特許第6674020号(P6674020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674020
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】セルロース微細繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20200323BHJP
   C08B 15/08 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   D21H11/18
   C08B15/08
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-520680(P2018-520680)
(86)(22)【出願日】2017年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2017012627
(87)【国際公開番号】WO2017208600
(87)【国際公開日】20171207
【審査請求日】2018年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-111799(P2016-111799)
(32)【優先日】2016年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
(72)【発明者】
【氏名】丸田 彩子
(72)【発明者】
【氏名】堀 正典
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−520182(JP,A)
【文献】 特表平10−511147(JP,A)
【文献】 特開昭55−051890(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104448007(CN,A)
【文献】 特開2016−79202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B−D21J
C08B1/00−37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸又は高濃度ギ酸水溶液にセルロース修飾反応化剤を加えた修飾反応性解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊する表面修飾セルロース微細繊維の製造方法。
【請求項2】
ドナー数26以上の非プロトン性溶媒と、ギ酸又は高濃度ギ酸水溶液とを含む解繊溶液にセルロース修飾反応化剤を加えた修飾反応性解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊する表面修飾セルロース微細繊維の製造方法。
【請求項3】
前記セルロース修飾反応化剤が、カルボン酸ハロゲン化物類、カルボン酸無水物類、カルボン酸類、イソシアネート類およびエポキシ類から選択された少なくとも一種である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
ルロースと前記修飾反応性解繊溶液との重量割合が、0.5/99.5〜25/75である、請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース微細繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維(細胞壁単位)は、セルロース微細繊維(ミクロフィブリル)の集合体である。ミクロフィブリルは鋼鉄に匹敵する機械特性を持ち、直径約20nmのナノ構造を持つため補強材として社会的に熱く注目されている。しかし、微細繊維は繊維間が水素結合により結束されるため、その微細繊維を取り出すために、水素結合を切断してミクロフィブリルを分離すること(解繊という)が必要である。そのため、激しい物理力を加えた機械解繊法が開発されている。
【0003】
セルロースナノファイバーの製造方法としては水中機械解繊法により製造する方法が知られている。この方法では、セルロースは水により膨潤され、柔らかい状態で高圧ホモジナイザー等の強力な機械せん断によりナノ化する。天然のセルロースミクロフィブリルは結晶ゾーンと非結晶性ゾーンから構成され、非結晶ゾーンは水等の膨潤性溶媒を吸収、膨潤した状態になると、強力なせん断により変形する。そのため、得られるセルロース微細繊維にはダメージが存在し、互いに絡み合い引っかかりしやすい形状となる。
【0004】
また、ボールミル等の強力な機械粉砕法により固体状態特有のメカノケミカル反応が起こる。この作用によりセルロースの結晶構造が破壊されたり、溶解されたりすることが避けられなくなる。その結果、収率は低くなり、結晶化度が低くなる恐れがある。
【0005】
水中解繊のもう一つ問題は、解繊の後、樹脂と複合化するため、脱水して表面疎水化修飾をする必要がある。この脱水工程には高いエネルギーが要する。
【0006】
また、表面をエステル化したセルロース微細繊維の製造方法として、イオン液体と有機溶媒を含有する混合溶媒を用いてセルロース系物質を膨潤及び/または部分溶解させた後、エステル化する方法がある(特許文献1)。しかし、特許文献1のイオン液体と有機溶媒を含有する混合溶媒を用いた場合は、イオン液体の回収や再利用に関するコストが高くなる課題がある。
【0007】
また、表面をエステル化したセルロース微細繊維の製造方法に関して、セルロースと有機溶剤とを混合して、エステル化剤を加えた後に強力な機械的破砕とともにエステル化反応をすることにより、セルロース表面をエステル化し、解離する方法が、特許文献2に開示されている。しかし、特許文献2の方法では、その実施例に示すように用いるエステル化剤と有機溶媒を含む解繊用溶液はセルロースへの浸透性が低く、機械的粉砕処理の間に有機溶剤とエステル化剤がセルロース内部へ殆ど浸透できない。そのため、この製造方法は化学解繊でなく、強力な機械力が必要となる機械解繊方法である。強力な機械的破砕はセルロースナノファイバーを損傷する可能性があるため、上記と同様な問題がある。また、パルプ繊維の内部になるほど有機溶剤とエステル化剤は入りにくいためパルプ内部の方はエステル化修飾されにくくなり、パルプ繊維内部の微細繊維は機械解繊により解繊されても、表面修飾がほとんどできていないと推測できる。また、表面芳香置換基で修飾セルロース微細繊維の製造方法が特許文献3に開示されている。しかし、化学修飾工程のみでは解繊できず強力な機械解繊工程が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−104768号公報
【特許文献2】特表2015−500354号公報
【特許文献3】特開2011−16995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、強力な物理粉砕を必要としない省エネルギーな方法で、ナノサイズで結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少ないセルロース微細繊維の製造方法及び修飾セルロース微細繊維の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討した結果、高圧ホモジナイザーやウォータージェット等を用いて強力に解繊することなく、ギ酸、高濃度ギ酸水溶液又はドナー数26以上の非プロトン性溶媒中にギ酸若しくは高濃度ギ酸水溶液を含む解繊溶液をセルロースに浸透させることで、セルロースを解繊し、ナノサイズで結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少ないセルロース微細繊維の製造方法を見出した。
【0011】
すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とし、上記課題を解決するものである。
〔1〕 ギ酸又は高濃度ギ酸水溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊するセルロース微細繊維の製造方法。
〔2〕 ドナー数26以上の非プロトン性溶媒中にギ酸又は高濃度ギ酸水溶液を含む解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊するセルロース微細繊維の製造方法。
〔3〕 ギ酸、高濃度ギ酸水溶液又は上記〔2〕に記載の解繊溶液に、セルロース修飾反応化剤を加えた修飾反応性解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊する表面修飾セルロース微細繊維の製造方法。
〔4〕 上記セルロース修飾反応化剤が、カルボン酸ハロゲン化物類、カルボン酸無水物類、カルボン酸類、イソシアネート類およびエポキシ類から選択された少なくとも一種である上記〔3〕に記載の製造方法。
〔5〕 セルロースとギ酸若しくは高濃度ギ酸水溶液、セルロースと上記〔2〕に記載の解繊溶液又はセルロースと上記〔3〕に記載の修飾反応性解繊溶液との重量割合が、0.5/99.5〜25/75である上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、高圧ホモジナイザーやウォータージェット等を用いて強力に解繊することなく、ギ酸又は高濃度ギ酸水溶液を含む解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊するため、セルロースのミクロフィブリルに与える損傷が少なく、アスペクト比が大きいセルロース微細繊維を製造することができる。
【0013】
さらに、修飾反応化剤を添加することによりミクロフィブリルの表面の水酸基を修飾反応させて表面修飾セルロース微細繊維を製造することができる。解繊溶液をセルロースに浸透させて繊維間、ラメラ間およびミクロフィブリル間の水素結合を切断しながらミクロフィブリルの表面を修飾するため、天然由来のセルロースの結晶構造やミクロフィブリル構造を破壊することなく、セルロースを解繊し、ミクロフィブリルの表面を効率よく修飾することができる。そのため、ナノサイズで結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少なく、アスペクト比が大きく、且つ乾燥後溶媒や樹脂への再分散性が優れたセルロース微細繊維を、省エネルギーな方法で簡便かつ効率良く生産できる。また、本発明の解繊溶液はセルロースを解繊すると共に、セルロース微細繊維表面の水酸基と様々な修飾反応化剤とを反応させることが可能である。そのため、用途に応じて様々な修飾官能基を導入できる。例えば、疎水性官能基を導入することによりセルロース微細繊維と樹脂などの有機媒体との親和性をさらに向上できる。また、修飾官能基の末端をアクリル基、エポキシ基、イソシアネート基またはビニル基等の反応性基を有する修飾反応化剤で修飾することにより、得られるセルロース微細繊維の表面は反応性基を有する。そのため、その機能性や用途を一層拡大することができる。例えば、複合化の際にセルロース微細繊維と樹脂との間に化学反応が起こることにより界面の接着性を改善し、補強効果を上げることも期待できる。
【0014】
さらに、本発明のセルロース微細繊維の製造方法は、強力な剪断力の働きによる機械的解繊手段を用いることなくセルロース物質を解繊することができるため、得られたセルロース微細繊維は天然のミクロフィブリルに近い構造を持ちダメージが少ないため、高い強度を持っている。
【0015】
さらに、ギ酸は膨潤性溶媒、解繊助剤と修飾反応触媒としての性質を兼ね備えるため単一成分でセルロースを解繊することが可能である。さらに修飾反応化剤を加えると表面修飾と解繊が同時に出来る。さらに、ギ酸は沸点が低いためセルロース微細繊維の精製と回収の工程が簡単、省エネルギーである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1で得られた微細繊維のSEM画像
図2】実施例2で得られた微細繊維のSEM画像
図3】実施例3で得られた微細繊維のSEM画像
図4】実施例4で得られた微細繊維のSEM画像
図5】実施例5で得られた微細繊維のSEM画像
図6】実施例6で得られた微細繊維のSEM画像
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のセルロース微細繊維の製造方法は、機械的に破砕することなく、ギ酸、高濃度ギ酸水溶液又はギ酸若しくは高濃度ギ酸水溶液を含む解繊溶液(以下、これらを総称して「解繊溶液」と述べる場合がある)をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊し、ナノサイズで結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少なくセルロースを解繊することを特徴とする。
【0018】
原料となるセルロースは、セルロース単独の形態であってもよく、リグニンやヘミセルロースなどの非セルロース成分を含む混合形態であってもよい。好ましいセルロース物質としては、I結晶型セルロース構造を含むセルロース物質であり、例えば、木材由来パルプ、木材、竹、リンダーパルプ、綿、セルロースパウダーを含む物質等がある。
【0019】
本発明のセルロース微細繊維の製造方法は、セルロースを解繊する解繊溶液としてギ酸、高濃度ギ酸水溶液又はギ酸若しくは高濃度ギ酸水溶液を含む解繊溶液を用いることを特徴とする。
【0020】
ギ酸または高濃度ギ酸水溶液としては、純度が100重量%に近いギ酸を用いてもよい。原料の入手のし易さ、取り扱いの容易さを考慮すると高濃度ギ酸水溶液を用いるのが現実的である。
【0021】
高濃度ギ酸水溶液は、例えば、40重量%以上のギ酸水溶液である。ギ酸の濃度が高くなるほどセルロースへの浸透、解繊が早くなることから、好ましくは50重量%以上のギ酸水溶液、より好ましくは70重量%以上のギ酸水溶液、さらに好ましくは85重量%以上のギ酸水溶液を用いるのがよい。ギ酸の濃度が40重量%未満になると修飾反応化剤と水との副反応が起こるおそれがある。
【0022】
また、ギ酸又は高濃度ギ酸水溶液は、ドナー数26以上の非プロトン性溶媒と混合して解繊溶液として用いることもできる。この実施形態では、修飾反応性に優れた解繊溶液が得られ得る。
【0023】
上記解繊溶液をセルロースに浸透させることにより、浸透させた解繊溶液がセルロースを膨潤しながらギ酸がミクロフィブリルの間の水素結合を切断することによりミクロフィブリルが自ら解してセルロース微細繊維を得ることができる。
【0024】
上記解繊溶液中のギ酸の割合は、解繊溶液全体に対して20重量%以上であることが好ましい。20重量%未満になると解繊溶液のセルロース内部への浸透性が低下することにより解繊が不十分になるおそれがあるため好ましくない。さらに、ギ酸は弱酸性触媒としても機能し得る。そのため、20重量%未満になると微細セルロース繊維の表面修飾反応の速度が遅いため修飾率が低下するおそれがあるため好ましくない。なお、高濃度ギ酸水溶液を用いる場合、解繊溶液に含まれるギ酸の割合が上記範囲となるよう、高濃度ギ酸水溶液を用いる。
上記解繊溶液中のギ酸の割合は、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上である。
【0025】
また、高濃度ギ酸水溶液とドナー数26以上の非プロトン性溶媒を混合する場合において、上記解繊溶液中のギ酸の割合は上述のとおりである。上記解繊溶液中の水分濃度を30重量%以下にするのが好ましいため、用いる高濃度ギ酸水溶液は、できるだけ高濃度のギ酸水溶液(例えば、40重量%以上)を用いることが好ましい。
【0026】
ギ酸又は高濃度ギ酸水溶液と混合するドナー数26以上の非プロトン性溶媒について任意の適切な溶媒を用いることができる。詳細に説明すると、上記ドナー数26以上の非プロトン性溶媒の中でも、ドナー数26〜35のものが好ましく、より好ましくは26.5〜33、さらに好ましくは27〜32である。ドナー数が低すぎると、上記ギ酸を含む解繊溶液のミクロフィブリル間への浸透性を向上させる効果が発現しないおそれがある。なお、ドナー数については、文献「Netsu Sokutei 28(3)135−143」の記載による。
【0027】
上記非プロトン性溶媒としては、例えば、スルホキシド類、ピリジン類、ピロリドン類及びアミド類などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0028】
さらに、上記ドナー数26以上の非プロトン性溶媒のうち、ギ酸のミクロフィブリル間への浸透性を高度に促進できる点から、ジメチルスルホキシド(ドナー数:29.8)、ピリジン(ドナー数:33.1)、N,N−ジメチルアセトアミド(ドナー数:27.8)、N,N−ジメチルホルムアミド(ドナー数:26.6)及びN−メチル−2−ピロリドン(ドナー数:27.3)からなる群より選択された少なくとも1種であることがより好ましい。
【0029】
非プロトン性溶媒としては、浸透と解繊を損なわない上記溶媒であれば特に限定されない。ギ酸のミクロフィブリル間への浸透性を促進できる点から、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−ジメチルホルムアミドまたはN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0030】
解繊溶液は、他の溶媒として、ドナー数26未満の任意の適切な非プロトン性溶媒、例えば、アセトニトリル、ジオキサン、アセトン、テトラヒドフランなどを含んでいてもよい。ドナー数26未満の溶媒が多すぎると、セルロースミクロフィブリル間への解繊溶液の浸透性の低下およびセルロースの解繊効果の低下が起こるおそれがある。そのため、ドナー数26未満の溶媒の含有量は、好ましくは30重量%以下であり、より好ましくは25重量%以下である。
【0031】
本発明で用いられるギ酸、高濃度ギ酸水溶液又はギ酸若しくは高濃度ギ酸水溶液を含む解繊溶液は、さらにセルロース修飾反応化剤を含んでいてもよい。修飾反応化剤を加えることにより修飾反応性解繊溶液として、セルロースに浸透させて、セルロースを解繊しながらセルロースのミクロフィブリル表面を化学修飾することができる。
【0032】
修飾反応性解繊溶液中のギ酸の割合は、上記解繊溶液中のギ酸の濃度と同じで良い。ギ酸の濃度は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。また、修飾反応化剤の有効利用の視点から、修飾反応性解繊溶液中に加えられる高濃度ギ酸水溶液は、40重量%以上のできるだけ高濃度のギ酸水溶液を用いることが好ましい。ギ酸の濃度は、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。
【0033】
また、修飾反応性解繊溶液に含まれる修飾反応化剤の割合は、解繊溶液のセルロースへの浸透性を低下しない限り特に制限はない。修飾反応化剤の割合は、修飾反応性解繊溶液100重量部に対して例えば、30重量部以下であり、好ましくは0.1〜30重量部、より好ましくは0.1〜25重量部、さらに好ましくは0.5〜20重量部である。修飾反応化剤の割合が多すぎると、解繊溶液の浸透性低下により解繊度合が低下するおそれがある。
【0034】
修飾反応性解繊溶液は、上記割合のギ酸及び修飾反応化剤を含んでいればよい。しかしながら、100%のギ酸を用いることは容易ではないので、通常はその他に水又は水とドナー数26以上の非プロトン性溶媒を含んでいる。修飾反応性解繊溶液中の水又は水とドナー数26以上の非プロトン性溶媒の割合は、ギ酸および修飾反応化剤が上記含有割合を満たしていればよく、解繊・修飾する目的に応じて自由に選択することができる。
【0035】
解繊溶液に修飾反応化剤に加える場合は、解繊溶液に上記修飾反応化剤を混合して修飾反応性解繊溶液を調製してセルロースに浸透させもよいし、修飾反応化剤を加えない解繊溶液をセルロースに浸透させて、解繊がある程度進んでから修飾反応化剤を加えて修飾反応性解繊溶液としてセルロースに浸透させてもよい。
【0036】
上記セルロース修飾反応化剤としては任意の適切な化合物を用いることができる。修飾反応化剤は、カルボン酸ハロゲン化物類、カルボン酸無水物類、カルボン酸類、イソシアネート類およびエポキシ類から選択された少なくとも一種であることが好ましい。
【0037】
上記セルロース修飾反応化剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの修飾反応化剤のうち、解繊性と反応性の点から、炭素数2〜7の修飾反応化剤が好ましく、より好ましくは炭素数2〜5の修飾反応化剤が用いられる。一方、修飾反応化剤の炭素数が8以上になると、ミクロフィブリル間への浸透性とセルロース水酸基に対する反応性が低下するおそれがある。そのため、解繊途中又は解繊完了の後に修飾反応化剤を加えることが好ましい。更に、炭素数が大きい修飾反応化剤は、低炭素数の修飾反応化剤と併用することが好ましい。
【0038】
修飾反応化剤であるカルボン酸ハロゲン化物類は、下記式(1)で表されるカルボン酸ハロゲン化物からなる群より選択された少なくとも1種であってもよい。
−C(=O)−X (1)
(式中、Rは炭素数1〜24のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基及びアリール基のいずれかを表わす。XはCl、Br又はIである。)
【0039】
カルボン酸ハロゲン化物としては、任意の適切なカルボン酸ハロゲン化物を用いることができる。例えば、カルボン酸塩化物、カルボン酸臭化物、カルボン酸ヨウ化物が挙げられる。カルボン酸ハロゲン化物の具体例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイルなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、カルボン酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。
【0040】
修飾反応化剤であるカルボン酸無水物類としては、任意の適切なカルボン酸無水物類を用いることができる。カルボン酸無水物としては、[たとえば、酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸などの飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸、オレイン酸などの不飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸などの脂環族モノカルボン酸無水物;安息香酸、4−メチル安息香酸などの芳香族モノカルボン酸無水物]、二塩基カルボン酸無水物[例えば、無水コハク酸、アジピン酸などの無水飽和脂肪族ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物;無水1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸などの無水脂環族ジカルボン酸;無水フタル酸、無水ナフタル酸などの無水芳香族ジカルボン酸無水物など]、多塩基カルボン酸無水物類(例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの(無水)ポリカルボン酸など)などが挙げられる。解繊を良好に行うことができるという点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸が好ましい。
【0041】
イソシアネート類としては、任意の適切な化合物を用いることができる。イソシアネート類としては、例えば、下記式(2)または(3)で表されるイソシアネートが挙げられる。
−N=C=O (2)
O=C=N−R−N=C=O (3)
(式中、RまたはRとしては炭素数1〜24のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基またはアリール基を表わす)。
【0042】
イソシアネートとしては、具体的には、イソシアン酸メチル(MIC)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2−イソシアナトエチルメタクリレート(MOI)および2−イソシアナトエチルアクリレート(AOI)等のイソシアネート類が挙げられる。アクリル樹脂と複合化するという点から、MOIおよびAOIが好ましい。また、ウレタン樹脂との複合化という点からは、MIC、MDI、HDI、TDI、IPDIが好ましい。
【0043】
エポキシ類としては、任意の適切な化合物を用いることができる。例えば、下記式(4)または(5)で表されるエポキシからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【化1】
(式中、RまたはRは、炭素数1〜24のアルキル基、アルキレン基、エチレングリコールに由来する置換基、ビスフェノールAに由来する置換基、ビスフェノールFに由来する置換基、シクロアルキル基またはアリール基を表わす)。
【0044】
エポキシ類としては、具体的には、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、4−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ラウリルアルコール(EO)15グリシジルエーテル等の単官能基のエポキシ修飾反応化剤、ビスフェノールAエポキシ、ビスフェノールFエポキシ、テレフタル酸ビスグリシジル、ジグリシジルOフタレート等の2官能基エポキシ修飾反応化剤等が挙げられる。エポキシ樹脂との複合化という点から、2官能基エポキシ修飾反応化剤が好ましい。
【0045】
カルボン酸としては、任意の適切な化合物を用いることができる。例えば、脂肪族カルボン酸、又は、アリール基を有するカルボン酸が挙げられる。具体的には、下記式(6)で表されるカルボン酸が挙げられる。
−COOH (6)
(式中、Rは炭素数1〜24のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基またはアリール基を表す)。
【0046】
上記の解繊溶液又は修飾反応性解繊溶液には、さらに酸触媒を加えてもよい。酸触媒としては任意の適切な化合物を用いることができる。例えば、硫酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、リン酸または硝酸が挙げられる。解繊溶液への酸触媒の添加量は任意の適切な量に設定され得る。酸触媒の添加量は好ましくは解繊溶液に対して0.01重量%〜15重量%であり、より好ましくは0.05重量%〜10重量%である。
【0047】
セルロースと解繊溶液又は修飾反応性解繊溶液との重量割合は、例えば、前者/後者=0.5/99.5〜25/75である。好ましくは、1.0/99.0〜20/80、さらに好ましくは2.0/98〜15/85である。
【0048】
次に、セルロースが本発明で用いられる解繊溶液により解繊される理由は次のように推定できる。すなわち、ギ酸は大きい溶解パラメーター(SP値、13.5)と、大きいドナー数(ドナー数:19)と、大きいアクセプター数(アクセプター数:83.6)と大きい誘電率(58.5)とを有する。そのためセルロース内部に浸透しながらセルロース繊維間、ラメラ間およびミクロフィブリル間の水素結合を切断することによって解繊が引き起こされると考えられる。なお、アクセプター数については、Gutmann法により得られる値である。
さらに、ギ酸はアルデヒド官能基を含んでいる。そのため、アルデヒド基はミクロフィブリル表面の水酸基とヘミアセタール又はアセタールを形成してミクロフィブリル間の水素結合を切断し、ミクロフィブリル同士は容易に離れ、解繊されることが考えられる。
【0049】
また、本発明で用いる解繊溶液は、ミクロフィブリルの結晶ゾーン(ドメイン)に浸透しないため、得られたセルロース微細繊維は、ダメージが少なく、天然のミクロフィブリルに近い構造を有している。同時に、この工程では、剪断力の働きによる機械的解繊手段を用いることなく、セルロースを解繊できるため、物理的な作用によるダメージも少ない。そのため、得られた修飾セルロース微細繊維は、高い強度を保持していると推定できる。さらに、表面の荒さが少ないため一旦乾燥しても溶媒や樹脂への再分散が容易である。
【0050】
本発明のセルロース微細繊維および表面修飾セルロース微細繊維の製造方法は、ギ酸を含む解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロース繊維間、ラメラ間およびミクロフィブリル同士間の水素結合を切断することにより行われる。ギ酸を含む解繊溶液をセルロースに浸透させるには、解繊溶液とセルロースを混合すればよく、通常、解繊溶液にセルロースを添加して混合する又はセルロースに解繊溶液を添加して混合する方法が利用できる。
そして、セルロースは、解繊溶液と混合する前に一定サイズまで千切った状態にしておくことが好ましい。一定サイズとは解繊容器に入れるサイズより小さいサイズである。
【0051】
解繊溶液に修飾反応化剤を共存させる修飾反応性解繊溶液による解繊・修飾の場合も、修飾反応化剤を含まない解繊溶液の場合と同様の方法が用いられる。すなわち、修飾反応性解繊溶液とセルロースを混合することにより、修飾反応性解繊溶液が、ミクロフィブリル間に浸入して、ミクロフィブリル同士間の水素結合を切断して、微細繊維の表面を修飾したセルロース微細繊維を得ることができる。
【0052】
修飾反応性解繊溶液は、解繊溶液と修飾反応化剤を撹拌などによって均一に混合してセルロースに浸透させることにより修飾と解繊を同時に行う。これらの混合物の混合の順序は、特に制限はなく、任意の適切な順序で混合され得る。通常は、上記ギ酸又はギ酸水溶液若しくはギ酸又はギ酸水溶液を含む非プロトン性溶媒に修飾反応化剤を加える方法が用いられる。
また、修飾反応化剤の極性が低い場合は、解繊溶液の浸透速度、膨潤速度、そして解繊速度を低下させないため、まず、修飾反応化剤を加えない解繊溶液をセルロースに浸透させて、解繊がある程度進んでから解繊溶液に修飾反応化剤を加えることが好ましい。この場合、解繊溶液に修飾反応化剤の全てを一度加えても良いし、修飾反応化剤を数回に分けて加えても良い。
さらに、修飾反応性解繊溶液をセルロースに浸透させた後に触媒を加えることもできる。
【0053】
解繊方法について詳しく説明する。本発明で用いる解繊溶液による解繊方法は、解繊溶液又は修飾反応性解繊溶液にセルロースを混合して0.5時間〜1時間以上放置してもよく、混合後、さらに溶液中でセルロースが均一な状態を維持できる程度の撹拌を行ってもよい。すなわち、解繊は解繊溶液にセルロースを混合して放置するだけでも進行するが、浸透又は均一性を促進するために、撹拌手段を用いて撹拌を行ってもよい。撹拌は、任意の適切な手段を用いて行うことができ、通常、有機合成で汎用されている撹拌機又はマグネティックスターラーによる撹拌程度の強さの撹拌であればよい。撹拌機は特に制限はなく、通常、撹拌又はブレンドや混練できる装置であればよい。また、ニーダーや押出機のような混練機でもよい。特にセルロースの濃度が高い場合、高粘度に対応できるニーダーや押出機が好ましい。また、撹拌は、連続的に撹拌してもよいし、断続的に撹拌してもよい。
【0054】
本発明での解繊における温度は、加熱する必要はなく、室温で解繊又は修飾反応をさせればよい。2時間以上撹拌することにより、剪断力の働きによる機械的解繊手段を用いることなく、セルロースを上で述べたように化学的に解繊できる。本発明では、余分なエネルギーを使用することなくセルロースを解繊できる。解繊の温度を常温より高くすると解繊に要する処理時間を短縮することができるので、解繊処理において加熱を行っても良い。エネルギー効率を考慮すると加熱しなくても十分である。本発明では、余分なエネルギーを使用することなく常温でセルロースを解繊できることが特徴である。
一方、修飾反応性解繊溶液を用いて表面修飾セルロース微細繊維を調製する際は、修飾反応を促進するために、加熱することが好ましい。加熱温度は、常圧で反応させる場合、例えば、90℃以下であり、好ましくは40℃〜90℃、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下であり、特に好ましくは50℃以下である。加圧しながら反応させる場合は、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは135℃以下である。180℃を超える温度まで加熱するとセルロースが分解するおそれがあるため好ましくない。また、180℃を超える温度になると修飾反応速度が解繊速度を上回る場合がある。そうすると解繊度合が悪くなるおそれや、収率が低くなるおそれがあるため好ましくない。
【0055】
本発明においてセルロースを解繊するのに要する解繊処理時間は、ギ酸の濃度、非プロトン性極性を溶媒を用いる場合は加える溶媒のドナー数、解繊溶液とセルロースの混合比率、処理温度、撹拌の程度等による。上記した条件の範囲で解繊を行えば、通常0.5時間〜50時間の範囲で解繊が可能である。
処理時間が短すぎると、解繊溶液がミクロフィブリル間まで浸透するのが不十分となり、不十分な解繊になることがある。また、処理時間が長くなると効率が悪くなり、収率が低下することがある。処理時間は、好ましくは1時間〜36時間、さらに好ましくは1.5時間〜24時間程度である。
修飾反応性解繊溶液を用いてセルロースを解繊・修飾する場合の処理時間も、ギ酸の濃度、非プロトン性極性を溶媒を用いる場合は加える溶媒のドナー数、修飾反応化剤の種類、加える溶媒のドナー数、修飾反応性解繊溶液とセルロースの混合比率、処理温度、撹拌の程度等による。上記した条件の範囲で解繊を行えば、通常0.5時間〜50時間の範囲で解繊・修飾が可能である。
処理時間は、処理温度(反応温度)を高めたり、撹拌速度を増加したりすることで短くすることができる。しかし、反応時間が短すぎると、解繊溶液がミクロフィブリル間まで浸透するのが不十分となり、解繊と修飾反応が不十分となるおそれがある。
さらに、修飾反応化剤を途中から加える場合は、修飾反応化剤を加えてからさらに0.5時間〜5時間以上反応させることが好ましい。
また、修飾反応化剤として炭素数の大きいカルボン酸無水物又は炭素数の大きいカルボン酸ハロゲン化物を用いた解繊の場合は、解繊処理時間は好ましくは2時間以上であり、更に好ましくは3時間以上であり、より好ましくは4時間以上である。
【0056】
解繊溶液を用いた解繊の場合、解放容器又は密閉容器の何れによっても処理できる。修飾反応性解繊溶液を用いてセルロースを解繊・修飾する場合は、修飾反応化剤の揮発又は吸水による修飾反応化剤の副反応を抑えるため密閉容器内で行うことが好ましい。さらに、修飾反応化剤が水分と副反応しやすい場合、窒素やアルゴン雰囲気下で解繊を行うことが好ましい。解放容器又は密閉容器には、撹拌装置及び加熱還流装置を取り付けて処理することができる。
【0057】
解繊して得られたセルロース微細繊維は、任意の適切な方法(例えば、遠心分離、濾過、濃縮、沈殿など)により分離精製してもよい。例えば、セルロース微細繊維と解繊溶液とを含む解繊混合物を遠心分離又は濾過することにより微細繊維と解繊溶液を分離してもよい。または、解繊溶液の各成分を溶解可能な溶媒(水、アルコール類、ケトン類など)を解繊混合物に添加し、上記遠心分離、濾過、沈殿などの分離法(任意の適切な方法)で分離精製(洗浄)してもよい。なお、分離操作は複数回(例えば、2〜5回程度)行うことができる。修飾反応化剤を添加した場合、反応終了後、水又はメタノールなどで修飾反応化剤を失活させてもよいが、再利用の観点から失活せずに蒸留により回収して再利用することが好ましい。
【0058】
得られたセルロース微細繊維は、ナノサイズから数百ナノサイズに解繊されており、平均繊維径は、例えば、2nm〜800nm、好ましくは3nm〜600nm、より好ましくは5nm〜500nm、さらに好ましくは10nm〜300nmである。繊維径が大きすぎると、補強材としての効果が低下するおそれがあり、小さすぎると、微細繊維の取り扱い性や耐熱性も低下するおそれがある。
【0059】
得られたセルロース微細繊維は、強力な機械力を加えないため、従来の機械解繊法で得られた微細繊維よりも長い繊維長を有しており、平均繊維長は例えば、1μm以上である。そして、得られるセルロース微細繊維は1μm〜200μm程度の平均繊維長の範囲になっているが、その用途に応じて反応条件をコントロールして適当な平均繊維長のセルロース微細繊維を得ることができる。一般的には、例えば、1μm〜100μm、好ましくは2μm〜60μm、さらに好ましくは3μm〜50μmである。繊維長が短すぎると、補強効果や成膜機能が低下するおそれがある。また、長すぎると、繊維が絡み易くなるため溶媒や樹脂への分散性が低下するおそれがある。
【0060】
微細繊維のアスペクト比は解繊溶液の組成と浸透時間により容易に制御できる。一般的には、40〜1000が好ましい。分散性と補強効果の観点からより好ましくは50〜800、さらに好ましくは80〜600程度がよい。40未満になると分散しやすいものの補強効果や自立膜の強度が低いため好ましくない。一方、1000を超えると繊維の絡み合いにより分散性が低下するおそれがある。
【0061】
本発明で得られる平均繊維径が2nm〜800nm、アスペクト比が40〜1000であるセルロース微細繊維及び修飾セルロース微細繊維は、以下のように再分散することができる。修飾処理していないセルロース微細繊維は、乾燥の後に水、エチレングリコールを含むセロソルブなどの有機溶媒、SP値が10を超えるのモノマー及び樹脂に再分散できる。修飾反応化剤で修飾されたセルロース微細繊維は乾燥の後にSP値10以下の有機溶媒、モノマー又は樹脂に再分散可能である。修飾されたセルロース微細繊維の中でも、アセチル化修飾セルロース微細繊維は、エチレングリコールを含むセロソルブ、エタノール、アセトン、1,4−ジオキサンとジメチルアセトアミド等の有機溶媒、SP値が10を超える有機溶媒及びSP値10以下の有機溶媒、モノマー及び樹脂に再分散可能である。アルキル基の炭素数が3以上のカルボン酸無水物で修飾されたセルロース微細繊維はSP値が10を超える溶媒やモノマー又は樹脂に分散できる。
【0062】
分散可能なSP値10以下の溶媒としては、例えば、アセトン(9.9)、1,4−ジオキサン(10)、1−ドデカノール(9.8)、テトラヒドロフラン(9.4)、メチルエチルケトン(MEK)(9.3)、酢酸エチル(9.1)、トルエン(8.8)、酢酸−ブチル(8.7)、メチルイソブチルケトン(MIBK)(8.6)、が挙げられる。樹脂の場合では、例えば、ポリウレタン(10.0)、エポキシ樹脂(9〜10)、ポリ塩化ビニル(9.5〜9.7)、ポリカーボネート(9.7)、ポリ酢酸ビニル(9.4)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(9.2)、ポリスチレン(8.6〜9.7)、NBRゴム(8.8〜9.5)、ポリプロピレン(8.0)及びポリエチレン(7.9)が挙げられる。
【0063】
本発明により得られる修飾された微細繊維の表面は均一に修飾されているため、有機溶媒、モノマー又は樹脂によく分散できる。特に従来技術で実現できないSP値10以下の溶媒や樹脂への分散が可能となる。その理由としては、本発明で得られる微細繊維は伸びた状態で解繊溶液中で修飾されることにより表面の水酸基はムラなく修飾されるため、乾燥した後も伸びた状態を維持できることが考える。一方、従来技術では、表面修飾セルロース微細繊維を調製するため、まず水中にセルロースを強力的な機械粉砕又はせん断力により解繊した後、アセトンやトルエンなどの非プロトン性極性溶媒で水を置換して修飾反応する。未修飾セルロース微細繊維は溶媒置換の際、微細繊維同士が結合したり、寄り集まったり、又は微細繊維が自ら絡み合うことにより微細繊維が塊の凝集態になる。この状態で反応溶媒中に入れても凝集した塊として存在するため、塊の表面の水酸基しか修飾されないため、得られる修飾微細繊維は、溶媒や樹脂によく分散することができない。
【0064】
本発明で得られるセルロース微細繊維は、例えば、塗料、接着剤、複合化材などの分野への用途が想定できる。そして、樹脂に分散させた場合、従来の修飾セルロース微細繊維に比べて分散効果の高い本発明で得られる修飾セルロース微細繊維は、樹脂へ分散させた場合の補強効果がより強力である。
【0065】
セルロース微細繊維の平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は用途に応じて変更してもよい。例えば樹脂と複合化する場合、30以上であってもよく、好ましくは40〜1000、より好ましくは50〜500、さらに好ましくは60〜200、特に好ましくは80〜150である。
【0066】
なお、修飾セルロース微細繊維の平均繊維径、平均繊維長及びアスペクト比を求める方法として、本発明では、走査型電子顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出する方法によりこれらの値を求めている。
【0067】
また、修飾反応化剤を含む解繊溶液で処理して得られた修飾されたセルロース微細繊維は、各繊維又は全ての繊維がむら無く修飾されているため、有機溶媒や樹脂などの有機媒体によく分散できる。
修飾セルロース微細繊維の特性(例えば、低線膨張特性、強度、耐熱性など)を樹脂に有効に発現させるためには、結晶性の高い修飾セルロース微細繊維が好ましい。
【0068】
本発明で得られる修飾セルロース微細繊維では、化学解繊されるため、原料セルロースの結晶性を高度に維持できる。修飾セルロース微細繊維の物性が向上することから、結晶化度は高いほど好ましい。修飾セルロース微細繊維の結晶化度は例えば、50%以上であり、好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上である。結晶化度が小さすぎると、線膨張特性や強度などの特性を低下させるおそれがある。本発明で得られる修飾セルロース微細繊維の結晶化度は、原料となるセルロースの結晶化度に影響されるため、修飾セルロース微細繊維の結晶化度は原料となるセルロースの結晶化度以下になり得る。従って、修飾セルロース微細繊維の使用目的によって原料セルロースを選択すればよい。なお、結晶化度は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0069】
修飾セルロース微細繊維の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数)は、微細繊維径と修飾反応化剤の種類により決定され得る。平均値感度は、例えば1.5以下であり、好ましくは0.02〜1.2であり、より好ましくは0.05〜1.2であり、さらに好ましくは0.1〜1.2であり、さらににより好ましくは0.15〜1.0であり、特に好ましくは0.25〜0.9であり、さらに特に好ましくは0.3〜0.9である。平均置換度が大きすぎると、微細繊維の結晶化度又は収率が低下するおそれがある。平均置換度(DS:degree of substitution)は、セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数であり、Biomacromolecules 2007,8,1973−1978やWO2012/124652A1又はWO2014/142166A1などに記載されており、これらの記載は本明細書に参考として援用される。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、用いた原料の詳細は以下の通りであり、得られた修飾セルロース微細繊維の特性は以下のようにして測定した。明記しない実施例又は比較例の解繊を室温で行うこととなる。
【0071】
(用いた原料、触媒及び溶媒)
セルロースパルプ:市販木材パルプ(Georgia Pacific社製、商品名:フラッフパルプARC48000GP)をサンプル瓶に入れるサイズまで千切ったパルプ。
ギ酸、有機溶媒、カルボン酸無水物:ナカライテスク(株)製。ギ酸として88重量%のギ酸水溶液を用いた。
【0072】
(解繊度合の評価)
得られたセルロース微細繊維を光学顕微鏡(ニコン(株)製「OPTIPHOT−POL」)でセルロースの解繊度合を観察し、以下の基準で評価した。
◎:解繊が進行し、500nmを超える繊維径を有する繊維が殆ど存在しない
○:殆どの繊維径が500nm以下であるが、1μm以上の繊維径を有する繊維が少し存在する
×:原料セルロースの繊維がそのまま残存している。
(セルロース微細繊維の平均置換度)
修飾セルロース微細繊維の表面修飾率は、平均置換度で示し、下記の滴定法によって測定した。なお、平均置換度とは、セルロースの繰り返し単位1個当たりの修飾された水酸基の数(置換基の数)の平均値である。
即ち、水又は有機溶媒で洗浄して乾燥した表面修飾セルロース微細繊維(固形分0.05g)にメタノール6ml、蒸留水2mlを添加し、60℃〜70℃で30分撹拌した後、0.05N水酸化ナトリウム水溶液10mlを添加し、60℃〜70℃で15分撹拌し、さらに室温で一日撹拌した。得られた混合液に対して、フェノールフタレインを用いて0.02N塩酸水溶液で滴定し、下記式より化学修飾率を計算した。
ここで、滴定に要した0.02N塩酸水溶液の量Z(ml)から、化学修飾により導入された置換基のモル数Qは、下記式で求められる。
Q(mol)=0.05(N)×10(ml)/1000−0.02(N)×Z(ml)/1000
この置換基のモル数Qと、平均置換度Dとの関係は、以下の式で算出される[セルロース=(C10)n=(162.14)n,繰り返し単位1個当たりの水酸基数=3,OHの分子量=17]。
D=162.14×Q/[サンプル量−(T−18)×Q]
(式中、Tはエステル化置換基の前駆体であるカルボン酸の分子量である。たとえば、アセチル化修飾の場合、Tは酢酸の分子量である)。
(セルロース微細繊維の形状観察)
セルロース微細繊維の形状はFE−SEM(日本電子(株)製「JSM−6700F」、測定条件:20mA、60秒)を用いて観察した。なお、平均繊維径及び平均繊維長は、SEM写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出した。
(結晶化度)
得られた修飾セルロース微細繊維の結晶化度は、参考文献:Textile Res. J. 29:786−794(1959)に記載の方法に基づき、XRD分析法(Segal法)により測定し、下記式により算出した。
結晶化度(%)=[(I200−IAM)/I200]×100%
[式中、I200はX線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、IAMはアモルファス部(002面と110面間の最低部、回折角2θ=18.5°)の回折強度である]。
【0073】
[実施例1]
ギ酸水溶液10gとセルロースパルプ0.3gを20mlのサンプル瓶に入れ、磁性スターラーで3時間撹拌した後、200mlの遠心管に移し、蒸留水100mlを加え、遠心分離で洗浄した。同じ手順で遠心分離を3回行うことによりギ酸を除いてセルロース微細繊維を得た。得られたセルロース微細繊維について、修飾率を固体NMRにより定量した。また、光学顕微鏡で解繊度合を観察した。微細繊維の形状はFE−SEMで観察した。結果を表1に示す。表1に示すようにセルロース微細繊維の表面は修飾されていないことが分った。SEMの写真を図1に示す。セルロース微細繊維の平均繊維径は100nm以下、平均繊維長は13.9μmであった。得られた微細繊維は105℃で乾燥した後水又はエチレングリコールに再び分散できた。結晶化度の測定結果を表1に示す。
【0074】
[実施例2]
ギ酸水溶液10gに代えてギ酸水溶液9gとプロピオン酸無水物1gを用いたこと、解繊時間3時間を5時間に変更したこと以外、実施例1と同様にしてセルロース微細繊維を得た。得られたセルロース微細繊維を実施例1と同様に評価した。セルロース微細繊維の平均エステル置換度は0.5、平均繊維径は実施例1とほぼ同等の100nm以下、平均繊維長は15.0μmであった。得られた微細繊維は105℃の送風乾燥機で乾燥した後ジメチルアセトアミド、アセトン又はメチルエチルケトンに再び分散できた。微細繊維のSEM像を図2に示す。結晶化度の測定結果を表1に示す。
【0075】
[実施例3]
プロピオン酸無水物に代えて無水酢酸を用いた以外、実施例2と同様にしてセルロース微細繊維を得た。得られたセルロース微細繊維を実施例2と同様に評価した。セルロース微細繊維の平均エステル置換度は0.6、平均繊維径は100nm以下、平均繊維長は12.2μmであった。得られた微細繊維を105℃送風乾燥機で乾燥した後ジメチルアセトアミドに再び分散できた。微細繊維のSEM像を図3に示す。結晶化度の測定結果を表1に示す。
【0076】
[実施例4]
プロピオン酸無水物に代えて無水酪酸を用いた以外、実施例2と同様にしてセルロース微細繊維を得た。得られたセルロース微細繊維を実施例2と同様に評価した。微細繊維の平均エステル置換度は0.32、平均繊維径は100nm以下、平均繊維長は12.6μmであった。得られた微細繊維は105℃の送風乾燥機で乾燥した後ジメチルアセトアミド、アセトン又はメチルエチルケトンに再び分散できた。微細繊維のSEM像を図4に示す。結晶化度の測定結果を表1に示す。
【0077】
[実施例5]
ギ酸水溶液10gに代えてギ酸水溶液5gとDMSO5gを用いた以外、実施例1と同様にしてセルロース微細繊維を得た。得られたセルロース微細繊維を実施例1と同様に評価した。得られたセルロース微細繊維は表面が修飾されず、平均繊維径は100nm以下、平均繊維長は13.3μmであった。微細繊維のSEM像を図5に示す。結晶化度の測定結果を表1に示す。
【0078】
[実施例6]
室温での解繊処理に代えて解繊溶液を60℃で加熱しながら2時間撹拌した以外、実施例1と同様にしてセルロース微細繊維を得た。得られたセルロース微細繊維を実施例1と同様に評価した。微細繊維の平均繊維径、平均繊維長は実施例1とほぼ同様であった。
【0079】
(比較例1)
ギ酸水溶液を酢酸に変更した以外は実施例1と同様にして解繊を行った。セルロースパルプはほとんどシートのままで分散しなかった。
【0080】
(比較例2)
ギ酸水溶液をプロピオン酸に変更した以外は実施例1と同様にして解繊を行った。セルロースパルプはほとんどシートのままで分散しなかった。
【0081】
(比較例3)
ギ酸水溶液を35重量%の塩酸水溶液に変更した以外は実施例1と同様にして解繊を行った。セルロースパルプは繊維レベルまで分散できたが、光学顕微鏡で観察した結果繊維は全く解繊していなかった。
【0082】
実施例及び比較例で得られた修飾セルロース微細繊維の評価結果を表1に示す。
【表1】
表1の結果から明らかなように、実施例で得られたセルロース微細繊維は、解繊が進んでいるのに対して、比較例で得られた修飾セルロース微細繊維は、解繊が殆ど進んでいなかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の製造方法で製造されるセルロース微細繊維は、各種複合材料、コーティング剤に利用でき、シートやフィルムに成形して利用することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6