(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674461
(24)【登録日】2020年3月10日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】脳卒中予防用3Dフィルター
(51)【国際特許分類】
A61F 2/01 20060101AFI20200323BHJP
A61L 33/02 20060101ALI20200323BHJP
A61L 33/04 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
A61F2/01
A61L33/02
A61L33/04
【請求項の数】23
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-529143(P2017-529143)
(86)(22)【出願日】2015年8月21日
(65)【公表番号】特表2017-525537(P2017-525537A)
(43)【公表日】2017年9月7日
(86)【国際出願番号】EP2015069219
(87)【国際公開番号】WO2016026953
(87)【国際公開日】20160225
【審査請求日】2018年7月25日
(31)【優先権主張番号】14181860.9
(32)【優先日】2014年8月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517056882
【氏名又は名称】フリッド マインド テクノロジーズ
【氏名又は名称原語表記】Frid Mind Technologies
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】フリッド,ノルディン
【審査官】
北川 大地
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/082555(WO,A1)
【文献】
特表2004−520101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/01
A61L 33/02
A61L 33/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透過性膜を含まない円筒状ルーメン(21)を規定するブレイドフレームワーク(20)からなる植込み型管腔内プロテーゼ(1)において、前記ブレイドフレームワーク(20)が自己拡張型であり、生体適合性材料で作製されたワイヤー(25)の複数の層(22、23、24)を含み、各層がメッシュを形成し、前記メッシュが所与の層(22、23、24)の複数のワイヤー(2)で格子を形成し、前記植込み型管腔内プロテーゼ(1)の壁に垂直に観察したときに前記格子が多角形開口ユニット(26)を規定し、ワイヤー(25)の直径(Φ25)が少なくとも30μmかつ多くとも150μmであり、前記多角形開口ユニット(26)の内接円(27)の平均直径(Φ27)が完全拡張状態で少なくとも75μmかつ多くとも200μmであり、以下のこと、すなわち、
・前記ブレイドフレームワーク(20)が少なくとも128本かつ多くとも512本のワイヤー(25)からなり、
・前記植込み型管腔内プロテーゼ(1)の壁の厚さ(T1)とワイヤー(25)の直径(Φ25)との比(T1/Φ25)が少なくとも3.0であり、
・完全拡張状態で、前記ブレイドフレームワーク(20)の壁の全表面積に対するワイヤー(20)により覆われる表面積の割合である前記ブレイドフレームワーク(20)の表面カバレッジ比率(SCR)が50%超かつ90%未満であり、
・上行大動脈の中点と下行大動脈の中点とを結ぶ直線の最大水平距離であるWと、前記Wを通る直線と大動脈弓(39)の最高中点との間で測定される最大垂直距離Hとの比であるH/Wが、0.5〜0.9である湾曲管腔内に前記植込み型管腔内プロテーゼ(1)を配置した場合、開口ユニットの内接円の平均直径(Φ27)が少なくとも75μmかつ多くとも200μmであり、配置状態の前記植込み型管腔内プロテーゼ(1)の長さ(L1_dep)を、拡張状態の前記植込み型管腔内プロテーゼ(1)の長さ(L1_exp)で引いた長さを、拡張状態の前記植込み型管腔内プロテーゼ(1)の長さ(L1_exp)で割った割合である長さ関連圧縮比(LCR)が15%〜40%であり、かつ前記ブレイドフレームワーク(20)の表面カバレッジ比率(SCR)が外側湾曲面で50%超である、
ことを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項2】
請求項1に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記メッシュがインターロックされて所与の層の複数のワイヤーで格子を形成し、前記フレームワークの近接層のメッシュが実質的にオフセットされるように前記ワイヤーが近接層の少なくとも1層のメッシュに組み込まれることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項3】
請求項2に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記比(T1/Φ25)が少なくとも3.5であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項4】
請求項2に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記比(T1/Φ25)が少なくとも5.5であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項5】
請求項2に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記比(T1/Φ25)が少なくとも6.5であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項6】
請求項2に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記比(T1/Φ25)が少なくとも7.5であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれか1項に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記ブレイドフレームワーク(20)が少なくとも256本のワイヤーからなることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項8】
請求項
7に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記ワイヤーが生体適合性金属で作製され、前記ワイヤーの表面がgem−ビスホスホネートで覆われ、前記gem−ビスホスホネート基が一般式(I)
(式中、
R
3は(i)非置換の−C
1〜16アルキルまたは−COOH、−OH、−NH
2、ピリジル、ピロリジル、もしくはNR
5R
6で置換された−C
1〜16アルキル、(ii)−NHR
7、(iii)−SR
8、あるいは(iv)−Clを表し、
R
4は−H、−OH、または−Clを表し、
R
5は−Hまたは−C
1〜5アルキルを表し、
R
6は−C
1〜5アルキルを表し、
R
7は−C
1〜10アルキルまたは−C
3〜10シクロアルキルを表し、
R
8はフェニルを表し、
M
1、M
2、M
3、およびM
4の少なくとも1つは、前記ワイヤー(25)の外表面の任意の金属原子を表し、その結果、少なくとも1つのホスホネート部分は、前記ワイヤー(25)の外表面に共有結合で直接結合され、前記ビスホスホネートは、単層としてかつ最外層として前記ワイヤー(25)の外表面の少なくとも50%を覆う)
を有することを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項9】
請求項8に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記gem−ビスホスホネートがエチドロン酸、アレンドロン酸、クロドロン酸、パミドロン酸、チルドロン酸、リセドロン酸、またはそれらの誘導体であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項10】
請求項8に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記ワイヤーが、線状鎖として3〜16個の炭素原子を含む炭化水素鎖を含有するホスホネートで被覆され、前記ホスホネートのリン原子が前記炭化水素鎖のα位に結合し、前記炭化水素鎖の末端位置がカルボン酸基、ホスホン酸基、またはヒドロキシル基によりさらに官能基化され、かつM1およびM2の少なくとも1つが前記植込み型メディカルデバイスの外表面の任意の金属原子を表し、前記ホスホネートが前記ワイヤー(25)の外表面に共有結合で直接結合され、単層としてかつ最外層として前記植込み型メディカルデバイスの外表面の少なくとも50%を覆うことを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記ブレイドフレームワーク(20)の表面カバレッジ比率(SCR)が完全拡張状態で少なくとも55%であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項12】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記ブレイドフレームワーク(20)の表面カバレッジ比率(SCR)が完全拡張状態で少なくとも60%であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項13】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記ブレイドフレームワーク(20)の表面カバレッジ比率(SCR)が完全拡張状態で少なくとも65%であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記植込み型メディカルデバイス(1)が0.5〜0.9のH/W比を有する湾曲管腔内に配置された場合、湾曲の外側で、開口ユニット(27)の内接円の平均直径(Φ27)が少なくとも100μmかつ多くとも150μmであり、長さ関連圧縮比(LCR)が30%〜40%であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項15】
請求項14に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記ブレイドフレームワーク(20)の表面カバレッジ比率(SCR)が湾曲の外側で少なくとも55%であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項16】
請求項14に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記ブレイドフレームワーク(20)の表面カバレッジ比率(SCR)が湾曲の外側で少なくとも60%であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項17】
請求項14に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記ブレイドフレームワーク(20)の表面カバレッジ比率(SCR)が湾曲の外側で少なくとも65%であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項18】
請求項1乃至17の何れか1項に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記ワイヤー(25)の直径(Φ25)が少なくとも50μmであることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項19】
請求項1乃至17の何れか1項に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記ワイヤー(25)の直径(Φ25)が少なくとも75μmかつ多くとも100μmであることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項20】
請求項1乃至19の何れか1項に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記多角形開口ユニット(26)の内接円(27)の平均直径(Φ27)が完全拡張状態で少なくとも100μmかつ多くとも150μmであることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項21】
請求項7に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、前記生体適合性材料がチタン、ニッケル−チタン合金たとえばニチノールおよびNitinol−DFT(登録商標)−Platinum、ステンレス鋼、またはコバルト−クロム−ニッケル合金たとえばPhynox(登録商標)からなる群から選択される金属基材であることを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項22】
請求項1乃至21の何れか1項に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、脳に血液を運ぶ大動脈の前に前記植込み型管腔内プロテーゼを配置することにより、心房細動、リウマチ性心疾患、虚血性心筋症、鬱血性心不全、心筋梗塞、術後状態、もしくは隆起大動脈弓アテロームに罹患しているかまたは人工弁を有している患者で塞栓性脳卒中を防止するのに使用することを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【請求項23】
請求項1乃至14の何れか1項に記載の植込み型管腔内プロテーゼにおいて、器官に血液を運ぶ動脈の入口を覆いつつ大動脈内に前記植込み型管腔内プロテーゼを配置することにより器官の灌流を改善するのに使用することを特徴とする植込み型管腔内プロテーゼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植込み型管腔内プロテーゼと、血餅の移動を予防して虚血性脳卒中を回避するためのかかるデバイスの使用方法と、に関する。より特定的には、本発明は、脳、腎臓、肝臓などの器官に血液を運ぶ枝に塞栓物質や血餅が入り込まないように大動脈内に配置されるデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
大動脈は体内で最大の血管である。それは酸素化された血液を心臓の左心室からすべての器官に輸送する。大動脈は大動脈弁に接して心臓から延在し、大動脈弁に直接隣接して大動脈根があり、大動脈根に続いて上行大動脈、大動脈弓、下行大動脈、および胸腹部大動脈がある。大動脈の腹部は2つの総腸骨動脈を供給する。健常大動脈は動脈コンプライアンスを呈する。それは大動脈が破壊されることなく圧力や力に応じて曲がるように大動脈が血圧の増加に伴って伸展し体積を増加させる能力である。それは動脈硬化度の指標として使用される。
【0003】
大動脈弓は頭および腕に至る分岐血管が起始する短いセグメントである。それは典型的には3つの枝、すなわち、酸化された血液を右腕、頭および脳の右側部分に運ぶ腕頭動脈と、左側の頭および脳に至る左頸動脈と、左腕に至る左鎖骨下動脈と、を有する。2つの分岐血管のみが大動脈弓から出るボバインアーチなど、大動脈弓には多くの奇形が存在する。心臓からの血流の約15%はこれらの枝を介して脳に供給され、約25%は腎臓に供給される。
【0004】
脳卒中とは、血管で生じる病理学的変化により引き起こされる脳機能の急激な障害を意味する。脳に血液を供給する動脈が突然閉塞されると虚血性脳卒中が起こる。虚血は、腎臓や肝臓などのいずれの器官でも起こりうる。塞栓物質には2つのタイプの供給源が存在する。すなわち、大動脈のアテローム硬化プラークから剥がれた物質と、心臓からの凝固血餅と、がある。
【0005】
虚血性脳卒中の約20%は心塞栓により引き起こされる。それらは主に動脈壁または心室壁または左心臓弁の上に生じる血栓物質の塞栓により引き起こされる。これらの血栓は剥がれて動脈循環に沿って押し流される。心不整脈または構造異常が存在する場合、心塞栓が一般に予想される。心原性脳塞栓の症例で最もよく見られるのは、非リウマチ性心房細動(AF)、人工弁、リウマチ性心疾患(RHD)、虚血性心筋症、鬱血性心不全、心筋梗塞、術後状態、および隆起大動脈弓アテロームである。
【0006】
抗凝固剤は、脳卒中をもたらすおそれのある危険な血餅を血液に生じないように一般に使用される薬剤クラスである。抗凝固剤は、すでに脳卒中のリスクが高い患者で使用されることが多い。
【0007】
ワルファリンは、血液凝固プロセスに関与するビタミンKの通常の作用を妨害することを意味するビタミンKアンタゴニスト(VKA)と呼ばれる薬剤クラスに属する。臨床使用される主要な抗凝固剤であるワルファリンはAF関連脳卒中を64%低減するが、この低減は出血性合併症という特有のリスクを伴い、中でもとくに重篤なのは脳出血である。したがって、AF患者の40%までは抗凝固療法に対する相対禁忌または絶対禁忌を有する。VKAは狭い治療ウィンドウを有するので、国際標準比(INR)の頻繁な実験室モニタリングおよび後続の用量調整により目標INR内に患者を維持することが必要である。
【0008】
ワルファリンの薬動学的プロファイルが複雑であり、薬剤、ハーブ、アルコール、および食品との相互作用により治療量未満(不適正な脳卒中予防)の薬剤レベルまたは治療量超(出血性イベント)の薬剤レベルを生じるおそれがあることから、定期的なモニタリングが必要とされる。ワルファリンによる出血性合併症の44%は治療量超のINRに関連し、血栓塞栓性イベントの48%は治療量未満のレベルで起こることが明らかにされた(Oake N,Fergusson DA,Forster AJ,van Walraven C.Frequency of adverse events in patients with poor anticoagulation:a meta−analysis.CMAJ.2007;176(11):1589−94)。VKAによる脳卒中予防のための根拠に基づく推奨にもかかわらず、適格AF患者で過少処方される状態が続いている。AF患者の約55%は適正な脳卒中予防を受けていないので、結果として脳卒中の発生率が増加した。さらに、ワルファリンで実際に治療を受けている患者では、治療時間の半分までが治療域外である。このことは、脳卒中のリスクを減らすワルファリンの全潜在能力が十分な認識されておらず達成もされていないことを意味する。
【0009】
新しい経口抗凝固剤(NOA)が認可されているかまたは開発段階にあり、いくつかは臨床研究の進行段階にある。NOAは、1つの凝固因子を直接的かつ不可逆的に阻害することにより特異的に作用する。NOAには2つのクラスが存在する。すなわち、酵素トロンビンを阻害する「直接トロンビン(IIa)阻害剤」と、凝固の伝播の中核をなす「直接第Xa因子阻害剤」と、である。一定した投与を可能にする予測可能な抗凝固作用、作用の迅速な開始および消失、ならびに薬剤と食物とのわずかな相互作用をはじめとして、NOAにはVKAよりも優れた潜在的利点がある。そのほかに、それらはVKAと比較してかなり大きい治療指数を有するので、ルーチンの実験室モニタリングの必要性が回避される。しかしながら、いかなる出血が起こっても、NOAには特異的な解毒剤がない。
【0010】
先行技術のフィルターデバイスは完全に成功しているわけではない。たとえば、米国特許第6673089号明細書および同第6740112号明細書には、総頸動脈(CCA)から外頸動脈(ECA)への二分岐ゾーンに位置決めするように設計された「自己拡張型単層ワイヤーブレイドメッシュ」が開示されている。理論上、このブレイドメッシュは、塞栓をECA(顔に血液を送り込む)に逸脱させて内頸動脈(ICA)を介して脳に運ばれないように考えられている。外頸動脈(ECA)中への塞栓の経路変更効率は、Cardiovas Intervent Radiol(2012)35:406−412でSievertらにより臨床評価され、「塞栓分流用の新規な頸動脈デバイス」は3名の患者で6〜14ヶ月間の追跡時にICA口の前でフィルター閉塞を起こすリスクが高いことが観測されている。
【0011】
米国特許第5061275号明細書に開示されるように、ブレイド自己拡張型単層プロテーゼは、生体管腔内に配置されたときに適正なフープ力を得るためにワイヤーの数およびワイヤーの直径に限界がある。プロテーゼの直径が大きくなると、この限界は決定的になる。たとえば、プロテーゼの直径が30mmの場合、ワイヤーの直径は220〜300μmかつワイヤーは36〜64本でなければならず、さもなければプロテーゼの壁は血管の壁に対して十分なフープ力を発揮することができない。また、かかるデバイスは大きい送達システムサイズを必要としうるので、大腿アクセスができなくなる可能性がある。
【0012】
米国特許出願公開第2003/0100940号明細書には、上流源に由来する塞栓を濾過し、脳に血液を運ぶ大動脈弓の側枝に入らないようにするためのステント状プロテクターデバイスが開示されている。前記濾過デバイスは、50〜100μmの直径を有する100〜160本のフィラメントで作製された400〜1000μmのメッシュ開口幅のブレイド構造の形態の単層メッシュ状チューブからなる。それは剛性が高く可撓性が劣るので、大動脈弓領域にデバイスを適正に位置決めすることが困難であることが明らかにされている。すなわち、それは大動脈「弓」が明らかに湾曲しているにもかかわらず線形状態を維持する傾向がある。実際には、大動脈領域用に設計された大きいデバイス直径たとえば25〜45mmを有する濾過デバイスの微細なメッシュ開口を得るために、それは(i)小さい直径を有する多数のワイヤーまたは(ii)ブレイドワイヤー間で150度超の角度を形成する長尺状ワイヤーのいずれかで構成しなければならない。
【0013】
しかしながら、以上に説明するように、かかる構成は、ワイヤーサイズが小さいため低いフープ強度を呈するので大動脈弓内に配置したときに潰れるおそれがある。また、ワイヤー間でかかる角度形状をブレイドするには技術的限界がある。高角度形状は、弓内にデバイスの広範にわたる縮小および誤配置をもたらす。
【0014】
さらに、かかるウィンドウサイズ(すなわち400〜1000μm)の単層ブレイドは、J.Endovasc.Ther.(2004)11:211−218にOrderらにより報告されたように、とくに弓の湾曲の外側レベルで粒子の捕獲が不足するおそれがある。たとえば、単層メッシュ状チューブを湾曲管腔内に配置した場合、
図1aおよび1bに示されるように湾曲の外側のメッシュ開口は直線状構成のメッシュ開口よりもかなり広い。
【0015】
他の問題として、先行技術のフィルターデバイスは、整合性が不足しているので、大動脈弓の曲率に一致する湾曲に合わせて変形したり曲げたりしたときにキンキングのリスクが大きくなる可能性がある。かかるキンキングによりデバイスの配置がさらに厄介になる。
【0016】
したがって、コンプライアンスが高く大動脈弓内などの湾曲管腔内に配置したときに厄介な問題を伴うことなく改善された塞栓経路変更効率を呈する植込み型管腔内プロテーゼに対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、脳を酸素化する血管のように小さい血管に血液を供給する枝の前の湾曲血管内たとえば大動脈弓内に配置するのに好適であり、しかも大動脈弓枝に流入する可能性のある塞栓物質を下行大動脈内に効果的に偏向させることにより頭蓋外塞栓が脳内で頭蓋内小動脈を閉塞しないようにするのにも好適である、植込み型管腔内プロテーゼを提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、大動脈弓内の塞栓物質の通過を選択的に閉塞して大動脈弓枝から逸脱させることにより塞栓性疾患に罹患していることが分かっている患者を治療する方法を提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、湾曲管腔内に配置したときに拡張状態のものと実質的に同一の最大メッシュ開口サイズを提供可能であり、したがって、十分な塞栓経路変更効率が得られるように湾曲の外側で適正な表面カバレッジ比率およびメッシュ開口サイズを保持しつつ大動脈弓内に位置決めするのに好適である、植込み型濾過メディカルデバイスを提供することである。
【0020】
本発明のさらに他の目的は、植込み型メディカルデバイスと、器官に至る枝の入口を植込み型メディカルデバイスで覆って脳、腎臓、肝臓などの前記器官の灌流を改善する方法と、を提供することである。
【0021】
本発明の主題は添付の独立請求項に規定される。好ましい実施形態は従属請求項に規定される。
【0022】
本発明の主題は、円筒状管腔を規定するブレイドフレームワークからなりかつ不透過性膜を含まない植込み型管腔内プロテーゼである。前記ブレイドフレームワークは自己拡張型であり、かつ生体適合性材料で作製された複数のワイヤー層を含む。有利には、生体適合性材料は、チタン、ニッケル−チタン合金たとえばニチノールおよびNitinol−DFT(登録商標)−Platinum、任意のタイプのステンレス鋼、またはコバルト−クロム−ニッケル合金たとえばPhynox(登録商標)からなる群から選択される金属基材である。各層はメッシュを形成する。メッシュは、所与の層の複数のワイヤーで格子を形成することにより、植込み型管腔内プロテーゼの壁に垂直に観察したときに多角形開口ユニットを規定する。多角形開口ユニットは好ましくは四辺形の形状、より好ましくは平行四辺形の形状を有する。ワイヤーの直径(Φ
25)は、少なくとも30μmかつ多くとも220μm、好ましくは少なくとも50μmかつ多くとも150μm、より好ましくは少なくとも75μmかつ多くとも100μmである。ブレイドフレームワークは、少なくとも96本かつ多くとも512本、好ましくは少なくとも128本かつ多くとも320本、より好ましくは少なくとも160本、さらにより好ましくは少なくとも256本のワイヤーで構成される。前記植込み型管腔内プロテーゼの壁の厚さ(T
1)とワイヤーの直径(Φ
25)との比(T
1/Φ
25)は、少なくとも2.5、好ましくは少なくとも3.0、より好ましくは少なくとも3.5、さらにより好ましくは少なくとも5.5、さらにより好ましくは少なくとも6.5、さらにより好ましくは少なくとも7.5である。有利には、メッシュは、所与の層の複数のワイヤーで格子を形成するようにインターロックされ、ワイヤーは、フレームワークの近接層のメッシュが実質的にオフセットされるように少なくとも1つの近接層のメッシュに組み込まれる。
【0023】
完全拡張状態では、多角形開口ユニットの内接円(IC)の平均直径(Φ
IC)は、少なくとも50μmかつ多くとも250μm、好ましくは少なくとも75μm多くとも200μm、より好ましくは少なくとも100μm多くとも150μmであり、かつ前記ブレイドフレームワーク(20)の表面カバレッジ比率(SCR)は、50%超かつ90%未満、好ましくは少なくとも55%、さらにより好ましくは少なくとも60%、それよりさらに好ましくは少なくとも65%以上である。有利には、内接円の最大直径は、完全拡張状態で少なくとも50μmかつ多くとも250μm、好ましくは少なくとも75μm多くとも200μm、より好ましくは少なくとも100μm多くとも150μmである。
【0024】
0.5〜0.9のH/W比を有する湾曲管腔内に植込み型管腔内プロテーゼを配置する場合、多角形開口ユニットの内接円(IC)の平均直径(Φ
IC)は、少なくとも50μmかつ多くとも250μm、好ましくは少なくとも75μmかつ多くとも200μm、より好ましくは少なくとも100μm多くとも150μmである。長さ関連圧縮比(LCR)は15%〜40%、好ましくは30%〜40%である。ブレイドフレームワークの表面カバレッジ比率(SCR)は、外側湾曲面で50%超、好ましくは少なくとも55%、さらにより好ましくは少なくとも60%、それよりさらに好ましくは少なくとも65%である。有利には、内接円の最大直径は、0.5〜0.9のH/W比を有する湾曲管腔内に配置した場合、少なくとも50μmかつ多くとも250μm、好ましくは少なくとも75μm多くとも200μm、より好ましくは少なくとも100μm多くとも150μmである。
【0025】
好ましい実施形態によれば、ワイヤーは生体適合性金属で作製され、かつ前記ワイヤーの表面はホスホネート、好ましくはgem−ビスホスホネートで覆われる。前記gem−ビスホスホネートは一般式(I)を有し、R
3は(i)非置換の−C
1〜16アルキルまたは−COOH、−OH、−NH
2、ピリジル、ピロリジル、もしくはNR
5R
6で置換された−C
1〜16アルキル、(ii)−NHR
7、(iii)−SR
8、あるいは(iv)−Clを表し、R
4は−H、−OH、または−Clを表し、R
5は−Hまたは−C
1〜5アルキルを表し、R
6は−C
1〜5アルキルを表し、R
7は−C
1〜10アルキルまたは−C
3〜10シクロアルキルを表し、R
8はフェニルを表し、M
1、M
2、M
3、およびM
4の少なくとも1つは、少なくとも1つのホスホネート部分がワイヤーの外表面に共有結合で直接結合されるようにワイヤーの外表面の任意の金属原子を表す。ビスホスホネートは、単層としてかつ最外層としてワイヤーの外表面の少なくとも50%を覆う。有利には、前記gem−ビスホスホネートは、エチドロン酸、アレンドロン酸、クロドロン酸、パミドロン酸、チルドロン酸、リセドロン酸、またはそれらの誘導体からなる群から選択される。他の実施形態として、R
3は末端位置が−COOHまたは−OHでアルキル置換された−C
1〜16を表し、かつR
4は−OHを表す。
【0026】
他の好ましい実施形態によれば、前記ワイヤーは、線状鎖として3〜16個の炭素原子を含む炭化水素鎖を含有するホスホネートで被覆される。ホスホネートのリン原子は、炭化水素鎖のα位に結合する。炭化水素鎖は、その末端位置がカルボン酸基、ホスホン酸基、またはヒドロキシル基によりさらに官能基化される。ホスホネートは、ワイヤーの外表面に共有結合で直接結合され、単層としてかつ最外層として、生体適合性金属で作製されたワイヤーの外表面の少なくとも50%を覆う。
【0027】
本発明の他の主題は、脳に血液を運ぶ大動脈の前に前記植込み型管腔内プロテーゼを配置することにより、心房細動、リウマチ性心疾患、虚血性心筋症、鬱血性心不全、心筋梗塞、術後状態、もしくは隆起大動脈弓アテロームに罹患しているかまたは人工弁を有している患者で塞栓性脳卒中を防止するのに使用される以上に記載の植込み型管腔内プロテーゼに関する。
【0028】
本発明のさらに他の主題は、器官に血液を運ぶ動脈の入口を覆いつつ大動脈内に前記植込み型管腔内プロテーゼを配置することにより器官の灌流を改善するのに使用される以上に記載の植込み型管腔内プロテーゼに関する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1aは、完全拡張状態の従来の単層ブレイドフィルターデバイスと、フィルターデバイスの一部分の拡大図と、を示している。
図1bは、湾曲管腔内に配置された従来の単層ブレイドフィルターデバイスと、湾曲の外側のフィルターデバイスの一部分の拡大図と、を示している。
【
図2】
図2は、大動脈弓内に配置された本発明に係る管腔内プロテーゼを示す大動脈の部分断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る(いずれかの)管腔内プロテーゼの一部分の模式拡大図である。
【
図4】
図4a〜4cは、第1の層、第1および第2の層、第1、第2、および第3の層を有する管腔内プロテーゼの一部分の模式立面図であり、それぞれ、大動脈枝入口の前で管腔内プロテーゼの壁を通過しようとしている塞栓物質をいかにブロックするかを示している。
【
図5】
図5a〜5cは、それぞれ、
図4a〜4cに示される管腔内プロテーゼの一部分の模式斜視図である。
【
図6】
図6は、拡張状態の管腔内プロテーゼの側面図である。
図6aは、
図6に例示される管腔内プロテーゼの一部分の模式拡大図である。
【
図7】
図7は、大動脈弓の大動脈枝口の部分模式拡大断面図であり、本発明に係る配置された管腔内プロテーゼを示している。
図7aおよび7bは、
図7に例示される模式拡大図であり、大動脈口の前に一時的に位置する塞栓物質が心周期時にいかにフラッシュ除去されるかを示している。
【
図8】
図8は、大動脈の模式断面図であり、大動脈弓の幅および高さをいかに測定するかを示している。
【
図9】
図9は、C形湾曲管腔の斜視図であり、その中に配置された管腔内プロテーゼを示している。
【
図10】
図10は、拡張状態の本発明に係る管腔内プロテーゼの斜視図である。
図10aは、
図10に例示される管腔内プロテーゼの一部分の拡大図である。
【
図11】
図11は、
図9に例示されるC形湾曲管腔内に配置された本発明に係る管腔内プロテーゼの斜視図である。
図11aは、
図11に例示される管腔内プロテーゼの湾曲の外側の一部分の拡大図である。
【
図12】
図12は、(x)本発明に係る管腔内プロテーゼが配置された湾曲管腔のH/W比と、(y)管腔内プロテーゼの湾曲の外側のメッシュ開口の内接円の平均直径と、の関係を表すグラフである。
【
図13】
図13は、(x)本発明に係る管腔内プロテーゼが配置された湾曲管腔のH/W比と、(y)湾曲の外側のメッシュ開口の内接円の平均直径と、(z)長さ関連圧縮比と、の関係を表すグラフである。
【
図14】
図14は、(x)本発明に係る管腔内プロテーゼが配置された湾曲管腔のH/W比と、(y)管腔内プロテーゼの湾曲の外側のメッシュ開口の内接円の平均直径と、の関係を表すグラフである。
【
図15】
図15は、(x)本発明に係る管腔内プロテーゼが配置された湾曲管腔のH/W比と、(y)湾曲の外側のメッシュ開口の内接円の平均直径と、(z)長さ関連圧縮比と、の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書で用いられる場合、「植込み型」という用語は、メディカルデバイスを生体血管内位置に位置決め可能であることを意味する。植込み型メディカルデバイスは、医学的介入時に生体血管内に一時的に配置するように(たとえば、数秒間、数分間、数時間)または生体血管内に永久的に残留させるように構成可能である。「管腔内」プロテーゼまたは「経管腔」プロテーゼという用語は、プロテーゼを生体血管の管腔内に通して離れた位置から生体血管内の標的部位に前進させる手順により湾曲したまたは直線状の生体血管内に配置するように適合化されたデバイスを意味する。血管手順では、メディカルデバイスは、典型的には、蛍光透視ガイダンス下でカテーテルをワイヤーガイド上で用いて「血管内」に導入可能である。カテーテルおよびワイヤーガイドは、従来のアクセス部位を介して血管系に導入しうる。「カテーテル」という用語は、標的部位にアクセスするために血管内に挿入されるチューブを意味する。本明細書では、「カテーテル」とは、カテーテル自体またはカテーテルとその付属品(つまり、ニードル、ガイドワイヤー、イントロデューサシース、および当業者に公知の他の通常の好適なメディカルデバイス)のいずれかを意味する。「予防」という用語は、塞栓物質が分岐血管などの特定の血管に入るのを阻止または阻害することを含む。混乱を避けるために、以下の説明では、「開口」、「細孔」、および「ウィンドウ」という用語は、それらの通常の意味を有するとともに、メディカルデバイスの一方の面または表面からその他方の面または表面に至るオープンチャネルまたは開放通路を意味するように互換的にも用いられる。同様に、「入口」、「接続口」、および「口」という用語は、少なくとも1つの分岐血管が主要血管から分かれる血管系の領域を意味する。
【0031】
「内皮化」という用語は、デバイス上での内皮細胞の内部成長をもたらす細胞プロセスを意味する。「永久的」という用語は、血管内に配置しうるとともに長期間にわたり(たとえば、数ヶ月間、数年間)、できれば患者の寿命の残りの部分にわたり血管内に残留するメディカルデバイスを意味する。
【0032】
「塞栓」、「塞栓物質」、および「フィルトレート」という用語は、血流によりその沈積部位に運ばれた血餅または他の生物学的物質を意味する。閉塞物質は血餅(すなわち血栓)であることが最も多いが、脂肪グロビュール(アテローム硬化症による)、組織片、またはは細菌塊のこともある。本発明に係る植込み型管腔内プロテーゼ1は、円筒状ルーメン21を規定するブレイドフレームワーク20からなる。デバイスは不透過性膜を含まない。ブレイドフレームワーク20は、送達システム内に配設したときに比較的小さくかつ比較的均一な直径を有する(すなわち「圧縮状態」の)圧縮形状をとるようにしかも
図2および11に示されるように生体管腔などの送達位置内では半径方向に拡張した直径を有する(すなわち「配置状態」の)配置形状を自然にとるように構成される。本明細書で用いられる場合、「拡張形状」または「拡張状態」という用語は、
図10に示されるように外部圧縮力をなんら伴うことなく(すなわち非束縛状態で)拡張したときに自己スプリングバック物体(たとえばブレイドフレームワーク20)の自己拡張性により生じる形状または状態をそれぞれ意味する。これらの定義のほかに、「公称直径」という用語は、標的血管内に配置したときのステントフィルターの直径を意味する。一般に、生体管腔内に永久的に配置するように設計された自己拡張型デバイスの公称直径(Φ
nor)は、外部圧縮力がない状態で配置したときの前記デバイスの外径(Φ
exp)よりも10〜25%小さい。大動脈39の直径(Φ
39)は一般に20mm〜40mmであるので、それに応じて、本発明に係る管腔内プロテーゼ1は、拡張状態で22mm〜50mmの直径(Φ
1_exp)を有するように設計および/または製造される。一方、プロテーゼの直径の変形はその長さに影響を及ぼす。したがって、配置状態の本発明に係る管腔内プロテーゼ1の長さ(L
1_dep)は、拡張状態のその長さ(L
1_exp)よりも長い。プロテーゼ1の長さ関連圧縮比(LCR)は、関係式:
LCR=(L
1_dep−L
1_exp)/L
1_exp
により定義可能である。
【0033】
図9に示されるように管腔内プロテーゼ1を湾曲管腔30内に配置する場合、配置状態のその長さ(L
1_dep)は、
図11に示されるように湾曲の中点31に沿って測定される。
【0034】
大動脈弓39の湾曲は、J.Thrac.Cardiovasc.Surg.2006;132:1105−1111にOuらにより記載されたように湾曲の幅(W
39)および高さ(H
39)を測定することにより一般に規定される。幅(W
39)は、右肺動脈(RPA)を通り抜ける軸平面の近傍の上行大動脈および下行大動脈39の中点31間の最大水平距離として測定され、かつ大動脈弓の高さ(H
39)は、
図8に示されるように(W
39)と大動脈弓39の最高中点31との間で測定される最大垂直距離である。比H
39/W
39は一般に0.5〜0.9の範囲内である。たとえば、値が0.9である場合、大動脈弓は、
図9に最悪のシナリオとして示されるようにかなり尖った形になる。このため、以上に記載したように、不十分なフープ力を有するとともに、健常大動脈で通常観察される約0.6のH/W比を有する湾曲内に配置したものと比較して直線形状と配置形状との間のメッシュ開口差がより大きい従来のフィルターでは、キンキングを引き起こす可能性がある。本発明に係る管腔内プロテーゼの利点の1つは、層が組み合わされているため、このかなり尖った形の湾曲によりメッシュウィンドウが損なわれることがないことである。
【0035】
ブレイドフレームワーク20は、生体適合性材料で作製されたワイヤー25の複数の層22、23、24を含む。ワイヤーは、少なくとも30μmかつ多くとも220μm、好ましくは少なくとも50μmかつ多くとも150μm、より好ましくは少なくとも75μmかつ多くとも100μmの直径(Φ
25)を有する。ブレイドフレームワーク20の各層はメッシュを形成する。植込み型管腔内プロテーゼ1の壁に垂直に観察した場合、ブレイドフレーム20のメッシュは、複数のレベルのワイヤー25で格子を形成する。好ましくは、メッシュは、インターロック多層構造を形成するように互いにインターロックされる。「インターロック多層」という用語は、ブレイディング時にプライが離れていない多層22、23、24を含むフレームワークを意味する。たとえば、第1の層22のプライ22aの所与の数のワイヤーを第2の層23のプライ23aおよび/または他の層24とインターロックさせる。前記インターロック多層は、たとえば、欧州特許第1248372号明細書に記載のブレイディングマシンにより形成可能である。管腔内プロテーゼ1のブレイドフレームワーク20は、少なくとも96本かつ多くとも512本、好ましくは少なくとも128本超かつ多くとも320本、より好ましくは少なくとも160本超、さらにより好ましくは少なくとも256本のワイヤー25で構成される。
【0036】
格子は、辺(すなわちワイヤーセグメント)により規定される多角形の形状を有する開口ユニット26を規定する。多角形の形状は、好ましくは四角形、より好ましくは平行四辺形である。「平行四辺形」とは、2対の平行な辺を有する単純な四辺形を意味し、平行四辺形の対辺は等しい長さであり平行四辺形の対角は等しい大きさであり、かつ対角線は互いを二等分する。平行四辺形は正方形、長方形、および菱形を含む。本明細書で用いられる場合、「内接円」27とは、
図1a、1b、3、10a、および11aに示されるように、多角形開口ユニット26内で最大数のその辺(すなわちワイヤーセグメント25)に接して描きうる最大の円を意味する。
【0037】
内接円27のサイズは、塞栓物質35、とくに大動脈枝内に流入するおそれのある微小塞栓を下行大動脈に直接偏向させる効率を反映する。「微小塞栓」とは、顕微鏡的サイズの塞栓、たとえば、小さい血餅または少量の細菌塊を意味する。微小塞栓は気体または固体の塞栓物質である。気体の微小塞栓は、人工心臓弁により形成される機械的誘導キャビテーションに由来しうる。それらは4μmの近似直径を有し、通常は脳に有害作用を引き起こさない。これとは対照的に、固体の微小塞栓は、気体の微小塞栓よりかなり大きく100μmの近似直径を有する。毛細血管のサイズ(直径7〜10μm)と比較して固体の微小塞栓のサイズはより大きいので、微小循環の遮断を引き起こす可能性がある。Charalambousらにより発表されたJ.Endovasc.Ther,2009;16;161−167,“Reduction of cerebral embolixation in carotid angioplasty:An in−vitro experiment comparing 2 cerebral protection devices”では、気体の塞栓または200μm未満の直径を有する小さな塞栓は、臨床的に認められない脳虚血を引き起こすにすぎない。
【0038】
したがって、200μm超の塞栓物質を経路変更するために、多角形開口26の内接円27(IC)の平均直径(Φ
27)は、大動脈弓ジオメトリーに適合する湾曲配置構成で好ましくは多くとも200μm、好ましくは多くとも150μm、より好ましくは多くとも100μmである。同時に、開口は血液成分がプロテーゼ1の壁を通り抜けて適正な灌流を維持するのに十分な程度に大きくすべきであるので、平均ICは少なくとも50μm、好ましくは少なくとも75μmにすべきである。多角形開口26の内接円27(IC)の平均直径(Φ
27)とは、内接円27の直径をすべて一緒に加算してその合計を開口26の全数で除算することにより見いだされる値を意味する。
【0039】
本発明に係る植込み型管腔内プロテーゼの利点の1つは、
図4a〜4c、5a〜5c、および6aに示されるように、2.0未満のT
1/Φ
25を有する従来のフィルターと比較してより高いT
1/Φ
25値を有するプロテーゼ1により塞栓物質35がその壁を通り抜けるのを効果的に予防可能であることである。管腔内プロテーゼの壁厚さ(T
1)とワイヤー直径(Φ
25)との比(T
1/Φ
25)が少なくとも2.0であることから、ブレイドフレームワークが単層よりも多いメッシュ層を有することが特徴付けられる。比T
1/Φ
25が大きいほど、ブレイドフレームワーク20はより多くの層を含むであろう。
図6に示されるように、各ワイヤーにより壁内で実質的に平行にアライメントされた多層が形成されるので、
図4a〜4cおよび5a〜5cに模式的に説明されるように管腔内プロテーゼ1の壁を通り抜けようとする塞栓物質を逸脱またはブロックする可能性が得られ、したがって、本構造は塞栓経路変更効率を増加させることが可能である。
【0040】
さらに、2.5超のT
1/Φ
25を有するインターロック多層構成は重要な技術的性質を提供する。すなわち、0.5〜0.9のH/W比を有する湾曲管腔内に配置した場合、開口ユニットの内接円の平均直径(Φ
27)は、
図12および14にそれぞれ規定されるように、湾曲29の外側で少なくとも50μmかつ多くとも250μm、好ましくは少なくとも75μmかつ多くとも200μm、より好ましくは少なくとも100μmかつ多くとも150μmである。大動脈枝口は弓の外側に位置するので、濾過効率を改善するために大動脈弓ジオメトリーで配置したときに外側に最適開口サイズを設定することが最も重要である。本発明に係るインターロック多層構成のワイヤーを湾曲配置状態で近接平行ワイヤー間が規則的距離を有するようにシフトさせると、平均内接直径(Φ
27)は、
図10aおよび11aに示されるように、その拡張状態の直線状構成のものとほとんど同じになる。
【0041】
上述したように、大動脈は動脈コンプライアンスを呈する。大動脈用の管腔内プロテーゼは、動脈コンプライアンスに対処するのに十分なフープ力を有するべきであり、さもなければ、デバイス移動やキンキングなどの厄介な問題を引き起こすおそれがある。デバイス移動は、植込み後のデバイスの望ましくない変位であり、キンキングは、湾曲血管内へのステントの配置時に起こる当業者に周知の現象である。十分なフープ力を得るために、長さ関連圧縮比(LCR)も、15%〜40%、好ましくは30%〜40%の範囲内にすべきである。本発明に係るLCRとH/W比との関係および内接円の平均直径は
図13および15に示されている。
【0042】
ブレイドフレームワーク20の表面カバレッジ比率(SCR)は、関係式:
SCR=S
w/S
t
により定義される。式中、「S
w」は、ブレイドフレームワーク20を構成するワイヤー25により覆われる実際の表面積であり、「S
t」は、ブレイドフレームワーク20の壁の全表面積である。完全拡張状態では、管腔内プロテーゼ1のSCRは、50%超、好ましくは少なくとも55%、さらにより好ましくは少なくとも60%、それよりさらに好ましくは少なくとも65%である。管腔内プロテーゼ1の公称直径および0.5〜0.9のH
30/W
30比を有するC形湾曲管腔30内に配置した場合、少なくとも3.5(好ましくは5.5、より好ましくは少なくとも6.5、さらにより好ましくは少なくとも7.5)のT
1/Φ
25比を有するブレイドフレームワーク20は、その外側湾曲29に沿ってその直線状構成のものとほとんど同一の表面カバレッジ比率(SCR)(すなわち50%超)を提供可能である。塞栓経路変更効率の改善をもたらすことは本発明の他の利点である。
【0043】
当技術分野で公知の濾過デバイスは目詰まり状態になり、洗浄さらには交換が必要である。永久的に血管内に位置決めするように設計された管腔内プロテーゼは、医師による定期的な洗浄または血管からのデバイスのか除去を回避するために、自己洗浄するかまたは内因性の力もしくは作用により洗浄する固有の能力を有するべきである。
【0044】
開口26のサイズすなわち内接円の直径(Φ
27)に対して十分な壁厚さ(T
1)を有する管腔内プロテーゼ1は、従来のフィルターデバイスと比較して高い自己洗浄性を付与する。
図7、7a、および7bに示されるように、大動脈枝37の口36の近傍を流れるいくつかの塞栓物質35は、心周期の心室収縮期および弛緩期に壁を通る血液流入の結果として、大動脈枝37の前で植込み型管腔内プロテーゼ1の内側表面42に一時的に押し付けられる。ブレイドフレームワーク26の十分な壁厚さT
1のおかげで、これらの塞栓物質35は壁を通り抜ける代わりに内側表面42上にトラップされた状態で保持され、次いで、フラッシュ排出力の結果として心房収縮期にフラッシュ除去されて大動脈血流38に戻る。「フラッシュ排出力」という用語は、植込み型管腔内プロテーゼの固有の性質を意味する。具体的には、それはそれが接触する流動大動脈血液38により塞栓物質35に付与される力である。
【0045】
本発明者により行われた研究および実験から驚くべき予想外の結論がもたらされた。従来のフィルターのように比T
1/Φ
25が2.0未満である場合、塞栓物質35は、メッシュ開口を介してフラッシュされて動脈枝に入り込むか、または枝口で血流をブロックするまで蓄積されるか、のいずれかである。比T
1/Φ
25が大きいほど、管腔内プロテーゼ1が呈するフラッシュ排出力は大きい。
【0046】
したがって、本管腔内プロテーゼ1はそれにより覆われた枝口の閉塞リスクを低減するので、使用時の安全性の増加をもたらす。比T
1/Φ
25は、デバイスの安全性を改善するために、少なくとも2.5、好ましくは少なくとも3.0、より好ましくは3.5、さらにより好ましくは5.5、さらにより好ましくは少なくとも6.5、さらにより好ましくは少なくとも7.5にすべきである。
【0047】
生体適合性材料は、好ましくは、ステンレス鋼(たとえば、316、316L、または304)、形状記憶型または超弾性型を含むニッケル−チタン合金(たとえば、ニチノール、Nitinol−DFT(登録商標)−Platinum)、コバルト−クロム合金(たとえば、エルジロイ)、コバルト−クロム−ニッケル合金(たとえば、phynox)、コバルトとニッケルとクロムとモリブデンとの合金(たとえば、MP35NまたはMP20N)、コバルト−クロム−バナジウム合金、コバルト−クロム−タングステン合金、マグネシウム合金、チタン合金(たとえば、TiC、TiN)、タンタル合金(たとえば、TaC、TaN)、L605からなる群から選択される金属基材である。前記金属基材は、好ましくは、チタン、ニッケル−チタン合金たとえばニチノールおよびNitinol−DFT(登録商標)−Platinum、任意のタイプのステンレス鋼、またはコバルト−クロム−ニッケル合金たとえばPhynox(登録商標)からなる群から選択される。
【0048】
さらなる驚くべき効果として、T
1/Φ
25値の増加に伴って枝内の灌流が改善される。「灌流」とは、生理学では、血液を生体組織の毛細血管床に送達する生体のプロセスのことである。「低灌流」および「過灌流」という用語は、代謝必要量を満たす組織の流動必要量を基準にした灌流レベルの尺度である。本発明に係る植込み型メディカルデバイスはそれにより覆われた大動脈枝内の灌流を増加させるので、大動脈枝により血液が運ばれる器官の機能が改善される。
【0049】
米国特許出願公開第2006/0015138号明細書に示されるように、フィルター手段の好ましいコーティングは、血液とデバイス表面との間の摩擦度を減少して枝への血液流入を促進するために、ポリテトラエチルフルオリン(PTFE)、ポリビニルフルオリデン(PVDF)、ポリアリレンなどの高疎水性のものにすべきであることが知られている。
【0050】
驚くべきことに、ブレイドフレームワーク20の上述した構造と、管腔内プロテーゼ1上に形成されたリン系酸のコーティングと、を組み合わせることにより、大動脈枝口上の部分でブレイドフレームワーク20の適正な透過率を保持しつつ改善された塞栓経路変更効率を提供することが可能である。使用されるリン系酸は、式H
2R
1PO
3(式中、R
1はα位の炭素原子がリンに直接結合した有機リガンドである)を有する有機ホスホン酸から選択可能である。コーティング中のホスホネートの少なくとも1つのホスホネート部分は、金属基材の外表面に共有結合で直接結合される。
【0051】
好ましい一実施形態では、前記有機リガンドは3〜16個の炭素原子を有する炭化水素鎖を含む。有機リガンドは、コーティングと大動脈内を流れる塞栓物質35との間の相互作用を増大させるためにその末端炭素(すなわちα位の反対側の末端)がさらに官能基化される。前記官能基は、ヒドロキシル基、カルボン酸基、アミノ基、チオール基、ホスホン酸基、またはそれらの化学的誘導体でありうる。好ましくは、置換基は、カルボン酸基、ホスホン酸基、またはヒドロキシル基である。前記コーティングは、枝口を覆う部分以外で動脈壁を覆う植込み型メディカルデバイスの内壁上で内皮形成を促進しつつ、かつ動脈枝の前の部分でブレイドフレームワークの適正な透過率を維持しつつ、改善された塞栓経路変更効率を提供する。好ましくは、有機リガンドに含まれる炭素原子の数は、線状鎖として少なくとも6かつ多くとも16、より好ましくは少なくとも8かつ多くとも12である。前記ホスホン酸は、6−ホスホノヘキサン酸、11−ホスホノウンデカン酸、16−ホスホノヘキサデカン酸、1,8−オクタンジホスホン酸、1,10−デシルジホスホン酸、および(12−ホスホノドデシル)ホスホン酸からなる群から選択しうる。有機リガンドの炭素原子の1つ−(CH
2)−は、第3級アミノ基−N(R
2Y)−により置換しうる。第3級アミノ基の置換基はアルキル基−R
2Yであり、その末端炭素はカルボン酸、ホスホン酸、またはそれらの誘導体により官能基化される。第3級アミノ基を含む前記ホスホン酸は、好ましくは、N−(ホスホノメチル)イミノ二酢酸およびN,N−ビス(ホスホノメチル)グリシン)からなる群から選択される。他の好ましい実施形態では、ホスホン酸は、5−ヒドロキシ−5,5’−ビス(ホスホノ)ペンタン酸)などの追加のホスホン酸および/またはヒドロキシル基により有機リガンドのα位をさらに官能基化しうる。他の好ましい実施形態では、コーティングは、P−C−P構造を規定する同一の炭素原子上に位置する2つのC−P結合により特徴付けられるジェミナルビスホスホネートから形成される。前記gem−ビスホスホネート基は一般式(I)
を有し、R
3は(i)非置換の−C
1〜16アルキルまたは−COOH、−OH、−NH
2、ピリジル、ピロリジル、もしくはNR
5R
6で置換された−C
1〜16アルキル、(ii)−NHR
7、(iii)−SR
8、あるいは(iv)−Clを表し、R
4は−H、−OH、または−Clを表し、R
5は−Hまたは−C
1〜5アルキルを表し、R
6は−C
1〜5アルキルを表し、R
7は−C
1〜10アルキルまたは−C
3〜10シクロアルキルを表し、R
8はフェニルを表す。M
1、M
2、M
3、およびM
4の少なくとも1つは、植込み型メディカルデバイスの外表面の任意の金属原子を表す。このことは、コーティング中のビスホスホネートの少なくとも1つのホスホネート部分が金属基材の外表面に共有結合で直接結合されることを意味する。ビスホスホネートは、単層としてかつ最外層として金属基材の外表面の少なくとも50%を覆う。好ましくは、R
3は、末端位置が−COOHまたは−OHで置換された−C
1〜16アルキルを表し、かつR
4は−OHを表す。好ましくは、前記gem−ビスホスホネートは、エチドロン酸、アレンドロン酸、クロドロン酸、パミドロン酸、チルドロン酸、リセドロン酸、またはそれらの誘導体である。
【0052】
配置方法
好ましい一実施形態によれば、本発明に係る管腔内プロテーゼ1は管腔内プロテーゼ送達装置を用いて配置される。この装置は、装置の先端部を植込み部位に近づけることができるように血管系を介してオペレーターが基端部位から駆動するように設計され、装置の先端部からプロテーゼ1をアンロードすることが可能である。送達装置は、プロテーゼ1と、プロテーゼが導入されたプロテーゼ収容領域と、中心内側シャフトと、リトラクトシースと、を含む。好ましくは、装置は、シース内に圧縮された自己拡張型保持手段をさらに含み、その先端部分はプロテーゼの基端部分を取り囲み、その基端部は、部分的にシースされていないプロテーゼをリトラクトシース内に再シースする機能を装置に持たせるためにジョイントで内側シャフトに永久的に連結される。大動脈内の所望の位置にプロテーゼ1を配置するために、リトラクトシースの先端部をその位置まで移動させ、リトラクトシースを送達装置の基端部の方向にプロテーゼ1の上から徐々に引き戻す。シースが保持手段の基端部に近接したら、プロテーゼ1を配置形状に部分的に自己拡張させる。シースを基端方向に連続的にリトラクトすることにより、保持手段をシースから開放して生体の体温の作用下でおよび/または固有の弾性により配置する。植込みの後のプロテーゼの移動を予防するために、「公称」拡張状態の直径が植込み部位の生体管腔の直径よりも10〜40%大きいオーバーサイズのプロテーゼ1が一般に選択される。かかるプロテーゼ1は生体管腔の内壁に十分な半径方向力を発揮するので、植え込まれた位置にしっかりと固定される。配置されるとプロテーゼ1の配置された部分により大動脈の壁上に提供される半径方向力が配置状態の配置された保持手段の把持力よりも大きくなるので、シースと共に内側シャフトを基端方向にリトラクトする際に望ましくない長手方向変位を伴うことなく、保持手段は配置位置でプロテーゼを放出することが可能である。