特許第6674610号(P6674610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6674610高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674610
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置
(51)【国際特許分類】
   E01B 9/68 20060101AFI20200323BHJP
   E01B 9/48 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   E01B9/68
   E01B9/48
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-12767(P2016-12767)
(22)【出願日】2016年1月26日
(65)【公開番号】特開2017-133205(P2017-133205A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】504158881
【氏名又は名称】東京地下鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000216047
【氏名又は名称】鉄道軌材工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111372
【弁理士】
【氏名又は名称】津野 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100186495
【弁理士】
【氏名又は名称】平林 岳治
(72)【発明者】
【氏名】小林 実
(72)【発明者】
【氏名】有田 伸介
(72)【発明者】
【氏名】河野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】中村 一雄
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭52−049203(JP,B2)
【文献】 実開平02−106001(JP,U)
【文献】 特開2013−174087(JP,A)
【文献】 特表2010−529328(JP,A)
【文献】 特開2015−105495(JP,A)
【文献】 特開2002−138403(JP,A)
【文献】 実開昭49−063606(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0301126(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 1/00−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールのレール底面に敷設するレールパッドと、前記レールとレールパッドとを包容して前記レールに掛かる荷重を分散するタイプレートと、該タイプレートを載置して重なり合うタイプレートパッドと、前記タイプレート上に載置してレール支承体の平坦なレール設置用座面に向けてレールの底部上面を押圧する左右一対の板ばねクリップと、該板ばねクリップとタイプレートとタイプレートパッドとにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔に順次挿通して前記レールをレール支承体に固定する左右一対の締結用ボルトと、前記レール支承体に埋め込んで前記締結用ボルトとそれぞれ螺合する左右一対の埋込栓と、前記レール設置用座面の左右両端部位にそれぞれ配置して前記板ばねクリップの中間湾曲部位を保持する左右一対のばね受け座台と、前記タイプレートパッドおよびばね受け座台とレール設置用座面との間に挿入する高さ調整パッキンとで少なくとも構成され、前記高さ調整パッキンによりレールを底上げしてレール頭部の高さを調整する高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置であって、
前記タイプレートパッドとばね受け座台とが、前記高さ調整パッキンに対して並置状態で着座し、
前記高さ調整パッキンが、前記締結用ボルトに沿って誘導して前記板ばねクリップとタイプレートとタイプレートパッドとにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔に連通するU字状切欠き部を備えているとともに、上り勾配または下り勾配の軌道において下り勾配方向に向かって挿入され
前記高さ調整パッキンのU字状切欠き部が、下り勾配方向に向かって開口していることを特徴とする高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置。
【請求項2】
前記高さ調整パッキンのU字状切欠き部が、前記レール支承体のレール設置用座面から連続して立ち上がった内方端壁面に沿って平行な挿入方向に開口していることを特徴とする請求項1記載の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置。
【請求項3】
前記レール支承体のレール設置用座面が、前記高さ調整パッキンによるレールの底上げ代を見込んだ前記レール支承体の天面よりも低位置に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置。
【請求項4】
前記高さ調整パッキンが、前記レールの底上げ代を補填する厚み寸法を備えて少なくとも1枚から構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レールをコンクリートまくらぎ等のレール支承体に締結するレール締結装置に関し、特に、レールをレール支承体に向けて押圧する板ばねクリップを装着した高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート製のまくらぎ軌道では、木製のまくらぎ軌道に比べて、レールの波状摩耗が発生し易く、乗り心地の悪化や騒音・振動を増加させることが知られている。
その原因は1つではなく、決定的な解決策は示されていないのが現状であるが、軌道の面からはレール支承体のばね定数を低くし、さらに、レールの小返り(レールの捩れによるレールの傾斜)を適度に制御することで改善される傾向があり、レール波状摩耗対策用締結装置として、まくらぎ或いはスラブの所定凹所にタイプレート用パッド、タイプレート、レール用パッド及びレールを積層し、別に板ばねを加工して設けた「フ」字状ばねクリップの先端頭部でレールの底部上面を押圧すると共にその末端部でタイプレートの端部を押さえ、又、ばねクリップの湾曲部とまくらぎ或いはスラブの凹所側壁曲面に楔形のばね受台を挿入し、更に締結ボルトで前記ばねクリップ、タイプレート、まくらぎ或いはスラブを一体的に連結固定してなるレール多重弾性締結装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭52−49203号公報(特に、特許請求の範囲、第1図を参照。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、軌道の保守を低減するために、有道床軌道(砕石道床軌道)からコンクリート製のまくらぎ等のレール支承体をコンクリート道床に固定した、所謂、コンクリート直結軌道が採用されることが多く、前記レール波状摩耗対策用の締結装置を備えたコンクリート製のまくらぎ等も同様にコンクリート直結軌道に多く使用されている。
ところが、コンクリート直結軌道では、道床コンクリート等を施工する際に軌道面に不陸が生じたり、また、施工後、地盤振動・地震等の影響で軌道に変状が生じ、軌道面に不陸が発生することがある。
そして、このような軌道面の不陸は、列車通過時の上下方向振動加速度の増加を招き、列車の乗り心地を悪化させる原因となるばかりでなく、路盤振動の増加につながり、振動・騒音の増加という周辺環境の悪化が懸念されるという厄介な問題があった。
【0005】
さらに、前述したコンクリート直結軌道では、軌道面に発生した不陸を補修するために、コンクリート道床からコンクリートまくらぎ等をはつりとり、レール面の高さ調整を行なった後、再度、コンクリートで固める施工が必要であるが、既に、列車が運行している軌道でこのような施工を行うには、多大な費用と時間を要し、非常に不経済となるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、前述したような問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、レール頭部の高さ調整を簡便に達成して列車走行時の騒音や振動を抑制する高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置を提供することである。
更に、詳しくは、本発明は、コンクリート製の道床、コンクリート製のまくらぎ等をそのままに、締結装置だけでレール高さの調整が可能であって、簡易な工事で軌道面の不陸を解消して、この軌道面の不陸で発生する列車の乗り心地の悪化の改善や、路盤振動増加の改善を短期間で、且つ、低コストにて行う高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本請求項1に係る発明は、レールのレール底面に敷設するレールパッドと、前記レールとレールパッドとを包容して前記レールに掛かる荷重を分散するタイプレートと、該タイプレートを載置して重なり合うタイプレートパッドと、前記タイプレート上に載置してレール支承体の平坦なレール設置用座面に向けてレールの底部上面を押圧する左右一対の板ばねクリップと、該板ばねクリップとタイプレートとタイプレートパッドとにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔に順次挿通して前記レールをレール支承体に固定する左右一対の締結用ボルトと、前記レール支承体に埋め込んで前記締結用ボルトとそれぞれ螺合する左右一対の埋込栓と、前記レール設置用座面の左右両端部位にそれぞれ配置して前記板ばねクリップの中間湾曲部位を保持する左右一対のばね受け座台と、前記タイプレートパッドおよびばね受け座台とレール設置用座面との間に挿入する高さ調整パッキンとで少なくとも構成され、前記高さ調整パッキンによりレールを底上げしてレール頭部の高さを調整する高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置であって、前記タイプレートパッドとばね受け座台とが、前記高さ調整パッキンに対して並置状態で着座していることにより、前述した課題を解決したものである。
【0008】
そして、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記高さ調整パッキンが、前記締結用ボルトに沿って誘導して前記板ばねクリップとタイプレートとタイプレートパッドとにそれぞれ設けた締結用挿通孔に連通するU字状切欠き部を備えていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の構成に加えて、前記高さ調整パッキンのU字状切欠き部が、前記レール支承体のレール設置用座面から連続して立ち上がった内方端壁面に沿って平行な挿入方向に開口していることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の構成に加えて、前記レール支承体のレール設置用座面が、前記高さ調整パッキンによるレールの底上げ代を見込んだ前記レール支承体の天面よりも低位置に形成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の構成に加えて、前記高さ調整パッキンが、前記レールの底上げ代を補填する厚み寸法を備えて少なくとも1枚から構成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項2または請求項3に記載の構成に加えて、前記高さ調整パッキンが、上り勾配または下り勾配の軌道において下り勾配方向に向かって挿入されて、前記高さ調整パッキンのU字状切欠き部が、下り勾配方向に向かって開口していることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置は、レールのレール底面に敷設するレールパッドと、前記レールとレールパッドとを包容して前記レールに掛かる荷重を分散するタイプレートと、該タイプレートを載置して重なり合うタイプレートパッドと、前記タイプレート上に載置してレール支承体の平坦なレール設置用座面に向けてレールの底部上面を押圧する左右一対の板ばねクリップと、該板ばねクリップとタイプレートとタイプレートパッドとにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔に順次挿通して前記レールをレール支承体に固定する左右一対の締結用ボルトと、前記レール支承体に埋め込んで前記締結用ボルトとそれぞれ螺合する左右一対の埋込栓と、前記レール設置用座面の左右両端部位にそれぞれ配置して前記板ばねクリップの中間湾曲部位を保持する左右一対のばね受け座台と、前記タイプレートパッドおよびばね受け座台とレール設置用座面との間に挿入する高さ調整パッキンとで少なくとも構成されていることにより、レールをレール支承体に締結することができるばかりでなく、以下のような特有の効果を奏することができる。
【0014】
本請求項1に係る発明は、タイプレートパッドとばね受け座台とが、タイプレートパッドおよびばね受け座台とレール設置用座面との間に挿入する高さ調整パッキンに対して並置状態で着座していることにより、レールの高さ調整をするためにレールを向上させ、必要な高さ調整量の厚さ分の高さ調整パッキンを締結ボルトに沿って、タイプレートパッドとばね受け座台の下に挿入してレールを底上げしても、レールに対して当接する板ばねクリップの押圧姿勢が確実に保持されるため、レール頭部の高さ調整が簡便に達成され、列車走行時の騒音や振動を大幅に抑制することができる。
換言すれば、コンクリート製の道床、コンクリート製のまくらぎ等をそのままに、レール波状摩耗対策用締結装置だけでレール高さの調整が可能であって、簡易な工事で軌道面の不陸を解消して、この軌道面の不陸で発生する列車の乗り心地の悪化の改善や、路盤振動増加の改善を短期間で、且つ、低コストにて行うことができる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明が奏する効果に加えて、高さ調整パッキンが、締結用ボルトに沿って誘導して板ばねクリップとタイプレートとタイプレートパッドとにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔に連通するU字状切欠き部を備えていることにより、高さ調整パッキンをタイプレートパッドおよびばね受け座台とレール設置用座面との間に挿入する際に、高さ調整パッキンのU字状切欠き部が締結用ボルトに挿し込まれるため、高さ調整パッキンを確実に挿着することができる。
しかも、高さ調整パッキンのU字状切欠き部が板ばねクリップとタイプレートとタイプレートパッドとにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔に連通していることにより、タイプレートおよびタイプレートパッドの締結用ボルト挿通孔内に滞留しがちな雨水などの水分が高さ調整パッキンのU字状切欠き部に向けて落下排水されるため、締結用ボルトおよびタイプレートに生じがちな電蝕、すなわち、直流の電化区間で回帰電流がレール底部などから大地へ漏れてレールと大地が接触している部分でレールに生じる損傷を抑制することができる。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の発明が奏する効果に加えて、高さ調整パッキンのU字状切欠き部が、レール支承体のレール設置用座面から連続して立ち上がった内方端壁面に沿って平行な挿入方向に開口していることにより、高さ調整パッキンをタイプレートパッドおよびばね受け座台とレール設置用座面との間に挿入する際に、高さ調整パッキンがレール支承体の内方端壁面に沿って挿し込まれるため、高さ調整パッキンを位置決めしつつ確実に挿着することができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の発明が奏する効果に加えて、レール支承体のレール設置用座面が、高さ調整パッキンによるレールの底上げ代を見込んだ前記レール支承体の天面よりも低位置に形成されていることにより、高さ調整パッキンによりレールを底上げしても、ばね受け座台が、レール支承体内から上方に突出することなく、レール支承体のレール設置用座面から連続して立ち上がった内方端壁面に規制された状態でレール支承体のレール設置用座面に着座するため、板ばねクリップを安定して支持することができる。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の発明が奏する効果に加えて、高さ調整パッキンが、レールの底上げ代を補填する厚み寸法を備えて少なくとも1枚から構成されていることにより、レールの底上げ寸法が異なる厚みを備えた複数の高さ調整パッキンの組合せによって補填されるため、レールの底上げ寸法に見合った多段階的なレール頭部の高さ調整を達成することができる。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項2または請求項3に記載の発明が奏する効果に加えて、高さ調整パッキンが、上り勾配または下り勾配の軌道において下り勾配方向に向かって挿入されていることにより、高さ調整パッキンのU字状切欠き部が、下り勾配方向に向かって開口するように配置されて、タイプレートおよびタイプレートパッドの締結用ボルト挿通孔内に滞留しがちな雨水などの水分が高さ調整パッキンのU字状切欠き部から流下して排水されるため、締結用ボルトおよびタイプレートに生じがちな電蝕、すなわち、直流の電化区間で回帰電流がレール底部などから大地へ漏れてレールと大地が接触している部分でレールに生じる損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例である高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置の概要を示す斜視図。
図2図1の2A-2Aから視た一部断面を示す正面図。
図3図1の3Bから視た平面図。
図4図1に示す高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置の分解組立図。
図5】本実施例で用いた高さ調整パッキンの斜視図。
図6】本実施例で用いた高さ調整パッキンの組み付け動作図。
図7】本実施例の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置の施工前と施工後の比較図。
図8】本実施例の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置における雨水の流れを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置は、レールのレール底面に敷設するレールパッドと、レールとレールパッドとを包容してレールに掛かる荷重を分散するタイプレートと、このタイプレートを載置して重なり合うタイプレートパッドと、タイプレート上に載置してレール支承体の平坦なレール設置用座面に向けてレールの底部上面を押圧する左右一対の板ばねクリップと、この板ばねクリップとタイプレートとタイプレートパッドとにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔に順次挿通してレールをレール支承体に固定する左右一対の締結用ボルトと、レール支承体に埋め込んで締結用ボルトとそれぞれ螺合する左右一対の埋込栓と、レール設置用座面の左右両端部位にそれぞれ配置して板ばねクリップの中間湾曲部位を保持する左右一対のばね受け座台と、タイプレートパッドおよびばね受け座台とレール設置用座面との間に挿入する高さ調整パッキンとで少なくとも構成され、タイプレートパッドとばね受け座台とが、高さ調整パッキンに対して並置状態で着座し、高さ調整パッキンによりレールを底上げしてレール頭部の高さを調整するものであれば、その具体的な実施態様は、如何なるものであっても構わない。
【0022】
例えば、本発明の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置で用いるレール支承体の具体的形態については、鉄筋コンクリート製まくらぎ、又は、コンクリートにあらかじめ引張力を作用させた鋼材を用いてコンクリートに圧縮力を与えることによって強度の高いコンクリートとしたもの、所謂、プレストレスト・コンクリート(PC)まくらぎであって、埋込栓が所定の埋込間隔で埋め込まれたものであれば、防振まくらぎ、有道床弾性まくらぎなどの何れのものであれば、何ら差し支えない。
さらに、同レール支承体については、前述のレール設置用座面を有し、所定の位置に埋込栓が埋め込まれているものであれば、コンクリート製まくらぎに限らず、樹脂製まくらぎ等何れの材質であっても構わない。
【0023】
また、本発明の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置を適用するレールの具体的形態については、レール頭部に対して幅広で平底のレール底部を備えた逆T字型のレール断面を呈するものであれば、40kgレール(長さ1mあたり40kgの重量をもつレール)、これより広い底部幅からなる50kgレール(長さ1mあたり50kgの重量をもつレール)、60kgレール(長さ1mあたり60kgの重量をもつレール)などの何れのレールであっても構わない。
【0024】
そして、本発明の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置で用いるタイプレートの具体的形態については、内面を平坦面とし、外面を傾斜面とした断面台形状を呈する一対の突部を備え、これら一対の突部の相互間に載置したレールの横圧を受け止めることができれば、如何なる形状のものであっても良く、例えば、一対の突部を上面に形成し、この上面の中間部に、板ばねクリップがレールを押圧する際に突部上面に当接してレールに対する押圧を阻止しないように板ばねクリップの幅よりも長い上面凹部を形成し、外面の中間部に外面凹部を形成し、一対の突部の外側中央にそれぞれ締結用ボルト挿通孔を設け、この締結用ボルト挿通孔の両側に一対の山形状の突起を設けたものが好ましい。
【0025】
本発明の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置で用いる板ばねクリップの具体的形態については、タイプレート上に載置してレール支承体のレール設置用座面に向けてレールの底部上面を押圧するものであれば良く、たとえば、U字状の中間湾曲部位とこの中間湾曲部位の上端から水平方向に延びる上方部位と下端から水平方向に延びる下方部位の二層構造とした板状体であって、上方部位は端部をレール底部上面の形状に沿うように上向きに傾斜させるとともに、上方部位の直線部に締結用ボルトを貫通させる締結用ボルト挿通孔が形成され、下方部位が、U字状の中間湾曲部位の端部から延びる直線部を備え、この直線部が先端に向かって二つに分岐し、分岐部間に締結用ボルトが挿通し得る空間部が形成され、板ばねクリップを取り付けた際に分岐部がタイプレートに設けられている山形の突起の頂面にそれぞれ当接させるものが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の実施例である高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置の概要を示す斜視図であり、図2は、図1の2A-2Aから視た一部断面を示す正面図であり、図3は、図1の3Bから視た平面図であり、図4は、図1に示す高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置の分解組立図であり、図5は、本実施例で用いた高さ調整パッキンの斜視図であり、図6は、本実施例で用いた高さ調整パッキンの組み付け動作図であり、図7は、本実施例の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置の施工前と施工後の比較図であり、図8は、本実施例の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置における雨水などの流れを示す図である。
【0027】
図1乃至図4に示すように、本発明の一実施例である高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置100は、幅広で平底のレール底面R1を備えた逆T字型のレール断面を呈する長さ1mあたり重量60kgのレールRをコンクリート製まくらぎからなるレール支承体Sに締結するものであって、レールRのレール底面R1に敷設してレールRの振動を吸収するゴム製のレールパッド110と、レールRとレールパッド110とを包容してレールRに掛かる荷重を分散するタイプレート120と、このタイプレート120を載置した状態で重なり合ってレールRの振動を吸収するゴム製のタイプレートパッド130と、タイプレート120上に載置してレール支承体Sの平坦なレール設置用座面S1に向けてレールRの底部上面R2を押圧する左右一対の板ばねクリップ140、140と、この板ばねクリップ140とタイプレート120とタイプレートパッド130とにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔141、121、131に順次挿通してレールRをレール支承体Sに固定する左右一対の締結用ボルト150、150と、レール支承体Sに埋め込んで締結用ボルト150、150とそれぞれ螺合する左右一対の埋込栓160、160と、レール設置用座面S1の左右両端部位にそれぞれ配置して板ばねクリップ140の中間湾曲部位を保持する左右一対のばね受け座台170、170と、タイプレートパッド130およびばね受け座台170、170とレール設置用座面S1との間に挿入する高さ調整パッキン180とで構成されている。
これにより、レールRをコンクリート製のレール支承体Sに締結することができる。
【0028】
ここで、本実施例の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置100で用いるタイプレート120は、図4に示すように、内面を平坦面とし、外面を傾斜面とした断面台形状を呈する一対の突部122、122を備え、これら一対の突部122、122の相互間に載置したレールRの横圧を受け止めるものであって、一対の突部122、122が上面に形成され、この上面の中間部には、板ばねクリップ140がレールRを押圧する際に突部上面に当接してレールRに対する押圧を阻止しないように板ばねクリップ140の幅よりも長い上面凹部が形成され、外面の中間部には外面凹部が形成され、一対の突部122、122の外側中央にはそれぞれ締結用ボルト挿通孔121が設けられ、この締結用ボルト挿通孔121の両側には一対の山形状の突起123、123が設けられている。
【0029】
そして、本実施例の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置100で用いる板ばねクリップ140は、図1及び図2に示すように、U字状の中間湾曲部位142とこの中間湾曲部位142の上端から水平方向に延びる上方部位143と下端から水平方向に延びる下方部位144の二層構造とした板状体であって、上方部位143は端部をレールRの底部上面R2の形状に沿うように上向きに傾斜させるとともに、上方部位143の直線部に締結用ボルト150を貫通させる締結用ボルト挿通孔141が形成され、下方部位144が、U字状の中間湾曲部位142の端部から延びる直線部を備え、この直線部が先端に向かって二つに分岐し、分岐部間に締結用ボルト150が挿通し得る空間部が形成され、板ばねクリップ140を取り付けた際に分岐部がタイプレート120に設けられている山形の突起123、123の頂面にそれぞれ当接させる。
なお、上述した板ばねクリップ140をレールRに締結する締結用ボルト150は、C型弾性リング151とナット座金152とを用いて埋込栓160に螺着されることは言うまでもない。
【0030】
そして、タイプレートパッド130とばね受け座台170は、タイプレートパッド130およびばね受け座台170とレール設置用座面S1との間に挿入する高さ調整パッキン180に対して並置状態で着座している。
これにより、レールRの高さ調整をするため、レールを向上させ、必要な高さ調整量の厚さ分の高さ調整パッキン180を締結ボルト150に沿って、タイプレートパッド130とばね受け座台170の下に挿入し、レールRを底上げしても、レールRに対して当接する板ばねクリップ140の姿勢が確実に保持される。
【0031】
そこで、本実施例の高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置100が最も特徴とする高さ調整パッキン180について、更に詳しく説明する。
まず、高さ調整パッキン180は、図5に示すように、平行四辺形状の外輪郭を備えたプレートからなり、締結用ボルト150に沿って誘導して板ばねクリップ140とタイプレート120とタイプレートパッド130とにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔141、121、131に連通する左右一対のU字状切欠き部181、181を備えている。
これにより、図6の矢印で示すように、高さ調整パッキン180をタイプレートパッド130およびばね受け座台170とレール設置用座面S1との間に挿入する際に、高さ調整パッキン180のU字状切欠き部181が、締結用ボルト150に挿し込まれる。
【0032】
そして、高さ調整パッキン180のU字状切欠き部181は、板ばねクリップ140とタイプレート120とタイプレートパッド130とにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔141、121、131に連通している。
これにより、タイプレート120およびタイプレートパッド130の締結用ボルト挿通孔121、131内に滞留しがちな雨水などの水分が、高さ調整パッキン180のU字状切欠き部181に向けて落下排水する。
また、高さ調整パッキン180のU字状切欠き部181から流入した外気が、U字状切欠き部181内に滞留した湿気を排出して乾燥させるため、水分に起因して生ずる電蝕を未然に防止している。
【0033】
また、高さ調整パッキン180のU字状切欠き部181は、図6に示すように、レール支承体Sのレール設置用座面S1から連続して立ち上がった内方端壁面S2に沿って平行な挿入方向に開口している。
これにより、高さ調整パッキン180をタイプレートパッド130およびばね受け座台170とレール設置用座面S1との間に挿入する際に、高さ調整パッキン180が、レール支承体Sの内方端壁面S2に沿った方向に挿し込まれるため、高さ調整パッキン180を位置決めしつつ確実に挿着することができる。
【0034】
ここで、本実施例の場合、上述したコンクリート製のレール支承体Sの内方端壁面S2は、クサビ状のばね受け座台170が挿入してクサビ効果を奏することが可能なようにレール長手方向に対して所定の角度に傾斜した状態で平坦なレール設置用座面S1に連続形成されていることは言うまでもない。
【0035】
さらに、レール支承体Sのレール設置用座面S1は、図7に示すように、高さ調整パッキン180によるレールRの底上げ代hを見込んだレール支承体Sの天面S3よりも低位置に形成されている。
これにより、高さ調整パッキン180によりレールを底上げしても、ばね受け座台170が、レール支承体S内から上方に突出することなく、レール支承体Sのレール設置用座面S1から連続して立ち上がった内方端壁面S2に規制された状態でレール支承体Sのレール設置用座面S1に着座するため、板ばねクリップ140を安定して支持することができる。
【0036】
高さ調整パッキン180は、レールRの底上げ代、すなわち、底上げ寸法hを補填する寸法になれば、厚さの異なる複数枚の高さ調整パッキン180で構成することも可能になるため、底上げ寸法hを細かく設定することができる。
【0037】
加えて、高さ調整パッキン180は、上り勾配の軌道では下り勾配方向に向かって挿入し、下り勾配の軌道では下り勾配方向に向かって挿入して、上り勾配あるいは下り勾配の軌道のいずれであっても、高さ調整パッキン180のU字状切欠き部181が下り勾配方向に向かって開口するように配置する。
これにより、図8の矢印で示すように、タイプレート120およびタイプレートパッド130の締結用ボルト挿通孔121、131内に滞留しがちな雨水などの水分が、高さ調整パッキン180のU字状切欠き部181から流下して排水され、締結用ボルト150およびタイプレート120に生じがちな電蝕、すなわち、直流の電化区間で回帰電流がレール底部R1などから大地へ漏れてレールRと大地が接触している部分でレールRに生じる損傷を抑制することができる。
但し、図8は、締結装置の周辺に降った雨水などの流れを概略的に示すもので、現実的に雨水などが矢印に沿って流れることを示す図ではない。
さらに、施工後の列車通過による振動が長期に亘って生じても、締結用ボルト150が、高さ調整パッキン180のU字状切欠き部181に係止されるため、高さ調整パッキン180の抜け落ちを防止することができる。
【0038】
このようにして得られた本発明の一実施例である高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置100は、タイプレートパッド130とばね受け座台170とが、タイプレートパッド130およびばね受け座台170とレール設置用座面S1との間に挿入する高さ調整パッキン180に対して並置状態で着座していることにより、コンクリート製の道床、コンクリート製のまくらぎ等をそのままに、締結装置だけでレール高さの調整が可能であって、簡易な工事で軌道面の不陸を解消して、この軌道面の不陸で発生する列車の乗り心地の悪化の改善や、路盤振動増加の改善を短期間で、且つ、低コストにて行うことができ、その結果、レール頭部R3の高さ調整が簡便に達成され、列車走行時の騒音や振動を大幅に抑制することができる。
【0039】
そして、高さ調整パッキン180が、締結用ボルト150に沿って誘導して板ばねクリップ140とタイプレート120とタイプレートパッド130とにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔141、121、131に連通するU字状切欠き部181を備えていることにより、高さ調整パッキン180を確実に挿着し、しかも、この高さ調整パッキン180のU字状切欠き部181が、板ばねクリップ140とタイプレート120とタイプレートパッド130とにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔141、121、131に連通していることにより、締結用ボルト150およびタイプレート120に生じがちな電蝕と称する、直流の電化区間で回帰電流が、レール底部R1などから大地へ漏れてレールRと大地が接触している部分でレールRに生じる損傷を抑制することができるなど、その効果は甚大である。
【符号の説明】
【0040】
100 ・・・高さ調整可能なレール波状摩耗対策用締結装置
110 ・・・レールパッド
120 ・・・タイプレート120
121 ・・・締結用ボルト挿通孔
122 ・・・突部
123 ・・・突起
130 ・・・タイプレートパッド
131 ・・・締結用ボルト挿通孔
140 ・・・板ばねクリップ
141 ・・・締結用ボルト挿通孔
142 ・・・中間湾曲部位
143 ・・・上方部位
144 ・・・下方部位
150 ・・・締結用ボルト
151 ・・・C型弾性リング
152 ・・・ナット座金
160 ・・・埋込栓
170 ・・・ばね受け座台
180 ・・・高さ調整パッキン
181 ・・・U字状切欠き部
R ・・・レール
R1・・・レール底面
R2・・・底部上面
R3・・・レール頭部
S ・・・コンクリート製のレール支承体
S1・・・レール設置用座面
S2・・・内方端壁面
S3・・・天面
h ・・・底上げ代(底上げ寸法)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8