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特許6673988スプリングブレーキチャンバー及びスプリングブレーキチャンバーのシールリング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6673988
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】スプリングブレーキチャンバー及びスプリングブレーキチャンバーのシールリング
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/38 20060101AFI20200323BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20200323BHJP
   F16J 15/3252 20160101ALI20200323BHJP
   F16J 15/322 20160101ALI20200323BHJP
【FI】
   B60T13/38
   F16J15/3204 101
   F16J15/3252
   F16J15/322
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-149496(P2018-149496)
(22)【出願日】2018年8月8日
(62)【分割の表示】特願2014-176074(P2014-176074)の分割
【原出願日】2014年8月29日
(65)【公開番号】特開2018-167835(P2018-167835A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2018年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】510063502
【氏名又は名称】ナブテスコオートモーティブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(72)【発明者】
【氏名】西村 聡哲
(72)【発明者】
【氏名】下村 丈夫
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−092241(JP,A)
【文献】 実公昭46−034910(JP,Y1)
【文献】 実開平06−027411(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00−13/74
F16J 15/16−15/3296
15/46−15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側チャンバーを構成する第1ケースと、
円筒状をなし、径方向外側に突出するフランジ部を有するとともに、前記第1ケース内を移動する第1ピストンと、
前記第1ピストンの前記フランジ部に固定され、前記第1ピストンの移動に伴い前記第1ケースの内周面に摺接するガイド部材と、
弾性を有するとともに、前記第1ピストンの軸方向において前記ガイド部材と前記第1ピストンの前記フランジ部との間に挟まれて固定されるシール部材と、を備え
前記ガイド部材は、前記フランジ部の端部が嵌合することで前記フランジ部に前記ガイド部材が単体で固定される溝部と、前記シール部材を前記第1ピストンの前記フランジ部と挟む端部と、を有する
スプリングブレーキチャンバー。
【請求項2】
前記シール部材は、前記第1ケースの内周面に摺接する一方の端部と、前記第1ピストンの外周面及び前記ガイド部材によって前記第1ピストンの径方向に沿った両側から挟まれる他方の端部と、を有する
請求項1に記載のスプリングブレーキチャンバー。
【請求項3】
前記シール部材は、前記ガイド部材の前記端部が嵌合する溝部を有する
請求項1又は2に記載のスプリングブレーキチャンバー。
【請求項4】
スプリングブレーキチャンバーのシールリングにおいて、
一次側チャンバー内を移動する第1ピストンの径方向外側に突出するフランジ部に固定され、前記第1ピストンの移動に伴い前記一次側チャンバーを構成する第1ケースの内周面に摺接するガイド部材と、
弾性を有するとともに、前記第1ピストンの軸方向において前記ガイド部材と前記第1ピストンの前記フランジ部との間に挟まれて固定されるシール部材と、を備え
前記ガイド部材は、前記フランジ部の端部が嵌合することで前記フランジ部に前記ガイド部材が単体で固定される溝部と、前記シール部材を前記第1ピストンの前記フランジ部と挟む端部と、を有する
スプリングブレーキチャンバーのシールリング。
【請求項5】
前記シール部材は、前記第1ケースの内周面に摺接する一方の端部と、前記第1ピストンの外周面及び前記ガイド部材によって前記第1ピストンの径方向に沿った両側から挟まれる他方の端部と、を有する
請求項4に記載のスプリングブレーキチャンバーのシールリング。
【請求項6】
前記シール部材は、前記ガイド部材の前記端部が嵌合する溝部を有する
請求項4又は5に記載のスプリングブレーキチャンバーのシールリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプリングブレーキチャンバー、及びスプリングブレーキチャンバーのシールリングに関する。
【背景技術】
【0002】
バス、トラック、トレーラ等の車両の制動装置には、空気圧によって制御されるスプリングブレーキチャンバーが採用されている。スプリングブレーキチャンバーは、第1ピストンを有する一次側チャンバーと、第2ピストンを有する二次側チャンバーとを備えている。このスプリングブレーキチャンバーは、例えば第2ピストンの先端に設けられたウェッジを、ブレーキドラム側に突出させて、ブレーキドラムのブレーキシューを拡張させることによりブレーキを作動させる。
【0003】
二次側チャンバーには、第2ピストンをブレーキドラムに対して進退させるためのダイヤフラムが設けられている。このダイヤフラムは、二次側チャンバー内の空間を、第2制御室とピストン室とに区画している。
【0004】
一次側チャンバーには、上述したダイヤフラムを、一次側チャンバーの反対側へ強制的に変位させる第1プッシュロッドを備えている。第1プッシュロッドは、一次側チャンバーのケース内を摺動する第1ピストンの動作に従って、二次側チャンバーに対して進退可能に設けられている。一次側チャンバーの内側の空間は、第1ピストンによって、ばね室と、二次側チャンバー寄りに設けられた第1制御室とに区画されている。ばね室には、第1ピストンを二次側チャンバー側に付勢する圧縮ばねが設けられている。
【0005】
このように構成されたスプリングブレーキチャンバーでは、第1制御室及び第2制御室の圧力を制御して第1ピストンやダイヤフラムを変位させることで、第2ピストンに設けられたウェッジを駆動させるとともに、ブレーキ量を制御する。
【0006】
また、一次側チャンバーのケースと第1ピストンとの間には、第1制御室の気密性を高めるためにシールリング(ピストンカップ)が設けられている(例えば、特許文献1参照)。シールリングは、凹状に形成された係合部を備えている。シールリングは、係合部を、第1ピストンに設けられた凸状部に嵌合することにより、第1ピストンに固定される。また、このシールリングは、ケースに対して接触する第1頂部及び第2頂部を設けることで、摺動抵抗を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−87870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したシールリングでは、ケースとの摺動抵抗を低減し、第1ピストンの滑動性を高めることができるが、弾性を有するシール部材を第1ピストン側へ固定する力については、なお改善の余地がある。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シール部材を第1ピストンに強固に固定することができるスプリングブレーキチャンバー及びそのシールリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するスプリングブレーキチャンバーは、一次側チャンバーを構成する第1ケースと、円筒状をなし、径方向外側に突出するフランジ部を有するとともに、前記第1ケース内を移動する第1ピストンと、前記第1ピストンの前記フランジ部に固定され、前記第1ピストンの移動に伴い前記第1ケースの内周面に摺接するガイド部材と、弾性を有するとともに、前記第1ピストンの軸方向において前記ガイド部材と前記第1ピストンの前記フランジ部との間に挟まれて固定されるシール部材と、を備える。
このスプリングブレーキチャンバーについて、前記ガイド部材は、前記フランジ部に嵌合して固定される溝部を有することが好ましい。
このスプリングブレーキチャンバーについて、前記シール部材は、前記第1ケースの内周面に摺接する一方の端部と、前記第1ピストンの外周面及び前記ガイド部材によって前記第1ピストンの径方向に沿った両側から挟まれる他方の端部と、を有することが好ましい。
このスプリングブレーキチャンバーについて、前記ガイド部材は、前記シール部材を前記第1ピストンの前記フランジ部と挟む端部を有し、前記シール部材は、前記ガイド部材の前記端部が嵌合する溝部を有することが好ましい。
上記課題を解決するスプリングブレーキチャンバーのシールリングは、一次側チャンバー内を移動する第1ピストンの径方向外側に突出するフランジ部に固定され、前記第1ピストンの移動に伴い前記一次側チャンバーを構成する第1ケースの内周面に摺接するガイド部材と、弾性を有するとともに、前記第1ピストンの軸方向において前記ガイド部材と前記第1ピストンの前記フランジ部との間に挟まれて固定されるシール部材と、を備える。
このスプリングブレーキチャンバーのシールリングは、前記ガイド部材は、前記フランジ部に嵌合して固定される溝部を有することが好ましい。
上記課題を解決するスプリングブレーキチャンバーは、一次側チャンバーを構成する第1ケースと、円筒状をなし、径方向外側に突出するフランジ部を有するとともに、前記第1ケース内を移動する第1ピストンと、前記第1ピストンに固定され、前記第1ピストンの移動に伴い前記第1ケースの内周面に摺接するガイド部材と、弾性を有するとともに、前記ガイド部材及び前記第1ピストンの間に挟まれて固定されるシール部材と、を備える。
【0011】
上記課題を解決するスプリングブレーキチャンバーのシールリングは、一次側チャンバー内を移動する第1ピストンに固定されるガイド部材と、弾性を有するとともに、前記ガイド部材及び前記第1ピストンの間に挟まれて固定されるシール部材と、を備える。
【0012】
上記構成によれば、シール部材を、ガイド部材と第1ピストンの間に挟むことによって、第1ピストンに固定することができる。このため、第1ピストンに直接係合する構造が設けられたシール部材に比べ、シール部材を第1ピストンに強固に固定することができる。
【0013】
このスプリングブレーキチャンバーについて、前記第1ピストンは、閉塞端部、及び前記フランジ部が設けられた開口端部を備え、前記ガイド部材は、前記フランジ部に嵌合する溝部を有することが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、ガイド部材の溝部は、第1ピストンの開口端部に設けられたフランジ部に嵌合するので、第1ピストンの外周面に、ガイド部材と嵌合させるための凸部や凹部を設けなくてもよい。このため、第1ピストンの製造上の制約を少なくすることができる。
【0015】
このスプリングブレーキチャンバーについて、前記シール部材は、前記第1ケースの内周面に摺接する一方の端部と、前記第1ピストンの外周面及び前記ガイド部材によって前記第1ピストンの径方向に沿った両側から挟まれる他方の端部と、を有することが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、シール部材の他方の端部は、第1ピストン及びガイド部材によって挟まれるので、第1ケースの内周面と接触することがない。このため、シール部材と第1ケースの内周面との接触面積を低減することができる。
【0017】
このスプリングブレーキチャンバーについて、前記シール部材の他方の端部は、前記第1ピストンの開口端に設けられたフランジ部に当接することが好ましい。
上記構成によれば、シール部材は、第1のピストンとガイド部材との間に挟まれた上で、他方の端部が第1ピストンのフランジ部に当接するので、第1ピストンが第1ケース内を摺動する際、シール部材の軸方向のずれが抑制される。
【0018】
このスプリングブレーキチャンバーについて、前記第1ピストンは、閉塞端部、及び前記フランジ部が設けられた開口端部を備え、前記ガイド部材は、前記第1ピストンに設けられた被嵌合部と嵌合する嵌合部を有し、前記シール部材は、前記第1ケースの内周面に摺接する一方の端部を有し、前記フランジ部と前記ガイド部材とによって前記第1ピストンの軸方向に沿った両側から挟まれることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、シール部材は、フランジ部及びガイド部材によって第1ピストンの軸方向の両側から挟まれる。このため、シール部材の形状や厚み等の制約を少なくしつつ、シール部材を第1ピストンに強固に固定することができる。
【0020】
このスプリングブレーキチャンバーについて、前記シール部材及び前記ガイド部材は、互いに嵌合する嵌合構造を有することが好ましい。
上記構成によれば、シール部材及びガイド部材が互いに連結される力を増大することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のスプリングブレーキチャンバー及びそのシールリングによれば、シール部材を第1ピストンに強固に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態のパーキングブレーキ作動時におけるスプリングブレーキチャンバーの断面図。
図2】スプリングブレーキチャンバーの一次側チャンバーの拡大図。
図3】ブレーキ解除時におけるスプリングブレーキチャンバーの断面図。
図4】フットブレーキ作動時におけるスプリングブレーキチャンバーの断面図。
図5】変形例の一次側チャンバーの拡大図。
図6】変形例の一次側チャンバーの拡大図。
図7】変形例の一次側チャンバーの拡大図。
図8】変形例のシール構造の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1図4を参照して、スプリングブレーキチャンバーの一実施形態を説明する。
図1に示されるように、スプリングブレーキチャンバー1は、円筒状の一次側チャンバー2(ピギーバック)と、一次側チャンバー2に連結された円筒状の二次側チャンバー3(サービスチャンバー)とを備えている。一次側チャンバー2の両端は閉塞されている。二次側チャンバー3の一端は開放されており他端は閉塞されている。二次側チャンバー3の一端、すなわち二次側チャンバー3における一次側チャンバー2寄りの端部と反対側の端部には、第2プッシュロッド33が挿通される円筒状のロッド挿通部7が設けられている。
【0024】
また、スプリングブレーキチャンバー1は、一次側チャンバー2を構成する円筒状の第1ケース4と、二次側チャンバー3を構成する円筒状の第2ケース5と、連結ケース6とを備えている。連結ケース6は、第1ケース4と協働して一次側チャンバー2を構成するとともに第2ケース5と協働して二次側チャンバー3を構成する。第1ケース4は、開口端と、該開口端の反対側に位置する閉塞端と、開口端近傍に位置する開口端部4aとを有している。第2ケース5は、両端に開口端を有している。連結ケース6は、断面I字形状であって、第1ケース4寄りの開口端と、該開口端近傍に位置する開口端部とを有している。連結ケース6は、第1ケース4を閉蓋することで一次側チャンバー2を構成するとともに、第2ケース5を閉蓋することで二次側チャンバー3を構成する。第2ケース5は、二次側チャンバー3を構成する大径部5aとロッド挿通部7を構成する小径部5bとを備えている。
【0025】
連結ケース6の開口端部の外面には、シール部材としての断面O形状のOリング8を設置する凹部6aが形成されている。この凹部6aは、2つの凸条部6b,6cによって形成される保持部であって、連結ケース6の外面全周に亘って形成されている。第1ケース4の開口端部4a内に連結ケース6の一端部が当接した状態で、第1ケース4の開口端部4aが、かしめられることによって第1ケース4と連結ケース6とが接続されている。
【0026】
第2ケース5の連結ケース6寄りの端部にはリブ5cが形成され、連結ケース6の第2ケース5寄りの端部にはリブ6dが形成されている。第2ケース5のリブ5cと連結ケース6のリブ6dとはクランプリング9によって締付固定されている。
【0027】
連結ケース6には、一次側チャンバー2に圧縮空気を出し入れする一次側流出入孔11が形成されている。この一次側流出入孔11には、圧縮空気の供給及び排出を制御する図示しない一次側流出入弁が接続されている。この一次側流出入弁によって、圧縮空気が一次側流出入孔11を介して一次側チャンバー2に供給されるとともに、一次側チャンバー2内の空気が一次側流出入孔11を介して排出される。
【0028】
また、連結ケース6には、二次側チャンバー3に圧縮空気を出し入れする二次側流出入孔12が形成されている。この二次側流出入孔12には、圧縮空気の供給及び排出を制御する図示しない二次側流出入弁が接続されている。この二次側流出入弁によって、圧縮空気が二次側流出入孔12を介して二次側チャンバー3に供給されるとともに、二次側チャンバー3内の空気が二次側流出入孔12を介して排出される。
【0029】
一次側チャンバー2内には、円筒状の第1ピストン21が、一次側チャンバー2の軸方向に移動可能に収容されている。第1ピストン21は、板金を加工することにより製造され、開口端部と閉塞端部とを有している。第1ピストン21の開口端部には、径方向外側に突出するフランジ部21aが設けられている。一次側チャンバー2は、第1ピストン21によって、圧縮ばね23が収納されたばね室15と第1制御室13との二室に区画されている。圧縮ばね23は、第1ピストン21を、二次側チャンバー3側に向かって付勢する。
【0030】
第1ピストン21には、第1ピストン21と一体に軸方向に進退可能な円筒状の第1プッシュロッド22が固定されている。第1プッシュロッド22は、連結ケース6の連通孔41に挿通されている。第1プッシュロッド22の内部は空洞である。第1プッシュロッド22の内部には、ばね室15の空気を二次側チャンバー3内の第2制御室14に循環させる循環機構50が設けられている。一次側チャンバー2内に設置されている圧縮ばね23は、第1ピストン21を二次側チャンバー3側に付勢する。
【0031】
二次側チャンバー3内には、ダイヤフラム31が設置されている。ダイヤフラム31は、二次側チャンバー3内を、第2制御室14と第2ピストン32が配置されたピストン室16との二室に区画する。ダイヤフラム31の縁部全周は、第2ケース5のリブ5cと連結ケース6のリブ6dとに挟まれることによって二次側チャンバー3の内壁に固定されている。ダイヤフラム31は、弾性材料で形成された膜であって、第2制御室14に供給された圧縮空気によって、二次側チャンバー3内で変位する。
【0032】
二次側チャンバー3内には、ダイヤフラム31の移動に伴って一体にロッド挿通部7を移動する第2ピストン32が配置されている。第2ピストン32は、ダイヤフラム31に取り付けられた円板部32aと、ロッド挿通部7を移動する棒状部32bとからなる。棒状部32bの端部には、円筒状の溝穴部が形成されている。溝穴部には、棒状の第2プッシュロッド33が挿入されている。第2ピストン32の先端部には、円筒状のロッドガイド34が装着されている。このロッドガイド34は、ロッド挿通部7の内周面を摺動し、第2ピストン32をガイドする。また、ロッド挿通部7の内部には、円筒状のダストカバー35が取り付けられている。
【0033】
図1中破線で示すように、第2プッシュロッド33の先端の端部には、ブレーキドラムのブレーキシューを拡張させるウェッジ10が接続されている。ウェッジ10がブレーキドラムに対して進入すると、ブレーキシューが拡張されてブレーキが作動し、ウェッジ10がブレーキドラムに対して退出すると、ブレーキシューが所定の位置に戻り、ブレーキが解除される。
【0034】
連結ケース6の連通孔41の内周面には、一次側チャンバー側から順に、樹脂製の第1ガイド部材45と、封止部材49とが装着されている。第1ガイド部材45は、第1プッシュロッド22の摺動をガイドする。封止部材49は、連通孔41と第1プッシュロッド22との隙間を密閉する。また、封止部材49は、断面C字形状の開口部が二次側チャンバー3に向かって開口し、二次側チャンバー3の第2制御室14から一次側チャンバー2の第1制御室13への空気の流れを阻止する。
【0035】
第1ピストン21の外周面には、円環状のシールリング25が設けられている。このシールリング25は、第1制御室13を封止する。シールリング25は、樹脂製のガイド部材26と、弾性材料からなるシール部材27とを備えている。ガイド部材26は、円環状をなしている。また、ガイド部材26は、第1ピストン21の移動に伴い、外周面において第1ケース4の内周面に摺接して、第1ピストン21の摺動をガイドする。シール部材27は、ゴム製であって、第1制御室13からばね室15へ向かう空気の流れを阻止し、ばね室15から第1制御室13へ向かう空気の流れを許容する。
【0036】
図2を参照して、シールリング25の構成についてさらに説明する。
ガイド部材26は、断面L字状をなし、シール部材27に比べ、硬質であって剛性を有する。ガイド部材26の内周面には、環状の溝部26cが全周に亘って形成されている。ガイド部材26は、その溝部26cと第1ピストン21のフランジ部21aとが嵌合することによって、第1ピストン21に固定される。また、ガイド部材26の内周面のうち、溝部26cが形成された端部26aと反対側の端部26bには、径方向内側に突出している。ガイド部材26がフランジ部21aに固定された状態では、ガイド部材26の内周面と、第1ピストン21の外周面との間には隙間が設けられている。
【0037】
シール部材27は、一方の端部にリップ部27bを備えている。リップ部27bは、その端部に凹部27dが形成されることで、断面が二股に分岐した形状をなしている。シール部材27の径方向外側には、外側リップ部27eが設けられ、径方向内側には、内側リップ部27fが設けられている。
【0038】
シール部材27の他方の端部である固定端部27aは、第1ピストン21の外周面とガイド部材26の内周面との間に設けられた間隙に挟まれるとともに、第1ピストン21のフランジ部21aに当接している。即ち、固定端部27aは、第1ピストン21の外周面とガイド部材26とによって、シール部材27の径方向の両側から挟まれて固定されている。従って、固定端部27aは、第1ケース4の内周面に接触しない。
【0039】
また、シール部材27には、溝部27cが設けられている。この溝部27cと、ガイド部材26の端部26bとは、ガイド部材26及びシール部材27を互いに連結する嵌合構造を構成する。この嵌合構造によって、ガイド部材26及びシール部材27は互いに連結される。
【0040】
さらに、シール部材27の外周面のうち、溝部27cからリップ部27bにかけての領域には、リップ部27bに向かうにつれて径方向外側へ張り出すような傾斜面27gが設けられている。
【0041】
図2中実線で示すように、シールリング25が装着された第1ピストン21が第1ケース4に収容されると、リップ部27bが弾性変形して、外側リップ部27eが第1ケース4の内周面に当接し、内側リップ部27fが第1ピストン21の外周面に当接する。その結果、リップ部27bは、図2中破線で示す自然状態から、図2中実線で示すような外側リップ部27e及び内側リップ部27fが互いに接近した状態になる。また、ガイド部材26の外周面は、第1ケース4の内周面に当接する。
【0042】
シール部材27は、ばね室15の圧力が第1制御室13よりも高いと、外側リップ部27e及び内側リップ部27fを互いに接近させる方向に弾性変形して、空気の流れを許容する。また、第1制御室13の圧力がばね室15よりも高いと、リップ部27bは、凹部27dが広げられる方向に拡開し、第1制御室13からばね室15へ向かう空気の流れを阻止する。
【0043】
また、シール部材27の傾斜面27gと第1ケース4の内周面との間には、隙間28が設けられる。第1ケース4の内周面に塗布されたグリスは、その隙間28に溜められる。第1ピストン21が第1ケース4内を摺動すると、隙間28に溜められたグリスが、第1ケース4の内周面に再び塗布される。
【0044】
次に、前述のように構成されたスプリングブレーキチャンバー1の動作について説明する。
まず図1を参照して、パーキングブレーキが作動するときの動作について説明する。パーキングブレーキの作動操作が行われた際には、一次側流出入孔11に接続された一次側流出入弁が開かれて、第1制御室13から圧縮空気が排出される。また、二次側流出入孔12に接続された二次側流出入弁が開かれて、第2制御室14は大気に開放される。
【0045】
一次側チャンバー2では、圧縮ばね23の付勢力によって第1ピストン21が二次側チャンバー3に向かって移動して、パーキングブレーキ作動位置に固定される。また、第1ピストン21に固定された第1プッシュロッド22は、二次側チャンバー3内に突出して、ダイヤフラム31をロッド挿通部7に向かって強制的に押圧する。これにより、第2ピストン32がロッド挿通部7に向かって移動した状態で保持され、ウェッジ10が、ブレーキシューを拡張させるブレーキロック位置に保持される。
【0046】
次に図3を参照して、パーキングブレーキが解除されるときの動作について説明する。なお、フットブレーキが解除されるときの動作も同様である。パーキングブレーキ又はフットブレーキの作動操作が解除された際には、一次側流出入孔11に接続された一次側流出入弁が開かれて、第1制御室13に圧縮空気が供給される。また、二次側流出入孔12に接続された二次側流出入弁が開かれて、第2制御室14から圧縮空気が排出される。
【0047】
一次側チャンバー2では、第1制御室13の圧縮空気により、圧縮ばね23の付勢力に抗して、第1ピストン21が二次側チャンバー3の反対側へ向かって移動し、パーキングブレーキ非作動位置に配置される。また、第1ピストン21に固定された第1プッシュロッド22は、二次側チャンバー3から退出する。二次側チャンバー3では、第2制御室14から圧縮空気が排出されることにより、ダイヤフラム31が、一次側チャンバー2へ向かって変位する。これにより、第2ピストン32が一次側チャンバー2側へ移動し、ウェッジ10が、ブレーキシューを拡張させるブレーキロック位置から退出する。
【0048】
次に、図4を参照して、フットブレーキが作動するときの動作について説明する。フットブレーキが操作された際には、一次側流出入孔11に接続された一次側流出入弁が開かれて、第1制御室13に圧縮空気が供給される。また、二次側流出入孔12に接続された二次側流出入弁が開かれて、第2制御室14に圧縮空気が供給される。
【0049】
一次側チャンバー2では、第1制御室13の圧縮空気により、圧縮ばね23の付勢力に抗して、第1ピストン21が二次側チャンバー3の反対側へ向かって移動し、パーキングブレーキ非作動位置に配置される。また、二次側チャンバー3では、第2制御室14の圧縮空気によってダイヤフラム31がロッド挿通部7に向かって変位する。するとダイヤフラム31からの押圧力によって、第2ピストン32がロッド挿通部7に向かって移動する。これにより、第2ピストン32がロッド挿通部7に向かって移動した状態で保持され、ウェッジ10が、ブレーキシューを拡張させるブレーキ作動位置に保持される。なお、第2制御室14への圧縮空気の供給量に応じてブレーキ作動量が変更される。
【0050】
ブレーキの作動及び非作動に伴い、第1ピストン21は、シールリング25のガイド部材26にガイドされながら第1ケース4内を摺動する。さらに、第1ピストン21の摺動時において、シール部材27は、リップ部27bのみが第1ケース4の内周面に摺接するので、第1ピストン21に嵌合されるシール部材27に比べ、第1ケース4の内周面との接触面積が低減され、シール部材27の摩耗が抑制される。このため、シールリング25の耐久性を高め、長寿命化を図ることができる。また、第1ピストン21が移動する際の摺動抵抗も低減することができる。
【0051】
また、シール部材27は、第1ピストン21の外周面と、シール部材27よりも剛性を有するガイド部材26との間に挟まれて固定されるので、第1ピストン21に嵌合されるシール部材27に比べ、シール部材27を第1ピストン21に対して強固に固定することができる。さらに、ガイド部材26の端部26bとシール部材27の溝部27cとが嵌合することにより、ガイド部材26及びシール部材27は強固に連結される。このため、シール部材27の脱落を従来よりもさらに抑制することができる。
【0052】
上記実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)シール部材27は、第1ピストン21と、フランジ部21aに固定されたガイド部材26との間に挟まれて固定される。このため、第1ピストン21に嵌合して直接的に固定される構造が設けられたシール部材に比べ、シール部材27を第1ピストン21に強固に固定することができる。
【0053】
(2)ガイド部材26の溝部26cは、第1ピストン21の開口端部に設けられたフランジ部21aに嵌合するので、第1ピストン21の外周面に、ガイド部材26と嵌合するための凸部や凹部を設ける必要がない。従って、第1ピストン21の製造上の制約を少なくすることができるので、例えば第1ピストン21を板金から形成することができる。
【0054】
(3)シール部材27は、第1ピストン21及びガイド部材26によって第1ピストン21の径方向の両側から挟まれる。従って、少なくともシール部材27の固定端部27aは、第1ケース4の内周面と接触することがない。従って、シール部材27と第1ケース4の内周面との接触面積が低減されるので、耐久性を高めることができる。
【0055】
(4)シール部材27は、第1ピストン21とガイド部材26との間に挟まれた上で、固定端部27aが第1ピストン21のフランジ部21aに当接する。このため、第1ピストン21が第1ケース4内を摺動する際、シール部材27の軸方向のずれが抑制される。
【0056】
(5)シール部材27の溝部27c及びガイド部材26の端部26bが互いに嵌合するため、シール部材27及びガイド部材26が互いに連結される力を増大することができる。従って、シール部材27の脱落がさらに抑制される。
【0057】
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のような形態をもって実施することもできる。
図5に示すように、シールリング25は、第1ピストン21のフランジ部21aと、フランジ部21aの外周面に固定されるガイド部材26との間にシール部材27を挟む構成であってもよい。例えば、ガイド部材26は、断面H字状の形状をなし、嵌合部としての嵌合凸部26eと、肉抜き部26fとを有する。また、シール部材27は、第1ケース4の内周面に摺接する先端部27iと、先端部27iに設けられた凹部27jを有する。ガイド部材26は、この嵌合凸部26eが、第1ピストン21の外周面に形成された、被嵌合部としての嵌合溝21bに嵌合されることにより、第1ピストン21に対して固定される。嵌合溝21bは、第1ピストン21が板金からなる場合には切削等により形成される。この構成によれば、シール部材27が、第1ピストン21の軸方向に沿った両側からフランジ部21aとガイド部材26との間に挟まれることによって、シール部材27の厚みや形状等の制約を少なくしつつ、シール部材27を強固に固定することができる。
【0058】
図6に示すように、シールリング25は、第1ピストン21のフランジ部21aと、フランジ部21aの外周面に固定されるガイド部材26との間にシール部材27を挟み、且つガイド部材26及びシール部材27を互いに固定する連結構造を有する構造であってもよい。例えば、ガイド部材26は、第1ピストン21の嵌合溝21bに嵌合する、嵌合凸部26eと、連結部26gとを有する。この連結部26gには、連結溝26hが形成されている。シール部材27は、第1ケース4の内周面に摺接する摺接部27lと、溝部27mを有する連結部27kとを有する。ガイド部材26及びシール部材27は、ガイド部材26の連結溝26hに、シール部材27の連結部27kの先端を連結させ、シール部材27の溝部27mに、ガイド部材26の連結部26gの先端を連結させることにより互いに固定される。この構成によれば、シール部材27が、第1ピストン21の軸方向に沿った両側からフランジ部21aとガイド部材26との間に挟まれることによって、シール部材27が強固に固定されるとともに、シール部材27及びガイド部材26が連結される力を増大することができる。
【0059】
図7に示すように、シールリング25は、第1ピストン21のフランジ部21aと、フランジ部21aの外周面に固定されるガイド部材26との間にシール部材27を挟み、且つガイド部材26及びシール部材27を互いに固定する連結構造を有する構造であってもよい。例えば、ガイド部材26は、第1ピストン21の嵌合溝21bに嵌合する嵌合凸部26eと、開口を有する連結溝26hを有する。連結溝26hは、開口と反対側の端部が大径化されている。シール部材27は、連結凸部27nを有し、その外周面が第1ケース4の内周面に摺接する。連結凸部27nは、シール部材27の本体から突出し、その先端部は大径化されている。連結凸部27nが、ガイド部材26の連結溝26hに挿入されることで、ガイド部材26及びシール部材27が互いに固定される。この構成によれば、シール部材27が、第1ピストン21の軸方向に沿った両側からフランジ部21aとガイド部材26との間に挟まれることによって、シール部材27が強固に固定されるとともに、シール部材27及びガイド部材26が連結される力を増大することができる。
【0060】
図8に示すように、連結ケース6の連通孔41の内周面に設けられるシール構造は、第1ガイド部材45と、ゴム製のDリング46と、断面C字形状のゴム製の第1Cリング47とから構成されていてもよい。Dリング46は、連通孔41と第1プッシュロッド22との隙間を密閉する。第1Cリング47は、断面C字形状の開口部が二次側チャンバー3に向かって開口し、二次側チャンバー3の第2制御室14から一次側チャンバー2の第1制御室13への空気の流れを阻止する。
【0061】
・シール部材27は、その弾性率を調整すること等によって、ばね室15から第1制御室13へ向かう空気の流れを阻止してもよい。
・上記実施形態では、シール部材27を、ウェッジ10からなる接続ポートを有するウェッジブレーキシステムのスプリングブレーキチャンバー1に適用したが、これ以外のブレーキシステムのチャンバーに適用されてもよい。例えば、いわゆるSカムブレーキシステムのスプリングブレーキチャンバーに適用してもよいし、ディスクブレーキシステムのスプリングブレーキチャンバーに適用してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…スプリングブレーキチャンバー、2…一次側チャンバー、3…二次側チャンバー、4…第1ケース、4a…開口端部、5…第2ケース、5a…大径部、5b…小径部、5c…リブ、6…連結ケース、6a…凹部、6b…凸条部、6c…凸条部、6d…リブ、7…ロッド挿通部、8…Oリング、9…クランプリング、10…ウェッジ、11…一次側流出入孔、12…二次側流出入孔、13…第1制御室、14…第2制御室、15…ばね室、16…ピストン室、21…第1ピストン、21a…フランジ部、21b…嵌合溝、22…第1プッシュロッド、23…圧縮ばね、25…シールリング、26…ガイド部材、26b…突条、26c…溝部、26e…嵌合凸部、26f…肉抜き部、26g…連結部、26h…連結溝、27…シール部材、27a…固定端部、27b…リップ部、27c…溝部、27d…凹部、27e…外側リップ部、27f…内側リップ部、27g…傾斜面、27i…先端部、27j…凹部、27k…連結部、27l…摺接部、27m…溝部、27n…連結凸部、28…隙間、31…ダイヤフラム、32…第2ピストン、32a…円板部、32b…棒状部、33…第2プッシュロッド、34…ロッドガイド、35…ダストカバー、41…連通孔、45…第1ガイド部材、46…Dリング、47…第1Cリング、50…循環機構。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8