(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記メカニカルシールの回転密封環104は焼嵌めによりリテーナ105の溝部105aに固定されているため、その焼嵌めによる残留応力によって回転密封環104のシール面104aに歪が発生し易い。その結果、シール面104aの平坦度に悪影響が及ぶことになる。
また、回転密封環104の背面104bは、焼嵌めによって溝部105aの底面105bに金属接触しているため、背面104bの平坦度が低い場合には、その平坦度を溝部105aの底面105bにより補正することができず、回転密封環104が回転軸102に対して傾き易い。その結果、シール面104aの回転軸102に対する直角度に悪影響が及ぶことになる。
【0006】
このように、上記メカニカルシールにあっては、回転密封環104が溝部105aに焼嵌めにより固定されることで、シール面104aに歪が発生してシール面104aの平坦度が低下したり、シール面104aの背面104bが溝部105aに金属接触して回転密封環104が回転軸102に対して傾き、シール面104aの回転軸102に対する直角度が損なわれたりすることで、被密封流体のシール性能が低下するという問題があった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、回転密封環のシール面の平坦度が低下したり、当該シール面の回転軸に対する直角度が損なわれたりするのを抑制することができるメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のメカニカルシールは、ケーシング側に取り付けられ、シール面を有する静止密封環と、前記ケーシングを貫通する回転軸側に一体回転可能に取り付けられ、軸方向の一端面に環状の溝部が形成されたリテーナと、前記リテーナの溝部に嵌め込まれ、前記静止密封環のシール面に摺接するシール面を有する回転密封環と、を備えたメカニカルシールであって、前記回転密封環は、そのシール面の反対側となる背面と、当該背面に対向する前記溝部の底面との間に環状の第1弾性部材を介在させた状態で、前記溝部に緩く嵌め込まれており、前記回転密封環が前記リテーナに対して回転するのを規制する回り止め機構を備える。
【0008】
上記のように構成されたメカニカルシールによれば、回転密封環はリテーナの溝部に緩く嵌め込まれるので、その嵌め込みによって回転密封環に残留応力が生じるのを低減することができ、その結果、回転密封環のシール面に歪が発生するのを抑制することができる。また、回転密封環の背面と溝部の底面との間に第1弾性部材が介在しているので、前記背面の平坦度が低い場合であっても、その平坦度を第1弾性部材により補正することができ、その結果、回転密封環のシール面が回転軸に対して傾くのを抑制することができる。
【0009】
したがって、回転密封環のシール面に歪が発生してシール面の平坦度が低下したり、背面の平坦度が低い場合に回転密封環が傾いてシール面の回転軸に対する直角度が損なわれたりするのを抑制することができるので、メカニカルシールのシール性能が低下するのを抑制することができる。
また、メカニカルシールは回転密封環がリテーナに対して回転するのを規制する回り止め機構を備えているので、回転密封環がリテーナに緩く嵌め込まれても、回転密封環がリテーナに対して回転するのを防止することができる。
【0010】
前記回転密封環の外周面と、当該外周面に対向する前記溝部の周面との間に環状の第2弾性部材が介在しているのが好ましい。
この場合、回転密封環の外周面の平坦度が低い場合であっても、その平坦度を第2弾性部材により補正することができるので、回転密封環が回転軸に対して傾いてシール面の回転軸に対する直角度に悪影響を及ぼすのをさらに抑制することができる。
【0011】
前記回転密封環の少なくともシール面にダイヤモンド膜が形成されているのが好ましい。この場合、ダイヤモンド膜は大きな熱伝導率を有しているため、回転密封環のシール面で発生した摩擦熱を効率良く逃がすことができる。これにより、シール面に熱歪が発生するのを抑制することができるので、シール面の平坦面が低下するのをさらに抑制することができる。
【0012】
前記静止密封環のシール面の外周縁には、当該シール面から軸方向内側へ向かうに従って漸次拡径するテーパ面が形成されているのが好ましい。
この場合、静止密封環のシール面の外周縁に形成されたテーパ面により、回転密封環のシール面におけるフラッシング流体との接液面積が増加するので、回転密封環のシール面を効率良く冷却することができる。その結果、シール面に熱歪が発生するのをさらに抑制することができる。
【0013】
前記第1弾性部材は、熱伝導性を有するガスケットであるのが好ましい。この場合、回転密封環のシール面で発生した摩擦熱を、回転密封環の背面からガスケットを介してリテーナに逃がすことができるので、シール面に熱歪が発生するのをさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のメカニカルシールによれば、回転密封環のシール面の平坦度が低下したり、当該シール面の回転軸に対する直角度が損なわれたりするのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るメカニカルシールを示す断面図である。
図1において、このメカニカルシール1は、各種産業用ポンプ、撹拌機、コンプレッサ、ブロワ等の回転流体機器の軸封装置として用いられ、回転流体機器のケーシングCと、当該ケーシングCの開口c1を貫通する回転軸Sとの間に配置されている。なお、本明細書において、
図1の左側を機外側、
図1の右側を機内側という(
図2及び
図5についても同様)。
【0017】
図1に示すように、メカニカルシール1は、静止側ユニットとして、ケーシングCに固定された環状のシールケース2と、このシールケース2の内周面に嵌合して固定された環状の静止密封環3とを備えている。シールケース2には、フラッシング流体をシールケース2内に供給する供給路22と、シールケース2内のフラッシング流体を排出する排出路23とが形成されている。
【0018】
静止密封環3は、カーボン、又はその他の材料を主成分として形成された部材であり、その機内側の端部にシール面3aが形成されている。静止密封環3の外周には、その軸方向の二箇所にシールケース2の内周面との間をシール(二次シール)するゴム製のOリング15,16が設けられている。
【0019】
メカニカルシール1は、回転側ユニットとして、回転軸Sに一体回転可能に取り付けられたスリーブ4と、スリーブ4の外周に一体回転可能に取り付けられた環状のドライブカラー5と、ドライブカラー5と連係してスリーブ4の外周に一体回転可能に取り付けられた環状のリテーナ6と、リテーナ6に取り付けられた回転密封環7と、ドライブカラー5を機外側に付勢する複数の付勢部材8と、これらの付勢部材8を保持する環状の保持部材9とを備えている。
【0020】
スリーブ4は、ステンレス鋼等の金属材(例えば、SUS304等)からなり、回転軸Sの外周面に嵌合されている。スリーブ4の機外側の端部はシールケース2よりも機外側に配置され、機内側の端部はケーシングC内に配置されている。また、スリーブ4の軸方向中央部の内周には、回転軸Sの外周面との間をシール(二次シール)するゴム製のOリング17が設けられている。
【0021】
スリーブ4の機外側の端部には、円環部10aと円筒部10bとを有するストッパリング10が配置されている。円環部10aの内周面は回転軸Sの外周面に嵌合して固定されており、円筒部10bの内周面はスリーブ4の外周面に嵌合されている。円環部10aの機内側の端面10cは、スリーブ4の機外側の端面に当接している。
【0022】
円筒部10bには、径方向に貫通するネジ孔10dが周方向に所定間隔をあけて複数形成されている。ネジ孔10dには、セットスクリュー(押さえネジ)11が螺合されており、このセットスクリュー11を締め付けることで、その先端部がスリーブ4の外周面を押し付けている。これにより、スリーブ4は、ストッパリング10とセットスクリュー11によって、回転軸Sに強固に固定されている。
【0023】
ドライブカラー5は、ステンレス鋼等の金属材(例えば、SUS304等)からなり、スリーブ4の外周面に対して軸方向に摺動可能に取り付けられている。ドライブカラー5には、複数(本実施形態では3個)のドライブピン13の機外側の端部がそれぞれ固定されている。具体的には、ドライブカラー5には、軸方向に貫通するネジ孔5aが周方向に所定間隔をあけて複数形成されており、各ネジ孔5aには各ドライブピン13の一端部に形成された雄ネジ部13aがそれぞれ螺合されている。
【0024】
保持部材9は、ステンレス鋼等の金属材(例えば、SUS304等)からなり、ドライブカラー5よりも機内側においてスリーブ4の外周面に嵌合されている。保持部材9には、径方向に貫通するネジ孔9aが周方向に所定間隔をあけて複数形成されており、各ネジ孔9aにはセットスクリュー12が螺合されており、このセットスクリュー12を締め付けることで、その先端部がスリーブ4の外周面を押し付けている。これにより、保持部材9は、セットスクリュー12によってスリーブ4に固定されている。
【0025】
保持部材9には、軸方向に貫通する複数の保持孔9bが周方向に所定間隔をあけて形成されている。この保持孔9bには、前記ドライブピン13が挿入された状態で軸方向に所定範囲で移動自在に保持されている。
保持部材9は、周方向に所定間隔をあけて複数の付勢部材8の機内側の端部を保持している。付勢部材8は、例えば圧縮コイルばねからなり、その機外側の端部はドライブカラー5の機内側の端面に当接している。これにより、ドライブカラー5は、付勢部材8の付勢力によって機外側に付勢されている。
【0026】
リテーナ6は、ステンレス鋼等の金属材(例えば、SUS304等)からなり、スリーブ4の外周面に対して軸方向に摺動可能に取り付けられている。リテーナ6の内周にはスリーブ4の外周面との間をシール(二次シール)するゴム製のOリング18が設けられている。リテーナ6の機内側の端面には複数の突起部61が周方向に所定間隔をあけて形成されており、各突起部61は、ドライブカラー5に形成された複数の係合孔5bにそれぞれ係合されている。
【0027】
回転密封環7は、例えば、耐摩耗性及びシール性能に優れたSiC焼結体からなり、リテーナ6の機外側の端部に取り付けられている。回転密封環7の機外側の端面は、静止密封環3のシール面3aに摺接するシール面7aとされている。回転密封環7のシール面7aと静止密封環3のシール面3aとの摺接部分は、供給路22から供給されるフラッシング流体によって冷却及び潤滑されるようになっている。
【0028】
以上の構成により、ドライブカラー5がドライブピン13を介して保持部材9から駆動トルクを受けることによって、リテーナ6が突起部61を介して回転駆動され、ドライブカラー5、リテーナ6及び回転密封環7は回転軸Sと一体回転する。その際、ドライブカラー5は、ドライブピン13を介して保持部材9に対して軸方向へ移動可能に保持された状態で、付勢部材8によって機外側に付勢されている。これにより、回転密封環7のシール面7aは、静止密封環3のシール面3aに所定圧力で押し付けられた状態で摺接することで、軸封部を形成している。
【0029】
[回転密封環の取り付け構造]
図2は、回転密封環7の取り付け構造を示す拡大断面図である。
図2において、リテーナ6の機外側の端面には、回転密封環7が嵌め込まれる環状の溝部62が形成されている。この溝部62の直径は、回転密封環7の外径よりも若干(0.2〜0.5%程度)大きく設定されており、これにより回転密封環7は溝部62に緩く嵌め込まれている。
【0030】
回転密封環7のシール面7aの反対側となる背面7cと、この背面7cに対向する溝部62の底面62aとの間には環状の第1弾性部材31が介在している。第1弾性部材31は、溝部62の底面62aに形成された環状の凹部63に配置されており、前記底面62aと回転密封環7の背面7cとの間をシール(二次シール)している。また、第1弾性部材31は、例えば耐食性に優れたフッ素ゴム等の弾性材料を用いて形成されたOリングからなり、回転密封環7の背面7cが溝部62の底面62aに接触しない程度のつぶし代に設定されている。
【0031】
回転密封環7の外周面7bと、この外周面7bに対向する溝部62の周面62bとの間には環状の第2弾性部材32が介在している。第2弾性部材32は、溝部62の周面62bに形成された凹部64に配置されており、前記周面62bと回転密封環7の外周面7bとの間をシール(二次シール)している。また、第2弾性部材32は、例えば耐食性に優れたフッ素ゴム等の弾性材料を用いて形成されたOリングからなり、回転密封環7の外周面7bが溝部62の周面62bに接触しない程度のつぶし代に設定されている。
【0032】
なお、本実施形態では、回転密封環7の背面7c側と外周面7b側に第1及び第2弾性部材31,32がそれぞれ設けられているが、少なくとも背面7c側の第1弾性部材31が設けられていればよい。その理由は、回転密封環7の背面7cの平坦度が、外周面7bの平坦度よりも、シール面7aの回転軸Sに対する直角度に悪影響を及ぼす度合いが高いからである。但し、メカニカルシール1の性能(一次シールたる静止密封環3と回転密封環7との間のシール、及び二次シールの性能)をさらに安定させるという観点では、外周面7b側にも第2弾性部材32を設けるのが好ましい。
【0033】
図3は、リテーナ6を機外側から見た正面図である。
図2及び
図3に示すように、リテーナ6における溝部62の底面62aの内周側には、機外側へ突出する複数(図例では3個)のピン41が周方向に所定間隔をあけて形成されている。これらのピン41は、例えばリテーナ6の機外側の端面をミーリング加工することで、リテーナ6に一体に形成されている。
【0034】
各ピン41は、回転密封環7の背面7cにおいて周方向に所定間隔をあけて形成された複数の凹溝42にそれぞれ挿入されている。この状態においてピン41の先端面は、凹溝42の底面42aに対して非接触とされている。そして、回転密封環7がリテーナ6に対して回転しようとすると、凹溝42の側面42bがピン41の外周面に当接することで、その回転が規制される。したがって、本実施形態では、ピン41及び凹溝42が、回転密封環7がリテーナ6に対して回転するのを規制する回り止め機構40を構成している。
【0035】
以上のように、回転密封環7はリテーナ6の溝部62に緩く嵌め込まれるので、その嵌め込みによって回転密封環7に残留応力が生じるのを低減することができ、その結果、回転密封環7のシール面7aに歪が発生するのを抑制することができる。
また、回転密封環7の背面7cと溝部62の底面62aとの間に第1弾性部材31が介在しているので、前記背面7cの平坦度が低い場合であっても、その平坦度を第1弾性部材31により補正(吸収)することができる。さらに、回転密封環7の外周面7bと溝部62の周面62bとの間に第2弾性部材32が介在しているので、前記外周面7bの平坦度が低い場合であっても、その平坦度を第2弾性部材32により補正(吸収)することができる。これにより、前記背面7c及び外周面7bの平坦度が低い場合に回転密封環7が回転軸Sに対して傾くのを抑制することができる。
【0036】
したがって、回転密封環7のシール面7aに歪が発生してシール面7aの平坦度が低下したり、背面7c及び外周面7bの平坦度が低い場合に回転密封環7が傾いてシール面7aの回転軸Sに対する直角度が損なわれたりするのを抑制することができるので、メカニカルシール1のシール性能が低下するのを抑制することができる。
【0037】
また、メカニカルシール1は回転密封環7がリテーナ7に対して回転するのを規制する回り止め機構40を備えているので、回転密封環7がリテーナ6に緩く嵌め込まれても回転密封環7がリテーナ6に対して回転するのを防止することができる。
また、回り止め機構40を構成するリテーナ6側のピン41の先端面は、回転密封環7側の凹溝42の底面42aに対して非接触であるため、これらの接触に起因して回転密封環7が回転軸Sに対して傾くのも防止することができる。
【0038】
[回転密封環のダイヤモンド膜]
図2において、本実施形態の回転密封環7には、その全面にダイヤモンド膜d1〜d4が連続して形成されている。ダイヤモンド膜d1は回転密封環7のシール面7aに形成されており、ダイヤモンド膜d2は回転密封環7の外周面7bに形成されている。ダイヤモンド膜d3は回転密封環7の背面7c(凹溝42を含む)に形成されており、ダイヤモンド膜d4は回転密封環7の内周面7dに形成されている。なお、
図2では、分かりやすいようにダイヤモンド膜d1〜d4の膜厚を誇張して描いている。
【0039】
ダイヤモンド膜d1〜d4は、1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、回転密封環7のシール面7aの耐摩耗性を向上させるだけでなく、以下の作用効果を奏する。すなわち、回転密封環7のシール面7aで発生した摩擦熱を、ダイヤモンド膜d1から速やかにダイヤモンド膜d2及びダイヤモンド膜d3をそれぞれ経由して回転密封環7の背面7cに形成されたダイヤモンド膜d3に伝えることができる。
【0040】
これにより、回転密封環7のシール面7aと背面7cとの温度差を緩和し、この温度差に起因する熱歪がシール面7aに発生するのを抑制することができる。その結果、シール面7aの平坦度が低下するのを抑制することができるので、メカニカルシール1のシール性能が低下するのをさらに抑制することができる。
【0041】
ダイヤモンド膜d1〜d4は、例えばマイクロ波CVD法、熱フィラメントCVD法等の一般的な製造技術を用いて作製することができる。ダイヤモンド膜d1〜d4の厚さは、本発明において特に限定されるものではないが、通常、3〜30μm、好ましくは3〜10μmである。回転密封環7のシール面7aで発生した摩擦熱が当該回転密封環7の母材であるSiC焼結体に移動する前に外周面7b及び内周面7dに移動させるという観点からは、3μm以上の厚みであることが望ましい。また、ダイヤモンド膜が厚くなるほど膜の表面粗度も大きくなり、精密な機械部品であるメカニカルシールのシール面として使用するのが困難になるのに加えて、ダイヤモンド膜の残留応力を極力小さくするという観点からは、10μm以下であることが望ましい。
【0042】
なお、ダイヤモンド膜d1〜d4の厚さは、同じ厚さであってもよいし、互いに異なる厚さであってもよい。回転密封環7のシール面7aで発生した摩擦熱を速やかに外周面7b及び内周面7dに移動させるという観点からは、外周面7b及び内周面7dのダイヤモンド膜d2,d4の膜厚が、シール面7aのダイヤモンド膜d2の膜厚以上であることが望ましい。
【0043】
回転密封環7のシール面7aでは、ダイヤモンド膜d1が形成されることで表面粗度が大きくなる。このため、シール面7aとして必要な平坦度を確保するために、ダイヤモンド膜d1の表面には仕上げ加工が施される。
また、回転密封環7の外周面7b及び背面7cでも、ダイヤモンド膜d2,d3が形成されることで表面粗度が大きくなるが、外周面7b及び背面7cの各平坦度のうねりを、第1及び第2弾性部材31,32によりそれぞれ吸収することができる。したがって、回転密封環7の外周面7b及び背面7cにダイヤモンド膜d2,d3を形成することで、外周面7b及び背面7cの平坦度が低下しても、回転密封環7が傾いてシール面7aの回転軸Sに対する直角度が損なわれるのを効果的に抑制することができる。
【0044】
[静止密封環のテーパ面]
図2に示すように、静止密封環3のシール面3aの外周縁には、当該シール面3aから静止密封環3の軸方向内側(機外側)へ向かうに従って漸次拡径するテーパ面(ハイドロカット)3bが形成されている。
図4は、静止密封環3を機内側から見た正面図である。
図4に示すように、静止密封環3のテーパ面3bは、シール面3aの外周縁において周方向に所定間隔をあけて複数個所(図例では8箇所)に形成されている。
【0045】
これにより、供給路22(
図1参照)から供給されたフラッシング流体は、静止密封環3のテーパ面3bに沿って静止密封環3のシール面3aと回転密封環7のシール面7aとの摺接部分に入り込み易くなるので、前記摺接部分を効率的に冷却することができ、かつ前記摺接部分においてフラッシング流体による潤滑膜の膜厚を厚くすることができる。また、回転密封環7のテーパ面3bにより、シール面7aにおけるフラッシング流体との接液面積が増加するので、当該シール面7aをさらに効率的に冷却することができる。その結果、両シール面3a,7aの耐摩耗性を向上させることができる。
【0046】
[変形例]
図5は、第1弾性部材31の変形例を示す拡大断面図である。本変形例の第1弾性部材31は、熱伝導性を有するガスケットからなる。ガスケットの熱伝導率及び硬度は、本発明において特に限定されるものではないが、好ましくは熱伝導率は5〜200W/m・kであり、硬度はHs40〜90である。なお、本変形例では、第1弾性部材31をガスケットとしているが、これに加えて第2弾性部材32をガスケットとしてもよい。
【0047】
以上のように、第1弾性部材31として熱伝導性を有するガスケットを用いることで、回転密封環7のシール面7aで発生した摩擦熱は、ダイヤモンド膜d1からダイヤモンド膜d2(ダイヤモンド膜d3)、ダイヤモンド膜d3、及び第1弾性部材31を経由してリテーナ6の溝部62の底面62aに伝わる。これにより、前記摩擦熱をリテーナ6に逃がすことができるので、回転密封環7のシール面7aと背面7cとの温度差をさらに緩和することができ、その結果、シール面7aに熱歪が発生するのをさらに抑制することができる。
【0048】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、上記実施形態では、ダイヤモンド膜は、回転密封環7の全周に形成されているが、少なくともシール面7aに形成されていればよい。