(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.多孔質シリカ
本発明の多孔質シリカは、1次細孔が形成された1次粒子を含むシリカ粒子と、シリカ粒子に担持された金属含有粒子とを含む多孔質シリカである。
【0010】
シリカ粒子は、その表面に形成されるシラノール基によって、アンモニアなどの塩基性臭気、酢酸等の酸性臭気、及びアセトアルデヒド系臭気などを吸着する機能を有している。シリカ粒子の1次粒子に形成された1次細孔は、一般的には1から20nmの細孔径を有していると考えられる。また、シリカ粒子は、好ましくは、1次粒子同士の結合による粒子間隙からなる2次細孔を有している。粗大な二次細孔の存在により、内側に存在する一次細孔まで気体が急速に拡散する効果が期待でき、これが消臭容量と消臭速度の増加につながるためである。
【0011】
金属含有粒子は、アセトアルデヒド系臭気を酸化分解するために、多孔質シリカに担持されている。金属含有粒子をシリカ粒子に担持させることによって、シリカ単独では吸着しきれなかったアセトアルデヒド臭気を、金属含有粒子により酸化分解させることができ、消臭能力を高めることができる。尚、アセトアルデヒドの酸化分解により生じた酢酸は、シリカ粒子の表面に存在するシラノール基により吸着され、脱臭される。
【0012】
金属含有粒子の金属としては、例えば、亜鉛、銀、銅、マンガン及びコバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、好ましくはコバルトである。
金属含有粒子は、20nm未満の粒子径を有しており、好ましくは15nm未満、より好ましくは10nm未満の粒子径を有している。金属含有粒子の粒子径が小さいと、触媒効率が高まるため、消臭性能を高めることができる。また、有色の金属含有粒子をシリカ粒子に担持させた場合、金属含有粒子による着色により、多孔質シリカの外観が損なわれる場合がある。金属含有粒子の粒子径が小さければ、金属含有粒子が有色であったとしても、多孔質シリカの着色を目立たなくすることができ、外観が損なわれない。
具体的には、本発明によれば、多孔質シリカの明度L*を50以上、好ましくは60以上とすることができる。明度が大きいと、本多孔質シリカを樹脂などに混練して用いる場合の着色を少なくすることができ、また顔料を混合することで好みの色に着色が可能になる。また、本発明によれば、多孔質シリカの彩度を17以下、好ましくは15以下にすることができる。
【0013】
多孔質シリカ中の金属含有量は、0.5wt%以上であり、0.6wt%以上であることが好ましい。
また、多孔質シリカの金属粒子率は、70%以上であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。ここで、本明細書において「金属粒子率」とは、多孔質シリカ中に含まれる金属の全質量に対する、シリカにドープされること無く担持された金属の質量の割合を指す。また、「ドープ」されるとは、金属がシリカのSiO
4骨格内にSi元素と置換する形で組み込まれている状態を言う。
本発明者の知見によれば、金属がアセトアルデヒドの酸化分解作用を発揮するためには、金属が、シリカの骨格内に取り込まれることなく、粒子状態で担持されていることが重要である。多孔質シリカ中の金属含有量を0.5wt%以上とし、且つ、金属粒子率を70%以上とすることにより、アセトアルデヒドの消臭能力に寄与しない形態で存在する金属の含有量を減らすことができ、消臭剤としての能力を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の多孔質シリカにおいては、比表面積が500m
2/g以上であることが好ましく、より好ましくは1000m
2/g以上である。アンモニア、酢酸、アセトアルデヒドなどの臭気は、シリカ表面のシラノール基によって化学吸着することが知られているが、単位面積あたりのシラノール基数はほぼ一定であるため、単位重量あたりの消臭力を向上させるためには、比表面積を大きくする必要がある。
【0015】
本発明の多孔質シリカは、樹脂と混合して使用することができる。本発明の多孔質シリカは、シリカと金属含有物質から形成されているため耐熱性が高い。前記樹脂としては、溶融成形が可能な熱可塑性樹脂であれば従来公知のものをすべて使用でき、例えば低−、中−、又は高−密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体等のオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタエート等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。前記樹脂としては、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルを用いることが好適である。
【0016】
本発明の消臭剤は前記多孔質シリカを含む。前記多孔質シリカと多孔質無機酸化物を混合して用いても構わない。多孔質無機酸化物としては、アルミニウム及び/又はケイ素酸化物であるゼオライトやシリカゲルやアルミナやセピオライトや球状シリカ、パーライト、活性炭(鉱物系活性炭など)などがある。前記ゼオライトは、合成ゼオライトであってもよく、天然ゼオライト(ホージャサイトなど)であってもよい。多孔質無機酸化物は、前記多孔質シリカの耐熱性が350℃以上であり、前記多孔質シリカの優れた耐熱性を損なわないように同温度域の耐熱性を有するものが好ましい。
【0017】
2.多孔質シリカの製造方法
本発明では、上述した多孔質シリカを得るための製造方法についても工夫がされている。以下に説明する製造方法によれば、金属含有粒子の粒子径が小さく、且つ、高い金属粒子率を有する多孔質シリカを得ることができる。
具体的には、本発明の製造方法は、
(A)界面活性剤、金属塩及び配位子成分を水溶液中で混合し、金属塩の金属に配位子成分が配位した水に不溶性の錯体を含むミセルを生成させる工程、
(B)ミセルを生成させる工程の後に、水溶液にシリカ源を添加する工程、
(C)シリカ源を添加する工程の後に、水溶液に塩基性水溶液を添加する工程、
(D)塩基性水溶液を添加する工程の後に、ミセルを回収する工程、及び
(E)回収したミセルを焼成し、多孔質シリカを得る工程、
を含んでいる。
以下に、各工程について詳細に説明する。
【0018】
(A)界面活性剤、金属塩、配位子成分の混合
まず、界面活性剤及び金属塩を水溶液中で混合し、ミセルを生成させる。界面活性剤と金属塩を混合することにより、金属塩を含むミセルが生成される。例えば、室温以上200℃以下で、金属塩と界面活性剤を水中で30分以上24時間以下で攪拌混合することにより、ミセルを形成することができる。水溶液は、水以外にエタノール、トルエンなどの有機溶媒を含んでいてもよい。
【0019】
界面活性剤は、好ましくは中性又は陽イオン性のものであり、より好ましくはアルキルアンモニウム塩である。アルキルアンモニウム塩は、炭素数が8以上のものであればよいが、工業的な入手の容易さを鑑みると、炭素数が12から18のものがより好ましい。アルキルアンモニウム塩としては、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ジドデシルジメチルアンモニウムブロマイド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロマイド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。水溶液中の界面活性剤の濃度は、好ましくは50〜400mmol/L、より好ましくは50〜150mmol/Lである。界面活性剤は、水中でミセルをつくり、その表面に後工程でシリカ源を静電気的に集積させる分子鋳型として機能する。界面活性剤は、最終的には焼成により消失して1次細孔を形成する。
【0020】
金属塩は、金属の供給源となる物質である。金属塩としては、例えば脂肪酸金属塩及び金属塩化物等を用いることができ、好ましくは脂肪酸金属塩である。脂肪酸金属塩は、好ましくは炭素原子数が8〜24、好ましくは8〜18、より好ましくは12〜18の脂肪酸金属塩である。脂肪酸金属塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、オクタン酸塩、ラウリン酸塩、ステアリン酸塩などが挙げられ、好ましくはステアリン酸塩である。これらの脂肪酸金属塩は、単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。水溶液中の脂肪酸金属塩の濃度は、界面活性剤濃度よりも薄くすることが好ましく、0.2〜5mmol/Lがより好ましい。
尚、水溶液中の金属塩の濃度や、金属塩の種類(脂肪酸金属塩を用いる場合の炭素鎖など)をコントロールすることにより、最終的に得られる多孔質粒子中の金属粒子の粒子径をコントロールすることもできる。
【0021】
続いて、水溶液に配位子成分を添加することにより、金属塩の金属に配位子成分が配位した、水に不溶性の錯体を形成させる。配位子成分を添加しない場合、形成されたミセルでは、金属塩に含まれる金属の多くは、ミセルの表面の近傍に存在していると考えられる。あるいは、金属塩が塩化コバルト等の可溶性の塩である場合には、金属はミセルにほとんど取り込まれていないと考えられる。これに対して、配位子成分の添加によって水に不溶性の錯体を形成させると、形成された錯体が、疎水環境であるミセルの内部に取り込まれやすくなる。すなわち、ミセルの表面近傍に存在していた金属を、ミセルの内部に移動させることができる。
また、金属塩がステアリン酸コバルト等の疎水性の塩である場合、配位子成分を添加することにより、ミセルの粒子径を小さくすることができ、その結果、最終的に得られる多孔質シリカ中に含まれる金属含有粒子の粒子径も小さくすることができる。
【0022】
水に不溶性の錯体を形成するためには、例えば、配位子成分の添加後、室温以上200℃以下で、30分以上24時間以下で攪拌混合すればよい。
【0023】
配位子成分としては、金属と水に不溶性の錯体を形成する化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば、8−キノリノール構造を有する化合物が好ましく用いられる。8−キノリノール構造を有する化合物としては、例えば、8−キノリノール(オキシンともいう)、及び5−(オクチルオキシメチル)−8−キノリノールなどが挙げられる。
【0024】
配位子成分としては、金属にその配位子成分が配位した不溶性の錯体の錯生成定数が、金属塩の錯生成定数よりも大きい物質を用いることが好ましい。不溶性の錯体の錯生成定数が、金属塩の錯生成定数よりも大きければ、金属に配位子成分が配位しやすくなり、不溶性の錯体の生成を促進できる。その結果、ミセル内部に取り込まれる錯体の量を増やすことができる。
例えば、化学便覧 基礎編 改訂5版、丸善(2004)によれば、オキシンコバルト(8−キノリノールとコバルトとの錯体)の錯生成定数の対数β1は、11.52、β2は22.82である。コバルトと5−(オクチルオキシメチル)−8−キノリノールとの錯体の錯生成定数の数値については、5−(オクチルオキシメチル)−8−キノリノールが8−キノリノールの5位にアルキル基がついた構造であり、アルキル基が配位基としては作用しない位置にあるため、金属キレートの安定性には本質的な影響を及ぼさないことから、8−キノリノールと同等の数値であると考えられる。なお、コバルトと酢酸との錯生成定数の対数β1は、0.60である。また、ステアリン酸コバルトの錯生成定数の対数β1については、配位基がカルボキシル基であることから、酢酸と同等程度と考えられる。 錯生成定数は、測定によって求めることができる。平衡状態において錯体濃度[ML
n(a-nb)+]と、遊離状態の金属イオン濃度[M
a+]および配位子の濃度[L
b-]を測定し、以下の式から求めることができる。
M
a++nL
b-→ML
n(a-nb)+
β
n=[ML
n(a-nb)+]/[M
a+][L
b-]
n
なお、金属イオンおよび配位子の全濃度は測定系において一定に保持されているため、錯体と遊離配位子あるいは錯体と遊離金属イオンの濃度はそれぞれ従属的関係にあり、3つの変数のうち2つを濃度として、あるいは濃度に比例する物理的量(光の吸収、電気伝導率、旋光度など)として測定すればよい。
【0025】
配位子成分の添加量は、金属塩の金属に対して、例えば2〜5モル当量、好ましくは2〜3モル当量となる量である。
【0026】
尚、配位子成分は、界面活性剤及び/又は金属塩と同時に水溶液に添加されてもよい。但し、好ましくは、界面活性剤及び金属塩を水溶液中で混合した後に、配位子成分が添加される。
【0027】
(B)シリカ源の添加
続いて、水溶液にシリカ源を添加する。シリカ源を添加することで、ミセル表面にシリカ源が集積する。
シリカ源は、好ましくはアルコキシシランである。ケイ素原子上の有機官能基は加水分解によって失われるため、合成物の構造に影響を与えない。ただし、有機官能基が嵩高いと加水分解速度が遅くなり、合成時間が長くかかってしまうので、好ましくはテトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、ケイ酸ナトリウムなどが挙げられる。シリカ源は、より好ましくはテトラエトキシシランである。これらのシリカ源は、単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。水溶液中のシリカ源の濃度は、好ましくは0.2〜1.8mol/Lであり、より好ましくは0.2〜0.9mol/Lである。シリカ源としてケイ酸ナトリウムを単独もしくは併用して用いる場合、水溶液中200℃以下で20〜2時間加熱還流する操作をする。シリカ源は、加水分解(酸性又は中性で加速)した後、後述する工程(D)で、脱水縮合反応(塩基性で加速)によって連なって、シリカの壁をつくる。
【0028】
(C)塩基性水溶液の添加
続いて、塩基性水溶液を添加する。塩基性水溶液の添加により、ミセルの表面に集積したシリカ源が脱水縮合し、シリカの壁を形成する。
塩基性水溶液としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニアなどの水溶液が挙げられる。塩基性水溶液は、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。これらの塩基性水溶液は、単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩基性水溶液は、好ましく分散液のpHが8〜14となるように、より好ましくは9〜11となるように添加する。塩基は、シリカ源の脱水縮合反応を加速させる。シリカ源が十分に加水分解した状態で、急激に溶液を塩基性にすることで、脱水縮合反応が一気に引き起される。これにより縮合部分の表面張力が上昇してシリカの壁が球状となり、さらに球体が幾重にも接合した形態となって、スピノーダル分解(相分離)が引き起こされる。化学架橋によってこれらの構造が凍結されて二次細孔が形成される。
この際、ミセルの内部に取り込まれていた錯体は加水分解しにくく、シリカの骨格内に取り込まれにくい。
【0029】
(D)ミセルの回収
続いて、ミセルを前駆体として回収する。例えば、ミセルを濾過して乾燥することにより、前駆体を回収できる。ミセルの濾過は、例えば吸引ろ過で行い、ろ液のpHが7となるまで水で繰り返し洗浄する。ミセルの乾燥は、例えば乾燥機、もしくは真空乾燥機で行い、十分に乾燥する。
(E)焼成
ミセルの回収後、前駆体の焼成を行う。焼成を行うことにより、前駆体中に含まれる有機成分が除去される。すなわち、界面活性剤が除去され、細孔を有する多孔質シリカが形成される。また、前駆体の内部に取り込まれていた金属含有物質(錯体)の有機成分が除去され、金属含有粒子がシリカの細孔内に担持される。これにより、多孔質シリカが得られる。
焼成は、界面活性剤の分解温度以上で行い、好ましくは400〜600℃である。
【0030】
上述の方法によれば、配位子成分を添加することにより、金属塩由来の金属を、水に不溶な錯体に変換することができ、ミセルの内部に取り込むことができる。その結果、金属成分が界面活性剤のミセル内部に内包された状態で担持され、焼成によって界面活性剤を消失させると、金属がSiO
4骨格に取り込まれること無く、金属含有粒子がシリカ多孔質体の細孔表面に優先的に分布し、金属粒子率を高めることができる。これにより、導入した金属が効果的に作用することが期待でき、消臭剤用途のみならず、触媒、分離剤、吸着剤などの他の工業用途にも利用できる。また、金属含有粒子が細孔に内包されることで、金属本来の色がシリカの白色で覆われることとなり、一般的に有色金属を導入した場合に引き起こされる明度の低下が抑制でき、消臭剤の外観に優れる。
本発明の多孔質シリカは球体が幾重にも接合した複雑な形態のため、樹脂に混練した際に細孔表面が均一に樹脂に覆われにくい。これは、不均一な粒子間隙の存在によって、迷路効果で樹脂が内部まで浸透しにくいためである。そのため、本発明の多孔質シリカを混練した樹脂成形体では、消臭剤への臭気の拡散速度が維持されやすく、樹脂混練後も消臭剤としての効果が維持されると期待できる。
【0031】
また、上述の方法によれば、配位子成分を添加することにより、ミセルの大きさを小さくすることができ、それによって最終的に得られる金属粒子の粒子径を小さくすることもできる。
また、本発明者らの知見によれば、配位子成分を添加することにより生成される錯体は、その分解温度が、金属塩の分解温度よりも低い。その結果、低い焼成温度で、短時間で、前駆体中の金属含有物質から有機物を除去することができる。
【実施例】
【0032】
(試験方法)
(比表面積)
マイクロメリティックス社製フローソーブII2300形を使用し、1点法で液体窒素温度にて測定した。
(色)
スガ試験機株式会社製SMカラーコンピューター(SM−4)を用いてL
*値、a
*値、b
*値を測定した。明度はL
*値、彩度は√(a
*2+b
*2)で算出した。明度は数値が大きいほど白色であることを示す。彩度は数字が小さいほど無彩色であることを示す。
(コバルト含有量)
焼成後の多孔質シリカ約50mgを精確に量りとり、4mlの塩酸で溶解した後に、水溶液中の金属濃度をThermo Scientific社製のICP−OESにて測定した。塩酸で処理することにより、多孔質シリカに含まれるコバルト成分は、シリカの骨格内に取り込まれているコバルト(シリカにドープされたコバルト)成分を含め、全て塩酸に溶解するものと考えられる。そこで、測定結果に基づき、多孔質シリカ中に存在するコバルトの全含有量を、コバルト含有量として算出した。
(コバルト粒子量)
回収(工程E)後、焼成(工程F)前のミセル(前駆体)を約0.5g量り取り、エタノール計約50mlで7回洗浄した。これにより、ミセルに含まれるコバルトのうち、シリカにドープされていない成分を除去した。洗浄操作としては、エタノール約7mlを試料に加えて5分間超音波洗浄した後、遠心分離により固形分を沈殿させ、上澄みを廃棄する操作を7回行った。次いで、固形分を真空乾燥したのち、570℃で5時間焼成し、多孔質シリカを得た。得られた試料約50mgを精確に量りとり、4mlの塩酸で溶解した後に、水溶液中の金属濃度をThermo Scientific社製のICP−OESにて測定した。測定結果に基づき、多孔質シリカ中における「シリカにドープされたコバルトの含有量」を算出した。更に、下記式により、多孔質シリカ中におけるシリカにドープされていないコバルトの含有量を、「コバルト粒子量」として算出した。
(数式1):コバルト粒子量=コバルト含有量−シリカにドープされたコバルトの含有量
(コバルト粒子率)
コバルト含有量及びコバルト粒子量の測定結果に基づき、下記式を用いて、コバルトの全質量に対する、シリカにドープされること無く担持されたコバルトの質量の割合を、「コバルト粒子率」として算出した。
(数式2):コバルト粒子率(%)=コバルト粒子量/コバルト含有量×100
尚、比較例1では、コバルトがステアリン酸コバルトの状態になっており、エタノールや水での抽出が難しく、定量できなかった。
(アセトアルデヒド消臭試験)
500mlの臭気を用意した。アセトアルデヒドの初期濃度を、14ppmもしくは750ppmとした。臭気中に、多孔質シリカ50mgを入れ、一定時間攪拌した後、ガステック製ガス検知管92Lを用いて濃度を測定し、初期濃度との比較から消臭率を算出した。尚、アセトアルデヒド濃度の初期濃度を750ppmとした条件については、同一の試料について消臭試験を2回実施し、1回目と2回目のそれぞれについて消臭率を算出した。
(TEM)
多孔質シリカをQuetol 812(エポキシ樹脂)に包埋したのち、ウルトラミクロトームで超薄切し、カーボン真空蒸着をして、JOEL社製のJEM2010を用いて200kVで測定した。
【0033】
(実施例1)
300mlビーカーに、水、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド及びステアリン酸コバルトを加えて、100℃で1時間攪拌してステアリン酸コバルトが均一に分散した水溶液を調製した。ここに、8−キノリノールを加えて100℃でさらに1時間攪拌した。室温まで冷却した後、テトラエトキシシランを添加して、均一になるまで攪拌した。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加え、攪拌子を1000rpmで回転させて20時間攪拌した。混合溶液のモル比は、合成物中のCo量が1wt%となり、Coに対して8−キノリノールが3モル当量となるように、テトラエトキシシラン:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド:ステアリン酸コバルト:8−キノリノール:水:水酸化ナトリウム=1:0.225:0.0106:0.0319:125:0.225とした。得られた懸濁液から固体生成物をろ別し、80℃で真空乾燥した後、570℃で5時間焼成し、有機成分を除去した。
合成物の評価結果を表1に示す。また、消臭試験の結果を表2に示す。また、断面のTEM画像を
図1に示す。また、
図1に示されるように、1〜20nmの均一な一次細孔(白い点)をもつ粒子が集合した構造が得られている。また、5〜10nmの金属粒子(黒い箇所)が内包されている。なお、得られた合成物の表面は、断面のTEM画像でみられるような約5nmの金属粒子は観測されなかった。
【0034】
(実施例2)
8−キノリノールを5−(オクチルオキシメチル)−8−キノリノールに変えること以外は実施例1と同じ方法で合成した。混合溶液のモル比は、合成物中のCo量が1wt%となり、Coに対して5−(オクチルオキシメチル)−8−キノリノールが3モル当量となるように、テトラエトキシシラン:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド:ステアリン酸コバルト:5−(オクチルオキシメチル)−8−キノリノール:水:水酸化ナトリウム=1:0.225:0.0106:0.0319:125:0.225とした。得られた懸濁液から固体生成物をろ別し、80℃で真空乾燥した後、570℃で5時間焼成し、有機成分を除去した。
合成物の評価結果を表1に示す。また、消臭試験の結果を表2に示す。また、断面のTEM画像を
図2に示す。
図2でも
図1と同様の構造が確認できる。
【0035】
(実施例3)
ステアリン酸コバルトを塩化コバルトに変えること以外は実施例1と同じ方法で合成した。混合溶液のモル比は、合成物中のCo量が1wt%となり、Coに対して8−キノリノールが3モル当量となるように、テトラエトキシシラン:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド:塩化コバルト:8−キノリノール:水:水酸化ナトリウム=1:0.225:0.0106:0.0319:125:0.225とした。得られた懸濁液から固体生成物をろ別し、80℃で真空乾燥した後、570℃で5時間焼成して有機成分を除去した。
合成物の評価結果を表1に示す。また、消臭試験の結果を表2に示す。
【0036】
(比較例1)
300mlビーカーに、水、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド及びステアリン酸コバルトを加えて、100℃で1時間攪拌してステアリン酸コバルトが均一に分散した水溶液を調製した。室温まで冷却した後、テトラエトキシシランを添加して、均一になるまで攪拌した。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加え、攪拌子を1000rpmで回転させて20時間攪拌した。混合溶液のモル比は、合成物中のCo量が1wt%となるように、テトラエトキシシラン:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド:ステアリン酸コバルト:水:水酸化ナトリウム=1:0.225:0.0106:125:0.225とした。得られた懸濁液から固体生成物をろ別し、80℃で真空乾燥した後、570℃で5時間焼成して有機成分を除去した。
合成物の評価結果を表1に示す。また、消臭試験の結果を表2に示す。また、断面のTEM画像を
図3に示す。
図3でも
図1と同様の構造が確認できるが、粒子の量が少なく、また粒度が20nm程度と実施例1よりも大きい。
【0037】
(比較例2)
ステアリン酸コバルトをオキシンコバルトに変えること以外は比較例1と同じ方法で合成した。混合溶液のモル比は、合成物中のCo量が1wt%となるように、テトラエトキシシラン:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド:オキシンコバルト:水:水酸化ナトリウム=1:0.225:0.0106:125:0.225とした。得られた懸濁液から固体生成物をろ別し、80℃で真空乾燥した後、570℃で5時間焼成して有機成分を除去した。
合成物の評価結果を表1に示す。また、消臭試験の結果を表2に示す。なお、オキシンコバルトは、8−キノリノールのエタノール溶液と硝酸コバルト水溶液を物質量比2:1となるように調製し、50℃で10分加熱混合した後、沈殿を回収し、130℃で乾燥することで得たものを使用した。また、断面のTEM画像を
図4に示す。
図4でも
図1と同様の構造が確認できるが、粒度が20nm程度と実施例1よりも大きい。
【0038】
(比較例3)
ステアリン酸コバルトを加えないこと以外は比較例1と同じ方法により、焼成後の試料を得た。混合溶液のモル比は、テトラエトキシシラン:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド:水:水酸化ナトリウム=1:0.225:125:0.225とした。焼成して得られた粉末のうち0.396gを50mlビーカーに分取し、170mmol/Lの硝酸コバルト水溶液0.4mlと水8mlを加え、100℃で真空乾燥後、350℃で2時間焼成した。
合成物の評価結果を表1に示す。また、消臭試験の結果を表2に示す。
【0039】
(比較例4)
特許第4614196号に記載された方法に基づいて合成した。200mlビーカーに、テトラエトキシシラン加えて攪拌子を600rpmで回転させて攪拌し、エタノールに溶解した塩化コバルトを添加した。次いで、オクチルアミンを加えて10分間攪拌した後、塩酸水溶液を加え、さらにそのまま1時間攪拌した。混合溶液のモル比はテトラエトキシシラン:オクチルアミン:エタノール:塩化コバルト:塩酸:水=1:0.34:1.18:0.0105:0.034:38とした。得られた懸濁液から固体生成物をろ別し、100℃で真空乾燥後、600℃で1時間焼成して有機成分を除去した。
合成物の評価結果を表1に示す。また、消臭試験の結果を表2に示す。また、断面のTEM画像を
図5に示す。粒子は観察されなかった。
(比較例5)
ステアリン酸コバルトを塩化コバルトに変えること以外は比較例1と同じ方法で合成した。混合溶液のモル比は、合成物中のCo量が1wt%となるように、テトラエトキシシラン:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド:塩化コバルト:水:水酸化ナトリウム=1:0.225:0.0106:125:0.225とした。合成物の評価結果を表1に示す。また、消臭試験の結果を表2に示す。
【0040】
表1及び表2に示されるように、実施例1及び2は、比較例1と比較して、高いアセトアルデヒドの消臭性能を有しており、同等以上の明度を有しており、低い彩度を有していた。また、金属粒子径も小さかった。すなわち、配位子成分を添加することにより、金属粒子径が小さくなり、明度を低下させること無くアセトアルデヒドに対する消臭性能を高めることができることが、理解される。また、実施例3は、比較例5と比較して、高いアセトアルデヒドの消臭性能、同等以上の明度、及び低い彩度を有していたことからも、配位子成分の添加による効果が裏付けられた。更に、実施例3は、比較例5に比べて、コバルト粒子率が極めて高く、配位子成分の添加により、コバルトを、シリカにドープされることなく粒子状態でシリカに担持できることが判った。
また、比較例2は、実施例1乃至3と同程度のアセトアルデヒドに対する消臭性能を有していた。しかしながら、比較例2は、実施例1及び2よりも、金属粒子率が低く、金属粒子径が大きく、明度も低かった。すなわち、本発明の方法によれば、金属塩と配位子成分とを添加することにより、金属塩を使用しないで直接金属と配位子成分との錯体と界面活性剤とを混合する場合に比べて、金属粒子率を高めることができ、金属粒子径を低下させることができ、明度を向上できることが理解される。
比較例3は、焼成後に硝酸コバルト水溶液を用いてコバルトを導入しているため、コバルトはシリカにドープされることが無く、金属粒子率は100%であると考えられる。しかしながら、比較例3では、低濃度のアセトアルデヒド条件下において、消臭性能が低かった。また、金属粒子径も大きく、明度も低かった。比較例3は、金属粒子径が大きいため、触媒効率が低くなり、消臭性能も低くなったと考えられる。
比較例4は、高濃度のアセトアルデヒド条件下での消臭性能が、実施例1乃至3と比べて低かった。この理由は、比較例4は、コバルト粒子率が低く、触媒の被毒の影響を受けやすいためであると考えられる。
【0041】
表1
【表1】
※1)ステアリン酸コバルトは水、エタノールなどに溶解しないため、抽出実験が困難であった。
※2)Co含有量=粒子量と仮定して値を算出した。
※3)TEMからは粒子の存在を確認できなかった。
【0042】
表2 消臭試験結果
【表2】
【0043】
(TG−DTA)
また、実施例1及び比較例1において、焼成前の試料を用いて、TG−DTA測定を行った。測定には、株式会社日立ハイテクサイエンス製のTGDTA7220を用いた。測定温度範囲は50〜600℃、昇温速度は2.5℃/分とし、空気を100ml/分で流入させながら測定した。
実施例1の結果を
図6に、比較例1の結果を
図7に示す。
図6において、ピークA(313.8℃)は、界面活性剤の分解を示しており、ピークB(396.2℃)は、コバルトと8−キノリノールとの錯体であるオキシンコバルト(Co(ox)2)の分解を示している。一方、
図7において、ピークC(311.4℃)は、界面活性剤の分解を示しており、ピークD(421.5℃)は、ステアリン酸コバルト(C18Co)の分解を示している。
すなわち、比較例1では、界面活性剤のピーク(311.4℃)に加えて、ステアリン酸コバルト(C18Co)の分解温度421.5℃にピークが見られた。これに対して、実施例1では、ステアリン酸コバルトのピークは見られず、コバルトと8−キノリノールとの錯体であるオキシンコバルト(Co(ox)2)の分解温度(311.4℃)にピークが見られた。すなわち、8−キノリノールを添加することにより、ステアリン酸コバルト由来のコバルトに、8−キノリノールが配位し、錯体を形成したことが判った。
また、この結果は、ステアリン酸コバルトが、分解温度がより低いオキシンコバルトに転換されたことを示している。このことは、実施例1では、焼成時に、より低温で前駆体中に存在するコバルト含有物質(錯体)から有機成分を除去することができることを示している。
【0044】
(粒度分布測定)
続いて、配位子成分の添加による粒子径の変化について検討するため、以下の水溶液(A)〜(C)を調製し、大塚電子株式会社製のELSZ−2000を用いて、粒度分布測定を行った。分散媒(水)のRIは1.3328、粘度は0.8878、温度は25℃に設定し、石英セルを用いて測定した。
水溶液(A):ヘキサデシルアンモニウムクロリド:水=0.225:125
水溶液(B):ヘキサデシルアンモニウムクロリド:ステアリン酸コバルト:水=0.225:0.0106:125
水溶液(C):ヘキサデシルアンモニウムクロリド:ステアリン酸コバルト:水:8−キノリノール=0.225:0.0106:125:0.0319。
【0045】
図8に、粒度分布測定の結果を示す。水溶液(A)のミセルの平均粒径は、1.4nmであった。水溶液(B)のミセルの平均粒径は、143.7nmであった。水溶液(C)のミセルの平均粒径は、22.6nmであった。水溶液(B)と(C)との比較から、8−キノリノールを添加することにより、ミセルの大きさが著しく低減することが確認された。このことは、8−キノリノールの添加により、ステアリン酸コバルトがオキシンコバルトに変換され、その結果、ミセルが小さくなり、最終的に得られる多孔質シリカ中の金属粒子の粒径を低減できることを示唆している。
【0046】
また、ステアリン酸コバルトに代えて塩化コバルトを用いて、同様に粒度分布測定を行った。具体的には、以下の水溶液(D)及び(E)を調製し、粒度分布測定を行った。
水溶液(D);ヘキサデシルアンモニウムクロリド:塩化コバルト:水=0.225:0.0106:125
水溶液(E);ヘキサデシルアンモニウムクロリド:塩化コバルト:水:8−キノリノール=0.225:0.0106:125:0.0319。
【0047】
図9に、水溶液(A)、(D)及び(E)の粒度分布測定の結果を示す。既述のように、水溶液(A)のミセルの平均粒径は、1.4nmであった。一方、水溶液(D)のミセルの平均粒径は、2.2nmであった。水溶液(E)のミセルの平均粒径は、25.3nmであった。水溶液(B)のミセルの平均粒径は、水溶液(A)とほとんど変わらない。塩化コバルトは可溶性の塩であるため、水溶液(B)において、コバルトはほとんどミセルに取り込まれてないものと思われる。これに対して、8−キノリノールを添加した水溶液(C)では、平均粒径が大きくなっている。このことは、8−キノリノールの添加により水に不溶性の錯体が形成され、コバルト成分がミセルに取り込まれ、ミセルの平均粒径が増大したものと考えられる。