(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レーザ光が、周波数1Hz以上、60Hz以下のパルスレーザであり、パルス幅が1ナノ秒以上、15ナノ秒以下であり、1パルス当たりの照射面におけるレーザ光の強度が0.01J/cm2以上、1J/cm2以下である請求項6または7記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、開口パターンの形成された樹脂フィルムを蒸着マスクとして有機EL表示装置が製造される場合、画素により画素面積が大きくなったり、小さくなったり、または積層される有機層の厚さにバラツキが生じたりする場合がある。このように画素により有機層の積層状態にバラツキが生じると、表示装置の表示品位が低下するという問題がある。
【0007】
また、前述の光学素子を製造する場合でも、この種の光学素子は光の波長相当のnm(ナノメートル)オーダの非常に微細なパターンが求められるが、場合によっては、その微細パターンが不均一になり、所望の光学特性が得られない場合がある。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねてこの問題の原因を調べた結果、樹脂製フィルムとサポート部材とが、きちんと密着していないと、樹脂製フィルムに開口や凹凸の微細加工が形成される際に、開口の周縁や凹凸の境界部にバリが発生したり、フィルムの剥れによる浮きが形成されたりすることにより、有機材料の堆積が不均一になったり、微細パターンが不均一になったりすることを見出した。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、有機EL表示装置を製造する場合の蒸着マスクとする開口パターンを有する樹脂フィルム、または蒸着マスクよりもさらに微細なパターンを有する回折格子や反射防止膜などの微細パターンを有する樹脂フィルムを製造する方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的は、この微細パターンを有する樹脂フィルムで形成された蒸着マスクを用いた有機EL表示装置の製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、樹脂材料を用いながら蒸着マスクや光学素子のような微細なパターン加工を正確に形成することができる基材フィルムを提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、基材フィルムに微細パターンが形成されたサポート部材付き樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の微細パターンを有する樹脂フィルムの製造方法は、サポート部材上に液状の樹脂材料を塗布することで樹脂塗布膜を形成し、前記樹脂塗布膜の温度を前記樹脂材料が硬化する温度まで上昇させて前記樹脂塗布膜を焼成することで樹脂焼成膜を形成し、前記サポート部材に付着している前記樹脂焼成膜にレーザ光を照射して加工することにより、前記樹脂焼成膜に所望のパターンを形成し、前記樹脂フィルムを前記サポート部材から剥離することを特徴とする。
【0014】
本発明の有機EL表示装置の製造方法は、サポート部材上に液状樹脂を塗布して焼成した樹脂焼成膜にレーザ光の照射により開口パターンを形成することで、蒸着マスクを形成し、第1電極が形成された基板上に前記蒸着マスクを位置合せして重ね合せ、有機材料を蒸着することにより前記基板上に有機層を積層し、前記蒸着マスクを除去して第2電極を形成することを特徴としている。
【0015】
本発明のレーザ加工による微細パターン形成用基材フィルムは、サポート部材と、前記サポート部材の一面に、前記微細パターンの形成領域の全面に亘って、前記サポート部材と密着して形成される短波長光吸収層と、前記短波長光吸収層の前記サポート部材とは反対面に、前記微細パターンの形成領域の全面に亘って、前記短波長光吸収層と密着して形成される樹脂焼成膜とを有している。
【0016】
ここに短波長光とは、具体的には300nm以上であって400nm以下程度の波長の光のことで、光吸収層により吸収され得る波長の光であればよい趣旨である。したがって、レーザ光ではなくてもよい。また、必ずしもこの波長には限定されず、光を吸収し過ぎて、樹脂フィルムを破損しない程度の光であればよい。また、密着しているとは、サポート部材などとの間に、例えば100nm以上、好ましくは10nm以上の幅(長さ)の気泡などからなる間隙部が形成されていないことを意味している。ここで、間隙部とは、サポート部材と樹脂焼成膜とが接触していない領域を指し、そのサポート部材などとの間隔が、例えば10nm以上の隙間を有するものである。
【0017】
本発明のサポート部材付き樹脂フィルムは、サポート部材と、前記サポート部材の一面に形成される短波長光吸収層と、前記短波長光吸収層の前記サポート部材とは反対面に蒸着マスク用の開口パターンまたは光学素子用の凹凸パターンが形成された樹脂焼成膜とを有し、前記開口パターンまたは前記凹凸パターンが形成される領域の全面に亘って、前記サポート部材と前記短波長光吸収層とが密着しており、かつ、前記短波長光吸収層と前記樹脂焼成膜とが密着している。
【発明の効果】
【0018】
本発明の樹脂フィルムの製造方法によれば、サポート部材の表面に液状の樹脂材料が少なくともパターン形成領域の全面に亘って塗布される。従って、液状の樹脂材料はサポート部材の表面を舐めるように流れ、サポート部材の表面に密着して樹脂塗布膜が形成される。この樹脂塗布膜が焼成されることにより、焼成の際に形成される界面層を介して樹脂焼成膜はサポート部材と密着する。従って、従来の樹脂製フィルムをサポート部材に貼り付ける場合に生じやすい気泡の巻き込みは一切発生しない。そのため、この上面側からレーザ光の照射により、蒸着マスクの開口パターンや光学素子の微細パターンが形成される場合に、サポート部材と密着した状態で加工がなされる。その結果、加工塵が生じたり、開口部の端部に樹脂フィルム(樹脂焼成膜)の浮きが生じたりすることは一切ない。しかも、この樹脂フィルム(樹脂焼成膜)をサポート部材から剥離する際に、短波長光のレーザ光などの照射により剥離されれば、樹脂焼成膜に無理な力が加わることがなく、樹脂フィルムは変形しないで分離される。
【0019】
本発明の有機EL表示装置の製造方法によれば、有機層を積層する際の蒸着マスクがサポート部材上に液状の樹脂材料を塗布して焼成することにより形成された樹脂フィルムを蒸着マスクとして使用しているため、有機材料を蒸着する蒸着マスクの開口パターンが非常に精密な一定のパターンで形成されており、開口端部の変形や浮きなどが生じていない。その結果、この蒸着マスクを使用して有機層が積層されると、画素ごとの有機層が非常に正確な寸法で、しかも各層の有機層の厚さも一定した積層構造が得られる。そのため、非常に表示品位の優れた有機EL表示装置が得られる。
【0020】
本発明の基材フィルムによれば、サポート部材上に密着して短波長光吸収層を介して樹脂焼成膜が形成されている。すなわち、樹脂焼成膜と短波長光吸収層との間および短波長光吸収層とサポート部材との間は、共に微細パターンが形成される領域の全面に亘って密着しており、気泡などが介在していない。そのため、この樹脂焼成膜の表面側からレーザ光照射による微細なレーザ加工が行われても、樹脂焼成膜は短波長光吸収層を介してサポート部材と密着した状態で加工される。その結果、開口端部などに樹脂焼成膜の浮きなどが形成されない。すなわち、樹脂焼成膜とサポート部材との間に気泡などが存在する場合に、その気泡部分で樹脂焼成層がレーザ加工により切断されると、樹脂焼成層の開口端部が浮いて膨らんだ状態になったり、浮いた部分がちぎれて加工塵として飛散したりするが、本発明では、全面がサポート部材に密着した状態で加工される。その結果、形成される微細パターンも非常に高精度に加工される。従って、蒸着マスク用の開口パターンや、回折格子などの光学素子の微細パターンも非常に精密なパターンで形成される。また、サポート部材との界面には短波長光吸収層が形成されているため、短波長光が照射されることにより、樹脂フィルム(樹脂焼成膜)は容易にサポート部材から分離し得る。
【0021】
本発明のサポート部材付き樹脂フィルムによれば、上述のように、微細なパターンが正確な寸法で形成されているので、この樹脂焼成膜がサポート部材から剥離されるだけで樹脂フィルムとなり、蒸着マスクや光学素子として利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎに、図面を参照しながら本発明の微細パターンを有する樹脂フィルムの製造方法、その樹脂フィルムを形成するための、レーザ加工による微細パターン形成用基材フィルム、およびサポート部材付き樹脂フィルムが説明される。
図1に、本発明の一実施形態による樹脂フィルムの製造方法を示すフローチャートが、
図2〜6にその各工程での平面および断面での説明図が、それぞれ示されている。
【0024】
本実施形態による微細パターンを有する樹脂フィルム1の製造方法は、
図1および
図2〜6に示されるように、サポート部材2上に液状の樹脂材料11a(
図7参照)が塗布されることで樹脂塗布膜11が形成される(S1、
図2)。その樹脂塗布膜11の温度がその樹脂材料11aの硬化温度まで上昇されて樹脂塗布膜11が焼成されることで樹脂焼成膜12が形成される(S2、
図3)。このとき、樹脂塗布膜11の膜厚よりも樹脂焼成膜12の膜厚の方が薄くなる。併せて、この焼成の際に、樹脂焼成膜12のサポート部材2との界面に短波長光吸収層13が形成される。これにより、本発明の一実施形態である基材フィルム1aが形成される。そして、サポート部材2に樹脂焼成膜12が付着している基材フィルム1aに、レーザ光が照射されて加工されることにより、所望の微細パターン3を有するサポート部材付き樹脂フィルム1bが形成される(S3、
図4)。その後、微細パターン3が形成された樹脂焼成膜12(樹脂フィルム1)がサポート部材2から剥離されることにより、微細パターンを有する樹脂フィルム1が得られる(S5、
図6)。なお、
図1のS4および
図5では、微細パターン3が形成された樹脂焼成膜12の周縁に枠体4が取り付けられているが、この枠体4は、サポート部材2から分離された樹脂フィルム1の取扱いを容易にするためのもので、必ずしも必須ではない。また、枠体4を取付ける工程(S4、
図5)は、
図1に示すS2→S3→S4の順だけでなく、樹脂焼成膜12の形成(S2)後の実施、すなわち、S2→S4→S3の順であってもよい。
【0025】
本実施形態のレーザ加工による微細パターン形成用基材フィルム1aは、
図3に示されるように、サポート部材2と、サポート部材2の一面に、微細パターン3(
図4参照)の形成領域の全面に亘って、サポート部材2と密着して形成される短波長光吸収層13が形成されている。そして、短波長光吸収層13のサポート部材2とは反対面に、微細パターン3(
図4参照)の形成領域の全面に亘って、短波長光吸収層13と密着して樹脂焼成膜12が形成されている。
【0026】
また、本実施形態のサポート部材付き樹脂フィルム1bは、
図4に示されるように、サポート部材2と、サポート部材2の一面に形成される短波長光吸収層13と、短波長光吸収層13のサポート部材2とは反対面に蒸着マスク用の開口パターンまたは光学素子用の凹凸パターンなどの微細パターン3が形成された樹脂焼成膜12(樹脂フィルム1)とを有している。そして、微細パターン3が形成される領域の全面に亘って、サポート部材2と短波長光吸収層13が密着しており、かつ、短波長光吸収層13と樹脂焼成膜12(樹脂フィルム1)とが密着している。
【0027】
すなわち、本発明では、樹脂焼成膜12がサポート部材2上に樹脂材料11aを塗布して焼成されることにより、サポート部材2と密着して形成され、その状態でレーザ光により微細加工がされていることに特徴がある。この構成にする理由が以下に説明される。
【0028】
例えば有機EL表示装置の蒸着マスクを製造するため、前述の
図16〜17に示されるように、樹脂製フィルム81がサポート部材82に貼り付けられて、マスク83を介して樹脂製フィルム81にレーザ加工による開口パターン85が形成されると、有機EL表示装置の表示品位が低下するという問題がある。また、このような樹脂製フィルム81により形成された回折格子などの光学素子では、きれいな回折像が得られないという問題がある。この原因について、本発明者らは鋭意検討を重ねて調べた結果、レーザ加工による微細パターンが形成される際に開口端部に浮きが生じたり、開口端に加工塵が付着したりすることに起因していることを見出した。その原因をさらに鋭意検討を重ねて調べた結果、樹脂製フィルム81がサポート部材82に貼り付けられると、アルコールなどの液体を介在させて貼り付けられても、
図12に示されるように、長さaが数μmから数十μm、あるいは顕微鏡でも判別しにくいサブミクロン(数百nm)以下の気泡84が巻き込まれることがあり、この気泡84がバリや加工塵などの原因になることを見出した。
【0029】
すなわち、このような長さaが数μm程度、あるいはそれ以下の気泡84でも、
図13に示されるように、その気泡84の部分に開口85のパターンが形成されると(Aは開口85の幅(60μm程度)を示す)、気泡84の部分が切断されることになる。その結果、
図13(a)に示されるように、パターン形成後の樹脂製フィルム81に、その気泡84の部分が膨らんだ膨らみ部(浮き部)81aが形成されたり、
図13(b)に示されるように、その膨らみ部81aの内側に加工塵86が入り込み、樹脂製フィルム81と一体化して開口85を小さくしたり、図示されていないが、気泡により浮いた部分が下に垂れて開口を小さくしたりする場合がある。このような気泡84の大きさは、前述のように、小さいものでは数百nm以下のオーダであり、通常では見過ごされるが、本発明者らは、鋭意検討の結果、この小さな気泡84の巻き込みが悪影響を及ぼす原因であることを突き止めた。
【0030】
樹脂製フィルム81にこのような膨らみ部81aが形成されたり、加工塵86が付着したりすると、有機EL表示装置の表示品位が低下する理由が説明される。
図14に有機材料を蒸着するときの概念図が示されるように、前述の樹脂製フィルム81により形成された蒸着マスク80が有機EL表示装置の基板などの装置基板91上に固定され、蒸着用のるつぼ92から蒸着材料である有機材料を蒸発させることにより、蒸着マスク80の開口85により露出する装置基板91上に有機材料(矢印のみ)が積層される。この際、開口85の端部に膨らみ部81aが形成されていると、有機層が正確に堆積されない。すなわち、蒸着源としてのるつぼ92としては、点ソース、ラインソース、面ソースなどがあるが、点ソースやラインソースの場合、装置基板91と蒸着源(るつぼ92)とが相対移動しながら蒸着が行われる。その様子が
図14の(a)および(b)にラインソースの例の一部で概念的に示されている。蒸着マスク80の開口85の端部に膨らみ部81aがあると、その下側にも有機材料Pが潜り込む(矢印のみで示されている)。また、
図14(b)に示されるように、装置基板91上に積層されるべき有機材料の一部の有機材料Q(矢印で示される)は膨らみ部81aにより遮られ、装置基板91に達し得ない場合もある。
【0031】
このように、膨らみ部81aがあると、有機材料が蒸着された装置基板91の画素は、
図15(a)に示されるように、所望の画素領域94(二点鎖線で示されている)よりも大きな画素93になったり、
図15(b)に示されるように、画素の一部が欠けた画素93になったり、図示されていないが、積層される有機層の厚さが所望の厚さよりも薄くなったりする部分が生じる。
図15(b)に示される状態は、例えば
図13(b)に示されるような加工塵86が付着した樹脂製フィルム81からなる蒸着マスク80の場合に起こり得る。
【0032】
このような知見に基づき、本発明者らは、蒸着マスクなどの微細パターンを有する樹脂フィルムを形成する樹脂製フィルムをサポート部材と密着させるため、鋭意検討を重ねた。その結果、サポート部材2上に液状の樹脂材料11a(
図7参照)が塗布され、さらに焼成されることにより、気泡が巻き込まれないで、サポート部材2と密着した樹脂フィルム1(樹脂焼成膜12)が得られることを見出した。このような液状の樹脂材料11aが塗布されることにより、樹脂材料11aはサポート部材2上を流れるように塗布される。そのため、気泡が巻き込まれ難い。たとえ、気泡が巻き込まれたとしても、この樹脂塗布膜11は、3μm以上であって10μm以下程度と非常に薄いため、樹脂塗布膜11の上側から抜けやすい。特に、この後の焼成の工程で、焼成の初期段階の比較的低い温度で時間を長くすることにより、たとえ、気泡が内包されたとしても、塗布された樹脂材料11aの流動性のあるときに気泡の温度が上がり、その表面側から抜ける。従って、塗布により形成された樹脂塗布膜11とサポート部材2との間には、殆ど気泡のないサポート部材2と密着した樹脂塗布膜11が形成される(
図2参照)。なお、密着している必要のあるのは、塗布膜のうち、微細パターンが形成される領域であり、それ以外の領域に関しては、密着していなくてもよい。このような本発明者らの知見に基づいてなされた本発明の微細パターンを有する樹脂フィルム1の製造方法が、具体例によりさらに詳述される。
【0033】
まず、
図2に示されるように、サポート部材2上に液状の樹脂材料を塗布することで樹脂塗布膜11が形成される(
図1のS1)。この樹脂材料の塗布は、膜厚制御が可能な方法であればどのようなものでもよいが、例えば前述の
図7に示されるように、スリットコートの方法を用いて塗布され得る。すなわち、スロットダイ5に樹脂材料11aを供給しながら、スロットダイ5の先端部から帯状に樹脂材料11aを吐出させながら、スロットダイ5を順次移動させることにより塗布される。樹脂材料11aの吐出量が完全に均一でなくても、数分も経てば、表面が均一な平坦面になる。そして、前述のように、サポート部材2との間には100nm以上の気泡は一切なく、少なくとも微細パターン形成領域の全面に亘って、サポート部材2に密着した樹脂塗布膜11が形成される。なお、この樹脂材料11aの塗布は、スリットコートでなくても、例えばスピンコートなど、他の方法で塗布されてもよい。スピンコートは、大きな樹脂フィルムを形成する場合には材料の使用効率の面で不向きであるが、サポート部材2に密着し、表面が平坦な樹脂塗布膜11が得られる。
【0034】
樹脂材料11aとしては、焼成し得る材料であり、また、レーザ加工のレーザ光を吸収する材料であればよい。しかし、前述のように、樹脂フィルム1が蒸着マスクとして使用される場合には、蒸着マスクが載置される基板、および樹脂塗布膜11が形成されるサポート部材2との間で線膨張率の差が小さい材料であることが好ましい。一般的に有機EL表示装置の基板としてガラス板が用いられるので、その観点からポリイミドが好ましい。ポリイミドはイミド結合を含む高分子樹脂の総称であり、前駆体であるポリアミド酸(常温では液体)を加熱・焼成することでイミド化反応を促進することにより、フィルム状のポリイミドになり得る。また、焼成時の条件によって線膨張率を調整することができるので、前述の有機EL表示装置の基板やサポート部材2の線膨張率に合せやすい点で特に好ましい。一般的なポリイミドの線膨張率は20ppm/℃以上であって60ppm/℃以下程度であるが、焼成条件によって、ガラスの線膨張率4ppm/℃に近づけられ得る。例えば、より高温・長時間の焼成がなされることにより、線膨張率を小さくすることができる。装置の基板として、ガラス板ではなく、樹脂フィルムなど、他の基板が用いられることもあり、その基板の線膨張率に合せて樹脂材料も選択され、ポリイミド以外にも、例えば、透明ポリイミド、PEN、PET、COP、COC、PCなどが用いられ得る。
【0035】
サポート部材2は、樹脂材料を塗布して焼成するための基板とするものであり、表面に不必要な凹凸のない面で、かつ、焼成温度に耐え得る材料で形成される。不必要な凹凸がないとは、例えば蒸着マスクなどのマスクとして形成される場合で、予定しない凹凸がないことを意味する。樹脂フィルム1が蒸着マスクとされる場合には、このサポート部材2は、蒸着マスクが使用される基板(例えば有機EL表示装置の基板)の線膨張率との差が小さい材料であることが好ましい。
【0036】
すなわち、この樹脂材料から形成された樹脂フィルムが有機EL表示装置の有機層の蒸着マスクとして使用される場合には、有機層の形成される基板上にこの蒸着マスクが固定されるため、基板との線膨張率の差が大きくなると、基板として意図される画素の蒸着領域と蒸着マスクの開口の位置にずれが生じるからである。例えば表示パネルの一辺の大きさが100cmで、開口(蒸着される有機層の色ごとのサブ画素)の一辺の大きさを60μm角とし、位置ずれ許容値を9μm(60μmに対して15%)とすると、3℃の上昇(蒸着の際の温度上昇)で9μm許容されることになる。このサブ画素の大きさは、表示パネルの一辺の大きさが、100cmのときの例であるが、一般的に表示パネルの一辺と1サブ画素の一辺とは、解像度が同じであれば、ほぼ比例的に変わるので、例えば50cmの表示パネルで同じ解像度(前述の例は5.6kの解像度)にしようとすると、サブ画素の一辺の長さは30μmになる。従って、位置ずれの許容値は4.5μm(15%)が、50cmの長さに許容される。すなわち、3℃で4.5μm/50cmの膨張が許容されるので、線膨張率は3ppm/℃となり、どの大きさの表示装置に対しても、この関係は成り立つ。
【0037】
従って、蒸着マスクとそのマスクが使用される基板との線膨張率の差は3ppm/℃以下であることが必要となる。一方、この樹脂材料から形成される樹脂フィルム1とサポート部材2との線膨張率の差が大きいと、レーザ加工により微細パターンが形成された樹脂フィルム1が室温でサポート部材2から剥離された後に、熱歪みの影響で樹脂フィルム1がカールしやすい。樹脂塗布膜11が焼成される際の温度は、400℃以上であって500℃以下と相当高温になるため、実際の膨張後の寸法差は大きくなるが、レーザ加工による微細パターンの形成は室温で行われるため、パターンの位置ずれの問題は生じない。しかし、レーザ加工の際に、フェムト秒程度の非常に小さいパルス幅のレーザ光が照射されれば、局所的な加熱で樹脂フィルムの膨張は殆ど問題にならないが、通常のμsec程度のパルス幅のレーザ光であると、数℃程度の温度上昇が見込まれる。そのため、この樹脂フィルム1とサポート部材2との間の線膨張率の差も3ppm/℃以下程度であることが好ましい。すなわち、蒸着マスクとして使用される際の基板の線膨張率と、このサポート部材2の線膨張率との差は、±3ppm/℃を考慮して、6ppm/℃以下、さらに好ましくは、3ppm/℃であることが好ましい。
【0038】
サポート部材2としては、典型的にはガラスが用いられる。樹脂フィルム1の焼成温度400℃以上であって500℃以下に耐え得ること、蒸着マスクとして用いられる有機EL表示装置の基板にガラスが用いられることが多いことがその理由である。しかし、ガラスには限定されないで、サファイア、GaN系半導体などが用いられ得る。
【0039】
次に、
図3に示されるように、樹脂塗布膜11の温度を樹脂材料11aが硬化する温度、例えば450℃まで上昇させて樹脂塗布膜11を焼成することで樹脂焼成膜12が形成される(
図1のS2)。この焼成の際に、焼成膜12とサポート部材2との界面に短波長光吸収層13が形成される。短波長光吸収層13は、樹脂塗布膜11の焼成の際に、サポート部材2という樹脂材料とは異なる材料と接しているため、樹脂材料11aの接触面が変質することにより形成される。その結果、紫外線などの短波長の光を樹脂材料11aよりも吸収しやすくなる。厚さとしては、5nm以上であって100nm以下程度である。この短波長光を特に吸収しやすい層にするには、この焼成前に、シランカップリング剤などの密着性改善・表面改質剤をサポート部材2上に極薄層で塗布してから、樹脂塗布膜11を形成することが好ましい。この焼成により、サポート部材2に密着した、微細加工形成用の樹脂焼成膜12を有する基材フィルム1aが得られる。なお、本発明ではあり得ないが、樹脂塗付膜11とサポート部材12との間に浮きがあれば、その浮いた部分には短波長光吸収層13は形成されず、樹脂焼成層12とサポート部材12との間に間隙部ができる。
【0040】
この焼成は、例えばサポート部材2の加熱ではなく、オーブン内で全体の加熱により行われる。しかし、サポート部材2の裏面側から加熱されてもよい。この加熱の際の温度プロファイルは、目的に応じて変更され得る。
【0041】
第1に、前述のように、この樹脂塗布膜11が焼成される際に、気泡を巻き込むことは確実に阻止されなければならない。前述のように、樹脂塗布膜11は、液状の樹脂材料11aが塗布されることにより形成されているので、気泡が巻き込まれることは余りない。しかし、液状の樹脂材料11aがサポート部材2上に塗布される際に気泡が巻き込まれることはあり得る。そのため、焼成の初期には100℃以下の温度で、10分以上であって60分以下程度は維持されることが好ましい。低温における長時間の加熱は、樹脂塗布膜11中に巻き込まれた気泡が樹脂塗布膜11の表面から放出されるという点で好ましい。100℃以下であれば、硬化は起こらず、むしろ流動性が増し、巻き込まれている気泡も膨張するため、10μm程度以下の樹脂塗布膜11の表面から気泡が抜けやすい。また、焼成のため、温度が上昇する際に、全面で均一に温度上昇するとは限らない。その点から、温度の上昇初期に充分な時間が確保されることにより、樹脂塗布膜11の温度が均一になりやすいので好ましい。
【0042】
第2に、樹脂材料11aとして、ポリイミドが用いられる場合、前述のように、その焼成条件によって、線膨張率が変化する。そのため、この焼成条件により前述のように、装置の基板や、サポート部材2の線膨張率と近づく条件で焼成され得る。例えば、ポリイミドの場合450℃程度で焼成されるが、さらに500℃近くまで温度を上昇させて、10分以上であって60分以下ぐらい放置すると、線膨張率を小さくすることができる。また、450℃程度で焼成した後に、さらに30分以上その温度を維持することによっても、線膨張率を小さくすることができる。逆に、温度上昇を大きなステップ(温度を大幅に上げて、その温度を長い時間維持するステップ)のプロファイルで焼成することにより、線膨張率を大きくすることができる。これらの観点から、樹脂塗布膜11の焼成は、5分以上であって120分以下ごとに10℃以上であって200℃以下の温度で段階的に上昇させながら、焼成温度まで上昇させることが好ましい。この範囲は、目的とする樹脂フィルムの特性、樹脂材料などによりさらに特定され得る。
【0043】
次に、
図4に示されるように、サポート部材2に付着している状態の樹脂焼成膜12にレーザ光を照射して加工することにより、樹脂焼成膜12に所望の微細パターン3を形成することで、サポート部材付き樹脂フィルム1bが形成される(S3)。
【0044】
このレーザ光の照射は、従来の方法と同様に行われる。すなわち、前述の
図17に示されるように、所望のパターンが形成された金属板などからなるマスク83と光学レンズ88を介して、レーザ光が照射される。レンズ88は必ずしも必要ではないが、加工面の照射エネルギー密度を稼ぐ際に有効である。この場合、レンズ88は、マスク83よりもレーザ光の進行方向の下流側に配置し、レーザ光を集光させる。例えば、10倍のレンズ88を使用した場合は、エネルギー密度は100倍になるが、マスク83の転写パターンは10分の1のスケールとなる。このレーザ光の照射により、マスクの開口部を透過したレーザ光が樹脂焼成膜12の一部を焼失させる。その結果、レーザ光が照射されたマスクの開口パターンに合せて、そのパターンと同じ、あるいは縮小された微細パターンが樹脂焼成膜12に形成される。これにより、微細パターンを有する樹脂焼成膜12がサポート部材2に密着したサポート部材付き樹脂フィルム1bが得られる。
【0045】
レーザ光照射の条件は、加工される樹脂焼成膜12の材料、厚さ、加工される微細パターン3の大きさや形状などにより異なるが、一般的には、レーザ光のパルス周波数が、1Hz以上であって60Hz以下であり、パルス幅が1ナノ秒(nsec)以上であって15ナノ秒以下であり、1パルス当たりの照射面におけるレーザ光のエネルギー密度が0.01J/cm
2以上であって1J/cm
2以下の条件で行われる。
【0046】
有機EL表示装置の有機層を蒸着する際の蒸着マスクとするため、例えば60μm角の開口が60μm程度の間隔でマトリクス状に形成される場合、波長が355nm(YAGレーザの3倍波)のレーザ光が、60Hzのパルス周波数、パルス幅が7nsec、照射面でのレーザ光のエネルギー密度が1パルス当たり0.36J/cm
2、ショット数(照射するパルスの数)が100の条件で、ポリイミドからなる5μm厚の樹脂焼成膜12に照射される。
【0047】
しかし、照射されるレーザ光は、YAGレーザには限定されない。樹脂材料が吸収し得る波長のレーザであればよい。従って、エキシマレーザ、CO
2レーザなど、他のレーザ光が用いられてもよい。勿論、レーザ光源が変ったり、樹脂材料が変ったりすると、照射条件が変ることは言うまでもない。前述の例で、開口パターンを形成するのに、100ショットの照射が行われたが、5μm厚のポリイミド膜に50ショットぐらいで孔が開く。そのため、後述される回折格子など、凹溝が形成される場合には、もう少し弱い出力で所定の深さのきれいな凹溝になるように照射条件が調整される。
【0048】
次に、
図5に示されるように、微細パターン3が形成された樹脂焼成膜12の周縁に枠体4が貼り付けられる(S4)。この枠体4の貼り付けは、樹脂焼成膜12がサポート部材2から剥離されて樹脂フィルム1にされた後に、樹脂フィルム1を破損させないで取り扱いを容易にするためのものである。従来の製造方法では、フィルムに張力を加えながら枠体に貼り付ける必要があったため、枠体にはそれに耐え得る剛性が要求され、厚さが25mm以上であって50mm以下の金属板を使用していた。これを架張工程という。しかし本発明の実施形態においては、樹脂焼成膜12とサポート部材2が接合された状態で枠体を貼り付けるため、架張工程を省略できる。したがって、枠体4は必須ではなく、無くても構わない。よって、この枠体4は、ある程度の機械的強度があればよく、例えば1mm以上であって20mm以下程度の厚さの金属板、またはプラスティック板などを用いることができる。
【0049】
その後、
図6に示されるように、樹脂焼成膜12がサポート部材2から剥離されることにより、微細パターンを有する樹脂フィルム1が得られる(S5)。この樹脂焼成膜12をサポート部材2から剥離するには、レーザ光の照射による短波長光吸収層13のさらなる変質により行われる。すなわち、前述の微細パターンの開口を形成する際のレーザ光照射は、開口が形成される部分のみにレーザ光の照射が行われ、その部分の短波長光吸収層13も消失しているが、この工程では、全面にレーザ光の照射が行われる。そのため、樹脂焼成膜12そのものは変質しない程度の弱いレーザ光が照射される。その観点から、レーザ光でなくてもよく、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、紫外線LEDなど波長の短い光を放射する光源であればよい。
【0050】
このような短波長光が全面に照射されることにより、樹脂焼成膜12には何ら変化はなく、短波長光吸収層13は、さらに変質してサポート部材2と樹脂焼成膜12との間の結合力を失い、サポート部材2から容易に分離する。そのため、従来のようにオイルに浸漬して分離するという面倒な方法を用いることなく、また、有機層に好ましくない水分を付着させることなく、しかも、微細パターンを損傷することなく、簡単に樹脂焼成膜12をサポート部材2から分離することができる。その結果、微細パターンを有する樹脂フィルム1が得られる。
【0051】
この微細パターンを有する樹脂フィルム1は、前述のように、樹脂焼成膜12がサポート部材2に密着した状態で微細加工が行われている。そのため、微細パターンの開口が形成される場合でも、気泡部分に開口が形成されることは一切ない。また、開口端部に浮きや膨らみが発生することは一切ない。そのため、加工塵を巻き込むことがなく、微細パターンが変形したり、バリが発生したりすることがない。その結果、このように形成された樹脂フィルムからなる蒸着マスクを用いて有機層を積層し、有機EL表示装置が形成された場合、画素のバラツキがなく、非常に表示品位の優れた有機EL表示装置が得られた。また、回折格子などの光学素子にした場合も、非常に高特性の光学素子が得られた。
【0052】
次に、このようにして製造された樹脂フィルムからなる蒸着マスクを用いて有機EL表示装置を製造する方法が説明される。蒸着マスク以外の製造方法は、周知の方法で行えるので、蒸着マスクを用いた有機層の積層方法についてのみ説明される。
【0053】
本発明の有機EL表示装置の製造方法は、まず、前述のサポート部材2上に液状樹脂11aを塗布(
図7参照)して焼成した樹脂焼成膜12にレーザ光の照射により開口パターン3を形成する(
図4参照)ことで、蒸着マスク10が形成される。そして、
図8〜9に示されるように、図示しないTFTなどと共に第1電極52が形成された基板51上に開口10aを有する蒸着マスク10を位置合せして重ね合せ、有機材料54を蒸着することにより基板(第1電極52)上に有機層55が積層される。各サブ画素の有機層55が形成された後、蒸着マスク10が除去されて第2電極56が形成されることにより、有機EL表示装置の有機層55の部分が形成される。具体例によりさらに詳述される。
【0054】
基板51は、図示されていないが、例えばガラス板などに、各画素のRGBサブ画素ごとにTFTなどのスイッチ素子が形成され、そのスイッチ素子に接続された第1電極(例えば陽極)が、平坦化膜上に、AgあるいはAPCなどの金属膜と、ITO膜との組み合わせにより形成されている。サブ画素間には、
図8に示されるように、サブ画素間を遮蔽するSiO
2などからなる絶縁バンク53が形成されている。このような基板51の絶縁バンク53上に、前述の蒸着マスク10が位置合せして固定される。なお、蒸着マスク10の開口10aは、絶縁バンク53の表面の間隔よりも小さく形成されている。絶縁バンク53の側壁には有機材料ができるだけ堆積されないようにし、発光効率の低下の防止が図られている。
【0055】
この状態で、蒸着装置内で有機材料54が蒸着され、蒸着マスク10の開口部分のみに有機材料54が蒸着され、所望のサブ画素の第1電極52上に有機層55が形成される。前述のように、蒸着マスク10の開口10aは、絶縁バンク53の表面の間隔より小さく形成されているので、絶縁バンク53の側壁には有機材料54は堆積されにくくなっている。その結果、
図8〜9に示されるように、ほぼ、第1電極52上のみに有機層55が堆積される。この蒸着工程が、順次蒸着マスクが変えられ、各サブ画素に行われる。後述されるように、複数のサブ画素に同時に同じ材料が蒸着される蒸着マスクが用いられる場合もある。
【0056】
図8〜9では、有機層55が簡単に1層で示されているが、実際には、有機層55は、異なる材料からなる複数層の積層膜で形成される。例えば陽極52に接する層として、正孔の注入性を向上させるイオン化エネルギーの整合性の良い材料からなる正孔注入層が設けられる場合がある。この正孔注入層上に、正孔の安定な輸送を向上させると共に、発光層への電子の閉じ込め(エネルギー障壁)が可能な正孔輸送層が、例えばアミン系材料により形成される。さらに、その上に発光波長に応じて選択される発光層が、例えば赤色、緑色に対してはAlq
3に赤色または緑色の有機物蛍光材料をドーピングして形成される。また、青色系の材料としては、DSA系の有機材料が用いられる。発光層の上には、さらに電子の注入性を向上させると共に、電子を安定に輸送する電子輸送層が、Alq
3などにより形成される。これらの各層がそれぞれ数十nm程度ずつ積層されることにより有機層55が形成されている。なお、この有機層と金属電極との間にLiFやLiqなどの電子の注入性を向上させる電子注入層が設けられることもある。
【0057】
有機層55のうち、発光層は、RGBの各色に応じた材料の有機層が堆積される。また、正孔輸送層、電子輸送層などは、発光性能を重視すれば、発光層に適した材料で別々に堆積されることが好ましい。しかし、材料コストの面を勘案して、RGBの2色または3色に共通して同じ材料で積層される場合もある。2色以上のサブ画素で共通する材料が積層される場合には、共通するサブ画素に開口が形成された蒸着マスクが形成される。個々のサブ画素で蒸着層が異なる場合には、例えばRのサブ画素で1つの蒸着マスク10を用いて、各有機層を連続して蒸着することができるし、RGBで共通の有機層が堆積される場合には、その共通層の下側まで、各サブ画素の有機層の蒸着がなされ、共通の有機層のところで、RGBに開口が形成された蒸着マスクを用いて一度に全画素の有機層の蒸着がなされる。
【0058】
そして、全ての有機層55およびLiF層などの電子注入層の形成が終了したら、蒸着マスク10は除去され、第2電極(例えば陰極)56が全面に形成される。
図8に示される例は、トップエミッション型で、上側から光を出す方式になっているので、第2電極56は透光性の材料、例えば、薄膜のMg-Ag共晶膜により形成される。その他にAlなどが用いられ得る。なお、基板51側から光が放射されるボトムエミッション型の場合には、第1電極52にITO、In
3O
4などが用いられ、第2電極としては、仕事関数の小さい金属、例えばMg、K、Li、Alなどが用いられ得る。この第2電極56の表面には、例えばSi
3N
4などからなる保護膜57が形成される。なお、この全体は、図示しないガラス、樹脂フィルムなどからなるシール層により封止され、有機層55が水分を吸収しないように構成される。また、有機層はできるだけ共通化し、その表面側にカラーフィルタを設ける構造にすることもできる。
【0059】
図10〜11は、前述の樹脂フィルム1が回折格子61やモスアイなどの反射防止膜62などの光学素子として形成された例である。すなわち、
図10は回折格子の断面を示す図で、凸部の幅c、およびその間隔dは共に0.3μm以上であって1μm以下程度で、その深さeは100nm以上であって500nm以下程度と、光の波長程度の非常に微細なパターンが要求されるので、樹脂フィルム1に不必要な凹凸が僅かでもあると、この微細なパターンは正確に形成されない。これは、前述の蒸着マスクの場合よりもはるかに小さい気泡でも問題になるが、本発明の樹脂フィルム1は、前述のように、サポート部材に密着した状態で微細加工が形成されているため、全く欠落部も無い正確な回折格子が得られる。その結果、鮮明な回折像が得られる。
【0060】
また、
図11に示される例は、モスアイの反射防止膜の例である。この例も、例えば幅(底部径)fが50nm以上であって200nm以下程度で、ピッチgが50nm以上であって300nm以下、高さhが200nm以上であって3000nm以下程度の非常に微細な凹凸が形成されるが、前述の回折格子と同様に、正確な微細構造が形成される。なお、図では凸部の先端が尖った形に描かれているが、丸みを帯びた形状でもよい。レーザ光の照射によりこのような凹凸を形成するには、例えばマスクの形成を凹部の中心部ではレーザ光の透過率が大きく、周囲に行くにしたがって透過率が小さくなる透過率のグラデーションを有するマスクを使用することにより得られる。