(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の衣類について、例をあげて説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定および制限されない。
【0010】
(第1の実施形態)
図1および
図2に、本発明の第1の実施形態に係るロングタイプのガードル100を示す。
図1(a)は、ロングタイプのガードル100の背面図であり、
図1(b)は、ロングタイプのガードル100の正面図である。
図2(a)は、ロングタイプのガードル100の左側面図であり、
図2(b)は、ロングタイプのガードル100を左前側から斜視した状態の平面図である。
【0011】
図示のように、ロングタイプのガードル100は、腰部から大腿部の上部までを被覆する本体部101および、本体部101の一部に配置されるサポートライン部102を備えている。本体部101は伸縮性であり、サポートライン部102は本体部101よりも緊締力が強く本体部101よりも伸縮が抑制されている。サポートライン部102は、伸縮抑制部Sが一定の間隔をあけて断続的に並ぶように配置されて構成されている。本実施形態において、サポートライン部102を構成する伸縮抑制部Sは、略円形である。
【0012】
サポートライン部102は、伸縮抑制部Sが仮想ラインを形成するように、大腿部の内転筋群が位置する部位を覆っている。そして、サポートライン部102は、大腿骨の長手方向の前側ラインよりも外側に対応する位置を下端とし、大腿部の後側であり臀溝の内側端よりも外側に対応する位置を上端として、前記下端から大腿部の前側および大腿部の後側でかつ臀溝の下部を通り、前記上端に向けてらせん状に連なっている。このように配置することにより、大腿部に密着した状態で内転筋群の動きをサポートする。
【0013】
本実施形態では、ヒップ上部に第2のサポートライン部103を設けている。第2のサポートライン部103は、帯状に設けられ、中臀筋をサポートし、骨盤を安定させている。
【0014】
本体部101は、伸縮性を有する素材により構成されている。伸縮性を有する素材を用いることで、身体にフィットし、密着させることができる。伸縮性を有する素材としては、経編地または丸編地等が挙げられ、例えば、ツーウェイトリコット、ツーウェイラッセル、トリコネットあるいはベア天竺がある。サポートライン部102は、本体部101よりも緊締力が強く本体部101よりも伸縮が抑制されているが、伸縮抑制部Sを非伸縮性あるいは難伸縮性とすることが好ましい。このとき、伸縮抑制部S以外のサポートライン部102は、本体部と同一の素材を用いることができる。また、伸縮抑制部Sに、本体部101と同一の素材を用いて、前記素材を重ね合わせることで、本体部101よりも緊縛力を強く、かつ、伸縮を抑制することも可能である。非伸縮性あるいは難伸縮性の素材としては、例えば、パワーネット、マーキジットあるいはトリコットがある。
【0015】
本実施形態において、サポートライン部102を構成する伸縮抑制部Sは、別部材を本体部101に縫着等の手段で取り付けて形成されている。伸縮抑制部Sと本体部101とは必ずしも縫着されている必要はなく、裏打ち、当て布、接ぎ等であってもよい。ただし、本発明はこれらに限られず、例えば樹脂を本体部101に塗布して伸縮性を下げることにより伸縮抑制部Sを形成してもよい。さらには、本体部101の組織を部分的に変更することによって伸縮性を下げることにより伸縮抑制部Sを形成してもよい。また、伸縮抑制部Sは、抜染または抜蝕加工を利用して形成してもよいし、編構造を部分的に変更するといった手法によって編地の伸縮性を変化させることによって形成してもよい。
【0016】
本実施形態において、伸縮抑制部Sを本体部101の内側(着用時に肌と接する側)に設ける場合、滑り止め機能を有してもよい。前記滑り止め機能の例として、例えば、伸縮抑制部Sは、着用時において、単位面積当たりの着用箇所との間の摩擦抵抗力が本体部101の単位面積当たりの着用箇所との間の摩擦抵抗力よりも相対的に大きいことが好ましい。
【0017】
サポートライン部102の幅は4cm〜8cmが好ましく、より好ましくは、5cm〜7cmである。なお、サポートライン部102は、内転筋群の動きをサポートし得る形状であればよく、下端から上端までにおける全ての伸縮抑制部Sの幅を同一の幅となるように形成してもよいし、位置によって幅を変えてもよい。また、伸縮抑制部Sは略円形に限定されず
、花柄等の形状であってもよく、それぞれの伸縮抑制部Sの形状が異なっていてもよい。
【0018】
サポートライン部102を構成する伸縮抑制部S同士に一定の間隔を設けることにより、衣類の身体への追随性とサポートライン部102の筋肉の動きのサポートとを、より効果的に両立させることができ、好ましい。
【0019】
本発明の衣類において、サポートライン部102は、20%伸長時における前記サポートライン部の伸長回復力が、本体部の伸長回復力の1.4倍以上2.1倍以下の範囲内にあることを特徴とする。
【0020】
<伸長回復性試験方法>
試験片の形状は、長手方向の長さ240mmとし、幅方向の長さ90mmとなる長方形状とするものを用いて行う。なお、引張速度は300mm±20mm/min.とし、除荷速度は引張方向とは反対方向に引張速度と絶対値が同じ速度となるように設定する。
【0021】
そして、試験片を自然長の80%に相当する長さまで3回繰り返し引っ張り、このうち3回目の20%伸長時の伸長力と20%回復時の回復力とを平均して伸長回復力とする。なお、試験片の上端部を10mm掴み代とし、試験片の下端部を10mm掴み代とする。すなわち、試験片の前記の自然長(掴み間隔)は220mmである。
【0022】
本実施形態におけるロングタイプのガードルは、このようなサポートライン部102を備えることにより、以下に記載する効果を有する。ロングタイプのガードルを着用すると、緊締力の強いサポートライン部102が伸長し、さらに着用者の動きに応じて伸縮することになる。ここで、内転筋群が位置する太腿の内側、すなわち正立している人体を長手方向に通過する中心軸線を仮想した場合に、太腿部のうち当該中心軸線に近い部分は、歩行や屈伸などによる股関節の動作によって皮膚が大きく伸長する部位であるため、この部位に対応するサポートライン部102および本体部101、すなわち、この部位を覆うサポートライン部102および本体部101は、特に伸長しやすい。したがって、太腿の内側に対応するサポートライン部102、すなわち、太腿の内側を覆うサポートライン部102は、太腿の内側に対応する本体部101、すなわち、太腿の内側を覆う本体部101からも張力を受けることとなり、サポートライン部102の緊締力はさらに増強される。そして、この緊締力が生じることにより、内転筋群が位置する太腿の内側には、バネで引き戻されるような大きな力が作用する。すなわち、股関節を支点として、大腿骨を内側へ回転させる力が作用して、内転筋群の筋活動量が増加する。このように作用する力が内転筋群の動きをサポートすることにより膝は内側を向きやすくなる。これにより、蟹股が矯正されるとともに、骨盤の後傾も矯正され、脚線美および姿勢美が実現され得る。
【0023】
また、サポートライン部102は、臀部と大腿部後側の境にある臀溝を通るように配置されている。ここで、臀部と大腿部後側は、歩行や屈伸などによる股関節の動作によって皮膚が大きく伸長する部位である。したがって、これらの部位に対応する本体部101が大きく伸長することによって、これらの部位からサポートライン部102に対して大きな張力が作用するため、サポートライン部102の伸長がさらに増長される。すなわち、サポートライン部102は、臀部や大腿部後側等の大きく動く部分と連動することによって大きな張力を受け、緊締力がさらに増強されることになる。このような現象は、人体等に固定するテーピングでは実現することができないため、本発明による効果はテーピング技術に比して顕著な効果を有する。
【0024】
また、サポートライン部102は、動きの少ない臀溝を通るように配置されているため、緊締力の高いサポートライン部102により着用者の動作が妨げられる事態を低減させることができる。
【0025】
図1および
図2における破線で囲まれた領域に、連続した帯状のサポート部を有する従来のサポート機能を有する衣類では、サポート部が帯状に連続して形成されているため、動作による皮膚の伸び量が異なる部分間での衣類の追随が十分ではなく、しわやつっぱりが生じ、ひいては衣類が食い込んだりずり上がったりしやすかった。発明者らが研究を重ねたところ、サポートライン部を間隔をあけて断続的に並ぶように配置することで、方向性を持ちながら力を分散させることができ、トータルにかかる力(サポート力)を同じになるようにしつつ、皮膚(身体)への追随を良好にすることができるとの知見を得た。また、この知見によれば、従来の連続形成されたサポート部で生じやすかった、着用時の段差や食い込みが生じにくいという利点がある。
【0026】
図3に、サポートライン部102のバリエーションの図を示す。
図3では、
図1(a)のロングタイプのガードル100において、大転子側(同図における上端の伸縮抑制部の付近の位置に対応)から内もも側にかけてのサポートライン部を示す。
図3(a)は、従来のサポートライン部を示す図である。
図3(b)は、比較例のサポートライン部を示す図である。
図3(c)、(d)、(e)、(f)は、本発明におけるサポートライン部102のパターンの例(パターン1〜4)を示す図である。
【0027】
図3(a)のサポートライン部(従来例)は、衣類の本体部101よりも難伸縮性の生地を用いて当て布として設けたものであり、幅が5cmの帯状の部材としたものである。
図3(b)、(c)および(d)に示すサポートライン部の例は、衣類の本体部101に、いずれも伸縮抑制部として円形の当て布を設けたものである。
図3(b)の例(比較例)は、直径7cmの伸縮抑制部S1および直径5cmの伸縮抑制部S2を用いたものである。伸縮抑制部S1およびS2は、
図3(a)のサポートライン部の生地よりも、難伸縮性の生地を用いている。
図3(c)の例(パターン1)は、直径6cmの伸縮抑制部S3およびS4を用いたものである。伸縮抑制部S3は、
図3(a)のサポートライン部と同じ生地を用いているが、伸縮抑制部S4は、非伸縮性の生地を用いている。そして、内もも側において、伸縮抑制部間の間隔を広く取っている。
図3(d)の例(パターン2)は、直径6cmの伸縮抑制部S5を用いたものである。伸縮抑制部S5は、伸縮抑制部S1およびS2と同じ難伸縮性の生地を用いている。
図3(d)では、
図3(c)と同じ位置に伸縮抑制部を配置している。
図3(e)では、経編地の編構造を変更して、直径約7cmに相当する難伸縮性である花柄の伸縮抑制部S6と直径約5cmに相当する難伸縮性である花柄の伸縮抑制部S7とを配置することによりサポートライン部を構成している。
図3(f)では、編構造を変更して、前記花柄の伸縮抑制部(S6、S7)よりもより難伸縮性となる幾何柄の伸縮抑制部S8およびS9を配置することによりサポートライン部を構成している。伸縮抑制部S8は直径約7cmに相当し、伸縮抑制部S9は直径約5cmに相当する。
【0028】
これらのサポートライン部について、前述の伸長回復性試験を行い、伸長回復力を測定した。伸長回復性試験の試験片としては、長手方向の長さ240mm、幅方向の長さ90mmの長方形状の衣類の本体部101の生地に、
図3に示した各サポートライン部パターンを形成したものを用いた。結果を表1に示す。また、
図3に示した各サポートライン部パターンを形成したロングタイプのガードルおよびサポートライン部を設けていないロングタイプのガードル(コントロール)を6人の被験者が着用して歩行を行い、膝が内側を向いていることを評価するため、3次元系動作計測装置にて、大腿部のひねり角度を計測し、次の基準で評価した着用評価の結果を表1に示す。
A:大腿部のひねり角度がコントロールより大きくなっている被験者が4名以上である
B:大腿部のひねり角度がコントロールより大きくなっている被験者が3名である
C:大腿部のひねり角度がコントロールより大きくなっている被験者が2名以下である
【0030】
比較例のパターンでは、伸長回復力の比は大きかったが、歩行時の大腿部のひねり角度がコントロール着用時より大きくなっている被験者は2名以下であった。従来例、パターン1〜パターン4では、従来よりもサポートライン部の伸長回復力と本体部の伸長回復力の比が小さい状態で、半数以上の被験者において、歩行時の大腿部のひねり角度がコントロール着用時より大きくなるという結果が得られた。これらのサポートライン部を各々備えたロングタイプのガードルを着用して歩行を行った際の、着用感評価および着用時の外観評価を行った。その結果、パターン1〜パターン4のサポートライン部を有するガードルでは、全ての着用者において、しわの発生、衣類の食い込みおよびつっぱり等は、従来のサポートライン部のものと比べて抑制され、良好な着用感を維持していた。以上のように、パターン1〜パターン4のサポートライン部を有するガードルでは、良好な着用感を維持しつつ、蟹股が矯正されるとともに、骨盤の後傾も矯正され、脚線美および姿勢美を実現するという効果が得られることが確認できた。
【0031】
なお、本実施形態では、伸縮抑制部Sを円形、花柄、幾何柄に形成する例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、伸縮抑制部を、各種の意匠性のあるデザインの形状としてもよい。
【0032】
(第2の実施形態)
図4に、本発明の第2の実施形態に係るロングタイプのガードル200を示す。
図4(a)は、ロングタイプのガードル200の背面図、
図4(b)は、ロングタイプのガードル200の正面図である。本実施形態のロングタイプのガードル200は、ヒップ上部から前側に延びる第2のサポートライン部103が、第1の実施形態におけるサポートライン部102と同様に、伸縮抑制部Sが一定の間隔をあけて断続的に並ぶように配置されて構成されている。本実施形態において、第2のサポートライン部103を構成する伸縮抑制部Sは、略円形である。
【0033】
(第3の実施形態)
図5に、本発明の第3の実施形態に係る上半身用衣類であるシャツ300を示す。
図5(a)は、シャツ300の着用時の正面斜視図、
図5(b)は、シャツ300の背面図である。本実施形態のシャツ300は、伸縮性の本体部と本体部よりも緊締力が強く本体部よりも伸縮が抑制されたサポートライン部とを備えている。本実施形態において、本体部は、着用者の上半身の少なくとも胸部に密着する本体身頃301である。そして、前記サポートライン部は、本体身頃301における前面の胸骨中央相当部から左右の肩部に至る2本の第1のライン部302a,302b、前記胸骨中央相当部から胸部下方を通り左右の脇部に至る2本の第2のライン部302c,302d、および第2のライン部302c,302dにおける左右の脇部近傍を背面で結ぶ第3のライン部302eを含む。第1のライン部302a,302b、第2のライン部302c,302d、および第3のライン部302eは、伸縮抑制部Sが一定の間隔をあけて断続的に並ぶように配置されて構成されている。
【0034】
なお、本実施形態のシャツ300は、本体身頃301および袖部303を含む長袖シャツである。また、本実施形態においては、左右の肩部に至る2本の第1のライン部302a,302bと左右の肩部で連続し、前記肩部と第3のライン部302eとを所定位置で連結する2本の第4のライン部302f,302gを有している。
【0035】
このうち、第1のライン部302a,302bおよび第2のライン部302c,302dは、胸郭を前上方向へ持ち上げる働きをする外肋間筋の筋繊維に沿った方向に位置する。このため、第1のライン部302a,302bおよび第2のライン部302c,302dに沿って、すなわち、外肋間筋の筋繊維に沿って、適度な圧力が加わることとなり、息を吸う時に使う筋肉として外肋間筋をサポートすることができる。また、第1のライン部302aと第2のライン部302dは連続的に形成されている。同様に、第1のライン部302bと第2のライン部302cも連続的に形成されている。このため、外肋間筋を筋繊維に沿ってより効果的にサポートすることができるという利点がある。
【0036】
また、第3のライン部302eは、吸気時に脇部を後ろ中心へ向けて引っ張ることで胸郭を外へ広げ胸を張らせる働きをする広背筋の筋繊維に沿った方向に位置する。このため、第3のライン部302eに沿って、すなわち、広背筋の筋繊維に沿って、適度な圧力が加わることとなり、息を吸う時に使う筋肉としての広背筋をサポートすることができる。
【0037】
また、第4のライン部302f,302gは、肩を後ろに引くとともに第1のライン部302a,302bに沿った胸郭を持ち上げる力を背中側で保持する働きをするので、外肋間筋を筋繊維に沿ってサポートし胸を張らせる効果を増強することができる。
【0038】
このようにサポートライン部に沿って、息を吸う時に使う筋肉(外肋間筋、広背筋及び大胸筋)をサポートすることができる。このとき、筋肉を筋繊維に沿って自然にサポートするとともに、従来のサポート部の構造で起こりやすかったしわの発生、衣類の食い込みおよびつっぱり等の着用時の不具合を解消することができる。
【0039】
このようにして、シャツ300を着用することで、良好な着用感を維持しつつ、胸を張るような力が自然と働き、息を吸う時に使う筋肉を重点的にサポートすることができる。
【0040】
本実施形態において、本体身頃301に使用できる素材は、伸縮性を有する素材であれば特に制限されず、第1の実施形態の本体部101と同様の素材を用いることができる。また、サポートライン部の各ライン部302a,302b,302c,302d,302e,302f,302gの伸縮抑制部Sは、第1の実施形態の伸縮抑制部Sと同様に形成することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、上半身用衣類を長袖シャツ300とした例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明において、前記衣類は、例えば、半袖シャツでもよいし、ジャケット等のアウターとしてもよい。これらの場合にも、本実施形態に係る長袖シャツ300と同様の効果を得ることができる。
【0042】
以上、本発明の具体例として、ロングタイプのガードルおよび長袖シャツを挙げて本発明を説明したが、本発明の衣類は、これらの具体例で記載されたもののみに限定されるものではなく、種々の態様が可能である。例えば、上記の実施形態のような衣類以外にも、タイツ、水着、タンクトップ、半袖シャツ、ボタン等で着脱が可能な上着等の衣類、ボディスーツ、肌着、スポーツ衣類、医療用衣類(サポーター)、その他各種の衣類に適用できる。