(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674093
(24)【登録日】2020年3月10日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造用モールドパウダーおよび連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/108 20060101AFI20200323BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20200323BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20200323BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
B22D11/108 F
B22D11/00 A
C22C38/00 301Z
C22C38/06
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-60151(P2016-60151)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-170494(P2017-170494A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】片山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小形 裕文
(72)【発明者】
【氏名】高橋 尚志
【審査官】
藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−019994(JP,A)
【文献】
特開2004−136360(JP,A)
【文献】
特開2011−147979(JP,A)
【文献】
特開2007−290004(JP,A)
【文献】
特開2010−069527(JP,A)
【文献】
特開平11−090596(JP,A)
【文献】
米国特許第04204864(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
C21C 7/00−7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
F量が16〜25質量%、CaOとSiO2の質量比(CaO/SiO2)が1.0〜1.8、Al2O3量が5質量%以下(ゼロを含む)、MgO量が1.5質量%以下(ゼロを含む)、CaO量が20〜60質量%、Na2O量とLi2O量が合計で20質量%以下(ゼロを含まず)、C量が20質量%以下であり、不純物及びCO2が5〜13質量%であり、ここで、CaO量は鋼の連続鋳造用モールドパウダーに含まれるCa成分が全てCaOとして存在するものとして求めた値であり、ここで、組成の和が100質量%を超えるのは、F成分としてCaF2、AlF、LiFを全て酸化物として換算することに起因するものである鋼の連続鋳造用モールドパウダーを用いて、中炭高Al含有鋼(鋼中C含有量=0.07〜0.25質量%、鋼中Al含有量≧0.20質量%)を連続鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼の連続鋳造用モールドパウダーに関し、更に詳細には、中炭高Al含有鋼(鋼中C含有量0.07〜0.25質量%、鋼中Al含有量≧0.20質量%)の連続鋳造で発生し得る、拘束性ブレークアウト、鋳片の縦割れ、溶融スラグ層の過剰増大、スラグベアの肥大化等の種々のトラブルを抑制しつつ、高品質な鋼を得ることができる鋼の連続鋳造用モールドパウダーおよびそれを使用した鋼の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造用モールドパウダー(以下、「モールドパウダー」と記載する)は、鋼の連続鋳造において水冷鋳型(以下、「モールド」と記載する)内の溶鋼表面に添加され、溶鋼からの受熱により溶融し、酸化物融体(以下、溶融スラグ)となってモールドと凝固シェルの間隙に流れ込みながら消費される。モールドパウダーは添加されてから消費される間に以下の役割を果たす:(1)モールドと凝固シェルの潤滑;(2)凝固シェルの冷却速度(抜熱速度)のコントロール;(3)溶鋼から浮上する介在物の吸収除去;(4)溶鋼の保温;(5)溶鋼の再酸化防止。前述の5つがモールドパウダーの主要な役割である。
【0003】
一般的なモールドパウダーは、CaO、SiO
2、Al
2O
3、Na
2O、MgO、Li
2O、B
2O
3、K
2O、F、C等多くの成分で構成され、例えばSiO
2:20〜45質量%、CaO:20〜45質量%、Al
2O
3:0.5〜10質量%、MgO:0.1〜8質量%、Na
2O:1〜20質量%、Li
2O:0.1〜10質量%、F:2〜15質量%、C:20質量%以下の組成を有する。
【0004】
本発明の対象となる中炭高Al含有鋼の連続鋳造では、2つの大きな課題を有している。1つ目は、鋼中のC含有量が0.07〜0.25質量%の中炭素鋼は、凝固過程でδ相(フェライト)からγ相(オーステナイト)への包晶変態が生じ、凝固収縮が大きいことから鋳片縦割れが発生し易い特徴がある。鋳片縦割れを抑制するには、(2)の働きによって凝固シェルからモールドへの抜熱速度を制御し、均一な凝固シェルを形成する必要がある。一般的な方法としては、凝固シェルを緩やかに冷却すること(以下、「緩冷却」と記載する)であり、モールドと凝固シェルの間に流れ込んだ溶融スラグのフィルム(以下、「スラグフィルム」と記載する)がモールドによって冷却される際に生成する結晶晶出温度(結晶化温度)を高くすることである。2つ目は、一般的に溶融スラグ中のSiO
2が溶鋼中Alと(1)式に示す酸化還元反応を生じることによって、溶融スラグ中のSiO
2が減少(CaO/SiO
2比が上昇)し、Al
2O
3が増加する(以下、「組成変動」と記載する)。
4Al+3SiO
2→2Al
2O
3+3Si・・・(1)
【0005】
上述のように中炭高Al含有鋼は、鋼中Alが多いために反応量が多く、一般的な中炭素鋼と比較して溶融スラグ中のAl
2O
3およびCaO/SiO
2比が非常に高くなる特徴がある。特に、鋼中Al量が0.20質量%以上の鋼種では組成変動が大きく、モールドパウダー特性に与える影響が大きくなる。
【0006】
上述のような組成を有するモールドパウダーで一般鋼を鋳造する際は、通常スラグフィルム中にカスピダイン(3CaO・2SiO
2・CaF
2)と呼ばれる結晶が晶出する。しかしながら、高Al含有鋼のように組成変動が大きい場合はカスピダインの晶出が弱まり、ゲーレナイト(2CaO・SiO
2・Al
2O
3)が晶出するようになる。ゲーレナイトの融点は1593℃、カスピダインの融点は1407℃であり、組成変動によりゲーレナイトが晶出し易い組成に近づくことで、結晶化温度が過剰に高くなるため、(i)スラグベアの肥大化;(ii)溶融スラグの潤滑性の低下により、モールドパウダーの溶融速度が消費速度を上回ることで、溶融スラグ層厚みが過剰に増大;(iii)拘束性ブレークアウトの発生に繋がる。また、モールド内は場所によって温度や溶鋼流動状況が異なるため組成変動量は一律ではない。そのため、モールド内の場所によってゲーレナイトの晶出状況が異なり、(iv)モールド内で結晶化温度に差が生じることで、凝固シェルが不均一に成長し、鋳片縦割れに繋がる。
【0007】
高結晶化温度を有するゲーレナイトが晶出することは、緩冷却の面から必ずしも悪影響を与える訳では無いが、組成変動によりモールド内で結晶化温度差が生じる状況では、鋳片縦割れを発生させる要因となる。これらの対策として、これまで様々なモールドパウダーが提案されてきた。
例えば、特許文献1には、CaO、SiO
2、Li
2Oおよびフッ素化合物を基本成分とするモールドパウダであって、さらに、Na
2OおよびK
2Oのうちの1種以上、ならびにAl
2O
3を含有し、SiO
2の含有率が10〜30質量%、フッ素化合物を構成するFの含有率が4〜25質量%、Na
2OおよびK
2Oの合計の含有率が1.5質量%以下であり、かつ、これらCaO、SiO
2、Li
2O、F、Na
2O、K
2OおよびAl
2O
3の含有率で表される、下記(イ)式、(ロ)式および(ハ)式によって規定される指標aが0.47〜0.7、指標bが0を超え0.4以下、および指標cが0.1〜0.5であることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダが開示されている:
a=(%CaO)h/{(%CaO)h+(%SiO
2)h+(%Al
2O
3)h}・・・(イ)
b=(%Al
2O
3)h/{(%CaO)h+(%SiO
2)h+(%Al
2O
3)h}・・・(ロ)
c=(%CaF
2)h/{(%CaO)h+(%SiO
2)h+(%CaF
2)h}・・・(ハ)
ここで、(%CaO)h={W
CaO−(%CaF
2)h×0.718}・・・(ニ)
(%CaF
2)h=(W
F−W
Li2O×1.27−W
Na2O×0.613−W
K2O×0.404)×2.05・・・(ホ)
(%SiO
2)h=W
SiO2および(%Al
2O
3)h=W
Al2O3であり、W
CaO、W
SiO2、W
Al2O3、W
Li2O、W
Na2OおよびW
K2Oは、モールドパウダ中に分析されるCa、Si、Al、Li、Na、Kが全てそれらの酸化物であるとして換算した含有率(質量%)であり、WFは、分析されるFの含有率(質量%)である。
特許文献1は、高Al含有鋼特有の大きな組成変動により引き起こされる溶融スラグの粘度や結晶化温度の過剰な上昇、それに伴うスラグ潤滑不良による拘束性ブレークアウトや鋳片品質悪化の課題に対して、組成変動に関与するモールドパウダー中のSiO
2を低位(10〜30質量%)に抑え、かつ上述の(1)式の反応を抑制するLi
2Oを適用し、組成変動を抑えることで、ゲーレナイト生成を抑制する。カスピダインを晶出させることで結晶化温度や粘度の上昇を抑制しようとするものである。
【0008】
また、特許文献2では、高Al、Yまたは希土類元素を含有する鋼に使用する連続鋳造用モールドフラックスにおいて、CaO:25.0〜45.0wt%、Al
2O
3:10.0〜17.0wt%、SrO:10.0〜25.0wt%とし、これらが総量で55.0〜85.0wt%からなり、かつこれにF:5.0〜20.0wt%を含み、これらの主成分に溶融速度調整剤として炭素を10.0wt%以下含有せしめ、その他原料中から混入する不可避的組成を含み、該不可避的組成から混入するSiO
2を2.0wt%以下に規制したことを特徴とする連続鋳造用モールドフラックス(請求項1)が開示されている。更に、特許文献2のモールドフラックスは、LiFを5.0wt%以下の量で含有したり(請求項2)、MgOを10.0wt%以下に規制したり(請求項3)、LiFを5.0wt%以下の量で含有し且つMgOを10.0wt%以下に規制したり(請求項4)、LiFを5.0wt%以下の量で含有し且つLi
2O+Na
2Oを4wt%以下に規制したり(請求項5)、LiFを5.0wt%以下の量で含有し、Li
2O+Na
2Oを4wt%以下に規制し且つMgOを10.0wt%以下に規制できること(請求項6)が開示されている。特許文献2のモールドフラックスは、Alをはじめとするパウダースラグ還元元素を含む鋼の連続鋳造に対して、拘束性ブレークアウトや鋳片品質低下を抑制するために、SiO
2の代わりにSrOを使用し、SiO
2は不可避的成分として2.0wt%までに留めることで組成変動を抑制し、ゲーレナイトを抑制。それにより、結晶化温度や粘度の上昇を抑制しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3649153号明細書
【特許文献2】特許第4446359号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されている連続鋳造用モールドパウダーでは、中炭高Al含有鋼のように鋳片縦割れが発生し易い鋼種では、組成変動前後の結晶化温度差が大きくなり、鋳片縦割れが発生するため不十分であった。
また、特許文献2に記載されているモールドフラックスは、SiO
2を極端に低減したことにより、晶出結晶種が安定せず、抜熱速度の制御が困難となり高Al含有中炭素鋼においては鋳片縦割れの観点から不十分であった。
これらの特許文献を以ってしても、種々の問題を解決することができないのが現状である。
【0011】
従って、本発明は、中炭高Al含有鋼の連続鋳造時における、大きな組成変動を起点とした拘束性ブレークアウト、パウダー溶融層厚みの過剰な増大、スラグベアの肥大化、鋳片縦割れといったトラブルを抑制することができるモールドパウダー並びにそれを使用した鋼の連続鋳造方法の提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述のような種々の問題を抑制するには、組成変動前の結晶化温度を鋳片縦割れが発生しない程度(実績より1000℃以上)に設定し、組成変動後の結晶化温度を拘束性ブレークアウト、パウダー溶融層厚みの過剰な増大、スラグベアの肥大化が発生しない程度の結晶化温度(実績より1300℃以下)に設定する必要がある。更に、モールド内は場所によって温度や溶鋼流動状況が異なるため組成変動量が一律ではなく、モールド内の場所によってゲーレナイトの晶出状況が異なる。それにより、モールド内で結晶化温度に差が生じ、凝固シェルが不均一に成長することで鋳片縦割れに繋がる。
そこで、本発明者らは、中炭高Al含有鋼の連続鋳造時における溶融パウダーの組成変動が抑えられなくても、何らかの方法で組成変動前後の結晶化温度差を小さくすることができれば、鋳片縦割れを抑制することができるのではないかと考えた。組成変動後にCaF
2(融点1418℃)の晶出を促進させてCaF
2を主結晶とすることでゲーレナイトが晶出しても結晶化温度の過剰な上昇を抑制でき、また、組成変動前においても主結晶の一つとしてCaF
2を晶出させることで、必要な結晶化温度を確保しつつ、組成変動前後の結晶化温度差が小さくでき、鋳片縦割れを抑制できることを見出した。
【0013】
これらの条件を満たすためには、Fを16〜25質量%、CaO/SiO
2質量比を1.0〜1.8、Al
2O
3を5質量%以下(ゼロを含む)、MgOを1.5質量%以下(ゼロを含む)とすることで、達成できることを見出した。
【0014】
即ち、本発明のモールドパウダーは、F量が16〜25質量%、CaOとSiO
2の質量比(CaO/SiO
2)が1.0〜1.8、Al
2O
3量が5質量%以下(ゼロを含む)及びMgO量が1.5質量%以下(ゼロを含む)であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の鋼の連続鋳造方法は、上記モールドパウダーを用いて、中炭高Al含有鋼(鋼中C含有量=0.07〜0.25質量%、鋼中Al含有量≧0.20質量%)を連続鋳造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のモールドパウダーと、それを用いた鋼の連続鋳造方法により、中炭高Al含有鋼の連続鋳造時における、大きな組成変動を起点とした拘束性ブレークアウト、パウダー溶融層厚みの過剰な増大、スラグベアの肥大化、鋳片縦割れを回避することができるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のモールドパウダーにおいて、F量は16〜25質量%の範囲内であり、好ましくは18〜25質量%の範囲内である。F量が16質量%未満の場合、組成変動後の結晶化温度が高くなり、組成変動前後の結晶化温度差が大きくなることで鋳片縦割れが発生するため好ましくない。また、F量が25質量%より高い場合、Fは浸漬ノズルの溶損を助長する元素であることから、多量添加による浸漬ノズルの折損に繋がるため好ましくない。高Al含有鋼のように組成変動が大きな鋼種では、スラグ中のAl
2O
3、CaO/SiO
2が大きく上昇し、ゲーレナイトが晶出し易くなる。しかし、F量を上記範囲内とすることにより、CaF
2の晶出が促進されるのに対して、ゲーレナイトの晶出が抑制されるので、組成変動後の過剰な結晶化温度上昇を抑制することできる。
【0018】
また、本発明のモールドパウダーにおいて、CaOとSiO
2の質量比(CaO/SiO
2)は1.0〜1.8の範囲内であり、好ましくは1.2〜1.6である。CaO/SiO
2が1.0未満の場合、組成変動前の結晶化温度が低くなり、組成変動前後の結晶化温度差が大きくなることで鋳片縦割れに繋がるため好ましくない。また、CaO/SiO
2が1.8より高い場合、組成変動後の結晶化温度が過剰に高くなり、拘束性ブレークアウトやパウダー溶融層厚みの過剰な増大、スラグベアの肥大化の問題が発生し、更に、組成変動前後の結晶化温度差が大きくなることで鋳片縦割れが発生するため好ましくない。なお、本発明におけるCaO量はモールドパウダーに含まれるCa成分が全てCaOとして存在するものとして求めた値である。このため、例えばF成分としてCaF
2を含有する場合も、そのCa成分はCaO量に含まれる。
【0019】
なお、本発明のモールドパウダーにおいて、CaO量は20〜60質量%、好ましくは25〜55質量%の範囲内である。ここで、CaO量が60質量%より高い場合、CaO/SiO
2が1.8より高くなるだけでなく、スラグとして溶融しにくくなるために好ましくない。また20質量%より低い場合、CaO/SiO
2が1.0より低くなるだけでなく、結晶化温度が低下して緩冷却機能を果たすことができなくなるために好ましくない。
【0020】
更に、本発明のモールドパウダーにおいて、Al
2O
3量は5質量%以下(ゼロを含む)であり、好ましくは3質量%以下(ゼロを含む)である。Al
2O
3量が5質量%より高い場合、組成変動前はカスピダインやCaF
2の晶出が抑制されることで組成変動前の結晶化温度が低くなり、組成変動後はゲーレナイトの晶出が促進されるため結晶化温度が高くなる。そのため、組成変動前後の結晶化温度差が大きくなり、鋳片縦割れが発生するため好ましくない。
【0021】
本発明のモールドパウダーにおいて、MgO量は1.5質量%以下(ゼロを含む)であり、好ましくは1.0質量%以下(ゼロを含む)である。なお、MgO量が高くなると、ゲーレナイトが晶出し易くなり、組成変動後の結晶化温度が上昇する傾向があるため、MgOはできるだけ排除することが望ましい。
【0022】
また、本発明のモールドパウダーにおいて、Na
2OやLi
2Oはパウダースラグの粘度調整や結晶化温度調整に必要な成分である。しかし、Na
2O量やLi
2O量を多くすると、結晶種の変化や重要なF量が制限されるため、Na
2O量とLi
2O量は合計で20質量%以下(ゼロを含まず)、好ましくは15質量%以下(ゼロを含まず)とすることが好ましい。
【0023】
本発明のモールドパウダーの構成原料としては、例えば、セメント、石灰石、生石灰のようなCaO原料、珪砂、珪藻土のようなSiO
2原料、蛍石のようなCaF
2原料、炭酸リチウムのようなLi
2O原料、炭酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、氷晶石のようなNa
2O原料を用いることができる。
【0024】
また、本発明のモールドパウダーにおいて、溶融速度の調整のために炭素原料を必要に応じて配合することができる。炭素原料としてはグラファイト、黒鉛などを用いることができる。なお、C量は、20質量%以下、好ましくは15質量%以下である。C量が20質量%より高くなると、モールドパウダー溶融速度が遅く、溶融スラグ層厚みが不足して拘束性ブレークアウトに繋がるため好ましくない。
【0025】
また、本発明のモールドパウダーの形状は特に限定されるものではなく、例えば、粉末、押し出し成形顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒など様々な形状で使用することができる。
【0026】
なお、本明細書におけるモールドパウダーの「結晶化温度」は、1350℃で溶融状態のパウダースラグ120gを4℃/分の速度で降温しながら温度を記録し、結晶化に伴うパウダースラグの発熱開始温度を結晶化温度と定義して測定したものである。
【0027】
次に、本発明の鋼の連続鋳造方法は、上述のような構成を有する本発明のモールドパウダーを用いて中炭高Al含有鋼(鋼中C含有量=0.07〜0.25質量%、鋼中Al含有量≧0.20質量%)を連続鋳造することからなる。モールドパウダーは鋼の連続鋳造においてモールド内の溶鋼表面に添加され、溶鋼からの受熱により溶融し、溶融スラグとなってモールドと凝固シェルの間隙に流れ込みながら消費され使用される。本発明のモールドパウダーを使用する連続鋳造操作において、鋳造速度は0.6〜3.0m/分、好ましくは1.0〜2.5m/分の範囲内である。鋳造速度が0.6m/分未満であると、鋳造速度が遅く経済的でないために好ましくない。また、鋳造速度が3.0m/分を超えるとブレークアウトの危険性が増すため好ましくない。
【実施例】
【0028】
以下の実施例により、本発明品の連続鋳造用モールドパウダーをさらに説明する。
表1及び2に本発明品を示し、表3に比較品を示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
表1及び表2中の組成(質量%)は、組成変動前のモールドパウダーの組成および組成変動後のパウダースラグの組成を示しており、組成変動後の組成は(1)式に示す化学反応を組成変動前のモールドパウダーに与えた場合の組成に調整した値を示したものである。即ち、中炭高Al含有鋼(C=0.12質量%、Al=0.6質量%)の鋳造時に採取したパウダースラグの分析結果では、元の溶融スラグ組成に対してAl
2O
3量が約20質量%増加していた。そこで、増加した約20質量%のAl
2O
3量は全てが(1)式の反応に従ったと考え、Al
2O
3量を18〜19質量%増加し、SiO
2量を15〜17質量%減少した組成を模擬したパウダースラグを調製して変動後の組成としたものである。なお、組成の和が100質量%を超えるのは、F成分としてCaF
2、AlF、LiF等を全て酸化物として換算しているためである。なお、CO
2は、原料として炭酸塩を使用することに起因するものである。
【0033】
<結晶化温度測定>
本発明品及び比較品のモールドパウダーの結晶化温度測定は以下のように行った:
加熱には電気炉を用い、各モールドパウダー試料を白金製るつぼに装填し、るつぼごと1350℃の炉内に装入した。モールドパウダーが溶融した後、熱電対をパウダースラグ中に挿入し、パウダースラグの温度が安定するまで10分間待機した。続いて、パウダースラグの温度を測定しながら電気炉温度を4℃/分の速度で降温し、パウダースラグの結晶化に伴う発熱開始温度を測定し、この温度を結晶化温度とした。
結晶化温度差については、比較品1のモールドパウダーで鋳片縦割れが発生したことから結晶化温度差が120℃以上のモールドパウダーについては「×」、120℃未満100℃以上については「○」、100℃未満については「◎」として評価した。
<侵食試験評価>
侵食試験は、高周波炉を用い1580℃の溶銑を作成し、溶銑上に500gのパウダースラグを作製してその中にZrO
2−Cレンガを90分浸漬させ、溶損量を比較したものである。実機試験でノズル溶損が問題にならなかった比較品1をベースに溶損速度が5%以上上昇したものを「×」、5%未満に収まった、もしくは溶損速度が低下したものを「○」と評価した。
【0034】
表2中、比較品8は特許文献1の範囲内の組成を持つモールドパウダーを用いた例であり、F量が本発明よりも少なくゲーレナイトの晶出によって組成変動後の結晶化温度が高くなり、組成変動前後の結晶化温度差が大きくなった。
比較品1および2も比較品8と同じくF量が少なく、ゲーレナイトの晶出によって組成変動後の結晶化温度が大きくなり、組成変動前後の結晶化温度差が大きくなった。
比較品3は組成変動前後の結晶化温度差は問題無いものの、F量が多いため、ZrO
2−Cレンガの溶損が助長され、侵食試験でZrO
2−Cレンガの溶損速度が速くなった。
比較品4はAl
2O
3量が多く、組成変動後にゲーレナイトが晶出し易くなり、組成変動後の結晶化温度が高くなったことで組成変動前後の結晶化温度差が大きくなった。
比較品5はCaO/SiO
2が低く、組成変動前の結晶であるCaF
2やカスピダインの晶出が抑制され、結晶化温度が低くなり組成変動前後の結晶化温度差が大きくなった。
比較品6はCaO/SiO
2が高く、CaO量が多いことから組成変動後においてCaF
2晶出後でも溶融スラグ中にゲーレナイトが晶出するためのCaOが多く残ることで結晶化温度が高くなり、組成変動前後の結晶化温度差が大きくなった。
比較品7は組成変動後の結晶化温度が高くなり、組成変動前後の結晶化温度差が大きくなった。MgO量が1.5質量%より多くなると、ゲーレナイトの晶出を促進して結晶化温度差が大きくなった。
比較品9はNa
2O+Li
2Oが20質量%より多く、組成変動前後の結晶化温度差が大きくなった。
【0035】
<実機試験結果>
実機試験では本発明品3および9並びに比較品1および8について、評価試験を実施した。
実機試験条件は中炭高Al含有鋼(C=0.07〜0.25質量%、Al=0.6質量%)のスラブ連鋳機で、モールドサイズが200×1500mm、鋳造速度が1.3m/分での結果を示している。
比較品1および8は鋳片縦割れが発生した。組成変動前後の結晶化温度差が大きいため、凝固シェルの不均一凝固が発生し、鋳片縦割れに繋がったと考えられる。
これに対し、本発明品3および9では鋳片割れは起こらなかった。
このように、本発明品の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のモールドパウダーは、中炭高Al含有鋼(鋼中C含有量=0.07〜0.25質量%、鋼中Al含有量≧0.200質量%)のように、鋳片縦割れが発生し易い特徴を有する鋼種と、高Al含有鋼のように大きな組成変動が生じる特徴をもつ鋼種に特に高い効果を発揮する。また、本発明のモールドパウダーは、その他の鋼種に使用しても問題のないものである。