(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ケースの側壁に開口部が設けられ、前記下カバーにケースの開口部を塞ぐ側壁が設けられ、前記充填樹脂が、前記環状コア及びコイルの外周と前記ケースの側壁および前記下カバーの側壁との隙間に充填された請求項1に記載のリアクトル。
前記ケースの側壁の高さが、前記ケース内に収容した前記コイルの上面よりも高く、前記充填樹脂が前記コイルの上面を被覆している請求項1または請求項2に記載のリアクトル。
前記ケースが前壁と後壁を備え、前記下カバーが左右の側壁を備え、これらの壁によって囲まれた部分が前記上コアと前記コイルの収容空間である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリアクトル。
前記下カバーが左右の側壁、前壁及び後壁を備え、これらの壁によって囲まれた部分が前記上コアと前記コイルの収容空間である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリアクトル。
前記環状コアの上ヨークと下ヨークに対向する位置に、前記ケースに設けられた開口部と前記上カバーまたは下カバーを構成する樹脂が設けられた請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のリアクトル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記の従来技術は、金型内にコアをセットした状態でその周囲に樹脂を注入し固化することで、コアと樹脂成型品を一体化し、その後、一体化されたコアと樹脂成型品をケース内にセットしていた。そのため、リアクトルの組み立て時には、ケース内にセットしたコアと樹脂成型品が、ケースの内部で移動することがないように、両者を固定する作業が必要であり、リアクトルの製造工数が多い欠点がある。
【0006】
従来のケースは、上面が開口した箱型であり、そのため、ケース内に収容したコイルによって生じる漏れ磁束が、ケースの底部を横切ることになる。金属製のケースとしては、放熱性に優れたアルミニウムが使用されることが多い。しかし、従来のケースでは、コアのヨーク部に対向してケースの側面が配置されているため、コア背面から漏れ出した磁束に対してのシールド効果によりインダクタンスが低下していた。
【0007】
本発明は前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、組み立て工数が少なく、適正なインダクタンスを確保できるリアクトルとその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明のリアクトルとその製造方法は、次のような構成を有することを特徴とする。
(1)上コアと下コアとから構成され、水平方向に延びる上下のヨークと、垂直方向に延びる脚部を有する環状コア。
(2)前記環状コアの脚部に、巻回軸が垂直方向となるように装着されたコイル。
(3)前記上コアの表面の少なくとも一部を被覆するように固定された樹脂製の上カバー。
(4)前記下コアの表面の少なくとも一部を被覆するように固定された樹脂製の下カバー。
(5)開口部を有する底板と、前記底板と一体に設けられた側壁を備え、その内部に前記下コア、コイル及び上コアが収納された金属製のケースであって、前記開口部が前記下カバーの一部により覆われ、前記下カバーに固定されたケース。
(6)前記環状コア及びコイルの外周と前記ケースまたは下カバーの側壁との隙間に充填された充填樹脂。
【0009】
本発明において、次のような構成とすると良い。
(1)前記ケースの側壁に開口部が設けられ、前記下カバーにケースの開口部を塞ぐ側壁が設けられ、前記充填樹脂が、前記環状コア及びコイルの外周と前記ケースの側壁および前記下カバーの側壁との隙間に充填される。
(2)前記ケースの側壁の高さが、前記ケース内に収容した前記コイルの上面よりも高く、前記充填樹脂が前記コイルの上面を被覆している。
(3)前記ケースが前壁と後壁を備え、前記下カバーが左右の側壁を備え、これらの壁によって囲まれた部分が前記上コアと前記コイルの収容空間である。
(4)前記下カバーが左右の側壁、前壁及び後壁を備え、これらの壁によって囲まれた部分が前記上コアと前記コイルの収容空間である。
(5)前記ケースが、その壁の一部に開口部を備え、その開口部が下カバーで覆われる。
(6)前記上コアと前記下コアがE字形コアから構成され、その中脚にコイルが装着されている。
(7)前記ケースの上面、側壁、前壁、後壁、底板の少なくとも1つの表面が、前記下カバーによって覆われている。
(8)前記上カバーは、前記上カバーと前記ケースとの隙間に位置する張出部を備える。
(9)前記ケースは、底部に位置決め用の突出部を有する。
(10)前記上コア、前記下カバー及び前記ケースがねじによって固定されている。
【0010】
本発明のリアクトルの製造方法は、次の処理工程を有する。
下カバー成型用の金型内に下コアをセットし、
前記下コアを囲むように底部に開口部を有する金属製ケースを金型内にセットし、
前記上コアの周囲と前記ケースの開口部に樹脂が入り込むように、金型内に下カバー成型用の樹脂を注入し、
前記樹脂を硬化させることで、前記下コアを被覆し、前記下コアおよび前記ケースと一体に構成され、コイル及び上コアの収容空間を有する下カバーを製造し、
前記下カバーの収容空間内に、前記コイルと、上カバーによって被覆された前記上コアを順番に組み込み、
前記収容空間における前記コイルと前記上コアの周囲に形成された隙間に、充填樹脂を注入し、固化させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、下コアと下カバーおよびケースが固定されているので、組み立て作業時においてケースと下コアとの固定作業が不要となり、リアクトルの組み立て作業が簡略化できる。金属製ケースの底部に開口部が設けられ、その部分に下カバーが露出しているので、磁束が開口部を通過することで金属ケースによるシールド効果を排除できるので、適正なインダクタンスを確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1.第1実施形態]
[1−1.構成]
以下、本発明の第1実施形態を図面に従って具体的に説明する。
【0014】
第1実施形態において、環状コアは、水平方向に延びる1本のヨークと、垂直方向に延びる左右の脚部と中脚を備えた上コア1と、同一形状の下コア2を、上下に組み合わせて構成される。上コア1と下コア2の中脚には、コイル3が装着される。コイル3は、平角線をエッジワイズ巻きして作製され、その巻回軸が垂直方向となるように中脚に装着される。
図1では、コイル3からの引出線は省略してあるが、コイル3を形成する導体の両端部が垂直方向に引き出される。
【0015】
上コア1の外周は、樹脂製の上カバー4によって被覆され、下コア2の外周は樹脂製の下カバー5によって被覆される。上カバー4は、E字形をした上コア1の全周囲を覆っているが、上コア1の左右の脚部の下端面は上カバー4に設けられた開口部41に露出している。同様に、下カバー5は、E字形をした下コア2の全周囲を覆っているが、下コア2の左右の脚部の上端面は下カバー5に設けられた開口部52に露出している。そのため、
図5及び
図6の縦断面図に示すように、上コア1の左右の脚部の下端面と、下コア2の左右の脚部の上端面が接触し、環状コアが形成される。上コア1の中脚の端面は上カバー4によって被覆され、下コア2の中脚の端面は下カバー5によって被覆されているので、上コア1の中脚と下コア2の中脚は上カバー4及び下カバー5を挟んで突き合わされる。
【0016】
下カバー5は、下コア2を被覆するE字形のコア被覆部51と、コア被覆部51から立ち上がった左右の側壁53及び前壁54と、コア被覆部51の下面に設けられた底板56を有する。コア被覆部51における左右の脚部の上端面には、下コア2の左右の脚部の上端面が露出する開口部52が設けられる。
【0017】
左右の側壁53及び前壁54によって3方向を囲まれた部分はコイル3及び上コア1の収容空間であり、前壁54の中央部分の水平断面はコイル3の外周面に沿った円弧状である。左右の側壁53はケース6の前壁62及び後壁63と共に四角形の枠部を構成するもので、左右の側壁53の上縁部は、ケース6内に収容する上コア1の上面とほぼ同じ高さである。上コア1の外周には上カバー4が設けられているが、下カバー5の側壁53及び前壁54の高さは上カバー4の上面よりは若干低い。そのため、上カバー4のうち、上コア1のヨークを被覆している部分は、側壁53及び前壁54の上縁よりも高い位置にある。
【0018】
下カバー5の底板56は、下カバー5におけるヨークの下面を被覆している部分と一体に成型されている。底板56は、ケース6の底板64に設けられた開口部65内にぴったりと嵌まり合う寸法及び形状を有し、そのため、底板56の周囲には、ケース6の肉厚相当の段部56aが設けられる。
【0019】
ケース6は、アルミニウムなどの金属材料から構成される。ケース6は、前壁62と後壁63、および前壁62と後壁63の下縁を繋ぐように設けられた底板64を有し、これらによって囲まれた空間が下カバー5の収容空間である。前壁62と後壁63の内面、すなわちコイル3との対向面は、コイル3の外周形状に沿って、円弧状に湾曲している。特に、前壁62の内面は、ケース6の内側に固定される下カバー5の前壁54の外周面がぴったりと嵌まり込む形状である。底板64の中央部には、ほぼ下コア2の平面形状と等しい大きさの四角形の開口部65が設けられ、この開口部65に下カバー5の底板56がぴったりと嵌まり込まれる。ケース6の左右の側面は、ケース6自体には側壁が設けられずに、開口部になっている。この開口部には、下カバー5に設けられた左右の側壁53がぴったりと嵌まり込む。
【0020】
ケース6の前壁62とコイル3及び上カバー4との隙間、ケース6の後壁63とコイル3及び上カバー4との隙間、下カバー5の左右の側壁53とコイル3及び上カバー4との隙間には、充填樹脂7が充填される。
図4は、本実施形態のリアクトルの完成状態の斜視図であるが、
図4において、充填樹脂7はハッチングで示される部分である。
図5から
図7の断面図において、ハッチングは部材の断面を示すが、
図4においては充填樹脂7の表面を表している。
【0021】
上コア1と下コア2は、純鉄、センダスト、Fe−Si合金などの圧粉磁心、フェライト磁心、又は積層鋼板などの磁性体から構成することができるが、本実施形態では、圧粉磁心である。上コア1と下コア2を接着する場合には、例えば、エポキシ系接着剤、シリコーン系、アクリル系、ポリウレタン系の接着剤、又はこれらの二種以上の混合接着剤の使用が可能である。
【0022】
樹脂製の上カバー4と下カバー5は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂のように、自己融着層の接着温度よりも高い耐熱性の材料から成る。その他にも、耐熱性があれば、飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、BMC(バルクモールディングコンパウンド)、PBT(ポリブチレンテレフタラート)等を用いることが可能である。
【0023】
充填樹脂7としては、ウレタン、エポキシ、シリコーン樹脂等の熱伝導率の比較的高いものが好ましく、コイル3に発生した熱を速やかにケース6に逃がせる利点がある。
【0024】
[1−2.リアクトルの製造方法]
第1実施形態のリアクトルの製造方法を説明する。
このリアクトルは、まず、下カバー5を樹脂によって成型するに当たり、下カバー5成型用の金型内に下コア2とケース6をセットし、その周囲に下カバー5成型用の樹脂を注入固化することにより、下コア2、下カバー5及びケース6をインサート成型法により一体に固定する。同様にして、上カバー4の成型用金型内に上コア1をセットし、上コア1の周囲に樹脂を注入固化することで、上コア1と上カバー4をインサート成型法により一体に固定する。
【0025】
このようにして製造された下コア2、下カバー5及びケース6は、
図2及び
図7に示すように、下コア2が下カバー5によって被覆されるとともに、下カバー5の左右の側壁53とケース6の前壁62及び後壁63によって四角い枠が形成され、その内側に上コア1およびコイル3の収容空間が形成される。
図5及び
図6に示すように、ケース6の底板64に形成された開口部65は、その内側に形成された下カバー5の底板56によって塞がれ、金属製ケース6の開口部65に下カバー5の底板56を構成する樹脂が露出する。
【0026】
次に、下カバー5とケース6によって形成された収容空間内に上方からコイル3を挿入し、コイル3の内側の開口部31に下コア2の中脚を嵌め込む。この時、下コア2の左右の脚の間隔は、コイル3の左右の寸法とほぼ等しく設計され、左右の中脚によってコイル3が位置決めされる。下コア2の中脚はコイル3の開口部31よりも小さく、開口部31と中脚との間に充填樹脂7が入り込む空間が形成される。
【0027】
コイル3の挿入後は、上カバー4が固定された上コア1をコイル3の上方に重ね合わせるようにして、収容空間内に組み込む。この場合、上コア1の左右の脚部及び中脚の下端が下コア2の左右の脚部及び中脚の上端と対向し、上コア1の中脚はコイル3の内側の開口部31に挿入される。上カバー4および上コア1の固定は、上コア1と下コア2の左右の端面、すなわち開口部41と52から露出している端面を接着剤で固定することにより行うが、第2実施形態のように、上カバー4と下カバー5に貫通孔とネジ孔を設け、接着剤を用いずにネジ固定をすることもできる。
図3に示すように、収容空間内にコイル3及び上コア1を組み込んだ状態では、コイル3及び上コア1の周囲と、下カバー5の側壁53及び前壁54とケース6の後壁63との間には隙間が形成される。
【0028】
その状態で、
図4に示すように、コイル3及び上コア1の周囲の隙間内部に充填樹脂7を注入し、固化することにより、本実施形態のリアクトルを完成する。
【0029】
[1−3.下カバー5の製造方法]
本実施形態のリアクトルは、前記のようにして製造するが、特に、樹脂製の下カバー5内に下コア2およびケース6をインサート成型する方法について、
図8から
図10を参照して、より具体的に説明する。
【0030】
(1)
図8(a)に示すように、成型用の金型の下型81は、下カバー5を上下が逆になって形で成型するもので、下カバー5の上面形状に倣った窪みを有する底部と左右の壁を有する。底部には、左右の側壁53を構成する樹脂が注入される幅が狭くて深い窪みや、下コア2の左右の脚部や中脚が入り込む凹凸部が形成される。下型81の左右の壁に挟まれた前後の空間内には、左右の壁の間を前後方向(Y方向)に移動する2つのスライダ82が設けられる。
【0031】
(2)
図8(b)に示すように、2つのスライダ82を下型81の外側に開いた状態で、下型81内に、下コア2をその上下を逆にしてセットする。下コア2は、その脚部や中脚が下型81の底部に設けた窪みに嵌まることで位置決めされる。
【0032】
(3)
図9(a)に示すように、下型81内にケース6をその底板64が上を向くようにセットする。ケース6の前壁62と後壁63が左右方向(X方向)に沿って配置され、前壁62と後壁63により下コア2が上から覆われた状態になる。
【0033】
(4)
図9(b)に示すように、スライドを移動させ、ケース6の前壁62と後壁63を前後から密着して挟み込み、その後、図示を省略した上型によって下型81の上方の開口部を閉じ、ケース6の底板64を上型で押さえる。この時、油圧スライド、バネスライド、エアスライド等の荷重をコントロールできるスライドを使用し、一方のスライド、例えば前方のスライドを後方のスライドよりも弱い荷重で抑えることが好ましい。このようにすると、ケース6のX方向は下型81の壁面で位置決めされる。ケース6のY方向はスライドで挟持することで位置決めされ、Z方向は上型を閉じることで位置決めされる。スライドはケース6側面、上型はケース6底面とそれぞれ密着しているため、ケース6側面とケース6底面に樹脂は張らず、ケース6表面が樹脂から露出される。これらの面は冷却面となるため、ケース6の金属表面が露出することで良好な放熱性が得られる。金型壁面と対向するケース6側面の一部は下カバー5を構成する樹脂で形成する。
【0034】
(5)
図10(a)に示すように、ケース6の開口部65のほぼ中央の位置に合わせて上型に設けられたゲート(図示せず)から樹脂を射出し、下コア2とケース6を一体成型する。下コア2は樹脂の射出圧により下型81に押さえつけられるため、Z方向を金型機構による位置決めを行わずとも、正確な位置決めがなされる。これにより、ケース6底面側の樹脂部分に開口が発生せず、設置面が金属の場合でも下コア2の絶縁を確保することができる。下カバー5を構成する樹脂も空気と比較すると熱伝導率が良好であるため、下カバー5を構成する樹脂で下コア2背面のすべてを覆うことができ、放熱性も向上する。樹脂の射出圧により下コア2は下型81に押さえつけられるため、下コア2の接着面は樹脂が流れ込まず樹脂から露出する。ケース6の開口部65に露出している下カバー5の底板56のほぼ中央部には、ゲートの注入跡が残る。
【0035】
(6)
図10(b)に示すように、注入した樹脂が冷えて固まり、樹脂製の下カバー5が形成されるとともに、下カバー5と下コア2およびケース6が一体に固定された後は、上型及びスライドを外し、製品を金型から取り出す。
【0036】
[1−4.効果]
前記のような構成を有する第1実施形態の効果は、次のとおりである。
(1)下カバー5を樹脂成型する際に、下コア2及びケース6をインサート成型することとで一体化するので、下カバーで被覆された下コアを別途用意したケース内に組み込んでいた従来技術に比較して、ケースと下コアとの固定作業が不要となり、リアクトルの組み立て作業が簡便化する。
【0037】
(2)下コア2、下カバー5及びケース6が一体に固定されているので、リアクトルの組み立て時において、ケース6と下カバー5によって形成された収容空間の内部に、コイル3及び上カバー4を備えた上コア1を順番に挿入するだけの簡単な作業で、リアクトルの組み立てを行うことができる。
【0038】
(3)下カバー5の側壁53と、ケース6の前壁62および後壁63とによって、コイル3と上コア1の収容空間が形成されるので、コイル3の全周囲に金属製のケース6を配置する必要がない。そのため、コイル3の外周部近傍に配置された金属製のケース6により、コイル3に発生した熱が効果的に放熱され、冷却効率が高いという効果を確保しながら、金属製ケース6の削減による軽量化が可能となる。本実施形態では、ケース6の前壁62と後壁63という両面で冷却する構造を採用した結果、特に冷却効果が高い利点がある。ケース6がない部分では、環状コアからの漏れ磁束によってケース6が発熱することがなく、リアクトル損失の低減が可能となる。
【0039】
(4)本実施形態では、アルミ製のケース6の有するシールド効果により、インダクタンスの低減を抑制できる効果がある。すなわち、従来技術はコアのヨーク部に対向してケースの側面が配置されているため、コア背面から漏れ出した磁束に対してシールド効果によりインダクタンスが低下していた。しかし、本実施形態の場合、ヨーク部に対向する部分であるケース6の底板64と開口部65に相当する部分は、樹脂製の下カバー5の底板56または金属が存在しない開口であるため、ケース6のシールド効果による悪影響を受けず、良好なインダクタンス特性を得ることができる。
【0040】
(5)上コア1と下コア2によって構成される環状コアの外周には、樹脂製の下カバー5の側壁53が配置される。樹脂製の下カバー5は、金属製のケース6に比較すると熱伝導性は劣るものの、コアやコイル3が空気中に露出している場合に比較すると、熱伝導性に優れるから、コイル3やコアの発熱があっても、下カバー5の左右の側壁53からの放熱も良好である。
【0041】
(6)ケース6の底板64のほぼ全域に開口部65が設けられ、その部分に下カバー5の底板56が嵌め込まれているので、金属製ケース6の底板64によってリアクトル下面からの放熱が確保される。同時に、リアクトル底部に漏れ磁束によって発熱する金属製部材が存在しないことから、ケース6の発熱やそれに伴うリアクトルの効率低下のおそれもない。リアクトルの側部と同様に、下カバー5を構成する樹脂も空気中に比較すると熱伝導性に優れることから、コイル3やコアの発熱もリアクトル底部から効果的に放出される。
【0042】
(7)ケース6の側壁61の高さが、ケース6内に収容したコイル3の上面よりも高く、充填樹脂7がコイル3の上面を被覆している。このようにすると、コイル3全体が充填樹脂7で被覆され、熱伝導性が低い空気中に露出することがなく、コイル3の熱を充填樹脂7→下ケース6→ケース6などの経路で効率よく放熱できる。
【0043】
[2.第2実施形態]
[2−1.構成]
図11から
図17に従って、第2実施形態を説明する。第1実施形態と同様な部分に付いては、同一の符号を付し、説明を省略する。第2実施形態は、第1実施形態と以下の点で異なる。
【0044】
図11の分解斜視図に示すように、上カバー4には、上コア1とその周囲を被覆する上カバー4を下カバー5に固定するための2つの貫通孔42が設けられる。この貫通孔42にそれぞれねじ9の軸部が挿入され、このねじ9の先端が下カバー5とケース6に設けられたねじ孔内に締結されることにより、リアクトルの組み立て時において、下カバー5と上カバー4は固定される。
【0045】
下カバー5は、左右の側壁53と前壁54に加えて、後壁55を有する。これらの壁によって四方を囲まれた部分が、コイル3と上コア1の収容空間である。下カバー5には、上コア1の締結用のねじ9が挿入されるねじ孔58と、同じく上コア1の締結用ねじ9が挿入される貫通孔59が設けられる。
【0046】
ケース6は、前壁がなく、後壁63、底板64、及び後壁63に連なる左右の側壁61を有する。左右の側壁61は、後壁63側が高く、ケース6の手前側が低くなった階段状の部材である。側壁61の外側には、リアクトルをその設置場所に固定する際に締結用のねじ9の軸部を挿入する貫通孔66が設けられる。後壁63にはねじ孔67が設けられ、このねじ孔67に、下カバー5の貫通孔59に挿入された上カバー4の締結用のねじ9の先端がねじ込まれる。底板64は、下カバー5の底板56が露出する開口部65を有するが、第2実施形態の開口部65は、底板64における前壁62側の部分に、底板64の1/3程度の大きさで、前壁62と平行に設けられる。
【0047】
第2実施形態では、リアクトルの上方に向けて引き出されたコイル3の引出線32も図示されている。
【0048】
このような構成を有する第2実施形態のリアクトルは、第1実施形態と同様な方法により製造される。
すなわち、下カバー5成型用の金型内に下コア2とケース6をセットした状態で、金型内に樹脂を注入固化して下カバー5を成型する。これにより、下カバー5によって下コア2を被覆すると共に下コア2、下カバー5及びケース6を一体に固定する。
【0049】
次に、
図12に示すように、下カバー5の左右の側壁61、前壁62および後壁63によって囲まれた収容空間内にコイル3を挿入し、その後コイル3の上方に上カバー4で被覆された上コア1を組み込む。すると、
図13に示すように、コイル3と上カバー4の周囲と、下カバー5の内周との間に隙間ができるので、
図14のハッチングで示すように、この隙間内に充填樹脂7を注入固化することで、リアクトル全体を一体に固定する。
【0050】
[2−2.作用効果]
このような構成の第2実施形態によれば、第1実施形態と同様な作用効果に加え、次のような作用効果が発揮される。
【0051】
(1)金属製のケース6と樹脂製の下カバー5が、下カバー5の成型加工時に一体に固定されることに加え、ねじ9によって上コア1、下カバー5及びケース6が固定されるため、リアクトルの強度が高い。特に、各部材が機械的に固定されるため、上コア1と下コア2の接着が不要になり、組立性が向上し、接着剤分のコストも安くなる。
【0052】
(2)ケース6の底板64に設けた開口部65が第1実施形態に比較して小面積であるため、伝熱性の高い金属製ケース6の底板64からの放熱が効率良く行われる。しかも、開口部65の存在によってケース6を横切る磁束が減少し、ケース6の発熱がなく、リアクトルの損失も少ない。
【0053】
(3)下カバー5の左右の側壁53、前壁54および後壁55によって収容空間が継ぎ目なく囲まれているので、ケース6や下カバー5成型用の金型の精度が低く下カバー5とケース6の継ぎ目に隙間があったとしても、上コア1とコイル3の外側の隙間に注入した充填樹脂7がその部分に入り込むことがない。
【0054】
[3.第3実施形態]
[3−1.構成]
図18から
図25に従って、第3実施形態を説明する。第1及び第2実施形態と同様な部分に付いては、同一の符号を付し、説明を省略する。第3実施形態は、第1実施形態と以下の点で異なる。
【0055】
ケース6は第1実施形態と同様に、前壁62と後壁63を備え、底板64は前壁62と後壁63に近い部分にのみ設けられていて、底板64の大半は大きな開口部65になっている。側壁61もケース1の底に近い位置にのみ設けられた背の低いものであり、ケース6の左右も大きく開口している。ケース6の底板64には、後壁63と平行に伸びる突出部68が設けられる。この突出部68は、本実施形態のリアクトルを取付対象へ固定する際に、ケース6の位置決め部材として利用する。
【0056】
下カバー5は、中央部に縦方向に延びる開口部54aが形成された前壁54と、下カバー54の両側にだけ縦方向に設けられた左右の後壁55を有する。前壁54の上縁にはケース6の上面を覆う上面板57が一体に設けられる。ケース6の側壁65の下面は、底板64の下面よりも1段上方に位置しており、底板64の開口部65及び底板64の下面は下カバー5の底板56で覆われ、ケース6の底板64の下面と下カバー5の底板56の下面が同一面になっている。ケース6の側壁61表面及びケース6の左右の開口部は、下カバー5の左右の側壁53で覆われ、側壁61が露出しない。
【0057】
上カバー4の前部及び後部には、上カバー4とケース6の前壁62及び後壁63との隙間を塞ぎ、ケース6の開口側のコイル3の端面付近を覆うように、4か所の張出部43が設けられる。このうち3か所の張出部43は、平面が1/4円弧状で底が塞がれた枠状の部材で、上カバー4の前部に1か所、後部に左右2か所設けられる。残る1か所の張出部は四角形の底が塞がれた枠状の部材で、上カバー1の前部に1か所設けられる。前部の1/4円弧状の張出部43には、上下に貫通する隙間44aが設けられ、この隙間44a内にコイル3の一方の引出線32が縦方向に貫通する。四角形の張出部43とケース6の側板61の隙間44bには、コイル3の他方の引出線32が縦方向に貫通する。
【0058】
[3−2.作用効果]
このような構成の第3実施形態によれば、第1及び実施形態と同様な作用効果に加え、次のような作用効果が発揮される。
【0059】
(1)ケースの表面の大部分、すなわち、ケース6の上面、側壁61の下面、底板64の下面などが樹脂製の下カバー5で覆われているため、リアクトルの外部に露出する部分の平面度をより安価に高めることができる。一般に、金属製ケース6を量産する場合、ダイカスト製となるため通常ケース表面は鋳肌面となり、平面度を高めるためには切削加工が必要となり加工費用が嵩む。本実施形態では、ケース6の表面を樹脂製の下カバー5で覆うことにより、下カバー5の金型による平面精度を容易に形成することが可能となり、ケース6の表面の加工費用が不要となる。なお、この点は、第1及び第2実施形態において、ケース6の一部や開口部を下カバー5で覆っているのも同じ理由である。
【0060】
(2)ケース6の底板64に突出部68が設けられるので、リアクトルを取付対象へ固定する際にその位置決めが簡単かつ正確に行える。また、この突出部68により、取付対象とケース6との接触面積が大きくなり、金属製ケース6から取付対象への放熱性も優れる。
【0061】
(3)上カバー4に張出部43が設けられているため、その分だけケース6と上カバー4との間に充填する樹脂7の量を削減することができる。また、張出部43部分に設けた隙間44a,44bによりコイル3の引出線32の正確な位置決めも可能となる。
【0062】
[4.他の実施形態]
本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、次のような他の実施形態も包含する。
(1)ケースは、左右の側壁、前壁、後壁のいずれかと、開口部を有する底板を備えていればよく、壁がない部分は下ケースに壁を設けることで、コイルと上コアを収容する空間を形成することができる。
(2)ケースに設ける開口部の位置は、少なくとも底板の一部に有れば良いが、金属製ケースによるリアクトルの損失を低減することのできる位置や大きさであることが好ましい。
(3)上コアと下コアの接合面にギャップを設けても良く、その場合、上コアと下コアの対向面に開口部を設けることなく、上カバーと下カバーで上コアと下コアの全周囲を被覆しても良い。絶縁性性能などの問題がない場合には、上コアまたは下コアの全体を上カバーまたは下カバーで覆うことなく、コアの表面を露出させ、その部分は充填樹脂で被覆しても良い。
(4)上コアと下コアは、E字形コアに限らず、中脚のないC字形コアやU字形などの他の形状のコアを使用することができる。上コアとして、1本のI字形コアを使用し、これにE字形コア、C字形コア或いはU字形コアを組み合わせても良い。また、コイルも、中脚に装着する1つのコイルに限らず、環状コアの左右の脚部にコイルをそれぞれ装着しても良い。