【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)松田兼一が平成27年10月10日に第26回日本急性血液浄化学会学術集会において公開した。(2)小島順理、多儀篤真、道脇昭、山根隆志、柳園宜紀、春原隆司、松田兼一が、平成28年1月8日に日本機械学会第28回バイオエンジニアリング講演会論文集において、また平成28年1月10日に日本機械学会第28回バイオエンジニアリング講演会において公開した。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記半球状部分と前記凹部との接触面の外周エッジと前記半球状部分の中心とを通る直線と、前記回転軸とが成す角度が60°以下である、請求項1又は2に記載の遠心型血液ポンプ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような従来の遠心型血液ポンプは、人工心肺装置などの大量の血液を搬送する装置に用いられている。例えば、人工心肺装置に求められる遠心型血液ポンプの流量は、1〜7L/分程度である。
【0005】
一方、人工透析の分野においては、血液を搬送するポンプとして、通常、ローラポンプが使用されている。ローラポンプは、血液が通るチューブと、当該チューブをしごくための回転可能なローラを備え、チューブをローラで間欠的に圧閉したまま回転してチューブをしごくことで血液を送り出すものである。例えば、人工透析装置に求められるローラポンプの流量は、0.05〜0.6L/分程度である。
【0006】
しかしながら、このローラポンプは、チューブをしごくことで血液を送り出すため、チューブにかかる力や圧閉されたチューブが元の形状に戻る際に発生する陰圧などにより、溶血の程度が大きくなるとされている。溶血とは、血液中の赤血球の細胞膜が物理的、化学的等の様々な要因によって損傷を受け、内容物(特にヘモグロビン)が血球外に溶出する現象をいう。溶血に至った赤血球は本来の機能を失うため、溶血が過剰に発生すると血液中の赤血球不足に起因する溶血性貧血が発生する可能性があるばかりか、細胞外へ流出した内容物により炎症が発生するなど、患者に負担を掛けることがある。また、定期的にチューブを取り替える作業が必要であり、その作業が煩雑である。
【0007】
このため、本発明者らは、遠心型血液ポンプを人工透析装置に使用することを検討している。遠心型血液ポンプは、インペラの回転により生じる遠心力を利用して血液を押し出すものであり、チューブをしごくことで血液を送り出すものではない。このため、遠心型血液ポンプは、ローラポンプに比べて溶血の程度が小さい。また、遠心型血液ポンプは、ローラポンプに比べて脈動が少なく、最高圧及び最低圧が過大にならない。従って、患者の負担を軽減することができる。また、チューブを取り替える作業などの煩雑さもない。
【0008】
しかしながら、遠心型血液ポンプにおいても、インペラの回転シャフトと当該回転シャフトを支持する軸受部との間で発生する摩擦によって溶血が発生するだけでなく、摩擦熱により血栓が発生する可能性がある。従って、従来の遠心型血液ポンプにおいては、回転シャフトと軸受部との間で生じる溶血及び血栓の発生を抑える観点において、未だ改善の余地がある。
【0009】
本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、回転シャフトと軸受部との間で生じる溶血及び血栓の発生をより一層抑えることができる遠心型血液ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明に係る遠心型血液ポンプは、ケーシングと、
前記ケーシング内に回転可能に収納されたインペラと、
前記インペラの回転軸となる回転シャフトと、
前記回転シャフトの両端部を回転可能に支持する軸受部と、
を備える遠心型血液ポンプであって、
前記回転シャフトの両端部はそれぞれ半球状に形成され、
前記軸受部は、前記回転シャフトのいずれかの端部をそれぞれ支持する凹部を備え、
前記凹部は、前記回転シャフトの端部の半球状部分の曲率と同じ曲率を有するとともに、前記回転シャフトの端部の半球状部分の外表面よりも前記凹部の内表面が小さく形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る遠心型血液ポンプによれば、回転シャフトと軸受部との間で生じる溶血及び血栓の発生をより一層抑えることができ
る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1態様によれば、ケーシングと、
前記ケーシング内に回転可能に収納されたインペラと、
前記インペラの回転軸となる回転シャフトと、
前記回転シャフトの両端部を回転可能に支持する軸受部と、
を備える遠心型血液ポンプであって、
前記回転シャフトの両端部はそれぞれ半球状に形成され、
前記軸受部は、前記回転シャフトのいずれかの端部をそれぞれ支持する凹部を備え、
前記凹部は、前記回転シャフトの端部の半球状部分の曲率と同じ曲率を有するとともに、前記回転シャフトの端部の半球状部分の外表面よりも前記凹部の内表面が小さく形成されている、遠心型血液ポンプを提供する。
【0014】
本発明の第2態様によれば、前記凹部の深さは、当該凹部に対応する前記回転シャフトの端部の半球状部分の半径よりも短い、第1態様に記載の遠心型血液ポンプを提供する。
【0015】
本発明の第3態様によれば、前記半球状部分と前記凹部との接触面の外周エッジと前記半球状部分の中心とを通る直線と、前記回転軸とが成す角度が60°以下である、第1又は2態様に記載の遠心型血液ポンプを提供する。
【0016】
本発明の第4態様によれば、前記角度が45°以下である、第3態様に記載の遠心型血液ポンプを提供する。
【0017】
本発明の第5態様によれば、前記角度が25°以上35°以下である、第3態様に記載の遠心型血液ポンプを提供する。
【0018】
上記第1〜第5態様によれば、回転シャフトと軸受部との接触面積が小さくなるため、回転シャフトと軸受部との間の摩擦力が小さくなり、溶血及び血栓の発生を抑制することができる。
【0019】
本発明の第6態様によれば、前記インペラは、血液が通る流路が内部に設けられたクローズドインペラである、第1〜5態様のいずれか1つに記載の遠心型血液ポンプを提供する。
【0020】
上記第6態様によれば、インペラは、血液が通る流路が内部に設けられたクローズドインペラとされているため、インペラにかかる軸受荷重を減らすことができ、かつケーシング内のプライミングボリュームを小さくすることができる。
【0021】
本発明の第7態様によれば、前記流路は、前記回転軸に対して直交する平面上に延在するように設けられている、第6態様に記載の遠心型血液ポンプを提供する。
【0022】
上記第7態様によれば、流路は、回転軸に対して直交する平面上に延在するように設けられているため、血液が回転軸に対して直交する平面上の回転軸から離れる方向に排出され、インペラに対して上下方向に力がかかることを抑えることができる。これにより、回転シャフトと軸受部との間の摩擦力を小さくすることができるため、溶血及び血栓の発生を抑制することができる。
【0023】
本発明の第8態様によれば、前記インペラに内蔵された従動側磁石と、
前記ケーシングの外部に配置され、前記従動側磁石と磁気的に結合する駆動側磁石と、
前記回転軸を中心として前記駆動側磁石を回転させる回転装置と、
を備え、
前記従動側磁石と前記駆動側磁石とは、前記回転軸に対して直交する平面上に設けられている、第1〜7態様のいずれか1つに記載の遠心型血液ポンプを提供する。
【0024】
上記第8態様によれば、従動側磁石と駆動側磁石とが、前記回転軸に対して直交する平面上に設けられているため、インペラに対して上下方向に力がかかることを抑えることができる。これにより、回転シャフトと軸受部との間の摩擦力を小さくすることができるため、溶血及び血栓の発生を抑制することができる。
【0025】
本発明の第9態様によれば、前記遠心型血液ポンプは、人工透析用の遠心型血液ポンプである、第1〜8態様のいずれか1つに記載の遠心型血液ポンプを提供する。
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
《実施形態》
本発明の実施形態に係る遠心型血液ポンプの全体構成について、
図1〜
図7を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る遠心型血液ポンプの断面図である。
図2は、
図1の遠心型血液ポンプの概略構成を示す平面図である。
図3は、
図2のA−A線断面図である。
図4は、
図1の遠心型血液ポンプの概略構成を一部透過して示す平面図である。
図5は、
図4のB−B線断面図である。
図6は、
図1の遠心型血液ポンプの概略構成を示す側面図である。
図7は、
図6のC−C線断面図である。
【0028】
本実施形態に係る遠心型血液ポンプ1は、人工透析用の遠心型血液ポンプである。遠心型血液ポンプ1は、
図1に示すように、中空のケーシング2と、ケーシング2内に回転可能に収納されたインペラ3と、インペラ3の回転軸Xとなる回転シャフト4と、回転シャフト4の両端部を回転可能に支持する軸受部5とを備えている。
【0029】
ケーシング2は、上部ケーシング21と、下部ケーシング22とを備えている。上部ケーシング21と下部ケーシング22とが組み合わされ、それらがネジ等の締結部材(図示せず)により結合されることで、上部ケーシング21と下部ケーシング22との間にポンプ室となる空間Sが形成される。
【0030】
ケーシング2には、
図2、
図4、及び
図6に示すように、血液を空間Sに流入させるための流入ポート23と、血液を空間Sから流出させるための流出ポート24とが設けられている。
【0031】
流入ポート23は、
図1及び
図5に示すように、回転軸Xに対して90°未満の所定の角度傾斜するように設けられている。流入ポート23は、流入口23aで空間Sと流体連通している。流入口23aは、
図4及び
図5に示すように、流入ポート23内を流れる血液が後述する貫通穴32内へスムーズに流入するように、回転シャフト4からずれた位置に設けられている。このような構成とすることで、流入ポート23内を流れる血液が空間S内へ適切に供給される。
【0032】
流出ポート24は、
図4及び
図7に示すように、回転軸Xに対して直交する方向で、且つ、ケーシング2の外周側面に対して傾斜するように設けられている。流出ポート24は、流出口24aで空間Sと流体連通している。
【0033】
インペラ3は、空間S内に回転可能に収納されている。本実施形態において、インペラ3は、
図4及び
図5に示すように、血液が通る流路31が内部に設けられたクローズドインペラである。インペラ3には、回転軸Xの延在方向に貫通する貫通穴32が設けられている。また、貫通穴32には、流入ポート23の流入口23a、及び、2つの流路31,31の各一端部が流体連通している。なお、インペラ3と回転シャフト4とは、図示していないが、2本〜4本の接続部材により接続されている。
【0034】
2つの流路31,31は、回転軸Xに対して直交する平面上に延在するように設けられている。本実施形態において、2つの流路31,31は、回転軸Xの近傍からケーシング2の外周側面の近傍まで直線上に延在する流路として形成されている。また、2つの流路31,31は、平面視において、回転軸Xを中心として点対称に形成されている。
【0035】
また、インペラ3には、
図1に示すように、従動側磁石33が内蔵されている。従動側磁石33は、ケーシング2の外部に設けられた駆動側磁石61と磁気的に結合するように設けられている。駆動側磁石61は、回転軸Xを中心として駆動側磁石61を回転させる回転装置62に取り付けられている。回転装置62が回転軸Xを中心として駆動側磁石61を回転させることで、当該駆動側磁石61と磁気的に結合する従動側磁石33が回転し、当該従動側磁石33を内蔵するインペラ3も回転する。
【0036】
従動側磁石33と駆動側磁石61とは、回転軸Xに対して直交する平面上に設けられている。すなわち、従動側磁石33の中心と駆動側磁石61の中心とを結ぶ直線L1が回転軸Xに対して直交するように構成されている。このような構成とすることで、従動側磁石33と駆動側磁石61とを磁気的に結合させつつも、インペラ3にかかる上下方向の力を抑えることができる。従って、回転シャフトと軸受部との間の摩擦力を小さくすることができる。
【0037】
本実施形態において、従動側磁石33は、インペラ3の外周下部に複数(例えば、6つ)設けられている。複数の従動側磁石33は、
図4に示すように、平面視において、均等間隔に設けられている。駆動側磁石61は、従動側磁石33に対応する位置に複数(例えば、6つ)設けられている。
【0038】
ケーシング2とインペラ3との間には、インペラ3が回転軸Xを中心として回転するとき、貫通穴32から離れる方向に流れて流路31,31から排出された血液が貫通穴32の内部に戻るように隙間CLが設けられている。より具体的には、隙間CLは、流路31,31から排出された血液が、ケーシング2の側面に沿って下降又は上昇し、ケーシング2の底面又は天面に沿って回転軸Xに近づくように流れ、貫通穴32の内部に戻るように設けられている。これにより、ケーシング2内の血液が、ケーシング2内のいかなる場所においても滞留することなく、循環するようになっているため、回転シャフト4と軸受部5との接触部分など比較的血栓が発生しやすい場所においてもこれを抑制することができる。また、血液が吸引されるインペラ3の上部と血液が滞留するインペラ3の下部との間で生じる圧力差を小さくすることができるので、インペラ3にかかる上下方向の力を抑えることができる。本実施形態において、隙間CLの幅は、略一様に形成されている。隙間CLの幅は、例えば、0.5mmである。
【0039】
回転シャフト4は、インペラ3の貫通穴32内に回転軸Xと同軸に配置されている。回転シャフト4は、図示していないが、その一部がインペラ3と接続されている。これにより、回転シャフト4が回転軸Xを中心として回転することでインペラ3が回転する。
【0040】
回転シャフト4は、略円柱状の軸体である。回転シャフト4の両端部は、
図1及び
図3に示すように、それぞれ半球状に形成されている。すなわち、回転シャフト4の上端部41及び下端部42は、それぞれ半球状に形成されている。本実施形態において、回転シャフト4は、上下左右対称に形成されている。また、回転シャフト4は、ステンレス鋼(例えば、SUS304)により構成されている。
【0041】
軸受部5は、
図1に示すように、回転シャフト4の上端部41を回転可能に支持する上軸受部51と、回転シャフト4の下端部42を回転可能に支持する下軸受部52とを備えている。すなわち、遠心型血液ポンプ1は、回転シャフト4の両端部を回転可能に支持するダブルピボットタイプの血液ポンプである。上軸受部51及び下軸受部52は、例えば、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)により構成されている。
【0042】
上軸受部51は、回転シャフト4の上端部41の半球状部分の曲率と同じ曲率を有するとともに、当該半球状部分の外表面よりも内表面が小さい凹部51aを備えている。同様に、下軸受部52は、回転シャフト4の下端部42の半球状部分の曲率と同じ曲率を有するとともに、当該半球状部分の外表面よりも内表面が小さい凹部52aを備えている。なお、ここで、「半球状部分の曲率と同じ曲率を有する凹部」には、半球状部分の曲率と寸法誤差等を考慮して実質的に同じ曲率を有する凹部が含まれる。当該凹部は、半球状部分を実質的に隙間なく回転可能に支持するものであればよい。また、「外表面」及び「内表面」は、露出面積を意味する。
【0043】
流入ポート23の流入口23aから空間S内に流入された血液は、インペラ3の貫通穴32内に流入する。回転装置62によりインペラ3が回転シャフト4を中心として回転軸X回りに回転するとき、貫通穴32内に流入する血液は、インペラ3の遠心力により流路31を通じてケーシング2の外周側面へ流れる。このとき、回転シャフト4の各端部41,42の半球状部分の外表面と軸受部5の凹部51a,52aの内表面との接触面積が小さいので、それらの接触部分の摩擦力により血液が溶血することを抑えることができる。
【0044】
ケーシング2の外周側面へ流れる血液の大部分は、流出口24aを通じて流出ポート24内に入り、遠心型血液ポンプ1の外部に流出する。一方、ケーシング2の外周側面へ流れる血液の一部は、隙間CLを通じて貫通穴32内に戻る。すなわち、ケーシング2内の血液は、局所的に滞留することなく、循環するようになっている。これにより、回転シャフト4の各端部41、42と軸受部5の凹部51a,52aとの摩擦によって発熱しても、血液が循環することにより温度上昇を抑えることができ、前記発熱によって血栓が発生することを抑えることができる。また、回転シャフト4の各端部41、42の半球状部分の外表面と軸受部5の凹部51a,52aの内表面との接触面積が小さいので、発熱自体を抑えることができる。
【0045】
本実施形態によれば、軸受部5の凹部51a,52aが、回転シャフト4の各端部41,42の半球状部分の曲率と同じ又は略同じ曲率を有している。これにより、軸受部5は回転シャフト4の両端部をしっかりと支持することができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、軸受部5の凹部51a,52aが回転シャフト4の各端部41,42の半球状部分の外表面よりも内表面が小さく形成されている。この構成によれば、回転シャフト4と軸受部5との間で生じる溶血をより一層抑えることができる。また、回転シャフト4と軸受部5との間の発熱を抑えて、血栓が発生することを抑えることができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、インペラ3として、血液が通る流路31が内部に設けられたクローズドインペラを用いている。この構成によれば、インペラ3にかかる軸受荷重を減らすことができ、かつケーシング2内の血液量を抑えて、プライミングボリュームを小さくすることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、流路31は、回転軸Xに対して直交する平面上に延在するように設けられている。また、従動側磁石33と駆動側磁石61とは、回転軸Xに対して直交する平面上に設けられている。これらの構成によれば、インペラ3に対して上下方向に力がかかることを抑えることができる。これにより、回転シャフト4と軸受部5との間にかかる上下方向(回転軸Xの延在方向)の力を抑えて、溶血をより一層抑えることができる。また、遠心型血液ポンプ1の上下方向の厚みを抑え、遠心型血液ポンプ自体の大きさを小さくすることができる。
【0049】
なお、人工透析装置に求められるポンプの流量は、例えば、300〜600mL/分程度であり、人工心肺装置に求められるポンプの流量に比べてかなり低い。このため、従来の遠心型血液ポンプを人工透析装置に用いる場合には、ポンプの流量を低くする必要がある。遠心型血液ポンプは遠心力を利用して血液を押し出すものであるので、遠心型血液ポンプの流量を低くするにはポンプの回転数を下げることが考えられるが、ポンプの回転数を下げるとケーシング内に血液の滞留部ができ血栓形成の原因となる。このため、従来の人工心肺用の遠心型血液ポンプを用いることはできない。ポンプの回転数を下げる方法以外には、ケーシング及びインペラの直径を小さくすること、すなわち、遠心型血液ポンプを小型化することが考えられる。
【0050】
しかしながら、従来の遠心型血液ポンプの構成のままで小型化すると、回転シャフトと軸受部との間の摩擦力によって生じる溶血及び血栓の発生が無視できないレベルになる。
【0051】
これに対して、本実施形態によれば、軸受部5の凹部51a,52aが回転シャフト4の各端部41,42の半球状部分の曲率と同じ又は略同じ曲率を有しているので、遠心型ポンプ1を人工透析用に用いるために小型化しても、軸受部5は回転シャフト4の両端部をしっかりと支持することができる。また、軸受部5の凹部51a,52aの内表面が回転シャフト4の各端部41,42の半球状部分の外表面よりも小さく形成されているので、回転シャフト4と軸受部5との間で発生する摩擦力を低減することができる。その結果、遠心型ポンプ1を人工透析用に用いるために小型化しても、溶血及び血栓の発生を無視できるレベルに抑えることが可能になる。
【0052】
次に、回転シャフト4と軸受部5との好ましい接触角度について説明する。
【0053】
図8は、回転シャフト4と軸受部5との接触角度、インペラ3の直径を変えて作成した本実施例に係る複数のポンプ(NY1〜NY4と示す)、並びに、比較例に係るジャイロポンプ(Gyroと示す)に対する溶血評価試験の結果を示すグラフである。
【0054】
図9〜
図11は、回転シャフト4と軸受部5との接触角度を示す図である。本実施形態において、回転シャフト4の上端部41及び下端部42、並びに、軸受部5の凹部51a及び凹部52aは、同じ形状及び大きさである。このため、
図9〜
図11では、回転シャフト4の下端部42と下軸受部51の凹部52aとの位置関係を代表例として示している。
【0055】
前述したように、下軸受部52は、回転シャフト4の下端部42の半球状部分の曲率と同じ又は略同じ曲率を有するとともに、当該半球状部分の外表面よりも内表面が小さい凹部52aを備えている。すなわち、
図9〜
図11に示すように、凹部52aの深さD1〜D3は、回転シャフト4の下端部42の半球状部分の半径rよりも短く設定されている。
【0056】
NY1ポンプにおいては、回転シャフト4の下端部42の半球状部分と凹部52aとの接触面の外周エッジEと当該半球状部分の中心Pとを通る直線L2と、回転軸Xとが成す角度θが30°に設定されている。ここでは、当該角度θを、簡略化して接触角度θともいう。NY2ポンプにおいては、接触角度θが45°に設定されている。NY3ポンプにおいては、接触角度θが60°に設定されている。NY1〜NY3ポンプは、インペラ3の直径が30mmに設定されている。
図8には、これらのNY1〜NY3ポンプに対して、インペラ3の回転数を2,000rpm、ポンプ流量を50mL/minとして溶血評価試験を行い、当該溶血評価試験により得られた一般化溶血指数(NIH(g/20min))が示されている。
【0057】
ジャイロポンプは、人工心肺装置で使用される一般的な遠心型血液ポンプである。
図8には、このジャイロポンプに対して、インペラ3の回転数を2,090rpm、ポンプ流量を5L/minとして溶血評価試験を行い、当該溶血評価試験により得られた一般化溶血指数(NIH(g/20min))が示されている。
【0058】
なお、標準化溶血指数NIHの計算式としては、ASTM規格の計算式が一般的に知られている。このASTM規格の計算式は、ポンプ流量を5L/minとして血液100Lの溶血指数NIH(g/100L)を計算するものである。しかしながら、本実施例に係るNY1ポンプ、NY2ポンプ、及びNY3ポンプのポンプ流量は、いずれも50mL/minであり、ASTM規格の計算式をそのまま適用することはできない。一方、ポンプ流量を5L/minとして血液100Lの溶血を評価する時間は、20分である。このため、ASTM規格の計算式を変形し、評価時間を20分とした以下の計算式により、各ポンプの一般化溶血指数(NIH(g/20min))を得た。
【0059】
[数1]
NIH(g/20min)=ΔfreeHb×V×(100−Ht)/100×(20/T)
【0060】
上記計算式において、ΔfreeHbは、サンプリングの時間間隔における血漿遊離ヘモグロビン濃度の差(mg/L)を示している。Vは、回路内流量(L)を示している。Htは、ヘマトクリット値(%)を示している。Tは、サンプリングの時間間隔(min)を示している。
【0061】
図8から分かるように、NY1ポンプの一般化溶血指数は約0.0061であり、N2ポンプの一般化溶血指数は約0.0093であり、NY3ポンプの一般化溶血指数は約0.0114であった。また、ジャイロポンプの一般化溶血指数は約0.0248であった。これにより、本実施例に係るNY1ポンプ、NY2ポンプ、及びNY3ポンプによれば、従来のジャイロポンプよりも溶血を大幅に抑えられることが分かる。
【0062】
また、NY3ポンプよりもNY2ポンプの方が一般化溶血指数が低く、NY2ポンプよりもNY1ポンプの方が一般化溶血指数が低い。これにより、接触角度θを小さくするほど、溶血を抑えられることが分かる。すなわち、接触角度θは、60°以下であることが好ましく、45°以下であることがより好ましく、30°であることが更に好ましいことが分かる。一方、接触角度θが小さすぎると、回転シャフト4を軸受部5が十分に支持できず、回転シャフト4が軸振れするおそれがある。このため、接触角度θは、30°±5°程度、すなわち、25°〜35°程度に設定することが好ましいと考えられる。
【0063】
一方、
図8に示すNY4ポンプは、接触角度θをNY3ポンプと同じ60°に設定し、インペラ3の直径をNY3ポンプよりも大きい34mmに設定したものである。インペラ3の直径を大きくすることで、ポンプ流量を向上させることができる。従って、ポンプ流量を同じとした場合、インペラ3の回転数を低減することができる。このため、
図8には、NY4に対して、インペラ3の回転数を1,760rpm、ポンプ流量を50mL/minとして溶血評価試験を行い、当該溶血評価試験により得られた一般化溶血指数(NIH(g/20min))が示されている。
【0064】
図8から分かるように、NY4ポンプの一般化溶血指数は約0.0085であった。これにより、本実施例に係るNY4ポンプによれば、NY3ポンプよりも溶血を抑えられることが分かる。すなわち、インペラの直径を大きくしてインペラの回転数を低減することで、溶血をより一層抑えられることが分かる。
【0065】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記では、インペラ3の流路31の形状を直線状としたが、本発明はこれに限定されない。インペラ3の流路31は、円弧状などの他の形状であってもよい。
【0066】
また、前記では、インペラ3は、2つの流路31,31を備えるものとしたが、本発明はこれに限定されない。インペラ3は、1つ又は3つ以上の流路31を備えてもよい。この場合、インペラ3の回転バランスを損ねないように、流路31は、バランスよく配置されることが好ましい。例えば、インペラ3が3つの流路31を備える場合、流路31は均等間隔に配置されることが好ましい。なお、前記実施形態のようにインペラ3の流路31を2つにする方が、製造が容易であるとともに、インペラ3の回転バランスも取りやすい。