(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
複数のバルブブロックが連接されて構成されるコントロールバルブは、定期的な保守点検が動作の安定化および長寿命化にとって重要である。特に、コントロールバルブ内の機械摺動部分から発生し作動油に混入した金属摩耗粉は摺動面の損傷などを発生させる要因となることから、作動油の劣化状態の測定、分析、診断は不可欠である。
【0003】
作動油・潤滑油の劣化状態を測定する方法として、潤滑油循環ラインの複数箇所から潤滑油分取ラインによって潤滑油を抜き出して潤滑油性状分析装置に送り、潤滑油性状分析装置にて、潤滑油の粘度、水分、比重、色相などを分析する方法がある(例えば特許文献1)。
【0004】
また、内燃機関の潤滑油の劣化状態などを診断する方法として、内燃機関の各潤滑部位に分配する潤滑油を貯留するメインオイルホール内に、オイル劣化センサとして光学式センサや電気抵抗式センサを設ける技術が知られる(例えば特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の診断方法は、全体の系における潤滑油の劣化状態を診断できることに止まる。そのため、コントロールバルブにおける例えばバルブブロック単位など部位毎の損傷の度合いを診断するには情報不足である。
【0007】
また、コントロールバルブの例えば潤滑油の劣化状態など、コントロールバルブから得られる各種のセンサ信号をもとに損傷診断を行うには演算処理のために大きなリソースを要する。このような大きな負荷を要する演算処理はECUではリソース的に不十分である。さらに、コントロールバルブから得られる各種のセンサ信号を取り出すために多数の配線が必要となり、配線接続作業が複雑になり、断線による事故発生確率が増大する。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明は、コントロールバルブの劣化診断に好適なコントロールバルブの状態検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るコントロールバルブの状態検出システムは、コントロールバルブの作動油によって満たされる空間に配置され、バルブブロック毎のスプールと一体で移動する磁石と、前記磁石に近接して配置された磁気検出部を備え、前記磁気検出部の出力から前記スプールの位置を検出するスプール位置センサと、前記スプール位置センサの検出データを前記作動油の劣化状態分析用のデータとして無線通信を介して分析・診断装置に伝送する伝送部とを具備する。
【0010】
このコントロールバルブの状態検出システムでは、コントロールバルブの作動油によって満たされる空間に配置された磁石に、作動油に混入する金属摩耗粉が付着する。磁石に金属摩耗粉が付着すると、その付着量の程度に応じて磁石の周囲の磁界が乱れるので、スプール位置センサの検出データに金属摩耗粉の混入による作動油の劣化状態が反映される。この作動油の劣化状態を反映した検出データは作動油の劣化状態分析用のデータとして無線通信を介して伝送部により分析・診断装置に伝送される。分析・診断装置は、受信した作動油の劣化状態分析用のデータを分析し、コントロールバルブの劣化診断を行うことを目的に設置された装置である。この分析・診断装置によって検出データの分析、コントロールバルブの劣化診断を行うようにしたことによって、ECUのリソースを消費することなく、データ分析、コントロールバルブの劣化診断を行うことができる。また、バルブブロック毎の作動油の劣化状態分析用のデータに対する分析が行われるので、コントロールバルブの劣化状態をバルブブロック単位で推定することができる。
【0011】
このコントロールバルブの状態検出システムは、前記スプールを駆動するソレノイドアクチュエータをさらに有し、前記磁石は、一方の面に弾性部材が取り付けられ、他方の面が前記ソレノイドアクチュエータのプランジャーに設けられたものであってよい。
【0012】
このコントロールバルブの状態検出システムにおいて、前記分析・診断装置は、前記バルブブロック毎の前記スプールがそれぞれ同じ位置にあるときの前記各バルブブロックの前記スプール位置センサの出力を比較して、劣化の進んだ前記バルブブロックを判定するものであってよい。
【0013】
さらに、前記伝送部は、複数の前記バルブブロックの前記スプール位置センサから無線通信により前記劣化状態分析用のデータを収集し、前記分析・診断装置に送信する通信端末をさらに具備するものであってよい。これにより、コントロールバルブから引き出される配線数を抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コントロールバルブから引き出される配線数の増大を抑制しつつ、コントロールバルブのより高レベルな劣化診断が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明のコントロールバルブの状態検出システムにかかる一実施形態を説明する。
本実施形態は、例えば建設機械、生産設備機器などに用いられるアクチュエータの油圧シリンダへの作動油の給排を制御するコントロールバルブにおいて、作動油の劣化状態を分析するためのデータをバルブブロック毎に生成して、分析・診断装置に伝送する状態検出システムに関するものである。
まず、診断対象であるコントロールバルブについて説明する。
【0017】
(コントロールバルブ)
図1は、コントロールバルブにおける複数のバルブブロックのうちの1つのバルブブロック1の構成を示す概念図である。
同図に示すように、このバルブブロック1は、バルブボディ11を有し、バルブボディ11にはスプール挿通孔11aが設けられる。また、バルブボディ11には、それぞれスプール挿通孔11aに開口するポンプポート(作動油流入路)12、タンクポート(作動油流出路)13、シリンダポート14、シリンダポート15などが設けられる。
【0018】
バルブボディ11のスプール挿通孔11aにはスプール16が挿通されている。スプール16の周面には複数の円環溝16a、16bが設けられる。バルブブロック1は、バルブボディ11のスプール挿通孔11aに挿通されたスプール16の移動により、スプール16の周面に設けられた円環溝16a、16bを介して各ポート12、13、14、15間の連通および遮断が切り替えられるように構成される。
【0019】
スプール16は
図1の位置(中立位置)から後述するソレノイドアクチュエータ2によってスプール16の軸方向に矢印+方向および矢印−方向に一定距離移動される。スプール16が
図1の位置(中立位置)から矢印+方向に一定距離移動されると、スプール16の円環溝16bを介してポンプポート12とシリンダポート14とが連通するとともに、スプール16の円環溝16aを介してタンクポート13とシリンダポート15とが連通する。これにより、ポンプポート12に接続されたポンプ(図示せず)からシリンダポート14を通して油圧シリンダ(図示せず)に作動油が供給され、油圧シリンダ(図示せず)からシリンダポート15を通してタンクポート13に接続されたタンク(図示せず)に作動油が排出される。
【0020】
また、スプール16が
図1の位置(中立位置)から矢印−方向に一定距離移動されると、スプール16の円環溝16aを介してポンプポート12とシリンダポート15とが連通するとともに、スプール16の円環溝16bを介してタンクポート13とシリンダポート14とが連通する。これにより、ポンプポート12に連続されたポンプ(図示せず)からシリンダポート15を通して油圧シリンダ(図示せず)に作動油が供給され、油圧シリンダ(図示せず)からシリンダポート14を通してタンクポート13に接続されたタンク(図示せず)に作動油が排出される。
【0021】
ソレノイドアクチュエータ2が駆動されていないときは、スプール16は、可動方向の両側に配置されたセンタリングスプリング17、18によって
図1に示した中立位置にあり、このときポンプポート12、タンクポート13、シリンダポート14、シリンダポート15間は連通せず、油圧シリンダに対する作動油の給排は停止状態になる。
【0022】
(ソレノイドアクチュエータとスプール位置センサ)
次に、上記のソレノイドアクチュエータ2とスプール16の位置を検出するスプール位置センサ3について説明する。
バルブボディ11のスプール16の可動方向の片側にはソレノイドアクチュエータ2とスプール位置センサ3が配設されている。
【0023】
ソレノイドアクチュエータ2は、ソレノイドケース21と、ソレノイドケース21に収容されたコイル22と、コイル22内に配置され、プランジャー保持孔23aを有するスリーブ23と、スリーブ23のプランジャー保持孔23aに摺動自在に保持されたプランジャー24とを有する。プランジャー24の駆動方向の一方端面はスプール16の端面16cに当接されている。すなわち、このソレノイドアクチュエータ2は、コイル22への通電によって発生する磁界によって磁性体からなるプランジャー24をプランジャー保持孔23a内で駆動させることによって、プランジャー24の一方端面に当接するスプール16をバルブボディ11のスプール挿通孔11a内で移動させる。
【0024】
プランジャー24のスプール16と当接される側とは逆側の端部24aは、ソレノイドケース21から突出してスプール位置センサ3の中空なセンサケース31内に挿入されている。ソレノイドケース21とセンサケース31にはプランジャー24を通すための孔21a、31aが設けられている。センサケース31内に挿入されたプランジャー24の端部24aには磁石25が固定されている。磁石25とセンサケース31の内壁面との間には上記一方のセンタリングスプリング18が配設されている。
【0025】
スプール位置センサ3は、バルブブロック1におけるスプール16の位置を検出するためのセンサである。スプール位置センサ3は、センサケース31内に挿入されたプランジャー24の端部24aに固定された磁石25に対向して配置された磁気センサ32を備える。磁石25はN極とS極がスプール16(プランジャー24)の可動方向に並んで配置される。磁石25の周囲にはN極からS極に向かう磁界Mが形成される。
【0026】
磁気センサ32は、磁界Mの磁束密度をホール効果を利用して検出するホール素子32aと、ホール素子32aの出力を処理する信号処理回路32bとを有する。信号処理回路32bは、ホール素子32aの出力をスプール16のストローク距離に対して線形となるように補正する機能、補正したセンサ信号をデジタルデータに変換する機能、およびデジタルデータを後述するECU(Electronic Control Unit)110および無線モジュール4などに出力する機能などを備える。なお、ECU110は、無線モジュール4を内蔵したものであってもよい。
【0027】
図2は、本実施形態のコントロールバルブの状態検出システム100の全体的な構成を示すブロック図である。
コントロールバルブCにおける複数のバルブブロック1のスプール位置センサ3によって各々得られたセンサ信号のデータ(以下「検出データ」と呼ぶ。)は、アクチュエータに関する制御を行うECU(Electronic Control Unit)110に送信される。
【0028】
また、複数のバルブブロック1のスプール位置センサ3によって各々得られた検出データは、作動油の劣化状態分析用のデータとしても無線通信によって通信端末5に送信される。すなわち、スプール位置センサ3により生成された検出データは無線モジュール(子機)4から、通信端末5に接続されたアクセスポイント(親機)6を介して通信端末5に送信される。スプール位置センサ3と通信端末5との無線通信には、例えば、無線LAN、Wi−Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)などが採用される。
【0029】
通信端末5は、CPU、メモリおよび通信処理部などを有する典型的なコンピュータのハードウェア構成を有する情報処理装置である。通信端末5は、例えば、パーソナルコンピュータ、スマートホン、タブレット端末などであってよい。通信端末5は、無線WAN7を通じてインターネット8に接続してインターネット8上の分析・診断装置9にアクセスすることが可能である。この分析・診断装置9は、典型的にはコンピュータなどにより構成される。通信端末5は、スプール位置センサ3より無線モジュール4を用いて送信された劣化状態分析用のデータを受信し、無線WAN7およびインターネット8を通じて分析・診断装置9に劣化状態分析用のデータを送信するように構成されている。分析・診断装置9は、受信したデータを分析し、分析結果をもとにコントロールバルブCの劣化状態をバルブブロック1単位で診断し、診断結果を通信端末5などに送信することが可能である。
【0030】
分析・診断装置9において受信した劣化状態分析用のデータをバルブブロック1別に識別するために、劣化状態分析用のデータにはバルブブロック1を識別するIDなどのバルブブロック識別情報が、スプール位置センサ3の信号処理回路32bによって付加される。
【0031】
(作動油・潤滑油について)
上記のソレノイドアクチュエータ2は、スリーブ23のプランジャー保持孔23aがバルブブロック1のスプール挿通孔11aの端などから流入する作動油で満たされることによって、この作動油を潤滑油として利用する油浸タイプである。本実施形態では、ソレノイドアクチュエータ2のスリーブ23のプランジャー保持孔23aが作動油(潤滑油)で満たされるとともに、ソレノイドケース21およびセンサケース31に各々設けられた孔21a、31aを通じて作動油(潤滑油)がセンサケース31内にも流入してセンサケース31内の空間を満たすように構成されている。
【0032】
このようにセンサケース31内の空間が作動油(潤滑油)で満たされるので、センサケース31内の作動油(潤滑油)に混入した金属摩耗粉は、プランジャー24の端部24aに固定された磁石25の磁力によって引き寄せられて吸着される。磁石25に金属摩耗粉が付着すると、付着量の程度に応じて磁石25の周囲の磁界Mが乱れ、磁気センサ32のホール素子32aの出力の値が変化する。例えば、磁石25への金属摩耗粉の付着量が増大するにつれて、磁気センサ32のホール素子32aの出力の値は低くなり、線形補正後のセンサ信号の値も低くなる。
【0033】
本実施形態のコントロールバルブの状態検出システム100は、このように金属摩耗粉の付着量を反映したセンサ信号の値を含む劣化状態分析用のデータを、各々のバルブブロック1のスプール位置センサ3から無線通信を介してインターネット8上の分析・診断装置9に伝送するようにしたものである。
【0034】
すなわち、本実施形態のコントロールバルブの状態検出システム100は、コントロールバルブCの作動油によって満たされる空間(センサケース31内)に配置され、バルブブロック1毎のスプール16と一体で移動する磁石25と、磁石25に近接して配置されたホール素子32aを備え、ホール素子32aの出力からスプール16の位置を検出するスプール位置センサ3と、スプール位置センサ3の検出データを作動油の劣化状態分析用のデータとして無線通信を介して分析・診断装置9に伝送する伝送部である少なくとも無線モジュール(子機)4を具備する。伝送部には、無線モジュール(子機)4に加えて、通信端末5、アクセスポイント(親機)6などが含まれてもよい。
【0035】
(分析・診断装置9によるデータ分析等)
分析・診断装置9は、受信した劣化状態分析用のデータを分析し、分析結果からコントロールバルブCの劣化状態をバルブブロック1の単位で推定するなどの診断を行う。
より具体的には、分析・診断装置9は、例えば、スプール16が中立位置にあるときの各バルブブロック1のセンサ信号の値を比較し、センサ信号の値が相対的に低いバルブブロック1を劣化状態がよりすすんだ部位として判定する。あるいは、スプール16が中立位置にあるときのセンサ信号の値の履歴を保存し、履歴データからバルブブロック1の劣化状態を推定するようにしてもよい。
【0036】
また、磁気センサ32では、信号処理回路32bによって、
図3に示したように、ホール素子32aの出力をスプール16のストローク距離に対して線形となるように補正して磁気センサ32の出力とする処理が行われる。作動油の劣化状態がすすむと作動油の粘度が変化し、ソレノイドアクチュエータ2のプランジャー24のストローク距離に影響を与える結果、センサ信号の値の変化の線形がくずれる。分析・診断装置9は、このような観点からデータ分析を行うことも可能である。
【0037】
コントロールバルブCが稼動していない時間帯に、分析・診断装置9あるいは通信端末5から各々のバルブブロック1のスプール位置センサ3に対して検出動作開始を指示し、スプール16が中立位置にあるときの検出データを劣化状態分析用のデータとして分析・診断装置9に伝送するようにしてもよい。
【0038】
以上説明した本実施形態のコントロールバルブの状態検出システム100によれば、バルブブロック1毎に作動油の劣化状態を反映したセンサ信号の値を含む検出データが無線通信系によって分析・診断装置9に劣化状態分析用のデータとして伝送される。分析・診断装置9では、受信したデータが分析され、分析結果からコントロールバルブCのバルブブロック1単位での劣化状態の推定が行われる。このような構成により、ECU110のリソースを消費することなく、コントロールバルブの劣化状態をバルブブロック単位で推定することができる。また、各バルブブロック1のスプール位置センサ3で各々得られた劣化状態分析用のデータの分析・診断装置9への伝送には無線通信系が用いられることから、コントロールバルブCから引き出される配線数を抑えることができる。
【0039】
(変形例)
上記の実施形態では、コントロールバルブCの各バルブブロック1のスプール位置センサ3で得られた劣化状態分析用のデータを無線通信により通信端末5に集めて、通信端末5から分析・診断装置9にまとめて伝送する場合の構成を示したが、本発明は、例えば、
図4に示すように、コントロールバルブCの各バルブブロック1のスプール位置センサ3の無線モジュール4から各々独立して無線WAN7に接続し、分析・診断装置9に劣化状態分析用のデータを伝送するようにしてもよい。
【0040】
図5に示すように、油圧ショベルなどの建設機械120には複数のコントロールバルブC1、C2が搭載される場合がある。このような場合、各コントロールバルブC1、C2のバルブブロック毎の劣化状態分析用のデータには、コントロールバルブC1、C2を識別するIDなどのコントロールバルブ識別情報とバルブブロックを識別するIDなどのバルブブロック識別情報とが付加される。通信端末5は、各コントロールバルブC1、C2のバルブブロック毎の劣化状態分析用のデータを無線通信により受信し、まとめてネットワーク上の分析・診断装置9に送信する。この際、通信端末5は、コントロールバルブC1、C2毎に複数の劣化状態分析用のデータをまとめて分析・診断装置9に送信してもよい。複数のコントロールバルブを設置した生産設備機械においても、同様の構成を採用することが可能である。
【0041】
上記の実施形態では、磁気センサによるスプール位置の検出機構を用いて作動油の劣化状態の指標値を検出する構成したが、コントロールバルブの劣化状態をバルブブロック単位で推定する上で有用な指標として、加速度センサなどにより検出可能なバルブブロックの振動、温度センサなどにより検出可能な作動油の温度などがある。
【0042】
さらに、作動油の劣化状態を検出する他の手段として、光透過形のセンサをセンサケース31内に配置する構成などが考えられる。光透過形のセンサを用いた場合、バルブブロック毎に作動油が満たされる空間を設け、そこに光透過形のセンサを配置すればよい。