特許第6674814号(P6674814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマダインフラテクノス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6674814-鋼構造物の予防保全工法 図000002
  • 特許6674814-鋼構造物の予防保全工法 図000003
  • 特許6674814-鋼構造物の予防保全工法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6674814
(24)【登録日】2020年3月11日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】鋼構造物の予防保全工法
(51)【国際特許分類】
   B24C 1/10 20060101AFI20200323BHJP
   B24C 11/00 20060101ALI20200323BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20200323BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20200323BHJP
   B24C 9/00 20060101ALI20200323BHJP
   E01D 1/00 20060101ALN20200323BHJP
【FI】
   B24C1/10 A
   B24C11/00 Z
   E01D22/00 Z
   E04G23/02 A
   B24C9/00 E
   !E01D1/00 E
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-66925(P2016-66925)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-177268(P2017-177268A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】503055554
【氏名又は名称】ヤマダインフラテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】山田 博文
(72)【発明者】
【氏名】山田 翔平
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−052248(JP,A)
【文献】 実開平03−026461(JP,U)
【文献】 特開平09−248714(JP,A)
【文献】 特開2004−017241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 1/00 − 11/00
E01D 1/00
E01D 22/00
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物に対してショットを投射する鋼構造物用ショットピーニング処理方法を含む鋼構造物の予防保全工法であって、
前記ショットは、鋼構造物の表面に衝突したときの衝撃で破砕する硬度であるショットが含まれており、
前記鋼構造物に対して素地調整するために研削材としてのグリットを用いてブラスト処理を行う工程Aと、
工程Aの後、前記素地調整の対象となる部分に対して疲労強度向上のために前記鋼構造物用ショットピーニング処理方法を実行する工程Bと、
前記工程Aで発生した使用済みグリット、並びに、前記工程Bで発生した、破砕したショットを含む使用済みショットを分別しつつ回収する工程と、
前記の工程Aで発生した使用済みグリット、並びに、前記工程Bで発生した、破砕したショットを含む使用済みショットを分別しつつ回収する工程の後に、前記使用済みグリットと前記破砕した使用済みショットとを、前記鋼構造物に対して素地調整するためにグリットとして用いてブラスト処理を行う工程と、
を含むと共に、
前記使用済みグリットと前記破砕した使用済みショットとを、前記鋼構造物に対して素地調整するためにグリットとして用いてブラスト処理を行う工程を行った後で、前記素地調整の対象となる部分に対して最終仕上げ塗装を施す工程Cと、
を含む
ことを特徴とする鋼構造物の予防保全工法
【請求項2】
投射するショットのビッカース硬さHが、
650kgf/mm≦H≦950kgf/mm
である請求項1に記載の鋼構造物の予防保全工法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼橋、トンネル、及び工場プラント等の鋼構造物における鋼構造物用ショットピーニング処理方法、及び該鋼構造物における予防保全工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、新設するものや既設のものに関わらず鋼橋等の鋼構造物はサビ等の発生を防ぐために、あるいは特に既存の鋼構造物においては経年劣化によって腐食が進行した塗装の更新のために、予防保全が施されている。このように予防保全は、サビ等を取り除いたり、古い塗膜を取り除いたりする必要があるため、近年ではブラスト処理(1種ケレン)によってサビや塗膜を除去し、その後、新規の塗装を施すことが行われている。
【0003】
通常、このようなブラスト処理に用いられている研掃材には天然鉱物からなるアルマンダイトガーネットや造鉱物である製鉄スラグ等が用いられている。ところが、このようなアルマンダイトガーネットや製鉄スラグを研掃材に用いると、ブラスト処理の際に研掃材が破砕してしまい、莫大な廃棄物が発生してしまう。特に古い塗膜にPCB(ポリ塩化ビフェニル)、あるいは鉛等が使用されている場合には、除去した古い塗膜だけでなくブラスト処理に用いた研掃材も含めて特別管理産業廃棄物となり、その処理に多大なコストがかかってしまう。
【0004】
このような問題に対して、例えば特許文献1には、研掃後の研掃材と粉塵等を回収タンクに回収した後、回収タンク内で研掃材と粉塵等とを分離、及び分級して粉塵等を捕集し、一方、分離された研掃材を再利用する構造物表面の研掃システムが開示されている。
【0005】
また、上記問題とは別に、鋼構造物は、溶接箇所において強度に偏りが発生することがある。ここで、例えば鋼道路橋のような場合には、車が通行したり強い風が吹いたりする際に橋全体がゆれたり振動したりすることによって、強度に偏りが生じた溶接箇所から疲労亀裂が発生する問題が生ずる。このため、補修に莫大な経費がかかっているのが実状である。
【0006】
また、例えば特許文献2には、鋼構造体の溶接継手に起因する構造的不連続部にプライマーを塗布することによって亀裂の発生を予防する方法が開示されている。
【0007】
また特許文献3には、溶接継手の端面、及び溶接継手の端部における溶接止端部に超音波ピーニング処理を行う溶接継手の疲労性能向上方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−207624号公報
【特許文献2】特開2006−102738号公報
【特許文献3】特開2006−142367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記したような従来構成は、依然として、工期が長引くことが多く、当然コストも莫大なものとなっていた。
【0010】
そこで本発明は、工期を大幅に短縮でき、これによりコストも大幅に縮小できる鋼構造物用ショットピーニング処理方法、及び鋼構造物の予防保全工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、鋼構造物に対してショットを投射する鋼構造物用ショットピーニング処理方法であって、前記ショットは、鋼構造物の表面に衝突したときの衝撃で破砕する硬度であることを特徴とする鋼構造物用ショットピーニング処理方法である。
【0012】
かかる構成にあっては、鋼構造物(新設の鋼構造物でもよいし既設の鋼構造物でもよい。)に衝突したショットが割れる(破砕される)ことによって鋼構造物表面に与える応力を増大させ、疲労強度や耐応力腐食割れ性を効果的に向上させることができる。
【0013】
また、前記の鋼構造物用ショットピーニング処理方法を含む鋼構造物の予防保全方法であって、前記鋼構造物用ショットピーニング処理方法で得られる破砕した使用済みショットをグリットとして鋼構造物に投射する鋼構造物用ブラスト処理方法を含むことを特徴とする鋼構造物の予防保全工法が提案される。
【0014】
かかる構成にあっては、ショットピーニング処理を実行することによって得られる破砕したショットをグリットとして再利用することができ、施工コストを大幅に低減することができる。
【0015】
さらに、鋼構造物に対して素地調整するために研削材としてのグリットを用いてブラスト処理を行う工程Aと、前記素地調整の対象となる部分に対して疲労強度向上のために前記鋼構造物用ショットピーニング処理方法を実行する工程Bと、を含むと共に、前記工程A及び前記工程Bを行った後で、前記素地調整の対象となる部分に対して最終仕上げ塗装を施す工程Cを含み、前記工程Aにおいては、前記工程Bで得られる破砕した使用済みショットをグリットとして使用することを含む構成が提案される。
【0016】
ここで一般的に、いわゆる1種ケレンの施工を行う場合には、鋼構造物に対して足場を組んだり、粉塵が外部へ漏出することを防止するために防塵シートを張設したりして仮設養生設備を設けるが、上記の本発明にあっては、鋼構造物に対して、ブラスト処理を実行する工程Aと、ショットピーニング処理を実行する工程Bとで共通の仮設養生設備を用いることができる。したがって、工程Aと工程Bとで別々に工事を行う必要がなく、作業工程に無駄がなくなり、工期を効果的に短縮してコストも飛躍的に削減することができる。加えて、破砕した使用済みショットをグリットとして再使用することにより、工程Aのブラスト処理で必要とされる新規のグリットが少量で済むことになり、これにより一層コストを低減することができる。
【0017】
なお、投射するショットのビッカース硬さHが、650kgf/mm≦H≦950kgf/mmであることが望ましい。また、ビッカース硬さは、JIS Z 2244に準拠して測定されることが望ましい。
【0018】
ここで、鋼構造物の表面に衝突したときの衝撃で破砕する硬度のショットとしては、上記条件のショットが好適であるが、上記硬度Hが650kgf/mm未満であると、ショットピーニング効果が十分に得られないし、破砕したショットが粉砕されることによってグリットとして再利用することが困難となる。一方、上記硬度Hが950kgf/mmを超えると、投射時に破砕しにくくなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のショットピーニング処理方法は、疲労強度や耐応力腐食割れ性を効果的に向上させることができる。また、前記ショットピーニング処理方法によって破砕したショットをグリットとしてブラスト処理方法で再利用することで、コストを大幅に低減することができる。
【0020】
また、本発明の鋼構造物の予防保全工法は、破砕したショットをグリットとして再利用することができるため、コストを飛躍的に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】鋼橋の予防保全の手順を示すフロー図である。
図2】循環式ブラスト装置を説明する概要説明図である。
図3】分別室を切断して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した実施例を詳細に説明する。なお、本発明は、下記に示す実施例に限定されることはなく、適宜設計変更が可能である。
【0023】
図1に示すように、既存の鋼橋(鋼構造物)の予防保全(再塗装)手順としては、まず予防保全の対象となる鋼橋に仮設養生設備を設置する。具体的には、鋼橋に足場を仮設すると共に、外部に粉塵が漏出しないように防塵シートを張設する。また、非塗装部分の養生を行い、ブラスト処理及びショットピーニング処理を行うための装置を設置する事前準備(S101)を行う。
【0024】
その後、前記鋼橋に塗布されている旧塗料の種類や厚さ、あるいは該鋼橋の状況等を調査(S102)する。そして、調査結果に基づき、使用するグリット及びショットの種類や噴射速度等を決定する。
【0025】
このとき、選定するショット(球形)は、ビッカース硬さHが、
650kgf/mm≦H≦950kgf/mm
のものを使用する。材料は特に限定されず、金属や鉱石、セラミック等公知のものが好適に適用可能である。
【0026】
そして前記S102において決定したグリットを用いて、まずブラスト処理を行う(S103)。具体的には、前記鋼橋における剥離対象の塗膜等の剥離と素地調整対象の部分の素地調整を行う。かかるブラスト処理により、本発明における工程Aが構成される。なお、該ブラスト処理によって剥離した塗膜やサビ等、及び使用済みグリットが粉塵として発生するが、前記S101において防塵シートを張設しているため、外部に粉塵が漏出することはなく、該粉塵が作業現場に堆積していく。
【0027】
続いて、グリットを噴射したブラスト装置に対して、グリットに代えて前記S102によって決定したショットを装填して該ショットを噴射可能とする(ショット入れ替え工程)。ここで、仮設した足場や防塵シートは撤去することなく継続して使用する。
【0028】
そして、前記ブラスト処理によって形成された素地面からなるブラスト処理済部分(すなわち素地調整部分)に対して、前記ショットに入れ替えたブラスト装置を用いてショットピーニング処理を行う(S104)。かかる処理により、素地面の疲労強度及び耐応力腐食割れ性が向上する工程Bが構成される。なお、該ショットピーニング処理で使用するショットは、ビッカース硬さHが、
650kgf/mm≦H≦950kgf/mm
であるものを含み、かかるショットは、投射時の作業圧力(エアー圧力)が0.6MPa〜0.7MPaであるため、投射した面に衝突したときの衝撃で破砕した状態となり、そのまま作業現場に、S103における使用済みグリットと混在しつつ堆積していく。ところで、該ショットピーニング処理は前記ブラスト処理を行った全ての素地面に対して行ってもよいし、溶接箇所周辺や強度に不安のある箇所等に対して適宜部分的に行ってもよい。
【0029】
その後、前記ブラスト処理、及びショットピーニング処理を行った素地面の確認を行う(S105)。かかる確認は目視確認のみならず、例えばISO8501ブラスト写真帳による比較、あるいは表面粗さ測定器による粗さ確認等も含まれる。これによって未剥離の塗膜が残っていないか、あるいは素地面の粗さが規格内であるか、等の確認がなされ、不十分な箇所に対して的確な処理がなされることとなる。例えばブラスト処理を行うことのできない箇所は手工具等を用いて素地調整がなされる。
【0030】
こうして素地面の確認が済んだ部分に対して最終塗膜を形成するための最終仕上げ塗装を行う(S106)。かかる塗装工程により、本発明にかかる工程Cが構成される。なお、かかる塗装は、例えば防錆塗装として下塗り塗装、該防錆塗装を保護する中塗り塗装、及び最終仕上げ塗装となる上塗り塗装のように複数回にわたって層状に塗装されることが一般的である。
【0031】
前記塗装が済むと、その確認(S107)が行われる。かかる確認は塗装が乾燥した後の膜厚確認だけでなく、例えば塗装作業中にウェットネスゲージを用いてウェット膜厚の確認等も含まれる。また、このような確認は前記最終仕上げ塗装となる上塗り塗装後のみならず、前記下塗り塗装、及び中塗り塗装時にも行われる。
【0032】
前記確認によって塗装作業が完了すると、現場の片付けを行う(S108)。具体的には、足場や防塵シート等の回収、及びブラスト−ショットピーニング噴射装置の撤収を行って予防保全の完了となる。
【0033】
また、上記手順と共に、粉塵の回収工程を実行する(S110)。具体的には、前記ブラスト処理(S103)で発生した使用済みグリット、前記ショットピーニング処理(S104)で発生した使用済みショット、及び、各工程で生じた剥離物やサビ等を含む粉塵を分別しつつ回収していく。
【0034】
なお、回収した使用済みグリットやショットの破砕物はブラスト処理のグリットとして再利用することができる。また、ショットピーニング処理によって破砕しなかった(球形を維持した)ショットはショットピーニング処理のショットとして再利用することができる。特にショットの破砕物はブラスト処理のグリットとして有効に再利用することができる。従って一つの作業現場でグリットを新規に投入する必要がほとんど無くなり、非常に経済的であると共に、剥離した塗膜やその他の異物と分別することで廃棄物の量を大幅に減少させることができる。
【0035】
以下、グリットとショットとを共通の装置で噴射することが可能であり、しかも使用済みグリット、使用済みショット、及び剥離した塗膜等を回収してそれぞれ分別することができる循環式ブラスト装置1を一例として説明する。
【0036】
図2に示すように、前記循環式ブラスト装置1は、作業対象となる鋼橋Kの作業現場αに隣接して設置される装置本体部2を備えている。さらに該装置本体部2は、圧送ホース4を具備し、該圧送ホース4の先端に噴射器3が接続されている。該噴射器3からはグリットgやショットsが噴射される。また、前記装置本体部2は、吸引ホース5を具備し、該吸引ホース5の先端が作業現場αに配置されている。これにより、該吸引ホース5を介して、作業現場αで発生した使用済みグリットg’、ショットの破砕物sg(以下単に破砕物sgと記載する)、破砕しなかったショットs’(以下使用済みショットs’と記載する)、及び剥離した塗膜やサビ等を含む異物Dからなる粉塵Xを吸引することができる。なお、粉塵Xが外部に漏出しないように、図示しない防塵シートが作業現場αには張設され、送風機や集塵装置等も適宜設置される。
【0037】
また、図2に示すように、前記循環式ブラスト装置1の装置本体部2には、グリットホッパータンク10とショットホッパータンク20とが互いに隣接して配設されている。さらに詳述すると、該グリットホッパータンク10は、グリットg、使用済みグリットg’及び破砕物sg(以下、これらの混合物をグリットGという)を貯留しておく機能を有している。また、前記ショットホッパータンク20は、ショットs及び使用済みショットs’(以下、これらの混合物をショットSという)を貯留しておく機能を有している。さらに、前記グリットホッパータンク10には、該グリットホッパータンク10内に貯留されたグリットGを作業現場αまで圧送するためのグリット加圧タンク11が接続されている。また、同様に、前記ショットホッパータンク20には、該ショットホッパータンク20内に貯留されたショットSを作業現場αまで圧送するためのショット加圧タンク21が接続されている。
【0038】
さらに、前記グリット加圧タンク11及び前記ショット加圧タンク21には、乾燥圧縮空気配管31を介して乾燥圧縮空気供給手段30が接続されている。かかる乾燥圧縮空気供給手段30は、乾燥した圧縮空気を供給するためのエアコンプレッサーとエアドライヤーとで構成されている。また、前記乾燥圧縮空気配管31には切換弁32が備えられており、乾燥圧縮空気を前記グリット加圧タンク11又はショット加圧タンク21に選択的に送給可能とされ、グリットに代えてショットを噴射可能に装填自在としている。
【0039】
また、前記グリット加圧タンク11及び前記ショット加圧タンク21には、前記圧送ホース4が接続されている。そして、かかる構成により、前記乾燥圧縮空気供給手段30から供給された乾燥圧縮空気による空気圧よってグリットG又はショットSが該圧送ホース4を介して噴射器3から噴射され、作業対象となる鋼橋Kにブラスト処理、あるいはショットピーニング処理が実行可能となっている。
【0040】
前記作業現場αに堆積した使用済みグリットg’、破砕物sg、使用済みショットs’、及び剥離した塗膜等の異物Dを含む粉塵Xは、前記吸引ホース5の一端からまとめて吸引される。そして、該吸引ホース5によって吸引された粉塵Xは、グリットホッパータンク10とショットホッパータンク20との上方に配された分別室40内に到達する。
【0041】
また、前記分別室40には、ダストホース51が取り付けられており、該ダストホース51には、剥離塗膜回収部としてのダスト回収部50が接続されている。さらに、該ダスト回収部50には、粉塵吸引手段としての空気吸引装置60が接続されている。したがって、該空気吸引装置60の空気吸引力によって、前記粉塵Xが吸引可能となっている。
【0042】
ここで、図3に示すように、前記分別室40は、横長で気密性が保たれた流路41を有しており、該流路41の上流側(図3中左側)に吸入口42が設けられている。また、下流側には当該流路41の流路方向に対して傾斜して配置された反射板43が取り付けられている。さらに、該反射板43の下側には排出部44が設けられている。加えて、排出部44を基準にして上流側に使用済みグリット回収部45が配設され、該使用済みグリット回収部45の上流側に使用済みショット回収部46が配設されている。該排出部44は前記ダストホース51に接続されていると共に、前記ダスト回収部50を介して前記空気吸引装置60に接続されており、該分別室40における空気流動は該吸入口42を上流として該排出部44を下流としている。
【0043】
ここで、前記吸引ホース5から前記吸入口42を介して前記流路41に導入された前記粉塵Xは、それぞれ前記空気吸引装置60の空気吸引力によって所定速度を保って該流路41内を進む。そして、比重の軽い剥離した塗膜やサビ等の異物Dは、該流路41内の空気流動に沿ってそのまま前記排出部44へ排出される。排出された異物Dは、前記ダストホース51を介してダスト回収部50に導入されてダスト回収部50内で堆積され、所望のタイミングで廃棄物袋52に排出されて産業廃棄物として処理される。
【0044】
また、前記使用済みグリットg’、破砕物sg、及び使用済みショットs’は比重が重く、所定速度を与えられた状態では該流路41内を空気流動に沿うのではなく慣性に従って直進し前記反射板43に衝突する。このとき、該使用済みショットs’は上記したように球形状であるため最も効率良く跳ね返る。これに対して該使用済みグリットg’及び破砕物sgは角張った形状をしているため、該使用済みショットs’に比べると跳ね返りは小さくなる。こうした跳ね返る距離の相違に基づき、該流路41下部の該反射板43近くで該排出部44よりも前記吸入口42に近い方に前記使用済みグリット回収部45が設けられ、該流路41下部の該使用済みグリット回収部45よりもさらに該反射板43から遠い(該吸入口42に近い)方に前記使用済みショット回収部46が設けられている。かかる構成により、振動篩等の機械的操作を用いずに前記空気吸引装置60の空気吸引力のみによって前記粉塵Xを使用済みグリットg’と破砕物sg、使用済みショットs’、及び剥離した塗膜を含む異物Dをそれぞれ分別することが可能となる。こうして分別された使用済みグリットg’と破砕物sgは前記分別室40下側にある前記グリットホッパータンク10に戻され、再利用される。また同様にして、使用済みショットs’も該分別室40下側にある前記ショットホッパータンク20に戻されて再利用される。こうしてグリットG及びショットSを循環して使用し続けることができる。
【0045】
なお、破砕物sgのうち、グリットとして使用することが不可能なほどに小さく破砕されたものは、異物Dと同様に前記排出部44へ排出されるため、前記使用済みグリット回収部45や前記使用済みショット回収部46を介して前記グリットホッパータンク10や前記ショットホッパータンク20に戻されることはない。
【0046】
上記した構成以外にも、本発明は、適宜設計変更可能である。例えば、前記切換弁32は作業現場αにおける作業者Hが切り換え操作できるように作業現場α内に設けられていてもよいし、あるいは遠隔操作可能にしてもよい。また、噴射器3と吸引ホース5は別体でもよいし、一体型(バキュームブラストタイプ)でもよい。また、乾燥圧縮空気供給手段30をグリット加圧タンク11とショット加圧タンク21とにそれぞれ個別に設けるようにしてもよい。また、圧送ホース4はグリット用とショット用とに分けて設けてもよい。また、噴射器3も、同様にグリット用とショット用とに分けても構わない。また、分別室40は、グリットホッパータンク10及びショットホッパータンク20の直上に配置する必要はなく、位置は特に限定されない。また、流路41内にあって、気密空間を実現する手法は特に限定されない。例えば、グリットホッパータンク10とショットホッパータンク20内に連通しつつ各ホッパータンク10,20を気密状態としてもよいし、グリットG又はショットSを一時貯留するための専用タンクを配置し、所望のタイミングで各ホッパータンク10,20にグリットG及びショットSを供給するようにしてもよい。また、循環式ブラスト装置1内でのグリット量あるいはショット量が規定値よりも少なくなった場合には新品を供給することができるようにしておくことが望ましい。また、装置本体部2は例えば車両上に載置して移動可能としてもよい。また、本発明の予防保全工法は、鋼構造物の再塗装時のみならず新規に架設する鋼構造物に対して適用してもよい。例えば、新設する鋼構造物に対して、未だ塗装されていない表面に対してサビ等を除去すべく工程Aを実行し、その後、工程A実行時に使用した足場等の設備を撤去することなく工程Bを実行し、そして工程Cを実行するものである。かかる構成にあっても、防食性能を向上させることができると共に、工期を大幅に短縮でき、これによりコストも大幅に縮小することができる。
【0047】
なお、本発明における予防保全には、新設する際の鋼構造物、あるいは既設の鋼構造物に対して、腐食を予防するために行われる保全作業が含まれる。また、ブラスト処理、グリット、及びショットは、JIS Z 03120:2004「素地調整用ブラスト処理方法通則」において、それぞれ定義されている。具体的には、ブラスト処理とは「処理する鋼材表面に大きな運動エネルギーをもつ研削材を衝突させ、鋼材表面を細かく切削及び打撃することによって、鋼材表面の酸化物又は付着物を除去して鋼材表面を清浄化及び粗面化すること。」である。グリットとは「使用前の状態で、りょう角(稜角)をもつ角張った形状であり、丸い部分がその粒子の1/2未満の粒子。」である。ショットとは「使用前の状態で、りょう角(稜角)、破砕面又は他の鋭い表面欠陥がなく、長径が短径の2倍以内の球形状の粒子。」である。また、ブラスト処理において「研削材」は上記した「研掃材」と同義である。また、JIS B 2711:2013「ばねのショットピーニング」において、ショットピーニングとは「ばねの表面層に球形に近い硬質粒子を高速度で打ち当てることによって、疲労強度及び耐応力腐食割れ性の向上を図る冷間加工法。表面に圧縮残留応力を与え、その表面を加工硬化させる。」ことである。本発明においてブラスト処理を行うために用いられる研削材にはグリットが対応すると共に、ショットピーニング処理を行うために用いられる硬質粒子にはショットが対応する。なお、グリットとして、いわゆるスチールカットワイヤーが採用されてもよい。また、ショットとしていわゆるラウンドカットワイヤーが採用されてもよい。
【符号の説明】
【0048】
G グリット
S ショット
K 鋼橋(鋼構造物)
図1
図2
図3