(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0018】
[第一実施形態]
図1のポリウレタンコート層形成用工程紙1は、基材層2と、基材層2の表面側に積層される離型層4とを備える。また、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、基材層2及び離型層4の間に配設され、主成分として合成樹脂を含有する中間層3をさらに備える。当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、全体として可撓性を有する。離型層4及び中間層3は、フッ素系化合物を含有する。基材層2及び中間層3は、他の層を介さず直接積層されている。また、中間層3及び離型層4は、他の層を介さず直接積層されている。離型層4は、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1の最表層を構成している。当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、例えば靴、バッグ等の表面を形成し、エナメル調を呈するポリウレタンコート層形成用工程紙として用いられる。
【0019】
(基材層)
基材層2は、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1を構成するシート状の部材である。基材層2に用いられる材料としては、特に限定されるものではなく、例えば公知の方法で抄紙される紙(酸性紙、中性紙、塗工紙、グラシン紙等)や、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の合成樹脂フィルム、合成紙、不織布等が挙げられる。中でも、耐久性及び耐熱性の点から、紙が好ましい。
【0020】
基材層2に用いられる紙には、サイズ剤、紙力増強剤、定着剤、歩留り向上剤、染料等の添加剤や、炭酸カルシウム、カオリン、二酸化チタン、タルク、水酸化アルミニウム、ホワイトカーボン等の内添填料を適宜配合することができる。さらに、抄紙工程において、紙力向上剤(澱粉、ポリビニルアルコール等)、表面サイズ剤、染料等を塗工することによって適宜表面処理を行うこともできる。これらの添加剤等を塗工する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター等を用いる方法が挙げられる。
【0021】
基材層2に用いられる紙の坪量の下限としては、50g/m
2が好ましく、75g/m
2がより好ましく、90g/m
2がさらに好ましい。一方、上記坪量の上限としては、300g/m
2が好ましく、200g/m
2がより好ましく、120g/m
2がさらに好ましい。上記坪量が上記下限に満たないと、基材層2のコシや強度が低下し、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1の破断、皺、カール等が発生しやすくなるおそれがある。逆に、上記坪量が上記上限を超えると、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1の生産性が低下するおそれがある。
【0022】
基材層2の平均厚さの下限としては、50μmが好ましく、100μmがより好ましく、150μmがさらに好ましい。一方、基材層2の平均厚さの上限としては、500μmが好ましく、300μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。基材層2の平均厚さが上記下限に満たないと、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1の取扱いが困難になるおそれがある。逆に、基材層2の平均厚さが上記上限を超えると、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1のクッション性が不十分となるおそれや、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1の製造コストが高くなるおそれがある。なお、「平均厚さ」とは、任意の10点の厚さの平均値をいう。
【0023】
(中間層)
中間層3は、基材層2及び離型層4を密着させるアンカー層である。また、中間層3は、基材層2と離型層4との間に介在することで、離型層4の表面の平滑性を高める。
【0024】
中間層3は、例えば主成分として含まれる合成樹脂(主成分樹脂)及びフッ素系化合物を含む中間層形成用塗工液を基材層2の表面側に塗工して基材層2の表面側に塗膜を形成した後、この塗膜を乾燥させることで形成される。上記中間層形成用塗工液の塗工方法としては、ロールコーター、バーコーター、ブレードコーター、スピンコーター、グラビアコーター、フローコーター、エアーナイフコート、スプレーコート、スクリーン印刷等の公知の塗工法が挙げられる。中間層3は、主成分樹脂に加え、フッ素系化合物を含むので、上記塗膜のレベリング性が高い。そのため、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、この塗膜を硬化して得られる中間層3の表面の平滑性が高い。その結果、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、この中間層3の表面側に後述の離型層4を積層することで、離型層4の表面の平滑化、ひいては当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1の表面の平滑化を図ることができる。
【0025】
上記合成樹脂としては、例えばアクリル樹脂、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、脂環族ポリエステル、アルキド樹脂等のポリエステル、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリブテン等のポリオレフィンなどが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、塗膜のレベリング性を高めることで離型層4の表面の平滑化を促進しつつ、離型層4及び中間層3の剥離強度を高めやすいアクリル樹脂及びアルキド樹脂が好ましい。また、中間層3が主成分としてアクリル樹脂及びアルキド樹脂のいずれか一方を含む場合、この中間層3はアクリル樹脂及びアルキド樹脂のうちの他方をさらに含むことも好ましい。
【0026】
なお、一般に中間層の主成分がアクリル樹脂又はアルキド樹脂である場合、この中間層がポリウレタンコート層の製造時にポリウレタンコート層形成用樹脂組成物に含まれるDMF等の溶剤によって劣化しやすい。これに対し、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、中間層3がフッ素系化合物を含むので、中間層3の耐溶剤性を高めることができる。そのため、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、ポリウレタンコート層の製造に繰り返し用いることが可能であり、例えばエナメル調を呈するポリウレタンコート層の製造に20回以上使用することができる。
【0027】
上記フッ素系化合物としては、例えばアニオン型、ノニオン型、カチオン型、両性型の公知のフッ素系界面活性剤を用いることができる。具体的には、上記フッ素系化合物としては、例えばフルオロアルキルカルボン酸又はその塩、パーフルオロアルキルカルボン酸又はその塩、パーフルオロアルキルスルホン酸又はその塩、N−パーフルオロオクタンスルホニルグルタミン酸又はその塩、3−[フルオロアルキルオキシ]−1−アルキルスルホン酸又はその塩、3−[ω−フルオロアルカノイル−N−エチルアミノ]−1−プロパンスルホン酸又はその塩、パーフルオロアルキル−N−エチルスルホニルグリシン又はその塩、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロオクタンスルホン酸ジエタノールアミド、N−プロピル−N−(2−ヒドロキシエチル)パーフルオロオクタンスルホンアミド、リン酸ビス(N−パーフルオロオクチルスルホニル−N−エチルアミノエチル)、パーフルオロアルキルスルホンアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、モノパーフルオロアルキルエチルリン酸エステルN−[3−(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]−N,N−ジメチル−N−カルボキシメチレンアンモニウムベタイン等を用いることができる。中でも、ノニオン型のパーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロオクタンスルホン酸ジエタノールアミドが好ましい。
【0028】
中間層3における上記フッ素系化合物の固形分換算の含有割合の下限としては、0.01質量%が好ましく、0.05質量%がより好ましく、0.1質量%がさらに好ましい。一方、上記含有割合の上限としては、1.0質量%が好ましく、0.4質量%がより好ましく、0.2質量%がさらに好ましい。上記含有割合が上記下限に満たないと、中間層3の耐溶剤性が不十分となり、中間層3がDMF等によって劣化しやすくなるおそれや、中間層3の表面の平滑性が不十分となるおそれがある。逆に、上記含有割合が上記上限を超えると、上記フッ素系化合物が中間層3の中心部まで入り込んで中間層3が十分に硬化し難くなるおそれや、中間層3及び離型層4間の剥離強度が不十分となるおそれがある。当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、中間層3の主成分樹脂を容易かつ確実に硬化させる観点から、上記フッ素系化合物が中間層3の表面側に層状に配置することが好ましい。この観点において、上記含有割合が上記上限以下であることで、上記フッ素系化合物が中間層3の表面側に層状に集まりやすく、このフッ素系化合物が中間層3の主成分樹脂の硬化を妨げ難い。従って、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、上記含有割合が上記範囲内であることによって、中間層3の耐溶剤性及び硬化強度を十分に高めることができる。
【0029】
上記フッ素系化合物の含有割合は、中間層3の厚さ方向に傾斜的に又は段階的に変化してもよい。例えば上記フッ素系化合物の含有割合は、中間層3の裏面側(ポリウレタンコート層を形成する樹脂組成物が塗工される側の反対側)から表面側に向けて徐々に又は段階的に増加してもよい。このように、上記フッ素系化合物の含有割合を中間層3の厚さ方向に変化させることで、中間層3の耐溶剤性及び硬化強度を十分に高めることができる。なお、上記フッ素系化合物の含有割合を中間層3の厚さ方向に変化させる方法としては、例えばフッ素系化合物の含有割合の異なる複数の中間層形成用塗工液を用意し、フッ素系化合物の含有割合の低い中間層形成用塗工液から順次基材層2の表面側に塗工し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0030】
上述のように、中間層3は、基材層2及び離型層4の密着力を高めると共に、離型層4の表面の平滑性を高めるものである。中間層3は、顔料等の他の添加剤を含有していてもよいが、中間層3と基材層2及び離型層4との密着力を高める観点からは、中間層3は顔料を含有しないことが好ましい。中間層3は、上記合成樹脂及びフッ素系化合物を含有するので、別途顔料を含有しなくても離型層の表面の平滑性を十分に高めることができる。
【0031】
中間層3の平均厚さの下限としては、0.1μmが好ましく、1.0μmがより好ましい。一方、中間層3の平均厚さの上限としては、20μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記平均厚さが上記下限に満たないと、中間層3の表面の平滑化が十分に促進されないおそれがある。一方、上記平均厚さが上記上限を超えると、中間層3が不要に厚くなり、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1の製造コストが高くなるおそれがある。
【0032】
(離型層)
離型層4は、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1の最表層を構成し、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1と当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1を用いて製造されるポリウレタンコート層との剥離性を高める。当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、上述のように、靴、バッグ等の表面を形成するエナメル調のポリウレタンコート層形成用工程紙として好適に用いられる。そのため、離型層4の表面は凹凸が存在しない平滑面であることが好ましい。
【0033】
離型層4の表面の60°光沢度の下限としては90が好ましく、95がより好ましく、98がさらに好ましい。上記光沢度が上記下限に満たないと、エナメル調のポリウレタンコート層を製造し難くなるおそれがある。一方、離型層4の表面の60°光沢度の上限としては、特に限定されないが、例えば200とすることができる。上記光沢度が上記上限を超えると、ポリウレタンコート層との剥離性が十分に向上されないおそれがある。なお、「光沢度」とは、JIS−Z8741:1997に準拠する値をいう。
【0034】
離型層4は、例えば主成分として合成樹脂を含有する。離型層4は、例えば主成分として含まれる合成樹脂(主成分樹脂)及びフッ素系化合物を含む離型層形成用塗工液を中間層3の表面側に塗工して中間層3の表面側に塗膜を形成した後、この塗膜を乾燥させることで形成される。上記離型層形成用塗工液の塗工方法としては、中間層3の形成に用いられる上述の中間層形成用塗工液の塗工方法と同様の方法が挙げられる。
【0035】
上記合成樹脂(離型層4の主成分樹脂)としては、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂、ワックス樹脂、アルキド樹脂等が挙げられる。上記合成樹脂がシリコーン樹脂、フッ素樹脂、ワックス樹脂又はアルキド樹脂であることによって、離型層4のポリウレタンコート層との剥離性を確保しつつ、離型層4の表面の平滑性を高めやすい。中でも、剥離力が低くポリウレタンコート層との剥離性に優れるシリコーン樹脂が好ましい。
【0036】
上記シリコーン樹脂としては、例えばSi−H基含有シリコーン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アルコキシ基含有シリコーン、シラノール基含有シリコーン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ビニルシリコーン、アルキド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリグリセリン変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、カルボン酸変性シリコーン、脂肪酸エステル変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、フロロアルキル変性シリコーン等が挙げられ、これらを1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、アルキド変性シリコーンが好ましい。
【0037】
上記シリコーン樹脂としては、硬化性シリコーンが好ましい。硬化性シリコーンを用いることによって、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1の剥離性を向上させることができ、かつ剥離強度の経時劣化を抑制することができる。この硬化性シリコーンとしては、例えば熱、紫外線、電子線等を用いて硬化したものを用いることができる。具体的には、例えばSi−H基含有シリコーン及びビニルシリコーンによる付加硬化型のシリコーン、Si−H基含有シリコーン及びシラノール基含有シリコーンによる縮合硬化型のシリコーン、光重合性官能基変性シリコーンによるUV硬化型のシリコーン等が挙げられる。
【0038】
上記フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体からなるペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(EPE)、テトラフルオロエチレンとエチレン又はプロピレンとのコポリマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレンとクロロトリフルオロエチレンとのコポリマー(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等が挙げられる。
【0039】
上記ワックス樹脂としては、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体ワックス等のオレフィン系ワックスや、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンなどが挙げられる。
【0040】
離型層4に含有される上記フッ素系化合物としては、例えば中間層3に含有可能な上述のフッ素系化合物が挙げられる。
【0041】
離型層4における上記フッ素系化合物の固形分換算の含有割合の下限としては、0.01質量%が好ましく、0.05質量%がより好ましく、0.1質量%がさらに好ましい。一方、上記含有割合の上限としては、1.0質量%が好ましく、0.4質量%がより好ましく、0.2質量%がさらに好ましい。上記含有割合が上記下限に満たないと、離型層4の耐溶剤性が不十分となり、離型層4がDMF等によって劣化しやすくなるおそれや、離型層4の表面の平滑性が不十分となるおそれがある。また、上記含有割合が上記下限に満たないと、離型層4の表面の傷付き防止性が不十分となるおそれがある。逆に、上記含有割合が上記上限を超えると、上記フッ素系化合物が離型層4の中心部まで入り込んで離型層4が十分に硬化し難くなるおそれや、中間層3及び離型層4間の剥離強度が不十分となるおそれがある。また、上記含有割合が上記上限を超えると、離型層4に含有される上記フッ素系化合物がポリウレタンコート層の表面に転写され、ポリウレタンコート層の表面性が不十分となるおそれがある。
【0042】
離型層4における上記フッ素系化合物の含有割合に対する中間層3における上記フッ素系化合物の含有割合の比の下限としては、0.5が好ましく、1.0がより好ましい。一方、上記含有割合の比の上限としては、5.0が好ましく、3.0がより好ましい。上記含有割合の比が上記下限に満たないと、中間層3における上記フッ素系化合物の含有割合が小さくなり過ぎて中間層3の表面の平滑性が不十分となるおそれがある。また、上記含有割合の比が上記下限に満たないと、離型層4における上記フッ素系化合物の含有割合が大きくなり過ぎて、上記フッ素系化合物が離型層4の中心部まで入り込んで離型層4が十分に硬化し難くなるおそれや、中間層3及び離型層4間の剥離強度が不十分となるおそれや、離型層4に含有される上記フッ素系化合物がポリウレタンコート層の表面に転写され、ポリウレタンコート層の表面性が不十分となるおそれがある。逆に、上記含有割合の比が上記上限を超えると、離型層4における上記フッ素系化合物の含有割合が小さくなり過ぎて、離型層4の耐溶剤性が不十分となり、離型層4がDMF等によって劣化しやすくなるおそれや、離型層4の表面の平滑性が不十分となるおそれや、離型層4の表面の傷付き防止性が不十分となるおそれがある。また、上記含有割合の比が上記上限を超えると、中間層3における上記フッ素系化合物の含有割合が大きくなり過ぎて、フッ素系化合物が中間層3の中心部まで入り込んで中間層3が十分に硬化し難くなるおそれや、中間層3及び離型層4間の剥離強度が不十分となるおそれがある。
【0043】
離型層4には、剥離性を向上させる目的で、ワックス類、表面改質剤等を添加することができる。また、離型層4には、顔料や、触媒、染料、分散剤等の添加剤を添加してもよい。上記顔料としては、例えばシリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等が挙げられる。しかしながら、離型層4は、表面の平滑性及び傷付き防止性を確保しつつ、中間層3との密着性を高める観点からは、顔料を含有しないことが好ましい。当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、例えば中間層3及び離型層4における上記フッ素系化合物の含有割合を調節することで、中間層3及び離型層4が顔料等の添加剤を含有しなくても、離型層4の剥離性を確保しつつ、離型層4の表面の平滑性を十分に高めることができる。
【0044】
離型層4の平均厚さの下限としては、0.1μmが好ましく、1.0μmがより好ましい。一方、離型層4の平均厚さの上限としては、20μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記平均厚さが上記下限に満たないと、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1とポリウレタンコート層との剥離性が不十分となるおそれがある。逆に、上記平均厚さが上記上限を超えると、離型層4が不要に厚くなり、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1の製造コストが高くなるおそれがある。
【0045】
<製造方法>
当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1の製造方法は、例えば抄紙や押出成形等によって基材層2を用意する工程(基材層用意工程)と、上記基材層用意工程で用意した基材層2の表面側に中間層3を積層する工程(中間層積層工程)と、上記中間層積層工程によって積層された中間層3の表面側に離型層4を積層する工程(離型層積層工程)とを備える。本実施形態におけるポリウレタンコート層形成用工程紙の製造方法では、上記中間層積層工程によって中間層3を基材層2の表面に直接積層し、上記離型層積層工程によって離型層4を中間層3の表面に直接積層する。
【0046】
(基材層用意工程)
上記基材層用意工程で基材層2の材料として紙を用いる場合、この基材層2を構成する紙を抄造する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば長網方式、ツインワイヤー方式、ギャップフォーマー方式、丸網方式等を挙げることができる。
【0047】
(中間層積層工程)
上記中間層積層工程では、中間層3を構成する合成樹脂(主成分樹脂)及びフッ素系化合物を含む中間層形成用塗工液を基材層2の表面側に塗工して基材層2の表面側に塗膜を形成した後、この塗膜を乾燥させる。
【0048】
(離型層積層工程)
上記離型層積層工程では、離型層4を構成する合成樹脂(主成分樹脂)及びフッ素系化合物を含む離型層形成用塗工液を中間層3の表面側に塗工して中間層3の表面側に塗膜を形成した後、この塗膜を乾燥させる。上記離型層積層工程は、上記中間層積層工程により中間層3が基材層2の表面側に積層された状態(つまり、中間層形成用塗工液を塗布して形成される塗膜が乾燥された状態)で行う。
【0049】
<利点>
当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、中間層3が合成樹脂を主成分とし、かつ上記フッ素系化合物を含有するので、中間層3の表面は平滑性が高い。そのため、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、中間層3の表面側に積層される離型層4の表面の平滑性を十分に高めることができる。また、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、離型層4が上記フッ素系化合物を含有するので、離型層4の表面の平滑性を高めると共に離型層4の表面の傷付きを抑制することができる。さらに、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、離型層4及び中間層3がいずれも上記フッ素系化合物を含有することで、ポリウレタンコート層形成用樹脂組成物に含まれるDMF等の溶剤によって離型層4及び中間層3が劣化し難い。従って、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1は、ポリウレタンコート層の製造に繰り返し用いることができると共に、ポリウレタンコート層の製造に繰り返し用いられた場合でも、このポリウレタンコート層の外観不良の発生を抑制することができる。
【0050】
当該ポリウレタンコート層形成用工程紙の製造方法は、ポリウレタンコート層の製造に繰り返し用いることができると共に、ポリウレタンコート層の製造に繰り返し用いられた場合でも、このポリウレタンコート層の外観不良の発生を抑制可能な当該ポリウレタンコート層形成用工程紙1を容易かつ確実に製造することができる。
【0051】
[第二実施形態]
図2のポリウレタンコート層形成用工程紙11は、
図1のポリウレタンコート層形成用工程紙1と同様、例えばエナメル調のポリウレタンコート層形成用工程紙として用いられる。当該ポリウレタンコート層形成用工程紙11は、基材層2と、基材層2の表面側に積層される離型層4と、基材層2及び離型層4の間に配設され、主成分として合成樹脂を含有する中間層3とを備える。離型層4及び中間層3は、フッ素系化合物を含有する。さらに、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙11は、基材層2と中間層3との間に配設される目止め層12をさらに備える。基材層2と目止め層12、目止め層12と中間層3、並びに中間層3と離型層4とは他の層を介さず直接積層されている。離型層4は、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙11の最表層を構成している。当該ポリウレタンコート層形成用工程紙11における基材層2、中間層3及び離型層4については、
図1のポリウレタンコート層形成用工程紙1と同様のため、同一符号を付して説明を省略する。
【0052】
(目止め層)
目止め層12は、中間層3に含まれる成分が基材層2に浸透することを抑制する。目止め層12は、例えば水溶性高分子、ポリエチレン等の目止め層12の主成分樹脂を含む目止め層形成用塗工液を基材層2の表面側に塗工し、乾燥させることで形成される。上記目止め層形成用塗工液の塗工方法としては、中間層3の形成に用いられる上述の中間層形成用塗工液の塗工方法と同様の方法が挙げられる。
【0053】
上記水溶性高分子としては、例えばポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、澱粉、カゼイン、ゼラチン等が挙げられ、これらを1種単独で又は2種以上を組み合せて用いることができる。
【0054】
目止め層12には、中間層3との接着性を阻害しない範囲内で硬化剤を添加することができる。この硬化剤は、中間層3を積層する前の当該ポリウレタンコート層形成用工程紙の製造工程において、基材層2の表面側に目止め層12が積層されたシートをロール状にした場合に、吸湿によってブロッキングが生じることを防止するために添加される。この硬化剤としては、例えばクロム酸、グリオキザール等を用いることができる。また、目止め層12には、紫外線防止剤、帯電防止剤等を基材層2との接着性を損なわない範囲で配合してもよい。さらに、目止め層12には、中間層3との接着性を向上させるために、シリコーン基を有する離型剤を若干量添加してもよい。
【0055】
また、目止め層12は、基材層2の表面に表面処理を施したうえで、この基材層2の表面側に積層されることが好ましい。これにより、基材層2及び目止め層12の密着性を向上することができる。このような密着性向上のための表面処理としては、例えばコロナ処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いた酸化処理、アンカーコート処理等が挙げられる。中でも、基材層2及び目止め層12の接着強度を向上し、緻密かつ均一な目止め層12の形成に寄与するコロナ処理及びアンカーコート処理が好ましい。
【0056】
<製造方法>
当該ポリウレタンコート層形成用工程紙11の製造方法は、基材層2を用意する工程(基材層用意工程)と、上記基材層用意工程で用意した基材層2の表面側に目止め層12を積層する工程(目止め層積層工程)と、上記目止め層積層工程によって積層された目止め層12の表面側に中間層3を積層する工程(中間層積層工程)と、上記中間層積層工程で積層された中間層3の表面側に離型層4を積層する工程(離型層積層工程)とを備える。本実施形態におけるポリウレタンコート層形成用工程紙の製造方法では、上記目止め層積層工程によって目止め層12を基材層2の表面に直接積層し、上記中間層積層工程によって中間層3を目止め層12の表面に直接積層し、上記離型層積層工程によって離型層4を中間層3の表面に直接積層する。当該ポリウレタンコート層形成用工程紙の製造方法における基材層用意工程、中間層積層工程及び離型層積層工程については、
図1のポリウレタンコート層形成用工程紙1の製造方法で説明した方法と同様の方法で行うことができるため、説明を省略する。
【0057】
(目止め層積層工程)
上記目止め層積層工程では、目止め層12を形成するための目止め層形成用塗工液を基材層2の表面側に塗工して基材層2の表面側に塗膜を形成した後に、この塗膜を乾燥させる。
【0058】
<利点>
当該ポリウレタンコート層形成用工程紙11は、基材層2と、基材層2の表面側に積層される離型層4と、基材層2及び離型層4の間に配設され、主成分として合成樹脂を含有する中間層3とを備え、離型層4及び中間層3が上記フッ素系化合物を含有するので、第一実施形態で上述したように、ポリウレタンコート層の製造に繰り返し用いられた場合でも、このポリウレタンコート層の外観不良の発生を抑制することができる。さらに、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙11は、基材層2及び中間層3の間に目止め層12が配設されるので、中間層3に含まれる成分の基材層2への浸透を抑制することができ、これによって中間層3の表面側の平滑性をより高めやすい。
【0059】
当該ポリウレタンコート層形成用工程紙の製造方法は、中間層3の表面側の平滑性がより高められ、ポリウレタンコート層の製造に繰り返し用いられた場合でも、このポリウレタンコート層の外観不良の発生をより的確に抑制することが可能な当該ポリウレタンコート層形成用工程紙11を容易かつ確実に製造することができる。
【0060】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0061】
例えば当該ポリウレタンコート層形成用工程紙は、上述の基材層、中間層、離型層及び目止め層以外の他の層をさらに備えていてもよい。例えば当該ポリウレタンコート層形成用工程紙は、上記基材層の裏面側(ポリウレタンコート層を形成する樹脂組成物が塗工される側の反対側)に帯電防止層等を備えていてもよい。また、中間層及び離型層の間に他の樹脂層等を備えていてもよい。
【0062】
また、当該ポリウレタンコート層形成用工程紙は、上述のように、エナメル調のポリウレタンコート層の製造に適しているが、これ以外のポリウレタンコート層の製造に用いることも可能である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例]
[No.1]
大日精化工業社製のアクリル樹脂「P−2075」を75質量%及び硬化剤として大日精化工業社製のスルホン酸化合物「MPAC NO3」を25質量%含有する溶液を調製し、この溶液にDIC社製のフッ素系化合物「F−553」を固形分換算で0.10質量%添加して中間層形成用塗工液を得た。この中間層形成用塗工液を日本製紙社製のキャストコート紙「エスプリC」の表面に塗工し、190℃で30秒間乾燥し、キャストコート紙からなる基材層の表面にアクリル樹脂を主成分とし、かつ添加剤としてフッ素系化合物を含有する中間層を積層した。また、信越化学工業社製のアルキド変性シリコーン「KS−883」を75質量%及び硬化剤として信越化学工業社製のパラトルエンスルホン酸「PS−80」を25質量%含有する溶液を調製し、この溶液にDIC社製のフッ素系化合物「F−556」を固形分換算で0.10質量%添加して離型層形成用塗工液を得た。この離型層形成用塗工液を上記中間層の表面に塗工し、200℃で60秒間乾燥し、中間層の表面にアルキド変性シリコーンを主成分とし、かつ添加剤としてフッ素系化合物を含有する離型層を積層した。これにより、基材層、中間層及び離型層がこの順で積層されたNo.1のポリウレタンコート層形成用工程紙を得た。なお、基材層の平均厚さは180μm、中間層の平均厚さは4μm、離型層の平均厚さは4μmであった。また、No.1のポリウレタンコート層形成用工程紙の離型層表面の60°光沢度をJIS−Z8741に準拠してスガ試験機株式会社製の「Gloss Mobile GM−1」を用いて測定したところ96.8であった。
【0065】
[No.2]
離型層形成用塗工液に含有されるフッ素系化合物としてDIC社製の「F−557」を用いた以外はNo.1と同様にして、No.2のポリウレタンコート層形成用工程紙を製造した。
【0066】
[No.3]
離型層形成用塗工液に含有されるフッ素系化合物としてDIC社製の「F−571」を用いた以外はNo.1と同様にして、No.3のポリウレタンコート層形成用工程紙を製造した。
【0067】
[比較例]
[No.4]
フッ素系化合物に代えて、離型層形成用塗工液にビックケミー・ジャパン社製のシリコーン系化合物「BYK−377」を含有させた以外はNo.1と同様にして、No.4のポリウレタンコート層形成用工程紙を製造した。
【0068】
[No.5]
フッ素系化合物に代えて、離型層形成用塗工液にビックケミー・ジャパン社製のシリコーン系化合物「BYK−378」を含有させた以外はNo.1と同様にして、No.5のポリウレタンコート層形成用工程紙を製造した。
【0069】
[No.6]
フッ素系化合物に代えて、離型層形成用塗工液に日油社製の有機過酸化物「パーブチル(登録商標)C」を含有させた以外はNo.1と同様にして、No.6のポリウレタンコート層形成用工程紙を製造した。
【0070】
[No.7]
フッ素系化合物に代えて、離型層形成用塗工液に日油社製の有機過酸化物「パーヘキサ(登録商標)25B」を含有させた以外はNo.1と同様にして、No.7のポリウレタンコート層形成用工程紙を製造した。
【0071】
[No.8]
離型層形成用塗工液がフッ素系化合物を含有しなかった以外はNo.1と同様にして、No.8のポリウレタンコート層形成用工程紙を製造した。
【0072】
[No.9]
中間層形成用塗工液がフッ素系化合物を含有しなかった以外はNo.2と同様にして、No.9のポリウレタンコート層形成用工程紙を製造した。
【0073】
[No.10]
中間層形成用塗工液及び離型層形成用塗工液がいずれもフッ素系化合物を含有しなかった以外はNo.1と同様にして、No.10のポリウレタンコート層形成用工程紙を製造した。
【0074】
<表面性>
No.1〜No.10について、離型層表面の光沢を目視にて以下の基準で評価した。この評価結果を表1に示す。
A:表面荒れがなく、かつ離型層における主成分と添加剤との混合ムラも見られない。
B:添加剤に起因する表面荒れや、離型層における主成分と添加剤との混合ムラが見られる。
【0075】
<耐DMF性>
DMF1mlを浸した120mm×215mmのキムワイプを用い、No.1〜No.10の離型層の表面を0.5Nの荷重で18cmのストローク距離で40往復擦った。擦る前後の離型層表面の光沢度をJIS−Z8741に準拠してスガ試験機社製の「HG−268」によって測定し、以下の基準で評価した。この評価結果を表1に示す。
A:光沢度の低下が0.5%未満である。
B:光沢度の低下が0.5%以上である。
【0076】
<繰り返し使用性>
No.1〜No.10のポリウレタンコート層形成用工程紙を用い、同一条件で15回繰り返してポリウレタンコート層を製造した。ポリウレタンコート層の製造前後の離型層表面の光沢度をJIS−Z8741に準拠してスガ試験機社製の「HG−268」によって測定し、以下の基準で評価した。この評価結果を表1に示す。
A:光沢度の低下が0.5%未満である。
B:光沢度の低下が0.5%以上である。
【0077】
【表1】
【0078】
[評価結果]
表1に示すように、中間層及び離型層がいずれもフッ素系化合物を含有するNo.1〜No.3は、表面性、耐DMF性及び繰り返し使用性がいずれも優れている。