【文献】
HORIUCHI Nobuhiko, et al.,CHEMISTRY LETTERS,1988年,Vol.17, No.3,p.499-502
【文献】
MA Zhongyi, et al.,Journal of Natural Gas Chemistry,2003年,Vol.12,P.113-118
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Niは、前記安定化ジルコニア担体に担持されるとともに、前記安定化ジルコニア担体に固溶していることを特徴とする、請求項1または2に記載のメタン化反応用触媒。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1.第1実施形態
(1−1)メタン化反応用触媒
メタン化反応用触媒は、COおよび/またはCO
2を水素と反応させてメタン化するためのメタン化反応用触媒であって、安定化ジルコニア担体と、安定化ジルコニア担体に担持されるNiとを備えている。
【0030】
安定化ジルコニア担体は、少なくとも安定化元素が固溶しており、Zrを主体とする正方晶系および/または立方晶系の結晶構造(単位格子)を有している。安定化ジルコニア担体の結晶構造は、Zrを主体(基本成分)として構成しており、安定化ジルコニア担体の結晶構造の複数の格子点には、主にZrイオン(Zr
4+)が配置されている。
【0031】
安定化元素は、安定化ジルコニア担体の結晶構造を、正方晶系および/または立方晶系となるように安定化している。安定化元素は、イオン半径がZrイオン(Zr
4+)よりも小さい遷移元素であって、具体的には、Mn、FeおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種の遷移元素である。
【0032】
また、第1実施形態の安定化ジルコニア担体では、安定化元素に加えて、Niが固溶している。
【0033】
安定化ジルコニア担体に安定化元素およびNiが固溶すると、結晶構造の複数の格子点のうち一部の格子点が、Zrイオンから、上記の遷移元素イオン(Mnイオン、FeイオンおよびCoイオン)およびNiイオンのいずれかに置き換わる。
【0034】
つまり、安定化ジルコニア担体に安定化元素が固溶するとは、結晶構造の格子点に配置されるZrイオンが上記の遷移元素イオンに置き換わることであり、安定化ジルコニア担体にNiが固溶するとは、結晶構造の格子点に配置されるZrイオンがNiイオンに置き換わることである。
【0035】
このような安定化ジルコニア担体は、Zrと、上記の遷移元素と、Niと、Oとを含んでおり、好ましくは、Zrと、上記の遷移元素と、Niと、Oとからなる。より具体的には、安定化ジルコニア担体は、下記一般式(1)で示される。
【0037】
一般式(1)において、xは、例えば、0.133以上、1未満、好ましくは、0.248以下である。一般式(1)において、yは、例えば、0.010以上、1未満、好ましくは、0.050以下である。
【0038】
一般式(1)において、Mは上記の遷移元素であって、αはその遷移元素イオンの価数を示す。より具体的には、遷移元素がMnである場合、M
α+として、Mn
3+およびMn
4+が挙げられ、好ましくは、Mn
3+が挙げられる。遷移元素がFeである場合、M
α+として、Fe
2+およびFe
3+が挙げられ、好ましくは、Fe
3+が挙げられる。遷移元素がCoである場合である場合、M
α+として、Co
2+およびCo
3+が挙げられ、好ましくは、Co
2+が挙げられる。
【0039】
一般式(1)で示される安定化ジルコニア担体の複数の格子点には、Zrイオン、上記の遷移元素イオンおよびNiイオンのいずれか1つが配置される。このような安定化ジルコニア担体の結晶構造は、好ましくは、ペロブスカイト構造を含んでいる。
【0040】
また、安定化ジルコニア担体は、酸素空孔を有している。酸素空孔は、安定化ジルコニア担体に遷移元素および/またはNiが固溶して、価数が3以下(2価または3価)の遷移元素イオンおよび/またはNiイオンが、Zrイオンと置換することにより形成される。
【0041】
具体的には、3価の遷移元素イオンがZrイオンと置換する場合、下記式(2)に示すクレガー=ビンク式に従って、安定化ジルコニア担体に酸素空孔が形成され、2価の遷移元素イオンまたはNiイオンがZrイオンと置換する場合、下記式(3)に示すクレガー=ビンク式に従って、安定化ジルコニア担体に酸素空孔が形成される。
【0044】
なお、4価の遷移元素イオンがZrイオンと置換する場合、それらの価数が同一であるため、安定化ジルコニア担体に酸素空孔は形成されない。
【0045】
このような安定化ジルコニア担体は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0046】
このような安定化ジルコニア担体のなかでは、触媒活性の観点から好ましくは、遷移元素がMnである安定化ジルコニア担体(具体的には、下記一般式(4)および(5)に示される安定化ジルコニア担体)が挙げられ、さらに好ましくは、下記一般式(4)および(5)に示される安定化ジルコニア担体の併用が挙げられる。なお、下記一般式(4)および(5)では、形成される酸素空孔を併せて記載している。
【0049】
また、安定化ジルコニア担体の結晶格子間隔は、安定化元素イオンおよびNiイオンのそれぞれのイオン半径が、Zr
4+のイオン半径よりも小さいことから、安定化ジルコニア担体に固溶する安定化元素およびNiの量に依存して変化する。なお、下記には参考のために、Zr
4+、Ni
2+、Mn
3+およびMn
4+のイオン半径を示す。
Zr
4+:0.079nm
Ni
2+:0.069nm
Mn
3+:0.072nm
Mn
4+:0.067nm
より具体的には、Zrイオンよりもイオン半径が小さい安定化元素イオンおよびNiイオンが、結晶構造により多く取り込まれると(すなわち一般式(1)においてxおよびyが増加すると)、安定化ジルコニア担体における結晶格子面間隔は縮小する。
【0050】
安定化ジルコニア担体の結晶構造における[111]面の格子間隔は、例えば、0.2920nm以上、好ましくは、0.2930nm以上、例えば、0.2960nm以下、好ましくは、0.2955nm以下である。なお、安定化元素およびNiが固溶されていない安定化ジルコニアの結晶構造における[111]面の格子間隔は、正方晶ジルコニアの場合には0.2975nm、立方晶ジルコニアの場合には0.2965nmである。
【0051】
また、メタン化反応用触媒では、Niが上記の安定化ジルコニア担体に担持されている。
【0052】
Niは、NiOであってもよく、金属状態のNiであってもよいが、触媒活性の観点から好ましくは、金属状態のNiである。
【0053】
このような第1実施形態のメタン化反応用触媒は、安定化ジルコニア担体を構成するZrと、安定化ジルコニア担体に固溶する安定化元素と、安定化ジルコニア担体に固溶するNiと、安定化ジルコニア担体に担持されるNiとを含んでいる。
【0054】
つまり、Niは、安定化ジルコニア担体に担持されるとともに、安定化ジルコニア担体に固溶している。なお、以下において、Niとは、安定化ジルコニア担体に担持されるNiと、安定化ジルコニア担体に固溶するNiとの総和を示す。
【0055】
メタン化反応用触媒において、Zrと、安定化元素と、Niとの総和(以下、各原子の総和とする。)に対して、Zrの原子割合(=Zr/(Zr+安定化元素+Ni)×100)は、例えば、6.5原子%以上、好ましくは、20原子%以上、例えば、66.5原子%以下、好ましくは、50原子%以下である。なお、メタン化反応用触媒における、各原子の原子割合は、後述するメタン化反応用触媒の製造方法において使用される原料成分(ジルコニアおよび/またはZrの塩と、安定化元素の塩と、Niの塩)の仕込量から換算される。
【0056】
Zrの原子割合が上記範囲内であれば、安定化ジルコニア担体において、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を確実に形成することができる。
【0057】
また、メタン化反応用触媒において、各原子の総和に対して、安定化元素の原子割合(=安定化元素/(Zr+安定化元素+Ni)×100)は、例えば、0.5原子%以上、好ましくは、1.0原子%以上、さらに好ましくは、2.0原子%以上、例えば、24.5原子%以下、好ましくは、20原子%以下、さらに好ましくは、7.0原子%以下である。
【0058】
安定化元素の原子割合が上記範囲内であれば、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を確実に安定化することができる。
【0059】
また、メタン化反応用触媒において、各原子の総和に対して、Niの原子割合(=Ni/(Zr+安定化元素+Ni)×100)は、例えば、30.0原子%以上、好ましくは、50.0原子%以上、例えば、90.0原子%以下、好ましくは、70.0原子%以下である。
【0060】
Niの原子割合が上記下限以上であれば、触媒活性の向上を確実に図ることができ、Niの原子割合が上記上限以下であれば、Niが凝集し、Niの分散性が低下してしまうことを抑制できる。
【0061】
また、メタン化反応用触媒において、安定化元素/(Zr+安定化元素)の原子比は、例えば、0.05以上、例えば、0.50以下、好ましくは、0.35以下、さらに好ましくは、0.20以下、とりわけ好ましくは、0.15以下である。
【0062】
安定化元素/(Zr+安定化元素)の原子比が上記範囲内であれば、触媒活性の向上を確実に図ることができ、単位質量当たりのメタン収量の向上を確実に図ることができる。
【0063】
メタン化反応用触媒の形状は、特に制限されないが、好ましくは、粒子状である。メタン化反応用触媒が粒子状である場合、メタン化反応用触媒の平均二次粒子径は、例えば、7μm以上、好ましくは、10μm以上、例えば、100μm以下、好ましくは、70μm以下である。なお、平均二次粒子径は、電子顕微鏡法(JIS H7803:2005)に従って測定できる。
【0064】
メタン化反応用触媒の比表面積(BET比表面積)は、例えば、5m
2・g
−1以上、好ましくは、10m
2・g
−1以上、さらに好ましくは、20m
2・g
−1以上、とりわけ好ましくは、30m
2・g
−1以上、例えば、80m
2・g
−1以下、好ましくは、60m
2・g
−1以下、さらに好ましくは、50m
2・g
−1以下である。なお、メタン化反応用触媒の比表面積は、BET法(JIS Z8830:2013)に従って測定できる。
【0065】
メタン化反応用触媒の比表面積が上記の範囲であれば、触媒活性の向上を確実に図ることができ、単位質量当たりのメタン収量の向上を確実に図ることができる。
【0066】
また、メタン化反応用触媒には、必要に応じて、希釈成分、粒子成分、バインダーなどを添加することができる。
【0067】
希釈成分は、後述するメタン化反応にイナート(不活性)な物質であって、メタン化反応用触媒に希釈成分を添加することにより、メタン化反応用触媒の温度制御を容易にすることができる。
【0068】
希釈成分としては、例えば、アルミナ(例えば、α−アルミナ、θ−アルミナ、γ−アルミナなど)、チタニア(例えば、ルチル型チタニア、アナターゼ型チタニアなど)などが挙げられ、好ましくは、γ−アルミナが挙げられる。このような希釈成分は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0069】
希釈成分の添加割合は、メタン化反応用触媒100質量部に対して、例えば、100質量部以上、好ましくは、1000質量部以上、例えば、5000質量部以下である。
【0070】
粒子成分は、例えば、メタン化反応用触媒を流動床型反応装置に用いる場合に、メタン化反応用触媒を担持させるための担体であって、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、単斜晶ジルコニアなどが挙げられる。粒子成分は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。なお、粒子成分の添加割合は、メタン化反応用触媒の用途などに応じて任意に選択される。
【0071】
バインダーは、例えば、メタン化反応用触媒を流動床型反応装置に用いる場合に、メタン化反応用触媒同士を結着させるための結着成分であって、例えば、ケイ酸塩、チタン酸塩、アルミン酸塩、ジルコン酸塩などが挙げられる。バインダーは、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。なお、バインダーの添加割合は、メタン化反応用触媒の用途などに応じて任意に選択される。
【0072】
(1−2)メタン化反応用触媒の製造方法
次に、メタン化反応用触媒の製造方法の一実施形態について説明する。
【0073】
メタン化反応用触媒の製造方法は、原料成分を混合して混合物を調製する工程(混合工程)と、混合物を焼成してNiOを担持する安定化ジルコニア担体を調製する工程(焼成工程)とを含み、必要に応じて、NiOをNiに還元する工程(還元工程)をさらに含んでいる。
【0074】
混合工程では、原料成分としての、ジルコニア(ZrO
2)および/またはZrの塩と、上記の安定化元素の塩と、Niの塩とを、例えば、各原子(Zr、安定化元素およびNi)の原子割合が上記の範囲となるように混合する。
【0075】
ジルコニアとしては、例えば、低結晶性のZrO
2微粒子などが挙げられる。
【0076】
Zrの塩としては、例えば、Zrの硝酸塩(例えば、硝酸ジルコニウム(Zr(NO
3)
4)、硝酸酸化ジルコニウム(ZrO(NO
3)
2)など)、Zrの塩酸塩(例えば、塩化酸化ジルコニウム(ZrCl
2O)など)、Zrの酢酸塩(例えば、酢酸酸化ジルコニウム(ZrO(C
2H
3O
2)
2)など)などが挙げられる。Zrの塩は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0077】
このようなZrの塩は、市販品を用いることもでき、市販品としては、例えば、硝酸ジルコニウム五水和物(BOCサイエンス社製)、硝酸酸化ジルコニウム二水和物(関東化学社製)、塩化酸化ジルコニウム八水和物(関東化学社製)、酢酸酸化ジルコニウム(第一希元素工業社製)などが挙げられる。
【0078】
ジルコニアおよびZrの塩のなかでは、好ましくは、Zrの酢酸塩が挙げられ、さらに好ましくは、酢酸酸化ジルコニウムが挙げられる。
【0079】
安定化元素の塩としては、例えば、安定化元素の硝酸塩(例えば、硝酸マンガン(Mn(NO
3)
2)、硝酸鉄(Fe(NO
3)
3)、硝酸コバルト(Co(NO
3)
2)など)、安定化元素の塩化物(例えば、塩化マンガン(MnCl
2)、塩化鉄(FeCl
3)、塩化コバルト(CoCl
2))などが挙げられる。安定化元素の塩は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。安定化元素の塩は、市販品を用いることもできる。
【0080】
安定化元素の塩のなかでは、好ましくは、安定化元素の硝酸塩が挙げられ、さらに好ましくは、硝酸マンガン、硝酸鉄および硝酸コバルトが挙げられる。
【0081】
Niの塩としては、例えば、Niの硝酸塩(例えば、硝酸ニッケル(Ni(NO
3)
2)など)、Niの塩化物(例えば、塩化ニッケル(NiCl
2)など)などが挙げられる。Niの塩は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。Niの塩は、市販品を用いることもできる。
【0082】
Niの塩のなかでは、好ましくは、Niの硝酸塩が挙げられ、さらに好ましくは、硝酸ニッケルが挙げられる。
【0083】
原料成分を混合するには、例えば、ジルコニアゾルおよび/またはZrの塩の水溶液に、安定化元素の塩とNiの塩とを、各原子(Zr、安定化元素およびNi)の原子割合が上記の範囲となるように添加して、撹拌混合する。
【0084】
より具体的には、ジルコニアゾルおよび/またはZrの塩の水溶液に、安定化元素の塩を加え、撹拌混合して均一な溶液とした後、Niの塩を加え、例えば、1時間以上30時間以下撹拌混合する。
【0085】
これによって、ジルコニアおよび/またはZrの塩と、安定化元素の塩と、Niの塩とを含有する混合溶液が調製される。
【0086】
次いで、混合溶液を、例えば、恒温乾燥炉により加熱して、余剰な水分を揮発させる。
【0087】
混合溶液の加熱温度としては、例えば、100℃以上、好ましくは、150℃以上、例えば、200℃以下、好ましくは、170℃以下である。混合溶液の加熱時間としては、例えば、30分以上、好ましくは、1時間以上、例えば、10時間以下、好ましくは、3時間以下である。
【0088】
これによって、ジルコニアおよび/またはZrの塩と、安定化元素の塩と、Niの塩とを含有するスラリー状の混合物が調製される。
【0089】
次いで、混合物を、必要によりかき混ぜた後、焼成工程において、例えば電気炉などの加熱炉により焼成する。
【0090】
焼成温度としては、550℃以上、好ましくは、600℃以上、800℃以下、好ましくは、750℃以下、さらに好ましくは、700℃以下である。
【0091】
焼成温度が上記下限以上であれば、安定化ジルコニア担体の結晶構造を確実に正方晶系および/または立方晶系とすることができ、焼成温度が上記上限以下であれば、安定化ジルコニア担体の比表面積が過度に低下して、触媒活性が低下することを抑制できる。
【0092】
とりわけ、安定化元素がMnである場合、焼成温度が上記下限以上であれば、Mnの酸化数が変化して、Mn
3+を生じさせることができ、安定化ジルコニア担体に酸素空孔を確実に形成することができる。
【0093】
焼成時間としては、例えば、1時間以上、好ましくは、5時間以上、例えば、24時間以下、好ましくは、10時間以下である。
【0094】
これによって、混合物が焼成されて、上記一般式(1)で示す安定化ジルコニア担体が形成するとともに、安定化ジルコニア担体に酸化ニッケルが担持され、下記一般式(6)で示されるメタン化反応用触媒が調製される。
【0096】
つまり、安定化ジルコニア担体に安定化元素およびNiが固溶するとともに、安定化ジルコニア担体に酸化ニッケルが担持される。
【0097】
次いで、還元工程において、上記一般式(6)で示されるメタン化反応用触媒を、水素気流により還元処理する。
【0098】
より具体的には、上記一般式(6)で示されるメタン化反応用触媒を、必要により乳鉢などで粉砕しふるいにかけた後、所定の円管内に充填する。
【0099】
ふるいの目開きは、例えば、100μm以下、好ましくは、75μm以下である。
【0100】
そして、その円管内が下記の還元温度となるように、例えば電気管状炉などの加熱器に加熱するとともに、円管内に水素を流通させる。
【0101】
還元温度としては、例えば、200℃以上、好ましくは、300℃以上、例えば、600℃以下、好ましくは、500℃以下である。還元時間としては、例えば、2時間以上、好ましくは、5時間以上、例えば、10時間以下である。
【0102】
水素の流速は、メタン化反応用触媒1gに対して、例えば、50mL・min
―1・g
−1以上、好ましくは、100mL・min
―1・g
−1以上、例えば、500mL・min
―1・g
−1以下である。
【0103】
以上によって、安定化ジルコニア担体に担持される酸化ニッケルが、金属状態のニッケルに還元されて、下記一般式(7)で示されるメタン化反応用触媒が調製される。
【0105】
なお、安定化ジルコニア担体に固溶する安定化元素およびNiは、安定化ジルコニア担体に担持される金属状態のニッケルにより被覆されているため、この還元工程において還元されず、酸化状態が維持される。
【0106】
このようなメタン化反応用触媒は、粒子状を有しているが、例えば、加圧することにより、所定の形状(例えば、円柱形状、角柱形状、中空筒形状など)に形成されてもよい。また、メタン化反応用触媒は、上記の粒子成分が添加され、その粒子成分に担持されてもよい。
【0107】
(1−3)メタンの製造方法
次に、上記のメタン化反応用触媒を用いたメタンの製造方法について説明する。
【0108】
メタン化反応用触媒によりメタンを製造するには、メタン化反応用触媒を、200℃以上の反応温度において、COおよび/またはCO
2と、水素ガスとを含む混合ガスに接触させる。
【0109】
より具体的には、メタン化反応用触媒を、必要により上記の希釈成分により希釈した後、所定の反応管に充填する。そして、その反応管を、常圧下において、下記の反応温度に維持し、混合ガスを反応管に供給する。
【0110】
反応温度は、200℃以上、好ましくは、250℃以上、さらに好ましくは、300℃以上、例えば、500℃以下、好ましくは、400℃以下である。
【0111】
混合ガスがCO
2および水素ガスを含有する場合、CO
2と水素ガスとのモル比は、1:4であり、混合ガスがCOおよび水素ガスを含有する場合、COと水素ガスとのモル比は、1:3である。
【0112】
また、混合ガスの流量は、メタン化反応用触媒1g当たり、例えば、1000L・h
−1・g
−1以上、好ましくは、2000L・h
−1・g
−1以上、例えば、5000L・h
−1・g
−1以下、好ましくは、4000L・h
−1・g
−1以下である。
【0113】
このように、メタン化反応用触媒と混合ガスとを接触させると、安定化ジルコニア担体がNiOを担持している場合であっても、NiOが、混合ガス中の水素によって還元されて、金属状態のNiに還元される。
【0114】
そして、安定化ジルコニア担体の酸素空孔がCOおよび/またはCO
2の酸素原子を引き付けるとともに、安定化ジルコニア担体に担持される金属状態のNiが水素を引き付けるため、メタン化反応用触媒の表面上において、COおよび/またはCO
2と水素とが効率よく反応して、メタンが生成する。
【0115】
より具体的には、メタン化反応用触媒1g当たりのメタン収量は、例えば、0.1mmol・s
−1・g
−1以上、好ましくは、0.5mmol・s
−1・g
−1以上、さらに好ましくは、1.8mmol・s
−1・g
−1以上、とりわけ好ましくは、2.2mmol・s
−1・g
−1以上、例えば、10.0mmol・s
−1・g
−1以下、好ましくは、5.0mmol・s
−1・g
−1以下である。
【0116】
また、このようなメタンの製造方法では、メタン化反応用触媒の表面に担持される金属状態のNiが、混合ガスの供給により、メタン化反応用触媒から剥離して離脱してしまう場合がある。この場合、その剥離部分から露出する安定化ジルコニア担体のNiイオンが還元されて金属状態となり、触媒活性点として作用する。
【0117】
(1−4)作用効果
メタン化反応用触媒では、安定化ジルコニア担体に特定の遷移元素(Mn、Fe、Co)が固溶し、安定化ジルコニア担体が正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を有している。このようなメタン化反応用触媒は、単位質量当たりのメタン収量の向上を図ることができる。
【0118】
そのため、比較的少量のメタン化反応用触媒により、所望されるメタン生産量を確保することができる。その結果、メタン化反応に要する設備(例えば、反応管など)のサイズや個数の低減を図ることができ、設備のコスト低減を図ることができる。
【0119】
また、第1実施形態では、Niが、安定化ジルコニア担体に担持されるとともに、安定化ジルコニア担体に固溶している。そのため、安定化ジルコニア担体に酸素空孔を確実に形成することができる。その結果、単位質量当たりのメタン収量の向上をより確実に図ることができる。
【0120】
また、安定化元素がMnであると、安定化元素がFeおよびCoである場合と比較して、単位質量当たりのメタン収量の向上をより一層確実に図ることができる。
【0121】
また、安定化ジルコニア担体に固溶するMnが、少なくともMn
3+を含んでいると、安定化ジルコニア担体に酸素空孔をより確実に形成することができる。
【0122】
また、安定化元素/(Zr+安定化元素)の原子比が上記特定範囲であると、単位質量当たりのメタン収量の向上をより一層確実に図ることができる。
【0123】
メタン化反応用触媒の製造方法では、ジルコニアおよび/またはZrの塩と、特定の遷移元素の塩と、Niの塩とを混合した後、550℃以上800℃以下で焼成することにより、上記のメタン化反応用触媒を製造できる。
【0124】
そのため、簡易な方法でありながら、単位質量当たりのメタン収量の向上を図ることができるメタン化反応用触媒を製造できる。
【0125】
メタンの製造方法では、上記のメタン化反応用触媒を、200℃以上において、COおよび/またはCO
2と、水素ガスとを含む混合ガスに接触させるので、COおよび/またはCO
2と、水素ガスとを効率よく反応させることができ、メタンを効率よく製造できる。
【0126】
2.第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0127】
第1実施形態では、Niが、安定化ジルコニア担体に担持されるとともに、安定化ジルコニア担体に固溶されるが、これに限定されない。第2実施形態では、Niは、安定化ジルコニア担体に担持される一方、安定化ジルコニア担体に固溶されない。
【0128】
つまり、第2実施形態の安定化ジルコニア担体では、安定化元素のみが固溶されており、安定化ジルコニア担体の複数の格子点には、Zrイオンおよび上記の遷移元素イオンのいずれかが配置される。より具体的には、第2実施形態の安定化ジルコニア担体は、下記一般式(8)で示される。
【0130】
つまり、第2実施形態のメタン化反応用触媒では、Zrと安定化元素とOとを備える安定化ジルコニア担体と、安定化ジルコニア担体に担持されるNiとを備えている。
【0131】
このようなメタン化反応用触媒においても、各原子の総和に対する、各原子(Zr、安定化元素およびNi)の原子割合は、上記の範囲である。
【0132】
このようなメタン化反応用触媒は、例えば、ジルコニアおよび/または上記のZrの塩と、上記の安定化元素の塩とを混合した後、その混合物を上記の焼成温度で焼成して焼成体を調製し、次いで、焼成体を上記のNiの塩の水溶液に含浸させた後、再度、上記の焼成温度で焼成することにより調製される。その後、必要により、上記と同様に還元処理される。
【0133】
このような第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができるが、触媒活性の観点から第1実施形態が好ましい。
【0134】
3.変形例
第1実施形態および第2実施形態では、Niが、活性元素として安定化ジルコニア担体に担持されているが、Niに加えて、Ruを安定化ジルコニア担体に担持させることもできる。これにより、触媒活性のさらなる向上を図ることができる。
【0135】
このようなメタン化反応用触媒は、ジルコニアおよび/またはZrの塩と、安定化元素の塩と、Niの塩と、Ruの塩(例えば、硝酸ルテニウム(III)溶液など)とを混合して、混合物を調製し、混合物を上記の焼成温度で焼成するか、予め準備した安定化ジルコニア担体を、Ruの塩の水溶液に含浸させた後、上記の焼成温度で焼成することにより調製できる。
【0136】
なお、上記の第1実施形態、第2実施形態および変形例は、適宜組み合わせることができる。
【実施例】
【0137】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0138】
(1)実施例1〜3および比較例1
酢酸ジルコニア塩水溶液(商品名:ジルコゾールZA−20、第一稀元素化学工業社製)と、硝酸マンガン六水和物(関東化学社製)とを、Mn/(Zr+Mn)の原子比が0.100となるように混合し、次いで、硝酸ニッケル六水和物(関東化学社製)を、ZrとMnとNiとの総和に対するNiの原子%(Ni/(Zr+Mn+Ni)×100)が50原子%となるように加えて、一晩撹拌して混合溶液を調製した。
【0139】
次いで、混合溶液を170℃に維持した恒温乾燥炉に入れて2時間静置した。これにより、余剰水分が揮発して、高粘性のスラリー状の混合物(酢酸ジルコニア塩と、硝酸マンガンと、硝酸ニッケルとの混合物)が調製された。
【0140】
次いで、混合物を表1に示す焼成温度で5時間焼成して、固形状のメタン化反応用触媒を調製した。そして、固形状のメタン化反応用触媒を乳鉢で粉砕した後、75μmアンダーのふるいにかけて、粒子状のメタン化反応用触媒を得た。
【0141】
メタン化反応用触媒は、NiとMnとが固溶した安定化ジルコニア担体(以下、Ni・Mn固溶ZrO
2とする)と、Ni・Mn固溶ZrO
2に担持されるNiOとを備えていた。
【0142】
次いで、ステンレス鋼材(SUS304)の反応管(1インチ管、内径21mm)に、グラスウールを挿入した後、そのメタン化反応用触媒を充填した。
【0143】
次いで、反応管を電気管状炉で囲い、反応管内の温度が400℃となるように加熱し、反応管内に0.5L/minの流速で水素を流通させて、5時間維持した。これによって、Ni・Mn固溶ZrO
2に担持されるNiOが、金属状態のNiに還元された。
【0144】
以上によって、Ni・Mn固溶ZrO
2と、Ni・Mn固溶ZrO
2に担持される金属状態のNiとを備えるメタン化反応用触媒(Ni/Ni・Mn固溶ZrO
2)が調製された。
【0145】
【表1】
【0146】
<測定および評価>
(1−1)メタン収量
実施例1〜3および比較例1のメタン化反応用触媒のそれぞれ10mgを、予めγアルミナ4.5gで混合希釈して、反応管(SUS304管、内径15mm×高さ100mm)に充填した。
【0147】
次いで、反応管を、常圧下において、250℃、300℃、350℃または400℃(反応温度)に維持し、二酸化炭素、水素および窒素を含む原料ガス(混合ガス)を、反応管に供給して、各メタン化反応用触媒と接触させた。
【0148】
なお、原料ガスにおいて、水素/二酸化炭素=4(モル比)であり、窒素は5体積%であった。また、原料ガスの流量は、0.5L/minであり、触媒1g当たり、3000L・h
−1・g
−1であった。
【0149】
そして、各メタン化反応用触媒と接触した後、反応管から流出する反応ガスを、熱伝導度検出(TCD)型ガスクロマトグラフィで分析した。反応ガスには、未反応の水素、未反応の二酸化炭素、および、生成物であるメタンのみが含有されていた。
【0150】
反応ガスにおけるメタンの含有量から、触媒1g当たりのメタン収量(CH
4収率 単位:mmol・s
−1・g
−1)を算出した。その結果を
図1に示す。
図1では、横軸が反応温度(単位:℃)であり、縦軸が単位質量当たりのメタン収量(単位:mmol・s
−1・g
−1)である。また、
図1では、焼成温度を、C.T.として示す。
【0151】
図1では、焼成温度が550℃以上であるメタン化反応用触媒(実施例1〜3)は、焼成温度が500℃以下であるメタン化反応用触媒(比較例1)よりも、触媒活性が高いことが確認された。とりわけ、焼成温度が650℃付近であると、メタン化反応用触媒の活性が顕著に向上することが確認された。
【0152】
(1−2)X線回折(XRD)
実施例2および比較例1のメタン化反応用触媒をX線回折(視射角10
o,Cu−Kα)により分析した。その結果を
図2に示す。なお、
図2では、高温相ZrO
2(正方晶系の結晶構造を有するZrO
2と、立方晶系の結晶構造を有するZrO
2との混晶)に対応するピークを○で示す。
【0153】
図2では、焼成温度が650℃であるメタン化反応用触媒(実施例2)は、高温相ZrO
2を含有することが確認された。一方、焼成温度が400℃であるメタン化反応用触媒(比較例1)は、明確な高温相ZrO
2を含有しておらず、低結晶性のZrO
2、または、非完全固溶の酸化物(酸化マンガンおよび酸化ニッケル)を含有することが確認された。
【0154】
つまり、
図1および
図2では、焼成温度が高くなるとZrO
2の結晶性が向上し、メタン化反応用触媒が高温相ZrO
2を含有することにより、触媒活性の向上を確実に図ることができる旨、確認された。
【0155】
(1−3)BET比表面積
実施例1〜3のメタン化反応用触媒の比表面積を、BET法に従って測定した。その結果を
図3に示す。
図3では、横軸が焼成温度(単位:℃)であり、縦軸がBET比表面積(単位:m
2・g
−1)である。
【0156】
図3では、焼成温度が高温になるにつれて、粒成長して、メタン化反応用触媒の比表面積が低下することが確認された。
【0157】
つまり、
図1および
図3では、焼成温度が750℃以下、とりわけ650℃以下であると、比表面積が過度に低下することを抑制でき、触媒活性の向上を確実に図ることができる旨、確認された。
【0158】
(2)実施例4〜20および比較例2〜21
・実施例4〜9
酢酸ジルコニア塩水溶液と硝酸マンガン六水和物とを、表2に示すMn/(Zr+Mn)の原子比となるように混合したこと以外は、実施例2(焼成温度650℃)と同様にして、メタン化反応用触媒を調製した。
【0159】
・実施例10〜16
硝酸ニッケル六水和物をNiの原子%(Ni/(Zr+Mn+Ni)×100)が70原子%となるように添加したこと以外は、実施例2、4〜9と同様にして、メタン化反応用触媒を調製した。
【0160】
・実施例17〜20
酢酸ジルコニア塩水溶液と硝酸マンガン六水和物とを、表2に示すMn/(Zr+Mn)の原子比となるように混合した後、170℃に維持した恒温乾燥炉に入れて2時間静置した。これにより、酢酸ジルコニア塩および硝酸マンガンの混合物が調製された。
【0161】
次いで、その混合物を650℃で5時間焼成して、Mnのみが固溶した安定化ジルコニア担体(以下、Mn固溶ZrO
2とする)を調製した。そして、Mn固溶ZrO
2を乳鉢で粉砕した。
【0162】
次いで、粉砕されたMn固溶ZrO
2を、Niの原子%(Ni/(Zr+Mn+Ni)×100)が50原子%となるように調製された硝酸ニッケル水溶液に加え、1時間真空引きした後、72時間静置して含浸させた。これにより、硝酸ニッケルを担持するMn固溶ZrO
2が調製された。
【0163】
次いで、そのMn固溶ZrO
2を650℃(焼成温度)で5時間焼成して、メタン化反応用触媒を得た。メタン化反応用触媒は、Mn固溶ZrO
2と、Mn固溶ZrO
2に担持されるNiOとを備えていた。
【0164】
次いで、実施例1と同様にして、Mn固溶ZrO
2に担持されるNiOを金属状態のNiに還元した。
【0165】
以上によって、Mn固溶ZrO
2と、Mn固溶ZrO
2に担持される金属状態のNiとを備えるメタン化反応用触媒(Ni/Mn固溶ZrO
2)を調製した。
【0166】
・比較例2〜8
硝酸マンガン六水和物を硝酸カルシウム四水和物に変更して、酢酸ジルコニア塩水溶液と硝酸カルシウム四水和物とを、表3に示すCa/(Zr+Ca)の原子比となるように混合したこと以外は、実施例2、4〜9と同様にして、メタン化反応用触媒を調製した。メタン化反応用触媒は、NiとCaとが固溶した安定化ジルコニア担体(以下、Ni・Ca固溶ZrO
2とする)と、Ni・Ca固溶ZrO
2に担持される金属状態のNiとを備えていた(Ni/Ni・Ca固溶ZrO
2)。
【0167】
・比較例9〜14
硝酸ニッケル六水和物をNiの原子%(Ni/(Zr+Mn+Ni)×100)が70原子%となるように添加したこと以外は、比較例3〜8と同様にして、メタン化反応用触媒を調製した。メタン化反応用触媒は、Ni・Ca固溶ZrO
2と、Ni・Ca固溶ZrO
2に担持される金属状態のNiとを備えていた。
【0168】
・比較例15〜21
実施例17〜20と同様にして、Mn固溶ZrOを調製し、乳鉢で粉砕した。そのMn固溶ZrOを硝酸ニッケル水溶液に含浸させることなく、そのままメタン化反応用触媒とした。メタン化反応用触媒は、Niを備えておらず、Mn固溶ZrO
2のみから形成されていた(NiフリーMn固溶ZrO
2)。
【0169】
【表2】
【0170】
【表3】
【0171】
<測定および評価>
(2−1)メタン収量
実施例2、4〜20および比較例2〜14のメタン化反応用触媒のそれぞれのメタン収量を、反応温度を400℃で上記のメタン収量の測定と同様にして測定した。実施例2、4〜9、17〜20および比較例2〜8の結果を
図4に示し、実施例10〜16および比較例9〜14の結果を
図5に示す。
図4および
図5では、横軸がM/(Zr+M)の原子比であり、縦軸が単位質量当たりのメタン収量(単位:mmol・s
−1・g
−1)である。
【0172】
図4では、Ni/Ni・Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(実施例2、4〜9)およびNi/Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(実施例17〜20)は、Mn/(Zr+Mn)が0.063以上0.333以下の範囲において、Ni/Ni・Ca固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(比較例2〜8)よりも触媒活性が高いことが確認された。
【0173】
また、Ni/Ni・Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(実施例2、4〜9)は、Ni/Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(実施例17〜20)よりも触媒活性が高いことが確認された。
【0174】
図5では、Niの原子%が70原子%であっても、Ni/Ni・Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(実施例10〜16)は、Ni/Ni・Ca固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(比較例9〜14)よりも触媒活性が高いことが確認された。
【0175】
(2−2)XRD
実施例2、4〜9および17〜20のメタン化反応用触媒をX線回折(視射角10
o,Cu−Kα)により分析した。実施例2、4〜9のメタン化反応用触媒のX線回折チャートを
図6に示し、実施例17〜20のメタン化反応用触媒のX線回折チャートを
図7に示す。なお、
図6および
図7では、単斜晶ZrO
2に対応するピークを▽で示し、高温相ZrO
2に対応するピークを○で示し、fcc Niに対応するピークを◇で示す。
【0176】
図6および
図7に示すように、Ni/Ni・Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(実施例2、4〜9、
図6参照)では、Ni/Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(実施例17〜20、
図7参照)と比較して、2θ≒30.3°の高温相ZrO
2(111面)の回折線が、わずかに広角側にシフトしていることが確認された。
【0177】
また、Ni/Ni・Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(実施例2、4〜9、
図6参照)は、Ni/Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(実施例17〜20)と比較して、回折線が鋭くなく、粒径が小さいことが確認された。
【0178】
(2−3)安定化ZrO
2担体の[111]面における結晶格子間隔
実施例2、4〜9、17〜20および比較例15〜21のメタン化反応用触媒について、安定化ZrO
2担体の[111]面における結晶格子間隔を、粉末X線回折法により得られた111回折線の角度からBraggの式を用いて算出した。その結果を
図8に示す。
図8では、横軸がMn/(Zr+Mn)の原子比であり、縦軸が安定化ZrO
2担体の[111]面における結晶格子間隔(単位:nm)である。
【0179】
図8では、Ni/Ni・Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(実施例2、4〜9)が、NiフリーMn固溶ZrO
2(比較例15〜21)よりも安定化ZrO
2担体の[111]面における結晶格子間隔が小さいことが確認された。つまり、Ni・Mn固溶ZrO
2において、Zrよりもイオン半径が小さいNiが、ZrO
2に固溶していることが確認された。
【0180】
一方、Ni/Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(実施例17〜20)は、NiフリーMn固溶ZrO
2(比較例15〜21)と比較して、安定化ZrO
2担体の[111]面における結晶格子間隔がほぼ等しいことが確認された。つまり、Ni/Mn固溶ZrO
2において、NiがZrO
2に固溶していないことが確認された。よって、Ni/Ni・Mn固溶ZrO
2とNi/Mn固溶ZrO
2とは、構造上明確に相違することが確認された。
【0181】
(3)実施例21〜24および比較例22〜25
・実施例21〜24
硝酸ニッケル六水和物を、表4に示すNiの原子%(Ni/(Zr+Mn+Ni)×100)となるように添加したこと以外は、実施例2(Mn/(Zr+Mn)=0.100)と同様にして、メタン化反応用触媒を調製した。
【0182】
・比較例22〜25
硝酸ニッケル六水和物を、表4に示すNiの原子%(Ni/(Zr+Ca+Ni)×100)となるように添加したこと以外は、比較例6(Ca/(Zr+Ca)=0.200)と同様にして、メタン化反応用触媒を調製した。
【0183】
【表4】
【0184】
<測定および評価>
(3−1)メタン収量
実施例2、12、21〜24および比較例6、12、22〜25のメタン化反応用触媒のそれぞれのメタン収量を、反応温度を400℃で上記のメタン収量の測定と同様にして測定した。その結果を
図9に示す。
図9では、横軸がNiの原子%(at.%)であり、縦軸が単位質量当たりのメタン収量(単位:mmol・s
−1・g
−1)である。
【0185】
図9では、Ni/Ni・Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(実施例2、12、21〜21)は、Niの原子%が30原子%以上90原子%以下の範囲において、Ni/Ni・Ca固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(比較例6、12、22〜25)よりも触媒活性が高いことが確認された。
【0186】
とりわけ、Ni/Ni・Mn固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒は、Niの原子%が50原子%以上80原子%以下の範囲において、2.5mmol・s
−1・g
−1以上のメタン収量を確保できる旨、確認された。
【0187】
(4)
参考例25〜32および比較例26
・
参考例25〜28
硝酸マンガン六水和物を硝酸コバルト六水和物に変更して、酢酸ジルコニア塩水溶液と硝酸コバルト六水和物とを、表5に示すCo/(Zr+Co)の原子比となるように混合したこと以外は、実施例2、4、8および9と同様にして、メタン化反応用触媒を調製した。メタン化反応用触媒は、NiとCoとが固溶した安定化ジルコニア担体(以下、Ni・Co固溶ZrO
2とする)と、Ni・Co固溶ZrO
2に担持される金属状態のNiとを備えていた(Ni/Ni・Co固溶ZrO
2)。
【0188】
・
参考例29〜32
硝酸マンガン六水和物を硝酸鉄九水和物に変更して、酢酸ジルコニア塩水溶液と硝酸鉄九水和物とを、表5に示すFe/(Zr+Fe)の原子比となるように混合したこと以外
は、実施例2、4、8および9と同様にして、メタン化反応用触媒を調製した。メタン化反応用触媒は、NiとFeとが固溶した安定化ジルコニア担体(以下、Ni・Fe固溶ZrO
2とする)と、Ni・Fe固溶ZrO
2に担持される金属Niとを備えていた(Ni/Ni・Fe固溶ZrO
2)。
【0189】
・比較例26
酸化ニッケルを、上記と同様にして金属状態のNiに還元し、メタン化反応用触媒とした。
【0190】
【表5】
【0191】
<測定および評価>
(4−1)メタン収量
・CO
2のメタン化
参考例25〜32のメタン化反応用触媒のそれぞれのメタン収量を、反応温度を400℃で上記のメタン収量の測定と同様にして測定した。その結果を
図10に示す。
図10では、横軸がM/(Zr+M)の原子比であり、縦軸が単位質量当たりのメタン収量(単位:mmol・s
−1・g
−1)である。なお、
図10には、比較のために、実施例2、4〜9および比較例2〜8のメタン収量を併せて記載している。
【0192】
図10では、Ni/Ni・Co固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(
参考例25〜28)およびNi/Ni・Fe固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(
参考例29〜32)は、M/(Zr+M)の原子比が0.063以上0.333以下の範囲において、Ni/Ni・Ca固溶ZrO
2を含有するメタン化反応用触媒(比較例2〜8)よりも触媒活性が高いことが確認された。
【0193】
また、触媒活性は、安定化元素で比較すると、Mn(実施例2、4〜9)>Co(
参考例25〜28)>Fe(
参考例29〜32)であることが確認された。
【0194】
・COのメタン化
二酸化炭素を含む原料ガスを下記の原料ガスに変更したこと以外は、上記のメタン収量の測定と同様にして、実施例2、
参考例26および30、比較例6および26のメタン化反応用触媒のメタン収量を測定した。
【0195】
原料ガス:水素、一酸化炭素および窒素を含有。水素/一酸化炭素=3(モル比)、窒素5体積%。
【0196】
その結果を
図11に示す。
図11では、横軸が反応温度(単位:℃)であり、縦軸が単位質量当たりのメタン収量(単位:mmol・s
−1・g
−1)である。
【0197】
図11では、各実施例および比較例のメタン化反応用触媒(実施例2、
参考例26および30と、比較例6および26)は、COのメタン化であっても、CO
2のメタン化と同様の傾向を示すことが確認された。具体的には、触媒活性は、安定化元素で比較すると、Mn(実施例2)>Co(
参考例26)>Fe(
参考例30)>Ca(比較例6)であることが確認された。
【0198】
また、COのメタン化は、CO
2のメタン化よりも反応速度が速く、また、低温でも反応が進行することが確認された。なお、金属状態のNiからなるメタン化反応用触媒(比較例26)によっても、COのメタン化は進行するが、安定化ZrO
2担体を備えるメタン化反応用触媒の方がより触媒活性が高いことが確認された。
【0199】
(4−2)XRD
参考例25〜32のメタン化反応用触媒をX線回折(視射角10
o,Cu−Kα)により分析した。
参考例25〜28のメタン化反応用触媒(Ni/Ni・Co固溶ZrO
2)のX線回折チャートを
図12に示し、
参考例29〜32のメタン化反応用触媒(Ni/Ni・Fe固溶ZrO
2)のX線回折チャートを
図13に示す。
【0200】
なお、
図12および
図13では、単斜晶ZrO
2に対応するピークを▽で示し、高温相ZrO
2に対応するピークを○で示し、fcc Niに対応するピークを◇で示し、Ni−Fe合金に対応するピークを×で示す。
【0201】
図12および
図13に示すように、安定化元素がCo(
参考例25〜28、
図12参照)またはFe(
参考例29〜32、
図13参照)であっても、それら安定化元素がZrO
2に固溶し、高温相ZrO
2が形成していることが確認された。
【0202】
一方、安定化元素がCo(
図12参照)またはFe(
図13参照)である場合、安定化元素がMn(
図6参照)である場合よりも、単斜晶ZrO
2を含有していることが確認された。
【0203】
また、安定化元素がFeであり、Fe/(Zr+Fe)が0.333である場合(
図13参照)、単斜晶ZrO
2に加えて、Ni−Fe合金に対応するピーク(2θ≒43.7°)が観測された。Ni−Fe合金は、水素還元処理の段階において生成したと考えられる。これらによって、触媒活性が、上記の傾向(Mn>Co>Fe)を示すと考えられる。
(4−3)安定化ZrO
2担体の[111]面における結晶格子間隔
実施例2、4〜9、
参考例25〜32のメタン化反応用触媒について、安定化ZrO
2担体の[111]面における結晶格子間隔を、上記と同様に算出した。その結果を
図14に示す。
図14では、横軸がM/(Zr+M)の原子比であり、縦軸が安定化ZrO
2担体の[111]面における結晶格子間隔(単位:nm)である。
【0204】
図14では、安定化元素が、Mn(実施例2、4〜9)、Co(
参考例25〜28)およびFe(
参考例29〜32)のいずれであっても、M/(Zr+M)の原子比が高くなるにつれて、安定化ZrO
2担体の[111]面における結晶格子間隔が小さくなることが確認された。これによって、安定化元素がMn、CoおよびFeのいずれであっても、それら安定化元素(Mn、Co、Fe)が、ZrO
2に固溶していることが確認された。
【0205】
また、安定化ZrO
2担体の結晶格子間隔の推移から、安定化元素のイオン半径の関係は、Mn≒Fe<Coであると考えられる。
【0206】
より詳細には、Ni・Fe固溶ZrO
2(
参考例29〜32)は、赤褐色の粉末であり、Fe
2O
3+ZrO
2を基本構成としていると考えられる。つまり、FeはFe
3+であると推定された。なお、Fe
3+のイオン半径は、0.0645nmである。
【0207】
また、Ni・Co固溶ZrO
2(
参考例25〜28)は、灰色の粉末であり、潮解性などを示さないことから、CoOまたはCo
3O
4+ZrO
2を基本構成としていると考えられる。そして、Coのイオン半径は、Feのイオン半径よりも大きく、Zr
4+のイオン半径(0.079nm)に近いと考えられることから、Coは、イオン半径が0.0745nmであるCo
2+であると推定された。
【0208】
(5)X線光電子分光分析(XPS)
(5−1)Mn 2p軌道
比較例16〜19のメタン化反応用触媒(NiフリーMn固溶ZrO
2)を、X線光電子分光法(XPS)により解析した。Mn 2p軌道に対応するスペクトルを
図15に示す。
【0209】
図15では、ペロブスカイト型複合酸化物(酸化物中の酸素を2つの元素が共有する複合酸化物)に対応するピーク(Perov.−Mn)が観測された。ペロブスカイト型複合酸化物のピークは、MnがZrO
2に固溶した場合に大きくなると推定される。とりわけ、Mn/(Zr+Mn)が0.100以上0.125以下であると、ペロブスカイト型複合酸化物のピークは大きくなることが確認された。
【0210】
また、Mn/(Zr+Mn)が0.125を超過(例えば、0.167)すると、ペロブスカイト型複合酸化物のピークが小さくなり、MnO
2およびMn
2O
3(Mn
3O
4)に対応するピークが大きくなることが観測された。つまり、Mnが過剰に添加されると、MnのZrO
2に対する固溶が抑制される可能性が考えられる。
【0211】
(5−2)Mn 3s軌道
比較例18のメタン化反応用触媒(NiフリーMn固溶ZrO
2)のMn 3s軌道に対応するスペクトルを
図16に示す。
【0212】
図16では、実測のピークとMn
3+の理論ピークとの比較(上段)、および、実測のピークとMn
4+の理論ピークとの比較(下段)から、Mn固溶ZrO
2に含まれるMnの価数について推定した。実測のピークは、Mn
3+のピークとMn
4+のピークとが重なっていると考えられ、Mn固溶ZrO
2に含まれるMnは、Mn
3+およびMn
4+を両方含んでいると推定された。