(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674808
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】水力発電装置
(51)【国際特許分類】
F03B 7/00 20060101AFI20200323BHJP
【FI】
F03B7/00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-57264(P2016-57264)
(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-172399(P2017-172399A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 政彦
【審査官】
松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/010675(WO,A1)
【文献】
特開2015−14219(JP,A)
【文献】
特開2003−106247(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3147950(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3160105(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路上に架設した支持台の上面に、左右1対として配設した軸支持体の間に、水車筐体の上面に固定した吊支体の上部を、水平の吊軸を介して垂直に掛吊って設置し、水平の吊軸を中心に水車筐体が回転可能、かつ支持台上に引揚げ可能としてなることを特徴とする水力発電装置。
【請求項2】
前記軸支持体の上面の前後の中央部には、下向きの軸受溝を形成し、これに上方から挿入する吊支体の上縁部における水平の吊軸を支持するようになっていることを特徴とする請求項1に記載の水力発電装置。
【請求項3】
前記吊支体の上面に、水車筐体を吊下げるためのフックが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の水力発電装置。
【請求項4】
前記吊支体の上部には、水平の吊軸を中心に、水車筐体を揺動させるための梃子杆が着脱可能に装着されていることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の水力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設置の作業性と、設置後の保守管理に優れた水力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
用水路に吊設される水力発電機としては、水路の両岸の間に横架した吊桁に、水車を吊設してあるものが一般的である。この場合、水路上での水車の吊設作業には、地形的に困難が伴うものであるが、例えば、水車をワイヤで吊って、上下動させるようにしたものが、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−14219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような手法では、水路上に架設した支持部材の上に、支持柱を立設してプーリを配し、離れた位置に別の支持柱を設けてプーリを配し、両プーリの間にワイヤを巻回し、ワイヤの前端を水車の吊柱の上端に連結し、後端に重錘を配設して、水車をプーリに吊設するものである。
しかし、このものにおいては、プーリの取付作業は面倒であり、また、水車を水中に降下させる作業も容易ではない。更に水車を支持部材の上に引揚げる作業は困難である。
本発明は、水車の吊設作業が容易で、更に水車を水面上に引揚げて、保守管理を容易にすることができるようにした水力発電装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の具体的な内容は、次の通りである。
【0006】
(1) 水路上に架設した支持台に、左右1対で配設した軸支持体の間に、水車筐体の上面に固定した吊支体の上部を、水平な吊軸を介して垂直に掛吊って設置し、吊軸を中心に水車筐体が回転可能、かつ支持台の上に引揚げ可能としてなる水力発電装置。
【0007】
(2) 前記軸支持体の上面の前後の中央部には、下向きの軸受溝が形成され、上方から挿入する吊支体の上縁部における水平の吊軸を支持するようになっている前記(1)に記載の水力発電装置。
【0008】
(3) 前記吊支体の上面に、水車筐体を吊下げるためのフックが形成されている前記(1)または(2)に記載の水力発電装置。
【0009】
(4) 前記吊支体の上部には、水平の吊軸を中心に、水車筐体を揺動させるための梃子杆が着脱可能に装着されるようになっている前記(1)〜(3)のいずれかに記載の水力発電装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、次のような効果が奏せられる。
【0011】
前記(1)に記載の発明は、水車筐体の上面に固定した吊支体の上部を、水平の吊軸を介して軸支持体に掛吊るので、設置が容易である。
また、水平の吊軸を支点として、水車筐体を回転させて用水路の上に引揚げることができるので、保守管理が容易である。
【0012】
前記(2)に記載の発明は、水路上に架設した支持台に、左右一対で配設した軸支持体の上面の前後の中央部に、下向きの軸受溝が形成され、吊支体の上縁部における水平の吊軸を、上から挿入して支持するようになっているので、吊掛けが容易である。また取外しも容易で、水車筐体を揺動させることも容易である。
【0013】
前記(3)に記載の発明は、吊支体の上面に、水車筐体を吊下げるためのフックが形成されているので、フックにクレーンの吊索をかけて移動させたり、担ぎ棒をフックにかけて人が担いで移動させることができる。
【0014】
前記(4)に記載の発明は、水車筐体上の吊支体の上部には、水平の吊軸を中心に、水車筐体を揺動させるための梃子杆が着脱可能に装着させるので、梃子杆を傾倒させることによって、吊支体の下にある水車筐体を、水平の吊軸を支点として揺動させて、水中から引揚げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図1におけるII−II線縦断側面図である。
【
図3】
図1における吊支体上部に梃子杆を取付けた状態の側面図である。
【
図4】梃子杆を傾倒させて水車筐体を引揚げた状態の側面図である。
【
図5】梃子杆を傾倒させる牽引装置の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1、
図2に示すように、水力発電装置1は、用水路Rの上縁に架設された支持台2に吊設されている。
【0017】
支持台2は、水車や人の重量に耐えられる厚さのある方形の板状のもので、その左右方向の中央部には、水車筐体3の通過が可能な形状と寸法の貫通孔2Aが穿設され、その上流側の端部には、水車筐体3を吊るための吊支体4を嵌合しうる設置部2Bが連設されている。
【0018】
貫通孔2Aの下流側2Cは、ロータ5の出入りが可能な形状と寸法とされている。設置部2Bから下流側2Cまでの長さは、
図2に示す吊支体4の上端部における水平の吊軸7を中心に、水車筐体3の前端が、支持台2の上に出るまで回転可能な長さとしてある。
【0019】
前記設置部2Bの左右において支持台2上に、左右1対の軸支持体8、8が立設されている。軸支持体8の上面の前後の中央部に、U字状の軸受溝9、9が形成され、その溝底に、吊体4の水平の吊軸7が回転可能に支持されるようになっている。
【0020】
水車筐体3の内部には、図示しない発電機が配設され、その回転軸に連結されているロータ軸5Aの後端部は、水車筐体3から後方に突出し、その端部にロータ5が固定されている。ロータ5は、ハブに複数の揚力型ロータブレード6を固定してなり、揚力型ブレード6の翼端は、上流方向へ傾斜する傾斜部6Aとされている。
【0021】
水車筐体3の上面には、中空の吊支体4が垂直に固定されている。水車筐体3内に設けた図示しない発電機の出力コード11は、吊支体4の内部を通って、吊支体4の上縁部から外部に突出し、その先端は、支持台2上に配設された蓄電池10に連結されている。
【0022】
吊支体4の長さは、設置する用水路Rにおいて、支持台2から水車筐体3を、水中に配設できる適度の長さとされている。吊支体4の上縁部には、左右方向へ突出する水平の吊軸7が固定されている。また吊支体4の上端部には、水車筐体3を吊下げるためのフック12が固定されている。
【0023】
前記支持台2を用水路Rに設置した後、用水路Rの近くに置いてあった水車筐体3における吊支体4を上向きとし、フック12に、例えばワイヤをかけて、クレーンで吊上げ、貫通孔2Aまで移動させる。水車筐体3が小型で軽量の場合には、フック12に図示しない担ぎ棒を当てて、2人で担ぐことができる。
【0024】
水車筐体3を、貫通孔2Aから水中に降下させながら、吊支体4を設置部2Bまで移動させて、吊支体4の上縁部に設けてある水平の吊軸7を、軸支持体8の上面に設けてあるU形の軸受溝9に落し込み、軸支持体8における固定ピン8Aにより、吊支体4を揺動しないように固定する。
【0025】
吊支体4から出ている出力コード11の先端を、支持台2上の蓄電池10に接続させ、しかる後、水車筐体3内の図示しない発電機の回転軸とロータ軸5Aとの間の、図示しない電磁式クラッチを作動させると、ロータ5の回転に伴って、発電機は発電を開始する。
【0026】
このようにして、水車筐体3を、短時間で容易に用水路Rに配設することができる。また発電機などの保守管理をする時には、図示しない電磁式クラッチをオフにして発電を停止させ、軸支持体8における固定ピン8Aを外して、フック12にワイヤをかけてクレーンで吊り、水車筐体3を、支持台2の貫通孔2Aを経て支持台2の上に引揚げる。
【0027】
水車筐体3が軽量な時には、フック12に担ぎ棒を掛けて、2人で引揚げることができる。水車筐体3には、用水路Rにおける流水の力が作用しているので、
図2に仮想線で示すような固定杆13を、吊支体4の左右と支持台2との間に設けることもある。
【0028】
図3は、吊支体4の上部に、梃子杆14を着脱可能に取着けた状態を示す側面図である。梃子杆14は、吊支体4の高さよりも長く、その下部には、吊支体4の上縁に外嵌可能な挾部14Bを持つ二又部14Aが形成されている。
【0029】
吊支体4の水平の吊軸7を、軸支持体8の軸受溝9に落し込んだ時、水車筐体3は、用水路Rの水流で下流へ押されるため、
図3における梃子杆14の上部を、同図の右方向へ引きながら、固定ピン8Aの位置を確かめて固定する。その後、梃子杆14は、取外して、他の場所で使用するか、保管される。
【0030】
また、
図3において、固定ピン8Aを抜いて、梃子杆14の上縁を
図3における左方向へ押し倒すと、
図4に示すように、水平の吊軸7を中心として、水車筐体3を、支持台2の上まで押上げることができる。その後は、
図4に示すように、支持台2の貫通孔2Aの上に治具15を横架して、吊支体4を支持させ、水車筐体3の内部やロータ5の保守点検をすることができる。
【0031】
図5は、
図3に示すように、梃子杆14の上縁部に固定してある牽引索取付具14Cに、ー端を固定した牽引索16を牽引して、梃子杆14を傾倒させ、水車筐体3を支持台2上に引揚げるための牽引装置17を示している。
【0032】
牽引装置17の台座18の下面に突設してある嵌合突体18Aを、支持台2に形成した嵌装孔2Dに着脱可能に嵌合させて、1対の軸支持体19、19を立設させる。これにより、牽引装置17は、必要に応じて支持台2に固定することができる。軸支持体19に横架された支持軸20に、ワイヤ16を巻取るための巻輪21が、回転可能に装着されている。
【0033】
巻輪21には、ラチェットの爪車22が同軸で固定されている。爪車22と並んで、同軸で揺動可能に立設された作動杆23に設けた押爪24の先端は、爪車22の爪歯22Aと係合し、作動杆23の前後揺動によって、爪車22を一駒づつ回転させるようになっており、台座18に設けた戻止爪25により、爪車22の逆回転が抑止されるようになっている。
【0034】
図3に示す梃子杆14を、手作業で傾倒出来ない場合には、牽引索取付部14Cに牽引索16を取付け、その先端部を
図5における巻輪21に固定する。しかる後、
図6に示す作動杆23を前後に揺動することによって、ラチェット機構によって牽引索16を巻輪21に巻取ることができる。
【0035】
巻輪21に牽引索16が巻取られることによって、
図3における梃子杆14は次第に
図3の左方向に傾倒し、
図2における水車筐体3が、水平の吊軸7を支点として回転して支持台2まで上昇するので、
図4に示す治具15によって、支持台2上に吊支体4を保持して、水車筐体3内やロータ5の保守点検を行なうことができる。
【0036】
水車筐体3を水中に戻すには、
図6における作動杆23の押爪24を、爪車22の爪歯22A1個分ほど後退させ、戻止爪25のペタル25Aを踏むことにより、爪車22が1爪分後退回転させる。
【0037】
これを連続して継続することによって、
図3における梃子杆14を直立方向へ戻すことができ、水車筐体3を緩やかに降下させ、次第に水中に没設させることができる。前記梃子杆14や牽引装置17は、作業現場に携帯すればよいので、水車の設置現場に様々な装置を設置しておく必要がなくなる。
【0038】
なお、図においては、水力発電機1を水路の上下流方向で回転させるように記載されているが、水路の幅が広い所などでは、水路幅方向に回転させることができるのは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
水車筐体の上面に形成した吊柱体を、水平の吊軸を介して軸支持体に掛吊るだけであるので、水車の設置が容易で、かつ水中から引揚げることも容易なので、保守管理が容易で、用水路での水力発電装置に高い利用効果が得られる。
【符号の説明】
【0040】
1.水力発電装置
2.支持台
2A.貫通孔
2B.設置部
2C.下流側
2D.嵌合孔
3.水車筐体
4.吊支体
5.ロータ
5A.ロータ軸
6.揚力型ブレード
6A.傾斜部
7.吊軸
8.軸支持体
8A.固定ピン
9.軸受溝
10. 蓄電池
11.コード
12.フック
13.固定杆
14.梃子杆
14A.二又部
14B.挾部
14C.牽引索取付具
15.治具
16.牽引索
17.牽引装置
18.台座
18A.嵌合突体
19.軸支持体
20.支持軸
21.巻輪
22.爪車
22A.爪歯
23.作動杆
24.押爪
25.戻止爪
25A.ペタル
R.用水路