプルスペクトルが、ゼロ次ハードウェアおよびソフトウェア条件の下で2つのチャンバから得られる。基準チャンバからのスペクトルは、照明のデータのみを含み、一方、等しくされたサンプルチャンバからのスペクトルは、サンプルならびに照明からのデータを含む。
【0018】
次いで、二次スペクトルが、波長ごとに、一次サンプルスペクトルから一次照明スペクトルを減じることによって得られる。ゼロ次スペクトルを得る手順が、照明とサンプルの両方の照明成分および環境アーチファクトを平衡または補償したので、結果として生じる二次スペクトルには、今では、照明からのスペクトル成分と、照明を引き起こす環境アーチファクトからのスペクトル成分とがない。
【0019】
二次スペクトルには照明成分がないが、二次スペクトルは、限定はしないが、透過、吸収、反射、蛍光、ラマン散乱、および補色反射を含む、いくつかのスペクトル源からの成分を含むことになる。サンプルからのスペクトル成分がない波長では、強度値は、ゼロ次スペクトルにおいてゼロであるように二次スペクトルにおいてゼロのままである。
【0020】
組合せ分光法の適用
組合せ分光法は、未知の組成のサンプルを最初に試験するとき非常に有用であり得る。二次スペクトルは、人工光源および自然光源、例えば太陽からの反射照明を含む、広範囲の波長をカバーする照明光源から生成することができる。広波長範囲では、サンプルの吸収特性がその範囲内で直ちに明白となり、ならびに蛍光放出の表れが直ちに明白となる。この時点では、蛍光放出は、組合せ分光器の補色成分内で混同されるかまたは隠されることがある。サンプルの吸収包絡線(励起スペクトル)内に完全に入る照明の狭波長帯を使用することによって、反射され得る狭照明帯には補色が存在しないので、補色成分は除去される。
【0021】
特定の個々のスペクトル成分のみが望ましい場合、多数のスペクトル成分があると、混同していると見なされることがある。そのため、蛍光の例で論じたように照明エネルギーの操作により、または数学的モデル化逆畳み込み適用によって、多数のスペクトル成分を分離することが可能である。しかしながら、組合せスペクトル(二次)の多数のスペクトル源(吸収、蛍光、ラマンの散乱など)の複合物は、単一形態の分光法からのスペクトルよりも決定的な識別を行うことができる。
【0022】
組合せ分光法は、さらに、実際のサンプルが機器の外にある遠隔反射形式で適用されてもよい。これは、サンプルが配置されている表面と等価であるサンプルのない表面を識別することによって達成される。次いで、両方の表面を照明光源で照明し、サンプルのない表面からの反射エネルギーを基準チャンバに、およびサンプル表面からの反射エネルギーをサンプルチャンバに導く。2つのチャンバからのデータは、同時に得る必要がある。これは、航空機または宇宙の衛星から赤潮藻類の二次スペクトルを得ることなどのサンプルが分光器から遠く離れていることがある場合、反射率形式下で組合せ分光法を適用するときに非常に重要になる。水蒸気、エアロゾル、空気の熱密度の乱れのようなアーチファクトは、かなり大きい雑音を信号に加えるが、最初にゼロ次スペクトルを得て、次いで、反射照明およびサンプルデータを取ることによって、例えば、照明光源として太陽を使用し、海洋の開部分からの反射照明スペクトルを取り、赤潮藻類を含む海岸区域の水から反射されたサンプルスペクトルを取り、次いで、前に説明したように、一次スペクトルおよび二次スペクトルを得るように処理することによって除去され得る。
【0023】
組合せ分光法は、いくつかの分野、特に、サンプルの組成が未知である場合の探索的な分野に適用することができる。組合せスペクトルは、より洗練された定性および定量分析を実行することができるように、好ましいタイプの従来の分光機器と、そのセットアップパラメータとを素早く示すことができる。そのような分野は、限定はしないが、地質学、裁判分析、医薬、製造における品質管理、天文学、環境科学、野生生物管理を含むことができる。加えて、組合せ分光法データは、特定のスペクトルパラメータに基づいて画像を作り出すために走査方式で使用することができる。例えば、赤潮藻類の吸収および蛍光の組合せパラメータは、沿岸水域に沿った浮遊植物大増殖を宇宙から画像化するか、またはコラーゲンなどの組織中の特定の生体成分を画像化するために使用することができる。より詳細には、画像を形成するのにただ2つの可能な方法がある。すべての画点が同時に(並列に)形成されるか、または各々が順次に形成されるかのどちらかである。歴史上、これらの概念は19世紀半ば以来よく知られている。すべてのスペクトル画像化は、散乱現象、粒子(波)と物質との相互作用、およびその相互作用の物理にもっぱら依存する信号の後続の登録を扱っているという意味で本質的に「解析的」である。
【0024】
同時に得られた画像と順次に得られた画像の両方において、スペクトル画像化を使用して定量的情報を取り出すことができ、この技法は、オンラインまたは事後分析のいずれかのために画素ごとの完全なスペクトルの収集および記憶を可能にする。しかしながら、並列技法の場合には、例えば、サブ惑星(例えば、地球または火星の領域)または極微小生物学的存在から定量分析のための所定の統計精度を得るために局所化情報取得を使用することは、可能でない。様々な分析法は、単純な元素の注目領域画像から、画素元素重量パーセントのスペクトル合計まで、すなわち、真の化学相画像までにわたる結果として生じたスペクトルデータキューブに適用することができる。スペクトル画像化は、画像解析における重要なツールであるが、最近まで、実装は、依然として、走査発生、および蛍光画像またはX線画像などの他の注目する信号の収集との真の統合を欠いていた。これらおよび他の制限を克服しているDavillaらへの米国特許第7,858,935号に開示されている最近の方法、すなわち、Event−Streamed Spectrum Imaging(ESSI)(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)が、開発されている。
【0025】
スペクトル画像化の従来の方法とESSI方法の間の最終的な結果は、特定波長/エネルギーのマッピングに対してのみ類似しているが、注目するすべてのパラメータ(例えば、照明、動作条件、ドリフト補正、取得の領域、温度、技術装置パラメータ、気象データなど)が、すべての画素に含まれ、実時間で画像化され操作されるか、または後での表示のためにオフラインで単一フレームまたは複数フレーム(映画)として記憶され得るという点で、ESSIなどの走査技法でははるかに包括的となり得る。特に重要なことは、励起放射が、所定の統計精度(例えば、±2標準偏差)を取得するために必要な標本の領域において画素当たり十分な時間の間だけとどまることができるようにする動的ドゥエル変調またはプログラム化ビーム取得(PBA)の使用である。両方の方法において、さらなる解析を必要とする領域を捜し出す際に散布図(2Dヒストグラム)の使用が不可欠であり得る。照明画像のすべての画素は、例えば、要素画像または化学画像の同じ画素に指標づけされるので、さらなる試験を命じることができるセルの領域を識別することになるマスクを作り出すことができる。多変量統計解析、主成分および/または最大画素解析などの補助解析技法と一緒にPBAおよび散布図プロトコルを使用するのは、並列または単一化学マッピングのみよりも正確で迅速な識別および定量的データを供給する際に、非常に有用となり得る。本発明の方法は、これらの技法の一部として使用されおよび/または統合されて、より良好な経験的および/または分析的データを供給することができる。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によれば、組合せ分光器は、2つの等しいチャンバからなる
図1に示したように構築され、2つの等しいチャンバは、同じサイズおよび形状(例えば、球面または放物線)であり、限定はしないが、酸化チタンなどの高度に均一な広波長反射材料で被覆されている。各チャンバは、照明エネルギーがレンズおよび/または光ファイバを介して導入され得るポートを有することになる。2つのチャンバの照明エネルギーを等しくするかまたは規格化するために、各チャンバは、調整可能なスリット機構(分解能を調整するためのX軸および強度を増加させるためのY軸)が取り付けられることになる。サンプルチャンバは着脱可能なサンプルホルダを含むことになり、その結果、サンプルをチャンバに置くことができ、またはサンプルホルダがチャンバから取り除かれた場合に機器を反射形式で動作させることができ、サンプルを含む遠隔表面および含まない遠隔表面からの反射照明エネルギーが、照明ポートを通してそれぞれのチャンバに導入される。機器は、CCD検出チップの分解能(例えば、2400ライン/mm)に一致するかまたはそれよりも大きい十分な分解能の回折格子を含むことになる。2つのチャンバからのデータは、記憶され、相関方法で処理されることになり、その結果、1つのチャンバからの照明のみのデータと、第2のチャンバからのサンプル含有照明データとが、露出の時間フレームにわたって一緒に対にされる。
【0027】
本発明の方法の有用性および効果は、2つのチャンバによって分割されたホワイトボックスから構築された組合せ分光器プロトタイプを使用して確認されており、2つのチャンバの各々はスリットを含んでおり、そのスリットは基準エネルギーおよびサンプルエネルギーを100ライン/mm回折格子に導き、そして次に、回折格子は、スリットの画像(ゼロ回折)を、グレーティングからの回折スペクトルとともに、50mmレンズが付けられたキヤノンT2iデジタルカメラに投射した。写真が、ASA1600において1/100秒露出で撮られた。スリットとスペクトルとの画像は、ソフトウェア(Field Test SystemsによるRSpec)によってカメラの画素位置の関数として未処理図形スペクトルに変換された。
【0028】
未処理図形スペクトルは、赤色LED(6600Å)照明の回折スペクトルを得ることによって較正され波長に変換された。スリットのゼロ回折画素と6600Åピーク画素との間の画素分離を使用して、
図2に示すように、基準エネルギーおよびサンプルエネルギーのスペクトルを較正した。
【0029】
ゼロ次スペクトルは、プロトタイプ組合せ分光器の両方の空きチャンバを白色ハロゲン光で照明し、2つのチャンバから発生されたスリットスペクトルおよび回折スペクトルの写真を撮ることによって得られた。これらの回折スペクトルは、
図3のプロット(a)に示すように、図形スペクトルに変換され、赤色LEDに対して較正された。基準チャンバの一次スペクトルは、
図3のプロット(b)に示すように、波長ごとに、空きサンプルチャンバからの一次スペクトルから減算された。スペクトル照明データのほとんどは除去されたが、強度値は、サイズ、反射率、照明位置付けにおける差と、アーチファクトの他の原因に起因して、事前のゼロ次スペクトルに依然として存在した。これらの強度は、
図3のプロット(c)に示すように、照明スペクトルを基準にして波長ごとに2つのチャンバの間のこれらの強度の大きさを決定し、次いで、ゼロ次スペクトルが、注目する波長範囲にわたってゼロ強度を示すようにこれらの強度の大きさをサンプルチャンバスペクトルに適用することによって、修正された。
【0030】
本発明の方法による補色の寄与が、1枚の赤色厚紙をサンプルチャンバ中に置き、白色ハロゲン光で両方のチャンバを照明することによって実証された。一次スペクトルが、前に説明したように両方のチャンバから得られた。反射区域の約30%のみが赤色厚紙によって覆われたことに留意されたい。結果として生じた一次スペクトルは、
図4のプロット(a)に示すように、グラフで重畳されたとき互いにシフトしているように見えた。二次スペクトルは、
図4のプロット(b)に示すように、赤色厚紙は、赤色領域(6000〜7000Å)のデータを反射し、青色から黄色(4000〜6000Å)の補色を吸収したことを示した。
【0031】
組合せ分光器プロトタイプを使用して、本発明による組合せ分光法の使用によって蛍光スペクトルを得ることができることを実証した。フルオレセイン溶液(pH>7)のキュベットがサンプルチャンバに置かれ、チャンバが白色ハロゲン光で照明された。照明チャンバおよびサンプルチャンバからの一次スペクトルが、前に説明した方法によって
図5のプロット(a)に示すように得られた。二次スペクトルは、
図5のプロット(b)に示すように、フルオレセインの励起範囲(4000〜(4930ピーク)〜5500Å)にわたる明瞭な吸収ならびに広い放出範囲(4800〜(5200ピーク)〜6500Å)を示している。しかしながら、溶液は白色光では緑色に見えるので、補色がやはり存在し得る。しかしながら、より狭い青色照明(4000〜(4650ピーク)〜6000Å)波長を使用して、2つのチャンバからの一次スペクトルが得られた場合、状況を混乱させる反射補色は存在せず、したがって、フルオレセインサンプルの放出が
図5のプロット(c)に示すように現れる。
【0032】
地質サンプルからの蛍光スペクトルが、本発明による組合せ分光器プロトタイプに方ソーダ石岩を置くことによって実証された。白色光からの照明とUV(3660Å)光からの照明との間の差が、
図6のプロット(a)に示される。方ソーダ石のサンプルがサンプルチャンバに置かれ、両方のチャンバがUV(3660Å)ランプで照明された。2つのチャンバからの一次スペクトルが、前に説明したように
図6のプロット(b)に示すように得られた。二次スペクトルが、
図6のプロット(c)に示すように、サンプル一次スペクトルから照明一次スペクトルを減じることによって得られた。3660Å照明の吸収ピークは、カメラが4000Åより下の波長に対して非感受性であることに起因して、照明一次スペクトルには存在していなかったことに留意されたい。しかしながら、二次スペクトルは、青色、緑色、赤色蛍光が放出スペクトルに存在することを示している。
【0033】
本発明が前述の例示的な実施形態を参照しながら本明細書で説明されたが、この実施形態は、本発明の範囲を限定する役割を果たさない。したがって、本発明が関係する当業者は、様々な変更が本発明の技術的趣旨から逸脱することなく可能であることを理解されよう。