(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674370
(24)【登録日】2020年3月10日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】押釦スイッチ用接点部材
(51)【国際特許分類】
H01H 1/02 20060101AFI20200323BHJP
H01H 1/06 20060101ALI20200323BHJP
H01H 13/12 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
H01H1/02
H01H1/06 L
H01H13/12
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-241182(P2016-241182)
(22)【出願日】2016年12月13日
(65)【公開番号】特開2018-98030(P2018-98030A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000239426
【氏名又は名称】福田金属箔粉工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516375160
【氏名又は名称】日本台鵬貿易有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067301
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 順一
(74)【代理人】
【識別番号】100173406
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 真貴子
(72)【発明者】
【氏名】森岡 伸哲
(72)【発明者】
【氏名】橋本 敏孝
(72)【発明者】
【氏名】福田 絵里
(72)【発明者】
【氏名】笹井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】山王 信一
(72)【発明者】
【氏名】森尾 真介
(72)【発明者】
【氏名】山王 希大
【審査官】
太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−019227(JP,A)
【文献】
特開平11−220233(JP,A)
【文献】
特開2009−26639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 1/00− 1/04
H01H 1/06− 1/66
H01H 13/00−13/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性弾性材料にニッケル箔を張り合わせてなる押釦スイッチ用接点部材であって、前記ニッケル箔が純度99.99mass%以上の電解ニッケル箔である押釦スイッチ用接点部材。
【請求項2】
前記電解ニッケル箔の少なくとも一方の面の表面粗さRzjisが3μm以上である請求項1記載の押釦スイッチ用接点部材。
【請求項3】
前記絶縁性弾性材料がシリコーンゴムである請求項1又は2記載の押釦スイッチ用接点部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐食性に優れ、しかも、簡便に製造できる押釦スイッチ用接点部材に関する。
【背景技術】
【0002】
押釦スイッチは、コンピューターのキーボードや自動販売機など各種電子機器や自動車の電気式スイッチ等に多用されている。
【0003】
押釦スイッチには、電極との接点に用いる接点部材が配置されており、該接点部材は、一般的に、圧延された比較的硬度の高い洋白(例えばJIS合金番号:C7701-EH)等の金属箔に絶縁性弾性材料を張り合わせた後、所望の形状に打ち抜いて製造される。
【0004】
接点部材が配置された押釦スイッチは、押圧すると、接点部材の金属箔が電極に接触することで導通状態となり、離すと非導通状態となるためスイッチングを行うことができる。
【0005】
パワーウィンドウやドアミラー等の車載用等の高い耐食性が求められる押釦スイッチに配置する接点部材には、金属箔に金めっき等を施した接点部材が用いられる。
【0006】
しかしながら、金属箔に金めっきを施した接点部材の製造には、当然、金めっきの工程が必要であり、また、金を使用するため材料コストが高くなるという問題がある。
【0007】
また、めっき工場等の腐食環境下で使用される電子部品用押釦スイッチの接点部材は、繰り返して押圧されると、押圧部の一部が破損し、接点部材が強い腐食環境下に曝されることで腐食が進行して押釦スイッチとして機能しなくなるという問題があった。
【0008】
そこで、金めっき等を施さなくても耐食性に優れて破損し難く、しかも、簡便な方法で製造できる押釦スイッチ用接点部材の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−342539
【特許文献2】特開2007−329124
【特許文献3】特開2008−41428
【特許文献4】特開2014−216201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、金属接触面に金網を用いることにより、接点間絶縁性の異物が入った場合にも接触不良が発生し難い接点部材が開示されており、この金網の材料として、ステンレス、ニッケル、銅、燐青銅、真鍮等の金属線を用いることができることが記載されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1記載の接点部材の耐食性を向上させるには、金めっきが有効であると記載されている。
【0012】
特許文献2には、耐環境性に優れた押釦スイッチ用接点部材として、シリコーン系ゴム材料に導電性フィラーと、カーボンブラックとを含有させた接点部材が開示されている。
【0013】
また、導電性フィラーとして金属被覆フィラーが開示されており、実施例には、ニッケル被覆グラファイト及び銀被覆ニッケルの金属被覆フィラーが使用されている。
【0014】
しかしながら、これらの押釦スイッチ用接点部材の製造には、金属被覆フィラーの作成、種々の材料との混練、加熱圧縮成型等、多くの作業工程が必要であるといった問題がある。
【0015】
特許文献3には、押し釦スイッチ用接点部材のスイッチ動作を良好にする目的で、金属薄膜層、接着剤、樹脂フィルム層、接着剤として積層される第1のシリコーンゴム層、第2のシリコーンゴム層がこの順で積層された接点部材が開示されており、金属薄膜層には、銅、ニッケル、アルミニウム、白金、ステンレス若しくはクロムが使用できることが記載されている。
【0016】
しかしながら、樹脂フィルムに多層または単層の金属薄膜層を接着剤を介して形成し、さらに第2のシリコーンゴム層を張り合わせるには、多くの作業工程が必要であるといった問題がある。
【0017】
特許文献4には、耐腐食性の良好な接点として、樹脂フィルム上に島状の導電層と、この島状導電層の上面及び側面に形成された貴金属層とを備え、導電層を構成する材料として、銅やニッケル、スズ合金が使用できることが記載されている。
【0018】
しかしながら、樹脂フィルムを使用する工法は作業工程が多く、また、貴金属層を設けるため、材料コストが高くなるといった問題がある。
【0019】
本発明者らは、前記諸問題を解決することを技術的課題とし、試行錯誤的な数多くの試作・実験を重ねた結果、絶縁性弾性材料にニッケル箔を張り合わせてなる押釦スイッチ用接点部材であって、前記ニッケル箔が純度99.99mass%以上の電気分解法で製造されたニッケル箔(以下「電解ニッケル箔」と言う)である押釦スイッチ用接点部材であれば、金めっき等を行わなくても耐食性に優れており、しかも、電解ニッケル箔を張り合わせるといった簡便な作業工程で製造できる接点部材になるという刮目すべき知見を得て、前記技術的課題を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記技術的課題は次のとおりの本発明によって解決できる。
【0021】
本発明は、絶縁性弾性材料にニッケル箔を張り合わせてなる押釦スイッチ用接点部材であって、前記ニッケル箔が純度99.99mass%以上の電解ニッケル箔である押釦スイッチ用接点部材である。
【0022】
また、本発明は、前記電解ニッケル箔の少なくとも一方の面の表面粗さRzjisが3μm以上である押釦スイッチ用接点部材である。
【0023】
また、本発明は、前記絶縁性弾性材料がシリコーンゴムである押釦スイッチ用接点部材である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、99.99mass%以上の高純度の電解ニッケル箔を用いるから、金メッキ等を施さなくても耐食性の高い接点部材になる。
【0025】
また、絶縁性弾性材料に電解ニッケル箔を張り合わせるといった非常に簡便な方法で、かつ、少ない作業工程で製造できる接点部材である。
【0026】
また、電解ニッケル箔のシリコーンゴムと接着させる面の表面粗さRzjisが3μm以上であると、シリコーンゴムとの界面における密着性がよく、電極との接点側表面の表面粗さRzjisが3μm以上であると微小異物の噛み込みによる接触不良が起こり難い接点部材になる。
【0027】
また、絶縁性弾性材料がシリコーンゴムであると、押圧によっても破損し難い接点部材になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図4】NSS試験後の接点部材の接点側表面の画像である。
【
図5】CASS試験後の接点部材の接点側表面の画像である
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明におけるニッケル箔は電気分解法で製造するから、純度が99.99mass%以上の高純度のニッケル箔が得られる。
なお、通常の圧延ニッケル箔の純度は99.6mass%程度である。
【0030】
ニッケル箔の純度はISO/TS15338に規定されるグロー放電質量分析法により、計測される共存不純物量から差数法によって算出することができる。
【0031】
本発明における電解ニッケル箔の厚さは1〜100μmが好ましく、更に好ましくは5〜50μmである。
【0032】
1μm未満であると箔として巻き取ることが困難であり、100μmを超えると、製造に多くの時間と電力を要するため、材料コストが高くなるからである。
【0033】
電解ニッケル箔の少なくとも一方の面の表面形状は、凹凸形状(以下「ミクロラフ(microrough)形状」と言う)で、Rzjisは3μm以上であることが好ましい。
【0034】
Rzjisが3μm以上のミクロラフ形状であると、シリコーンゴムとの界面における密着性が向上したり、電極との間に微小異物の噛み込みによる接点不良が起こり難くなったりするからである。
【0035】
ミクロラフ形状は、エッチング法、機械研磨、電気分解法による金属ノジュール形成法等の方法で形成させることができる。
【0036】
本発明における絶縁性弾性材料としては、シリコーンゴムが好ましい。
【0037】
シリコーンゴムは特に限定されないが、ゴムコンパウンドに加硫剤を加え、エストラマーとしたものが好ましい。
【0038】
電解ニッケル箔とシリコーンゴムとを張り合わせる接着剤は特に限定されない。
【0039】
本発明における接点部材は、押釦スイッチの電極との接点に好適な形状に打ち抜いて用いることができる。
【0040】
図3は押釦スイッチの一例であり、押圧部(20)と押圧部に設けられた可動接点となる接点部材(10)と、対向する基板(21)とその表面に配置された固定接点(22)とを備える。
【0041】
押圧部(20)が押圧されると、接点部材(10)と固定接点(22)が接触して導通が得られる。
【実施例】
【0042】
本発明の実施例及び比較例を以下に示すが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
接着剤を付加したシリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、ゴムコンパウンド:KE-941U、加硫剤:C-8A)に対し、箔厚さ50μmの電解ニッケル箔(福田金属箔粉工業株式会社製、グレード:NIF-50、純度99.997mass%)を熱圧着(170℃10分後、200℃4時間)により貼りあわせた後、直径3mmの円形状に打ち抜いて実施例1の接点部材を得た。
実施例1の接点部材の接点側表面の表面粗さRzjisは3.7μmであった。
【0044】
[比較例1]
電解ニッケル箔に変えて、箔厚さ50μmの圧延洋白箔(JIS合金番号:C7701-EH)の両面に厚さ2μmのニッケルめっきを施し、さらに接点側に厚さ0.5μmの金めっきを施した複合金属箔を使用した以外は実施例1と同様の方法で比較例1の接点部材を得た。
比較例1の接点部材の接点側表面の表面粗さRzjisは0.6μm であった。
【0045】
[比較例2]
電解ニッケル箔に変えて、箔厚さ100μmの圧延ニッケル箔(JIS合金番号:NW2201、純度99.66 mass%)を使用した以外は実施例1と同様の方法で比較例2の接点部材を得た。
比較例2の接点部材の接点側表面の表面粗さRzjisは0.9μmであった。
【0046】
[比較例3]
電解ニッケル箔に変えて、箔厚さ50μmの圧延洋白箔(JIS合金番号:C7701-EH)の両面にニッケルめっき2μmを施した複合金属箔を使用した以外は実施例1と同様の方法にて比較例3の接点部材を得た。
比較例3の接点部材の接点側表面の表面粗さRzjisは0.6μmであった。
【0047】
(耐食性試験)
JIS Z2371に規定される中性塩水噴霧試験に従って、塩化ナトリウム濃度50g/L、pH6.8の溶液を、温度35℃の条件で、実施例及び比較例の各接点部材に72時間噴霧した(以下「NSS試験」と言う)。
【0048】
同じくJIS Z2371のCASS試験の規定に従って、塩化ナトリウム濃度50g/L、塩化銅(II)濃度0.205g/L、pH3.1の溶液を、温度50℃の条件で、実施例及び比較例の各接点部材に3時間噴霧した(以下「CASS試験」と言う)。
【0049】
NSS試験及びCASS試験後の実施例及び比較例の各接点部材の外観及び導通を評価した。
【0050】
(外観試験)
外観は、耐食性試験後の各押釦スイッチ用接点部材(n=2)の接点側表面を金属顕微鏡で25倍に拡大して観察し、腐食あり(×)、又は、腐食なし(〇)として評価した。
【0051】
(導通試験)
導通は、耐食性試験後の各押釦スイッチ用接点部材(n=2)を用いて、
図3に示す押釦スイッチを作成し、各50回のスイッチ動作をし、固定接点との導通が1回でも取れなかった場合を「×」、50回とも導通が取れた場合を「〇」として評価を行った。
表1に耐食性試験の結果一覧を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
NSS試験後の各押釦スイッチ用接点部材(n=2)の接点側表面画像及び腐食の「あり」又は「なし」を
図4に示す。
【0054】
CASS試験後の各押釦スイッチ用接点部材(n=2)の接点側表面画像及び腐食による変色の「あり」又は「なし」
図5に示す。
【0055】
表1、
図4及び
図5に示すとおり、99.997mass%電解ニッケル箔を用いた押釦スイッチ用接点部材(実施例1)は、一般的な金めっきされた洋白箔の複合金属箔を使用した接点部材(比較例1)や、圧延ニッケル箔を使用した接点部材(比較例2)、ニッケルめっきされた洋白箔の複合金属箔を使用した接点部材(比較例3)と比べて耐食性及び導通性において優れることが証明された。
【0056】
比較例1や比較例3の金めっきおよびニッケルめっき接点部材において耐食性が劣った理由はめっき面のピンホールや打ち抜き端面からの腐食が進んだ結果と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明における押釦スイッチ用接点部材は、金めっき等を行わなくても耐食性に優れ、しかも、電解ニッケル箔を絶縁性弾性材料に張り合わせるといった非常に簡便な方法で製造することができる接点部材であり、低い材料コストで、かつ、少ない作業工程で製造できる接点部材である。
したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い発明であると言える。
【符号の説明】
【0058】
1 電解ニッケル箔
2 接着剤
3 絶縁性弾性材料
10 接点部材
11 金めっき
12 ニッケルめっき
13 金属箔
20 押圧部
21 基板
22 固定接点