(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の熱源で生じた排熱の熱エネルギを、熱媒体を介して、該車両内の活用先で使用するにあたり、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容本体部に収容可能な態様で、該収容本体部に該熱媒体を流通させ、区画部材を介して、該熱媒体と該潜熱蓄熱材との間で熱交換を行う熱交換手段であり、該収容本体部に該熱媒体を流す入力側流路と、該収容本体部から流出した熱交換後の該熱媒体を該活用先へ流す出力側流路と、を有する蓄熱装置を、該車両に搭載してなる蓄熱システムにおいて、
前記潜熱蓄熱材は、n(2≦n)個の水和水を含有する無機塩水和物を、少なくとも一種含む蓄熱材であり、前記蓄熱装置には、前記潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物が用いられていること、
前記添加剤は、第1の添加剤として、前記潜熱蓄熱材の融点を調整する融点調整剤であり、前記潜熱蓄熱材との溶解で、負の溶解熱を発生する物性を有する物質のうち、少なくとも糖アルコール類に属する物質を含んでおり、前記潜熱蓄熱材組成物の融液は、前記潜熱蓄熱材に含む前記水和水と、前記融点調整剤に含む糖アルコールとの溶解により、前記潜熱蓄熱材と前記融点調整剤とを混合してなること、
前記入力側流路と前記出力側流路とが、前記区画部材として、1以上のパイプを螺旋状に巻回してなる連結管により、連通されていること、
前記連結管は、前記収容本体部に包含された態様で配設され、前記潜熱蓄熱材組成物は、前記連結管周りに密着した状態で、前記収容本体部に収容されていること、
前記パイプは、第1パイプと第2パイプとを並列に配管してなると共に、前記収容本体部の底側に位置する折返し部で折り返されて、前記入力側流路と前記出力側流路とに連結されていること、
前記第1パイプと前記第2パイプは何れも、前記折返し部を挟む前記パイプの前記入力側流路側で、螺旋状に配管されている一方、前記折返し部を挟む前記パイプの前記出力側流路側では、直線状に配管されていること、
を特徴とする蓄熱システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような自動車向けの蓄熱システムでは、蓄熱装置は、自動車のエンジンルーム内や、排気ガスの管路に隣接した排気系構造部等に設置される。エンジンルームや排気系構造部では、数多くの部品やユニットが、限られたスペースに、煩雑な状態で装着されており、エンジンルーム等に蓄熱装置を設置しようとすると、スペース上の制約が大いに生じる。そのため、必然的に蓄熱装置のコンパクト化が強いられ、体積比あたりの蓄熱量がより大きな潜熱蓄熱材を蓄熱装置に具備しないと、活用先で必要な十分な熱エネルギを、蓄熱装置から取り出すことができず、問題になる。
【0007】
特許文献1には、蓄熱材は、潜熱蓄熱材であるとされているが、潜熱蓄熱材となり得る材料の種類は非常に数多く、その材料によって潜熱蓄熱材の特性も様々であるため、蓄熱装置に潜熱蓄熱材を単に用いるだけでは、このような問題に直面する蓋然性が高い。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、潜熱蓄熱材を具備した蓄熱装置を車両に搭載し、この車両の熱源で生じた排熱の熱エネルギを、蓄熱装置により、この車両内の活用先で使用する蓄熱システムについて、蓄熱装置を小型化しても、十分な熱エネルギを活用先に提供することができる蓄熱システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る蓄熱システムは、以下の構成を有する。
(1)車両の熱源で生じた排熱の熱エネルギを、熱媒体を介して、該車両内の活用先で使用するにあたり、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容本体部に収容可能な態様で、該収容本体部に該熱媒体を流通させ、区画部材を介して、該熱媒体と該潜熱蓄熱材との間で熱交換を行う熱交換手段であり、該収容本体部に該熱媒体を流す入力側流路と、該収容本体部から流出した熱交換後の該熱媒体を該活用先へ流す出力側流路と、を有する蓄熱装置を、該車両に搭載してなる蓄熱システムにおいて、前記潜熱蓄熱材は、n(2≦n)個の水和水を含有する無機塩水和物を、少なくとも一種含む蓄熱材であり、前記蓄熱装置には、前記潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物が用いられていること、前記添加剤は、第1の添加剤として、前記潜熱蓄熱材の融点を調整する融点調整剤であり、前記潜熱蓄熱材との溶解で、負の溶解熱を発生する物性を有する物質のうち、少なくとも糖アルコール類に属する物質を含んでおり、前記潜熱蓄熱材組成物の融液は、前記潜熱蓄熱材に含む前記水和水と、前記融点調整剤に含む糖アルコールとの溶解により、前記潜熱蓄熱材と前記融点調整剤とを混合してなること、前記入力側流路と前記出力側流路とが、前記区画部材として、1以上のパイプを巻回してなる連結管により、連通されていること、前記連結管は、前記収容本体部に包含された態様で配設され、前記潜熱蓄熱材組成物は、前記連結管周りに密着した状態で、前記収容本体部に収容されていること、を特徴とする。
(2)車両の熱源で生じた排熱の熱エネルギを、熱媒体を介して、該車両内の活用先で使用するにあたり、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容本体部に収容可能な態様で、該収容本体部に該熱媒体を流通させ、区画部材を介して、該熱媒体と該潜熱蓄熱材との間で熱交換を行う熱交換手段であり、該収容本体部に該熱媒体を流す入力側流路と、該収容本体部から流出した熱交換後の該熱媒体を該活用先へ流す出力側流路と、を有する蓄熱装置を、該車両に搭載してなる蓄熱システムにおいて、前記潜熱蓄熱材は、n(2≦n)個の水和水を含有する無機塩水和物を、少なくとも一種含む蓄熱材であり、前記蓄熱装置には、前記潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物が用いられていること、前記添加剤は、第1の添加剤として、前記潜熱蓄熱材の融点を調整する融点調整剤であり、前記潜熱蓄熱材との溶解で、負の溶解熱を発生する物性を有する物質のうち、少なくとも糖アルコール類に属する物質を含んでおり、前記潜熱蓄熱材組成物の融液は、前記潜熱蓄熱材に含む前記水和水と、前記融点調整剤に含む糖アルコールとの溶解により、前記潜熱蓄熱材と前記融点調整剤とを混合してなること、前記入力側流路と前記出力側流路とが、前記収容本体部を介して、連通していること、前記潜熱蓄熱材組成物は、前記区画部材として、密閉可能な蓄熱材収容具に充填されており、前記収容本体部には、前記熱媒体が貯められ、前記潜熱蓄熱材組成物を充填した前記蓄熱材収容具が、前記熱媒体に浸漬した状態で配設されていること、を特徴とする。
【0010】
なお、本発明に係る蓄熱システムで用いる潜熱蓄熱材組成物において、「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」とは、例えば、エリスリトール(C
4H
10O
4)、キシリトール(C
5H
12O
5)、マンニトール(C
6H
14O
6)、ソルビトール(C
6H
14O
6)、ラクチトール(C
12H
24O
11)等の「糖アルコール類に属する物質」に該当する。また、塩化カルシウム六水和物(CaCl
2・6H
2O)、塩化マグネシウム六水和物(MgCl
2・6H
2O)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)等の「塩化物に属する物質」が該当する。加えて、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)等の「硫酸塩に属する物質」が該当する。
【0011】
また、上述の「糖アルコール類に属する物質」に該当する物質のうち、少なくとも一種以上を含む場合のほか、上述の「塩化物に属する物質」に該当する物質のうち、少なくとも一種以上含む場合や、上述の「硫酸塩に属する物質」に該当する物質のうち、少なくとも一種以上含む場合も該当する。加えて、上述の「糖アルコール類に属する物質」に該当する物質のいずれかと、上述の「塩化物に属する物質」に該当する物質のいずれかとの混合物もある。また、上述の「糖アルコール類に属する物質」に該当する物質のいずれかと、上述の「硫酸塩に属する物質」に該当する物質のいずれかとの混合物もある。
【0012】
さらに、上述の「糖アルコール類に属する物質」に該当する物質のいずれかと、上述の「塩化物に属する物質」に該当する物質のいずれかと、上述の「硫酸塩に属する物質」に該当する物質のいずれかとの混合物(塩化物と硫酸塩とが混晶をなす場合も含む)もある。
【0013】
すなわち、潜熱蓄熱材組成物に構成された潜熱蓄熱材が、例えば、無機塩水和物からなる場合、「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」が無機塩水和物の水和水に溶解するとき、この「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」において、外部から熱を吸収して吸熱反応(例えば、無機塩水和物の水和水との溶解のほか、無機塩水和物が水和水以外に溶媒となり得る分子をその構造の中に有する場合で、水和水以外の構成物質との溶解等も含む)が生じるものを、「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」と、定義している。
【0014】
(3)(1)または(2)に記載する蓄熱システムにおいて、前記添加剤は、第2の添加剤として、多糖類に属する水溶性の物質で、前記潜熱蓄熱材組成物に含まれる水とカチオンとの相互作用に基づいて、液相状態にある当該潜熱蓄熱材組成物の融液の粘度を高める増粘剤であり、前記増粘剤は、ゲランガム(gellan gum)であること、前記潜熱蓄熱材組成物全体の重量に占める前記ゲランガムの配合比率が、1wt%以下の範囲内であること、を特徴とする。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する蓄熱システムにおいて、前記潜熱蓄熱材の前記水和水の数は、12以上であり、前記潜熱蓄熱材組成物全体に占める前記糖アルコールに属する物質の配合比率は、前記潜熱蓄熱材1molあたり、1.59〜5.57molの範囲内であること、を特徴とする。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する蓄熱システムにおいて、前記熱交換手段では、少なくとも前記収容本体部は、内外で熱を遮断可能な断熱構造で構成されていること、を特徴とする。
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載する蓄熱システムにおいて、液体が前記収容本体部の中に流入するのを遮断すると共に、前記潜熱蓄熱材組成物の構成成分が前記収容本体部の外へ流出するのを遮断する一方で、気体が前記収容本体部の内外に出入りするのを許容する圧力制御弁を、備えていること、を特徴とする。
(7)(6)に記載する蓄熱システムにおいて、前記圧力制御弁は、前記収容本体部または、前記区画部材として、前記潜熱蓄熱材組成物を密閉状態で収容可能な蓄熱材収容具の少なくとも何れかに設けられていること、を特徴とする。
【0015】
(8)(1)乃至(7)のいずれか1つに記載する蓄熱システムにおいて、前記潜熱蓄熱材組成物は、前記収容本体部内に空隙部を設けた状態で、収容されていること、または前記熱媒体は、前記収容本体部内に空隙部を設けた状態で、貯められていること、を特徴とする。
(9)(1)に記載する蓄熱システムにおいて、少なくとも前記収容本体部の内面と前記連結管の外周面は、前記潜熱蓄熱材組成物の接触に伴う腐食を防ぐ耐腐食部となっていること、を特徴とする。
(10)(9)に記載する蓄熱システムにおいて、前記耐腐食部は、樹脂、ガラス、またはセラミックスのいずれかの材料により構成されていること、を特徴とする。
(11)(1)に記載する蓄熱システムにおいて、前記潜熱蓄熱材組成物は、前記収容本体部内に空隙部を設けた状態で、収容されており、前記潜熱蓄熱材組成物と前記空隙部との間には、前記潜熱蓄熱材組成物の構成成分の拡散を防ぐ遮断膜が、形成されていること、を特徴とする。
(12)(6)に記載する蓄熱システムにおいて、前記圧力制御弁は、前記区画部材として、前記潜熱蓄熱材組成物を密閉状態で収容可能な蓄熱材収容具に設けられていること、前記熱媒体は、前記収容本体部内に空隙部を設けた状態で貯められ、前記潜熱蓄熱材組成物を充填した前記蓄熱材収容具は、前記圧力制御弁を前記空隙部に直に晒した状態で、前記熱媒体に浸漬されていること、前記圧力制御弁を挟み、前記潜熱蓄熱材組成物と前記空隙部との間には、前記潜熱蓄熱材組成物の構成成分の拡散を防ぐ遮断膜が、形成されていること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記構成を有する本発明の蓄熱システムの作用・効果について説明する。
(1)車両の熱源で生じた排熱の熱エネルギを、熱媒体を介して、該車両内の活用先で使用するにあたり、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容本体部に収容可能な態様で、該収容本体部に該熱媒体を流通させ、区画部材を介して、該熱媒体と該潜熱蓄熱材との間で熱交換を行う熱交換手段であり、該収容本体部に該熱媒体を流す入力側流路と、該収容本体部から流出した熱交換後の該熱媒体を該活用先へ流す出力側流路と、を有する蓄熱装置を、該車両に搭載してなる蓄熱システムにおいて、潜熱蓄熱材は、n(2≦n)個の水和水を含有する無機塩水和物を、少なくとも一種含む蓄熱材であり、蓄熱装置には、潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物が用いられていること、添加剤は、第1の添加剤として、潜熱蓄熱材の融点を調整する融点調整剤であり、潜熱蓄熱材との溶解で、負の溶解熱を発生する物性を有する物質のうち、少なくとも糖アルコール類に属する物質を含んでおり、潜熱蓄熱材組成物の融液は、潜熱蓄熱材に含む水和水と、融点調整剤に含む糖アルコールとの溶解により、潜熱蓄熱材と融点調整剤とを混合してなること、入力側流路と出力側流路とが、区画部材として、1以上のパイプを巻回してなる連結管により、連通されていること、連結管は、収容本体部に包含された態様で配設され、潜熱蓄熱材組成物は、連結管周りに密着した状態で、収容本体部に収容されていること、を特徴とする。
【0017】
また、(2)に記載する蓄熱システムにおいて、潜熱蓄熱材は、n(2≦n)個の水和水を含有する無機塩水和物を、少なくとも一種含む蓄熱材であり、蓄熱装置には、潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物が用いられていること、添加剤は、第1の添加剤として、潜熱蓄熱材の融点を調整する融点調整剤であり、潜熱蓄熱材との溶解で、負の溶解熱を発生する物性を有する物質のうち、少なくとも糖アルコール類に属する物質を含んでおり、潜熱蓄熱材組成物の融液は、潜熱蓄熱材に含む水和水と、融点調整剤に含む糖アルコールとの溶解により、潜熱蓄熱材と融点調整剤とを混合してなること、入力側流路と出力側流路とが、収容本体部を介して、連通していること、潜熱蓄熱材組成物は、区画部材として、密閉可能な蓄熱材収容具に充填されており、収容本体部には、熱媒体が貯められ、潜熱蓄熱材組成物を充填した蓄熱材収容具が、熱媒体に浸漬した状態で配設されていること、を特徴とする。
【0018】
これらの特徴により、蓄熱装置では、区画部材を介した潜熱蓄熱材組成物と熱媒体との伝熱面積が、より大きく確保できた状態になる。他方、潜熱蓄熱材組成物は、熱交換前の熱媒体との熱交換で、例えば、蓄熱量220kJ/kg超の潜熱を効率良く蓄えることができ、連結管内を流通する熱媒体は、このような大きな蓄熱量を保持する潜熱蓄熱材組成物と、効率良く熱交換を行って放熱し、熱交換後の熱媒体として、この熱媒体は、出力側流路を通じて活用先に供給される。そのため、本発明の蓄熱システムが、車両内の設置スペースに応じて、蓄熱装置を小型化して構成されても、活用先で必要とする熱エネルギは、この蓄熱装置から十分な状態で供給することができる。
【0019】
従って、本発明に係る蓄熱システムによれば、潜熱蓄熱材を具備した蓄熱装置を搭載した車両では、蓄熱装置を小型化しても、十分な熱エネルギをこの車両内の活用先に提供することができる、という優れた効果を奏する。
【0020】
(3)に記載する蓄熱システムにおいて、添加剤は、第2の添加剤として、多糖類に属する水溶性の物質で、潜熱蓄熱材組成物に含まれる水とカチオンとの相互作用に基づいて、液相状態にある当該潜熱蓄熱材組成物の融液の粘度を高める増粘剤であり、増粘剤は、ゲランガム(gellan gum)であること、潜熱蓄熱材組成物全体の重量に占めるゲランガムの配合比率が、1wt%以下の範囲内であること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物が融液の状態にあるとき、潜熱蓄熱材組成物の粘度が高まって、潜熱蓄熱材の相分離現象が防止でき、潜熱蓄熱材組成物の構成成分は均一な状態で分散することができる。また、相分離現象のほか、増粘剤以外に、例えば、融点調整剤や、過冷却防止剤等の別の添加剤が、潜熱蓄熱材組成物に配合されている場合でも、構成成分の密度差に起因した、増粘剤等以外の添加剤と潜熱蓄熱材との分離が防止でき、潜熱蓄熱材組成物の構成成分は均一な状態で分散することができる。
【0021】
(4)に記載する蓄熱システムにおいて、潜熱蓄熱材の水和水の数は、12以上であり、潜熱蓄熱材組成物全体に占める糖アルコールに属する物質の配合比率は、潜熱蓄熱材1molあたり、1.59〜5.57molの範囲内であること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物は、概ね60℃前後〜80℃前後の範囲内を対象とした温度帯域の排熱に基づいて、蓄熱できるようになる。そのため、車両において、熱源が、例えば、エンジンの冷却水(熱媒体)等より出される排熱で、活用先が、例えば、エンジンの暖機を補助するユニットや、車内の空気調和装置を補助するユニット等である場合、概ね60℃前後〜80℃前後の温度帯域は、このような排熱の熱エネルギを使用する上で、適した温度帯域となる。しかも、使用中に万一、潜熱蓄熱材組成物に含有する、糖アルコールに属する物質の配合比率に変動が生じても、その配合比率が、潜熱蓄熱材1molあたり、1.59〜5.57molの範囲内であれば、潜熱蓄熱材組成物の融点を、例えば、75℃程度等の温度に保つことができている。
【0022】
(5)に記載する蓄熱システムにおいて、熱交換手段では、少なくとも収容本体部は、内外で熱を遮断可能な断熱構造で構成されていること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物に蓄えられた熱や、連結管内または収容本体部内を流れる熱媒体の熱に対し、収容本体部の内部空間から外部に放熱される熱のロス分が低減できる。
【0023】
(6)に記載する蓄熱システムにおいて、液体が収容本体部の中に流入するのを遮断すると共に、潜熱蓄熱材組成物の構成成分が収容本体部の外へ流出するのを遮断する一方で、気体が収容本体部の内外に出入りするのを許容する圧力制御弁を、備えていること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物が、その融点を超える温度で加熱されて融解し、この潜熱蓄熱材組成物の体積増加により、収容本体部内の圧力が上昇する場合や、潜熱蓄熱材組成物が、その凝固点を超える温度で冷却されて凝固し、潜熱蓄熱材組成物の体積減少により、収容本体部内の圧力が低下する場合でも、収容本体部は、内圧をほぼ一定の状態に維持することができる。そのため、このような圧力上昇や圧力低下に起因した、収容本体部や区画部材(連結管、または蓄熱材収容具)の破損が抑止できる。また、万が一、融液状態にある潜熱蓄熱材組成物や、その構成成分が、何らかの理由で、収容本体部の圧力制御弁付近まで飛散した場合でも、潜熱蓄熱材組成物や、その構成成分は、弁体部を通じて蓄熱装置外に流出することもない。
【0024】
(7)に記載する蓄熱システムにおいて、圧力制御弁は、収容本体部または、区画部材として、潜熱蓄熱材組成物を密閉状態で収容可能な蓄熱材収容具の少なくとも何れかに設けられていること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物が密閉可能な蓄熱材収容具に充填されている場合で、圧力制御弁を、例えば、蓄熱材収容具と収容本体部に設けていれば、相変化に伴う潜熱蓄熱材組成物の体積変動により、蓄熱材収容具内の圧力が変動しても、蓄熱材収容具の破損が抑止できるほか、蓄熱材収容具を収めている収容本体部にも影響してこの収容本体部に及ぼすダメージは、より確実に抑止できる。また、潜熱蓄熱材組成物が直接収容本体部に収容されている場合には、圧力制御弁を収容本体部に備えていれば、相変化に伴う潜熱蓄熱材組成物の体積変動が生じても、収容本体部内の圧力変動に起因した収容本体部や連結管の破損は、抑止できる。
【0025】
(8)に記載する蓄熱システムにおいて、潜熱蓄熱材組成物は、収容本体部内に空隙部を設けた状態で、収容されていること、または熱媒体は、収容本体部内に空隙部を設けた状態で、貯められていること、を特徴とする。この特徴により、例えば、空隙部の圧力が予め適切に調整されている下で、潜熱蓄熱材組成物の体積が、液相と固相との相変化に伴って大きく変化したときに、収容本体部の内部空間における圧力変動が、空隙部で相殺できるため、区画部材(連結管、または蓄熱材収容具)や収容本体部等へのダメージが抑制できる。特に、空隙部と隣接する位置に圧力制御弁が設けられていると、気体が、圧力制御弁を介して、空隙部と蓄熱システムの外部との間を自由に行き来することができ、空隙部の圧力を、予め正圧または負圧に調整することなく、潜熱蓄熱材組成物の体積変動に対して、内部空間の圧力を一定に保つことができる。
【0026】
(9)に記載する蓄熱システムにおいて、少なくとも収容本体部の内面と連結管の外周面は、潜熱蓄熱材組成物の接触に伴う腐食を防ぐ耐腐食部となっていること、を特徴とする。この特徴により、蓄熱装置は、耐久性の高い装置になる。
【0027】
(10)に記載する蓄熱システムにおいて、耐腐食部は、樹脂、ガラス、またはセラミックスのいずれかの材料により構成されていること、を特徴とする。この特徴により、蓄熱装置での耐腐食対策に関する製造工程が簡単である。
【0028】
(11)に記載する蓄熱システムにおいて、潜熱蓄熱材組成物は、収容本体部内に空隙部を設けた状態で、収容されており、潜熱蓄熱材組成物と空隙部との間には、潜熱蓄熱材組成物の構成成分の拡散を防ぐ遮断膜が、形成されていること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物の構成成分の拡散、特に水分の蒸発に起因して、潜熱蓄熱材組成物自体の蓄熱性能が劣化してしまうことや、潜熱蓄熱材組成物が、経時的に変性、変質してしまうこともない。
【0029】
(12)に記載する蓄熱システムにおいて、圧力制御弁は、区画部材として、潜熱蓄熱材組成物を密閉状態で収容可能な蓄熱材収容具に設けられていること、熱媒体は、収容本体部内に空隙部を設けた状態で貯められ、潜熱蓄熱材組成物を充填した蓄熱材収容具は、圧力制御弁を空隙部に直に晒した状態で、熱媒体に浸漬されていること、圧力制御弁を挟み、潜熱蓄熱材組成物と空隙部との間には、潜熱蓄熱材組成物の構成成分の拡散を防ぐ遮断膜が、形成されていること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物の構成成分の拡散、特に水分の蒸発に起因して、潜熱蓄熱材組成物自体の蓄熱性能が劣化してしまうことや、潜熱蓄熱材組成物が、経時的に変性、変質してしまうこともない。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施形態1)
以下、本発明に係る蓄熱システムについて、実施形態1,2を図面に基づいて詳細に説明する。本発明に係る蓄熱システムは、車両の熱源で生じた排熱の熱エネルギを、熱媒体を介して、この車両内の活用先で使用する目的で、車両に搭載されるシステムである。本発明に係る蓄熱システムについて、本実施形態1,2では、例えば、エンジンとモータとの併用で駆動するハイブリッドカー、エンジンだけで駆動する自動車をはじめ、主としてエンジン付きの自動車や気動車等の車両に搭載する場合を挙げて、説明する。
【0032】
図1は、実施形態1,2に係る蓄熱システムの概要を示す説明図である。車両Sには、周知の通り、エンジンと、作動時に冷却水を循環させてこのエンジン内の温度を調整するラジエータとが搭載されており、ラジエータは、作動状態にあるエンジン(熱源2)から放つ高温の熱、すなわちエンジンの排熱により加熱された冷却水(熱媒体4)の熱を、大気中下に放散して冷却水の温度上昇を抑えている。エンジン内とラジエータ内とを循環しながら流れる熱媒体4の総容量は、概ね数Lである。また、蓄熱装置10と、熱源2で生じた排熱の熱エネルギを、熱媒体4を介して、車両6内で使用する熱エネルギの活用先3が、当該車両Sに搭載されており、
図1に示すように、車両6内には、熱源2と蓄熱装置10と活用先3とにより、蓄熱システム1が構築されている。この活用先3は、実施形態1,2では、冷却水の過熱を抑制するのに使用している前述のラジエータや、車両Sのエンジン本体である。
【0033】
はじめに、蓄熱システム1の概要について、簡単に説明する。車両Sのエンジンが作動状態にあると、熱媒体4は高温になっている。蓄熱システム1では、エンジン作動時に、高温(例えば、70〜80℃)になっている熱媒体4を、熱交換前の熱媒体4aとして、後に詳述する蓄熱装置10に供給して、区画部材を介して、蓄熱装置10内の潜熱蓄熱材組成物80と熱媒体4との間で熱交換を行い、潜熱蓄熱材組成物80にこの熱媒体4の熱を蓄えておく。
【0034】
一方で、車両Sのエンジンにおいて、先の作動状態から停止後、次に始動するまでに、長い時間が経過していると、エンジンが低温になって、熱媒体4も冷たくなっている。蓄熱装置10では、エンジン始動直前の一定時間、冷たくなっている熱媒体4と、熱交換前の熱媒体4aの熱を蓄えた潜熱蓄熱材組成物80との間で、区画部材を介して熱交換を行い、熱交換後の熱媒体4bに、潜熱蓄熱材組成物80が有する熱エネルギを付与することにより、ラジエータ内の冷たい熱媒体4が、エンジン始動開始まで加温される。そして、ラジエータ内で循環する熱媒体4全体が、例えば、50〜60℃に温められた状態になった時点で、エンジンの始動が行われる。
【0035】
あるいは、エンジン始動に合わせ、冷たくなっている熱媒体4と、熱媒体4aの熱を蓄えた潜熱蓄熱材組成物80との間で熱交換を行いながら、エンジン作動と同時に、熱交換後の熱媒体4bとして、熱媒体4をエンジン内に循環させて、熱交換後の熱媒体4bに有する熱エネルギ(例えば、70〜80℃)を、エンジン本体に付与する。蓄熱システム1では、熱交換後の熱媒体4bによる熱エネルギが、活用先3に付与され、この熱エネルギを活用先3で熱交換(消費)したことにより、冷めた熱媒体4(熱消費後の熱媒体4c)は、次に熱源2から熱交換を行う熱媒体4として循環し、このような熱媒体4の循環サイクルが、複数回繰り返し行われる。
【0036】
すなわち、実施形態1,2では、作動状態のエンジンが熱源2になり、高温状態にある熱媒体4の熱エネルギが活用先3で使用されず、熱媒体4に過熱の虞がある場合に、蓄熱システム1は、熱媒体4を蓄熱装置10に供給して、熱媒体4と潜熱蓄熱材組成物80との間で熱交換を行う。従来、ラジエータにおいて、熱媒体4の過熱を抑制するため、熱媒体4に有する熱エネルギは、大気中に放散されてきたが、蓄熱システム1により、熱媒体4のこの熱エネルギが、潜熱蓄熱材組成物80に一時的に蓄えられる。
【0037】
そして、エンジンが停止状態にあり、熱媒体4が低温活用先3にあるときのエンジン本体や、ラジエータの少なくとも何れかが、潜熱蓄熱材組成物80に蓄えた熱エネルギの活用先3である。このような状態の下、活用先3がエンジン本体である場合には、潜熱蓄熱材組成物80に蓄えた熱エネルギは、エンジンの暖機に用いられる。また、活用先3がラジエータである場合には、潜熱蓄熱材組成物80に蓄えた熱エネルギは、車両Sに搭載した空気調和装置により車内を暖房するにあたり、より短い時間で車内を温める目的で用いられる。
【0038】
なお、熱源2は、エンジン本体から放つ排熱以外にも、例えば、エンジン作動時の排気から放つ排熱等、車両S内で熱を放つ部分であれば、実施形態1,2に限定されるものではなく、適宜変更可能である。勿論、熱源2と活用先3とが、互いに独立関係にあり、別々の機能を有するユニットでも良い。
【0039】
また、活用先3は、車内の暖房を補助するにあたり、潜熱蓄熱材組成物80と熱交換する熱媒体4としての冷却水が循環するラジエータ以外にも、例えば、車内の冷暖房や除湿に伴い、送風する空気の状態を調整する空気調和装置向け等、熱源2で生じた排熱の熱エネルギを、潜熱蓄熱材組成物80に蓄えて、同じ車両S内で二次的に使用できるものであれば、実施形態1,2に限定されるものではなく、適宜変更可能である。さらに、車両S等の車両が、ハイブリッドカーや電気自動車である場合に、駆動用モータの電源で、複数の組電池からなるバッテリパックに対し、その性能を高く維持する目的で、これらの組電池を適切な温度で保護する必要性に応じて、活用先が、その組電池の保護対策に用いられても良い。また、潜熱蓄熱材組成物80からの放熱を、燃料電池車の暖機エネルギとして用いても良い。
【0040】
次に、蓄熱装置10に用いる潜熱蓄熱材組成物80について、説明する。
図2は、実施形態1,2に係る蓄熱システムで用いる潜熱蓄熱材組成物の構成成分を模式的に示す図である。潜熱蓄熱材組成物80は、
図2に示すように、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材81と、潜熱蓄熱材81の物性を調整する添加剤83を配合してなる。
【0041】
潜熱蓄熱材81は、n(2≦n)個の水和水を含有する無機塩水和物を、少なくとも一種含む蓄熱材である。潜熱蓄熱材81は、無機塩水和物として、例えば、水和水を(n=2)個有するヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム2水和物(CH
3NaO
3S・2H
2O)(単体での潜熱の蓄熱量は約170kJ/kg)等のヒドロキシメタンスルフィン酸塩からなる蓄熱材である。また、水和水を(n=3)個有する酢酸ナトリウム3水和物(CH
3COONa・3H
2O)(単体での潜熱の蓄熱量は約270kJ/kg)等の酢酸塩からなる蓄熱材である。また、水和水を(n=10)個有する二リン酸ナトリウム10水和物(Na
4P
2O
7・10H
2O)(単体での潜熱の蓄熱量は約240kJ/kg)等の二リン酸塩(ピロリン酸塩)、またはリン酸塩からなる蓄熱材である。
【0042】
また、水和水を(n=12)個有するミョウバン水和物からなる蓄熱材である。ミョウバン水和物は、例えば、アンモニウムミョウバン12水和物(AlNH
4(SO
4)
2・12H
2O)や、カリウムミョウバン12水和物(AlK(SO
4)
2・12H
2O)をはじめ、クロムミョウバン12水和物(CrK(SO
4)
2・12H
2O)、鉄ミョウバン12水和物(FeNH
4(SO
4)
2・12H
2O)等、1価の陽イオンの硫酸塩M
I2(SO
4)と、3価の陽イオンの硫酸塩M
III2(SO
4)
3との複硫酸塩をなす「ミョウバン水和物」である。この「ミョウバン水和物」に含まれる3価の金属イオンは、アルミニウムイオン、クロムイオン、鉄イオン以外に、例えば、コバルトイオン、マンガンイオン等の金属イオンでも良い。さらに、潜熱蓄熱材81は、このような「ミョウバン水和物」に属する物質を、少なくとも二種以上含む混合物、または混晶を主成分とした蓄熱材であっても良い。
【0043】
さらに、潜熱蓄熱材81は、無機塩水和物として、例えば、水和水を(n=14〜18)個有する硫酸アルミニウム水和物(Al
2(SO
4)
3・nH
2O)(単体での潜熱の蓄熱量は約190kJ/kg)等の硫酸塩からなる蓄熱材である。加えて、エチルマルトールは、無機塩水和物ではないが、エチルマルトールを含む潜熱蓄熱材が、蓄熱装置に用いられても良い。
【0044】
次に、添加剤83について、説明する。添加剤83は2種(第1の添加剤、第2の添加剤)とも、潜熱蓄熱材81の物性を調整する役割を担う水溶性の添加剤である。第1の添加剤83は、潜熱蓄熱材81の融点を、必要に応じて任意の温度に調整する融点調整剤83Aであり、融点調整剤83Aは、潜熱蓄熱材81との溶解で、負の溶解熱を発生する物性を有する物質からなる。第2の添加剤83は、多糖類に属する水溶性の物質であり、潜熱蓄熱材組成物80に含まれる水とカチオンとの相互作用に基づいて、液相状態にある潜熱蓄熱材組成物80の融液の粘度を高める増粘剤83Bである。
【0045】
なお、本実施形態1では、潜熱蓄熱材組成物80に配合する添加剤83に、融点調整剤83Aと増粘剤83Bとを挙げたが、潜熱蓄熱材組成物80に配合する添加剤83は、融点調整剤83Aと増粘剤83Bだけに限らず、例えば、融液状態にある潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤等も挙げることができる。
【0046】
ここで、「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」の定義について、説明する。前述したように、潜熱蓄熱材組成物80は、アンモニウムミョウバン12水和物等の無機塩水和物からなる潜熱蓄熱材81を主成分に、融点調整剤83Aと増粘剤83Bとを配合してなる。融点調整剤83Aが潜熱蓄熱材81の水和水に溶解するとき、この融点調整剤83Aにおいて、外部から熱を吸収して吸熱反応が生じるものを、本実施形態1に係る潜熱蓄熱材組成物80では、「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」と定義している。
【0047】
「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」には、例えば、エリスリトールやキシリトールのほか、マンニトール(C
6H
14O
6)、ソルビトール(C
6H
14O
6)、ラクチトール(C
12H
24O
11)等の「糖アルコール類に属する物質」がある。また、塩化カルシウム六水和物(CaCl
2・6H
2O)、塩化マグネシウム六水和物(MgCl
2・6H
2O)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)等の「塩化物に属する物質」がある。加えて、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)等の「硫酸塩に属する物質」がある。
【0048】
また、上述の「糖アルコール類に属する物質」に該当する物質のうち、少なくとも一種以上を含む場合のほか、上述の「塩化物に属する物質」に該当する物質のうち、少なくとも一種以上含む場合や、上述の「硫酸塩に属する物質」に該当する物質のうち、少なくとも一種以上含む場合も該当する。加えて、上述の「糖アルコール類に属する物質」に該当する物質のいずれかと、上述の「塩化物に属する物質」に該当する物質のいずれかとの混合物もある。また、上述の「糖アルコール類に属する物質」に該当する物質のいずれかと、上述の「硫酸塩に属する物質」に該当する物質のいずれかとの混合物もある。
【0049】
さらに、上述の「糖アルコール類に属する物質」に該当する物質のいずれかと、上述の「塩化物に属する物質」に該当する物質のいずれかと、上述の「硫酸塩に属する物質」に該当する物質のいずれかとの混合物(塩化物と硫酸塩との混晶をなす場合も含む)もある。
【0050】
その他、取扱いに注意が必要となり、本実施形態1において、潜熱蓄熱材組成物としての使用は好ましくないが、例えば、硝酸アンモニウムや塩素酸カリウム等についても、水に溶解した際に吸熱反応を呈するため、「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」には該当する。また、無水硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)は、「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」に属さないが、アンモニウムミョウバン12水和物等のミョウバン水和物を含む潜熱蓄熱材の融点を調整する添加剤として、無水硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)が、潜熱蓄熱材組成物に配合されていても良い。
【0051】
潜熱蓄熱材組成物80について、具体的に説明する。潜熱蓄熱材組成物80は、前述したように、潜熱蓄熱材81に、融点調整剤83Aと増粘剤83Bとを添加してなる。本実施形態1の潜熱蓄熱材組成物80では、潜熱蓄熱材81は、水和水の数を12とするアンモニウムミョウバン12水和物であり、融点調整剤83Aは、糖アルコール類に属する物質のマンニトール(C
6H
14O
6)であり、増粘剤83Bは、ゲランガム(gellan gum)の一種であるLAゲランガム(Low acyl gellan gum)である。
【0052】
潜熱蓄熱材組成物80全体に占める融点調整剤83A(マンニトール)の配合比率は、1molの潜熱蓄熱材81に対し、1.59〜5.57molの範囲内である。また、この潜熱蓄熱材組成物80全体の重量に占める増粘剤83B(LAゲランガム)の配合比率は、1wt%以下の範囲内である。このような潜熱蓄熱材組成物80では、蓄えることができる潜熱の蓄熱量は、220kJ/kg超である。
【0053】
(実施例)
次に、蓄熱装置10の構成について、説明する。
図3は、実施形態1の実施例に係る蓄熱システムの蓄熱装置の要部を模式的に示す図である。
図1及び
図3に示すように、蓄熱装置10は、内部空間21に潜熱蓄熱材組成物80を収容可能な収容本体部20と、熱源2から供給される熱交換前の熱媒体4a(熱媒体4)を、収容本体部20に流入する入力側流路11と、収容本体部20から流出した熱交換後の熱媒体4b(熱媒体4)を活用先3へ流出させる出力側流路12等を備える。入力側流路11と出力側流路12とは、区画部材として、本実施形態1では、2つのパイプ(1以上のパイプ)を巻回してなる連結管40により、連通されている。
【0054】
連結管40は、例えば、熱伝導性に優れた銅、耐腐食性に優れたステンレス鋼等の金属製である。連結管40は、収容本体部20の内部空間21に包含された態様で配設され、潜熱蓄熱材組成物80は、収容本体部20の内部空間21に空隙部91を設けた状態で、この内部空間21に、連結管40周りと密着した態様で収容されている。すなわち、蓄熱装置10は、潜熱蓄熱材組成物80を収容本体部20に収容した状態で、収容本体部20に熱媒体4を流通させ、連結管40を介して、潜熱蓄熱材組成物80との間で熱交換を行い、熱交換手段5として機能する。
【0055】
出力側流路12の収容本体部20近傍には、熱媒体4の流路を開閉可能な開閉弁71が配管されている。開閉弁71を設ける理由として、収容本体部20では、熱交換前の熱媒体4aにより、潜熱蓄熱材組成物80に貯めた熱(熱エネルギ)は、連結管40内の熱媒体4に伝熱され、この熱媒体4を加温する。一方、連結管40内の熱媒体4では、加温に基づく密度の減少により、浮力が生じて、対流が発生することもある。このような現象が生じると、収容本体部20内の熱エネルギが、当該収容本体部20の外部に散逸してしまい、蓄熱装置10において、熱媒体4と潜熱蓄熱材組成物80との熱交換効率を低下させる一因になる。
【0056】
このような現象の回避策として、開閉弁71が配管されていると、出力側流路12を閉路して、熱交換後の熱媒体4bの流れを遮断することで、収容本体部20において、連結管40内に存在する熱媒体4の流れが規制され、熱媒体4による対流が収容本体部20の内外を跨ぐのを抑制できることから、収容本体部20内の熱エネルギの散逸を抑制することができる。従って、潜熱蓄熱材組成物80は、より長い時間に亘って、熱交換後の熱媒体4bの潜熱に基づく蓄熱を、密度の高い状態で維持できる。なお、入力側流路11の収容本体部20近傍にも、熱媒体4の流路を開閉可能な開閉弁を配管することが、より好ましい。
【0057】
収容本体部20は、例えば、銅、ステンレス鋼等の金属製のほか、耐酸性を有すると共に、樹脂の中でも、熱伝導性が比較的低い性状の樹脂製の容器で、内部空間21とその外部に連通した開口22を、上端側に有している。開口22には、圧力制御弁60が配設されている。
【0058】
図4は、
図3中、A部の拡大図である。
図3及び
図4に示すように、圧力制御弁60は、水等の液体LQが収容本体部20の外部から内部空間21に流入することを遮断すると共に、内部空間21に収容されている潜熱蓄熱材組成物80(その構成成分だけの場合を含む)が内部空間21から外部に流出することを遮断する一方で、気体GSが内部空間21の内外に出入りを許容する弁体部61を有している。
【0059】
具体的には、圧力制御弁60は、本実施形態1では、収容本体部20の開口22を閉塞する弁体部61と、保持した弁体部61を収容本体部20に螺合または融着により固定するキャップ62からなる。弁体部61は、収容本体部20の内部空間21とその外部との間で、融液状態にある潜熱蓄熱材組成物80の流通を阻む防水性と、気体GSとして、空気と水蒸気だけを流通可能とする透湿性と、を兼ねた防水透湿素材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)製の防水透湿膜で形成されている。
【0060】
蓄熱装置10は、収容本体部20の内部空間21とその外部との間で熱を遮断可能な断熱構造で構成された断熱構造部25を有している。断熱構造部25は、本実施形態1では、収容本体部20の周りを本体包囲部28で気密に覆い、収容本体部20と本体包囲部28との間を、真空状態、または真空に近い状態に保持されて構成されている。なお、断熱構造部25は、収容本体部20と本体包囲部28との間で、熱の出入りを遮断可能な発砲材等の断熱材を介在したものであっても良い。
【0061】
連結管40は、2つのパイプ(第1パイプ41、第2パイプ42)を螺旋状に、その径差を有して巻回してなる。すなわち、実施例として、
図8に示すように、外側に巻かれた第1パイプ41と、その内側に巻かれた第2パイプ42とは、並列に配管されており、収容本体部20上方の第1接続部45で連通していると共に、収容本体部20の深さ方向(
図3中、上下方向下側)に対し、第1接続部45より深い位置にある第2接続部46で連通している。入力側流路11から供給された熱媒体4は、第1接続部45より、第1パイプ41と第2パイプ42とに分流して、互いに同方向、または逆方向に流れ、第2接続部46で合流して出力側流路12に流れる。
【0062】
(変形例1)
図8は、実施例の変形例1に係る蓄熱装置で、2つのパイプを並列配管した場合の熱媒体の流路を示す模式図である。変形例1に係る蓄熱装置10Aでは、
図8に示すように、外側に巻かれた第1パイプ41と、その内側に巻かれた第2パイプ42とが、入力側流路11上の第1接続部45で分流すると共に、出力側流路12上の第2接続部46で合流する態様により、並列に配管されている。入力側流路11から供給される熱交換前の熱媒体4a(熱媒体4)が、第1パイプ41と第2パイプ42に流入すると、熱媒体4は、第1パイプ41と第2パイプ42を、互いに逆流する方向に流れ、収容本体部20の底部で折返すと、第1パイプ41と第2パイプ42の双方とも、第2接続部46に向けて同方向に流れる。第2接続部46で合流した熱交換後の熱媒体4bは、活用先3へ流れる。
【0063】
(変形例2)
図9は、実施例の変形例2に係る蓄熱装置で、2つのパイプを直列配管した場合の熱媒体の流路を示す模式図である。変形例2に係る蓄熱装置10Bでは、
図9に示すように、外側に巻かれた第1パイプ41と、その内側に巻かれた第2パイプ42とが、収容本体部20の底部で折返す位置にある第3接続部47で、直列に連結して配管されている。入力側流路11から供給される熱交換前の熱媒体4a(熱媒体4)が、第1パイプ41に流入すると、熱媒体4は、第1パイプ41を通じて第3接続部47に流れる。この熱媒体4は、第3接続部47を経て、第2パイプ42から出力側流路12に向けた一方向の流通で、熱交換後の熱媒体4bとして、出力側流路12を通じて活用先3に流れる。
【0064】
実施形態1の実施例、及び変形例1,2のように、連結管40による管路が2以上で、各管路が、互いに対向する配置関係にある場合や、ねじれの位置の配置関係にある場合に、連結管40では、各管路を流通する熱媒体4の流れは、並行流や対向流のどちらでも良い。
【0065】
特に、螺旋状に形成された連結管40が、外周側管路と、この管路より径小な内周側管路との二重構造である場合、一の管路は、収容本体部の底側から上方へ流通する一方で、他の管路は、収容本体部の上方から底側に流通すると、収容本体部に収容されている潜熱蓄熱材組成物80全体で、熱媒体4との熱交換を効率良く行うことができる。また、このような螺旋状の連結管40で、一の管路と他の管路とも、熱媒体4の流れが、収容本体部の底側から上方への一方向の流通である場合には、収容本体部に収容された融液状態にある潜熱蓄熱材組成物80全体のうち、この収容本体部の底部付近にある一部の潜熱蓄熱材組成物80が、熱媒体4で急冷され易くなる。そのため、収容本体部に収容されている潜熱蓄熱材組成物80全体の中で、当該潜熱蓄熱材組成物80の固相化に必要な種結晶が、より数多く発生し易くなり、この潜熱蓄熱材組成物80の結晶化が、効率良く誘起して促進され易くなるからである。
【0066】
再び蓄熱装置10の説明に戻る。
図5は、
図3中、B−B矢視断面図であり、
図3中、C−C矢視断面図を、
図6に示す。潜熱蓄熱材組成物80を構成する成分の種別にもよるが、潜熱蓄熱材組成物80の水素イオン濃度(pH値)が、一例として、pH3程度、あるいはpH8程度になる場合等もある。そのため、潜熱蓄熱材組成物80と接触する部分として、
図5に示すように、連結管40(第1パイプ41、第2パイプ42)の外周面40aと、
図6に示すように、収容本体部20の内部空間21を形成する内面20aにはそれぞれ、耐腐食部50が形成されている。耐腐食部50は、実施形態1では、潜熱蓄熱材組成物80の接触に伴う腐食を防ぐ耐腐食性を有した樹脂による被膜層であり、例えば、架橋ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)(テフロン(登録商標))等、耐酸性または耐アルカリ性を有した耐薬品性の樹脂を、外周面40aと内面20aにコーティングしたものである。
【0067】
耐腐食部50は、このような耐薬品性の樹脂以外にも、例えば、ガラス製の膜や、セラミック製等による被膜層のほか、TiN化合物等の合金製の被膜層等、無機材料被膜であり、蓄熱装置10は、耐腐食部50の腐食防止効果により、耐久性の向上を図った装置となり得る。また、この耐腐食部50は、その表面に撥水性を有するものであっても良い。万が一、潜熱蓄熱材組成物80に含有する水分が、潜熱蓄熱材組成物80の加熱により、揮発して収容本体部20の耐腐食部50の内壁面側に付着しても、この耐腐食部50の撥水効果により、内壁面に伝って流下し、この収容本体部20内の潜熱蓄熱材組成物80に再び接触し、混合することができ、潜熱蓄熱材組成物80の組成変化を防止することができるからである。
【0068】
なお、収容本体部20を構成する容器自体や、連結管40に用いるパイプ材自体が、耐酸性または耐アルカリ性を有した耐薬品性の材質であれば、耐腐食部50を形成することを省くこともできる。
【0069】
ところで、潜熱蓄熱材組成物80の使用時に、水等、潜熱蓄熱材組成物80の構成成分が、加熱により揮発してしまうことも考えられ、構成成分が揮発してしまうと、潜熱蓄熱材組成物80で、蓄熱とその放熱を行うことができなくなる虞がある。
図7は、
図3中、D部の拡大図である。蓄熱装置10では、このような事態を回避するため、潜熱蓄熱材組成物80と空隙部91との間には、
図7に示すように、潜熱蓄熱材組成物80の構成成分の拡散を防ぐ遮断膜92が形成されている。遮断膜92は、潜熱蓄熱材組成物80自体や、潜熱蓄熱材組成物80を構成する成分に対し、互いに混じり合うことなく、当該遮断膜92に流動性と不揮発性を具備した材料からなる。具体的には、揮発成分が水である場合、遮断膜92は油膜等である。
【0070】
蓄熱システム1では、蓄熱装置10は、車両Sの姿勢や動きに影響を受け、車両Sの姿勢に起因して、蓄熱装置10で、収容本体部20内に収容されている融液状態の潜熱蓄熱材組成物80の液面が斜めに傾く場合がある。また、車両Sの走行時に生じる振動に起因して、融液状態の潜熱蓄熱材組成物80の液面に揺れが伝わる場合もある。遮断膜92に流動性があると、このような場合に、遮断膜92は、潜熱蓄熱材組成物80の液面の変化に追従することができる。そのため、遮断膜92は、車両Sの姿勢や動きに対応して、潜熱蓄熱材組成物80を覆うことができており、遮断膜92により、潜熱蓄熱材組成物80の構成成分が空隙部91に放出するのを抑止できている。
【0071】
次に、本実施形態1の蓄熱システム1の作用・効果について説明する。本実施形態1の蓄熱システム1では、車両Sの熱源で生じた排熱の熱エネルギを、熱媒体4を介して、車両S内の活用先3で使用するにあたり、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材81を、収容本体部20に収容可能な態様で、収容本体部20に熱媒体4を流通させ、熱媒体4と潜熱蓄熱材81との間で熱交換を行う熱交換手段5であり、収容本体部20に熱交換前の熱媒体4a(熱媒体4)を流す入力側流路11と、収容本体部20から流出した熱交換後の熱媒体4b(熱媒体4)を活用先3へ流す出力側流路12と、を有する蓄熱装置10を、車両Sに搭載してなる蓄熱システム1において、潜熱蓄熱材81は、n(2≦n)個の水和水を含有する無機塩水和物を、少なくとも一種含む蓄熱材であり、蓄熱装置10には、潜熱蓄熱材81の物性を調整する添加剤83を配合してなる潜熱蓄熱材組成物80が用いられていること、添加剤83は、第1の添加剤として、潜熱蓄熱材81の融点を調整する融点調整剤83Aであり、潜熱蓄熱材81との溶解で、負の溶解熱を発生する物性を有する物質のうち、少なくとも糖アルコール類に属する物質を含んでおり、潜熱蓄熱材組成物80の融液は、潜熱蓄熱材81に含む水和水と、融点調整剤83Aに含む糖アルコールとの溶解により、潜熱蓄熱材81と融点調整剤83Aとを混合してなること、入力側流路11と出力側流路12とが、区画部材として、1以上のパイプを巻回してなる連結管40により、連通されていること、連結管40は、収容本体部20に包含された態様で配設され、潜熱蓄熱材組成物80は、連結管40周りに密着した状態で、収容本体部20に収容されていること、を特徴とする。
【0072】
この特徴により、蓄熱装置10では、収容本体部20に収容された潜熱蓄熱材組成物80と、連結管40内を流通する熱媒体4とは、伝熱面積をより大きく確保できた状態、かつ熱量損失を抑えた状態となる。他方、アンモニウムミョウバン12水和物(潜熱蓄熱材81)とマンニトール(融点調整剤83A)とゲランガム(増粘剤83B)からなる本実施形態1の潜熱蓄熱材組成物80は、熱交換前の熱媒体4aとの熱交換で、220kJ/kg超の潜熱を効率良く蓄えることができる。また、この潜熱蓄熱材組成物80は、蓄えている220kJ/kg超の潜熱に基づき、連結管40内を流通する熱媒体4と効率良く熱交換を行って放熱し、熱交換後の熱媒体4bとして、この熱媒体4は、出力側流路12を通じて活用先3に供給される。そのため、蓄熱システム1が、車両S内の設置スペースに応じて、蓄熱装置10を小型化して構成されても、活用先3で必要とする熱エネルギは、この蓄熱装置10から十分な状態で供給することができる。
【0073】
また、潜熱蓄熱材組成物80は、隔絶されることなく、収容本体部20の内部空間21に一様に収容されているため、この潜熱蓄熱材組成物80全体のうち、一部で過冷却が解除されていれば、この潜熱蓄熱材組成物80全体に相変化が伝搬されるため、蓄熱システム1では、潜熱蓄熱材組成物80に過冷却現象が生じ難くなっている。
【0074】
また、種類が数多くある潜熱蓄熱材の中でも、潜熱蓄熱材組成物80の蓄熱量は、220kJ/kg超と非常に大きく、活用先3で時間あたりに付与できる熱エネルギも大きいため、車両Sにおいて、エンジンの暖機時間をより短くすることができる。ひいては、車両Sにおいて、エンジンを暖機するにあたり、燃料の消費量を削減して車両Sの省エネルギ化に貢献できるほか、二酸化炭素(CO
2)や窒素酸化物(NOx)等の排気物質の排出量を抑制できる。さらに、冷えた状態のエンジンを作動すると共に、エンジン始動時に空気調和装置で送風を行う場合には、空気調和装置は、適度に温度調整された温風、または冷風を、エンジン始動後より短い時間内で送風することも可能になる。
【0075】
従って、本実施形態1に係る蓄熱システム1によれば、潜熱蓄熱材81を具備した蓄熱装置10を搭載した車両Sでは、蓄熱装置10を小型化しても、十分な熱エネルギをこの車両S内の活用先3に提供することができる、という優れた効果を奏する。
【0076】
また、本実施形態1に係る蓄熱システム1では、添加剤83は、第2の添加剤として、多糖類に属する水溶性の物質で、潜熱蓄熱材組成物に含まれる水とカチオンとの相互作用に基づいて、液相状態にある潜熱蓄熱材組成物の融液の粘度を高める増粘剤83Bであり、増粘剤83Bは、ゲランガム(gellan gum)であること、潜熱蓄熱材組成物80全体の重量に占めるゲランガムの配合比率が、1wt%以下の範囲内であること、を特徴とする。
【0077】
この特徴により、潜熱蓄熱材組成物80が融液の状態にあるとき、潜熱蓄熱材組成物80の粘度が高まって、潜熱蓄熱材81の相分離現象が防止でき、潜熱蓄熱材組成物80の構成成分は均一な状態で分散することができる。また、相分離現象のほか、増粘剤83B以外に、例えば、融点調整剤83Aや、過冷却防止剤等の別の添加剤83が、潜熱蓄熱材組成物に配合されている場合でも、構成成分の密度差に起因した、増粘剤83B等以外の添加剤83と潜熱蓄熱材81との分離が防止でき、潜熱蓄熱材組成物80の構成成分は均一な状態で分散することができる。
【0078】
加えて、増粘剤83BがLAゲランガムであるため、LAゲランガム自体は、蓄熱性能を有さないものの、潜熱蓄熱材81(アンモニウムミョウバン12水和物)に増粘剤83B(LAゲランガム21)を、例えば、僅か1.0wt%以下という少量添加するだけで、LAゲランガム21のゲル化が促進される。そのため、潜熱蓄熱材組成物80の融液を、密度差に起因した構成成分の分離を抑制するのに足りる十分な粘度に増粘することができる。しかも、潜熱蓄熱材組成物80の融液では、構成成分が均一な状態で分散され、かつ潜熱蓄熱材組成物80における構成成分の分離を、より効果的に抑制できているため、潜熱蓄熱材組成物80が、液相と固相との間で、相変化を複数回に亘って繰り返し行っても、構成成分の分布を均一に保つことができている。それ故に、潜熱蓄熱材組成物80の融点・凝固点等の物性が変動するのを抑制することができる。
【0079】
また、本実施形態1に係る蓄熱システム1では、潜熱蓄熱材81の水和水の数は、12以上であり、潜熱蓄熱材組成物80全体に占める糖アルコールに属する物質の配合比率は、1molの潜熱蓄熱材81に対し、1.59〜5.57molの範囲内であること、を特徴とする。
【0080】
この特徴により、潜熱蓄熱材組成物80は、概ね60℃前後〜80℃前後の範囲内を対象とした温度帯域の排熱に基づいて、蓄熱できるようになり、潜熱蓄熱材組成物80の融点も、例えば、アンモニウムミョウバン12水和物単体の融点(93.5℃)より、30℃以上等も低くすることができる。特に、車両Sにおいて、熱源2が、例えば、ラジエータの冷却水(熱媒体)等より出される排熱で、活用先3が、例えば、エンジンの暖機を補助するユニットや、車内の空気調和装置を補助するユニット等である場合、概ね60℃前後〜80℃前後の温度帯域は、このような排熱の熱エネルギを使用する上で、適した温度帯域となる。さらに、使用中に万一、潜熱蓄熱材組成物80に含有する、糖アルコールに属する物質の配合比率に変動が生じても、その配合比率が、潜熱蓄熱材1molあたり、1.59〜5.57molの範囲内であれば、潜熱蓄熱材組成物80の融点を、75℃程度等の温度に保つことができている。また、潜熱蓄熱材81が、例えば、ミョウバン水和物等、水和水を12以上含む無機塩水和物で構成されていると、潜熱蓄熱材81は高い蓄熱量を保持できるため、このような潜熱蓄熱材81を含む潜熱蓄熱材組成物80は、より高い蓄熱量を保持できる物性となる。
【0081】
また、本実施形態1に係る蓄熱システム1では、熱交換手段5では、収容本体部20は、内外で熱を遮断可能な断熱構造で構成された断熱構造部25であること、を特徴とする。
【0082】
この特徴により、潜熱蓄熱材組成物80に蓄えられた熱や、連結管40内を流れる熱媒体4の熱に対し、収容本体部20の内部空間21から外部に放熱される熱のロス分が低減できる。
【0083】
また、本実施形態1に係る蓄熱システム1では、液体LQが収容本体部20の中に流入するのを遮断すると共に、潜熱蓄熱材組成物80の構成成分が収容本体部20の外へ流出するのを遮断する一方で、気体GSが収容本体部20の内部空間21の内外に出入りするのを許容する圧力制御弁60を、備えていること、を特徴とする。
【0084】
この特徴により、潜熱蓄熱材組成物80が、その融点を超える温度で加熱されて融解し、この潜熱蓄熱材組成物80の体積増加により、収容本体部20の内部空間21の圧力が上昇しても、
図4に示すように、内部空間21に内在する空気や水蒸気等の気体GSが、圧力制御弁60の弁体部61を通じて、蓄熱装置10外に放出される。そのため、収容本体部20は、内圧をほぼ一定の状態に維持することができており、収容本体部20や連結管40の破損に至る圧力上昇は抑止できる。また、潜熱蓄熱材組成物80が、その凝固点を超える温度で冷却されて凝固し、この潜熱蓄熱材組成物80の体積減少により、収容本体部20の内部空間21の圧力が減少しても、
図4に示すように、蓄熱システム1の外部に存在する空気や水蒸気等の気体GSが、圧力制御弁60の弁体部61を通じて、蓄熱装置10内に流入する。そのため、収容本体部20は、内圧をほぼ一定の状態に維持することができており、収容本体部20や連結管40の破損に至る圧力低下は抑止できる。
【0085】
また、万が一、融液状態にある潜熱蓄熱材組成物80や、その構成成分が、何らかの理由で、圧力制御弁60付近まで飛散した場合でも、潜熱蓄熱材組成物80や、その構成成分は、弁体部61を通じて蓄熱装置10外に流出することもない。
【0086】
また、本実施形態1に係る蓄熱システムでは、潜熱蓄熱材組成物80は、収容本体部20の内部空間21に空隙部91を設けた状態で、収容されていること、を特徴とする。この特徴により、例えば、空隙部91の圧力が予め適切に調整されている下で、潜熱蓄熱材組成物80の体積が、液相と固相との相変化に伴って大きく変化したときに、収容本体部20の内部空間21における圧力変動が、空隙部91で相殺できるため、収容本体部20や連結管40等へのダメージが抑制できる。特に、空隙部91と隣接する位置に圧力制御弁60が設けられていると、気体GSが、圧力制御弁60の弁体部61を介して、空隙部91と蓄熱システム1の外部との間を自由に行き来することができ、空隙部91の圧力を、予め正圧または負圧に調整することなく、潜熱蓄熱材組成物80の体積変動に対し、内部空間21の圧力を一定に保つことができている。
【0087】
また、本実施形態1に係る蓄熱システム1では、少なくとも収容本体部20の内面20aと連結管40の外周面40aは、潜熱蓄熱材組成物80の接触に伴う腐食を防ぐ耐腐食部50からなること、を特徴とする。この特徴により、蓄熱装置10は、耐久性の高い装置になる。
【0088】
また、本実施形態1に係る蓄熱システム1では、耐腐食部50は、樹脂製の被膜であること、を特徴とする。この特徴により、蓄熱装置10での耐腐食対策に関する製造工程が簡単になり、蓄熱装置10のコストはより安価になる。
【0089】
また、本実施形態1に係る蓄熱システム1では、潜熱蓄熱材組成物80は、収容本体部20の内部空間21に空隙部91を設けた状態で、収容されており、潜熱蓄熱材組成物80と空隙部91との間には、潜熱蓄熱材組成物80の構成成分の拡散を防ぐ遮断膜92が、形成されていること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物80の構成成分の拡散、特に水分の蒸発に起因して、潜熱蓄熱材組成物80自体の蓄熱性能が劣化してしまうことや、潜熱蓄熱材組成物80が、経時的に変性、変質してしまうこともない。
【0090】
(実施形態2)
次に、実施形態2に係る蓄熱システム101について、説明する。
図10は、実施形態2の実施例に係る蓄熱システムの蓄熱装置の要部を模式的に示す図である。
【0091】
実施形態1の蓄熱装置10では、区画部材が、熱媒体4を流通させる連結管40であり、潜熱蓄熱材組成物80が、収容本体部20の内部空間21に配設した連結管40の周りに、収容されている。これに対し、本実施形態2の蓄熱装置110では、区画部材が、潜熱蓄熱材組成物80を収容する蓄熱材収容具140であり、内部空間21に貯めた熱媒体4に浸漬されている。この点で、蓄熱装置110は、実施形態1の蓄熱装置10と異なる。それ以外の部分は、実施形態1と同様である。従って、実施形態1と同じ部分は同じ符号を用いて、実施形態1と異なる部分を中心に説明し、その他については説明を簡略または省略する。
【0092】
(実施例)
蓄熱装置110の構成について、説明する。
図1及び
図10に示すように、蓄熱装置110(熱交換手段105)は、内部空間121を有する収容本体部120と、熱源2から供給される熱交換前の熱媒体4a(熱媒体4)を、収容本体部120に流入する入力側流路11と、収容本体部120から流出した熱交換後の熱媒体4b(熱媒体4)を活用先3へ流出させる出力側流路12等を備える。入力側流路11と出力側流路12とは、収容本体部120を介して、連通している。入力側流路11と出力側流路12には、熱媒体4の流路を開閉可能な開閉弁171,172が、配管されている。また、圧力制御弁160が、内部空間121とその外部に連通した収容本体部120の開口122に配設されている。圧力制御弁160は、収容本体部120の開口122を閉塞する弁体部161と、保持した弁体部161を収容本体部120に固定するキャップ162からなる。
【0093】
蓄熱装置110は、収容本体部120の内部空間121とその外部との間で熱を遮断可能な断熱構造で構成された断熱構造部125を有している。断熱構造部125は、収容本体部120の周りを本体包囲部128で気密に覆い、収容本体部120と本体包囲部128との間を、真空状態、または真空に近い状態に保持されて構成されている。
【0094】
熱媒体4は、入力側流路11から収容本体部120の内部空間121に流入し、この内部空間121に空隙部191を設けた状態で、貯められている。潜熱蓄熱材組成物80は、区画部材として、本実施形態2では、密閉可能な蓄熱材収容具140に充填されている。蓄熱材収容具140は、例えば、袋状やカプセル状のほか、円筒状、球形状等に形成されている。潜熱蓄熱材組成物80を充填した蓄熱材収容具140は、この熱媒体4に浸漬した状態で配設されている。
【0095】
(変形例)
図11は、実施形態2の変形例に係る蓄熱システムの蓄熱装置の要部を模式的に示す図である。蓄熱装置210(熱交換手段205)は、収容本体部120の内部空間121とその外部との間で熱を遮断可能な断熱構造で構成された断熱構造部125を有している。潜熱蓄熱材組成物80は、区画部材として、密閉状態で収容可能な蓄熱材収容具240に充填されている。この蓄熱材収容具240は、本変形例では、潜熱蓄熱材組成物80を収容する本体部の外形を、例えば、
図11に示すように、潜熱蓄熱材組成物80の充填率をより大きくできる細長の円筒形状や、略直方体形状等、熱媒体4との接触面積をより大きく取ることができる形状に形成されている。この本体部の上部に取り付けられたキャップは、本実施形態1で説明した圧力制御弁60と同じ構造の圧力制御弁260を備えている。
【0096】
熱媒体4は、入力側流路11から収容本体部120の内部空間121に流入し、この内部空間121に空隙部191を設けた状態で、貯められている。潜熱蓄熱材組成物80を充填した蓄熱材収容具240は、圧力制御弁260を空隙部191に直に晒した状態で、圧力制御弁260より下方の本体部だけを熱媒体4に浸漬した状態で収容されている。このように、蓄熱材収容具240のキャップに圧力制御弁260が装着されていると、潜熱蓄熱材組成物80の体積変動に対応して、蓄熱材収容具240内の圧力を一定に保つことができるため、蓄熱材収容具240の破損を抑制することができる。さらに、圧力制御弁160が収容本体部120に設けられていると、蓄熱材収容具240内での潜熱蓄熱材組成物80の体積変動に影響して、この収容本体部120に及ぼすダメージは、より確実に抑止できる。
【0097】
本実施形態1で説明した遮断膜92と同様、潜熱蓄熱材組成物80の構成成分の拡散を防ぐ遮断膜292が、蓄熱材収容具240の内部において、圧力制御弁260を挟み、潜熱蓄熱材組成物80と空隙部191との間に張設されていても良い。遮断膜292により、潜熱蓄熱材組成物80の構成成分の拡散や、水分の蒸発、特に本来不要な空気や水蒸気等による気体との接触に起因して、潜熱蓄熱材組成物80自体の蓄熱性能が劣化してしまうことや、潜熱蓄熱材組成物80が、経時的に変性、変質してしまうことも抑制できるからである。
【0098】
次に、本実施形態2の蓄熱システム101,201の作用・効果について説明する。本実施形態2の蓄熱システム101,201では、車両Sの熱源で生じた排熱の熱エネルギを、熱媒体4を介して、車両S内の活用先3で使用するにあたり、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材81を、収容本体部120に収容可能な態様で、収容本体部120に熱媒体4を流通させ、熱媒体4と潜熱蓄熱材81との間で熱交換を行う熱交換手段105,205であり、収容本体部120に熱交換前の熱媒体4a(熱媒体4)を流す入力側流路11と、収容本体部20から流出した熱交換後の熱媒体4b(熱媒体4)を活用先へ流す出力側流路12と、を有する蓄熱装置110,210を、車両Sに搭載してなる蓄熱システム101,201において、潜熱蓄熱材81は、n(2≦n)個の水和水を含有する無機塩水和物を、少なくとも一種含む蓄熱材であり、蓄熱装置110には、潜熱蓄熱材81の物性を調整する添加剤83を配合してなる潜熱蓄熱材組成物80が用いられていること、添加剤83は、第1の添加剤として、潜熱蓄熱材81の融点を調整する融点調整剤83Aであり、潜熱蓄熱材81との溶解で、負の溶解熱を発生する物性を有する物質のうち、少なくとも糖アルコール類に属する物質を含んでおり、潜熱蓄熱材組成物80の融液は、潜熱蓄熱材81に含む水和水と、融点調整剤83Aに含む糖アルコールとの溶解により、潜熱蓄熱材81と融点調整剤83Aとを混合してなること、入力側流路11と出力側流路12とが、収容本体部120を介して、連通していること、潜熱蓄熱材組成物80は、区画部材として、密閉可能な蓄熱材収容具140,240に充填されており、収容本体部120には、熱媒体4が貯められ、潜熱蓄熱材組成物80を充填した蓄熱材収容具140,240が、熱媒体4に浸漬した状態で配設されていること、を特徴とする。
【0099】
この特徴により、蓄熱装置110,210では、蓄熱材収容具140,240を介した潜熱蓄熱材組成物80と熱媒体4との伝熱面積が、より大きく確保できた状態となる。他方、アンモニウムミョウバン12水和物(潜熱蓄熱材81)とマンニトール(融点調整剤83A)とゲランガム(増粘剤83B)からなる本実施形態2の潜熱蓄熱材組成物80は、熱交換前の熱媒体4aとの熱交換で、220kJ/kg超の潜熱を蓄えることができる。また、この潜熱蓄熱材組成物80は、蓄熱材収容具140,240を介して、蓄えている220kJ/kg超の潜熱に基づき、収容本体部120を流通する熱媒体4と効率良く熱交換を行って放熱し、熱交換後の熱媒体4bとして、この熱媒体4は、出力側流路12を通じて活用先3に供給される。そのため、蓄熱システム101,201が、車両S内の設置スペースに応じて、蓄熱装置110,210を小型化して構成されても、活用先3で必要とする熱エネルギは、この蓄熱装置110,210から十分な状態で供給することができる。
【0100】
本実施形態2の蓄熱システム101,201の効果は、本実施形態1の蓄熱システム1と同じであるため、その記載を割愛する。また、本実施形態2の蓄熱システム101,201の作用についても、本実施形態1の蓄熱システム1の作用と重複する部分もあるため、区画部材の点で、連結管40と蓄熱材収容具140,240との違い、収容本体部に貯める対象の点で、熱媒体4と潜熱蓄熱材組成物80との違いを考慮した上で、蓄熱システム1の作用の記載を参照することとして、ここでの記載は割愛する。
【0101】
以上において、本発明を実施形態1,2に即して説明したが、本発明は上記実施形態1,2に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
【0102】
(1)例えば、実施形態1,2では、蓄熱材として、相変化に伴う潜熱の移動により蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材を挙げた。しかしながら、本発明に係る蓄熱システムに用いる潜熱蓄熱材組成物の対象ではないが、蓄熱システムに用いる蓄熱材は、水との化学反応に伴う反応熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う化学蓄熱材のほか、顕熱蓄熱材、吸着蓄熱材、収着蓄熱材等にも適用できる場合があるものと考えられる。
【0103】
(2)また、実施形態1では、連結管40において、第1パイプ41と第2パイプ42を、螺旋状に形成したパイプとしたが、区画部材として、連結管に用いるパイプの形状は、螺旋状に限らず、例えば、巻回により生じるリード方向の断面視で、四角枠形状等、収容される収容本体部の内部空間の形状に対応して収容可能となっていれば、種々変更可能である。また、パイプは、断面を円筒形状とする管以外にも、例えば、波形のスパイラル状形状とする管等であっても良い。
【0104】
(3)また、実施形態1では、連結管40において、第1パイプ41と第2パイプ42の形状を螺旋状としたが、区画部材として、連結管に用いるパイプの外周りに、凹凸形状等のフィンが設けられていても良い。熱媒体との接触面積がより増えて、熱媒体との熱交換の効率が向上するからである。
【0105】
(4)また、実施形態1,2で、潜熱蓄熱材組成物80を利用した蓄熱装置10,110,210の模式図を、
図1、
図10、及び
図11に例示したが、本発明の蓄熱システムに具備する蓄熱装置について、収容本体部内で潜熱蓄熱材組成物と熱媒体とを区画し、潜熱蓄熱材組成物と熱媒体との間で、熱交換を行うことができる構造であれば、蓄熱装置の構成・形状・仕様は、何でも良い。
(5)本発明の蓄熱システムに太陽熱集熱器を設け、入力側流路の管、出力側流路の管、連結管等、熱媒体を流通させる管路に、太陽熱集熱器が接続されていても良い。