特許第6674734号(P6674734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6674734有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子
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  • 特許6674734-有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子 図000020
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674734
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20200323BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   H05B33/22 D
   H05B33/14 B
   C09K11/06 690
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-220102(P2014-220102)
(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公開番号】特開2016-86142(P2016-86142A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】512187343
【氏名又は名称】三星ディスプレイ株式會社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Display Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110002619
【氏名又は名称】特許業務法人PORT
(72)【発明者】
【氏名】大山 裕美
【審査官】 中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0087776(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0073406(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0073412(KR,A)
【文献】 特表2012−528143(JP,A)
【文献】 特表2010−525112(JP,A)
【文献】 特開2012−049518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
C09K 11/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【化1】

[式(1)中、X1〜X7はそれぞれ独立に水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上15以下のアルキル基、または環形成炭素数6以上30以下の置換若しくは無置換のアリール基であり、
Ar1及びAr2は環形成炭素数6以上30以下の無置換のアリール基、環形成炭素数1以上30以下の無置換のヘテロアリール基であり、且つ、Ar1とAr2とは前記式(1)中のLを含むジベンゾフラニル基と同一の構造を含まず、
前記Lは、三重項のエネルギーギャップが2.5 eV以上の2価の連結基であり、一般式(2)で表される無置換のアリーレン基、又は無置換のヘテロアリーレン基から選ばれ、nは1以上3以下の整数である。
【化2】

【請求項2】
請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を発光層に含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を発光層と陽極との間に配置される積層膜の一つの膜中に含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。特に、青色発光領域及び緑色発光領域において低電圧で駆動可能で、且つ高い発光効率を示す有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置として、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(Organic Electroluminescence Display:有機EL表示装置)の開発が盛んになってきている。有機EL表示装置は、液晶表示装置等とは異なり、陽極及び陰極から注入された正孔及び電子を発光層において再結合させることにより、発光層における有機化合物を含む発光材料を発光させて表示を実現するいわゆる自発光型の表示装置である。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)としては、例えば、陽極、陽極上に配置された正孔輸送層、正孔輸送層上に配置された発光層、発光層上に配置された電子輸送層及び電子輸送層上に配置された陰極から構成された有機エレクトロルミネッセンス素子が知られている。陽極からは正孔が注入され、注入された正孔は正孔輸送層を移動して発光層に注入される。一方、陰極からは電子が注入され、注入された電子は電子輸送層を移動して発光層に注入される。発光層に注入された正孔と電子とが再結合することにより、発光層内で励起子が生成される。有機エレクトロルミネッセンス素子は、その励起子の輻射失活によって発生する光を利用して発光する。尚、有機エレクトロルミネッセンス素子は、以上に述べた構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0004】
有機エレクトロルミネッセンス素子を表示装置に応用するにあたり、有機エレクトロルミネッセンス素子の低電圧駆動と、高い発光効率が求められている。特に、青色発光領域及び緑色発光領域においては、赤色発光領域に比べて、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動電圧が高く、発光効率は十分なものとは言い難い。有機エレクトロルミネッセンス素子の低電圧駆動と高効率化を実現するために、正孔輸送層の定常化、安定化などが検討されている。有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化に有利な材料として、ジベンゾフラン部位を有するアミン化合物が提案されており、例えば、特許文献1には、フルオレンとジベンゾフランを含むアミン誘導体が記載されている。特許文献2には、ターフェニル基とジベンゾフランを有するアミン誘導体が記載されている。特許文献3には、アミン部位が2個以上10個以下のジベンゾフランを有するポリアミンが記載されている。特許文献4には、カルバゾールとジベンゾフランを有するアミンが記載されている。特許文献5には、ジベンゾフラン誘導体が記載されている。
【0005】
また、特許文献6には、ジベンゾフランとアミンを置換基として有するアントラセン誘導体が記載されている。特許文献7には、ジベンゾフラン上に直結したアミノ基を持つ有機エレクトロルミネッセンス材料が記載されている。特許文献8には、2位にアミンを含む置換基を持つジベンゾフランが記載されている。特許文献9には、トリフェニレンとカルバゾール連結基を有するジベンゾフランを有するアミン誘導体が記載されている。特許文献10には、1位にアミンが直結し、且つカルバゾール基をジベンゾフラン骨格に置換したアミン誘導体が記載されている。
【0006】
特許文献1、2のようにターフェニル基、またはフルオレン環構造を含有する化合物は、蒸着温度が上昇し、材料の熱分解を起こすため製造上望ましくない。また、これらの化合物は電子輸送性が高くなり、電子ブロック層に適用すると、有機エレクトロルミネッセンス素子の寿命、発光効率ともに向上できない。
【0007】
しかしながら、これらの材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子も低電圧駆動と、高い発光効率を充分に実現するものとは言い難く、現在では一層、駆動電圧が低く、発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子が望まれている。特に、赤色発光領域に比べて、青色発光領域及び緑色発光領域では、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率が低いため、発光効率の向上が求められている。有機エレクトロルミネッセンス素子の低電圧駆動と更なる高効率化を実現するためには、新たな材料の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2011/021520号
【特許文献2】国際公開第2009/145016号
【特許文献3】国際公開第2011/102112号
【特許文献4】国際公開第2010/061824号
【特許文献5】国際公開第2006/128800号
【特許文献6】特開2006−151844号公報
【特許文献7】特開2008−021687号公報
【特許文献8】国際公開第2013/036044号
【特許文献9】米国特許出願公開第2013/0087776号明細書
【特許文献10】特開2012−049518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の問題を解決するものであって、低駆動電圧で、且つ高発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【0010】
特に、本発明は、青色発光領域及び緑色発光領域において、発光層又は発光層と陽極との間に配置される積層膜の一つの膜に用いる低駆動電圧で、且つ高発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態によると、下記一般式(1)で表される有機エレクトロルミネッセンス素子用材料が提供される。
【化1】

式(1)中、X1〜X7はそれぞれ独立に水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上15以下のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基、置換若しくは無置換の環形成炭素数5以上30以下のヘテロアリール基であり、Ar1及びAr2は置換若しくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基、置換若しくは無置換の環形成炭素数1以上30以下のヘテロアリール基であり、且つ、Ar1とAr2とは前記式(1)中のLを含むジベンゾフラニル基と同一の構造を含まず、前記Lは、三重項のエネルギーギャップが2.5 eV以上の2価の連結基である。
【0012】
本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、1−ジベンゾフラン基、並びに1−置換ジベンゾフラン部位を有するアミン誘導体であるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の形成に用いることで、エネルギーギャップが大きくなり、隣接した層へのエネルギー移動が抑制される為、低電圧駆動と、高い発光効率を実現することができる。特に、青色領域及び緑色領域での顕著な効果を得ることができる。
【0013】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子用材料において、前記Lは一般式(2)で表される置換若しくは無置換のアリーレン基又はヘテロアリーレン基から選ばれる2価基であり、nは1以上3以下の整数であってもよい。
【化2】
【0014】
本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、上記連結基を用いて1−置換ジベンゾフラン部位をアミンの窒素原子に結合することにより、エネルギーギャップが大きくなり、隣接した層へのエネルギー移動が抑制される為、低電圧駆動と、高い発光効率を実現することができる。
【0015】
また、本発明の一実施形態によると、前記何れかの有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
【0016】
本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光層に1−ジベンゾフラン基、並びに1−置換ジベンゾフラン部位を有するアミン誘導体を用いることにより、エネルギーギャップが大きくなり、隣接した層へのエネルギー移動が抑制される為、低電圧駆動と、高い発光効率を実現することができる。特に、青色領域及び緑色領域での顕著な効果を得ることができる。
【0017】
また、本発明の一実施形態によると、前記何れかの有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を発光層と陽極との間に配置される積層膜の一つの膜中に含む有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
【0018】
本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光層と陽極との間に配置される積層膜の一つの膜に1−ジベンゾフラン基、並びに1−置換ジベンゾフラン部位を有するアミン誘導体を用いることにより、エネルギーギャップが大きくなり、隣接した層へのエネルギー移動が抑制される為、低電圧駆動と、高い発光効率を実現することができる。特に、青色領域及び緑色領域での顕著な効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、低電圧駆動が可能で、且つ高発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。特に、本発明によると、青色発光領域及び緑色発光領域において、発光層又は発光層と陽極との間に配置される積層膜の一つの膜に用いる低駆動電圧で、且つ高発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。本発明は、1−ジベンゾフラン基、並びに1−置換ジベンゾフラン部位を有するアミン誘導体を用いることにより、エネルギーギャップが大きくなり、隣接した層へのエネルギー移動が抑制される為、低電圧駆動と、高い発光効率を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子100を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述の問題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、特許文献1〜8等に多く見られるようなジベンゾフランの2位で置換されたアミン化合物よりも、1−ジベンゾフラン基、並びに1−置換ジベンゾフラン部位を有するアミン誘導体を用いることにより、エネルギーギャップが大きくなり、隣接した層へのエネルギー移動が抑制される為、有機エレクトロルミネッセンス素子の低電圧駆動と、高い発光効率を実現することができることを見出した。
【0022】
以下、図面を参照して本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子について説明する。但し、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0023】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、下記一般式(1)で示される1−ジベンゾフラン基、並びに1−置換ジベンゾフラン部位を有するアミン誘導体を含む。
【化3】
【0024】
式(1)中、X1〜X7はそれぞれ独立に水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上15以下のアルキル基、環形成炭素数6以上30以下の置換若しくは無置換のアリール基、環形成炭素数5以上30以下のヘテロアリール基である。Ar1及びAr2は環形成炭素数6以上30以下のアリール基、環形成炭素数1以上30以下のヘテロアリール基であり、且つ、Ar1とAr2とは式(1)中のLを含むジベンゾフラニル基と同一の構造を含まない。また、Lは、三重項のエネルギーギャップが2.5 eV以上の2価の連結基である。
【0025】
ここで、X1〜X7に用いる炭素数1以上15以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシイソブチル基、1,2−ジヒドロキシエチル基、1,3−ジヒドロキシイソプロピル基、2,3−ジヒドロキシ−t−ブチル基、1,2,3−トリヒドロキシプロピル基、クロロメチル基、1−クロロエチル基、2−クロロエチル基、2−クロロイソブチル基、1,2−ジクロロエチル基、1,3−ジクロロイソプロピル基、2,3−ジクロロ−t−ブチル基、1,2,3−トリクロロプロピル基、ブロモメチル基、1−ブロモエチル基、2−ブロモエチル基、2−ブロモイソブチル基、1,2−ジブロモエチル基、1,3−ジブロモイソプロピル基、2,3−ジブロモ−t−ブチル基、1,2,3−トリブロモプロピル基、ヨードメチル基、1−ヨードエチル基、2−ヨードエチル基、2−ヨードイソブチル基、1,2−ジヨードエチル基、1,3−ジヨードイソプロピル基、2,3−ジヨード−t−ブチル基、1,2,3−トリヨードプロピル基、アミノメチル基、1−アミノエチル基、2−アミノエチル基、2−アミノイソブチル基、1,2−ジアミノエチル基、1,3−ジアミノイソプロピル基、2,3−ジアミノ−t−ブチル基、1,2,3−トリアミノプロピル基、シアノメチル基、1−シアノエチル基、2−シアノエチル基、2−シアノイソブチル基、1,2−ジシアノエチル基、1,3−ジシアノイソプロピル基、2,3−ジシアノ−t−ブチル基、1,2,3−トリシアノプロピル基、ニトロメチル基、1−ニトロエチル基、2−ニトロエチル基、2−ニトロイソブチル基、1,2−ジニトロエチル基、1,3−ジニトロイソプロピル基、2,3−ジニトロ−t−ブチル基、1,2,3−トリニトロプロピル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、1−ノルボルニル基、2−ノルボルニル基等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0026】
また、X1〜X7に用いる環形成炭素数6以上30以下の置換若しくは無置換のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、クォーターフェニル基、キンクフェニル基、セキシフェニル基、フルオレニル基、トリフェニレン基、ビフェニレン基、ピレニル基、ベンゾフルオランテニル基、クリセニル基等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
X1〜X7に用いる置換若しくは無置換の環形成炭素数5以上30以下のヘテロアリール基としては、ベンゾチアゾリル基、チオフェニル基、チエノチオフェニル基、チエノチエノチオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾフリル基、ジベンゾチオフェニル基、ジベンゾフリル基、N−アリールカルバゾリル基、N−ヘテロアリールカルバゾリル基、N−アルキルカルバゾリル基、フェノキサジル基、フェノチアジル基、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジル基、キノリニル基、キノキサリル基等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
また、Ar1及びAr2に用いる置換若しくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、クォーターフェニル基、キンクフェニル基、セキシフェニル基、フルオレニル基、トリフェニレン基、ビフェニレン基、ピレニル基、ベンゾフルオランテニル基、クリセニル基等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
Ar1及びAr2に用いる環形成炭素数1以上30以下のヘテロアリール基としては、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ジベンゾシロリル基等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
ここで、上述したように、Ar1とAr2とは式(1)中のLを含むジベンゾフラニル基と同一の構造を含まない。Ar1又はAr2が式(1)中のLを含むジベンゾフラニル基と同一の構造を含むと、アミン化合物の対称性が高くなり、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料のアモルファス性が低下するためである。有機エレクトロルミネッセンス素子用材料のアモルファス性が低下する。即ち、結晶性が高まると、有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する際に光透過性が低下し、好ましくない。
【0031】
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料において、Lは三重項のエネルギーギャップが2.5 eV以上の2価基である。連結基Lのエネルギー準位の三重項のエネルギーギャップが2.5 eVより低くなると、有機エレクトロルミネッセンス素子内でのエネルギー移動が起こりやすくなり、発光効率が低くなる傾向にあるため好ましくない。
【0032】
このような条件を満たす連結基Lは一般式(2)で表される置換若しくは無置換のアリーレン基又はヘテロアリーレン基から選ばれる2価基である。ここで、nは1以上3以下の整数である。nが4以上の場合、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料の分子量が大きくなりすぎ、蒸着プロセスに適さないため、好ましくない。
【化4】
【0033】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、1−ジベンゾフラン基、並びに1−置換ジベンゾフラン部位を有するアミン誘導体を用いることにより、エネルギーギャップが大きくなり、隣接した層へのエネルギー移動が抑制される為、低電圧駆動と、高い発光効率を実現することができる。特に、青色領域及び緑色領域での顕著な効果を得ることができる。
【0034】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、一例として、以下の構造式により示された物質である。
【化5】


【0035】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、一例として、以下の構造式により示された物質である。
【化6】


【0036】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、一例として、以下の構造式により示された物質である。
【化7】


【0037】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、一例として、以下の構造式により示された物質である。
【化8】


【0038】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、一例として、以下の構造式により示された物質である。
【化9】


【0039】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、一例として、以下の構造式により示された物質である。
【化10】

【0040】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層に好適に用いることができる。また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、発光層と陽極との間に配置された積層膜の何れか一層に用いることができる。これにより、正孔輸送性が向上し、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動電圧の低電圧化と高効率化を実現することができる。
【0041】
(有機エレクトロルミネッセンス素子)
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子100を示す模式図である。有機エレクトロルミネッセンス素子100は、例えば、基板102、陽極104、正孔注入層106、正孔輸送層108、発光層110、電子輸送層112、電子注入層114及び陰極116を備える。一実施形態において、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層に用いることができる。また、一実施形態において、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、発光層と陽極との間に配置された積層膜の何れか一層に用いることができる。
【0042】
例えば、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を正孔輸送層108に用いる場合について説明する。基板102は、例えば、透明ガラス基板や、シリコン等から成る半導体基板、樹脂等のフレキシブルな基板であってもよい。陽極104は、基板102上に配置され、酸化インジウムスズ(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)等を用いて形成することができる。正孔注入層106は、陽極104上に配置され、例えば、4,4′,4′′-Tris[2-naphthyl(phenyl)amino]triphenylamine(2-TNATA)、N,N,N′,N′-Tetrakis(3-methylphenyl)-3,3′-dimethylbenzidine(HMTPD)等を含む。正孔輸送層108は、正孔注入層106上に配置され、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を用いて形成される。発光層110は、正孔輸送層108上に配置され、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を用いて形成される。また、例えば、9,10-Di(2-naphthyl)anthracene(ADN)を含むホスト材料に2,5,8,11-Tetra-t-butylperylene (TBP)をドープして形成することもできる。電子輸送層112は、発光層110上に配置され、例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminium(Alq3)を含む材料により形成される。電子注入層114は、電子輸送層112上に配置され、例えば、フッ化リチウム(LiF)を含む材料により形成される。陰極116は、電子注入層114上に配置され、Al等の金属や酸化インジウムスズ(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)等の透明材料により形成される。上記薄膜は、真空蒸着、スパッタ、各種塗布など材料に応じた適切な成膜方法を選択することにより、形成することができる。
【0043】
本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子100においては、上述した本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を用いることにより、駆動電圧の低電圧化と高効率化を実現可能な正孔輸送層が形成される。なお、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、TFTを用いたアクティブマトリクスの有機EL発光装置にも適用することができる。
【0044】
また、本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子100においては、上述した本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を発光層、又は発光層と陽極との間に配置された積層膜の何れか一層に用いることにより、駆動電圧の低電圧化と有機エレクトロルミネッセンス素子の高効率化を実現することができる。
【実施例】
【0045】
(製造方法)
上述した本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、例えば、以下のように合成することができる。例えば、実施例化合物3は、以下の反応により合成することができる。
【化11】
【0046】
以下の工程により化合物3を合成した。すなわち、アルゴン雰囲気下、100 mLの三つ口フラスコに、化合物A 1.50g、化合物B 1.90g、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)(Pd(dba)2) 0.11g、トリ−tert−ブチルホスフィン((t-Bu)3P) 0.15g、ナトリウムtert−ブトキシド 0.54gを加えて、45mLのトルエン溶媒中で6時間加熱還流した。空冷後、水を加えて有機層を分取し溶媒留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒を使用)で精製後、トルエン/ヘキサン混合溶媒で再結晶を行い、白色固体の目的物を2.25g(収率86%)得た。
【0047】
H NMR測定で測定された目的物のケミカルシフト値は、7.98(d,1H),7.82(d,1H),7.75−7.69(m,3H),7.55−7.31(m,24H)であった。また、FAB−MS測定により測定された目的物の分子量は、564であった。これらの結果、目的物が確かに化合物3であることが確認できた。
【0048】
実施例化合物7は、例えば、以下の反応により合成することができる。
【化12】
【0049】
以下の工程により化合物7を合成した。すなわち、アルゴン雰囲気下、100 mLの三つ口フラスコに、化合物C 1.2g、化合物D 0.35g、テトラキストリフェニルフォスフィンパラジウム(0)(Pd(PPh34) 0.11g、リン酸カリウム 0.15gを加えて、50mLのトルエン、エタノール、水混合溶媒で6時間加熱還流した。空冷後、水を加えて有機層を分取し溶媒留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒を使用)で精製後、トルエン/ヘキサン混合溶媒で再結晶を行い、白色固体の目的物を1.05g(収率78%)得た。
【0050】
H NMR測定で測定された目的物のケミカルシフト値は、8.04(s,3H),7.98(d,1H),7.82(d, 1H),7.75−7.69(m,7H),7.50−7.29(m,25H)であった。また、FAB−MS測定により測定された目的物の分子量は、715であった。これらの結果、目的物が確かに化合物7であることが確認できた。
【0051】
実施例化合物17は、例えば、以下の反応により合成することができる。
【化13】
【0052】
以下の工程により化合物17を合成した。すなわち、アルゴン雰囲気下、100 mLの三つ口フラスコに、化合物A 1.50g、化合物B 2.3g、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)(Pd(dba)2) 0.15g、トリ−tert−ブチルホスフィン((t-Bu)3P) 0.18g、ナトリウムtert−ブトキシド 0.48gを加えて、50mLのトルエン溶媒中で6時間加熱還流した。空冷後、水を加えて有機層を分取し溶媒留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒を使用)で精製後、トルエン/ヘキサン混合溶媒で再結晶を行い、白色固体の目的物を2.77g(収率82%)得た。
【0053】
H NMR測定で測定された目的物のケミカルシフト値は、7.99(d,1H),7.90-7.69(m,6H),7.57−7.18(m,30H)であった。また、FAB−MS測定により測定された目的物の分子量は、728であった。これらの結果、目的物が確かに化合物17であることが確認できた。
【0054】
上述した化合物3、7、17、21、26及び33を正孔輸送材料として用いて、上述した製造方法により、実施例1〜6の有機エレクトロルミネッセンス素子を形成した。
【化14】


【0055】
また、比較例として、下記の化合物37〜41を正孔輸送材料として用いて、比較例1〜5の有機エレクトロルミネッセンス素子を形成した。
【化15】

【0056】
本実施例においては、基板102には透明ガラス基板を用い、150nmの膜厚のITOで陽極104を形成し、60nmの膜厚の2−TNATAで正孔注入層106を形成し、実施例及び比較例の化合物を用いて30nmの膜厚の正孔輸送層108を形成し、ADNにTBPを3%ドープした25nmの膜厚の発光層110を形成し、25nmの膜厚のAlq3で電子輸送層112を形成し、1nmの膜厚のLiFで電子注入層114を形成し、100nmの膜厚のAlで陰極116を形成した。
【0057】
作成した有機エレクトロルミネッセンス素子について、電圧及び発光効率を評価した。なお、電流密度を10 mA/cmとして評価した。
【表1】
【0058】
表1の結果から、1−ジベンゾフラン基、並びに1−置換ジベンゾフラン部位を有するアミン誘導体である実施例1〜6の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送層に適応した場合、比較例の化合物に比して低電圧で駆動し、高い発光効率を示すことが判明した。これは、実施例1〜6の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料では1−置換ジベンゾフラン誘導体のエネルギーギャップが大きくなり、隣接した層へのエネルギー移動が抑制されるとともに、発光層からの電子の流入を阻止することによるものと推察される。
【0059】
一方、2−置換ジベンゾフラン部位を有する比較例のアミン誘導体では、駆動電圧が高く、発光効率も低くなった。特に、比較例2の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料では、ジベンゾフラン部位とアミン部位が共役する構造をとるため、キャリア輸送時のラジカルの安定性が低下するためであると考えられる。また、比較例3及び4の3−置換ジベンゾフラン部位を有するアミン誘導体39、及び4−置換ジベンゾフラン部位を有するアミン誘導体40では、発光効率は高いものの、駆動電圧が高くなる傾向を示した。
【0060】
これに対して、実施例1の1−置換ジベンゾフラン部位を有するアミン誘導体3では、比較例3及び4と同等以上の発光効率を有しながら、低電圧化を実現することが判明した。これは、3−置換ジベンゾフラン誘導体よりも1−置換ジベンゾフラン誘導体の方が、キャリア移動度が向上したこと、および、有機エレクトロルミネッセンス素子に適したエネルギーギャップを有していたことによる効果と考えられる。
【0061】
また、比較例5のようにアミンに対し連結基を介さずに1−ジベンゾフラン基を導入した場合は、発光効率は高い値を示したものの高電圧化する傾向を示し、連結基が低電圧化の為に有効な手段となることが示唆された。この連結基は無置換のアリーレン基だけではなく、実施例6に示すように、ヘテロアリーレン基を有するアミン誘導体でも低電圧化を示すことが判明した。
【0062】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、1−ジベンゾフラン基、並びに1−置換ジベンゾフラン部位を有するアミン誘導体を用いることにより、エネルギーギャップが大きくなり、隣接した層へのエネルギー移動が抑制される為、低電圧駆動と、高い発光効率を実現することができる。
【符号の説明】
【0063】
100 有機EL素子、102 基板、104 陽極、106 正孔注入層、108 正孔輸送層、110 発光層、112 電子輸送層、114 電子注入層、116 陰極
図1