(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、様々な方式のレーザが知られており、これらのレーザを用いてレーザ溶接を行うことが考えられる。しかしながら、レーザ溶接に用いられるレーザの特性によっては、例えば、スパッタが発生し易くなる場合、又は、適度な深さの溶融池が生成されず、十分な強度で溶接することができない場合等が想定される。なお、溶融池とは、母材におけるビームの照射により溶融した部分を意味する。
【0005】
適度な溶接強度を得つつ、スパッタの発生を抑制するのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のレーザ溶接装置は、レーザ溶接のため、複数の部材のうちの少なくとも一部における溶接面にビームを照射するよう構成されており、照射部を備える。照射部は、溶接面における主領域と、主領域に隣接した状態で、又は、主領域に対し間隔を開けた状態で溶接面に設けられた副領域とにビームを照射するよう構成されている。また、レーザ溶接の際にビームが照射される領域が溶接面を移動する方向を、溶接方向とする。また、副領域は、主領域の溶接方向側に位置する領域を少なくとも含む。そして、照射部は、主領域と副領域との各々に、少なくとも1つのピークが生じるよう設定された状態でビームを照射し、且つ、主領域に照射されるビームの平均的な強度が、副領域に照射されるビームの平均的な強度よりも高くなるよう構成されている。また、ピークとは、ビームの強度が局所的に最大値になることであり、ピークが生じている領域を跨いだビームの強度の変化は、該領域にて増加から減少に転じる。
【0007】
レーザ溶接の際に母材に生成される溶融池では、溶融した母材の一部が外部に向かって移動し、該母材の一部が外部に飛び出すことによりスパッタが生じる。これに対し、上記構成によれば、溶接面における主領域を含む領域では、深い溶融池が生成され、該溶融池に隣接して、スパッタの発生を抑制するための浅い溶融池が生成される。そして、主領域の深い溶融池にて外部に向かって移動する母材の一部は、該溶融池に隣接する浅い溶融池にて吸収され、これにより、該母材の一部がスパッタとして外部に飛散するのが回避される。
【0008】
また、上記構成によれば、副領域は、主領域の溶接方向側に位置する領域を少なくとも含んでいる。このため、溶接方向に沿ったレーザ溶接の際、ビームが照射される各領域では、副領域に向けた強度の低いビームの照射後に、主領域に向けた強度の高いビームが照射される。これにより、照射されるビームの強度が急激に上昇するのを抑制でき、その結果、スパッタの大きさ及び/又は発生量が低減される。
【0009】
また、副領域にビームを照射することで、主領域に生成される深い溶融池の幅を太くすることができる。これにより、溶着強度が向上する。したがって、適度な溶接強度を得つつ、スパッタの発生を抑制できる。
【0010】
なお、副領域は、主領域を囲む領域であっても良い。
このような構成によれば、どのような方向にレーザ溶接が行われた場合であっても、ビームが照射される各領域では、副領域に向けた強度の低いビームの照射後に、主領域に向けた強度の高いビームが照射される。このため、どのような方向にレーザ溶接を行う場合であってもスパッタの発生を抑制でき、レーザ溶接を行う方向に制限が課されなくなる。したがって、より好適にレーザ溶接を行うことができる。
【0011】
また、照射部は、主領域に位置する第1領域と、副領域に位置する第3領域と、第1領域と第3領域との間に位置する第2領域とにピークが生じるように設定された状態で、ビームを照射しても良い。
【0012】
このような構成によれば、主領域に生成される溶融池の幅を広げることが可能になると共に、主領域の溶融池の中央に生成された深い窪み(以後、キーホール)を広げ、キーホールを安定させることが可能となる。その結果、レーザ溶接を行う複数の部材の溶着強度が向上する。
【0013】
また、第1領域におけるビームの強度は、第3領域におけるビームの強度よりも高く、第3領域におけるビームの強度は、第2領域におけるビームの強度よりも高くても良い。
このような構成によれば、スパッタの発生をより一層抑制することができる。
【0014】
また、第1領域におけるビームの強度は、第2領域におけるビームの強度よりも高く、第2領域におけるビームの強度は、第3領域におけるビームの強度よりも高くても良い。
このような構成によれば、レーザ溶接を行う複数の部材の溶着強度が向上する。
【0015】
また、レーザ溶接装置は、レーザ媒体が発した光を増幅させることで、ビームを生成する生成部を更に備えても良い。そして、照射部は、生成部にて生成されたビームの強度の分布を、光の進路を変更する部材により設定しても良い。
【0016】
このような構成によれば、ビームの強度の分布を柔軟に設定することができる。このため、例えば母材の寸法又は材質等に応じてピークの位置等を柔軟に設定でき、様々な母材のレーザ溶接を好適に行うことが可能となる。
【0017】
また、上述したレーザ溶接装置を用いて複数の部材をレーザ溶接により溶着させることにより、部材が製造されても良い。
このような構成によれば、レーザ溶接の際、適度な溶接強度を得つつ、スパッタの発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本開示の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0020】
[レーザ溶接装置の説明]
本実施形態のレーザ溶接装置は、複数の部材をレーザ溶接により溶着させるため、複数の部材のうちの少なくとも一部における溶接面にビームを照射する。なお、複数の部材とは、例えば、鉄、又は、鉄を含む合金からなる部材であっても良いし、鉄以外の金属からなる部材であっても良いし、金属以外の材料からなる部材であっても良い。また、溶接面は、1の部材の外面に設けられていても良いし、複数の部材の各々の外面に跨って設けられていても良い。また、レーザ溶接装置は、一例として、ファイバーレーザとして構成されていても良いし、レーザ溶接装置は、例えば、固体レーザ又は気体レーザ等といった、様々な種類のレーザとして構成されていても良い。
【0021】
図1に示すように、レーザ溶接装置1は、レーザ発振器30と、光路20と、加工ヘッド10とを有する。
レーザ発振器30は、レーザ媒体を励起させると共に、励起したレーザ媒体が発した光を増幅させることで、ビーム1aを生成する。なお、レーザ溶接装置1がファイバーレーザとして構成されている場合には、希土類が添加されたファイバーがレーザ媒体として用いられても良い。
【0022】
光路20は、レーザ発振器30にて生成されたビーム1aを加工ヘッド10に導く。
加工ヘッド10は、レーザ溶接を行うため、母材である複数の部材100にビーム1aを照射する。加工ヘッド10は、コリメーション部11と、モード設定部12と、フォーカスレンズ13と、位置補正部14とを有する。なお、加工ヘッド10は、位置補正部14を有さなくても良い。
【0023】
コリメーション部11は、例えば、レンズ及び/又はミラーにより、レーザ発振器30から導かれたビーム1aの向きを調整する部位である。
モード設定部12は、例えば、レンズ、及び/又は、DOE(Diffractive Optical Element)等といった光の進路を変更する変更部材により、ビーム1aのモードを設定する部位である。なお、モードとは、ビーム1aの照射領域におけるビーム1aの強度の分布のパターンである。また、ビーム1aの強度とは、例えば、ビーム1aのエネルギー密度のことであっても良い。具体的には、コリメーション部11により向きが調整されたビーム1aがモード設定部12に設けられたレンズ等を通過することで、ビーム1aのモードが設定される。なお、一例として、モード設定部12に設けられた変更部材を変更することで、モードが切り替えられる。
【0024】
フォーカスレンズ13は、モード設定部12によりモードが設定されたビーム1aの絞りを調整する部位である。溶接の際には、母材の直前で収束するようにビーム1aの絞りが調整される。
【0025】
位置補正部14は、フォーカスレンズ13を通過したビーム1aが照射される位置を調整する部位である。
[モードについて]
上述したように、レーザ溶接装置1は、複数のモードでビームを照射可能となっている。モードは、例えば、母材の寸法、母材を構成する材料の特性、又は、レーザ溶接の際のビームの照射領域の移動速度等に応じて、適宜設定されても良い。そして、これらのモードのうちの少なくとも一部では、母材である複数の部材100の溶接面における主領域と副領域とにビームが照射される。なお、ビームは、各領域の一部に照射されるように設定されていても良いし、各領域の全部に照射されるように設定されていても良い。また、副領域は、主領域の付近に位置する。具体的には、副領域は、主領域に隣接した状態で設けられていても良いし、主領域に対し所定値以下の間隔を開けた状態で設けられていても良い。また、副領域は、主領域の溶接方向側の領域を少なくとも含んでいる。なお、溶接方向とは、レーザ溶接の際に、ビームの照射領域が溶接面を移動する方向を意味する。
【0026】
そして、主領域に照射されるビームの強度は、副領域に照射されるビームの強度よりも高い。より詳しくは、レーザ溶接装置1は、主領域と副領域との各々には、少なくとも1つのピークが生じるよう設定された状態でビームを照射する。さらに、主領域に照射されるビームの平均的な強度は、副領域に照射されるビームの平均的な強度よりも高い。なお、ピークとは、ビームの強度が局所的に最大値になることを意味する。すなわち、ピークとは、ビームの強度がその近傍において最大値となる、つまり、ビームの強度が極大となることを意味する。ピークが生じている領域を跨いだビームの強度の変化は、該領域にて増加から減少に転ずる。以後、ピークにおけるビームの強度を、ピーク値と記載する。
【0027】
詳細は後述するが、主領域に対しては、複数の部材100を溶着させるための深い溶融池を生成するためにビームが照射される。なお、溶融池とは、複数の部材100における、ビームの照射により溶融した部分である。一方、副領域に対しては、スパッタの発生を抑制すべく、溶接面における主領域を含む領域に生成された溶融池に隣接して該溶融池よりも浅い溶融池を生成するために、ビームが照射される。
【0028】
本実施形態では、上述した主領域と副領域とが設けられるモードとして、第1〜第3モードを含む複数のモードが設けられている。以下では、第1〜第3モードについて説明する。以後、点状の領域を中央領域とする。また、中央領域を中心とした複数の円周状の領域を、それぞれ、第1〜第3中間領域、及び、円周領域と記載する。なお、これらの領域の半径の大小関係は、円周領域の半径>第3中間領域の半径>第2中間領域の半径>第1中間領域の半径となる。
【0029】
まず、第1モードでは、
図2A、2Bに示すように、中央領域200と円周領域201とにピークが生じるように設定された状態で、溶接面にビームが照射される。また、
図2Cに示されている、中央領域200におけるピーク値200aと、円周領域201におけるピーク値201aとにおけるビームの強度の比率は、7:3に設定されている。
【0030】
これにより、一例として、中央領域200を中心とした、直径がおよそ数100μm程度の円形の領域が、主領域205となる。また、主領域205に隣接し、且つ、主領域205を囲むリング状の領域が、副領域206となる。つまり、主領域205と副領域206とは、同心円状に設けられる。なお、主領域205及び副領域206は、略同心円状に設けられても良い。そして、
図2Cに示すように、第1モードでは、主領域205に照射されるビームの強度が、副領域206に照射されるビームの強度よりも高くなるよう設定された状態で、溶接面にビームが照射される。その結果、
図3Aに示すように、主領域205に実際に照射されるビームの強度は、副領域206に実際に照射されるビームの強度よりも高くなる。
【0031】
また、第2モードでは、
図3B、3Cに示すように、中央領域210と、第1中間領域211と、円周領域212とにピークが生じるように設定された状態で、溶接面にビームが照射される。また、
図3Cに示されている、中央領域210における第1ピーク値210aと、第1中間領域211における第2ピーク値211aと、円周領域212における第3ピーク値212aとの大小関係は、第1ピーク値210a>第2ピーク値211a>第3ピーク値212aとなっている。より詳しくは、第1ピーク値210aと、第2ピーク値211aと、第3ピーク値212aとの比率は、一例として、8:2:1に設定されている。なお、該比率は、該大小関係が維持される範囲で、適宜変更されても良い。
【0032】
これにより、一例として、中央領域210を中心とした、直径がおよそ数100μm程度の円形の領域が、主領域215となる。また、主領域215に隣接し、且つ、主領域215を囲むリング状の領域が、副領域216となる。つまり、主領域215と副領域216とは、同心円状に設けられる。なお、主領域215及び副領域216は、略同心円状に設けられても良い。また、中央領域210は主領域215に位置し、円周領域212は副領域216に位置する。また、第1中間領域211は、主領域と円周領域212との間に位置する。
図3Cに示すように、第2モードでは、主領域215に照射されるビームの強度が、副領域216に照射されるビームの強度よりも高くなるよう設定された状態で、溶接面にビームが照射される。その結果、
図4Aに示すように、主領域215に実際に照射されるビームの強度は、副領域216に実際に照射されるビームの強度よりも高くなる。
【0033】
また、第3モードでは、第2モードと同様に、中央領域210と、第1中間領域211及び円周領域212とにピークが生じるように設定された状態で、溶接面にビームが照射される。しかし、
図4Bに示すように、第3モードでは、第1〜第3ピーク値210a〜212aの大小関係は、第1ピーク値210a>第3ピーク値212a>第2ピーク値211aとなっている点で、第2モードと異なる。より詳しくは、第3モードでは、第1ピーク値210aと、第2ピーク値211aと、第3ピーク値212aとの比率は、一例として、6:1.5:2.5に設定されている。なお、該比率は、該大小関係が維持される範囲で、適宜変更されても良い。
【0034】
これにより、一例として、第2モードと同様、中央領域210を中心とした、直径がおよそ数100μm程度の円形の領域が、主領域215となる。また、主領域215に隣接し、且つ、主領域215を囲むリング状の領域が、副領域216となる。
図4Bに示すように、第3モードでは、主領域215に照射されるビームの強度が、副領域216に照射されるビームの強度よりも高くなるよう設定された状態で、溶接面にビームが照射される。その結果、
図4Cに示すように、主領域215に実際に照射されるビームの強度は、副領域216に実際に照射されるビームの強度よりも高くなる。
【0035】
[溶接部材の製造方法ついて]
本実施形態の溶接部材の製造方法では、上述したレーザ溶接装置1によりビームを照射することで、複数の部材100のレーザ溶接が行われる。なお、複数の部材100におけるビームの照射方向に沿った厚さの総和は、一例として4mm以上であっても良い。この時、例えば、第1〜第3モードのいずれかでビームが照射されても良い。また、この時、複数の部材100のスポット状の溶接が行われても良いし、ビームの照射領域を溶接方向に移動させることで、複数の部材100が溶接されても良い。そして、これにより、溶着された複数の部材100を含む溶接部材が製造される。なお、溶接部材とは、例えば、自動車等の車両に用いられる部材であっても良い。
【0036】
溶接面にビームが照射されると、主領域及び副領域では母材が溶融し、溶融池が生じる。上述したように、主領域に照射されるビームの強度は、副領域に照射されるビームの強度よりも高い。このため、溶接面における主領域を含む領域には、複数の部材100を十分な強度で溶着させるための、深くて適度な幅の溶融池が生成される。また、該ビームにより、主領域の溶融池にキーホールが生成される場合もある。また、副領域に照射されたビームにより、主領域の溶融池に隣接した状態で、主領域の溶融池よりも浅い溶融池が生成される。
【0037】
図5Aは、第1〜第3モードのいずれかのビームにより複数の部材100に生成された溶融池120を示している。一例として、複数の部材100は、2つの板状の部材を積層したものとなっており、
図5A中の上側の部材の外面に存在する溶接面110にビームが照射される。この時、主領域111に照射されたビームにより、下側の部材に到達する深い溶融池121が生成される。また、
図5Aでは、一例として、主領域の溶融池121の中央に、キーホール123が生成されている。一方、副領域112に照射されたビームにより、主領域111の溶融池121を囲み、且つ、主領域111の溶融池121に隣接した状態で、浅い溶融池122が生成される。なお、円周領域は、溶接面120における浅い溶融池122が生成される領域に位置する。
【0038】
そして、主領域111の溶融池121では、溶融された母材の一部が溶接面に向かって上昇し、該母材の一部が溶融面の外に飛び出すと、スパッタが生じる。これに対し、本実施形態では、主領域111の深い溶融池121に隣接して、副領域112に浅い溶融池122が生成される。このため、主領域111の溶融池121にて溶接面に向かう母材の一部は、副領域112の溶融池122に吸収され、これにより、該母材の一部がスパッタとして外部に飛散するのが回避される。その結果、スパッタの発生が抑制される。
【0039】
[変形例について]
第1〜第3モードにおいては、円周領域、又は、円周領域及び第1中間領域にピークが生じるようにビームが設定されている。しかしながら、これらの領域に替えて、中央領域の溶接方向側に位置する点状又は線状の1又は複数の領域にピークが生じるように、ビームが設定されていても良い。
【0040】
具体的には、例えば、
図5Bに示すように、第1モードにおいて、円周領域201に替えて、円周領域201の一部をなす弧状の区間221にピークが生じるように、ビームが設定されても良い。なお、区間221は、中央領域220の溶接方向230側に位置する。この場合、円形の主領域225が生成されると共に、主領域225の溶接方向230側に隣接して、帯状の副領域226が生成される。
【0041】
この他にも、例えば、第2又は第3モードにおいて、第1中間領域211及び円周領域212に替えて、第1中間領域211の一部をなす弧状の区間と、円周領域212の一部をなす弧状の区間とにピークが生じるように、ビームが設定されても良い。なお、これらの区間は、中央領域の溶接方向側に位置する。この場合においても、円形の主領域が生成されると共に、主領域の溶接方向側に隣接して、帯状の副領域が生成される。
【0042】
そして、変形例が適用された場合においても、溶接面における主領域を含む領域に、第1〜第3モードと同様の深い溶融池が生成される。そして、副領域に照射されたビームにより、主領域の溶融池の溶接方向側に隣接する浅い溶融池が生成される。このため、第1〜第3モードと同様にして、主領域の溶融池にて上昇した母材の一部は、副領域の溶融池に吸収され、これにより、該母材の一部がスパッタとして外部に飛散するのが回避される。
【0043】
[各モードの比較について]
次に、本開示の実施例である上述した第1〜第3モード、及び、第4モードによるレーザ溶接が行われた際の、溶接への影響について説明する。また、第1〜第4モードに対する比較例として、第5モードによるレーザ溶接が行われた際の溶接への影響について説明する。
【0044】
第4モードでは、第1モードと同様、中央領域と円周領域とにピークが生じるように設定された状態で溶接面にビームが照射され、中央領域と円周領域とのビームの強度の比率は、7:3に設定されている。このため、第4モードにおいても、円形の領域にビームが照射される。しかし、第4モードでは、ビームの絞りが不十分であり、母材の直前でビームが十分に収束しない。このため、
図5Cに示すように、第4モードでは、ビームの照射領域が広がっている。
【0045】
一方、第5モードでは、
図2Aに示すように、中央領域のみにピークが生じるように設定された状態で、溶接面にビームが照射される。このため、第5モードでは、中央領域を中心とする円形の領域にビームが照射される。つまり、第5モードでは、主領域に対してのみ第1〜第3モードと同様にしてビームが照射され、副領域にはビームが照射されない。
【0046】
図2Aは、第1〜第5モードが用いられた場合の、中央領域と、第1〜第3中間領域及び円周領域とにおけるビームの強度の比率(以後、測定値比率)を示している。具体的には、測定値比率とは、中央領域のビームの強度の測定値に対する各領域のビーム強度の測定値の比率であり、中央領域のビームの強度を100として算出されている。また、
図2Aは、第1〜第5モードが用いられた場合の、スパッタの抑制度合い、及び、溶接の強度の評価結果を、A〜Cの3段階で示している。
【0047】
なお、C、B、Aの順で評価が高くなる。また、溶接の強度の評価結果がAの場合には、主領域の溶融池の幅が太くなると共に、該溶融池に安定した状態でキーホールが生成される。また、スパッタの抑制度合いとは、スパッタの量及び大きさの双方又は一方が低減された度合いを示す。
【0048】
そして、
図2Aが示す評価結果から、以下の点が把握される。
(1)第3中間領域の測定値比率が1.2以上となるようビームの強度を設定すると、スパッタの抑制度合いが良好になると考えられる。また、第3中間領域の測定値比率が1.5以上となるようビームの強度を設定すると、スパッタの抑制度合いがさらに良好になると考えられる。
【0049】
(2)第2中間領域の測定値比率が3.8以上となるようビームの強度を設定すると、スパッタの抑制度合いが良好になる。さらに、この場合、主領域に生じる深い溶融池の幅が太くなり、該溶融池に安定した状態でキーホールが生成され、十分な溶接強度が得られると考えられる。なお、さらに、第2中間領域の測定値比率が3.8以上4.6以下となるよう、ビームの強度が設定されても良い。
【0050】
(3)第1中間領域の測定値比率が7以上となるようビームの強度が設定された場合にも、(2)と同様の効果が得られると考えられる。さらに、第1中間領域の測定値比率が7以上8以下となるよう、ビームの強度が設定されても良い。
【0051】
(4)また、中央領域と第1中間領域と円周領域とにピークが生じるように設定された場合において、中央領域のピーク値の設定値と、第1中間領域のピーク値の設定値と、円周領域のピーク値の設定値との比をX0:Y0:Z0とする。X0、Y0、Z0の数値範囲を、6≦X0≦8、1.5≦Y0≦2、且つ、1≦Z0≦2.5とすることで、(2)と同様の効果が得られると考えられる。
【0052】
(5)また、中央領域のピーク値の設定値と、円周領域のピーク値の設定値との比をX1:Z1とする。X1、Z1の数値範囲を、6≦X1≦8、且つ、1≦Z1≦3とすることで、適度な溶接強度を得つつ、スパッタの発生を抑制できると考えられる。
【0053】
(6)また、第1中間領域の測定値比率が2以上となるよう、ビームの強度が設定されても良い。なお、X1、Z1を(5)に示された数値範囲としつつ、第1中間領域の測定値比率が2以上となるよう、ビームの強度が設定されても良い。これにより、適度な溶接強度を得つつ、スパッタの発生を抑制できると考えられる。
【0054】
(7)また、X1、Z1の数値範囲を、6≦X1≦8、且つ、1≦Z1≦2.5とすることで、(2)と同様の効果が得られると考えられる。これに加え、第1中間領域の測定値比率が7以上、及び/又は、第3中間領域の測定値比率が1.2以上となるよう、ビームの強度が設定されても良い。これにより、(2)と同様の効果が得られると考えられる。
【0055】
(8)また、円周領域の測定値比率が0.6以上となるよう、ビームの強度が設定されても良い。これにより、スパッタの抑制度合いが良好になる。また、円周領域の測定値比率が3.0以上となるようビームの強度が設定されても良い。これにより、スパッタの抑制度合いがさらに良好になる。さらに、円周領域の測定値比率が0.6以上3.0以下となるようビームの強度が設定されても良い。これにより、より適度な溶接強度が得られる。
【0056】
[効果]
(1)ファイバーレーザは、集光性が高く、高出力である。このため、ファイバーレーザをレーザ溶接に用いると、例えばCO2レーザを用いた場合に比べ、母材には幅が狭く深い溶融池が生成される。これにより、溶融池が不安定となり、スパッタが多く発生する。その結果、スパッタを遮るスパッタカバーが必要となるが、スパッタカバーを配置することにより、レーザ溶接が妨げられる恐れがある。また、ファイバーレーザをレーザ溶接に用いると、溶着部分の幅が狭くなると共に、溶融池に生成されるキーホールは、幅が狭く不安定となり、その結果、溶接強度が低くなる。
【0057】
これに対し、上記実施形態のレーザ溶接装置1をファイバーレーザとして構成した場合、上述したように、主領域の溶融池に隣接して浅い溶融池が生成される。これにより、スパッタの発生が抑制される。その結果、スパッタカバーの使用を回避したり、スパッタカバーを小型化したりすることが可能となる。
【0058】
また、副領域は、主領域の溶接方向側に位置する領域を少なくとも含んでいる。このため、溶接方向に沿ったレーザ溶接の際、ビームが照射される各領域は、副領域に向けた強度の低いビームの照射後に、主領域に向けた強度の高いビームが照射される。これにより、照射されるビームの強度が急激に上昇するのを抑制でき、その結果、スパッタの大きさ及び/又は発生量を低減できる。
【0059】
また、副領域にビームを照射することで、主領域の深い溶融池の幅を太くすると共に、該幅の変動を抑えることが可能となる。これにより、溶着強度が向上する。また、レーザ溶接に要する時間を短縮できる。
【0060】
したがって、適度な溶接強度を得つつ、スパッタの発生を抑制できる。特に、上記実施形態のレーザ溶接装置1によれば、母材の厚さが一例として4mm以上の場合であっても、適度な溶接強度を得つつ、スパッタの発生を抑制できる。
【0061】
(2)また、上記実施形態によれば、主領域及び副領域は、同心円状、又は、略同心円状に設けられる。このため、どのような方向にレーザ溶接が行われた場合であっても、ビームが照射される各領域は、副領域に向けた強度の低いビームの照射後に、主領域に向けた強度の高いビームが照射される。その結果、どのような方向にレーザ溶接を行う場合であってもスパッタの発生を抑制でき、レーザ溶接を行う方向に制限が課されなくなる。つまり、レーザ溶接に指向性が生じるのを抑制でき、スパッタの発生を抑制し、且つ、溶接の質が変動するのを抑えながら、全方位にレーザ溶接を行うことが可能となる。したがって、より好適にレーザ溶接を行うことができる。
【0062】
(3)また、第2及び第3モードでは、中央領域及び円周領域212に加え、さらに、第1中間領域211にピークが設定されている。これにより、第1モードに比べ、主領域の境界付近におけるビームの強度が高くなる。このため、主領域の溶融池の幅が広がると共に、主領域の溶融池の中央に生成されたキーホールが広がり、キーホールが安定する。その結果、複数の部材100の溶着強度が向上する。
【0063】
(4)また、第3モードでは、第1中間領域211のピーク値は、円周領域212のピーク値よりも小さい。これにより、スパッタの発生をより一層抑制することができる。
(5)また、第2モードでは、第1中間領域211のピーク値は、円周領域212のピーク値よりも大きい。このような構成によれば、複数の部材100の溶着強度が向上する。
【0064】
(6)また、上記実施形態のレーザ溶接装置1によれば、レーザ発振器30等によりレーザ媒体が発した光を増幅させることでビームが生成される。そして、加工ヘッド10のモード設定部12にて、生成されたビームのモードが設定される。このため、例えば、レーザ発振器30等でビームを生成する段階においてモードを設定する場合に比べ、柔軟にモードを設定することができる。したがって、例えば母材の寸法又は材質等に応じて柔軟にモードを設定でき、様々な母材のレーザ溶接を好適に行うことが可能となる。
【0065】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態のレーザ溶接装置1のモードは、第1〜第3モードとして例示したものに限定されない。具体的には、第1〜第3モードにおいては、主領域は円形であると共に、副領域はリング状となっている。しかしながら、例えば、ビームのピークが生じる中央領域、又は、円周領域の形状を変えることで、主領域、又は、副領域の形状を変化させても良い。また、第2、第3モードでは、同心円状に配置された2つの円周領域にピークが設定される。しかしながら、例えば、同心円状に配置された3つ以上の円周領域にピークが設定されても良い。つまり、副領域における3つ以上の領域に、ピークが設定されても良い。また、例えば、主領域における2つ以上の領域に、ピークが設定されても良い。
【0066】
(2)また、上記実施形態のレーザ溶接装置1では、ビームがモード設定部12に設けられたレンズ等を通過することで、ビームのモードが設定される。しかしながら、ビームのモードの設定方法は、これに限定されない。具体的には、例えば、複数のレーザ発振器で生じたビームを重ね合わせたりすることで、ビームのモードが設定されても良い。
【0067】
(3)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0068】
[特許請求の範囲との対応]
上記実施形態の説明で用いた用語と、特許請求の範囲の記載に用いた用語との対応を示す。
【0069】
加工ヘッド10が照射部の一例に、レーザ発振器30が生成部の一例に相当する。また、中央領域210が第1領域の一例に、第1中間領域211が第2領域の一例に、円周領域212が第3領域の一例にそれぞれ相当する。