特許第6674303号(P6674303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674303
(24)【登録日】2020年3月10日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】粘着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/08 20060101AFI20200323BHJP
【FI】
   C09J133/08
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-70671(P2016-70671)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-179192(P2017-179192A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡野 公
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−126479(JP,A)
【文献】 特開2013−166915(JP,A)
【文献】 特開2000−186232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成単量体として、少なくとも2−エチルヘキシルアクリレートおよびケイ素基含有アクリル系単量体を含み、平均粒子径が15〜30μmであるアクリル樹脂粒子(A)およびガラス転移温度(Tg)が−40℃以下であるアクリル樹脂エマルジョン(B)を含有し、前記(A)におけるケイ素基含有アクリル系単量体の構成割合が0.1〜5重量%であることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
アクリル樹脂粒子(A)の構成単量体の割合として、2−エチルヘキシルアクリレートが90重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
アクリル樹脂エマルジョン(B)100重量部に対して、アクリル樹脂粒子(A)を100〜900重量部含有することを特徴とする請求項1または2記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の粘着剤組成物が5〜20μmの厚さに形成されていることを特徴とする粘着層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着剤組成物に関するものであり、より詳しくは高温下で使用された場合であっても剥離強度が大幅に増加せず、剥離時に基材に糊残りしたり基材が破壊したりせず、再剥離性に優れた粘着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粘着剤は各種用途で使用されているが、事務用付箋などのように繰り返し剥離して再利用できるように再剥離性を有する粘着剤も用いられている。再剥離性粘着剤においては長期間貼り付けた場合であっても粘着力が変化せずに容易に剥離できることが求められているものの、特に高温環境下に長期間曝された場合は粘着力が高くなってしまい、スムーズに再剥離できなくなる傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1には、粘着性を有する微小球および粘着性を有しない微小球を含有する粘着性再剥離シートが開示されており、加圧後の再剥離性については検討されているものの、高温下で使用された場合の再剥離性は検討されていない。
【特許文献1】特開平11-21524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、高温下で使用された場合であっても剥離強度が大幅に増加せず、剥離時に基材に糊残りしたり基材が破壊したりせず、再剥離性に優れた粘着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、構成単量体として、少なくとも2−エチルヘキシルアクリレートおよびケイ素基含有アクリル系単量体を含み、平均粒子径が15〜30μmであるアクリル樹脂粒子(A)およびガラス転移温度(Tg)が−40℃以下であるアクリル樹脂エマルジョン(B)を含有することを特徴とする粘着剤組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の粘着剤組成物は、高温下で使用された場合であっても剥離強度が大幅に増加せず、剥離時に基材に糊残りしたり基材が破壊したりせず、再剥離性に優れる。したがって、 の用途に特に適する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の粘着剤組成物は、構成単量体として、少なくとも2−エチルヘキシルアクリレートおよびケイ素基含有アクリル系単量体を含み、平均粒子径が15〜30μmであるアクリル樹脂粒子(A)を含有する。本発明の粘着剤組成物からなる粘着層において、各アクリル樹脂粒子が粘着層から頭を出す状態となり、基材と点接着することによって再剥離性を確保できているものと推測される。
【0008】
アクリル樹脂粒子はそれ自体が粘着性を有することが必要なため、構成単量体として2−エチルヘキシルアクリレートを含む必要があり、90重量%以上含むことが好ましい。また、ケイ素基含有アクリル系単量体を含むことにより、再剥離時を向上させることができるため、0.1〜5重量%含むことが好ましい。
ケイ素基含有アクリル系単量体の具体例としては、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのいわゆるシランカップリング剤が挙げられるが、シロキサン構造を有するものでもよい。
【0009】
その他、公知のアクリル系単量体を用いることができる。例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル系単量体、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル単量体、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等の芳香族ビニル系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の飽和脂肪酸ビニル系単量体、アクロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどのオレフィン系単量体、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシメタクリレートなどの水酸基含有単量体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシル基含有単量体、無水マレイン酸等のエチレン系カルボン酸無水物、モノブチルマレイン酸などのエチレン系ジカルボン酸のモノアルキルエステル、およびこれらのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩などのエチレン系カルボン酸塩類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどのエチレン系カルボン酸の酸アミド類、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのエチレン系カルボン酸とアミノ基を有するアルコールとのエステル類、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジアリルフタレートなどの多官能単量体などが挙げられる。
【0010】
アクリル樹脂粒子の製造方法としては、界面活性剤や水溶性高分子を溶解させた水および単量体を混合、攪拌することによって単量体を分散させ、重合開始剤を加えて加熱することにより単量体を重合させる方法が挙げられる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー等の非イオン性界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸エステル塩類及びその誘導体類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルアリルエーテル硫酸エステル類等の陰イオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、ポリオキシエチルアルキルアミン等の陽イオン性界面活性剤、アルキルベタイン等の両性界面活性剤が挙げられ、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0011】
重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩、過酸化水素水、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどの水性ラジカル重合開始剤またはこれらの混合物を用いることができる。重合開始剤の使用量は、単量体100重量部に対して通常は0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。
また、還元剤の存在下で重合開始剤を用いることにより、レドックス系を形成することができる。そのような還元剤としては亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩などのアルカリ金属塩やアンモニウム塩、L−アスコルビン酸、酒石酸などのカルボン酸類が挙げられる。還元剤の使用量は単量体100重量部に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。
【0012】
アクリル樹脂粒子の平均粒子径は15〜30μmである必要がある。平均粒子径が15μm以上であることによって再剥離性が向上し、30μm以下であることによって使用時の接着力に優れる。平均粒子径は前記単量体の分散状態によって調整できる。すなわち、界面活性剤や水溶性高分子の使用量を増やす、攪拌速度を上げる、攪拌時間を長くする、などの方法により平均粒子径を小さくすることができる。なお、本発明における平均粒子径とは、ベックマン−コールター社製、商品名マルチサイザーIIIを用いて測定した重量平均粒子径である。
【0013】
本発明の粘着剤組成物は、ガラス転移温度(Tg)が−40℃以下であるアクリル樹脂エマルジョン(B)を含有する。アクリル樹脂エマルジョンは、前述したアクリル系単量体を乳化重合することによって得られる。ガラス転移温度が−40℃以下であることにより、粘着力を確保できる。
なお、性能を損なわない範囲内において、ガラス転移温度が−40℃以下であるアクリル樹脂エマルジョンに加えて、ガラス転移温度が−40℃を超えるアクリル樹脂エマルジョンを用いてもよい。
【0014】
本発明の粘着剤組成物は、アクリル樹脂エマルジョン(B)100重量部に対して、アクリル樹脂粒子(A)を100〜900重量部含有することが好ましい。アクリル樹脂粒子(A)を100重量部以上含有することにより再剥離性が顕著に向上し、900重量部以下であることにより使用時の接着力を確保できる。
【0015】
本発明のアクリル樹脂エマルジョンにはさらに、必要により可塑剤、造膜助剤、濡れ性向上剤などを配合してもよい。可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等のフタル酸エステル類、トリブトキシエチルホスフェート等のリン酸エステル類、ジメチルアジピン酸等のアジピン酸エステル類等が挙げられる。造膜助剤としては、アルコール類、グリコールエーテル類等が挙げられる。上記の各種成分以外に消泡剤、防腐剤、を含むことができる。
【0016】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。また、部数は全て重量部を意味する。
【実施例】
【0017】
アクリル樹脂粒子の調製
反応器にイオン交換水200部、アニオン性界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部、部分けん化ポリビニルアルコール(けん化度87〜89mol/%、重合度 2400)1部を仕込み、加熱下で十分に攪拌することにより均一に溶解させ、水溶液を調製した。
次に別の容器に2−エチルヘキシルアクリルレート93部、アクリロニトリル5部、メタクリル酸1.5部、ケイ素基含有アクリル系単量体である3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5部、重合開始剤であるナイパーBW(日油社製、過酸化ベンゾイル、商品名)0.6部を仕込み、十分に攪拌することにより混合液を調製した。この混合液を前記水溶液に添加し、攪拌機を用いて攪拌速度300rpmにて10分間で分散させ、温度計、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却機を取り付け、窒素置換、昇温を開始した。65〜70℃で反応が開始し、激しく発熱した。これを冷却して70℃に保持し3時間反応を行った。反応後、40℃まで冷却し、アルカリ増粘剤、アンモニア水を順に添加することにより、粘度700mPa・s、pH8.0、平均粒子径が30μmであるアクリル樹脂粒子分散液1を得た。
【0018】
また、界面活性剤およびポリビニルアルコールの添加量と、混合液の分散条件を表1のように変更した他はアクリル樹脂粒子分散液1と同様に行い、それぞれ平均粒子径が異なるアクリル樹脂粒子分散液2〜4を得た。
【0019】
【表1】
【0020】
さらに、アクリル樹脂粒子分散液1の調製において、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに代えてエチレングリコールジメタクリレート0.5部を添加した他はアクリル樹脂粒子分散液1の調製と同様に行い、平均粒子径が30μmであるアクリル樹脂粒子分散液5を得た。
【0021】
アクリル樹脂エマルジョンの調製
反応器にイオン交換水40部、リン酸2アンモニウム 0.2部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム 0.07部を仕込み、温度計、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却機を取り付け、攪拌しながら窒素置換、昇温を開始した。
次に別の容器にイオン交換水26部、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩0.8部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム2部、アクリルアミド0.7部を仕込み充分攪拌することにより水溶液を調整した。
別の容器に2−エチルヘキシルアクリレート 45.4部、ブチルアクリレート 45.4部、酢酸ビニル 5部, 2−ヒドロキシエチルメタクリレート 1.5部、アクリル酸2部、ドデシルメルカプタン0.03部を仕込んで単量体溶液を調製し、先に調整しておいた水溶液を添加して攪拌し乳化モノマー液を調整した。
また、過硫酸アンモニウム0.5部をイオン交換水5部に溶解させ、重合開始剤溶液を調整した。
反応器に前記乳化モノマー液の3.7%を添加し、10分後に前記重合開始剤溶液の12%を添加し、発熱開始から30分間種重合を行った。次いで反応系中を80℃±3℃に保ちながら残りの乳化モノマー液、重合開始剤溶液をそれぞれ4時間かけて滴下し、滴下終了後さらに80℃±3℃で2時間を維持させた。重合終了後、40℃まで冷却し、消泡剤、防腐剤を添加しアクリル樹脂エマルジョン1を得た。
【0022】
粘着剤組成物の調製
固形分を基準として、前記アクリル樹脂エマルジョン1 100部に対して、アクリル樹脂粒子1 100部およびカルボジイミド系架橋剤であるカルボジライト(日清紡ケミカル社製、商品名)0.5部を混合することにより、実施例1の粘着剤組成物を得た。
【0023】
評価方法
コート紙上に各粘着剤組成物を乾燥後の膜厚が10μmとなるようにバーコーターを用いて塗布し、110℃雰囲気下で1分間乾燥後に別のコート紙を貼り合わせた。ローラーで2往復することにより圧締し、23℃雰囲気下で24時間放置することにより、幅が 25mmである試験体を作製した。
試験体を180°方向に引張り速度300mm/分で剥離し、接着強度を測定した。接着強度が1N/25mm以上であるものを○、1N/25mm未満であるものを×と評価した。
なお、剥離時に被着材が破壊したかを確認して剥離性を評価した。被着材が破壊しなかったものを○、被着材が破壊したものを×と評価した。
また、剥離後の被着材に粘着剤が付着しているかどうかを確認し、糊残りを確認した。粘着剤が付着していないものを○、粘着剤が付着しているものを×と評価した。
【0024】
前記試験体をさらに40℃雰囲気下で7日間放置した後に同様に接着強度を測定した。40℃雰囲気下で7日間放置前の接着強度と比較して、接着強度の増加が20%以下であるものを○、20%を超えるものを×と評価した。
【0025】
【表2】
【0026】
実施例の各粘着剤組成物においては、十分な接着強度を有しており、剥離性も良好であり、高温下に曝された場合であっても剥離性は維持されていた。一方、比較例の各粘着剤組成物においては、いずれかの性能が不十分であった。