(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の詳細な説明に先だって、本発明における定義について説明する。
【0009】
<定義>
用語「食品」または「食料品」は、当業者にとって明らかな、本発明にかかる全ての物質および製品を意味する。したがって、「食品」は、人間または動物による消費に適し、好ましくは栄養的な効果を呈する全ての物質および製品を含んでいてもよい。特に、用語「食品」には、本発明の範囲内における、穀物含有食品、穀物含有バー、モルトエキス製品、朝食用シリアル、ペストリー、乳製品、ヨーグルト、飲料、ノンアルコール飲料、ビール、ノンアルコールビール、小麦ビール、ノンアルコール小麦ビール、ビール混合飲料、酵母発酵飲料、非酵母発酵飲料、および上記の食品の濃縮物からなる群から得られる少なくとも一つが含まれる。本発明にかかる「食品の前駆体」は本来食品に含まれるものであるが、特に「飲料の前駆体」は、サウエルグット(Sauergut、酸味物質)、マイシェ(mash)または麦汁であってもよい。この出願の範囲内において、食品の文脈における用語「非流動性」は、固体状、糊状、ペースト状、ゼリー状など、同様の食品の稠度または質感を含む。
【0010】
ビタミンB
12は、生物学的な効果を有する一連の水溶性の類似構造の化合物の総称であり、いわゆるコリノイドである。キレート化コバルト原子に基づき、これらの化合物は、コバラミンと呼ばれている。当業者は、生物学的活性型のビタミンB
12としてメチルコバラミン、デソキシアデノシルコバラミン、ヒドロキシコバラミンおよびスルフィトコバラミンを含めている。これらのうち、メチルコバラミンおよびデソキシアデノシルコバラミンは、生物学的に最も有効または最も高活性であると考えられている。このグループのうち、シアノコバラミンのみ人工的な方法、すなわち合成法により利用可能である。
【0011】
これらの活性型ビタミンB
12以外にも、いわゆる不活性型の類似体もある。これらは、真のビタミンB
12と同様の化学構造を呈するので、擬似ビタミンB
12とも呼ばれているが、ある状況において人間または動物の体に対してビタミン効果を発現しない。これらは、生体内においてビタミンB
12の生理的機能を果たすには不適切である。さらに、これらは、生物学的活性型ビタミンB
12の取込や代謝を妨害する可能性がある。
【0012】
本願の範囲内において、擬似ビタミンB
12とは、特に7−アデニニル−シアノコバミドを意味する。
本願の範囲内において、用語「ビタミンB
12」の定義は、人間または動物の生体内で活性のある活性型ビタミンB
12またはその前駆体に限定される。さらに、本願の範囲内における用語「ビタミンB
12」は、微生物学的に製造可能な型のビタミンB
12に限定される。上記のシアノコバラミンは、合成法によってのみ製造可能であるので「天然」ビタミンB
12を表すものではなく、この型のビタミンB
12は、本願の範囲内における用語「ビタミンB
12」には含まれない。
【0013】
したがって、本願の範囲内における用語「ビタミンB
12」の定義は、以下のビタミンB
12の種類、すなわちメチルコバラミン、デソキシアデノシルコバラミン、ヒドロキシコバラミンおよびスルフィトコバラミンに限定される。
上記のグループの代表的なものは、一般的に、高生体利用可能性を特徴とし、人間または動物の体へのビタミンB
12の供給を改善するのに適切である。
【0014】
本願の範囲内において、用語「生体利用可能性」は、消化管の栄養分(ビタミンB
12)が血液に吸収され、それにより栄養分が体循環に入り、細胞/器官に利用可能となることを意味する。さらに、国際公開第2012/109324号の明細書の段落[0013]の用語「生体利用可能」または「生体利用可能性」の定義を参照する。後者の文書は、参照によりここに組み込まれている。
【0015】
生体利用可能なビタミンB
12を測定するために、いわゆるADVIAシステムに基づく検出解析法を使用した。この生体利用可能性の証明は、いわゆる内部因子(IF)に基づいており、例えば、血中の生体利用可能ビタミンB
12を検出するために使用される。ビタミンB
12は、小腸の最後の部分(回腸)において内部因子(IF:胃腸内層の壁細胞で分泌される蛋白質)を介して吸着される。このテストの範囲内において、IFに吸着されないビタミンB
12は、血液循環に入らず、結果的に対応する組織に到達しないので、生体利用不可能であると定義される。
【0016】
本願において、生体利用可能ビタミンB
12を検出するために、ADVIA Centaur VB12テスト(111659 Rev.N,2008−09;VB12 2/12)を使用した。これは、ダイレクトケミルミネセンス技術の使用による競合イムノアッセイである。これにより、アッセイ中のビタミンB
12は、固相の常磁性粒子に共有結合した限定量の清浄IFに対して、Lite試薬中のアクリジニウムエステル標識ビタミンB
12と競合する。このテストにおいて、アッセイ中に内在性複合蛋白質からビタミンB
12を放出にするために、放出剤(水酸化ナトリウム)およびDTT(ジチオトレイトール)を使用する。コビンアミドの添加により、固相をアッセイに添加した後の再結合を防止する。
【0017】
全ての型のビタミンB
12、すなわち、生体利用可能型および生体利用不可能型のビタミンB
12を含むビタミンB
12の(総)濃度を決定するために、本願の範囲内で測定法r−Biopharm AOAC法No.101002を使用する。あるいは、総濃度を決定するために、方法「Fresenius AOAC法No.952.20」を使用することができる。
【0018】
酵母製品の文脈において、本発明にかかる用語「自己溶解物」は、栄養基質を意味し、ほとんどの場合、流動性であり、酵母、特に飼料酵母(蛋白質酵母)および特にビール酵母の少なくとも一方の細胞を細胞内酵素によって溶解することによって得られる。
【0019】
酵母製品の文脈において、本発明にかかる用語「エキス」は、(内部の酵母酵素により生成された)酵母自己溶解物または(外部の酵素により生成された)酵母加水分解物の製品を意味し、ほとんどの場合、粉状、ゼリー状またはペースト状であり、アミノ酸(例えば30〜50質量%)、炭水化物(例えば20〜30質量%)およびビタミン(特に、Bグループ:チアミン、リボフラビン、ニコチン酸)の乾燥質量当たりの含有量が高い。一般的に、酵母エキスは、不溶性細胞成分から酵母自己溶解物および酵母加水分解物の少なくとも一方を少なくとも部分的に取り除き、濃縮し、必要であれば噴霧乾燥することによって製造される。通常、酵母エキスの乾燥質量含有量は、ペースト状稠度の場合、70〜80質量%であり、粉状稠度の場合、95〜97質量%である。
【0020】
酵母製品の文脈において本発明にかかる用語「乾燥型」は、含水量が5質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下の任意の型の酵母を意味する。特に、フレーク状または粉状の乾燥酵母、または、凍結乾燥酵母を意味する。
【0021】
本発明の範囲内における用語「サウエルグット」は、醸造技術の分野における一般的な定義を意味する。特に、微生物、好ましくは乳酸菌により処理されたpH低減のための栄養培地、特に、マイシェおよび麦汁の少なくとも一方を意味する。
【0022】
本願の範囲内において、用語「マイシェ」「麦汁」および「最終流出物(last runnings)」は、特に、ビール製造プロセス由来の同様の表現により当業者にとって公知である基質を意味する。本発明にかかるこれらの用語は、必ずしもこれらに限定されるわけではなく、同様の基質を指していてもよく、例えば、ウィスキーマイシェなど、任意の飲料または任意の食品に関わる前駆体を意味する。特に、ここで定義されているように、本発明にかかる麦汁を、本発明にかかるマイシェによって生成してもよい。
【0023】
好ましくは、本発明にかかる用語「マイシェ」は、炭水化物含有基質または複数の炭水化物含有基質の混合物を使用して生成されるマイシェに限定してもよい。これにより、炭水化物含有基質または複数の炭水化物含有基質の混合物は、醸造元モルトの割合が、80質量%以上、好ましくは90質量%以上、好ましくは95質量%以上、好ましくは98質量%以上、好ましくは99質量%以上、より好ましくは約100質量%である。
【0024】
特に、本発明にかかる用語「マイシェ」は、醸造元モルトを使用して生成されたマイシェに限定してもよく、醸造元モルトは、小麦モルトの割合が、50質量%以上、好ましくは52質量%以上、より好ましくは55質量%以上である。本発明によれば、用語「醸造元モルト」は、単一のモルトおよび様々なモルトの混合物を含む。
【0025】
さらに、本発明にかかる用語「麦汁」は、小麦モルトの割合が50質量%以上、好ましくは52質量%以上、より好ましくは55質量%以上の醸造元モルトを使用して生成されたマイシェにより得られた麦汁に限定してもよい。本発明によると、麦汁は、上記のようにマイシェで生成された麦汁とすることができる。
【0026】
本願の範囲内における用語「ホップ苦味物質」は、当業者に公知の全てのホップ苦味物質およびホップ樹脂を意味する。これらには、軟質樹脂および硬質樹脂の両方が含まれ、苦味酸、特にアルファ酸、ベータ酸、これらの樹脂や酸の公知の誘導体、特にこれらの酸化物が含まれる。
【0027】
本発明の範囲内において、培地(例えば、栄養培地または酵母製品)に関する用語「ホップ苦味物質を含有しない」は、この培地にホップ苦味物質が全く存在しないことを意味する。
【0028】
本願の範囲内における第1の栄養培地に関する用語「ホップ苦味物質を実質的に含有しない」は、ホップ苦味物質含有量が、15質量%以下、好ましくは10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下であることを意味し、下面発酵または上面発酵酵母による発酵のためのピッチングにおける従来の醸造元麦汁が、苦み単位(EBC法)で15〜38、好ましくは20〜35の範囲のホップ苦味物質含有量を有することを指す。本発明によると、ホップ苦味物質(例えば、フムロンまたはルプロン)のグループのうちの任意の単一の物質に上記のパーセントを適用してもよい。
【0029】
本願の範囲内における酵母製品に関する用語「ホップ苦味物質を実質的に含有しない」は、ホップ苦味物質含有量が、20質量%以下、好ましくは15質量%以下、好ましくは10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下であることを意味し、醸造元の下面発酵または上面発酵プロセス酵母、特に、従来の醸造元麦汁の発酵中に収穫された第1、第2または第3世代の新鮮な収穫酵母が、苦み単位(EBC法)で15〜38、好ましくは20〜35の範囲のホップ苦味物質含有量を有することを指す。本発明によると、ホップ苦味物質(例えば、フムロン、ルプロン)のグループのうちの任意の単一の物質に上記のパーセントを適用してもよい。
【0030】
本願の範囲内において、酵母または酵母製品に関する用語「…ホップ苦味物質が完全または実質的に完全に除去され…」は、上記の定義と同様に解釈してもよい。
【0031】
本願の範囲内において、用語「ビール」は、部分発酵または完全発酵ビール、瓶詰め用ビール、フィルタ処理ビール、非フィルタ処理ビール、ライトビール、レギュラービール、ノンアルコールビールまたは部分的アルコール除去ビール、麦汁ベースの飲料またはビール混合飲料、その前駆体を含む。特に、用語「ビール」は、小麦ビール、部分的または完全アルコール除去小麦ビール、ノンアルコール小麦ビール、またはこれらを用いて生成された混合飲料を含む。
【0032】
本発明の主題は、醸造所におけるアルコール飲料およびノンアルコール飲料の製造、特に、ビールおよび対応する製品の製造に関する。本願の範囲内において、「第1麦汁」「煮沸」「高温保持」「トゥループ(trub)」「ピッチング温度」「純粋培養酵母」「収穫酵母」「酵母洗浄」「飲料への処理」「麦汁酸性化」「マイシェ酸性化」などの用語は、飲料製造分野、特にビール製造分野の当業者が、通常、各用語または各動作に適用する意味を指す。本願において、固体、ペースト状、ゼリー状の食品および対応する製品の、製造および処理に関する主題や動作に対して用語を使用する場合、この定義を同様に適用する。
【0033】
本願の範囲内において、乳酸菌または酵母による「処理」または「処理する」という用語は、任意の種類の、栄養培地由来の栄養の部分的または完全な代謝、特に乳酸菌による部分的または完全な発酵を意味する。さらに、「処理する」は、微生物、好ましくは乳酸菌または酵母、特に本願にかかる乳酸菌およびビール酵母を栄養培地に任意に接触させること、または任意に接触状態にすることであってもよい。
【0034】
本願にかかる用語「乳酸菌」は、任意の種類、任意の状態の乳酸菌を含み、任意の種、任意の亜種または任意の系統を意味し、本願において更なる限定はない。さらに、この用語には、死菌細胞および生菌細胞の少なくとも一方、特に生菌細胞が含まれる。本願において使用されるDSMZ(ドイツ細胞バンク)番号は、単に、本発明において使用された菌の種または菌の亜種の明確な識別のためである。しかし、本発明は、本発明により使用される菌の種または菌の亜種のための専用の典拠としてのDSMZに限定しない。
【0035】
本発明によると、「小麦ビール」は、モルトグリストまたは炭水化物含有基質における小麦モルトの割合が50質量%以上、好ましくは52質量%以上、より好ましくは55質量%以上の上面発酵ビールを意味する。
【0036】
本発明にかかる本願において名前を挙げた食品、飲料またはビールなどの製品に関する用語「ノンアルコール」は、製品のエタノール含有量が、0〜1.2体積%未満、好ましくは0〜1.0体積%未満、好ましくは0〜0.5体積%未満、好ましくは0〜0.3体積%未満、好ましくは0〜0.1体積%未満、より好ましくは約0体積%または正確に0体積%であることを意味する。
【0037】
本願の範囲内において、「約」「およそ」などの規定は、対応する基準値の相対偏差が、10%以下、好ましくは5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下であることを意味する。
本願において使用されている体積または体積分率に関する規定は、常に、温度について明確に言及されていない限り、当業者が、対応する目的および対応するプロセス工程に関連して流体や混合物に通常適用する温度または複数の温度を参照するものとする。
【0038】
本願において言及されている全ての質量および質量濃度は、対応する物質の対応する乾燥質量を指す。
【0039】
<本発明の詳細な説明>
本発明によると、第1の栄養培地は、マイシェまたは麦汁、好ましくは第1麦汁または最終流出物である。好ましくは、第1の栄養培地は、エキス含有量が、4〜24°P、好ましくは5〜20°P、好ましくは10〜18°P、好ましくは12〜17°P、より好ましくは13〜15°Pの範囲である。
【0040】
特に、第1の栄養培地としてマイシェまたは麦汁を使用する場合、出願人は、驚くべきことに、本発明により使用される乳酸菌がこの様な培地中において大量にビタミンB
12を生成し、したがって、ビタミンB
12の製造に適していることを見出した。さらに、本発明にかかる乳酸菌を使用することによって製造されるビタミンB
12も、本願の意味において生体利用可能性があることを見出した。特に、本発明により処理された第1の培地において、生体利用可能なビタミンB
12は、5〜15μg/100mL、好ましくは6〜12μg/100mL(ADVIA Centaur VB12テストで測定)の範囲の含有量で得られる。
【0041】
本発明にかかる方法を使用することによって、明らかに、本発明にかかる乳酸菌の代謝の「スイッチ」を不所望な物質の生成へと切り換えることなく、さらに大量のビタミンB
12、特に生体利用可能なビタミンB
12の製造が可能となる。この様なスイッチは、例えばLactobacillus reuteriiなどの他の種の乳酸菌で知られている。
【0042】
本発明にかかる方法の好ましい実施形態は、従属クレームの主題である。
したがって、本発明にかかる方法は、工程(b)として、以下の工程を含んでいてもよい。
(b) Lactobacillus rossiae種(DSM15814
T)およびLactobacillus coryniformis種、特にLactobacillus coryniformis subsp.coryniformis亜種(DSMZ No.20007)の乳酸菌によって、好ましくはLactobacillus rossiae種(DSM15814
T)およびLactobacillus coryniformis種、特にLactobacillus coryniformis subsp.coryniformis亜種(DSMZ No.20007)の乳酸菌を含む混合物によって、第1の栄養培地を処理する工程。
【0043】
驚くべきことに、Lactobacillus rossiaeおよびLactobacillus coryniformisの組合せにより第1の栄養培地を処理することによって、処理された培地内においてさらに高濃度の生体利用可能なビタミンB
12を得ることができる。
【0044】
発明者らは、これに対する実用的な仮説を設定して、ビタミンB
12の高収率が、Lactobacillus rossiaeおよびLactobacillus coryniformisの協働によって生じる相乗効果に基づくものと推察した。したがって、Lactobacillus rossiae種が、リボフラビンを生成し、このリボフラビンが、ビタミンB
12の合成のためにLactobacillus coryniformis種によって好適に利用されるものと推察される。
【0045】
ここで、工程(b)において使用される乳酸菌懸濁液の体積比(Lactobacillus rossiae:Lactobacillus coryniformis)は、同数の細胞に基づき正規化した値が、10:90〜85:15、好ましくは15:85〜50:50、好ましくは15:85〜35:65、より好ましくは20:80〜30:70である。上記の体積比を使用することによって、発明者らの知見に従い、処理培地中において高濃度のビタミンB
12が得られる。
【0046】
さらに好ましい実施形態において、工程(b)にかかる処理は、酵母製品の存在下で実行してもよく、酵母製品は、エキスおよび自己溶解物の少なくとも一方であり、そして/または、酵母を生酵母および乾燥酵母の少なくとも一方の形態で含んでいる。あるいは、酵母製品は、エキス、自己溶解物、生酵母、および乾燥酵母からなる群から選ばれる少なくとも一つの形態の酵母からなる。本発明によると、酵母製品は、エキス、自己溶解物、生酵母、および乾燥酵母からなる群から選ばれる形態の酵母の任意の混合物であってもよく、あるいは、この様な混合物を含んでいてもよい。工程(b)において、第1の培地に対する酵母製品の質量濃度は、通常0.2g/L以上、好ましくは4g/L以上、より好ましくは8g/L以上、より好ましくは15g/L以上、最も好ましくは18g/L以上であってもよい。さらに、あるいは、工程(b)における第1の栄養培地に対する酵母製品の質量濃度は、70g/L以下、好ましくは50g/L以下、より好ましくは40g/L以下、より好ましくは30g/L以下、最も好ましくは25g/L以下であってもよい。特に、工程(b)における第1の栄養培地に対する酵母製品の質量濃度は、0.2〜70g/L、好ましくは8〜50g/L、より好ましくは12〜40g/L、最も好ましくは18〜35g/Lの範囲であってもよい。
【0047】
驚くべきことに、Lactobacillus rossiae種の乳酸菌、またはこの種を含む乳酸菌の混合物、特にLactobacillus rossiae種(DSM15814
T)およびLactobacillus coryniformis種の乳酸菌の混合物による第1の栄養培地の処理中に、酵母製品または上記の酵母製品の組み合わせが存在することによって、第1の栄養培地において生成されるビタミンB
12の量および質量濃度の少なくとも一方を増加させることができる。
【0048】
酵母製品の添加、または、(第1の栄養培地に基づく)酵母製品の質量濃度約0.2g/L、特に約4g/Lから開始すると、この様に酵母製品がビタミンB
12を含まない場合であっても、ビタミンB
12の生成量および質量濃度の少なくとも一方の増加が観察される。これにより、さらに生成されたビタミンB
12量は、処理中に存在する酵母製品の質量濃度に対して、少なくともある濃度範囲において線形に増加する。
【0049】
しかし、(第1の栄養培地に対する)酵母製品の質量濃度が約70g/L、特に50g/Lを越えると、反応器内において激しく沈殿を生じ、結果的に、製造された食品(またはその前駆体)の臭気や味覚に関わる品質が損なわれる可能性がある。これは、細胞物質およびその代謝産物による過負荷の結果であると推察される。
酵母製品が生酵母または乾燥酵母である場合、高濃度の添加、好ましくは20g/Lを超える添加、特に50g/Lを越える添加は、不快な臭気の発生となる。これは、脂肪酸などの代謝産物の放出が激しくなる結果であると推察される。さらに、酵母製品を大量に使用すると、好ましくは20g/Lを越える質量濃度、特に50g/Lを超える濃度で使用すると、請求項の手順の技術的な実施は、採算が低下する。
【0050】
さらに、工程(b)を酵母製品の存在下で実行する場合、実行前に、酵母製品を例えば80℃以上で10分間以上加熱してもよい。あるいは加熱した。発明者らは、酵母製品を充分に加熱すると、酵母製品の加熱を省略する場合と比較して、本発明にかかる工程(b)による処理の後に、培地中のビタミンB
12が所定濃度で得られることを見出した。熱の影響で酵母細胞の細胞壁が分解され、そして/または、酵母製品内における蛋白質変性が発生し、ビタミンB
12の収率に肯定的な効果があると推察される。上記のように工程(b)の実施の前に、酵母製品を第1の栄養培地とともに、例えば混合物の形態で加熱する場合、特に好ましい。この様にして、単一の工程において、一方で第1の栄養培地の殺菌を達成し、他方で処理後のビタミンB
12濃度の上記の増加効果を達成する。
【0051】
酵母製品の製造が、酵母を40〜80℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃の温度で培養する工程を含む場合、特に好ましい。培養中に、80℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは65℃以上(培養温度による)に、5分間以上、より好ましくは10分間以上酵母を加熱することはやめるべきである。発明者らは、培養中に上記の温度以上に酵母を加熱することをやめると、培養中に上記の温度以上に酵母の加熱を行う場合と比較して、上記の手順にかかる工程(b)による処理の後に培地中のビタミンB
12を高濃度にできることを見出した。限られた熱流(約60℃まで)により、酵母細胞の細胞壁の分解や酵母または酵母製品の蛋白質変性が起こり、ビタミンB
12の収率に肯定的な効果があると推察される。しかし、熱暴露が過度になると、工程(b)による処理後の培地中のビタミンB
12濃度の低下が測定された。さらに、発明者らは、例えばパスツール滅菌の目的で培養終了時またはその後に酵母を加熱することは、ビタミンB
12の収率に関して無害であることを見出した。
【0052】
さらに、第1の栄養培地は、ホップ苦味物質を含有しなくてもよく、または、実質的に含有しなくてもよい。そして/または、酵母製品は、ホップ苦味物質を含有しなくてもよく、または、実質的に含有しなくてもよい。
【0053】
第1の栄養培地および酵母製品の少なくとも一方は、醸造プロセスから取り出してもよい。特に、第1の栄養培地は、煮上がり麦汁(cast wort)またはピッチングにおける麦汁であってもよい。さらに、酵母製品は、例えばホップ添加麦汁上で増殖させた純粋培養酵母、または、例えば第1、第2世代以上の世代からの収穫酵母であってもよい。これらの場合に関して、発明者らは、提案の乳酸菌によるビタミンB
12の生成にとって有害な阻害剤を、第1の栄養培地および酵母製品の少なくとも一方に含有させてもよいことを見出した。おそらく、これらの阻害剤はホップ苦味物質である。
【0054】
発明者らの理解によれば、例えば酵母製品を1回以上水洗する、特に水道水または醸造用水で水洗することによって、酵母製品からホップ苦味物質を完全または実質的に完全に除去してもよい。本発明にかかるプロセスにおいてホップ苦味物質を含有しないこの様な酵母製品の使用は、ビタミンB
12の生成の増加につながる。
同様に、第1の栄養培地がホップ苦味物質を含有しているか、実質的に含有している場合、本発明にかかるプロセスにおけるビタミンB
12生成の少なくとも部分的な阻害を決定付けることになる。この様に、ホップ苦味物質を含有しないマイシェまたはホップ無添加麦汁、例えば第1麦汁、または、ホップ無添加煮上がり麦汁またはピッチングの麦汁を第1の栄養培地として使用することが好ましい。
【0055】
さらに、酵母製品は、Saccharomyces属、特にSaccharomyces cerevisiae種またはSaccharomyces carlsbergensis種の上面発酵または下面発酵酵母から製造してもよい。したがって、酵母は、純粋培養酵母およびビール製造プロセスの収穫酵母の少なくとも一方である。さらに、好ましくは酵母または酵母製品を1回以上水洗する、特に水道水または醸造用水で水洗することによって、酵母または酵母製品のホップ苦味物質を完全または実質的に完全に除去する。
【0056】
醸造所において本発明にかかるプロセスを実行する場合、従来の上面発酵または下面発酵醸造酵母、特に収穫酵母で酵母製品を製造することによって、酵母製品の原料の量に関し、ほぼ無制限に安価な原料が利用可能となる。
【0057】
これ以外にも、上記の酵母を使用して製造された酵母製品は、本発明にかかるプロセスによるビタミンB
12生成に肯定的な効果を有することが、研究により分かった。
【0058】
その上、上記の手順は、以下の工程をさらに含んでいてもよい。
(c) マイシェまたは麦汁を第2の栄養培地として準備する工程、および、
(d) 工程(b)において得られる培地を第2の栄養培地と混合する工程。
【0059】
工程(b)において得られる培地を第2の栄養培地としてのマイシェまたは麦汁と混合することによって、生物学的酸性化マイシェまたは麦汁を更なる単純なプロセス工程により得ることができる。生物学的なマイシェまたは麦汁の酸性化の技術的利点は、当業者に公知である。この従来の利点の他にも、本発明にかかるプロセスは、さらに、生体利用可能なビタミンB
12の含有量が高いマイシェまたは麦汁の製造を可能とする。
【0060】
第2の栄養培地としてマイシェまたは麦汁を使用することによって、生成されたビタミンB
12の量を実質的に維持することや、乳酸菌による再摂取または代謝が無いことが好適に達成される。これ以外にも、ビタミンB
12は、実質的に完全に、または、少なくとも高い割合で、生体利用可能に維持される。したがって、従来のマイシェまたは麦汁と比較して、ビタミンB
12の含有量が非常に高いマイシェまたは麦汁を、過度に酸性化することなく生成することができる。
【0061】
この様に、本発明により製造されるマイシェは、pH値が、4.5〜5.7、好ましくは4.9〜5.3の範囲であってもよい。本発明により製造される麦汁は、pH値が、4.2〜5.7、好ましくは4.6〜5.0の範囲であってもよい。
【0062】
マイシェまたは麦汁のpH値を上記の値に調節することによって、例えば風味安定性および泡沫安定性の向上、ビールの淡色化などの技術的な利点に至る。
【0063】
上記手順は、以下の工程をさらに含んでいてもよい。
(e) 好ましくは、工程(b)または(d)において得られる培地を濾過する(lautering)工程、
(f) 工程(d)または(e)において得られる培地を煮沸し、または、工程(d)または(e)において得られる培地を高温に保持し、そして、好ましくは工程(d)または(e)において得られる培地にホップ添加する工程、
(g) 工程(f)において得られる培地からトゥループを少なくとも部分的に除去する工程、および、
(h) 好ましくは、工程(g)において得られる培地の温度をピッチング温度に設定する工程。
【0064】
工程(e)〜(h)を適用することによって、本発明にかかる生物学的酸性化マイシェまたは麦汁をさらに処理して、発酵可能煮上がり麦汁、および生体利用可能なビタミンB
12の含有量が高いピッチングの麦汁を得てもよい。
【0065】
したがって、上記手順は、以下の工程の少なくとも1工程をさらに含んでいてもよい。
(i) 工程(b)、(d)、(f)、(g)または(h)の1工程において得られる培地を処理して飲料を得る工程、好ましくはSaccharomyces属の酵母、特にSaccharomyces cerevisiae種またはSaccharomyces carlsbergensis種によって処理する工程、および、
(k) 工程(b)、(d)、(f)、(g)または(h)の1工程において得られる培地を飲料、好ましくはビールと混合する工程。
【0066】
本発明にかかる様々なプロセス工程において得られる前駆体を、従来の方法、例えばアルコール発酵およびノンアルコール発酵によってさらに処理し、生体利用可能なビタミンB
12の含有量が高い飲料を得てもよい。この飲料は、特にノンアルコール飲料、ビール、特にノンアルコールビール、小麦ビール、特にノンアルコール小麦ビール、ビール含有飲料、特にビール混合飲料、酵母発酵または非酵母発酵で得た飲料であってもよい。本発明にかかる飲料は、上記様々なプロセス工程において製造される前駆体を飲料、好ましくはビールと混合することによって簡単に得ることができる。本発明にかかる飲料は、生体利用可能なビタミンB
12の含有量が高い。
【0067】
発明者らの理解によれば、本発明にかかる最終的な飲料におけるビタミンB
12の含有量の更なる増加にもかかわらず、最終的な飲料への更なるプロセス工程における生体利用可能性の干渉や消失は起こらない、あるいは、実質的に起こらない。したがって、本発明により処理された第1の栄養培地、特に製造されたサウエルグットの同様の利点は、本発明により製造された飲料、特にビールおよびノンアルコールビールについても同様に当てはまる。
【0068】
上記プロセスは、以下の工程をさらに含んでいてもよい。
(l) 工程(b)、(d)、(f)、(g)または(h)の1工程において得られる培地または工程(i)または(k)において得られる飲料を処理して、非流動性食品を得る工程であって、工程(b)、(d)、(f)、(g)または(h)の1工程において得られる培地または工程(i)または(k)において得られる飲料を非流動性食品の前駆体と混合する工程。
【0069】
本発明にかかる様々なプロセス工程において得られる前駆体(処理培地)または飲料は、従来の方法で、例えば濃縮および他の成分との混合の少なくとも一方を行うことによりさらに処理し、生体利用可能なビタミンB
12の含有量が高い非流動性食品を得てもよい。この食品は、特に穀物含有食品、特に穀物含有バー、朝食用シリアル、モルトエキス製品、ペストリー、乳製品、特にヨーグルトであってもよい。
したがって、本発明により製造された飲料の利点は、本発明による上記の非流動性食品についても同様に当てはまる。
【0070】
工程(b)、(d)、(f)、(g)または(h)の1工程において得られる培地、工程(i)または(k)により得られる飲料、または工程(l)により得られる非流動性食品中の水分の質量分率は、35質量%未満、好ましくは30質量%未満、好ましくは25質量%未満、より好ましくは20質量%未満、特に15質量%未満に調節してもよい。
水分割合が上記よりも高い場合、本発明にかかるプロセスにより製造される食品(またはその前駆体)の微生物学的な安定性を確保することができない傾向がある。含水量を水分除去により調節すれば、体積の減少により、濃縮培地の輸送や貯蔵のための経費が低減される。
【0071】
さらに、濃縮培地は、製造場所にかかわらず何処ででも、元の濃度または所望の濃度に再希釈することによって、カスタム仕様とすることができる。
【0072】
さらに、濃縮培地は、出発原料と比較して高粘度を有しており、食品の製造に濃縮培地を使用することによって有利となる。したがって、濃縮培地は、例えば顆粒状または粉末状食品成分のためのバインダとして使用可能である。
【0073】
さらに、本発明により製造された培地または飲料の水分の質量分率が、0質量%を超える、特に5質量%を超える質量分率に調節されていると、有利である。
定義された残余含水量を調節することによって、食品(またはその前駆体)の製造または取り扱い時の埃の生成が回避される。
【0074】
さらに、本発明にかかる目的は、製品の出願時請求項11の主題により解決される。ここにおいて、出願時請求項1〜10の一項に記載の方法により製造される食品(またはその前駆体)が請求されている。
これにより、本発明にかかる製造方法の説明で言及した利点は、この方法で製造された食品(またはその前駆体)、特にサウエルグット、マイシェ、麦汁、飲料または非流動性食品についても同様に当てはまる。
【0075】
さらに、本発明にかかる目的は、使用の出願時請求項12の主題により解決される。
【0076】
ここにおいて、食品(またはその前駆体)の製造のための、または、食品(またはその前駆体)の製造方法における、特に出願時請求項1〜10の一項に記載の方法における、Lactobacillus rossiae種(DSM15814
T)の乳酸菌、またはLactobacillus rossiae(DSM15814
T)を含む少なくとも2種を含む乳酸菌、好ましくはLactobacillus rossiae種(DSM15814
T)およびLactobacillus coryniformis種、特にLactobacillus coryniformis subsp.coryniformis亜種(DSMZ No.20007)の乳酸菌の混合物の使用が請求されている。ここにおいて、上記方法は、少なくとも以下の工程を含んでいる。
(a) マイシェ、麦汁および最終流出物からなる群から選ばれる少なくとも一つを第1の栄養培地として準備する工程、および
(b) Lactobacillus rossiae種(DSM15814
T)の乳酸菌によって、またはLactobacillus rossiae種(DSM15814
T)を含む少なくとも2種を含む乳酸菌によって、好ましくはLactobacillus rossiae種(DSM15814
T)およびLactobacillus coryniformis種、特にLactobacillus coryniformis subsp.coryniformis亜種(DSMZ No.20007)の乳酸菌を含む混合物によって、第1の栄養培地を処理する工程。
【0077】
ここにおいて、工程(b)の処理は、酵母製品の存在下で行われ、酵母製品は、好ましくはエキス、自己溶解物、生酵母、および乾燥酵母からなる群から選ばれる少なくとも一つの形態の酵母を含有している。さらに、酵母製品は、エキス、自己溶解物、生酵母、および乾燥酵母からなる群から選ばれる少なくとも一つの形態の酵母を含有している。酵母製品は、好ましくはエキス、自己溶解物、生酵母、および乾燥酵母からなる群から選ばれる少なくとも一つの形態の酵母のみからなっていてもよい。
【0078】
本発明にかかる使用の好ましい実施形態は、従属クレームの主題である。本発明にかかる上記の方法の単一または多数の特徴を、本発明にかかる使用と組み合わせることができる。これにより、本発明にかかる方法の対応する特徴の利点が、同様に当てはまる。
【0079】
この様にして、本発明にかかる使用の好ましい実施形態における酵母製品は、第1の栄養培地に対して0.2〜70g/L、好ましくは8〜50g/Lの範囲の質量濃度で存在してもよい。
さらに、第1の栄養培地は、ホップ苦味物質を含有しなくてもよく、または、実質的に含有しなくてもよい。さらに、あるいは、酵母製品は、ホップ苦味物質を含有しなくてもよく、または、実質的に含有しなくてもよい。
【0080】
<本発明の代替および更なる開示>
本発明は、出願時請求項1にかかるLactobacillus rossiae(DSM15814
Tまたは15814)の使用または用途に限定されず、特に出願時請求項2にかかるLactobacillus rossiae(DSM15814
T)とLactobacillus coryniformisとの組み合せに限定されない。あるいは、上記の製造方法、使用および製品を、Lactobacillus rossiae(DSM15814
T)とLactobacillus backii種(DSM18080)、Lactobacillus plantarum種(DSM2648、DSM2601、DSM20174、DSM13273)またはLactobacillus fermentum種(DSM20052)の乳酸菌との組み合わせ、すなわち、Lactobacillus rossiae(DSM15814
T)および上記の他の種または亜種の少なくとも1種の乳酸菌の混合物によって実施または製造してもよい。この様にすることによって、上記の利点、効果および特性が同様に達成される。
【0081】
好ましくは、酵母製品の前駆体、特に上面発酵または下面発酵の純粋培養酵母または醸造元の収穫酵母を、水や任意の適切な物質で1回以上洗浄することも可能である。例えば、酵母細胞を水で懸濁し、遠心分離することによって、これを実行してもよい。上澄み液を捨てた後に、洗浄した酵母全体を水中で再懸濁した後、遠心分離してもよい。再懸濁および遠心分離の工程は、所望の純度を達成するまで、特に酵母がホップ苦味物質を含有しなくなる、または実質的に含有しなくなるまで、多数回繰り返してもよい。
【0082】
好ましくは、醸造元の第1麦汁を第1の栄養培地として選択し、工程(a)における第1麦汁は、エキス含有量が7〜28体積%、好ましくは10〜22体積%、好ましくは12〜19体積%、より好ましくは14〜16体積%の範囲である。
【0083】
第1の栄養培地としての第1麦汁は、本発明にかかる手順において使用する乳酸菌にとって不可欠な栄養素が高含有量であることを特徴とする。さらに、第1麦汁は、従来の醸造元の設備で簡単に利用可能であり、容易に製造される。
その上、第1麦汁のエキス含量を考慮して、幅広い濃度を適用することができ、手順を柔軟に適用することができる。
【0084】
本発明にかかる方法は、例えば高重量醸造手順によって、付随する利益を得て、特に体積および経費を節約することにより得られる高濃縮栄養培地にも適用可能である。
【0085】
好ましい実施形態において、乳酸菌の処理(工程(b))の前に、第1の栄養培地を水、特に醸造用水で希釈し、得られる希釈液のエキス含有量が5〜16体積%、好ましくは10〜15体積%、特に12〜14体積%の範囲となるようにする。
【0086】
第1の栄養培地の希釈によって、本発明にかかる方法で使用する微生物のために、理想的な栄養分濃度を調節することができる。
【0087】
さらに、製造する第1の栄養培地の消費量を低減することができる。
第1の栄養培地は、乳酸菌の接種直後の第1の栄養培地の光学密度(OD)が、約0.1〜1.0OD、好ましくは0.2〜0.8OD、好ましくは0.3〜0.7OD、好ましくは0.4〜0.5ODの範囲、より好ましくは約0.45ODとなるような量で、乳酸菌を接種してもよい。光学密度の測定値は、波長620nmで測定し、第1の栄養培地の影響で補正したものである。
【0088】
処理の初期段階で上記の光学密度(OD)または対応する細胞密度を調節する方法で、本発明により使用される微生物を第1の栄養培地に接種すれば、迅速な転化につながり、処理が有利に短時間で済む。
さらに、理想的な乳酸菌接種濃度とすることにより、異臭濃度を最低限に抑えた理想的な風味プロファイル、または、異臭の全く存在しない状態が得られる。
【0089】
接種直後、必要であれば、均質化直後における第1の栄養培地の光学密度が、0.4未満、好ましくは0.3未満、好ましくは0.2未満、より好ましくは0.1未満であると、所望の高い乳酸菌代謝回転率を達成するまでに、あまりにも長時間を要してしまう。
【0090】
対照的に、接種直後、必要であれば、均質化直後に光学密度を測定した場合、第1の栄養培地の光学密度が、0.5を超える、好ましくは0.7を超える、好ましくは0.8を超える、より好ましくは1.0を超える光学密度であると、例えばフィードバック阻害により乳酸菌にとって非理想的な増殖条件となる。
【0091】
乳酸菌は、第1の栄養培地の処理の初期段階において、特に工程(b)により第1の栄養培地に乳酸菌を添加するときに、対数期(ロガリズム期)または増殖期であってもよい。
対数期または増殖期にある微生物を接種すると、適用された微生物の高活性により第1の栄養培地が高率でサウエルグットに転化される。
【0092】
工程(b)による処理時間は、約5〜80時間、好ましくは約15〜60時間、より好ましくは約20〜50時間、より好ましくは約20〜30時間としてもよい。
本発明により規定された処理時間は、上記の短時間に限定することが好適である。これにより、第1の栄養培地、特にサウエルグットを迅速に準備できる。特に、5時間未満の処理時間では、ビタミンB
12および乳酸エステルの少なくとも一方の収率が低すぎる。対照的に、60時間を超える、特に80時間を超える処理時間では、生体利用可能なビタミンB
12の生成の更なる増加はない。さらに、過度の酸性化の危険がある。
【0093】
工程(b)による処理は、約15〜48℃、好ましくは25〜42℃、より好ましくは30〜40℃、より好ましくは35〜39℃、より好ましくは36〜38℃の範囲の栄養培地温度で実行してもよい。
工程(b)による処理は、広範囲の温度で好適に実行することができる。30〜40℃の温度を選択すると、使用微生物の理想的な増殖条件を実現し、必要な処理時間を短縮し、理想的な品質の製品が得られる。
【0094】
さらに、上記手順は、工程(b)により処理された第1の栄養培地を殺菌する工程を含んでいてもよい。
最後の殺菌工程により、本発明で使用されている乳酸菌が、例えば、食品(または飲料)の製造、特にビールの製造における製品の更なる利用に際して、各製品に不所望な効果を及ぼす可能性を排除することができる。
したがって、後のプロセス工程において酵母を使用することによって、特に酵母の代謝活動が、否定的な影響を受けることはない。
殺菌は、当業者にとって公知の任意の手段で実施可能である。煮沸麦汁または熱麦汁にサウエルグットを添加することが好ましい。
【0095】
工程(b)、(d)、(f)、(g)または(h)の1工程において得られる培地、工程(i)または(k)において得られる飲料、または工程(l)において得られる非流動性食品は、乳酸の質量分率が、約0.1〜1.0質量%、好ましくは0.2〜0.6質量%、好ましくは約0.3〜0.5質量%、より好ましくは約0.35〜0.45質量%の範囲であってもよい。
【0096】
上記の質量分率の乳酸が存在するため、本発明により製造された培地、特にサウエルグットは、例えばマイシェまたは麦汁の特定のpH値の設定のために、好適に使用可能である。これにより、食品(またはその前駆体)、特にマイシェまたは麦汁のpH値の調節を自然な方法でドイツ純粋令にしたがって達成可能である。
第2の栄養培地は、工程(d)の実施中の温度が50℃以上、好ましくは60℃以上、好ましくは70℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上であってもよい。
【0097】
工程(b)において得られる培地を高温の第2の栄養培地に添加することによって、乳酸菌の少なくとも一部を単一の工程で効率よく失活または殺菌する。これにより、経費、時間およびエネルギーに関わる尽力はもちろん、更なる殺菌工程も省略できる。
【0098】
工程(b)において得られる培地を、得られる混合物の体積に対して2〜20体積%、好ましくは5〜15体積%、好ましくは6〜12体積%、好ましくは7〜11体積%、より好ましくは8〜10体積%の体積分率で添加してもよい。
得られる混合物に対するサウエルグットのこの様な体積分率を調節することによって、マイシェまたは麦汁の理想的なpH値を得ることができ、得られる混合物のpH値を好ましくは4.2〜5.5、より好ましくは4.6〜5.3の範囲とすることができる。
【0099】
工程(b)にかかる乳酸菌による第1の栄養培地の処理は、実質的な嫌気状態、特に嫌気状態で実行してもよい。
本発明にかかる適用乳酸菌による栄養培地の処理において嫌気状態または実質的な嫌気状態を選択すると、生成されたビタミンB
12の量および生体利用可能性の少なくとも一方に肯定的な効果がある。
【0100】
空気を排除すること、および、CO
2またはN
2でパージすることの少なくとも一方によって、または、その他任意の公知手段によって、嫌気状態を作ることが好ましい。本発明によると、「嫌気状態」は、培地および上記の気相の少なくとも一方における酸素含有量が、0.1mg/L以下、好ましくは0mg/Lであることを意味する。本発明によると、「実質的な嫌気状態」は、培地および上記の気相の少なくとも一方における酸素含有量が、0.5mg/L以下、好ましくは0.1mg/L以下であることを意味し、当業者により「微好気性」として公知の状態を含む。
【0101】
本発明にかかる製造食品、特に飲料は、ドイツ純粋令に準拠するものであってもよいし、ドイツ純粋令によりビールの製造のために承認されている原料のみから製造されていてもよい。したがって、本発明にかかる食品(または飲料)の原料は、ビール醸造のためにドイツ純粋令により承認された原料、特に大麦モルト、小麦モルト、ホップ、ホップ製品、特にホップエキスおよび醸造用水、および、Saccharomyces属の酵母を含む本発明により使用された微生物に限定してもよい。したがって、ドイツ純粋令にかかる、生体利用可能なビタミンB
12を高質量濃度に含有する食品、特に飲料が、初めて提供可能となる。
【0102】
本発明にかかる手順の好ましい実施形態において、更なる工程で、精密濾過法、透析法またはその他任意の適切な分離法によって、工程(b)の処理中に生成された乳酸エステルを部分的または完全に分離してもよい。これにより、酸性の味覚印象を好適に低減または全く回避し、これにより、得られる培地の用途分野がさらに広がる。
【0103】
本発明にかかる食品は、ゼリー状またはペースト状の稠度を有していてもよい。ゼリー状またはペースト状の稠度は、内部への栄養素の吸収、特にビタミンB
12の人間または動物の体内への吸収の高速化または向上に好適である。さらに、ゼリー状またはペースト状の稠度は、例えばスポーツまたはレジャー活動に際して消費するときに、適合性が向上し、摂食や取り扱いが簡単になる。
【0104】
本発明にかかる製造食品は、ビタミンB
12の質量分率が、食品質量20g当たり0.15μg以上、好ましくは0.2μg以上、好ましくは0.3μg以上、好ましくは0.35μg以上、好ましくは0.4μg以上、好ましくは0.5μg以上、好ましくは0.6μg以上、好ましくは1.0μg以上、より好ましくは1.5μg以上であってもよい。
【0105】
本発明にかかる食品におけるビタミンB
12の質量分率が高いほど、人間または動物の体のためのビタミンB
12の供給能力が向上する。
本発明にかかる製造食品は、穀物成分、好ましくはモルト添加および非モルト添加醸造穀物の少なくとも一方、特に大麦モルトおよび小麦モルトの少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0106】
特に、出願人は、驚くべきことに、マイシェまたは麦汁を第1の栄養培地として使用する際に、本発明により使用する乳酸菌は、この様な環境においてビタミンB
12を生成するので、ビタミンB
12の生成に適していることを見出した。さらに、驚くべきことに、本発明により使用する乳酸菌によって生成されるビタミンB
12も、本願の意味において完全または少なくとも大部分で生体利用可能であることを見出した。上記に定義された代替の手順を適用することによって、明らかに、発明により指定された乳酸菌の代謝を生体利用可能でないビタミンB
12の生成へと「スイッチ」を切り換えることなく、生体利用可能なビタミンB
12の積極的な製造を達成することもできる。
【0107】
本願に記載されている本発明の文脈において列挙されている特徴は、別途言及されていない限り、または明白でない限り、中でも当業者がその実施の明らかな阻害を認めない限り、ここに記載されている主題と組み合わせることが望ましい好適な実施形態の随意的な特徴を表す。したがって、特にこの明細書に記載されている手順の特徴は、すべて本願に記載されている製品と組み合わせることができ、その逆も可能である。特に、本発明にかかる製品の文脈において列挙されている特徴は、すべて本願に記載の更なる製品に変換可能であり、したがって組み合わせ可能である。これは、本願の全ての手順およびその特徴に関して同様に適用される。これは、記載されている特徴による効果や利点に関しても同様に適用される。
【実施例】
【0108】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0109】
1. 洗浄による酵母からの抑制剤、特にホップ苦味物質の除去
上面発酵または下面発酵の純粋培養酵母または収穫酵母を醸造用水で1:9の比率(50gのプロセス酵母+400mLの水)で懸濁する。得られた懸濁液を1000Gで5分間遠心分離する。次に、上澄み液を捨てて、酵母堆積物を150mLの醸造用水で再懸濁する。この最後の2工程を2〜3回繰り返してもよい。
洗浄の後、酵母は、純粋で新鮮な果実臭を呈する。本来存在する苦味は無くなる。微視的な複合物において、酵母細胞は、無傷のようである。下面発酵酵母の場合は、ほんのわずかの細胞が損なわれる。洗浄された酵母細胞は、大きな丸い細胞核の他に均質な原形質を呈する。細胞壁の割れは、観察されない。生体染色の後も、細胞は、無色である(=生きている)。
【0110】
2. 酵母自己溶解物の生成
酵母自己溶解のプロセスは、好ましくは、細胞を砕くことによって開始する。この様にするために、酵母を機械的、熱的または化学的に処理する。そして、自己溶解は、酵母の培養の間、40〜55℃で適切なpH値、好ましくは5〜7の範囲のpH値で数時間または数日にわたり進行する。
上面発酵または下面発酵の純粋培養酵母または収穫酵母は、煮上がり麦汁中で増殖させる。酵母は、乾燥物質分率が約16〜17質量%である。酵母は、上記の手順により新鮮な状態で収穫され、洗浄される。
【0111】
随意に、下記の手順のうちの1以上によって、酵母細胞を分解のために前処理してもよい。
a) 高圧ホモジナイザによる湿式細胞分解、
b) (ガラスボールを用いた、または用いない)超音波処理、
c) (ガラスボールを用いた、または用いない)ボルテックス撹拌、および、
d) プロピオン酸の添加。
【0112】
ここで、各前処理プロセスにかかる詳細を以下に説明する。
その後、酵母細胞の自己溶解それ自体は、可能であれば前処理された酵母細胞を培養器(制御幅50〜55℃)においてバッチの絶え間ない撹拌のもと約53℃で24時間培養することによって生起する。その結果、流動性自己溶解物が生成される。
【0113】
3. 酵母エキス(自己溶解物の異型)の製造
上記の生成された流動性自己溶解物を、水の除去により濃縮する。必要であれば、流動性自己溶解物を濾過して、味を損なう物質から解放する。
この様にして得られる酵母エキスの主成分は、蛋白質の分解の結果得られるペプチドおよびアミノ酸、および核酸の酵素的開裂により生成されるプリンおよびピリミジンである。
【0114】
4. 前処理の詳細
a) 高圧ホモジナイザによる湿式細胞分解
GEA Niro Soavi社(ドイツ)の高圧ホモジナイザPANDA Plus 2000を用いて、酵母細胞の機械的な分解を実行した。高圧ホモジナイザによる湿式細胞分解は、好適な分解手順である。
特定の流体力学の結果として、静止統計真空(500〜1500バール、好ましくは800〜1200バール)が、使用ホモジナイザ内において生起する。これによって、酵母細胞内、および酵母細胞壁と周囲の培地との間の境界層において気泡が生成される(空洞効果)。その後、膨張弁において真空が開放されると、気泡の内破が起こる。これは、選択的な細胞壁破裂を伴う。
複数の酵母サンプルを準備するために、得られた新鮮なプロセス酵母を醸造用水(1:2、v/v)で希釈し、炭酸をマグネティックスターラ上で除去し、その後、上記の手順により3回洗浄する。
各酵母サンプルに分解手順を2回施す。この様にして処理された細胞を光学顕微鏡で観察すると、ホモジナイザ適用の後、細胞は、いかなる原形質も有さず、細胞の外皮のみが複合物の中に残ることが分かる。
その後、この様にして分解された酵母を培養器内において約53℃で約24時間培養し、まだ無傷の酵素によって自己溶解させる。自己溶解を停止するために、バッチを約30分間マッシュする。
あるいは、細胞分解のために以下の手順を適用してもよい。
【0115】
b) (ガラスボールを用いた、または用いない)超音波処理
酵母サンプルを醸造用水(10:90、v/v)で希釈し、その後、10分間超音波で衝撃を与える(超音波浴:MERCK eurolab USR46H)。
機械的な力を増幅するために、超音波処理中に小さなガラスボールを酵母サンプルに添加してもよい(Prolabo/VWR社、半径2.5〜3.5mm)。
【0116】
c) (ガラスボールを用いた、または用いない)試験管振盪機によるボルテックス撹拌
酵母サンプルを醸造用水(10:90、v/v)で希釈し、その後、試験管振盪機で1分間激しく振盪、撹拌する(「ボルテックス撹拌」:Vortex Genie2振盪機:Bender&Hobein AG、レベル8)。
機械的な力を増幅するために、振盪処理中に小さなガラスボールを酵母サンプルに添加してもよい(Prolabo/VWR社、半径2.5〜3.5mm)。
【0117】
d) プロピオン酸の添加
混合物中のプロピオン酸の割合が5体積%となるように、プロピオン酸を酵母サンプルに添加する。バッチを手で振盪し、そしてボルテックス振盪機によって振盪する。その後、バッチを逆さにして15分間振盪する(TURBULA振盪機)。サンプルを室温(約20℃)で2時間静置し、再び振盪する。
【0118】
5. 乾燥酵母および酵母フレークの製造
乾燥物質分率が約15質量%の酵母懸濁液をホットローラ(VITAM GmbH社(ハーメルン)のローリング乾燥機)上に均一に吹き付ける。酵母細胞は、ローラ表面に接触すると砕ける。細胞壁および細胞内容物をローラ上で乾燥し、遅くとも3秒後にはフレークとして除去する。酵母懸濁液10Lから約1.5kgのフレークが得られる。その後、粉砕機で酵母フレークを粉砕する。
上記の酵母製品の全ておよび市販の更なる酵母製品の全てをビタミンB
12含有量に関してチェックする。検出可能量のビタミンB
12を含有する酵母製品はなかった。
【0119】
〔酵母エキスの製造(乾燥酵母異型1)〕
500mLのボトル内で、瞬間パスツール滅菌した麦汁280mLにW34/70系(Fermentis社(マルクアンバルール、フランス))の乾燥酵母20gを懸濁する。その後、このバッチを30分間放置し、そして、30分間弱く撹拌する(マグネティックスターラプレート、レベル1)。
上記のバッチを約57℃で約72時間培養(熱ストレス)する。ここで、生成された気体を逃すために、ボトルを少し開ける。
この様にして得られたバッチを5〜10分間4500Gで遠心分離する。その後、上澄み液を滅菌容器に移す。上澄み液がまだ混濁している場合は、再度遠心分離する。この様にして得られた上澄み液(約250mL)が、この実施形態にかかる酵母エキスである。
【0120】
〔酵母エキスの製造(乾燥酵母異型2)〕
容器内で、第1麦汁150Lに乾燥物質含有量20質量%のW34/70系(Fermentis社(マルクアンバルール、フランス))の乾燥酵母33.3kgを懸濁する。その後、このバッチを30分間放置する。
ここで使用する第1麦汁は、小麦モルト容積が50%以上のマイシェから得られた16.5°Platoのホップ無添加第1麦汁である。第1麦汁を85℃で約10分間パスツール滅菌し、その後、室温まで冷却する。
上記のように生成してパスツール滅菌した第1麦汁のうち乾燥酵母の懸濁のために使用しなかった分量(約350L)をブラウン発酵槽において約57℃で加熱する。この加熱第1麦汁を上記で生成された酵母懸濁液として添加すると、総体積約500Lの混合物が得られる。発酵槽は、約50%の体積増加を示す。混合物を57℃で約72時間培養または発酵する。
次に、発酵槽の内容物を85℃で約10分間パスツール滅菌し、そして、約5℃まで冷却する。死んだ酵母細胞などの固体成分を精密濾過または遠心分離により冷却バッチから除去する。これにより、使用可能な酵母エキスが得られる。次に、使用まで酵母エキスを5℃で滅菌容器に保存する。
【0121】
〔乳酸桿菌(異型1):Lactobacillus rossiae(DSM15814)の培養〕
500mLのMRS培地(Merck社(ダルムシュタット))をセットし、118℃で15分間オートクレーブ滅菌する。冷却したMRS培地に乳酸桿菌の凍結乾燥物を懸濁し、30℃で2日間培養した。この様にして得られたバッチを冷却室において4℃で保存した。
接種のために、上記で得られたバッチ7.5mLを500mLの新鮮なMRS培地に懸濁する。
【0122】
〔乳酸桿菌(異型2):Lactobacillus coryniformis subsp.coryniformis(DSM20001)の培養〕
小麦モルト容積が50%以上のマイシェから得られた16.5°Platoのホップ無添加の第1麦汁を準備した。20Lのコーネリアス容器に第1麦汁17Lを満たし、101℃で約31分間パスツール滅菌/オートクレーブ滅菌した後、37℃に冷却する。
この様にして得られた培地に上記のLactobacillus coryniformis培養組織255mLを接種し、この培地を37℃で48時間発酵させる。これにより、使用可能なLactobacillus coryniformis培養組織が得られる。
【0123】
〔乳酸桿菌:Lactobacillus rossiae(DSM15814)の培養(異型1)〕
500mLのMRS培地(Merck社(ダルムシュタット))をセットし、118℃で15分間オートクレーブ滅菌した。冷却後、マルトース5gおよび酵母エキス(Merck社(ダルムシュタット))5gを添加した。ここで、Lactobacillus rossiaeは微好気性または嫌気性であるので、容器を縁まで満たす。乳酸桿菌の凍結乾燥物をMRS培地に懸濁し、30℃で2日間培養した。この様にして得られたバッチを冷却室において4℃で保存した。
接種のために、上記で得られたバッチ7.5mLを500mLの新鮮なMRS培地に懸濁した。
【0124】
〔乳酸桿菌:Lactobacillus rossiae(DSM15814)の培養(異型2)〕
小麦モルト容積が50%以上のマイシェから得られた16.5°Platoのホップ無添加の第1麦汁を準備する。20Lのコーネリアス容器に第1麦汁17Lを満たし、101℃で約31分間パスツール滅菌/オートクレーブ滅菌した後、30℃に冷却する。
この様にして得られた培地に上記のLactobacillus rossiae培養組織255mLを接種し、この培地を30℃で48時間嫌気性条件下において発酵させる。これにより、使用可能なLactobacillus rossiae培養組織が得られる。嫌気性条件は、培地をCO
2ガスで覆い、閉容器で発酵することによって調節した。
【0125】
〔本発明にかかるサウエルグットの製造(異型1)〕
100mLの容器を下記の原料で縁まで満たす。
瞬間パスツール滅菌した麦汁72.4mL、上記のLactobacillus rossiae培養組織3mL、上記のLactobacillus coryniformis subsp.coryniformis培養組織3ml、および上記の酵母エキス33.6mL。
このバッチを均質化して、30℃で2日間培養する(上記方法の工程(b))。これにより、本発明にかかる食品の前駆体としてのサウエルグットを製造する。
【0126】
〔本発明にかかるサウエルグットの製造(異型2)〕
小麦モルト容積が50%以上のマイシェから得られた16.5°Platoのホップ無添加の第1麦汁775.7Lを準備する。発酵槽において、第1麦汁を上記の(上記の異型2により製造した)酵母エキス360Lと混合し、80℃で約10分間パスツール滅菌した後、37℃に冷却する。嫌気性条件の生成のために、培地をCO
2ガスで覆う。この様に処理した第1の栄養培地に、Lactobacillus coryniformis subsp.coryniformis(DSM20001)およびLactobacillus rossiae(DSM15814)の少なくとも一方の培養組織、または、Lactobacillus rossiae(DSM15814)およびLactobacillus paracasei subsp.paracasei(DSM4905)の体積比1:1の組み合わせ、または、Lactobacillus coryniformis subsp.coryniformis(DSM20001)およびLactobacillus paracasei subsp.paracasei(DSM4905、各々上記の異型2により培養されたもの)の体積比1:1の組み合わせを接種する。発酵槽の内容物を均質化し、弱く撹拌しながら37℃で2日間培養する(上記方法の工程(b))。
【0127】
pH値が3.7に達すると、発酵を停止してもよい。定義された発酵停止のために、発酵槽の内容物を85℃で10分間パスツール滅菌してもよい。さらに、所望であれば、発酵中に生成された乳酸エステルを、精密濾過法、透析法または他の適切な分離方法で部分的または完全に分離してもよい。これにより、生成されたサウエルグットの酸味を低減する。これは、用途により望ましい場合がある。さらに、死細胞を分離する。その後、この様にして得られた食品(またはその前駆体)の輸送質量および経費を低減するために、得られたサウエルグットを例えば60°Brixに濃縮することもできる。濃縮工程は、真空蒸発器または他の適切なプロセス工学により実行してもよい。
【0128】
結果
【表1】
・L.r.=Lactobacillus rossiae(DSM15814)
・L.c.=Lactobacillus coryniformis subsp.coryniformis(DSM20001)
・L.p.=Lactobacillus paracasei subsp.paracasei(DSM4905)
・A6、A7、A8: 細胞の正規化数に対する乳酸桿菌体積比 1:1
・UG=下面発酵
・ビタミンB
12濃度は、r−Biopharm AOAC法 No.101002に準拠して測定したバッチ中のビタミンB
12の総濃度を示す。生成されたビタミンB
12の生体利用可能性は、ADVIA Centaur VB12テストにより確認した。
【0129】
上記の表から分かるように、本発明にかかる第1の栄養培地のLactobacillus rossiaeによる処理によって、基準と比較してビタミンB
12の濃度が上昇する(バッチNo.A1に対するバッチNo.A3およびA5を参照)。MRS培地に含まれるような酵母エキスの存在によって、さらにビタミンB
12濃度が上昇する(バッチNo.A4参照)。Lactobacillus rossiaeおよびLactobacillus coryniformisの組合せを栄養培地の処理に使用すると、特にビタミンB
12濃度が高くなる(バッチNo.A6参照)。
【0130】
対照的に、Lactobacillus rossiaeおよびLactobacillus paracaseiの組合せを適用すると、達成されるビタミンB
12濃度は、Lactobacillus rossiaeのみによる発酵の場合と同程度の高濃度である(バッチNo.A5に対するバッチNo.A7を参照)。また、Lactobacillus coryniformisおよびLactobacillus paracaseiの組合せは、Lactobacillus coryniformisの使用と比較して、ビタミンB
12生成の増加には至らない(バッチNo.A2に対するバッチNo.A8を参照)。これによって、非常に高いビタミンB
12濃度は、Lactobacillus rossiaeとLactobacillus coryniformisとの組み合わせによって達成されるが、Lactobacillus rossiaeまたはLactobacillus coryniformisのいずれかを含んでいたとしても、乳酸桿菌の種の任意の組み合わせによって達成されるものではないことが明確に証明される。
【0131】
【表2】
・L.r.=Lactobacillus rossiae(DSM15814)
・L.c.=Lactobacillus coryniformis subsp.coryniformis(DSM20001)
・B5、B6: 細胞の正規化数に対する乳酸桿菌体積比 1:1
・UG=下面発酵
・ビタミンB
12濃度は、r−Biopharm AOAC法 No.101002に準拠して測定したバッチ中のビタミンB
12の総濃度を示す。生成されたビタミンB
12の生体利用可能性は、ADVIA Centaur VB12テストにより確認した。
【0132】
上記の表から分かるように、新鮮な酵母と比較して、乾燥酵母の酵母エキスを添加すると、ビタミンB
12の収率の更なる向上を達成できる。
【0133】
【表3】
・L.r.=Lactobacillus rossiae(DSM15814)
・L.c.=Lactobacillus coryniformis subsp.coryniformis(DSM20001)
・C3〜C6: 細胞の正規化数に対する乳酸桿菌体積比 1:1
・UG=下面発酵
・ビタミンB
12濃度は、r−Biopharm AOAC法 No.101002に準拠して測定したバッチ中のビタミンB
12の総濃度を示す。生成されたビタミンB
12の生体利用可能性は、ADVIA Centaur VB12テストにより確認した。
【0134】
上記の表から分かるように、このバッチも、本発明にかかる第1の栄養培地としての麦汁をLactobacillus rossiaeで処理すると、盲検のバッチと比較して、ビタミンB
12濃度が増加することが確認される。Lactobacillus rossiaeとLactobacillus coryniformisとの組み合わせの処理によって、ビタミンB
12濃度の更なる有意な増加を達成することができる。ビタミンB
12の収率は、酵母エキスの存在によってさらに有意に増加する。ここで、酵母エキス割合は、50%である必要はなく、この一連のテストでは体積分率30%で最高ビタミン濃度を達成した。
【0135】
本発明による方法によって生成されたサウエルグットで製造されたビールは、パン臭またはサワードウ臭を呈することが、味覚テストにより分かった。特に、これは、新鮮な酵母の酵母エキスを使用した場合である。乾燥酵母を添加した場合、サワードウ臭・パン臭の強度は有意に減少した。同様の印象が、ビールの味覚評価で観察された。
更なるバッチにおいて、生体利用可能なビタミンB
12の収率が最高となる酵母エキス量を調べなければならない。この目的のために、同じ条件において酵母エキスの添加量を変更した。
【0136】
【表4】
・使用した第1の栄養培地: 麦汁
・使用した乳酸桿菌: Lactobacillus rossiae(DSM15814)およびLactobacillus coryniformis subsp.coryniformis(DSM20001)の混合物
・細胞の正規化数に対する各体積比: 1:1
・酵母製品: 上記の異型1により製造された下面発酵乾燥酵母の酵母エキス
・ビタミンB
12濃度は、r−Biopharm AOAC法 No.101002に準拠して測定したバッチ中のビタミンB
12の総濃度を示す。生成されたビタミンB
12の生体利用可能性は、ADVIA Centaur VB12テストにより確認した。
【0137】
上記の表から分かるように、第1の栄養培地1Lに対して酵母エキス量が3.8gの酵母製品(第1の栄養培地に対して5体積%の酵母エキスの使用に相当)を添加することによって、生体利用可能なビタミンB
12濃度の増加を検出した。第1の栄養培地1Lに対して約30gの酵母エキス(第1の栄養培地に対して30体積%の酵母エキスの使用に相当)を添加することによって、約5μg/100mLの最高濃度を検出した。酵母エキスの添加をさらに約70g/Lに増やすと、栄養培地における生体利用可能なビタミンB
12は高濃度を達成する。しかし、生成量は減少に転じる。このバッチによると、第1の栄養培地の体積に対する酵母製品の添加量が4〜70g/L、好ましくは8〜50g/L、好ましくは12〜40g/L、より好ましくは18〜35g/Lの場合、特に高収率となるようである。
【0138】
更なるバッチにおいて、本発明にかかる製造方法における酵母製品の製造中に、酵母の培養温度が生体利用可能なビタミンB
12の生成にどのような影響を与えるかを調べなければならない。そうするために、上記の異型1にかかる下面発酵乾燥酵母から酵母エキスを酵母製品として製造した。ここで、培養を57℃で一回実行し(標準手順)、80℃に変更して実行した。さらに、酵母製品の濃度を変更し、その他の条件をすべて同一とした。
【0139】
【表5】
・使用した第1の栄養培地: 麦汁
・使用した乳酸桿菌: Lactobacillus rossiae(DSM15814)およびLactobacillus coryniformis subsp.coryniformis(DSM20001)の混合物
・細胞の正規化数に対する各体積比: 1:3
・酵母製品: 培養温度57または80℃で上記の異型1により製造された下面発酵乾燥酵母の酵母エキス
・ビタミンB
12濃度は、r−Biopharm AOAC法 No.101002に準拠して測定したバッチ中のビタミンB
12の総濃度を示す。生成されたビタミンB
12の生体利用可能性は、ADVIA Centaur VB12テストにより確認した。
【0140】
上記の表から分かるように、この研究において、酵母製品の量を増やすと、生体利用可能なビタミンB
12の濃度の増加が観察された(培養温度57℃)。しかし、酵母エキスの製造時に他の条件を同一にして培養温度を57℃から80℃に上げると、ビタミンB
12濃度が著しく低下した。
【0141】
<乳酸桿菌の混合比の変更>
更なる研究において、乳酸菌Lactobacillus rossiaeおよびLactobacillus coryniformis subsp.coryniformisの両方を異なる混合率で使用した場合に、ビタミンB
12の収率がさらに増加するかを調査した。
全てのバッチについて、33mLの乾燥酵母を含有する麦汁72mLと(MRS中の)菌懸濁液6mLとを混合した。各菌懸濁液は、以下の組成を有する。
バッチF2: 1.5mLのL.coryniformis+4.5 mLのL.rossiae
バッチF3: 3.0mLのL.coryniformis+3.0mLのL.rossiae
バッチF4: 4.5mLのL.coryniformis+1.5 mLのL.rossiae
培養器において各バッチを37℃で48時間培養した。その後、水浴中においてバッチを95℃で30分間加熱した。これらのサンプルをビタミンB
12の測定まで深冷凍結した。
ビタミンB
12の含有量は、微生物的に測定した。
20mLサンプル+20mL(pH4.5酢酸Na+1%KCN+α−アミラーゼ、ペプシン)
更なる実施態様をr−Biopharm AOAC法No.101002に準拠して実施した。
【0142】
【表6】
・ビタミンB
12濃度は、r−Biopharm AOAC法 No.101002に準拠して測定したバッチ中のビタミンB
12の総濃度を示す。生成されたビタミンB
12の生体利用可能性は、ADVIA Centaur VB12テストにより確認した。
【0143】
上記の表から分かるように、接種菌中のL.coryniformisの割合の増加に対して、ビタミンB
12合成の増加を達成できる。絶対濃度は、様々な状態の乳酸桿菌の使用に基づく上記の実験結果と同等の範囲に限定される。
結果的に、使用される乳酸桿菌の混合物中におけるL.coryniformisの割合は、好ましくは50体積%以上、好ましくは60〜90体積%である。
【0144】
<従来技術との比較>
従来、対応するサウエルグットおよびマイシェ、およびこれらにより酸性化された麦汁の製造において長年証明されているLactobacillus amylovorus種またはLactobacillus amylolyticus種が、マイシェまたは麦汁の酸性化のために使用されてきた。
したがって、これらの乳酸菌種は、増殖が速いためビール麦汁において優位に増殖するという特徴がある。
【0145】
さらに、これらの乳酸菌種は、乳酸エステルの高率産生による高度な酸味付与という特徴がある。これは、これらの乳酸菌種のホモ発酵性代謝特性に基づいている。これらの種は、(52℃までの)高温で増殖するので、高増殖率を得ることができる。
【0146】
さらに、これらの種は、デキストリンおよび澱粉を発酵することができる。さらに、これらの種は、L(+)−乳酸エステルを高率で生成する。列挙した乳酸菌は、ホップ感受性が有り、30℃未満の温度では増殖不可能であるという非常に重要な事実により、ビールとって害はない。したがって、専門家の間では、Lactobacillus amylovorusおよびLactobacillus amylolyticusは、アミン(ヒスタミン)などの毒素を生成しないという事実により、酸性化のための適切な微生物だと見なされている。さらに、これらの種は、ジアセチルなど、得られる製品の味覚および風味にとって不都合な物質を生成しない。結局、これらの種は、実用において取り扱い易いという特徴がある。
【0147】
他方、本発明にかかるLactobacillus coryniformisとともに使用することが好ましい本発明にかかるLactobacillus rossiae種は、専門家にとって、ビールを駄目にする生物であると考えられている。これは、Lactobacillus coryniformis種にも当てはまる。Lactobacillus rossiaeは、醸造の当業者にとって粘着物質生成菌として公知である。両種は、わずかにホップ添加したビールにおいて増殖し、得られる食品(または飲料)、特にビールにおいて不都合な味覚プロファイルとなるジアセチルを生成する。さらに、これらの種は、従来のビール醸造温度、特に上面発酵ビール用の温度、すなわち15〜48℃の範囲で増殖可能である。さらに、これらの種は、従来酸性化のために使用してきたLactobacillus amylovorus種およびLactobacillus amylolyticus種と比較して、随意にヘテロ発酵性であるという不都合があり、その酸性化能力は、従来使用してきた種と比較して低下することを意味する。その結果、従来使用してきた種と比較して、およそ2倍量のサウエルグットを使用しなければならない。これにより、より大規模な製造設備が必要となり、酸性化に関する経費が上昇する。
【0148】
上記の複数の不都合な点、および、ここで検討されているLactobacillus rossiae種およびLactobacillus coryniformis種に関して当業者に公知の不都合な点は、現在に至るまで、飲料および食品の製造産業において、特に醸造所およびモルト製造所において、これらの種またはその亜種を適用するための実質的な障害を意味する。