【実施例】
【0047】
実施例1.試料濃度に基づく動的分割
デジタルPCRのダイナミックレンジは、試料を分割するために使用される区画の数に基づいている[4]。デジタルPCRは、ポアソン統計を適用して1区画あたり2つ以上の標的コピーのランダムな確率を考慮しながら、陽性区画の数対陰性区画の数を単純にカウントすることを可能にする。従って、20,000個の標的コピーを有する試料が従来のdPCRシステムで測定される場合、ユーザーは約12,652個の陽性区画を観察するであろう。ただし、一部の区画には標的が1つであり、他の区画は2,3,4,5,6、又は7個の標的を有する。ポアソン統計は、12,652個の陽性区画の以下の分布を予測するであろう。
【表1】
【0048】
ポアソン統計を適用した後、20,000個のうち12,652の陽性区画を示す未知の試料を使用して、試料は約19,999個の標的コピーと定量され、標準偏差が118で変動係数(CV)が0.59である。CVが許容される場合、ユーザーは次の試料を定量化し続けることができる。未知の標的の濃度が高く、例えば遺伝子発現及びウイルス量定量において可能な50万個の標的である場合、同じ20,000個の区画システムは、許容される精度でこの試料を定量することができないであろう。このシナリオでは、未知の標的が高濃度のため、ポアソン統計は次の陽性区画分布を予測するであろう。
【表2】
【0049】
未知試料が、区画の数によって確実に定量化できる数よりもはるかに多くの標的を有するこれらの場合、ユーザーは、例えば希釈によって試料の使用量を少なくしなければならない。このシナリオでは、10マイクロリットルの試料体積当たり50万個の標的コピーの試料は、許容可能な標準偏差及び変動係数に達するまで連続的に希釈することができるであろう:
【表3】
【0050】
この場合ユーザーは、500,000からCVが0.89%で50,000を得るために、試料を10倍希釈する必要がある。残念なことに、ユーザーは初期開始濃度を知らないため、効率的なワークフロースループットを維持し、繰り返しラン (run)のコストを管理するために、予備的定量が必要である。
【0051】
理想的には、任意の未知試料濃度に対応するダイナミックレンジを拡張するように、単に区画の数を増やすだけにしたい。しかし現在のデジタルPCRシステムは、例えば、Bio-Rad QX100/200 液滴デジタルPCRシステム、Fluidigm BioMark HD、Thermo QuantStudio 3D、Formulatrix Constellation、Raindance Raindrop システムを使用すると、各試料について、固定数又は固定サイズの区画を含む。あるアプローチは、さまざまなサイズの区画を使用してダイナミックレンジを大幅に拡大し、試料濃度を数学的に決定している[5]。しかしこのアプローチは、最適濃度決定を確実にするために、試料濃度にカスタマイズすることができない区画の静的な数及びサイズに依然として依存する。マイクロ流体技術は、個々のピコリットル〜ナノリットルサイズの区画の容易な分析を可能にしたが、1つのコピー標的から10
10までの範囲の、リアルタイムPCRの広いダイナミックレンジと比較するために、デジタルPCRにおいては依然として大幅な進歩が必要である。リアルタイムPCRのダイナミックレンジに達するために、デジタルPCRは、試料を迅速な試験を可能にするには高すぎるスケール(例えば、10
10の区画)に分割する必要がある。現在の従来のdPCRシステムは、せいぜい反応体積50マイクロリットルの試料あたり10
7の区画を生成することができるのみであり、スループットにかなりの限界(例えば24時間あたり約8試料)を有する。ウイルス負荷試験(例えばB型肝炎ウイルス)に見られる標的コピー数が大きい試料は、最大で10
9の標的に到達することができる。このような試料を現在のデジタルPCRで試験する場合、これらの試料は正確に定量されないか、又は例えば分光光度計又は蛍光光度計を使用して予備的定量化工程が必要とされるであろう。もしこれらの試料がデジタルPCRシステムのダイナミックレンジを超えて事前に定量されるなら、ユーザーはシステムのダイナミックレンジに達するように連続希釈を実行するなどの予備的試料操作を実行する必要がある。このシナリオでは、ワークフローははるかに面倒であり、試料プロセスのスループットが低下し、手動的連続希釈工程のために定量の追加誤差が導入される。
【0052】
本開示で具体化される1つの解決法は、試料の濃度に基づいて、区画の数又は区画のサイズを柔軟かつ動的にすることを可能にすることである。これを実現するために、デジタルPCRワークフロー全体が、区画生成から区画内の標的増幅まで、そして最終的に区画生成物のシグナル検出まで、単一のデバイスに統合される。このアプローチは、必要に応じて、区画を作成、分離、統合、及び移動するための、単純で洗練されたアプローチを提供するデジタルマイクロ流体技術を使用して構想されている。
【0053】
本明細書に記載されたデバイスでは、いくつかの初期の区画、例えば100区画が生成され、増幅され、検出されて、その結果は、陽性又は陰性の区画がいくつあるかの予備的分析を与える。陽性区画と陰性区画のこの比は、初期試料濃度を提供する。その結果に基づいて、その試料から作成される将来の区画を調整することができる。例えば、次のように区画サイズを変更する方法がある:
【0054】
未知試料の出発濃度が20マイクロリットルあたり10,000,000の標的アンプリコンであると仮定すると、以下の方法を使用することができる:
(a)統計的にすべての区画が陽性となるように、理論的に各区画について500の標的コピーを含む開始試料から、1ナノリットル区画サイズで100個の初期区画を取る。デバイス上の別のリザーバーに試薬を入れておくと、システムは試薬と試料を自動的に組合せ、次に増幅と検出を行う。ポアソン統計に基づく結果の計算された標的濃度は何の結果をもたらさないであろう:
【表4】
【0055】
(b)100%陽性の区画/全ての区画の結果に基づいて、システムは、同じ開始試料から1ピコリットル区画サイズで100区画の第2セットを採取する。従って、その小さなサイズのために、各区画は1区画当たり約0.5コピーを生成するであろう。ポアソン推定は、以下の結果を与えるであろう。
【表5】
【0056】
(c)次にユーザーは、定量のための最初の20マイクロリットルの試料体積の0.1001マイクロリットル(100個の1ナノリットル区画の第1セットの100ナノリットルと、100個の1ピコリットル区画の第2セットの100ピコリットル)、すなわち試料体積の0.5%を使用して進めるであろう。このような少ない体積の使用は、次世代の配列決定、将来の応用のための試料バンキングなどの他の用途のための出発試料を節約するという追加の利点がある。
【0057】
(d)システムが残りの試料を定量化し続けることは可能であるが、0.101マイクロリットルが計算を行うのに十分に正確であれば、それは必要ないかもしれない。
【0058】
2つのセット間の区画の数は同じである必要はない。これは、計算が区画の数に応じて調整するため調整できる。さらに、最終的に最適なポアソン分布を達成するのに必要なセットの数は、上述したように2に限定されず、むしろ試料が許容可能に定量化されるまで、必要に従う。
【0059】
この方法は、システムが自動的に初期セットを分割し、定量精度を評価し、測定し、必要であれば同じ試料の再試験のために希釈する、ことを可能にする(
図3A)。ワークフロー全体が、ユーザーの介入なしに完全な自動化を可能にする。ソフトウェアアルゴリズムは、結果に基づいて次の工程を決定することができる。ユーザーは、所望の標準偏差又はCVのレベルを簡単に指定することができ、システムは、所望の精度が達成されるまで、試料の一部を繰り返し希釈するであろう(
図3B)。
【0060】
もう1つのアプローチは、各セット間で試料を希釈することであろう。上記と同じシナリオを仮定すると、未知試料の開始濃度は、20マイクロリットル当たり10,000,000個の標的アンプリコンである。次の方法を使用することができる:
【0061】
(a)開始試料からの1ナノリットルの区画サイズの100個の初期区画は、理論的には各区画について500個の標的コピーを含み、これは、統計的にすべての区画が陽性であることを意味する。ポアソン統計に基づく結果の計算された標的濃度は何の結果をもたらさないであろう:
【表6】
【0062】
(b)100%陽性の区画/全ての区画の結果に基づいて、システムは、消耗品に載っている水リザーバーを使用して、最初の1,000倍の試料希釈、すなわち999ナノリットルの水による1ナノリットルの試料の希釈を行うであろう。あるいは、この場合に示されるような1回の1000倍希釈の代わりに、連続希釈を行って1:1000倍希釈を達成することができる。
【0063】
(c)1:1000に希釈した試料から、1ナノリットルの区画サイズの100個の区画の第2セットを採取する。従ってその小さなサイズのために、各区画は1区画当たり約0.5個のコピーを生成するであろう。ポアソン推定はこれらの結果を与えるであろう:
【表7】
【0064】
(d)次にユーザーは、定量のための最初の20マイクロリットルの試料体積の0.1001マイクロリットル(倍率希釈からの、100個の1ナノリットル区画の第1セットの100ナノリットルと、100個の1ピコリットル区画の第2セットの100ピコリットル)、すなわち試料体積の0.5%を使用して行うであろう。このような少ない体積の使用は、次世代の配列決定、将来の応用のための試料バンキングなどの他の用途のための出発試料を節約するという追加の利点がある。
【0065】
(e)システムが残りの試料を定量化し続けることは可能であるが、0.101マイクロリットルが計算を行うのに十分に正確であれば、それは必要ないかもしれない。
【0066】
上述したように、2つのセット間の区画サイズは同じである必要はない。これは、区画の数に応じて計算により調整されるため、調整できる。同様に、最終的に最適なポアソン分布を達成するのに必要なセットの数は、上述したように2つに限定されず、むしろ試料が許容可能に定量化されるまで、必要に従う。最後に、上記の方法を参照して説明したように、この方法は、システムが自動的に初期セットを分割し、定量精度を評価し、測定し、同じ試料の再試験のために必要であれば希釈することを可能にする。これと比較して、以下の工程は、今日のデジタルPCRシステムのユーザーの典型的な方法であろう(20マイクロリットルあたり10,000,000個の標的アンプリコンの未知試料の開始濃度を用いて、上記と同じシナリオを仮定する)。
【0067】
(i)予備的定量のために試料の初期量を手動で分注する。典型的には、標準的なピペッター及びワークフローを用いて、典型的には1〜2マイクロリットルがこの工程に使用される。
(ii)分光光度計又は蛍光光度計を使用して、この1〜2マイクロリットルの体積内の核酸濃度を概算する。
(iii)試料からの総核酸濃度を計算する。
(iv)総核酸濃度から標的アンプリコンの濃度を推定する、すなわち、例えば100万〜1,000万個の標的アンプリコンを推定する。
(v)20,000個の区画を与えるdPCRシステムを使用して、1マイクロリットルの試料を用いて1000倍の連続希釈を行う。
(vi)希釈した試料を使用してPCR反応の準備をする。
(vii)デジタルPCRワークフローに従って作業する。
(viii)ワークフローの終わりに、結果を分析して元の試料濃度を決定する。予備的定量工程(iv)に関連する誤差があるため、標準偏差又はCVが許容可能なレベル内にない場合がある。その場合、現在の結果に基づいてより正確な希釈を用いて工程(v)から、プロセスを繰り返されなければならない。
【0068】
このワークフローで消費される試料量は2〜3マイクロリットルである。これは、本開示において想定されているより顕著に多い。
【0069】
これらの3つのアプローチと比較して、最初の2つが本開示で想定される。その利点は、(1)ユーザーが、分光測光/蛍光測定/電気泳動などの別の方法によって試料を予め定量する必要がなくなり、(2)システムが、試料を定量するのに必要ような試料の最小量が最適化されるため、試薬コストが削減される、(3)同じ消耗品を使用して複数回の定量を行うことができるため、消耗品コストが画削減される、(4)試料が節約されるため、デジタルPCRシステムのダイナミックレンジに入れるために希釈が必要になっても、2回目のランに追加試料を必要としない。さらに、デジタルマイクロ流体技術は、手動ピペット法に固有の誤差を最小限に抑えることによって定量精度を最大化する。さらに、現在のデジタルPCRシステムにおける試料の最終的な定量測定は、PCR反応体積を設定しながら、希釈に基づいて元の開始試料を計算することをユーザーに要求する手動プロセスである。デジタルマイクロ流体技術を使用すると、このシステムは希釈を調整するための必要な計算を自動的に実行するため、元の開始試料濃度を自動的に決定することができる。
【0070】
デジタルマイクロ流体技術を使用した自動希釈を使用する別の用途は、融解曲線[6]又は高分解能融解[7]を使用する用途を多重化することである。これについては、次のセクションでさらに詳しく説明する。
【0071】
実施例2.単一蛍光物質を用いた定量的多重化
現在のデジタルPCR及びリアルタイムPCRシステムは、蛍光物質により多重化が限定され、典型的には最大6つの標的である。しかし、理想的にデジタルPCRにおいて1つの区画が1つの標的アンプリコンのみを有するように個々の標的を分割することは、3つ以上の標的を定量的に多重化する能力を可能にする。リアルタイムPCRにおける融解曲線又は高分解能融解(HRM)による定性分析は、デジタルPCRにおいて定量分析となる。HRM又は融解曲線を使用して、デジタルPCRの感度と精度に対する定量的な多重化を、2つを超える標的及び数百の標的で達成することができる[1,2,8]。複数のアンプリコンをよりよく識別するために融解曲線を使用する能力に注目するリアルタイムPCRアッセイのいくつかの例がありるが、デジタルPCR様定量のレベルは不可能である(例えば Seegene TOCE Technology 及びRoche SeptiFast キットを参照)。市販のデジタルPCRシステムは、現在、融解曲線又はHRMを用いた定量的多重化を利用していない。融解曲線/HRMを用いた現在の多重化は、異なる蛍光物質シグナルに依然として依存するが、デジタルPCRにより、SYBR GreenのようなインターカレーティングDNA結合色素又は分子ビーコンのようなプローブベースの化学物質のような単一蛍光物質を用いて、定量的多重化が可能である。
【0072】
この方法を使用して新規な突然変異を検出し、検証することができる。本明細書で考察されるように、リアルタイムPCRにおける典型的な融解プロフィールは、試料内の全ての種の平均的融解プロフィールである。これは、標的とわずかな変異体との間の敏感な区別は不可能である。デジタルPCRは標的と変異体を異なる区画に分離するため、各区画の融解プロフィールは別個であって互いに区別することができ、未知の変異体の同定を可能にする。このアプローチの応用には、治療を受けている患者がウイルス性突然変異のために抵抗性を発症し得るウイルス性変異研究(HIVなど)が含まれる。新しいウイルス性突然変異がいつ発生するかを特定することができるアッセイで、治療中に患者を監視できることは、研究の観点から価値があるが、臨床的にも重要である。この実施態様はまた、配列決定のような下流の分析における検証のための変異体の単離を可能にする。
【0073】
デジタルマイクロ流体技術は、高分解能の融解を行うために使用されている[9]。本開示においてHRMは、デジタルPCRにおける定量、特に定量的多重化のために提供される。
【0074】
多重化は、リアルタイムPCR及びデジタルPCRのユーザーから、長年にわたり要求されてきた。しかし、蛍光物質を識別する能力は、わずかな多重化を可能にしただけである。Nanostring(商標)は、一度に最大800個の標的を多重化する新しい方法を導入した1つの技術である。しかしその感度はPCRベースの方法に匹敵するものではなく、コストとスループットが制限されている。デジタルPCRでは、区画化は、標的の限定された希釈と、必ずしも同じ区画中ではない様々な区画中の標的の確率的分布により、多重化を一重に低下させるため、本明細書に記載されているアプローチでは、多重化に通常伴う困難なしに、何百もの標的を多重化することが可能であろう(
図3参照)。
【0075】
このレベルの量的多重化によって、最終的に市場の定量的多重化のニーズに対処することができた[1,2];例えば、敗血症診断市場、ミクロバイオーム分析、及びPCR感度の恩恵を受けるが、2〜数百の標的を多重化することができる遺伝子的バイオマーカーパネル。
【0076】
リアルタイムPCRにおける融解曲線分析及びHRM分析は、デジタルPCRによって実行されるものと同等ではない。デジタルPCRでは、各区画は増幅前の元の出発材料として単一の鋳型のみを含むため、PCR増幅後の各区画についてのアンプリコン産物の全ては均一である。この均一性は、より良好な融解曲線/HRMデータが他の区画から識別することを可能にする[1,2,8]。リアルタイムPCRでは、増幅後の複数の標的の異種試料は依然として不均一であり、従って融解曲線/HRMはその異質性を反映するであろう。これは、融解曲線/HRMを介して複数の標的を識別することを困難にし、従って、多重化を行うために蛍光物質に依存する。
【0077】
図4はこの説明を例示する。2つの標的を有する異種リアルタイムPCR試料の融解曲線/HRMは、両方のアンプリコン生成物の融解プロフィールを反映する曲線を生じる。対照的に、デジタルPCR融解曲線は、1つの標的鋳型のみを有する各区画について生成されるであろう。リアルタイムPCR融解プロフィールでは、2つのピークを識別することは可能であるが、各ピークの原因となる鋳型の数を定量化することはできないであろう。また、多重パネルに追加される標的が増えるにつれて、単一の塩基対変化が融解曲線において非常に微妙な変化を有する突然変異検出の場合(例えばSNP分析)には、融解プロフィールはほとんど区別できない。異種リアルタイムPCR試料の融解曲線/HRMの分析は、最終的にユーザーが、例えば分子ビーコン、TaqMelt、二重オリゴハイブリダイゼーションプローブなどを使用して、ハイブリダイゼーションプローブ化学を変更することが必要である。これに対して、デジタルPCRを使用すると、ピークの数を数え、ユニークな融解プロフィールによってこれらのピークを分類すると、4つの区画にわたって2つの生成物がそれぞれ2つの鋳型に分割されていると結論付けることができる。
【0078】
さらに、リアルタイムPCRを使用する場合、すべての標的は同じ反応容器内にある。このアプローチは、目的の標的を強調し定量化するために、異なるシグナル/蛍光物質が利用可能であることを必要とする。スペクトルの重複を考慮した蛍光物質の数に対する現在の制限のため、6つを超える標的の多重化には役立たない。おそらく、より小さなスペクトルプロフィールを有する将来の蛍光物質が、リアルタイムPCRを使用する高度の多重化を可能にするであろう。本明細書に記載の方法を使用するいくつかの実施態様において、すべての標的は個々の区画に分離されているため、各区画にどの区画があるかを同定するために、1つのシグナルしか必要とされない。しかし、現在のデジタルPCRシステムで例示されているエンドポイントPCRシグナルとしてのシグナル強度だけでは、各区画にどの標的があるかを識別するのに十分ではない。融解プロフィールを通して核酸解離特性を使用することにより、標的同定が可能になるであろう。各区画は理想的には1つの出発鋳型を有するため、同様の融解プロフィールによってグループ分けされた陽性区画の数を単純に数えるだけで、定量的多重化が可能になるであろう。本開示は、試料分割の利点と融解プロフィール分析を組み合わせて、これを達成する。
【0079】
いくつかの実施態様は、インターカレーティングDNA結合色素を用いた定量的多重化を可能にする。現在のリアルタイムPCRにおける定量的多重化は、複数の蛍光物質を使用して行われる。長年にわたって多くのユーザーは、多重アッセイにおいてインターカレーティングDNA結合色素を使用することにより、コスト削減を試みた。これらのアッセイは、定量的でないことが多いが、しばしばSNP解析や感染因子同定などの標的の有無を同定することがある[10,11]。本開示では、標的分割(例えば、デジタルPCR)で見られる正確度と精度を融解プロフィール分析と組合せて、費用効果のあるインターカレーティングDNA結合色素を使用して定量的多重化を達成することができる。
【0080】
リアルタイムPCRに共通する蛍光物質のような複数のシグナルが使用される場合、これは、多重化できる標的の数を増加させる。
図5Aに示すように、リアルタイムPCRでは単一の融解プロフィールが検出され、これは試料内のすべてのアンプリコンについての複合融解プロフィールである。対照的に
図5Bにおいて、dPCRは、各区画について別個の融解プロフィールの検出を可能にする。
図5Cに示されているように、2つの異なる標的が、同じ融解プロフィール、例えば3対4、又は2対5、又は1対6のような融解プロフィールを共有する場合、それぞれは蛍光物質の色に基づいて識別され得る。従って、4つの蛍光物質の組み合わが、及び30の標的が各蛍光物質について30の別個の融解プロフィールを使用して同定できる場合、多重化パネルを使用して120個の標的(30×4)を同定することができるであろう。
【0081】
さらに、示されているような定量的多重化は、標的の数を増やすことができる。最近の文献は、十分な試料分割によって、92個の多重アッセイが可能であることを示している[1]。この文献に記載されている実施の難しさは、標的の数に応じて、及び1つの区画内に1つの標的鋳型のみがあるような各標的に応じて、試料を比例して希釈する必要があるということであろう。本開示は、試料濃度に基づく動的分割の使用を記載している。上記のように動的分割を使用することにより、これは定量的多重アッセイの実施を可能にするであろう。
【0082】
また
図6A〜
図6Dは、標的濃度が高い試料と標的濃度が低い試料とを用いた動的分割の有無による、定量的多重化を説明する4つのシナリオを示す。
図6Aのシナリオ1では、標的の数が40で、それぞれが平均して20,000個の標的を有すると仮定すると(例えば、遺伝子発現、マイクロバイオーム分析、SNP分析などの研究の範囲内で)、20マイクロリットルの反応体積で、それぞれが約80万個の標的が存在するであろう。すべての区画が10個以上の標的を有する場合、これはリアルタイムPCRのような異種混合物に類似しているであろう。区画体積が減少するにつれて、ポアソン分布は、より多くの区画がより少ない標的を含むようになり、最終的にすべての標的の99.6%(796,821/800,000)が、1区画当たり1標的に分配されることを示す。これにより、増幅後及び融解曲線解析後の各区画内の均一混合物が、40個の標的のどれがその特定の区画内にあるかを、高度に識別可能にかつ同定可能にすることを可能にする。
【0083】
いくつかの実施態様では、区画の分割及び融合を容易に行うことができるため、区画体積を変更することが可能になるであろう。
図6Bのシナリオ2では、シナリオ1と同じ条件を仮定すると、約80万個の標的が存在する。区画の体積を変更するのではなく、最初に100の区画の初期セットを用いて動的分割ワークフローを使用して、試料をサンプリングする。100個すべての区画が陽性であることを示すと、10倍希釈を使用することができる。このレベルでの定量的多重化は、1区画当たり2つ以上の標的を有する陽性区画が異種試料であり、従って正確に定義できないため、困難である。しかし、さらに希釈するとポアソン分布が見られ、陽性区画の96%(770/800)は区画当たり1つのみの標的を有する。これは、均一な融解プロフィールを可能にし、それぞれ異なる標的の同定及び定量化を助けるであろう。
【0084】
いくつかの実施態様は、試料の最初の分析、続いて同じ試料の動的分割と希釈により、最終的に1つの区画当たり1つの標的を達成し、それにより融解プロフィールによる定量的多重化を可能にするであろう。1区画当たり2つ以上の標的、例えば2つの標的が存在する場合、いずれの標的単独からの融解プロフィールでも区別可能であり、同定とそれらの区画の試料定量への組み込みは充分可能であろう。
【0085】
図6Bのシナリオ3は、高レベルの多重化が望まれる低標的コピー数の例を示す。敗血症検査、血液スクリーニング又は日常的な臨床診断に見られるような低ウイルス負荷スクリーニング(例えば、HIV、HBV、HCV、CMV、EBV、呼吸パネルなど)、及びウイルス潜伏試験が、可能性のある用途である。20マイクロリットルでそれぞれ平均5コピーを有する40個の異なる標的を仮定すると、合計200個の標的を定量する必要がある。少数の標的に対する区画の数の比率が高い場合、ポアソン分布で観察されるように、区画サイズの影響は重要ではない。従って、例示された任意の区画サイズは、正確な定量的多重化を可能にするであろう。これは、動的分割を使用した場合も同じ結論である。
【0086】
初期濃度が大幅に異なる複数の標的を定量する場合、リアルタイムPCRによる多重化はさらなる欠点を有する。ある標的が反応中に10コピーのみを有する一方、別の標的が10
7コピーを有する場合、理論的にはリアルタイムPCRシステムのダイナミックレンジは両方を定量することができるはずである。しかしリアルタイムPCRの出現以来、多数の標的と少数の標的が一緒に増幅される場合、増幅効率は影響を受けることが広く考察されている[12]。表8(下記)は、現在、濃度が大きく異なる2つの標的が多重化される場合、標的2の生成物の量がほとんど反応を支配して、Taqポリメラーゼ及びdNTPをはるかに速く枯渇させ、標的1の増幅効率に影響を及ぼし、その正確な定量を困難にすることを示す。その結果、リアルタイムPCRシステムのユーザーは、別々のウェル内の各標的について、それらのアッセイを分離し定量アッセイを実行する必要がある。
【表8】
【0087】
いくつかの実施態様において、上記のような動的分割及び融解プロフィール分析により、経験的に最適濃度に到達することができれば、互いに大きく異なる標的を正確に定量化することができる。1つの区画当たり1つの標的しか無いため、反応中のTaqポリメラーゼとdNTPs試薬に対する競合は、分割によって除去される。単一の試料から、標的濃度の変動を心配する必要のない定量的多重化を使用することができる。
【0088】
デジタルマイクロ流体技術は、試料のデジタル分割及び融解プロフィール分析と組み合わせると、この多重化を容易にする。1つの鋳型を含む個々の区画が温度ゾーンを通過する(例えば融解曲線プロトコール)と、二本鎖DNAの融解が観察され得る。これらの通過する区画を検出するために、様々な技術を使用することができる。従来の蛍光物質化学(例えば、分子ビーコン、TaqMelt、ハイブリダイゼーションプローブ)を使用することができる。別のアプローチは、DNAに結合する電気化学的インターカレーティング色素又は電気化学的分子ビーコン様プローブを使用することである[13〜23]。酸化還元反応を介して、区画のコンダクタンスを測定して、PCRアンプリコンが存在するかどうかを決定することができる。これらの区画は温度勾配を通過するため、PCRアンプリコンが解離する時、コンダクタンスの変化をデジタルマイクロ流体技術によって直接測定することができる。
【0089】
デジタルPCRにおける定量的多重化のもう一つの応用は、遺伝的連鎖を決定することである。1つの例は、敗血症における細菌薬耐性試験である。リアルタイムPCRにおける多重試験は、試料を使用して複数の感染性因子を同定することができる。これは薬物耐性遺伝子を同定するために使用することもできる。どの病原体が薬剤耐性遺伝子を保有しているかを知ることに臨床的意味がある。しかしリアルタイムPCRでは、全ての標的が単一の反応容器内にあるため、どの感染性因子が薬剤耐性遺伝子を有するかを決定することは不可能である。デジタルPCRでは、各感染性因子のゲノムは互いに分離されている。従って、リアルタイムPCRで使用されたのと同じ多重アッセイでは、PCR産物は同じ区画に共局在するため、どの感染性因子が薬剤耐性遺伝子を有するかを同定することが可能である。最終的には、これらの区画をデバイス上に隔離し、確認のための配列決定などの下流の用途用に単離することができる。
【0090】
実施例3.低陽性又は偽陽性区画の解消
デジタルPCRはエンドポイントPCRであるため、現在のデジタルPCRの結果は、低陽性又は偽陽性区画の問題がある。一部の研究者は、低い偽陽性は、貧弱な増幅、プローブの自発的加水分解、分割断片、又は汚染による真の偽陽性をもたらす貧弱なアッセイデザインから生じると提唱している。ユーザーにとっての難しさは、結果の価値又は関連に関する不確実性をもたらす、陽性区画が低陽性か汚染イベントかどうかを正確に判定することができないことである。増幅サイクルの増加(従ってターンアラウンド時間の短縮)及び/又はアッセイプライマー及びプローブの再設計により、アッセイを改良して低陽性区画を減少させるために、多大な時間及び資源が費やされてきた。低陽性区画はまれであり、臨床又は研究用途にほとんど影響しないと主張されているが、HIV潜伏期試験で経験したようにユーザーがまれなイベントを見ている場合、これは必ずしも真実ではない[24〜27]。ほんのわずかな陽性区画が予測される場合のいくつかの低陽性は、臨床又は研究用途に重大な影響を及ぼす可能性がある。
図7は、これを Bio-Rad 社の QX200 分析ソフトウェアから説明する図である。
【0091】
0〜約15,500のイベントは1つの試料に属し、15,501〜32,000のイベントは異なる試料に属する。試料1では、ユーザーはy軸上で約4200(1区画あたりのシグナル強度)の陽性区画と約1000の陰性区画を観察する。試料2では、約2000の陽性区画と約900の陰性区画がある。両方の例において、陽性又は陰性のグループに属さない区画がある。これらの区画は一般に「レイン(rain)」と呼ばれる。レインの存在は結果の精度に影響する。例えば血液スクリーニング又は臨床診断、敗血症試験、ウイルス潜伏期試験などについて少ないウイルス量などの、少ない数の標的が予測される用途では、既に数少ない陽性区画内のいくつかのレイン区画が、重大な不確実性を示す可能性がある。
【0092】
この不確実性は、現在のリアルタイムPCRでは存在しない。すべての鋳型は1つの容器内で増幅されるため、この不確実性のいずれかをマスクする平均読み取り値が得られる。予測されるアンプリコンが生成されたかどうかを確認するために、リアルタイムPCRではしばしば融解プロフィールが用いられる。現在のデジタルPCRユーザーにとって、ほとんどすべての試料に一定量のレインがある。
【0093】
この分野では現在、レインを排除するために統計的アルゴリズムを使用し、主に平均と標準偏差を使用して、陽性−陰性区画判断閾値を確立している。このアプローチの難点は、同じアッセイが試料毎かつ日毎に変化することがあり、従って陽性区画の決定を困難にすることである。試料結果の正しい決定を確実にするために、各試料を手動で調べる必要があるため、デジタルPCRの自動化は困難になる。
【0094】
いくつかの実施態様は、融解プロフィールを使用してレインに関連する問題を解決する。HRM又は融解曲線データを使用することにより、低陽性区画が異なる生成物であるか又は高バックグラウンド蛍光であるかを、より良好に識別するための追加情報を得ることができる。各区画の融解曲線プロフィールにより、ユーザーは、正しいアンプリコンが生成されたかどうかをより正確に判断することができ、従って自動化分割を容易にすることができる。プライマー−ダイマー又はアーティファクト増幅からのレインは無視し、低増幅効率が含めることができる(
図8参照)。
【0095】
実施例4.臨床用途のためのアッセイの検証
デジタルPCRは、定量的PCR市場への強力な逆風を作り出している。サイクル毎の増幅効率の代わりにポアソン統計を使用すること、及び分割による試料の合成濃縮のために、リアルタイムPCRよりも優れた感度のために、デジタルPCRは、試料材料が限定的である場合にその精度がより良い診断信頼性を可能にする低ウイルス量の定量及び希な突然変異検出のニッチ用途に、位置を占めた。しかしながらレインに関連する問題のために、デジタルPCRシステム上で開発されたアッセイの検証は困難である。
【0096】
デジタルマイクロ流体技術により、陽性区画の単離は、ユーザーが特定の区画(例えば、陽性区画対陰性区画、レイン区画対高シグナル区画)を単離して、アッセイ性能を検証するための配列決定などの下流分析を行うことを可能にする。液滴区画又は固定区画を使用する市場の現在のシステムは、特定の区画を分類し分離することを困難にしている。デジタルマイクロ流体技術はすべての区画の動きを制御するため、この課題を容易に扱うことができる。下流の用途のために収集すべき目的の区画を保持するために、消耗品のリザーバーが設計されている(
図2C参照)。
図2Cの右端には、様々な区画を保持することができるリザーバー(例えば(222))がある。ユーザーは、特定の融解プロフィールを有する特定の陽性区画のみを単離することができる。リザーバーの数は、ユーザーのニーズに応じて柔軟に変更することができる。
【0097】
実施例5.迅速なワークフロー、ターンアラウンド時間、及び高試料スループット
次世代配列決定の応用が拡大しているため、ユーザーの課題の1つは、核酸試料の品質が適切であることを保証することである。鋳型断片化の程度、試料の純度、及び鋳型の濃度は、結果に大きな影響を及ぼす可能性がある。例えば Agilent Bioanalyzer や Thermo Fisher NanoDrop 及び Qubit などのキャピラリー電気泳動、分光光度測定、蛍光測定技術は、試料が次世代ワークフローのために十分に調製されているかどうかを判断する際にしばしば使用される。次世代配列決定自体が配列決定前のライブラリー調製段階中にPCRを必要とするため、試料品質の最終的な決定は試料を増幅できるかどうかであるため、一部のユーザーは代わりにリアルタイムPCRを使用し始めた。Illumina’s MiSeq 及び HiSeq によって実現される次世代配列決定技術の1つの限界は、試料レーンのオーバークラスタリング又はアンダークラスタリングに対する感度である。クラスタが重複するとオーバークラスタリングの結果は不正確になり、アンダークラスタリングは配列世代の性能低下を引き起こし、結果として試料が再試験される。電気泳動/分光光度測定/蛍光測定に対してリアルタイムPCRを行う際の時間と資源の大きな相違を考えると、多くのユーザーは、これらの他の方法の代わりにリアルタイムPCRを採用することが遅れている。
【0098】
いくつかの実施態様は、区画生成、区画移動、必要に応じて連続希釈、PCR、融解曲線、及び分析からのワークフロー全体が1つのシステムに統合されるため、著しく速い結果を可能にする。またデジタルマイクロ流体技術の現状に基づいて、区画処理の速度は、結果を得るまでの時間を45〜60分から6分未満まで短縮することができ、キャピラリー電気泳動、分光高度測定、蛍光測定技術と時間的に同様にしており、ライブラリ構築が次世代配列決定応用に直接移行できるという追加の利点がある。
【0099】
現在のデジタルマイクロ流体技術に基づいて、区画を高速で、例えば最大100区画/秒で生成し移動させることができる[3]。いくつかの実施態様において、区画は様々な温度ゾーンに移動するため、PCR増幅はリアルタイムPCRよりも著しく速く起こり得る。Thermo QuantStudio 6、Bio-Rad CFX96、Agilent MX3005P、Roche LightCycler などの現在のリアルタイムPCRシステムの多くは、試料を固定し、試料周囲の温度を加熱し冷却している。加熱及び冷却速度は、40〜60分の典型的なPCRランの時間の約75%であることを考慮すると、実質的に制限的である。Bio-Rad QX200、Thermo QuantStudio 3D、Formulatrix Constellation、Fluidigm BioMark、Raindance Raindrop などの現在のデジタルPCRシステムでも、同じ原理でPCR熱サイクリング工程が設計されている。残念ながら、区画を取り囲む追加の油/プラスチック/金属は、より大きな質量を熱サイクリングすることを必要とし、従ってより長い傾斜速度及び温度保持時間を必要とする。いくつかの実施態様において、区画の温度ゾーンへの移動は、温度上昇速度及び温度下降速度の遅延を排除し、時間を大幅に節約する。各区画は順番に移動しているため、熱質量が少なく、適切な温度に達するのが速い。
図9の表は、デジタルマイクロ流体技術を用いた試料ターンアラウンド時間を示す。
【0100】
区画を10区画て7.0分で融解曲線がプロフィール化される。記載[3]のように区画の移動を100区画/秒に上げることができれば、ターンアラウンド時間は0.7分に短縮される。
【0101】
100区画/秒で20レーンを使用してより高体積の試料を定量するために100,000個の区画が必要な場合、試料は2.7分で完了することができる。
【0102】
この迅速なターンアラウンド時間は、より高いスループットを可能にする。
図10は、1時間当たりの試料スループットを示すチャートである。これらの計算の背後にある仮定は、1消耗品あたり20レーンを有する16個の試料に基づく。1試料につき40レーンを使用すると、試料数/消耗品の数が16試料スロットから8試料スロットに減少し、より速いターンアラウンド時間から20〜40レーンのゲインを相殺するため、試料スループットは同じままである。この速いターンアラウンド時間は、分光光度計/蛍光光度計に匹敵する速度で定量的多重化法での核酸定量を可能にするであろう。
【0103】
いくつかの実施態様はまた、配列決定ワークフローにおけるライブラリー調製にも使用することができる(
図2A参照)。PCRのための試薬リザーバーを、異なるアッセイを受け入れるように設定することができる。各独自の試薬(アッセイ)は、区画生成前に分割して各試料と組み合わせることができる。これは、複数の試料に対して複数のアッセイパネルを実行する必要がある場合、容易なPCRセットアップを可能にする。これは、様々なアッセイパネルが実行される試料に適用することができる。配列決定のためのライブラリー構築は、いくつかの実施態様を利用することもできる。
【0104】
いくつかの実施態様は、各試料に対して多数のレーンを使用する。これにより区画の高速処理が容易になり、これは20,000又はそれ以上でかなり重要になる。現在の設計では、これは20レーンに設定されているが、2レーン以上の任意のレーンにすることができる。
【0105】
1
10の試料濃度、0.5ナノリットルの区画サイズ、及び10倍の連続希釈の試料が10区画/秒で区画を横切ると仮定した時。
図11A〜
図11Cは、各連続希釈液を順番に処理するのにどれくらいの時間がかかるかを示す。
【0106】
200区画の第1セットを処理するには、結果が得られるまでに3.0分必要である。ライン3で最初の希釈が行われた場合、160個の区画は2.8分を追加して、最初の200と2番目の160で合計5.8分となる。最終的に各希釈物を連続的に分析する場合、システムがポアソン分布によって定義される定量可能な範囲に達するまでには、24.3分かかるであろう。理想的には定量化された結果は、SDとCVが低く28.1分かかるライン9が良好であろう。
【0107】
多くのレーンが存在するため、シリーズ内の希釈ごとに各レーンを割り当てると、すべての区画が並行して処理されるようにすることができる。この例では、システムは12レーンにわたってすべての希釈系列を自動的に実行する。これにより、結果を得るまでの合計時間が24.3分から4分未満に短縮される。定量に使用された区画数でSD及びCVが許容される場合、システムは停止することができる。しかしながら、より高いSD又はCVが必要な場合、システムはどの希釈が最適であるかを特定し、すべてのレーンを割り当てて、その希釈工程からの区画を処理することができる。
【0108】
同様に、各レーンを独立して使用するこのアプローチは、多重標的を定量するように改変することができる。多重アッセイは、一方の標的が100コピー/μlであり、他方の標的が100,000,000,000コピー/μlである広範囲の量の標的を定量することができる。従って1つの標的に対して1つの希釈が最適であり、異なる標的に対して異なる希釈が最適である。次に、各標的を定量するために異なるレーンを割り当てることができる。例えば
図2Dは、これを実施することができる消耗品の領域を示す。エリア1〜4(215)は、1つ以上のPCR試薬がその領域に存在する区画と混合されるPCR試薬ステージング領域である。エリア1は100コピー/μl希釈混合物を含み、エリア2は100,000,000コピー/μl希釈混合物を含むことができる。これらの領域で、両方ともPCR試薬と混合される。いったん試料とPCR混合物の正しい混合が行われると、エリア1及び2の内容物が、デジタルマイクロ流体技術を介してそれぞれエリア5及びエリア6に順次移される。次にエリア5は、レーン1又はそれ以上、例えば最大レーン10まで区画を分注し、エリア6はレーン11又はそれ以上、例えばレーン11〜20間に区画を分注する。従って、同じ試料が異なるレーン中で異なる標的について定量される。開始標的が大幅に異なっても、異なるチャンバー中の試料の連続希釈と、その後の異なるレーン中のPCR及び融解プロフィールによる区画の分離は、適切な標的濃度で試料を定量することを可能にする。最高濃度の標的が消耗品のダイナミックレンジに希釈されるように、試料全体を希釈することは技術的には可能であるが、このアプローチでは多量の区画が生成され、これがかなりの時間が要し、試料スループットを低下させる可能性がある。
【0109】
前述の発明は、明瞭化および理解を目的としてある程度詳細に記載されているが、本開示を読むことにより、本発明の真の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更が可能であることは当業者には明らかであろう。例えば、上述した全ての技術及び装置は、様々な組み合わせで使用することができる。
【0110】
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